定義による拡大

同義語:extension by definitionsdefinitional extension

概要

定義による拡大(extension by definitions)とは、一階の理論 $T$ に、新しい関係記号を元の言語の論理式との同値で、新しい関数記号を値がただ 1 つ存在することが $T$ で証明できる論理式で定める公理(定義公理)だけを加えた拡大である。$T$ のどのモデルも新しい記号の解釈を補ってただ 1 通りに拡大後の理論のモデルになり、そのため定義による拡大は保存拡大である。さらに、新しい記号を含むどの論理式も元の言語の論理式と同値に書き直せるので、定義した記号は略記として自由に使ってよい。逆に、有限個の文からなる理論でモデルの上の解釈が 1 通りに決まる記号は明示的に定義できる(Beth の定義可能性定理)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一階述語論理, 保存拡大, 一意存在記号, 構造(モデル理論)

群の公理を積 $\cdot$ だけで書いておき、議論の途中で「単位元を $e$、$x$ の逆元を $x^{-1}$ と書く」と記号を導入するのは、数学ではごく普通のことである。こうして導入した記号は略記にすぎず、使っても使わなくても証明できることは変わらない、と私たちは考えている。この直観を一階の理論の言葉で正確にしたものが 定義による拡大 である。新しい関係記号は元の言語の論理式との同値で、新しい関数記号は「ただ 1 つの値をもつ」ことが証明できる論理式で定める。
定義による拡大では、元の理論のどのモデルも、新しい記号の解釈を補ってただ 1 通りに新しい理論のモデルになる(thm-defext-unique-expansion)。このことから、定義による拡大は 保存拡大 であり、さらに新しい記号を含むどの論理式も、元の言語の論理式と同値に書き直せる(thm-defext-elimination)。この記事では、これらを証明し、定義を何段にも重ねてよいことを示す。最後に、逆に「モデルの上で記号の解釈がただ 1 つに決まるなら明示的な定義がある」という Beth の定義可能性定理に触れる。

定義

以下、一階言語は等号を含むものとし、構造と充足関係は 一階述語論理 の記事の定義「構造」「充足関係」による。言語 $L$ の文の集合を $L$ 理論といい、$T\vdash\sigma$ と $T\models\sigma$ の意味、簡約 $M'|_L$ と拡張は 保存拡大 の記事の節「定義」と同じとする。Gödelの完全性定理 により $T\vdash\sigma\iff T\models\sigma$ であり、以下ではこれを断らずに使う。$\varphi(x_1,\dots,x_n)$ と書いたら、$\varphi$ の自由変数が相異なる変数 $x_1,\dots,x_n$ の中にあることを表す。一意存在 $\exists!\,y\,\psi$ は、$\psi$ に現れない変数 $z$ をとって $\exists y\,\bigl(\psi\land\forall z\,(\psi[z/y]\to z=y)\bigr)$ の略記である(一意存在記号 の記事の定義「ただ一つ存在することの略記」)。

明示的定義と定義による拡大

$L$ を一階言語、$T$ を $L$ 理論とする。

  1. 関係記号の定義:$L$ にない $n$ 項関係記号 $R$ と、$L$ の論理式 $\varphi_R(x_1,\dots,x_n)$ に対し、文
    $$ \delta_R:=\forall x_1\cdots\forall x_n\,\bigl(R(x_1,\dots,x_n)\leftrightarrow\varphi_R(x_1,\dots,x_n)\bigr) $$
    を $R$ の 定義公理 という。
  2. 関数記号の定義:$L$ にない $n$ 項関数記号 $f$($n=0$ なら定数記号)と、
    $$ T\vdash\forall x_1\cdots\forall x_n\,\exists!\,y\,\psi_f(x_1,\dots,x_n,y) $$
    を満たす $L$ の論理式 $\psi_f(x_1,\dots,x_n,y)$ に対し、文
    $$ \delta_f:=\forall x_1\cdots\forall x_n\,\forall y\,\bigl(f(x_1,\dots,x_n)=y\leftrightarrow\psi_f(x_1,\dots,x_n,y)\bigr) $$
    を $f$ の 定義公理 という。
  3. $L$ にない記号の集合 $S$ の各記号 $X$ に 1 または 2 の定義公理 $\delta_X$ を与え、$L':=L\cup S$ で
    $$ T':=T\cup\{\delta_X\mid X\in S\} $$
    とおく。この $L'$ 理論 $T'$ を、$T$ の 定義による拡大(extension by definitions、definitional extension)という。

