Floquetの定理

同義語:フロケの定理Floquet theoremFloquet's theorem

概要

Floquetの定理(Floquet theorem)とは、連続で周期 $T$ の係数をもつ線形微分方程式 $x'=A(t)x$ の解作用素が、周期 $T$ の正則行列値関数 $P(t)$ と定数行列 $Q$ によって $\Pi(t,0)=P(t)e^{tQ}$ と書けるという定理である。$Q$ は 1 周期の解作用素であるモノドロミー行列 $M$ の対数を $T$ で割ったものとしてとれ、実の係数なら周期 $2T$ の実の表示もある。$M$ の固有値(Floquet 乗数)の絶対値で、解が $0$ に近づくか、有界か、増大するかが決まる。Hill の方程式 $y''+q(t)y=0$ では、$M$ の跡 $D$ について $\lvert D\rvert<2$ なら安定、$\lvert D\rvert>2$ なら不安定である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 線形微分方程式, 行列の指数関数, Jordan標準形

係数が時間について周期的に変わる線形微分方程式 $x'=A(t)x$($A(t+T)=A(t)$)は、ぶらんこを漕ぐ運動、周期的に変わる電場の中の荷電粒子、周期軌道のまわりの線形化など、多くの場面に現れる。係数が定数なら解は $e^{tA}x_0$ と書けるが、周期的な係数では一般に解を式で書くことはできない。Floquet の定理 は、それでも解作用素が「周期的な行列」と「行列の指数関数」の積
$$ \Pi(t,0)=P(t)\,e^{tQ}\qquad(P(t+T)=P(t)) $$
に分解されることを述べる。周期的な部分 $P(t)$ は有界なので、解の長い時間の振る舞いは定数行列 $Q$、つまり 1 周期の時間発展を表す行列(モノドロミー行列)の固有値で決まる。
この記事では、解作用素の周期性からモノドロミー行列を定義し、行列の対数の存在から Floquet の定理を証明する。次に、モノドロミー行列の固有値(Floquet 乗数)によって、周期解の存在と解の安定性を判定する。最後に 2 階の Hill の方程式 $y''+q(t)y=0$ に当てはめ、モノドロミー行列の跡(判別式)の大きさで安定性が決まることを示す。係数 $A(t)$ の固有値をみても安定性は分からないことを、具体的な反例で確かめる。

設定と解作用素の周期性

以下、$\mathbb{K}=\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$、$T>0$ とし、$A\colon\mathbb{R}\to M_n(\mathbb{K})$ は連続で $A(t+T)=A(t)$(すべての $t$)を満たすとする。斉次方程式 $x'=A(t)x$ の解作用素を $\Pi(t,s)$ と書く(線形微分方程式 の命題「解作用素」。$\Pi(t,s)v$ は時刻 $s$ で $v$ をとる解の時刻 $t$ での値で、$\Pi(t,s)\Pi(s,r)=\Pi(t,r)$、$\Pi(t,s)^{-1}=\Pi(s,t)$、$\partial_t\Pi(t,s)=A(t)\Pi(t,s)$ を満たす)。行列のノルムは作用素ノルムとする。

解作用素の周期性
  1. すべての $t,s$ について $\Pi(t+T,s+T)=\Pi(t,s)$ である。
  2. $M:=\Pi(T,0)$ とおくと、すべての $t\in\mathbb{R}$ と整数 $k$ について $\Pi(t+kT,0)=\Pi(t,0)M^k$ である。

1:$s$ を固定すると、$U(t):=\Pi(t+T,s+T)$ は $U'(t)=A(t+T)U(t)=A(t)U(t)$、$U(s)=I$ を満たす。$\Pi(t,s)$ も同じ方程式と初期条件を満たすので、解の一意性(線形微分方程式 の定理「解の存在と解空間」)から各列が一致する。2:1 から $\Pi(t+T,0)=\Pi(t+T,T)\Pi(T,0)=\Pi(t,0)M$ である。これを繰り返すと $k\ge0$ の場合を得る。$t$ を $t-T$ に替えると $\Pi(t,0)=\Pi(t-T,0)M$、すなわち $\Pi(t-T,0)=\Pi(t,0)M^{-1}$ なので、負の $k$ も同様である。$\square$

