連続線形汎関数(continuous linear functional)とは、ノルム空間から実数体または複素数体への連続な線形写像である。連続性は、ある定数 $C$ ですべての $x$ について $|f(x)|\le C\|x\|$ となることと同値で、最小の $C$ が作用素ノルムである。核が閉じることでも判定でき、連続双対は元の空間が不完備でも Banach 空間になる。無限次元では連続でない線形汎関数もあり、連続双対は代数的双対より一般に真に小さい。
ベクトルに数を対応させる線形写像を線形汎関数という。有限次元では線形汎関数はすべて連続だが、無限次元では線形であることだけでは連続性を保証しない。極限と両立する汎関数を取り出す条件が連続線形汎関数(continuous linear functional)である。関数の一点での値を読む操作、数列の重み付き和、積分などが典型例となる。
ノルム空間の連続線形汎関数は、双対空間を作る材料である。Banach–Alaogluの定理 はその双対の閉球が弱スター位相でコンパクトになることを述べる。また、Hahn–Banach の定理は適切な部分空間上の連続線形汎関数をノルムを保って拡張する。この二つの定理の前提になる「連続」を、値の評価とノルムの不等式で確かめることが本記事の中心である(Cla20 第4部、pp. 63–69)。
$X$ を実数体または複素数体 $\mathbb F$ 上のノルム空間とする。線形汎関数とは線形写像 $f:X\to\mathbb F$ である。$f$ が連続とは、$x_n\to x$ なら $f(x_n)\to f(x)$ となること、同値に任意の点で通常の位相的な連続性を満たすことをいう。以下、連続線形汎関数を有界線形汎関数とも呼ぶが、「有界」は $X$ 全体で $|f(x)|$ が一様に有界という意味ではない。
線形写像 $f:X\to\mathbb F$ が連続であるとき、$f$ を連続線形汎関数という。これら全体を $X^*$ と書き、$X$ の連続双対という。$f\in X^*$ の作用素ノルムは
$$
\|f\|=\sup_{\|x\|\leq1}|f(x)|
$$
である。
連続性とこの上限が有限であることは同値である。これは定義の一部として覚えるより、なぜ同値になるかを確認しておくと、後の具体例を検査しやすい。
線形汎関数 $f:X\to\mathbb F$ に対し、次は同値である。
条件 1 から 2 は直ちに従う。条件 2 を仮定する。$\varepsilon=1$ に対し、ある $\delta>0$ があり $\|y\|<\delta$ なら $|f(y)|<1$ となる。$x\ne0$ に $y=(\delta/2\|x\|)x$ を代入すると $|f(x)|<2\|x\|/\delta$ となり、条件 3 が得られる。条件 3 なら単位球上で $|f(x)|\leq C$ だから 4 である。条件 4 の上界を $M$ とする。$x\ne0$ に対し $x/\|x\|$ は単位球に属するので、$|f(x)|\leq M\|x\|$。従って $|f(x)-f(y)|=|f(x-y)|\leq M\|x-y\|$ で、$f$ は連続である。最後に、この不等式を単位球で上限に取ることと、任意の $x$ を正規化することから、最小の $C$ は上記の $\|f\|$ に等しい。
線形性があるため、一点 $0$ での連続性が全ての点での連続性を決める。また $f\ne0$ なら $f$ 自体の値域は $\mathbb F$ 全体であり、$X$ 全体で $|f|$ は有界ではない。実際、$f(x_0)\ne0$ なら $|f(tx_0)|=|t|\,|f(x_0)|$ は $|t|\to\infty$ とともに無限大になる。「有界線形汎関数」は単位球上での有界性、または $|f(x)|\leq C\|x\|$ の意味である。
$X=C([0,1],\mathbb F)$ に上限ノルムを入れ、$t_0\in[0,1]$ を固定する。$E_{t_0}(g)=g(t_0)$ は線形で、$|E_{t_0}(g)|\leq\|g\|_\infty$ だから連続である。定数関数 $g=1$ に対して等号が成り立つので $\|E_{t_0}\|=1$。点の値を読むという単純な操作も、ノルムを指定して初めて連続性を判定できる。
$X=\ell^1$、$a=(a_n)\in\ell^\infty$ に対し $f_a(x)=\sum_{n=1}^{\infty}a_nx_n$ とする。絶対収束と $|f_a(x)|\leq\|a\|_\infty\|x\|_1$ から $f_a\in X^*$ である。$\ell^1$ の第 $n$ 標準基底 $e_n$ を使うと $|f_a(e_n)|=|a_n|$ だから $\|f_a\|\geq\sup_n|a_n|$。よって $\|f_a\|=\|a\|_\infty$。これは $\ell^\infty$ の各元が $\ell^1$ の連続双対の元を与えることを示す。