1 と 2 の右辺 $\varphi_R,\psi_f$ は元の言語 $L$ の論理式であり、新しい記号を含まない。自由変数も $x_1,\dots,x_n$(と 2 の $y$)に限る。この 2 つの制限と 2 の一意存在の条件が、どれも欠かせないことを ex-defext-counterexamples で見る。関数記号の定義公理 $\delta_f$ は、$T$ のもとでは
$$ \forall x_1\cdots\forall x_n\,\psi_f(x_1,\dots,x_n,f(x_1,\dots,x_n)) $$
と同じ働きをする。実際、$\delta_f$ で $y$ を $f(\bar x)$ にとるとこの文が出る。逆にこの文が成り立てば、$\psi_f(\bar x,y)$ を満たす $y$ はただ 1 つなので $y=f(\bar x)$ となり、$\delta_f$ が成り立つ。この形の公理を足す拡大は、一意性がなくても 保存拡大 の記事の命題「Skolem 関数を足す拡大」により保存拡大になるが、一意性がなければ新しい記号の解釈が 1 通りに決まらず、定義による拡大と同じ性質はもたない(保存拡大 の記事の注意「定義による拡大との関係」)。

直感

定義公理は、新しい記号を「元の言語の論理式の名前」として導入する。関係記号 $R$ は論理式 $\varphi_R$ の名前であり、関数記号 $f$ は「$\psi_f$ を満たすただ 1 つの $y$」の名前である。一意存在の条件は、$f(\bar x)$ がどの $\bar x$ についても値をもち(存在)、その値が決まる(一意性)ことを保証する。関数記号は全域で値をもたなければならないので、体の逆元 $x^{-1}$ のように $x=0$ で意味をもたない操作は、$0^{-1}:=0$ のような約束を論理式に組み込んで定義する(ex-defext-field)。

例

群の単位元と逆元

言語を $L=\{\cdot\}$ とし、群の理論 $T$ を、結合律と
$$ \exists e\,\Bigl(\forall x\,(e\cdot x=x\land x\cdot e=x)\land\forall x\,\exists y\,(x\cdot y=e\land y\cdot x=e)\Bigr) $$
からなる理論とする。$\psi_e(y):=\forall x\,(y\cdot x=x\land x\cdot y=x)$ とおくと $T\vdash\exists!\,y\,\psi_e(y)$ である。存在は公理による。$\psi_e(y)$ と $\psi_e(y')$ がともに成り立てば、$y=y\cdot y'=y'$ となる(1 つ目の等号は $\psi_e(y')$ を $x:=y$ に、2 つ目は $\psi_e(y)$ を $x:=y'$ に使う)。よって定数記号 $e$ を $\psi_e$ で定義できる。
次に逆元を、$\psi_{\mathrm{inv}}(x,y):=\exists u\,\bigl(\psi_e(u)\land x\cdot y=u\land y\cdot x=u\bigr)$ で定める。存在は公理による。$y,y'$ がともに $x$ の逆元なら、単位元はただ 1 つなので共通の単位元 $u$ について $y=y\cdot u=y\cdot(x\cdot y')=(y\cdot x)\cdot y'=u\cdot y'=y'$ である。よって $T\vdash\forall x\,\exists!\,y\,\psi_{\mathrm{inv}}(x,y)$ であり、1 項関数記号 ${}^{-1}$ を定義できる。$\psi_{\mathrm{inv}}$ の中で $e$ を使わずに $\psi_e$ を書き込んだのは、定義の右辺が元の言語の論理式でなければならないからである。ただし prop-defext-iterate により、定義した $e$ を使って $x\cdot y=e\land y\cdot x=e$ と書いても、得られる理論の定理は変わらない。