モノドロミー行列と Floquet 乗数

$s\in\mathbb{R}$ について $M(s):=\Pi(s+T,s)$ を(時刻 $s$ を基点とする)モノドロミー行列 という。$M:=M(0)=\Pi(T,0)$ の固有値(複素数、重複を込めて $n$ 個)を Floquet 乗数(特性乗数)という。

モノドロミー行列は、時刻 $s$ の状態を 1 周期後の状態に移す線形写像である。lem-fl-periodic の 2 により、時刻 $t$ の状態から $k$ 周期後の状態へは $M$ の $k$ 乗で移る。

モノドロミー行列の基本性質
  1. $M(s)=\Pi(s,0)\,M\,\Pi(s,0)^{-1}$ である。とくに Floquet 乗数とその Jordan 標準形は基点 $s$ によらない。
  2. $\det M=\exp\Bigl(\displaystyle\int_0^T\operatorname{tr}A(t)\,dt\Bigr)$ であり、$M$ は正則である。

1:lem-fl-periodic の 1 により $\Pi(s+T,T)=\Pi(s,0)$ なので、$M(s)=\Pi(s+T,T)\Pi(T,0)\Pi(0,s)=\Pi(s,0)M\Pi(s,0)^{-1}$ である。2:$U(t):=\Pi(t,0)$ は解行列で $\det U(0)=1$ なので、線形微分方程式 の定理「Liouville の公式」から $\det M=\det U(T)=\exp\int_0^T\operatorname{tr}A$ である。$\square$

Floquet の定理

$M$ は正則なので、複素行列の範囲では対数をもつ。これが定理の鍵である。

Floquet の定理
  1. $e^{TQ}=M$ となる $Q\in M_n(\mathbb{C})$ がある。そのような $Q$ を 1 つとり $P(t):=\Pi(t,0)e^{-tQ}$ とおくと、$P\colon\mathbb{R}\to M_n(\mathbb{C})$ は $C^1$ 級で、各 $t$ で正則、$P(0)=I$、$P(t+T)=P(t)$ であり、
    $$ \Pi(t,0)=P(t)\,e^{tQ}\qquad(t\in\mathbb{R}) $$
    となる。
  2. 1 の $P$ と $Q$ について、$x$ が $x'=A(t)x$ の解であることと、$y(t):=P(t)^{-1}x(t)$ が定数係数の方程式 $y'=Qy$ の解であることは同値である。
  3. $\mathbb{K}=\mathbb{R}$ なら、実行列 $\widetilde Q$ と、周期 $2T$ をもつ実行列値の $C^1$ 級関数 $\widetilde P$(各 $t$ で正則、$\widetilde P(0)=I$)で、$\Pi(t,0)=\widetilde P(t)e^{t\widetilde Q}$ となるものがある。
行列の対数で 1 周期分の変化を指数関数の形にする

要点:$Q$ は $M$ の対数を $T$ で割ったものである。$P(t)=\Pi(t,0)e^{-tQ}$ の周期性は、lem-fl-periodic の $\Pi(t+T,0)=\Pi(t,0)M$ と $Me^{-TQ}=I$ から従う。