逆に、この形で与えられるもの以外に $\ell^1$ の連続線形汎関数はない。$f\in(\ell^1)^*$ に対して $a_n=f(e_n)$ と置けば $|a_n|\leq\|f\|$ なので $a\in\ell^\infty$ である。有限個の座標だけを持つ $x$ では線形性から $f(x)=\sum_na_nx_n$。そのような有限台の列は $\ell^1$ に稠密で、両辺とも連続だから任意の $x\in\ell^1$ に等式が拡張する。従って $(\ell^1)^*\cong\ell^\infty$ が等長に成り立つ。
Hilbert空間 $H$ でも、固定した $y\in H$ との内積は汎関数を与える。内積を第一変数について線形とする約束なら $f_y(x)=\langle x,y\rangle$ である。Cauchy–Schwarzの不等式より $|f_y(x)|\leq\|y\|\,\|x\|$ なので連続であり、$y\ne0$ のとき $x=y/\|y\|$ を代入すると $\|f_y\|=\|y\|$ が分かる。複素内積を第二変数について線形とする約束なら、線形汎関数になるよう二つの変数を入れ替える。内積のどちらの変数を線形とするかを宣言すれば、共役線形な写像との取り違えを防げる。
$c_{00}$ を有限個を除いて成分が零である数列全体とし、$\|x\|_\infty=\sup_n|x_n|$ を入れる。$f(x)=\sum_{n\geq1}n x_n$ は各 $x\in c_{00}$ について有限和なので線形汎関数である。しかし $\|e_n\|_\infty=1$ に対して $f(e_n)=n$ だから単位球上で有界でなく、連続でない。実際、$e_n/n\to0$ なのに $f(e_n/n)=1$ である。この例は「線形なら自動的に連続」を破る。$c_{00}$ の不完備性は計算を簡単にするためであり、連続性と有界性の同値には完備性は不要である。
同じ写像も、定義域に入れるノルムを変えると連続性が変わる。先の一点評価は上限ノルムでは連続だったが、連続関数全体に $L^1$ ノルム $\|g\|_1=\int_0^1|g(t)|\,dt$ を入れると、中央 $t_0=1/2$ での評価は連続でない。
$n\geq2$ について $g_n(t)=\max\{1-n|t-1/2|,0\}$ とする。これは高さ $1$、底辺の長さ $2/n$ の三角形のグラフを持つ連続関数なので、$\|g_n\|_1=1/n\to0$ である。しかし $E_{1/2}(g_n)=g_n(1/2)=1$ は $0$ へ近づかない。従って同じ代数的な線形写像 $E_{1/2}:C([0,1])\to\mathbb F$ でも、$L^1$ ノルムを入れた定義域では連続性を失う。この例が破るのは「写像が連続かどうかは線形性だけで決まり、ノルムに依存しない」という主張である。
この $L^1$ ノルムの空間 $C([0,1])$ は完備でないが、ここで見た連続性の違いは完備化の有無が原因ではない。実際、同じ列 $(g_n)$ は上限ノルムでは常に $\|g_n\|_\infty=1$ で、$0$ に近づかない。定義域でどの変化を「小さい」と見るかが直接の理由である。
線形汎関数 $f$ の核 $\ker f=\{x\in X:f(x)=0\}$ は線形部分空間である。$f$ が連続なら、$\ker f$ は閉集合 $\{0\}$ の逆像だから閉じている。実は、$f$ が零写像でないとき、逆も成り立つ。これにより、連続性を値の大きさだけでなく、零点が作る超平面の幾何から判定できる。
線形汎関数 $f:X\to\mathbb F$ は、$\ker f$ が $X$ の閉部分空間であることと同値に連続である。
連続なら核が閉じていることは上に述べた。逆を示す。$f=0$ なら連続であるから、$f\ne0$ とする。$f(x_0)=1$ となる $x_0\in X$ を取る。$\ker f$ は閉じており $x_0$ を含まないから、$d=\operatorname{dist}(x_0,\ker f)>0$ である。$f(x)=t\ne0$ のとき $f(x/t-x_0)=0$ より $x/t-x_0\in\ker f$。従って $\|x/t\|\geq d$、すなわち $|f(x)|=|t|\leq\|x\|/d$。$t=0$ の場合も同じ不等式が成立する。よって $f$ は有界、従って連続である。
この証明では $X$ が Banach 空間であることを使っていない。閉じた部分空間の外にある点からその部分空間までの距離が正という距離空間の事実だけを使う。零写像についても核は $X$ 自身で閉じているので、定理には例外を設ける必要がない。
