Dynkinのπ-λ定理

同義語:π-λ定理Dynkin's π-λ theoremπ-λ theorem

概要

Dynkinのπ-λ定理(Dynkin's π-λ theorem)とは、共通部分で閉じた集合族(π系)$\mathcal{P}$ が、全体を含み補集合と互いに交わらない可算和で閉じた族(λ系)$\mathcal{L}$ に含まれるならば、$\mathcal{P}$ が生成するσ-代数も $\mathcal{L}$ に含まれる、という定理である。ある性質が π 系の元で成り立ち、性質を満たす集合全体が λ 系になることを示せば、生成されたσ-代数のすべての元で性質が成り立つ。代表的な帰結は、π 系の上で一致し全体の測度が等しい有限測度は生成されたσ-代数の上で一致するという一意性定理であり、Lebesgue 測度の一意性、分布関数による確率分布の決定、確率変数の独立性の判定に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: σ-代数, 測度

2 つの測度が「区間の上で一致する」とき、すべての Borel 集合の上でも一致するだろうか。このような問いでは、「性質を満たす集合全体」$\mathcal{L}$ を考え、それがσ-代数になることを示せばよい、と考えたくなる。ところが測度の値の一致は、補集合や互いに交わらない和集合には自然に引き継がれるが、交わる 2 つの集合の和集合には引き継がれない($\mu(A\cup B)=\mu(A)+\mu(B)-\mu(A\cap B)$ に $A\cap B$ の値が現れる)。そのため $\mathcal{L}$ が σ-代数であることを直接示すのは難しい。
Dynkin の π-λ 定理 は、この 2 つの役割を分ける。生成系の側には「共通部分で閉じている」こと(π 系)だけを求め、性質を満たす集合の側には「全体・補集合・互いに交わらない可算和で閉じている」こと(λ 系)だけを求める。すると、生成系が生成する σ-代数全体で性質が成り立つ。この記事では π-λ 定理を証明し、その最も重要な帰結である「π 系の上で一致する測度は生成された σ-代数の上で一致する」という一意性定理と、Lebesgue 測度・確率分布・独立性への応用を述べる。

定義

以下、$X$ を集合とし、$\mathcal{P}(X)$ をその部分集合全体とする。

π系とλ系
  1. 族 $\mathcal{P}\subset\mathcal{P}(X)$ が π 系(π-system)であるとは、$A,B\in\mathcal{P}$ ならば $A\cap B\in\mathcal{P}$ となることをいう。
  2. 族 $\mathcal{L}\subset\mathcal{P}(X)$ が λ 系(λ-system、Dynkin 系)であるとは、次の 3 条件を満たすことをいう。
    • (λ1) $X\in\mathcal{L}$。
    • (λ2) $A\in\mathcal{L}$ ならば $X\setminus A\in\mathcal{L}$。
    • (λ3) $A_1,A_2,\ldots\in\mathcal{L}$ が互いに交わらないならば $\bigcup_nA_n\in\mathcal{L}$。

σ-代数は λ 系であり、π 系でもある。λ 系の族の共通部分は λ 系なので(σ-代数 の記事の命題「σ-代数の共通部分」と同じ確かめ方)、族 $\mathcal{A}$ を含む最小の λ 系 $\lambda(\mathcal{A})$ がある。$\mathcal{A}$ が生成する σ-代数を $\sigma(\mathcal{A})$ と書く(σ-代数 の記事の定義「生成される σ-代数」)。
λ 系を「全体を含み、包含関係にある 2 つの差と増加列の和集合で閉じている族」として定義する流儀もある(Dur19 §2.1、p. 46)。次の命題により、2 つの定義は同じ族を定める。