詳しい証明を開く

1:$M$ は正則なので(prop-fl-monodromy の 2)、行列の指数関数 の定理「複素行列の指数写像の全射性」により $e^X=M$ となる $X\in M_n(\mathbb{C})$ があり、$Q:=X/T$ とおけばよい。$P$ は $C^1$ 級の行列値関数の積なので $C^1$ 級で、$e^{-tQ}$ と $\Pi(t,0)$ はどちらも正則なので $P(t)$ も正則であり、$P(0)=I$ である。$tQ$ と $TQ$ は可換なので、行列の指数関数 の定理「可換な行列の指数法則」により $e^{-(t+T)Q}=e^{-TQ}e^{-tQ}$、また同じ記事の系「逆行列と整数乗」により $e^{-TQ}=M^{-1}$ である。よって

$$P(t+T)=\Pi(t,0)M\,e^{-TQ}e^{-tQ}=\Pi(t,0)e^{-tQ}=P(t)$$

である。$\Pi(t,0)=P(t)e^{tQ}$ は $P$ の定義そのものである。

2:$\Pi(t,0)=P(t)e^{tQ}$ を微分すると $A(t)P(t)e^{tQ}=P'(t)e^{tQ}+P(t)Qe^{tQ}$ なので $P'=AP-PQ$ である。$x=Py$ とおくと $x'=P'y+Py'=APy-PQy+Py'$ なので、$x'=Ax$ は $P(y'-Qy)=0$、すなわち $y'=Qy$ と同値である($P$ は正則)。

3:$A$ は周期 $2T$ ももち、lem-fl-periodic の 2 により $\Pi(2T,0)=M^2$ である。実の正則行列の 2 乗 $M^2$ は実の対数 $\widetilde X$($e^{\widetilde X}=M^2$ となる実行列)をもつ。実際、実の正則行列 $S$ で $M$ を実 Jordan 標準形 $J=S^{-1}MS$(Tes12 (3.25)、p. 65)に直し、実の固有値 $\lambda$ の Jordan 細胞 $\lambda I+N$ をすべて $\lvert\lambda\rvert I+\operatorname{sgn}(\lambda)N$ に替えた行列を $J'$、$M':=SJ'S^{-1}$ とおく。$(\lambda I+N)^2=\lambda^2I+2\lambda N+N^2=(\lvert\lambda\rvert I+\operatorname{sgn}(\lambda)N)^2$ なので $M'^2=M^2$ であり、$M'$ は実の正則行列で実の固有値はすべて正だから、実の対数 $L$ をもつ(Tes12 Lemma 3.34、p. 108。この記事では証明しない)。$\widetilde X:=2L$ とおけば $e^{\widetilde X}=(e^L)^2=M^2$ である。$\widetilde Q:=\widetilde X/(2T)$、$\widetilde P(t):=\Pi(t,0)e^{-t\widetilde Q}$ とおくと、1 の証明で $T$ を $2T$、$M$ を $M^2$ に替えた議論で $\widetilde P(t+2T)=\widetilde P(t)$ であり、$\Pi(t,0)$ も $\widetilde Q$ も実なので $\widetilde P$ も実である。$\square$

定理と証明は Tes12 §3.6 の Theorem 3.15(p. 92)、Corollary 3.16・3.18(p. 93)による。2 は、周期的な係数の方程式が、周期的な座標変換 $x=P(t)y$ で定数係数の方程式に直ることを表す。ただし $P$ と $Q$ を求めるには $M$ が必要で、$M$ は一般に方程式を 1 周期だけ解かないと分からない。
$Q$ は一意ではない。$Q$ の固有値 $\mu$ は $e^{T\mu}$ が Floquet 乗数になる数で(行列の指数関数 の定理「指数関数の固有値と行列式」)、Floquet 指数(特性指数)という。Floquet 乗数 $\rho\ne0$ に対する Floquet 指数は $\frac1T\log\rho$ で、$\frac{2\pi i}T$ の整数倍の差を除いて決まる。実部 $\operatorname{Re}\mu=\frac1T\log\lvert\rho\rvert$ は一意に決まり、解の指数関数的な増え方・減り方の速さを表す。