体の逆元と算術の順序
  1. 環の言語 $\{+,\cdot,-,0,1\}$ の体の理論で、
    $$ \psi(x,y):=\bigl(\lnot(x=0)\land x\cdot y=1\bigr)\lor\bigl(x=0\land y=0\bigr) $$
    とおくと、$x\neq0$ なら逆元がただ 1 つあり、$x=0$ なら 1 つ目の選言肢は成り立たず 2 つ目により $y=0$ に限るので、$\forall x\,\exists!\,y\,\psi(x,y)$ が導出できる。これで $0^{-1}=0$ と約束した逆元の関数記号が定義される。
  2. 算術の言語 $\{0,S,+,\cdot\}$ で、2 項関係記号 $\le$ を $\varphi_\le(x,y):=\exists z\,(x+z=y)$ で定義できる。関係記号の定義には、理論についての条件は何もいらない。
  3. 集合論 ZFC で、定数記号 $\emptyset$ を $\psi(y):=\forall z\,\lnot(z\in y)$ で定義できる。どの集合 $a$ からも分出公理で $\{z\in a\mid\lnot(z=z)\}$ を作れば元のない集合が得られ、元のない集合が 2 つあれば外延性公理により等しい。

モデルの一意な拡張と保存性

モデルの一意な拡張

$T'$ を $L$ 理論 $T$ の定義による拡大(言語 $L'$)とする。

  1. $T$ のどのモデル $M$ にも、$T'$ のモデルである $L'$ 構造 $M'$ で $M'|_L=M$ となるものがただ 1 つある。$M'$ での新しい記号の解釈は次で与えられる。
    $$ R^{M'}=\{\bar a\in M^n\mid M\models\varphi_R[\bar a]\},\qquad f^{M'}(\bar a)=\bigl(M\models\psi_f[\bar a,b]\text{ となるただ 1 つの }b\in M\bigr). $$
  2. $T'$ のどのモデル $N'$ も、簡約 $N'|_L$ は $T$ のモデルであり、$N'$ は $N'|_L$ の 1 の拡張に等しい。

ここで $M\models\varphi_R[\bar a]$ は、$x_i$ に $a_i$ を割り当てて $\varphi_R$ が成り立つことを表す(一致補題により、ほかの変数への割り当てによらない)。

1(存在):$M\models T$ なので、$M\models\forall\bar x\,\exists!\,y\,\psi_f$ であり、各 $\bar a\in M^n$ に対し $M\models\psi_f[\bar a,b]$ となる $b$ がただ 1 つある。よって上の式で $f^{M'}$ は写像 $M^n\to M$ として定まる($n=0$ なら $M$ の元が 1 つ定まる)。$R^{M'}$ も上の式で定め、$L$ の記号は $M$ と同じに解釈して $M'$ を作る。$M'|_L=M$ なので、簡約で $L$ の論理式の真偽は変わらず、$M'\models T$ である。$\bar a\in M^n$ と $b\in M$ について
$$ M'\models R[\bar a]\iff\bar a\in R^{M'}\iff M\models\varphi_R[\bar a]\iff M'\models\varphi_R[\bar a], $$
$$ M'\models(f(\bar x)=y)[\bar a,b]\iff f^{M'}(\bar a)=b\iff M\models\psi_f[\bar a,b]\iff M'\models\psi_f[\bar a,b] $$
であり(各行の最後の同値は $\varphi_R,\psi_f$ が $L$ の論理式であることによる)、$M'$ はすべての定義公理を満たす。
1(一意性):$M''$ も $M''|_L=M$ を満たす $T'$ のモデルとする。$M''\models\delta_R$ なので、上と同じ計算で $\bar a\in R^{M''}\iff M\models\varphi_R[\bar a]\iff\bar a\in R^{M'}$ である。$M''\models\delta_f$ なので、$b:=f^{M''}(\bar a)$ について $M''\models(f(\bar x)=y)[\bar a,b]$ から $M\models\psi_f[\bar a,b]$ が従い、$\psi_f$ を満たす $b$ はただ 1 つなので $f^{M''}(\bar a)=f^{M'}(\bar a)$ である。台集合と $L$ の記号の解釈はどちらも $M$ と同じなので、$M''=M'$ である。
2:$T\subset T'$ なので $N'|_L$ は $T$ のモデルである。$N'$ は $T'$ のモデルで簡約が $N'|_L$ なので、1 の一意性により、$N'$ は $N'|_L$ の 1 の拡張に等しい。$\square$

