準位相群

同義語:quasitopological group

概要

準位相群(quasitopological group)とは、群に位相が与えられ、左右の平行移動と逆元をとる写像 $x\mapsto x^{-1}$ がすべて連続であるもの、すなわち逆元が連続な半位相群のことである。位相群の公理から積の 2 変数での連続性だけを外したものにあたり、無限群に余有限位相を入れたものが代表例である。準位相群では部分群の閉包は部分群になり、$T_0$・$T_1$・単位元の 1 点集合が閉であることの 3 条件は同値になるが、$T_1$ から Hausdorff 性は従わず、Hausdorff でも位相群とは限らない。準位相群が位相群であることは、積が単位元の組 $(e,e)$ で連続であることと同値である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 半位相群, 位相群, 閉包, 商位相

準位相群は、群に位相を入れ、左右の平行移動と逆元をとる写像 $x\mapsto x^{-1}$ を連続にしたものである。半位相群に逆元の連続性を加えたもので、位相群の公理のうち積 $(x,y)\mapsto xy$ の 2 変数での連続性だけを外したものにあたる。無限群に余有限位相を入れたものが代表例で、平行移動と逆元はどれも同相写像になるが、積は 2 変数では連続でない。
準位相群では、位相群の基本性質のうち対称性に関わるもの、すなわち部分群の閉包が部分群になること、$T_0$ と $T_1$ が同値になることが成り立つ。一方、$T_1$ から Hausdorff 性は従わず、Hausdorff であっても位相群とは限らない。この記事ではこれらを証明し、Hausdorff な準位相群で位相群でないものを具体的に作る。

定義

群 $G$ の単位元を $e$、積を $\mu$、逆元をとる写像を $\iota(x)=x^{-1}$、左移動・右移動を $L_a(x)=ax$、$R_a(x)=xa$ と書く。部分集合の積 $AB$、逆 $A^{-1}$、閉包 $\overline A$、近傍系 $\mathcal N(g)$ の記号は 半位相群 の記事と同じである。

準位相群

群 $G$ に位相が与えられ、すべての $a\in G$ について $L_a$ と $R_a$ が連続であり、さらに $\iota$ が連続であるとき、$G$ を 準位相群(quasitopological group)という。すなわち、準位相群とは逆元をとる写像が連続な半位相群である。

片側の平行移動による言い換え

群 $G$ に位相が与えられているとき、次は同値である。

  1. $G$ は準位相群である。
  2. $\iota$ とすべての左移動 $L_a$ が連続である。
  3. $\iota$ とすべての右移動 $R_a$ が連続である。

1 から 2・3 は定義による。$x\in G$ について $\iota(L_{a^{-1}}(\iota(x)))=(a^{-1}x^{-1})^{-1}=xa$ なので $R_a=\iota\circ L_{a^{-1}}\circ\iota$ であり、2 から 1 が従う。同様に $L_a=\iota\circ R_{a^{-1}}\circ\iota$ なので 3 から 1 が従う。$\square$

位相群は準位相群である。準位相群が位相群であることは、積 $\mu$ が点 $(e,e)$ で連続であることと同値である(半位相群 の定理「連続性は単位元で調べればよい」の 1)。

直感

準位相群では、平行移動と逆元がすべて同相写像なので、空間の「形」は群の左右の対称性と反転の対称性をすべてもつ。単位元の近傍 $U$ について $U^{-1}$ も近傍であり、近傍を対称にとることができる。欠けているのは、2 つの元を「同時に」少し動かしたときの積の振る舞いの制御である。位相群では $e$ の近傍 $U$ に対し $VV\subset U$ となる近傍 $V$ がとれるが、準位相群ではとれるとは限らない。
位相群の性質の証明のうち、平行移動と逆元の同相性だけを使うものは準位相群でも通る。$VV\subset U$ となる近傍を使うもの($T_1$ から Hausdorff 性を導く議論など)は通らない。