1 次元の場合

$n=1$、$x'=a(t)x$($a$ は連続で周期 $T$)とする。$\Pi(t,0)=\exp\int_0^ta(r)\,dr$ であり、平均を $\bar a:=\frac1T\int_0^Ta(r)\,dr$ とおくと $M=e^{T\bar a}$ なので、$Q=\bar a$ ととれて
$$ P(t)=\exp\int_0^t\bigl(a(r)-\bar a\bigr)\,dr $$
となる。$a-\bar a$ の 1 周期の積分は $0$ なので、$P$ は周期 $T$ をもつ。解は周期的に揺れながら $e^{t\bar a}$ の速さで増減し、$\bar a<0$ なら $0$ に近づく。たとえば $a(t)=\cos t-\frac12$($T=2\pi$)では、$a(t)>0$ となる時間帯があっても $\bar a=-\frac12<0$ なので、すべての解が $0$ に近づく。

Floquet 乗数と解の形

Floquet 乗数と周期解

$\rho\in\mathbb{C}$、$v\in\mathbb{C}^n$($v\ne0$)とし、$x(t):=\Pi(t,0)v$ とおく。

  1. すべての $t$ で $x(t+T)=\rho x(t)$ となることと、$Mv=\rho v$ は同値である。
  2. 1 が成り立つとき、$e^{T\mu}=\rho$ となる $\mu\in\mathbb{C}$ について $p(t):=e^{-\mu t}x(t)$ は周期 $T$ をもち、$x(t)=e^{\mu t}p(t)$ である。
  3. $x'=A(t)x$ が $0$ でない周期 $T$ の解をもつことと、$1$ が Floquet 乗数であることは同値である。$x(t+T)=-x(t)$ を満たす $0$ でない解(周期 $2T$ の解)をもつことと、$-1$ が Floquet 乗数であることも同値である。

1:lem-fl-periodic の 2 により $x(t+T)=\Pi(t,0)Mv$ である。$Mv=\rho v$ なら $x(t+T)=\Pi(t,0)\rho v=\rho x(t)$ である。逆に $x(t+T)=\rho x(t)$ なら、$t=0$ として $Mv=x(T)=\rho v$ である。2:$p(t+T)=e^{-\mu t}e^{-\mu T}\rho\,x(t)=p(t)$ である。3:解はすべて $\Pi(t,0)v$ の形なので、1 で $\rho=\pm1$ の場合である。$\mathbb{K}=\mathbb{R}$ で $\rho=\pm1$ なら、$M-\rho I$ は実行列なので実の固有ベクトル $v$ がとれ、解も実にとれる。$\square$

解 $e^{\mu t}p(t)$ は、周期的な振動 $p(t)$ に指数関数 $e^{\mu t}$ を掛けたものである。$M$ が対角化できるなら、固有ベクトルの解はこの形の $n$ 個の 1 次独立な解をなし、すべての解はそれらの 1 次結合である。

安定性

解の長い時間の振る舞いは Floquet 乗数の絶対値で決まる。$C^1$ 級の自励系の平衡点では、線形化の行列の固有値の実部がすべて負なら指数安定、実部が正の固有値があれば不安定である(Lyapunovの安定性定理 の定理「線形化による安定性の判定」)。係数が周期的に変わる系では、固有値の代わりに Floquet 乗数を使う。

Floquet 乗数による安定性の判定
  1. $x'=A(t)x$ のすべての解が $t\to\infty$ で $0$ に近づくことと、すべての Floquet 乗数 $\rho$ が $\lvert\rho\rvert<1$ を満たすことは同値である。
  2. すべての解が $[0,\infty)$ の上で有界であることと、すべての Floquet 乗数が $\lvert\rho\rvert\le1$ を満たし、$\lvert\rho\rvert=1$ となる乗数については $M$ の Jordan 標準形の対応する Jordan 細胞がすべて $1$ 次であることは同値である。
  3. $\lvert\rho\rvert>1$ となる Floquet 乗数 $\rho$ があれば、$\lvert x(kT)\rvert=\lvert\rho\rvert^k\lvert x(0)\rvert$($k=0,1,2,\dots$)となる解 $x\ne0$ があり、とくに有界でない解がある。
時刻 $t+kT$ の値を $M^k$ で表す