λ系の言い換え

$\mathcal{L}\subset\mathcal{P}(X)$ について、次は同値である。

  1. $\mathcal{L}$ は λ 系である。
  2. $X\in\mathcal{L}$ であり、$A,B\in\mathcal{L}$、$A\subset B$ ならば $B\setminus A\in\mathcal{L}$、さらに $A_1\subset A_2\subset\cdots$ がすべて $\mathcal{L}$ に属すれば $\bigcup_nA_n\in\mathcal{L}$ である。

要点:差 $B\setminus A$ は $A$ と $X\setminus B$ の和の補集合であり、互いに交わらない列の和は有限和の増加列の和である。

詳しい証明を開く

1 ⇒ 2:$A\subset B$ なら $A$ と $X\setminus B$ は交わらないので、(λ2)(λ3) により $A\cup(X\setminus B)\in\mathcal{L}$ であり、その補集合 $B\setminus A$ も $\mathcal{L}$ に属する。増加列 $A_1\subset A_2\subset\cdots$ については $D_1:=A_1$、$D_n:=A_n\setminus A_{n-1}$ がいま示したことから $\mathcal{L}$ に属し、互いに交わらず和集合が $\bigcup_nA_n$ なので、(λ3) から $\bigcup_nA_n\in\mathcal{L}$ である。

2 ⇒ 1:$X\setminus A$ は $A\subset X$ の差なので (λ2) が成り立つ。互いに交わらない $A,B\in\mathcal{L}$ については $A\subset X\setminus B$ なので $(X\setminus B)\setminus A\in\mathcal{L}$ であり、その補集合 $A\cup B$ も $\mathcal{L}$ に属する。帰納法で有限個の互いに交わらない和も $\mathcal{L}$ に属し、可算個の場合は有限和の増加列の和集合として $\mathcal{L}$ に属する。$\square$

とくに λ 系は、増加列の和集合と、減少列の共通部分(補集合が増加列になる)で閉じている。すなわち λ 系は単調族である。

π-λ定理

π系であるλ系はσ-代数

π 系でもある λ 系は σ-代数である。

$\mathcal{L}$ を π 系である λ 系とする。$X\in\mathcal{L}$ と補集合で閉じることは λ 系の条件そのものである。$A,B\in\mathcal{L}$ なら $A\cup B=X\setminus\bigl((X\setminus A)\cap(X\setminus B)\bigr)$ は補集合と共通部分で作れるので $\mathcal{L}$ に属する。$A_1,A_2,\ldots\in\mathcal{L}$ について $B_n:=A_1\cup\cdots\cup A_n$ は $\mathcal{L}$ の増加列なので、prop-dynkin-lambda-equivalent により $\bigcup_nA_n=\bigcup_nB_n\in\mathcal{L}$ である。$\square$

Dynkinのπ-λ定理

$\mathcal{P}$ を π 系、$\mathcal{L}$ を λ 系とし、$\mathcal{P}\subset\mathcal{L}$ とする。このとき $\sigma(\mathcal{P})\subset\mathcal{L}$ である。言い換えると、π 系 $\mathcal{P}$ を含む最小の λ 系は $\sigma(\mathcal{P})$ に等しい:$\lambda(\mathcal{P})=\sigma(\mathcal{P})$。

証明の考え方は次のとおりである。$\mathcal{L}_0:=\lambda(\mathcal{P})$ が共通部分で閉じていることを示せば、lem-dynkin-pi-and-lambda により $\mathcal{L}_0$ は σ-代数になり、$\sigma(\mathcal{P})\subset\mathcal{L}_0\subset\mathcal{L}$ が従う。共通部分で閉じていることは、「$A$ と交わりをとると $\mathcal{L}_0$ に入る集合 $B$ 全体」がまた λ 系になることを使い、$A$ の範囲を $\mathcal{P}$ から $\mathcal{L}_0$ へ 2 段階で広げて示す。