定義による拡大は保存拡大である

$T$ の定義による拡大 $T'$ は $T$ の保存拡大である。とくに、$T$ が無矛盾であることと $T'$ が無矛盾であることは同値である。

thm-defext-unique-expansion の 2 により $T'$ のモデルの簡約は $T$ のモデルであり、1 により $T$ のどのモデルも $T'$ のモデルに拡張できる。保存拡大 の記事の定理「モデルの拡張による判定」により、$T'$ は $T$ の保存拡大である。直接に書けば、$L$ の文 $\sigma$ について $T'\vdash\sigma$ なら、$T$ の任意のモデル $M$ の拡張 $M'$ で $\sigma$ が真なので、簡約 $M$ でも真であり、$T\models\sigma$、すなわち $T\vdash\sigma$ となる。後半は同記事の命題「保存拡大の基本性質」の 2 による。$\square$

保存性だけなら、新しい記号の解釈が 1 通りに決まる必要はない(保存拡大 の記事の命題「Skolem 関数を足す拡大」)。解釈が 1 通りに決まることが効くのは、次の節の消去定理である。

新しい記号の消去

新しい記号を含む論理式を、元の言語の論理式に書き直す手順を与える。変数は無限にあるので、以下で「新しい変数」といったら、それまでに現れたどの論理式(書き直す論理式と定義の右辺 $\varphi_R,\psi_f$)にも現れない変数をとる。定義の右辺の変数に別の変数を代入するときは、先に束縛変数を新しい変数に付け替えて、代入で変数が捕獲されないようにしておく(一階述語論理 の記事の系「束縛変数の付け替え」)。$\varphi_R(u_1,\dots,u_n)$ は $\varphi_R$ の $x_i$ に $u_i$ を代入したものを表す。
手順 1(項).$L'$ の項 $t$ と、$t$ に現れない変数 $y$ に対し、「$y$ は $t$ の値である」を表す $L$ の論理式 $E_t(y)$ を、$t$ の組み立てに沿って次で定める($u_i$ は新しい変数)。

$t$ の形$E_t(y)$
変数 $x$$y=x$
$g(t_1,\dots,t_k)$($g$ は $L$ の関数記号。定数記号は $k=0$)$\exists u_1\cdots\exists u_k\,\bigl(E_{t_1}(u_1)\land\dots\land E_{t_k}(u_k)\land y=g(u_1,\dots,u_k)\bigr)$
$f(t_1,\dots,t_n)$($f$ は新しい関数記号。定数記号は $n=0$)$\exists u_1\cdots\exists u_n\,\bigl(E_{t_1}(u_1)\land\dots\land E_{t_n}(u_n)\land\psi_f(u_1,\dots,u_n,y)\bigr)$

手順 2(原子論理式).$L'$ の原子論理式 $\theta$ に対し、$L$ の論理式 $\theta^*$ を次で定める($u_i$ は新しい変数)。

$\theta$ の形$\theta^*$
$t_1=t_2$$\exists u_1\,\exists u_2\,\bigl(E_{t_1}(u_1)\land E_{t_2}(u_2)\land u_1=u_2\bigr)$
$R(t_1,\dots,t_k)$($R$ は $L$ の関係記号)$\exists u_1\cdots\exists u_k\,\bigl(E_{t_1}(u_1)\land\dots\land E_{t_k}(u_k)\land R(u_1,\dots,u_k)\bigr)$
$R(t_1,\dots,t_n)$($R$ は新しい関係記号)$\exists u_1\cdots\exists u_n\,\bigl(E_{t_1}(u_1)\land\dots\land E_{t_n}(u_n)\land\varphi_R(u_1,\dots,u_n)\bigr)$