要点:$x(t+kT)=\Pi(t,0)M^kx(0)$ で、$0\le t\le T$ の範囲の $\Pi(t,0)$ とその逆行列は有界なので、解の振る舞いは行列の冪 $M^k$ の振る舞いと同じである。冪は Jordan 標準形で調べる。

詳しい証明を開く

$t\mapsto\Pi(t,0)$ と $t\mapsto\Pi(t,0)^{-1}=\Pi(0,t)$ は連続なので、$[0,T]$ の上で $\|\Pi(t,0)\|\le c_1$、$\|\Pi(t,0)^{-1}\|\le c_2$ となる定数がある。解 $x$ と $0\le t\le T$、$k\ge0$ について、lem-fl-periodic の 2 から $x(t+kT)=\Pi(t,0)M^kx(0)$ なので

$$c_2^{-1}\lvert M^kx(0)\rvert\le\lvert x(t+kT)\rvert\le c_1\lvert M^kx(0)\rvert$$

である。よって $x$ が $[0,\infty)$ で有界であることは列 $(M^kx(0))_k$ が有界であることと同値であり、$x(t)\to0$ は $M^kx(0)\to0$ と同値である。すべての解についてこれを要求することは、それぞれ $(M^k)_k$ が有界であること、$M^k\to0$ であることと同値である($x(0)$ に基本ベクトルをとる)。

Jordan標準形 の定理「Jordan標準形の存在」により $M=SJS^{-1}$($J$ は Jordan 行列)と書け、$M^k=SJ^kS^{-1}$ なので、$M^k$ と $J^k$ は同時に有界・同時に $0$ に収束する。$J^k$ は各 Jordan 細胞 $\lambda I+N$($m$ 次、$N$ は冪零で $N^m=0$)の $k$ 乗を並べたもので、二項定理により

$$(\lambda I+N)^k=\sum_{j=0}^{m-1}\binom kj\lambda^{k-j}N^j\qquad(k\ge m)$$

である。$\lvert\lambda\rvert<1$ なら、$j$ を固定すると $\binom kj\lvert\lambda\rvert^{k-j}\le k^j\lvert\lambda\rvert^{k-j}\to0$ なので $(\lambda I+N)^k\to0$ である。$\lvert\lambda\rvert=1$ かつ $m=1$ なら $\lvert\lambda^k\rvert=1$ で、有界だが $0$ に収束しない。$\lvert\lambda\rvert=1$ かつ $m\ge2$ なら、$(1,2)$ 成分は $k\lambda^{k-1}$ で有界でない。$\lvert\lambda\rvert>1$ なら対角成分 $\lambda^k$ が有界でない。以上から 1 と 2 を得る。

3:$Mv=\rho v$($v\ne0$)なら、$x(t):=\Pi(t,0)v$ は $x(kT)=M^kv=\rho^kv$ を満たす。$\square$

Tes12 Corollary 3.17(p. 93)は 2 と 1 の十分性を、同じ判定条件(代数的重複度と幾何的重複度が等しいこと)で述べている。Jordan 細胞がすべて 1 次であることは、その固有値の代数的重複度と幾何的重複度が等しいことと同じである。
判定には Floquet 乗数、つまり 1 周期分の解作用素が必要であり、各時刻の係数 $A(t)$ の固有値では判定できない。定数係数の方程式では「$A$ の固有値の実部がすべて負なら解は $0$ に近づく」が成り立つが、周期的な係数ではこれが成り立たない(ex-fl-frozen)。