$\mathcal{L}_0:=\lambda(\mathcal{P})$ とおく。σ-代数は λ 系なので $\mathcal{L}_0\subset\sigma(\mathcal{P})$ であり、$\mathcal{L}$ は $\mathcal{P}$ を含む λ 系なので $\mathcal{L}_0\subset\mathcal{L}$ である。$A\in\mathcal{L}_0$ について
$$ \mathcal{G}_A:=\{B\subset X\mid A\cap B\in\mathcal{L}_0\} $$
とおく。
第 1 段:$A\in\mathcal{L}_0$ なら $\mathcal{G}_A$ は λ 系である。 $A\cap X=A\in\mathcal{L}_0$ なので $X\in\mathcal{G}_A$ である。$B\in\mathcal{G}_A$ なら $A\cap(X\setminus B)=A\setminus(A\cap B)$ であり、$A\cap B\subset A$ はどちらも $\mathcal{L}_0$ に属するので、prop-dynkin-lambda-equivalent により $A\cap(X\setminus B)\in\mathcal{L}_0$、すなわち $X\setminus B\in\mathcal{G}_A$ である。$B_1,B_2,\ldots\in\mathcal{G}_A$ が互いに交わらなければ $A\cap B_n$ も互いに交わらず、$A\cap\bigcup_nB_n=\bigcup_n(A\cap B_n)\in\mathcal{L}_0$ である。
第 2 段:$A\in\mathcal{P}$ なら $\mathcal{L}_0\subset\mathcal{G}_A$ である。 $\mathcal{P}$ は π 系なので $B\in\mathcal{P}$ について $A\cap B\in\mathcal{P}\subset\mathcal{L}_0$、すなわち $\mathcal{P}\subset\mathcal{G}_A$ である。第 1 段により $\mathcal{G}_A$ は λ 系なので、最小性から $\mathcal{L}_0\subset\mathcal{G}_A$ である。
第 3 段:$A\in\mathcal{L}_0$ なら $\mathcal{L}_0\subset\mathcal{G}_A$ である。 第 2 段は「$P\in\mathcal{P}$、$B\in\mathcal{L}_0$ なら $P\cap B\in\mathcal{L}_0$」ということであり、これは $\mathcal{P}\subset\mathcal{G}_B$($B\in\mathcal{L}_0$)と言い換えられる。いま $A\in\mathcal{L}_0$ をとると $\mathcal{P}\subset\mathcal{G}_A$ であり、第 1 段により $\mathcal{G}_A$ は λ 系なので、最小性から $\mathcal{L}_0\subset\mathcal{G}_A$ である。
第 3 段は $\mathcal{L}_0$ が共通部分で閉じていること、すなわち π 系であることを示している。lem-dynkin-pi-and-lambda により $\mathcal{L}_0$ は σ-代数であり、$\mathcal{P}$ を含むので $\sigma(\mathcal{P})\subset\mathcal{L}_0$ である。よって $\sigma(\mathcal{P})=\mathcal{L}_0\subset\mathcal{L}$ である。$\square$

π-λ 定理の使い方は決まっている。示したい性質を満たす集合の族 $\mathcal{L}$ を作り、(1) $\mathcal{L}$ が λ 系であること、(2) $\mathcal{L}$ が π 系 $\mathcal{P}$ を含むこと、の 2 つを確かめれば、性質は $\sigma(\mathcal{P})$ のすべての元で成り立つ。

測度の一意性

π系の上で一致する測度の一意性

$\mathcal{P}$ を $X$ 上の π 系、$\mu_1,\mu_2$ を $\sigma(\mathcal{P})$ 上の測度とし、すべての $P\in\mathcal{P}$ について $\mu_1(P)=\mu_2(P)$ とする。

  1. $\mu_1(X)=\mu_2(X)<\infty$ ならば、$\sigma(\mathcal{P})$ 上で $\mu_1=\mu_2$ である。
  2. $\mathcal{P}$ の増加列 $E_1\subset E_2\subset\cdots$ で $\bigcup_kE_k=X$、$\mu_1(E_k)<\infty$ となるものがあれば、$\sigma(\mathcal{P})$ 上で $\mu_1=\mu_2$ である。