例と反例

準位相群の例
  1. 位相群は準位相群である。
  2. 無限群 $G$ に余有限位相を入れたものは準位相群である。余有限位相の空間の間の全単射はすべて同相写像だからである(余有限位相 の命題「余有限空間に入る写像と余有限空間の間の写像」)。これは位相群でない(位相群 の記事の例「反例:無限群の余有限位相」)。この空間は $T_1$ であるが Hausdorff でない。
  3. 加法群 $\mathbb{R}$ に Sorgenfrey直線の位相を入れたもの $\mathbb{R}_L$ や、$\mathbb{Z}$ に $\{m\mid m\ge n\}$ の形の集合を開集合とする上向きの位相を入れたものは、パラ位相群であるが、逆元が連続でないので準位相群でない(パラ位相群 の例「整数の上向きの位相」)。

例の 2 は Hausdorff でない。Hausdorff な準位相群でも位相群とは限らないことを、次の例で確かめる。

Hausdorff な準位相群で位相群でないもの

$\mathbb{R}$ の通常の位相の開集合 $U$ と、高々可算な部分集合 $C\subset\mathbb{R}$ により $U\setminus C$ と書ける集合全体を $\tau_c$ とする。

  1. $\tau_c$ は $\mathbb{R}$ の位相であり、通常の位相より細かい。とくに $(\mathbb{R},\tau_c)$ は Hausdorff である。
  2. 加法群 $(\mathbb{R},\tau_c)$ は準位相群である。
  3. 加法は点 $(0,0)$ で 2 変数の写像として連続でない。よって $(\mathbb{R},\tau_c)$ は位相群でない。
  4. $(\mathbb{R},\tau_c)$ のコンパクト部分集合は有限集合であり、$(\mathbb{R},\tau_c)$ は局所コンパクトでない。

1:$\emptyset=\emptyset\setminus\emptyset$、$\mathbb{R}=\mathbb{R}\setminus\emptyset$ であり、$(U_1\setminus C_1)\cap(U_2\setminus C_2)=(U_1\cap U_2)\setminus(C_1\cup C_2)$ である。族 $(U_i\setminus C_i)_{i\in I}$ の和集合を考え、$U:=\bigcup_iU_i$ とおく。$U$ は $\mathbb{R}$ の部分空間として Lindelöf 空間なので(Lindelöf空間 の系「実数空間の部分空間」)、高々可算な $J\subset I$ で $U=\bigcup_{j\in J}U_j$ となるものがある。$x\in U$ が和集合 $\bigcup_i(U_i\setminus C_i)$ に属さないとすると、$x\in U_j$ となる $j\in J$ について $x\notin U_j\setminus C_j$ なので $x\in C_j$ である。よって $C:=U\setminus\bigcup_i(U_i\setminus C_i)$ は可算集合 $\bigcup_{j\in J}C_j$ に含まれ、和集合は $U\setminus C\in\tau_c$ である。$C=\emptyset$ ととれば通常の開集合は $\tau_c$ に属するので、$\tau_c$ は通常の位相より細かく、Hausdorff である。
2:加法群は可換なので $L_a=R_a$ である。$x\mapsto x+a$ と $x\mapsto-x$ は通常の位相の同相写像で、可算集合を可算集合に写すので、$U\setminus C$ を $(U+a)\setminus(C+a)$、$(-U)\setminus(-C)$ に写す。よって逆像も $\tau_c$ に属し、どちらも連続である。
3:$W:=(-1,1)\setminus(\mathbb{Q}\setminus\{0\})$ は $0$ を含む $\tau_c$ の開集合である。加法が $(0,0)$ で連続だと仮定すると、$0$ の開近傍 $A=U_1\setminus C_1$、$B=U_2\setminus C_2$ で $A+B\subset W$ となるものがある。$0\in U_1\cap U_2$ なので、$(-\delta,\delta)\subset U_1\cap U_2$ となる $\delta>0$ がある。$t\in(-\delta,\delta)$ を任意にとる。集合 $S:=(-\delta,\delta)\cap(t-\delta,t+\delta)$ は空でない開区間($\lvert t\rvert< \delta$ による)なので非可算であり、可算集合 $C_1\cup(t-C_2)$ に含まれない点 $u\in S$ がある。このとき $u\in(-\delta,\delta)\setminus C_1\subset A$、$t-u\in(-\delta,\delta)\setminus C_2\subset B$ であり、$t=u+(t-u)\in A+B$ である。よって $(-\delta,\delta)\subset A+B\subset W$ となるが、$(-\delta,\delta)$ は $0$ でない有理数を含み、それは $W$ に属さないので矛盾する。
4:$K$ がコンパクトで無限集合なら、可算無限部分集合 $D\subset K$ がとれる。$\mathbb{R}\setminus D$ と $\mathbb{R}\setminus(D\setminus\{d\})$($d\in D$)は $\tau_c$ の開集合で、全体で $\mathbb{R}$ を覆う。その有限個 $\mathbb{R}\setminus D$、$\mathbb{R}\setminus(D\setminus\{d_1\})$、…、$\mathbb{R}\setminus(D\setminus\{d_k\})$ の和集合は $D\setminus\{d_1,\dots,d_k\}\ne\emptyset$ と交わらないので、$K$ を覆わない。これはコンパクト性に反する。空でない開集合 $U\setminus C$ は非可算なので、どの点もコンパクトな近傍をもたない。$\square$