手順 3(論理記号).$(\lnot\theta)^*:=\lnot\theta^*$、$(\theta_1\ast\theta_2)^*:=\theta_1^*\ast\theta_2^*$($\ast$ は $\land,\lor,\to$)、$(\forall x\,\theta)^*:=\forall x\,\theta^*$、$(\exists x\,\theta)^*:=\exists x\,\theta^*$ とする。
どの段でも $u_i$ は量化されているので、$E_t(y)$ の自由変数は $t$ の変数と $y$ であり、$\operatorname{FV}(\theta^*)\subset\operatorname{FV}(\theta)$ である。たとえば群の例(ex-defext-group)で $\theta$ が $x\cdot x^{-1}=e$ なら、$\theta^*$ は「$u_1$ が $x\cdot x^{-1}$ の値、$u_2$ が単位元で、$u_1=u_2$」という形の、$\cdot$ だけを使う論理式になる。

項を表す論理式

$M$ を $T$ のモデル、$M'$ を thm-defext-unique-expansion の $M$ の拡張とする。$L'$ の項 $t$、$t$ に現れない変数 $y$、割り当て $s$ について
$$ M\models E_t(y)[s]\iff s(y)=t^{M'}[s]. $$

$t$ の組み立てについての帰納法で示す。$t$ が変数 $x$ なら、両辺とも $s(y)=s(x)$ である。$t=f(t_1,\dots,t_n)$($f$ は新しい関数記号)とする。$M\models E_t(y)[s]$ は、ある $b_1,\dots,b_n\in M$ があって、$s$ の $u_i$ での値を $b_i$ に替えた割り当て $s'$ について、すべての $i$ で $M\models E_{t_i}(u_i)[s']$、かつ $M\models\psi_f(u_1,\dots,u_n,y)[s']$、すなわち代入補題と $s'(y)=s(y)$ により $M\models\psi_f[\bar b,s(y)]$ となることである。$u_i$ は新しい変数なので $t_i$ に現れず、$E_{t_i}(u_i)$ の自由変数は $t_i$ の変数と $u_i$ だけである。帰納法の仮定と一致補題(一階述語論理 の記事の補題「一致補題」)により、$M\models E_{t_i}(u_i)[s']$ は $b_i=t_i^{M'}[s']=t_i^{M'}[s]$ と同値である。また $M'$ の作り方により、$M\models\psi_f[\bar b,s(y)]$ は $s(y)=f^{M'}(\bar b)$ と同値である。よって
$$ M\models E_t(y)[s]\iff s(y)=f^{M'}\bigl(t_1^{M'}[s],\dots,t_n^{M'}[s]\bigr)=t^{M'}[s] $$
である。$t=g(t_1,\dots,t_k)$($g$ は $L$ の記号)の場合も、最後の連言肢 $y=g(\bar u)$ について同じ議論をすればよい。$\square$

消去定理

$T'$ を $L$ 理論 $T$ の定義による拡大とする。$L'$ の論理式 $\theta$ と上で作った $L$ の論理式 $\theta^*$ について、$\theta$ の自由変数を $z_1,\dots,z_m$ とすると
$$ T'\vdash\forall z_1\cdots\forall z_m\,(\theta\leftrightarrow\theta^*) $$
である。とくに $\theta$ が $L'$ の文なら $\theta^*$ は $L$ の文で、
$$ T'\vdash\theta\iff T\vdash\theta^*. $$