1:$\mathcal{L}:=\{E\in\sigma(\mathcal{P})\mid\mu_1(E)=\mu_2(E)\}$ とおく。仮定から $X\in\mathcal{L}$、$\mathcal{P}\subset\mathcal{L}$ である。$E\in\mathcal{L}$ なら、値が有限なので $\mu_1(X\setminus E)=\mu_1(X)-\mu_1(E)=\mu_2(X)-\mu_2(E)=\mu_2(X\setminus E)$ である。互いに交わらない $E_n\in\mathcal{L}$ については、可算加法性から $\mu_1(\bigcup_nE_n)=\sum_n\mu_1(E_n)=\sum_n\mu_2(E_n)=\mu_2(\bigcup_nE_n)$ である。よって $\mathcal{L}$ は λ 系であり、thm-dynkin-main により $\sigma(\mathcal{P})\subset\mathcal{L}$ である。
2:$k$ を固定し、$\nu_i(E):=\mu_i(E\cap E_k)$($E\in\sigma(\mathcal{P})$)とおく。$\nu_i$ は $\sigma(\mathcal{P})$ 上の有限測度で、$P\in\mathcal{P}$ について $P\cap E_k\in\mathcal{P}$ だから $\nu_1(P)=\nu_2(P)$ であり、$\nu_1(X)=\mu_1(E_k)=\mu_2(E_k)=\nu_2(X)<\infty$ である。1 により $\nu_1=\nu_2$ である。任意の $E\in\sigma(\mathcal{P})$ について $E\cap E_k$ は $E$ に増加して近づくので、測度 の記事の定理「測度の連続性」の 1 により $\mu_1(E)=\lim_k\mu_1(E\cap E_k)=\lim_k\mu_2(E\cap E_k)=\mu_2(E)$ である。$\square$

1 で「$\mu_1(X)=\mu_2(X)$」を仮定しているのは、$X$ が $\mathcal{P}$ に入っているとは限らないからである。確率測度どうしなら $\mu_1(X)=\mu_2(X)=1$ は自動的に成り立つ。測度の値が有限であることは、補集合の値を引き算で求めるところで使う。

区間の長さで決まる測度
  1. $\mathbb{R}^n$ の Borel 集合全体の上の測度 $\mu$ が、すべての半開直方体 $\prod_{i=1}^n(a_i,b_i]$ にその体積 $\prod_i(b_i-a_i)$ を与えるならば、$\mu$ は Borel 集合の上で Lebesgue測度 に等しい。
  2. $\mathbb{R}$ の Borel 集合全体の上の確率測度 $P_1,P_2$ が、すべての $t\in\mathbb{R}$ について $P_1((-\infty,t])=P_2((-\infty,t])$ を満たすならば、$P_1=P_2$ である。

1:半開直方体と空集合の全体 $\mathcal{P}_n$ は π 系である(2 つの半開直方体の共通部分は、各座標の区間の共通部分の積なので、半開直方体か空集合)。$\sigma(\mathcal{P}_n)$ は Borel 集合全体である(Carathéodoryの拡張定理 の記事の命題「半開直方体はBorel集合全体を生成する」)。$E_k:=(-k,k]^n$ は $\mathcal{P}_n$ の増加列で $\mathbb{R}^n$ を覆い、体積は有限である。Lebesgue 測度も半開直方体に体積を与えるので(同記事の定理「Lebesgue–Stieltjes測度とLebesgue測度の存在と一意性」)、thm-dynkin-uniqueness の 2 から結論が従う。
2:$\{(-\infty,t]\mid t\in\mathbb{R}\}$ は π 系であり($(-\infty,s]\cap(-\infty,t]=(-\infty,\min\{s,t\}]$)、$(a,b]=(-\infty,b]\setminus(-\infty,a]$ と 1 の生成の事実から Borel 集合全体を生成する。thm-dynkin-uniqueness の 1 を当てればよい。$\square$