性質

準位相群の基本性質

$G$ を準位相群とする。

  1. $\iota$、$L_a$、$R_a$ は同相写像である。$U$ が開集合なら、任意の $A\subset G$ について $U^{-1}$、$AU$、$UA$ は開集合であり、任意の $A\subset G$ について $\overline{A^{-1}}=(\overline A)^{-1}$ である。
  2. $H$ が部分群ならば、閉包 $\overline H$ も部分群である。$H$ が正規部分群ならば、$\overline H$ も正規部分群である。
  3. $G$ が $T_0$ であること、T1空間であること、$\{e\}$ が閉集合であることは同値である。
  4. $N:=\overline{\{e\}}$ は閉正規部分群であり、すべての $g\in G$ について $\overline{\{g\}}=gN=Ng$ である。剰余群 $G/N$ は商位相について $T_1$ な準位相群であり、射影 $\pi\colon G\to G/N$ は連続準同型かつ開写像である。

1:$\iota$ は連続で $\iota\circ\iota=\mathrm{id}_G$ なので、自分自身が連続な逆写像であり、同相写像である。$L_a$、$R_a$ が同相写像であることと $AU$、$UA$ が開集合であることは 半位相群 の命題「平行移動は同相写像」による。$U^{-1}=\iota(U)$ は同相写像による開集合の像なので開集合であり、同相写像は閉包を閉包に写すので $\overline{A^{-1}}=\iota(\overline A)=(\overline A)^{-1}$ である。
2:半位相群 の命題「半位相群の構成」の 3 により、$e\in\overline H$ かつ $\overline H\,\overline H\subset\overline H$ であり、$H$ が正規なら $g\overline Hg^{-1}=\overline H$ である。1 により $(\overline H)^{-1}=\overline{H^{-1}}=\overline H$ なので、$\overline H$ は逆元についても閉じている。よって $\overline H$ は部分群であり、$H$ が正規なら正規部分群である。
3:$T_1$ なら $T_0$ であり、$T_1$ であることと $\{e\}$ が閉集合であることの同値は 半位相群 の命題「平行移動は同相写像」の 4 による。$T_0$ から $\{e\}$ が閉集合であることを導く。$x\ne e$ とし、$x$ の開近傍で $e$ を含まないものを見つければよい。$T_0$ により、$x$ と $e$ の一方だけを含む開集合 $U$ がある。$x\in U$、$e\notin U$ なら $U$ がそれである。$e\in U$、$x\notin U$ なら、1 により $xU^{-1}$ は開集合で、$e\in U$ より $x=xe^{-1}\in xU^{-1}$ である。$e\in xU^{-1}$ とすると $e=xu^{-1}$ となる $u\in U$ があり、$x=u\in U$ となって矛盾する。よって $e\notin xU^{-1}$ である。したがって $G\setminus\{e\}$ は開集合である。
4:$\{e\}$ は正規部分群なので、2 により $N$ は閉正規部分群である。1 と同じく $L_g$、$R_g$ は同相写像なので、$\overline{\{g\}}=g\overline{\{e\}}=gN$、$\overline{\{g\}}=\overline{\{e\}}g=Ng$ である。半位相群 の命題「半位相群の構成」の 4 により、$G/N$ は商位相について半位相群で、$\pi$ は連続準同型かつ開写像である。$G/N$ の逆元をとる写像 $\bar\iota$ は $\bar\iota\circ\pi=\pi\circ\iota$ を満たすので、$G/N$ の開集合 $W$ について $\pi^{-1}(\bar\iota^{-1}(W))=\iota^{-1}(\pi^{-1}(W))$ は開集合であり、商位相の定義により $\bar\iota^{-1}(W)$ は開集合である。よって $G/N$ は準位相群である。最後に $\pi^{-1}(\{gN\})=gN=\overline{\{g\}}$ は閉集合なので、商位相の定義により $\{gN\}$ は $G/N$ の閉集合であり、$G/N$ は $T_1$ である。$\square$