まず、$T$ のモデル $M$、その拡張 $M'$、割り当て $s$ について
$$ M'\models\theta[s]\iff M\models\theta^*[s] $$
を $\theta$ の組み立てについての帰納法で示す(以下この同値を ($\dagger$) と呼ぶ)。$\theta=R(t_1,\dots,t_n)$($R$ は新しい関係記号)なら、lem-defext-term、代入補題と一致補題により、$M\models\theta^*[s]$ は「$b_i=t_i^{M'}[s]$ となる $b_i$ について $M\models\varphi_R[\bar b]$」、すなわち $(t_1^{M'}[s],\dots,t_n^{M'}[s])\in R^{M'}$ と同値であり、これは $M'\models\theta[s]$ である。$t_1=t_2$ と $L$ の関係記号の場合も同じである。論理結合子の段は帰納法の仮定から直ちに従う。$\theta=\forall x\,\theta_1$ なら、$M$ と $M'$ の台集合は同じなので
$$ M'\models\theta[s]\iff\text{すべての }a\in M\text{ で }M'\models\theta_1[s_x^a]\iff\text{すべての }a\in M\text{ で }M\models\theta_1^*[s_x^a]\iff M\models\theta^*[s] $$
である。$\exists$ も同様である。
次に $T'$ の任意のモデル $N'$ をとる。thm-defext-unique-expansion の 2 により、$N:=N'|_L$ は $T$ のモデルで、$N'$ は $N$ の拡張である。($\dagger$) と、簡約で $L$ の論理式の真偽が変わらないことから、どの割り当て $s$ についても
$$ N'\models\theta[s]\iff N\models\theta^*[s]\iff N'\models\theta^*[s] $$
である。よって $T'\models\forall\bar z\,(\theta\leftrightarrow\theta^*)$、すなわち $T'\vdash\forall\bar z\,(\theta\leftrightarrow\theta^*)$ である。
$\theta$ が文なら $\operatorname{FV}(\theta^*)\subset\operatorname{FV}(\theta)=\emptyset$ である。$T'\vdash\theta$ なら $T'\vdash\theta^*$ であり、$\theta^*$ は $L$ の文なので、cor-defext-conservative により $T\vdash\theta^*$ である。逆に $T\vdash\theta^*$ なら、$T'$ は $T$ の拡大なので $T'\vdash\theta^*$、したがって $T'\vdash\theta$ である。$\square$

Gal15 Problem 5.6.8(p. 240)は、(a) でこの定理を、(b) で cor-defext-conservative を演習としている。項を「値を表す論理式」に置き換える手順は、同書 Problem 5.6.7(pp. 238–239)で関数記号を関係記号に置き換えるのに使われているものと同じ考え方である。

定義可能な関係は増えない

$M$ を $T$ のモデル、$M'$ をその拡張とする。$M^n$ の部分集合が $M'$ で $L'$ の論理式により定義可能であることと、$M$ で $L$ の論理式により定義可能であることは同値である。

定義可能な関係は 一階述語論理 の記事の定義「定義可能な関係」の意味とする。$L$ の論理式は $L'$ の論理式でもあり、簡約で真偽は変わらないので、$M$ で定義可能な関係は $M'$ でも同じ論理式で定義可能である。逆に $L'$ の論理式 $\theta$ が定義する関係は、($\dagger$) により $L$ の論理式 $\theta^*$ が $M$ で定義する関係に等しい。$\square$

定義した記号を使って次の記号を定義するのは、数学では普通のことである(ex-defext-group の逆元は単位元を使うのが自然である)。次の命題は、そうしても元の言語だけで定義したのと同じ理論になることを示す。

定義を重ねてよい

$T'$ を $L$ 理論 $T$ の定義による拡大(言語 $L'$)、$T''$ を $T'$ の定義による拡大(言語 $L''$)とする。このとき、$T$ の定義による拡大 $U$(言語 $L''$)で、$T''$ とちょうど同じモデルをもつ(したがって同じ文を証明する)ものがある。