2 は、実数値の確率変数 $Z$ の分布 $P_Z(B):=P(Z\in B)$ が分布関数 $F_Z(t):=P(Z\le t)$ だけで決まることを意味している。Carathéodoryの拡張定理 の記事の定理「Carathéodoryの拡張定理」の 3(一意性)は、前測度が σ-有限な場合の一意性を外測度の評価で示しており、thm-dynkin-uniqueness はそれとは別の道筋である。

独立性への応用

確率空間 $(\Omega,\mathcal{F},P)$ の部分族 $\mathcal{A}_1,\dots,\mathcal{A}_m\subset\mathcal{F}$ が 独立 であるとは、各 $i$ から選んだ $A_i\in\mathcal{A}_i$ について、どの部分集合 $I\subset\{1,\dots,m\}$ でも $P(\bigcap_{i\in I}A_i)=\prod_{i\in I}P(A_i)$ が成り立つことをいう。

π系の独立性はσ-代数に広がる

$\mathcal{A}_1,\dots,\mathcal{A}_m$ が独立で、各 $\mathcal{A}_i$ が π 系ならば、$\sigma(\mathcal{A}_1),\dots,\sigma(\mathcal{A}_m)$ は独立である。

要点:$\mathcal{A}_1$ を $\sigma(\mathcal{A}_1)$ に取り替えても独立性が保たれることを π-λ 定理で示し、これを $m$ 回繰り返す。

詳しい証明を開く

各 $\mathcal{A}_i$ に $\Omega$ を加えても π 系のままで、独立性も保たれる($A_i=\Omega$ を選ぶことは $i$ を $I$ から除くことと同じ)。そこで $\Omega\in\mathcal{A}_i$ とし、独立性は「すべての $A_i\in\mathcal{A}_i$ について $P(A_1\cap\cdots\cap A_m)=P(A_1)\cdots P(A_m)$」と同値である。$A_2\in\mathcal{A}_2,\dots,A_m\in\mathcal{A}_m$ を固定し、$F:=A_2\cap\cdots\cap A_m$、$c:=P(A_2)\cdots P(A_m)$ とおくと $P(F)=c$ である。$\mathcal{L}:=\{A\in\mathcal{F}\mid P(A\cap F)=P(A)\,c\}$ は $\Omega$ を含み、$P((\Omega\setminus A)\cap F)=P(F)-P(A\cap F)=(1-P(A))c$ から補集合で閉じ、可算加法性から互いに交わらない可算和で閉じる。仮定から $\mathcal{A}_1\subset\mathcal{L}$ なので、thm-dynkin-main により $\sigma(\mathcal{A}_1)\subset\mathcal{L}$ である。よって $\sigma(\mathcal{A}_1),\mathcal{A}_2,\dots,\mathcal{A}_m$ は独立である。$\sigma(\mathcal{A}_1)$ も π 系なので、同じ議論を $\mathcal{A}_2,\dots,\mathcal{A}_m$ に順に当てればよい。$\square$

たとえば実数値の確率変数 $Z_1,\dots,Z_m$ が独立であること(各 $Z_i$ の生成する σ-代数 $\sigma(Z_i):=\{Z_i^{-1}(B)\mid B\text{ は Borel 集合}\}$ が独立であること)を確かめるには、π 系 $\{Z_i^{-1}((-\infty,t])\mid t\in\mathbb{R}\}$ について、すなわち
$$ P(Z_1\le t_1,\dots,Z_m\le t_m)=P(Z_1\le t_1)\cdots P(Z_m\le t_m)\qquad(t_1,\dots,t_m\in\mathbb{R}) $$
を確かめれば十分である(Dur19 Theorem 2.1.8、p. 47)。実際、この族は $\{Z_i\le s\}\cap\{Z_i\le t\}=\{Z_i\le\min\{s,t\}\}$ により π 系であり、生成する σ-代数は $\sigma(Z_i)$ である(σ-代数 の記事の定理「逆像と生成系」の 4)。いくつかの $t_j$ を $\infty$ に近づければ、測度の連続性により一部の変数だけの式も従うので、prop-dynkin-independence が当てはまる。