係数の固有値は安定性を決めない

$R(t):=\begin{pmatrix}\cos t&-\sin t\\\sin t&\cos t\end{pmatrix}$、$B:=\begin{pmatrix}-1&-5\\0&-1\end{pmatrix}$ とし、
$$ A(t):=R(t)BR(t)^{-1}=\begin{pmatrix}-1+5\sin t\cos t&-5\cos^2t\\5\sin^2t&-1-5\sin t\cos t\end{pmatrix} $$
とおく。$R(t+\pi)=-R(t)$ なので $A$ は周期 $\pi$ をもつ。$A(t)$ は $B$ と相似なので、すべての $t$ で固有値は $-1$(重複度 2)であり、実部は負である。ところが
$$ x(t):=e^t R(t)\begin{pmatrix}2\\-1\end{pmatrix} $$
は $x'=A(t)x$ の解で、$\lvert x(t)\rvert=\sqrt5\,e^t\to\infty$ である。

確かめを開く

$J:=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ とおくと $R(t)=e^{tJ}$(行列の指数関数 の例「回転と Euler の公式」)で、$R'=JR=RJ$ である。$x=R(t)y$ とおくと $x'=R(Jy+y')$、$A(t)x=RBy$ なので、$x'=A(t)x$ は $y'=(B-J)y$ と同値である。$B-J=\begin{pmatrix}-1&-4\\-1&-1\end{pmatrix}$ の固有多項式は $(\lambda+1)^2-4$ で、固有値は $1$ と $-3$、$\lambda=1$ の固有ベクトルは $v=(2,-1)$ である($(B-J)v=(-2+4,-2+1)=v$)。よって $y=e^tv$、$x=e^tR(t)v$ が解である。$\lvert R(t)v\rvert=\lvert v\rvert=\sqrt5$ である。$A(t)$ の成分は、$B=-I-5E$($E$ は $(1,2)$ 成分だけが $1$ の行列)と $R(t)ER(t)^{-1}=\binom{\cos t}{\sin t}(-\sin t,\cos t)$ から計算できる。


この方程式の解作用素は $\Pi(t,0)=R(t)e^{t(B-J)}$ で、モノドロミー行列は $M=\Pi(\pi,0)=-e^{\pi(B-J)}$ である。Floquet 乗数は $-e^{\pi}$ と $-e^{-3\pi}$ で、$\lvert-e^\pi\rvert>1$ だから thm-fl-stability の 3 と合う。積は $e^{-2\pi}=\exp\int_0^\pi\operatorname{tr}A$($\operatorname{tr}A=-2$)で、prop-fl-monodromy の 2 とも合う。

ex-fl-frozen の $\Pi(t,0)=R(t)e^{t(B-J)}$ は、thm-fl-main の 3 の実の表示($\widetilde P=R$ は周期 $2\pi=2T$、$\widetilde Q=B-J$)になっている。この例では周期 $T=\pi$ の実の表示は存在しない(反例の表の 4 行目)。

Hill の方程式

$q\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を連続で周期 $T$ の関数とし、2 階の方程式
$$ y''+q(t)\,y=0 $$
を Hill の方程式 という。$x=(y,y')$ とおくと $x'=A(t)x$、$A(t)=\begin{pmatrix}0&1\\-q(t)&0\end{pmatrix}$ となる。$c$ と $s$ を、それぞれ初期条件 $c(0)=1$、$c'(0)=0$ と $s(0)=0$、$s'(0)=1$ を満たす解とすると、$\Pi(t,0)=\begin{pmatrix}c(t)&s(t)\\c'(t)&s'(t)\end{pmatrix}$ であり、モノドロミー行列は
$$ M=\begin{pmatrix}c(T)&s(T)\\c'(T)&s'(T)\end{pmatrix} $$
である。$\operatorname{tr}A=0$ なので prop-fl-monodromy の 2 から $\det M=1$ であり、Floquet 乗数は
$$ \rho^2-D\rho+1=0,\qquad D:=\operatorname{tr}M=c(T)+s'(T) $$
の 2 根である。$D$ を Hill の方程式の 判別式 という。