$L''\setminus L'$ の記号 $X$ の定義の右辺を $\chi_X$($L'$ の論理式)とし、thm-defext-elimination の $L$ の論理式 $\chi_X^*$ をとる。$X$ が関数記号 $f$ なら、$T'\vdash\forall\bar x\,\exists!\,y\,\chi_f$ と $T'\vdash\forall\bar x\,\forall y\,(\chi_f\leftrightarrow\chi_f^*)$ から $T'\vdash\forall\bar x\,\exists!\,y\,\chi_f^*$ が従う。これは $L$ の文なので、cor-defext-conservative により $T\vdash\forall\bar x\,\exists!\,y\,\chi_f^*$ である。よって $\chi_X^*$ を右辺とする定義公理 $\delta_X^*$ は $T$ 上の正しい定義であり、
$$ U:=T\cup\{\delta_X\mid X\in L'\setminus L\}\cup\{\delta_X^*\mid X\in L''\setminus L'\} $$
は $T$ の定義による拡大である。$L''$ 構造 $N$ について、$N$ が $T''$ のモデルであることと $U$ のモデルであることを比べる。どちらの場合も $N|_{L'}$ は $T'$ のモデルである($T'\subset T''$、$T'\subset U$)。$N|_{L'}$ が $T'$ のモデルなら $\chi_X$ と $\chi_X^*$ は $N$ で同値なので、$N\models\delta_X\iff N\models\delta_X^*$ である。よって $T''$ と $U$ のモデルは一致する。$\square$

陰の定義と Beth の定義可能性定理

thm-defext-unique-expansion は、明示的に定義された記号の解釈が、元の言語の解釈から 1 通りに決まることを示している。この性質だけを取り出したのが陰の定義である。

陰の定義

$L$ に新しい $n$ 項関係記号 $R$ を足した言語の理論 $U$ を考える。$U$ の 2 つのモデルが同じ台集合をもち、$L$ の記号の解釈がすべて一致すれば $R$ の解釈も一致するとき、$R$ は $U$ で $L$ から 陰に定義される という。$L$ の論理式 $\varphi(x_1,\dots,x_n)$ で $U\vdash\forall\bar x\,(R(\bar x)\leftrightarrow\varphi(\bar x))$ となるものがあるとき、明示的に定義される という。

明示的に定義されるなら陰に定義される。2 つのモデルの $L$ の部分が一致すれば、$\varphi$ が定める関係も一致するからである。対偶をとると、$L$ の部分が同じで $R$ の解釈だけが違う $U$ の 2 つのモデルを見つければ、$R$ は $L$ から明示的に定義できないことが分かる。これを Padoa の方法という(Gal15 §6.6.2、p. 284)。

Padoa の方法:順序は等号だけからは定義できない

$L$ を等号だけの言語(記号なし)、$U$ を言語 $\{< \}$ の DLO(端点のない稠密な全順序の理論)とする。$(\mathbb Q,<)$ と $(\mathbb Q,>)$ はどちらも DLO のモデルで、台集合は同じで $L$ の記号はないが、$<$ の解釈が違う。よって等号だけからなる論理式 $\varphi(x,y)$ で $U\vdash\forall x\,\forall y\,(x< y\leftrightarrow\varphi(x,y))$ となるものはない。

逆向きが成り立つことを述べるのが Beth の定義可能性定理である。

Beth の定義可能性定理

$L$ を等号を含む一階言語、$U$ を $L\cup\{R\}$ の有限個の文からなる理論とする。$R$ が $U$ で $L$ から陰に定義されるなら、明示的に定義される。新しい記号が関数記号や定数記号の場合も同様である。