例

λ系であってσ-代数でない族

$X=\{1,2,3,4\}$ 上の $\mathcal{D}=\{\emptyset,X,\{1,2\},\{3,4\},\{1,3\},\{2,4\}\}$ は λ 系だが σ-代数でない(σ-代数 の記事の例「互いに交わらない和だけで閉じた族」)。$\{1,2\}\cap\{1,3\}=\{1\}\notin\mathcal{D}$ なので π 系でもない。実際、$\mu_1:=\delta_1+\delta_4$、$\mu_2:=\delta_2+\delta_3$($\delta_a$ は点 $a$ の Dirac 測度)とおくと、$\mathcal{D}$ のどの元にも $\mu_1$ と $\mu_2$ は同じ値($0,2,1,1,1,1$)を与えるが、$\mu_1(\{1\})=1\ne0=\mu_2(\{1\})$ である。$\mathcal{D}$ は「$\mu_1$ と $\mu_2$ が一致する集合全体」そのものであり、一致する集合の全体は一般に λ 系にはなっても σ-代数にはならない。

積σ-代数と可測長方形

可測空間 $(X,\mathcal{S})$、$(Y,\mathcal{T})$ について、可測長方形 $A\times B$($A\in\mathcal{S}$、$B\in\mathcal{T}$)の全体は $(A\times B)\cap(A'\times B')=(A\cap A')\times(B\cap B')$ により π 系である。したがって $\mathcal{S}\otimes\mathcal{T}$ 上の 2 つの有限測度は、全体の値と可測長方形の上の値が一致すれば等しい。Fubiniの定理 の記事では、積測度の一意性と切り口の可測性を単調族定理(同記事の補題「単調族定理」)で示しているが、π-λ 定理でも同じ結論が得られる。たとえば $\nu(Y)<\infty$ のとき、$x\mapsto\nu(E_x)$ が可測になる集合 $E$ の全体は、$\nu(Y\setminus E_x)=\nu(Y)-\nu(E_x)$ と可算加法性から λ 系であり、可測長方形を含むので $\mathcal{S}\otimes\mathcal{T}$ 全体を含む。

条件を外した反例

thm-dynkin-uniqueness の仮定を 1 つずつ外すと、測度の一致が生成された σ-代数に広がらない例がある。最後の行は thm-dynkin-main の λ 系の条件 (λ3) を外したものである。

外す条件反例成り立たなくなること
$\mathcal{P}$ が π 系$X=\{1,2,3,4\}$、$\mathcal{C}=\{\{1,2\},\{1,3\}\}$、$\mu_1=\delta_1+\delta_4$、$\mu_2=\delta_2+\delta_3$$\sigma(\mathcal{C})=\mathcal{P}(X)$ だが $\mu_1(\{1\})\ne\mu_2(\{1\})$
$\mu_1(X)=\mu_2(X)$$X=\{1,2\}$、$\mathcal{P}=\{\{1\}\}$、$\mu_1=\delta_1$、$\mu_2=\delta_1+\delta_2$$\sigma(\mathcal{P})=\mathcal{P}(X)$ だが $\mu_1(X)\ne\mu_2(X)$
$\mathcal{P}$ の中の有限測度の増加列$\mathbb{R}$、$\mathcal{P}$ は半開区間と $\emptyset$、$\mu_1$ は $\mathbb{Q}$ 上の数え上げ測度、$\mu_2=2\mu_1$Borel 集合 $\{0\}$ で $1\ne2$
(λ3) を有限個の和に弱める$X=\mathbb{N}$、$\mathcal{P}$ は 1 点集合と $\emptyset$、$\mathcal{L}$ は有限集合と補集合が有限な集合$\sigma(\mathcal{P})=\mathcal{P}(\mathbb{N})\not\subset\mathcal{L}$
反例:表の各行の確かめ

