写像のグラフ

同義語:graph of a map

概要

写像のグラフ(graph of a map)とは、写像 $f\colon X\to Y$ に対し、順序対 $(x,f(x))$ 全体からなる直積 $X\times Y$ の部分集合である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 写像, 直積

概要

写像のグラフ(graph of a map)とは、写像 $f\colon X\to Y$ に対し、順序対 $(x,f(x))$ 全体からなる直積 $X\times Y$ の部分集合である。
グラフは写像を直積の部分集合として符号化する。各第一成分の上に点がちょうど一つあるという条件が、一般の二項関係と写像のグラフを区別する。

定義

写像の対応をあらわす部分集合

写像 $f\colon X\to Y$ に対し、直積 $X\times Y$ の部分集合
$$ \Gamma_f:=\{(x,f(x))\mid x\in X\}=\{(x,y)\in X\times Y\mid y=f(x)\} $$
を $f$ のグラフ(graph)という。

例と反例

二乗写像のグラフ

$f\colon\mathbb R\to\mathbb R$、$f(x)=x^2$ のグラフは
$$ \Gamma_f=\{(x,x^2)\mid x\in\mathbb R\} $$
であり、座標平面上の放物線である。同じ対応規則について終域を $[0,\infty)$ に変えれば写像としてのデータは異なる。一方、$[0,\infty)\subseteq\mathbb R$ として両方のグラフを $\mathbb R\times\mathbb R$ 内で比較すれば点集合は一致する。従ってグラフだけから終域を復元するには、それをどの直積の部分集合として見るかも指定する必要がある。

グラフでない部分集合

$X=Y=\mathbb{R}$ とし、$G=\{(x,y)\in\mathbb{R}\times\mathbb{R}\mid x^{2}+y^{2}=1\}$(単位円)とする。$x=0$ に対して $(0,1),(0,-1)$ の二つが $G$ に属し、$x=2$ に対しては $(2,y)\in G$ となる $y$ がない。したがって $G$ はどんな写像 $\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ のグラフでもない(prop-graph-of-map-graph-characterization)。一方、$G$ の上半分 $\{(x,y)\in G\mid y\ge0,\ -1\le x\le1\}$ は写像 $[-1,1]\to\mathbb{R}$、$x\mapsto\sqrt{1-x^{2}}$ のグラフである。

性質と証明

写像のグラフの特徴づけ

集合 $X,Y$ と部分集合 $G\subseteq X\times Y$ について、次は同値である。

  1. ある写像 $f\colon X\to Y$ が存在して $G=\Gamma_f$ である。
  2. 各 $x\in X$ に対して、$(x,y)\in G$ を満たす $y\in Y$ がただ一つ存在する。
    さらに 1 の $f$ は $G$ から一意に定まる。すなわち、写像 $f,g\colon X\to Y$ について $\Gamma_f=\Gamma_g$ ならば $f=g$ である。
写像のグラフの特徴づけの証明

(1 ⇒ 2)$G=\Gamma_f$ とし、$x\in X$ とする。$(x,f(x))\in\Gamma_f$ なので、$(x,y)\in G$ を満たす $y$ は存在する。$(x,y)\in\Gamma_f$ ならばグラフの定義から $y=f(x)$ なので、そのような $y$ は $f(x)$ に限る。
(2 ⇒ 1)各 $x\in X$ に対し、2 によってただ一つ定まる $y$ を $f(x)$ と定める。これは $X$ の各元に $Y$ の元をただ一つ対応させる規則なので、写像 $f\colon X\to Y$ が定まる。定義から $(x,y)\in G$ と $y=f(x)$ は同値なので $G=\{(x,y)\in X\times Y\mid y=f(x)\}=\Gamma_f$ である。
一意性:$\Gamma_f=\Gamma_g$ とし、$x\in X$ とする。$(x,f(x))\in\Gamma_f=\Gamma_g$ なので、グラフの定義から $f(x)=g(x)$ である。$f,g$ は定義域と終域が同じで、すべての $x$ で値が一致するので $f=g$ である。$\square$

グラフへの標準写像

写像 $f\colon X\to Y$ に対し、$i_f\colon X\to X\times Y$、$i_f(x)=(x,f(x))$ は単射であり、終域を $\Gamma_f$ に制限すれば全単射 $X\to\Gamma_f$ となる。

グラフへの標準写像の証明

$i_f(x)=i_f(x')$ なら第一成分を比較して $x=x'$ だから単射である。また $\Gamma_f$ の任意の元は定義により $(x,f(x))=i_f(x)$ と書けるので、終域を $\Gamma_f$ とした写像は全射でもある。$\square$

転置したグラフが写像を定める条件

$\Gamma_f^{\mathrm t}:=\{(y,x)\in Y\times X\mid (x,y)\in\Gamma_f\}$ とする。$\Gamma_f^{\mathrm t}$ がある写像 $Y\to X$ のグラフであるための必要十分条件は $f$ が全単射であることであり、その写像は $f^{-1}$ である。

転置したグラフが写像を定める条件の証明

$\Gamma_f^{\mathrm t}$ が写像のグラフなら、各 $y\in Y$ に対して $f(x)=y$ となる $x$ がただ一つ存在する。存在は全射性、一意性は単射性を意味するので $f$ は全単射である。逆に $f$ が全単射なら、各 $y$ に対して唯一の $x=f^{-1}(y)$ があり、$\Gamma_f^{\mathrm t}=\Gamma_{f^{-1}}$ である。$\square$

射影とグラフ

直積からの射影を
$$ \pi_X\colon X\times Y\to X, \qquad \pi_Y\colon X\times Y\to Y $$
とする。グラフ上では第一射影が定義域を復元し、第二射影が写像の値を読む。