先の $c_{00}$ の $f(x)=\sum_n n x_n$ について、$e_1-(1/n)e_n\in\ker f$ が $n\geq2$ で成り立つ。上限ノルムで $e_1-(1/n)e_n\to e_1$ だが $f(e_1)=1$。従って核は閉じていない。この計算は、同じ非連続性を単位球での発散だけでなく、核の閉性の失敗としても見るものである。
非零な連続線形汎関数の核は閉じた余次元一の超平面である。$f(x_0)=1$ を選ぶと、任意の $x$ は $x=(x-f(x)x_0)+f(x)x_0$ と一意に書ける。第一項は核、第二項は $x_0$ の一次元空間に属するので、$X/\ker f$ は一次元である。逆に閉じた余次元一の部分空間 $M$ を与えると、$X/M$ の一次元座標を選ぶことで $M$ を核とする非零な連続線形汎関数が得られる。後者は上の核による判定を使えば、選んだ線形汎関数の連続性を別に見積もる必要がない。
核までの距離は作用素ノルムも与える。$f(x_0)=1$ の場合、上の証明は $\|f\|\leq1/d$ を与えた。一方、任意の $m\in\ker f$ に対して $f(x_0-m)=1$ なので $1\leq\|f\|\,\|x_0-m\|$。$m$ について下限を取れば $1\leq\|f\|d$ である。従って
$$
\|f\|=\frac{1}{\operatorname{dist}(x_0,\ker f)}.
$$
これは、核から遠い点で $1$ を取る汎関数ほど、単位長さ当たりの値の変化が小さいという幾何的な意味を持つ。
thm-continuous-linear-functional-bounded と thm-continuous-linear-functional-kernel の仮定を外すと結論が崩れることを確かめる。以下 $c_{00}$ には上限ノルムを入れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 有限次元 | $c_{00}$ 上の $f(x)=\sum_nnx_n$ | 線形汎関数は連続(ex-continuous-linear-functional-unbounded) |
| ノルムを固定すること | $L^1$ ノルムの $C([0,1])$ 上の $E_{1/2}$ | 一点評価の連続性(ex-continuous-linear-functional-evaluation-l1) |
| 線形性 | $\mathbb R$ 上の $h(x)=x\cdot\mathbf 1_{\mathbb Q}(x)$ | $\lvert h(x)\rvert\le C\lvert x\rvert$ や $0$ での連続性から全点での連続性 |
| 値域が一次元(汎関数であること) | $c_{00}$ 上の $T(x)=(nx_n)_n$ | 核が閉なら連続 |
| 核が閉であること | $c_{00}$ 上の $f(x)=\sum_nnx_n$ | 連続性(ex-continuous-linear-functional-dense-kernel) |
$h\colon\mathbb R\to\mathbb R$ を、$x$ が有理数なら $h(x)=x$、無理数なら $h(x)=0$ と定める。すべての $x$ で $\lvert h(x)\rvert\le\lvert x\rvert$ なので、thm-continuous-linear-functional-bounded の条件 3($C=1$)と条件 4 を満たし、$x\to0$ で $h(x)\to0=h(0)$ だから条件 2 も満たす。しかし $x_0=1$ で連続でない。無理数の列 $x_n=1+\sqrt2/n\to1$ について $h(x_n)=0$ だが $h(1)=1$ である。$h$ は $h(1+\sqrt2)=0\ne h(1)+h(\sqrt2)=1$ で加法的でない。破るのは線形性であり、定理の証明の「$\lvert f(x)-f(y)\rvert=\lvert f(x-y)\rvert$」の段が使えない。
$T\colon c_{00}\to c_{00}$ を $T(x)=(nx_n)_{n\ge1}$ と定める。$x$ の非零成分は有限個なので $T(x)\in c_{00}$ であり、$T$ は線形である。$T(x)=0$ なら各 $nx_n=0$ で $x=0$ だから、$\ker T=\{0\}$ は閉部分空間である。しかし $\|e_n\|_\infty=1$、$\|T(e_n)\|_\infty=n$ なので $T$ は有界でなく、連続でない。thm-continuous-linear-functional-kernel の証明は、$f(x)=t$ から $x/t-x_0\in\ker f$ を作る段で値域が $\mathbb F$(一次元)であることを使っており、値域が無限次元の作用素には移せない。