Beth の定理の証明の所在

この定理はこの記事では証明しない。Gal15 Theorem 6.6.2(pp. 286–287)は、$U$ の文の連言 $A$ について、$R$ の写し $R'$ を使った論理式 $A(R)\land A(R')\to\forall\bar x\,(R(\bar x)\leftrightarrow R'(\bar x))$ が妥当であることを陰の定義とし(Definition 6.6.2、p. 283)、Craig の補間定理(Theorem 6.5.2、p. 281)から明示的な定義を作っている。2 つのモデルを 1 つの構造の $R$ と $R'$ にまとめて考えれば、この形と上の定義は同じことを述べている。関数記号の場合は同書 Theorem 6.6.2 の (b) である。Beth の定理と thm-defext-unique-expansion を合わせると、有限個の文で公理化された理論では、モデルの上で解釈がただ 1 通りに決まる記号と、元の言語の論理式で明示的に定義できる記号とが一致する。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
関数記号の定義の存在($T\vdash\forall\bar x\,\exists y\,\psi_f$)体の理論で $\psi_f(x,y):=(y\cdot x=1)$保存拡大であること($T'$ が矛盾する)
関数記号の定義の一意性DLO で $\psi_f(x,y):=(x< y)$保存拡大であること($T'$ が矛盾する)
定義の右辺が $L$ の論理式であること等号だけの言語の空の理論で $\delta_R:=\forall x\,(R(x)\leftrightarrow\lnot R(x))$保存拡大であること($T'$ が矛盾する)
定義の右辺の自由変数が $\bar x$ の中にあることDLO で $\forall y\,\forall x\,\bigl(R(x)\leftrightarrow x< y\bigr)$保存拡大であること($T'$ が矛盾する)
関数記号の定義の一意性(定義公理を、一意性のもとで $\delta_f$ と同値な $\forall\bar x\,\psi_f(\bar x,f(\bar x))$ の形で書く場合)DLO に $\forall x\,(x< f(x))$ を足す新しい記号の消去(thm-defext-elimination)
反例の確かめ
  1. 体では $T\vdash\forall x\,\forall y\,\forall y'\,(y\cdot x=1\land y'\cdot x=1\to y=y')$ なので一意性は成り立つが、$x=0$ で存在が成り立たない。$\delta_f$ で $x:=0$、$y:=f(0)$ とすると $f(0)\cdot0=1$ となり、体で成り立つ $a\cdot0=0$ と $0\neq1$ に反する。
  2. DLO のモデルの元 $a$ について、端点がないので $a< b$ となる $b$ があり、稠密なので $a< c< b$ となる $c$ がある。$\delta_f$ により $f(a)=b$ かつ $f(a)=c$ となり、$b\neq c$ に反する。
  3. 台集合の元 $a$ について $R(a)\leftrightarrow\lnot R(a)$ は偽なので、$T'$ はモデルをもたない。空の理論は無矛盾である。
  4. DLO のモデルで $a< b$ をとる。$y:=a,x:=a$ とすると $a< a$ は偽なので $R(a)$ は偽、$y:=b,x:=a$ とすると $a< b$ は真なので $R(a)$ は真となり、矛盾する。
  5. DLO は $\forall x\,\exists y\,(x< y)$ を導出するので、この拡大は保存拡大である(保存拡大 の記事の命題「Skolem 関数を足す拡大」)。しかし $L$ の論理式 $\theta^*(x,y)$ で $f(x)=y$ と同値なものがあるとすると、$(\mathbb Q,<)$ の 2 つの拡張 $f(x)=x+1$ と $f(x)=x+2$ はどちらもこの拡大のモデルで、簡約が同じなので、$\theta^*[0,1]$ の真偽が 2 つの拡張で一致する。ところが $f(0)=1$ は前者で真、後者で偽であり、矛盾する。

関連項目

参考文献

[1]
Jean H. Gallier, Logic for Computer Science: Foundations of Automatic Theorem Proving, 2nd ed., Dover Publications, 2015, Problem 5.6.7(関数記号を関係記号に置き換える翻訳)pp. 238–239、Problem 5.6.8(定義による拡大の消去と保存性)p. 240、Theorem 6.5.2(Craig の補間定理、等号あり)p. 281、Definition 6.6.2(陰の定義)p. 283、§6.6.2(Padoa の方法)p. 284、Theorem 6.6.2(Beth の定義可能性定理、等号あり)pp. 286–287

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する