各行は左の列の条件だけを破っている。

確かめを開く

1 行目:$\{1,2\}\cap\{1,3\}=\{1\}\notin\mathcal{C}$ なので π 系でない。$\mu_1,\mu_2$ はどちらも $\{1,2\}$、$\{1,3\}$ に $1$ を与え、$X$ に $2$ を与える(全体の値も一致し、有限である)。$\{1\}=\{1,2\}\cap\{1,3\}$、$\{2\}=\{1,2\}\setminus\{1\}$、$\{3\}=\{1,3\}\setminus\{1\}$、$\{4\}=X\setminus\{1,2,3\}$ なので $\sigma(\mathcal{C})$ はすべての部分集合を含む。

2 行目:1 元の族は π 系で、$\mu_1(\{1\})=\mu_2(\{1\})=1$、$\mu_1$ も $\mu_2$ も有限測度である。$\sigma(\mathcal{P})=\{\emptyset,\{1\},\{2\},X\}$ の上で $\mu_1(X)=1\ne2=\mu_2(X)$ である。

3 行目:$\mu_1(E)$ は $E\cap\mathbb{Q}$ の元の個数(無限なら $\infty$)で、Borel 集合の上の測度であり、$\mathbb{R}$ は測度 $0$ の $\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$ と $\mathbb{Q}$ の可算個の 1 点集合で覆えるので σ-有限でもある。空でない半開区間 $(a,b]$ は無限個の有理数を含むので $\mu_1((a,b])=\mu_2((a,b])=\infty$ となり、$\mathcal{P}$ の上で一致する。半開区間の全体は π 系で Borel 集合全体を生成する。しかし $\mathcal{P}$ の空でない元はすべて測度が無限なので、2 の増加列はとれない。

4 行目:$\mathcal{L}$ は $\mathbb{N}$ を含み、補集合と有限個の和で閉じている(有限集合の和は有限、補集合が有限な集合を含む和は補集合が有限)。偶数全体は 1 点集合の可算和なので $\sigma(\mathcal{P})$ に属するが、有限でも補集合が有限でもないので $\mathcal{L}$ に属さない。

3 行目の $\mu_1,\mu_2$ はどちらも σ-有限だが、それを示す有限測度の集合が $\mathcal{P}$ の中にとれない。thm-dynkin-uniqueness の 2 では、増加列が $\mathcal{P}$ に属することが必要である。

補足

単調族定理との関係

σ-代数 の記事の注意「単調族定理」は、有限加法族 $\mathcal{A}$ を含む最小の単調族が $\sigma(\mathcal{A})$ に等しいことを述べている。λ 系は単調族なので(prop-dynkin-lambda-equivalent の後の注意)、$\mathcal{A}$ を含む λ 系は $\sigma(\mathcal{A})$ を含む。これは $\mathcal{A}$ が π 系であることから thm-dynkin-main でも従う。2 つの定理は、生成系に強い条件(有限加法族であること)を課して性質の側の条件を弱める(単調族)か、生成系の条件を弱めて(π 系)性質の側に補集合と互いに交わらない和を課す(λ 系)か、という役割分担の違いである。測度の一致のように補集合を引き算で扱える性質には、生成系が区間や直方体のような π 系で済む π-λ 定理が使いやすい。

文献

π-λ 定理と測度の一意性は Dur19 の Theorem A.1.4(p. 456)と Theorem A.1.5(p. 457)にあり、そこでは λ 系を prop-dynkin-lambda-equivalent の 2 の形で定義している。独立性への応用は同 Theorem 2.1.7(p. 46)と Theorem 2.1.8(p. 47)にある。単調族定理は Axler20 5.17(p. 122)にある。

関連項目

参考文献

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