有限次元ノルム空間 $X$ では、線形汎関数の連続性を仮定する必要はない。基底 $v_1,\ldots,v_m$ を選び、$x=\sum_j a_jv_j$ と書けば $f(x)=\sum_j a_jf(v_j)$ である。有限次元では座標写像 $x\mapsto(a_1,\ldots,a_m)$ は連続なので、各座標が小さくなれば $f(x)$ も小さくなる。よってすべての線形汎関数が連続で、代数的双対と連続双対は一致する。
無限次元では両者を区別する。代数的双対 $X^{\mathrm{alg}*}$ は連続性を課さない線形汎関数全体であり、連続双対 $X^*$ はその部分空間である。前の $c_{00}$ の例では包含は真である。双対空間(線形代数) は主に有限次元の線形代数的な側面を扱うため、ノルム空間の議論で単に「双対」と呼ぶ際は、どちらを意味するかを確かめる。
線形汎関数を足し、スカラー倍すると線形汎関数になる。連続線形汎関数なら $\|f+g\|\leq\|f\|+\|g\|$、$\|af\|=|a|\,\|f\|$ だから、$X^*$ はノルム空間である。$X$ 自身が不完備でも $X^*$ は完備になる。この点は、連続双対を関数解析の対象として使いやすくする。
任意のノルム空間 $X$ の連続双対 $X^*$ は、作用素ノルムにより Banach 空間である。
$(f_n)$ を $X^*$ の作用素ノルムに関する Cauchy 列とする。各 $x\in X$ について $|f_n(x)-f_m(x)|\leq\|f_n-f_m\|\,\|x\|$ なので、$(f_n(x))$ は完備な $\mathbb F$ で Cauchy 列になる。$f(x)=\lim_nf_n(x)$ と定めれば、極限を取って $f$ は線形である。Cauchy 列 $(f_n)$ はノルム有界だから、ある $M$ について全ての $n$ と $x$ で $|f_n(x)|\leq M\|x\|$ であり、極限でも $|f(x)|\leq M\|x\|$。従って $f\in X^*$。任意の $\varepsilon>0$ に対し、十分大きな $n,m$ で $\|f_n-f_m\|<\varepsilon$ となる。$m\to\infty$ として各 $x$ で $|f_n(x)-f(x)|\leq\varepsilon\|x\|$、ゆえに $\|f_n-f\|\leq\varepsilon$。よって $f_n\to f$ は作用素ノルムでの収束である。
この証明で必要な完備性は値域の $\mathbb F$ の完備性であり、定義域 $X$ の完備性ではない。$X$ に極限として新しいベクトルを作っていないことに注目すると、仮定の違いが見える。
連続双対は元の空間の点も識別する。$X$ がノルム空間で $x_0\ne0$ なら、Hahn–Banach の定理により $\|f\|=1$ かつ $f(x_0)=\|x_0\|$ を満たす $f\in X^*$ が存在する(Cla20 pp. 71–82)。したがって全ての連続線形汎関数で同じ値を取る二つのベクトルは等しい。この存在定理の証明は延長定理として別の主題になるため、ここでは外部定理として用いる。
識別性と全ての汎関数が連続であることは異なる。前者は、連続双対に十分多くの元が存在するという主張であり、後者は代数的双対の元がすべて連続という主張である。無限次元の $c_{00}$ の例は後者が失敗しても前者と矛盾しないことを示す。実際、$c_{00}$ の二つの異なる列はどこかの座標で異なり、その座標を読む評価写像は上限ノルムで連続である。
有界な線形作用素 $T:Y\to X$ と $f\in X^*$ があれば、合成 $f\circ T:Y\to\mathbb F$ も連続線形汎関数である。実際、$|(f\circ T)(y)|\leq\|f\|\,\|T\|\,\|y\|$ だから $\|f\circ T\|\leq\|f\|\,\|T\|$。この合成による汎関数の引き戻しが双対作用素の基礎となる。
各 $x\in X$ は、$X^*$ 上の評価 $\operatorname{ev}_x(f)=f(x)$ を定める。$X^*$ の元を一度にノルムで近づける代わりに、各 $x$ に対する評価値を近づける位相が弱スター位相 $\sigma(X^*,X)$ である。$f_i\to f$ が弱スター収束するとは、全ての固定した $x\in X$ で $f_i(x)\to f(x)$ という意味になる。作用素ノルムで収束すれば弱スター収束するが、その逆は一般には成り立たない。
Banach–Alaogluの定理 は、この弱スター位相で $X^*$ の閉単位球がコンパクトになると述べる。その証明では、$f\in X^*$ に対し $|f(x)|\leq\|f\|\,\|x\|$ という本記事の基本不等式を使い、各評価値をコンパクトな円板に収める。連続線形汎関数の定義と作用素ノルムを具体的に理解すると、なぜ閉単位球だけでこの結論が得られるかが見える。
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