位相群では 3 の条件はさらに Hausdorff 性と同値であるが(位相群 の定理「位相群の分離公理」)、準位相群ではそうならない。無限群の余有限位相は $T_1$ な準位相群であるが Hausdorff でない(ex-qtg-basic の 2)。位相群の場合の証明は、$e$ の近傍 $U$ に対して $V=V^{-1}$、$VV\subset U$ となる近傍 $V$ をとる段で、積の 2 変数での連続性を使っている。

位相群であるための条件

準位相群 $G$ について、次は同値である。

  1. $G$ は位相群である。
  2. $\mu$ は点 $(e,e)$ で連続である。
  3. $e$ の任意の近傍 $U$ について、$e$ の近傍 $V$ で $VV\subset U$ となるものがある。

1 ⇒ 3 は $\mu$ の $(e,e)$ での連続性による。3 ⇒ 2:$e$ の近傍 $U$ について $V$ をとれば $\mu(V\times V)=VV\subset U$ である。2 ⇒ 1 は 半位相群 の定理「連続性は単位元で調べればよい」の 1 による($\iota$ は仮定により連続である)。$\square$

局所コンパクトな場合

局所コンパクトな Hausdorff 準位相群は位相群である。これは 半位相群 の定理「Ellis の定理」の特別な場合であり、この記事では証明しない(所在は同記事の注意「Ellis の定理の所在」)。ex-qtg-hausdorff の $(\mathbb{R},\tau_c)$ は Hausdorff な準位相群で位相群でなく、局所コンパクトでないので、この定理と矛盾しない。ex-qtg-basic の 2 の余有限位相はコンパクトであるが Hausdorff でない。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
$\iota$ が連続であること(thm-qtg-basic の 2)$\mathbb{Z}$ の上向きの位相部分群 $\{0\}$ の閉包が部分群であること
$\iota$ が連続であること(thm-qtg-basic の 3)$\mathbb{Z}$ の上向きの位相$T_0$ ならば $T_1$ であること
平行移動が連続であること(thm-qtg-basic の 3)$\mathbb{Z}$ に、$0$ を含まない集合と $\mathbb{Z}$ を開集合とする位相$\{e\}$ が閉集合ならば $T_1$ であること
局所コンパクトであること(Ellis の定理)$(\mathbb{R},\tau_c)$位相群であること
Hausdorff であること(Ellis の定理)無限群の余有限位相位相群であること

1・2 行目:$\mathbb{Z}$ の上向きの位相(パラ位相群 の例「整数の上向きの位相」)は半位相群で、$\iota$ だけが連続でない。閉集合は $\emptyset$、$\mathbb{Z}$ と $\{m\mid m\le n\}$ なので $\overline{\{0\}}=\{m\mid m\le0\}$ であり、これは $-1$ を含むが $1$ を含まない。また同じ例の 4 のとおり $T_0$ であるが $T_1$ でない。3 行目:この位相では $\iota$ は $0$ を含まない集合を $0$ を含まない集合に写すので同相写像であるが、平行移動は連続でない(半位相群 の例「反例:平行移動が連続でない位相」)。$\mathbb{Z}\setminus\{0\}$ は開集合なので $\{0\}$ は閉集合であるが、$\mathbb{Z}\setminus\{1\}$ は $0$ を含み $\mathbb{Z}$ でないので開集合でなく、$\{1\}$ は閉集合でない。4 行目は ex-qtg-hausdorff の 3・4 による。5 行目:無限集合上の余有限位相は Hausdorff でないが、全体がコンパクトなので各点がコンパクト近傍をもつ(局所コンパクト空間 の定義から Hausdorff 性を除いた条件)。全体がコンパクトであることは 余有限位相 の記事で証明されている(余有限位相 の命題「部分集合のコンパクト性」)。

関連項目

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