グラフ上の射影

制限 $\pi_X|_{\Gamma_f}\colon\Gamma_f\to X$ は全単射であり、その逆写像は $i_f(x)=(x,f(x))$ である。また
$$ \pi_Y(\Gamma_f)=f(X), \qquad f=\pi_Y|_{\Gamma_f}\circ i_f $$
が成り立つ。

グラフ上の射影の証明

任意の $x\in X$ に対し $\pi_X(i_f(x))=x$ である。逆に $(x,f(x))\in\Gamma_f$ に対して
$$ i_f(\pi_X(x,f(x)))=i_f(x)=(x,f(x)) $$
なので、二つの写像は互いに逆である。第二射影の像は
$$ \{\pi_Y(x,f(x)):x\in X\}=\{f(x):x\in X\}=f(X) $$
である。最後の式も各 $x$ における値を計算すれば従う。

この命題から、$f$ が単射であることは $\pi_Y|_{\Gamma_f}$ が単射であること、$f$ が全射であることは $\pi_Y(\Gamma_f)=Y$ であることと同値である。

制限写像のグラフ

$A\subseteq X$ に対し
$$ \Gamma_{f|_A}=\Gamma_f\cap(A\times Y) $$
が成り立つ。右辺を $A\times Y$ の部分集合とみなす。

制限写像のグラフの証明

$(x,y)$ が左辺に属することは、$x\in A$ かつ $y=f|_A(x)=f(x)$ であることと同値である。これは $(x,y)\in\Gamma_f$ かつ $(x,y)\in A\times Y$ であること、すなわち右辺への所属と同値である。

合成と関係としてのグラフ

グラフを二項関係として見ると、写像の合成は関係の合成になる。

合成写像のグラフ

$f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to Z$ に対して
$$ \Gamma_{g\circ f} =\{(x,z)\in X\times Z:\text{ある }y\in Y\text{ が存在して }(x,y)\in\Gamma_f, (y,z)\in\Gamma_g\} $$
である。

合成写像のグラフの証明

$(x,z)\in\Gamma_{g\circ f}$ なら $z=g(f(x))$ である。$y=f(x)$ とおけば $(x,y)\in\Gamma_f$ かつ $(y,z)\in\Gamma_g$ である。
逆に右辺の条件を満たす $y$ が存在するとする。グラフの定義から $y=f(x)$ かつ $z=g(y)$ なので、$z=g(f(x))$ である。従って $(x,z)\in\Gamma_{g\circ f}$ である。

恒等写像 $\operatorname{id}_X$ のグラフは対角集合
$$ \Delta_X:=\{(x,x):x\in X\}\subseteq X\times X $$
である。対角関係との合成がグラフを変えないことは、恒等写像との合成が写像を変えないことに対応する。

位相的性質

$X,Y$ を位相空間とし、$X\times Y$ に積位相を入れる。連続写像のグラフが閉じるためには、終域側の分離性が重要である。

Hausdorff終域をもつ連続写像のグラフ

$f\colon X\to Y$ が連続で、$Y$ がHausdorff空間なら、$\Gamma_f$ は $X\times Y$ の閉集合である。

連続写像のグラフが閉じることの証明

$(x_0,y_0)\notin\Gamma_f$ とする。このとき $y_0\neq f(x_0)$ である。Hausdorff性により、$f(x_0)$ と $y_0$ の互いに交わらない開近傍 $V,W\subseteq Y$ を取れる。$f$ の連続性から $U=f^{-1}(V)$ は $x_0$ の開近傍である。
積開集合 $U\times W$ は $(x_0,y_0)$ を含む。もし $(x,y)\in(U\times W)\cap\Gamma_f$ なら、$x\in U$ から $f(x)\in V$、グラフへの所属と $y\in W$ から $f(x)=y\in W$ となり、$V\cap W=\emptyset$ に矛盾する。従ってグラフの補集合は開であり、$\Gamma_f$ は閉じている。

反例:閉グラフだけでは連続性は従わない

$$ f\colon\mathbb R\to\mathbb R, \qquad f(x)= \begin{cases} 1/x&x\neq0,\\ 0&x=0 \end{cases} $$
は $0$ で連続でないが、グラフは $\mathbb R^2$ で閉じている。実際、グラフ外の点 $(a,b)$ を考える。$a\neq0$ なら $1/x$ の連続性によりその点の近くにグラフと交わらない長方形を取れる。$a=0$ かつ $b\neq0$ なら、$x$ を十分小さく取った領域では $|1/x|$ が $|b|$ より十分大きくなり、$(0,b)$ の小さな長方形はグラフと交わらない。従って補集合は開である。
この反例が破るのは「グラフが閉集合なら写像は連続である」という含意である。Banach空間の線形作用素に対する閉グラフ定理では、線形性・完備性・作用素の定義域などの追加仮定がこの含意を回復する。

方程式としてのグラフ

実数値関数 $f\colon X\to\mathbb R$ のグラフは、$X\times\mathbb R$ 上の方程式 $y-f(x)=0$ の解集合である。多項式写像ならグラフは多項式方程式で定義される。この見方により、関数を幾何学的な部分集合として調べられる。
ただし一般の部分集合がグラフになるわけではない。第一射影が各 $x\in X$ の上でちょうど一つの点を持つという存在と一意性の双方が必要である。点が存在しない場合は部分写像、多数存在する場合は多価関係に対応し、通常の写像とは区別する。
定義、写像と関係の対応、合成については Hara20(第3章 §§3.1--3.3)、Matsusaka68(第1章 §§3--4, pp. 22--41)を参照した。

関連項目

参考文献

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