Hill の方程式の安定性
  1. $\lvert D\rvert<2$ なら、すべての解 $y$ について $y$ と $y'$ は $\mathbb{R}$ の上で有界である。
  2. $\lvert D\rvert>2$ なら、ある実数 $\rho$($\lvert\rho\rvert>1$)と実数値の解 $y\ne0$ で $y(t+T)=\rho\,y(t)$ となるものがあり、$y$ は $[0,\infty)$ の上で有界でない。
  3. $D=2$ なら $0$ でない周期 $T$ の解があり、$D=-2$ なら $y(t+T)=-y(t)$ を満たす $0$ でない解がある。
根の積が $1$ であることを使う

要点:2 根の積は $1$ である。$\lvert D\rvert<2$ なら 2 根は単位円周上の相異なる共役な複素数で、$\lvert D\rvert>2$ なら絶対値が $1$ より大きい実数の根と小さい実数の根になる。

詳しい証明を開く

1:判別式 $D^2-4$ が負なので、2 根 $\rho,\bar\rho$ は実数でない共役な複素数で、$\lvert\rho\rvert^2=\rho\bar\rho=1$ である。2 根は相異なるので $M$ は対角化でき、Jordan 細胞はすべて 1 次である。thm-fl-stability の 2 により、解 $x=(y,y')$ は $[0,\infty)$ で有界である。$M^{-1}$ の固有値 $\bar\rho,\rho$ も単位円周上で相異なるので $(M^{-k})_{k\ge0}$ は有界であり、lem-fl-periodic の 2 の $\Pi(t-kT,0)=\Pi(t,0)M^{-k}$ と prf-fl-stability と同じ評価から、$(-\infty,0]$ でも有界である。

2:判別式が正なので 2 根は相異なる実数で、積が $1$、和の絶対値が $2$ より大きいので、一方 $\rho$ は $\lvert\rho\rvert>1$ を満たす。$M$ は実行列なので実の固有ベクトル $v$ がとれる。thm-fl-solutions の 1 により $x(t):=\Pi(t,0)v=(y,y')$ は $x(t+T)=\rho x(t)$ を満たし、第 1 成分について $y(t+T)=\rho y(t)$ である。$y$ が恒等的に $0$ なら $y'=0$ となり $x=0$ に反するので、$y(t_0)\ne0$ となる $t_0$ があり、$\lvert y(t_0+kT)\rvert=\lvert\rho\rvert^k\lvert y(t_0)\rvert\to\infty$ である。

3:$D=\pm2$ なら $\rho=\pm1$(重根)が Floquet 乗数なので、thm-fl-solutions の 3 により $x(t+T)=\rho x(t)$ を満たす実の解 $x=(y,y')\ne0$ がある。2 と同じく $y$ は恒等的に $0$ ではなく、$y(t+T)=\rho y(t)$ である。$\square$

Tes12 Theorem 3.19(p. 95)は $\Delta:=\frac12\operatorname{tr}M$ を使って同じ主張($\lvert\Delta\rvert<1$ なら安定、$\lvert\Delta\rvert>1$ なら不安定)を述べている。$\lvert D\rvert<2$ の場合の解は、$\rho=e^{i\omega T}$($\omega>0$)として $e^{\pm i\omega t}p_\pm(t)$($p_\pm$ は周期 $T$)の 1 次結合であり、周期的な振動の重ね合わせになる。

定数の係数

$q=\omega^2$($\omega>0$ は定数)とし、周期 $T>0$ を任意に固定する。$c(t)=\cos\omega t$、$s(t)=\frac{\sin\omega t}\omega$ なので $D=2\cos\omega T$ である。$\omega T\notin\pi\mathbb{Z}$ なら $\lvert D\rvert<2$ で、実際すべての解は有界である。$\omega T\in\pi\mathbb{Z}$ なら $s(T)=c'(T)=0$、$c(T)=s'(T)=\pm1$ なので $M=\pm I$ であり、すべての解が周期 $T$ または $2T$ をもつ。$q=-\omega^2$ なら $c(t)=\cosh\omega t$、$s'(t)=\cosh\omega t$ なので $D=2\cosh\omega T>2$ で、解 $e^{\omega t}$ は有界でない。

Mathieu の方程式 $y''+\omega^2(1+\varepsilon\cos t)y=0$($T=2\pi$)では、$\varepsilon=0$ のとき ex-fl-hill-constant から $D=2\cos2\pi\omega$ であり、$\lvert D\rvert=2$ となるのは $2\omega$ が $0$ 以上の整数のときである。$(\omega,\varepsilon)$ の平面で $\lvert D\rvert>2$ となる不安定な領域は、$\varepsilon=0$ のこれらの点から舌の形に広がる(数値計算による図が Tes12 Figure 3.6、p. 96 にある)。つまり、係数を振動数 $1$ で周期的に揺らすと、固有の振動数 $\omega$ が $\frac12$ の整数倍に近いところで、小さな揺らしでも振幅が指数関数的に大きくなりうる。これを パラメータ共振 という。

反例:条件を外すと成り立たないこと

外す条件反例成り立たなくなること
係数の周期性(thm-fl-main)$n=1$、$a(t)=2t$、$\Pi(t,0)=e^{t^2}$周期的な $P$ と定数 $Q$ による $\Pi(t,0)=P(t)e^{tQ}$
判定に Floquet 乗数を使うこと(thm-fl-stability)ex-fl-frozen の $A(t)$(固有値はつねに $-1$)「$A(t)$ の固有値の実部がすべて負なら解は $0$ に近づく」
$\lvert D\rvert\ne2$(thm-fl-hill の 1・2)$q=0$($D=2$、解 $y=t$ は非有界)と $q=(2\pi/T)^2$($D=2$、すべての解が周期 $T$)$D$ の値だけで有界性が決まること
実の表示で周期を $2T$ にすること(thm-fl-main の 3)ex-fl-frozen($T=\pi$、$M$ の固有値は $-e^\pi,-e^{-3\pi}$)周期 $T$ の実の $P$ と実の $Q$ による表示
表の反例の確かめ
確かめを開く

1 行目:$\Pi(t,0)=P(t)e^{tQ}$($P$ は連続で周期的、$Q\in\mathbb{C}$)と書けたとすると、連続な周期関数は有界なので $\lvert P(t)\rvert=e^{t^2-t\operatorname{Re}Q}$ が有界になるが、右辺は $t\to\infty$ で $\infty$ に発散するので矛盾である。

3 行目:$q=0$ では $c=1$、$s=t$ なので $M=\begin{pmatrix}1&T\\0&1\end{pmatrix}$、$D=2$ で、$M$ は 2 次の Jordan 細胞である。$q=(2\pi/T)^2$ では ex-fl-hill-constant で $\omega T=2\pi$ なので $M=I$、$D=2$ である。

4 行目:周期 $\pi$ の実の表示 $\Pi(t,0)=P(t)e^{tQ}$ があれば $M=\Pi(\pi,0)=P(\pi)e^{\pi Q}=e^{\pi Q}$ となり、$M$ は実行列 $X=\pi Q$ の指数関数になる。$2$ 次の実行列 $X$ の固有値は、2 つの実数か、共役な複素数 $a\pm ib$ である。前者なら $e^X$ の固有値は正の実数で、後者なら $e^{a\pm ib}$ で絶対値が等しい(行列の指数関数 の定理「指数関数の固有値と行列式」)。$M$ の固有値 $-e^\pi$、$-e^{-3\pi}$ は負で絶対値も異なるので、どちらにもならない。

2 行目は、凍結した係数の固有値で安定性を判定する方法が周期的な係数では使えないことを示す。ex-fl-frozen では固有値が時間によらず $-1$ なのに、すべての解ではなく一部の解が $e^t$ の速さで増える。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する