等周不等式(高校数学)は、平面の閉曲線の長さ $L$ と、それが囲む図形の面積 $S$ について $L^2\ge4\pi S$ が成り立ち、等号は円のときだけであるという定理を、Fourier 係数で証明する記事である。正則な閉じた $C^1$ 曲線 $(x(t),y(t))$ では、符号付き面積 $A=\int x\,y'\,dt$ について $L^2\ge4\pi A$ となり、等号は円を反時計回りにちょうど 1 周するときに限る。速さを一定にすると $\int(x'^2+y'^2)dt=\frac{L^2}{2\pi}$ となり、これと $2A$ を Parseval の等式で係数で書くと、差は $n^2\ge n$ から 2 乗の和になる(Hurwitz の証明)。凸多角形では平行領域を使って $L^2>4\pi S$ を導く。周の一部を数えない場合や球面上では成り立たない。
前提知識: 媒介変数表示と曲線の長さ, 区分求積と積分の定義, 部分積分, 三角関数の直交性(高校数学)
長さ $4$ のひもで長方形を作ると、どの長方形の面積がいちばん大きいか。これは 2 次関数の最大値の問題として高校で解ける。
横の長さを $x$ とすると、縦の長さは $\frac{4-2x}2=2-x$ である($0< x<2$)。面積は
$$
x(2-x)=-x^2+2x=-(x-1)^2+1
$$
である。$(x-1)^2\ge0$ なので面積は $1$ 以下で、等号は $x=1$、つまり正方形のときだけ成り立つ。たとえば $x=\frac12$ なら面積は $\frac12\cdot\frac32=\frac34$、$x=\frac1{10}$ なら $\frac1{10}\cdot\frac{19}{10}=\frac{19}{100}$ で、細長いほど小さい。
平方完成で最大値を読むこの計算は 2次関数の最大・最小 と同じである。では、長方形に限らず、どんな形でもよいとしたらどうか。周の長さを $12$ にそろえて、いくつかの図形の面積を計算してみる。
周の長さを $L$、面積を $S$ とする。どれも $L=12$ である。
| 図形 | 大きさ | 面積 $S$ | $\dfrac{L^2}{4\pi S}$ |
|---|---|---|---|
| 細長い長方形 | $5.5\times0.5$ | $2.75$ | $4.166\ldots$ |
| 正三角形 | 1 辺 $4$ | $\frac{\sqrt3}4\cdot4^2=4\sqrt3=6.928\ldots$ | $1.653\ldots$ |
| 正方形 | 1 辺 $3$ | $9$ | $1.273\ldots$ |
| 正六角形 | 1 辺 $2$ | 正三角形 6 枚で $6\cdot\frac{\sqrt3}4\cdot2^2=6\sqrt3=10.392\ldots$ | $1.102\ldots$ |
| 円 | 半径 $\frac6\pi$ | $\pi\bigl(\frac6\pi\bigr)^2=\frac{36}\pi=11.459\ldots$ | $1$ |
円の行を確かめる。半径 $R$ の円の周は $2\pi R$ なので、$2\pi R=12$ から $R=\frac6\pi$ である。最後の列は $L^2=144$ を $4\pi S$ で割ったもので、円では $\frac{144}{4\pi\cdot36/\pi}=\frac{144}{144}=1$ になる。
図1:周の長さがどれも 12 の図形と、その面積・等周比。角の数が増えて円に近づくほど面積が大きくなり、円で最大になることを見る図。
表の最後の列が、どの図形でも $1$ 以上で、円でちょうど $1$ になっていることに注目する。$\frac{L^2}{4\pi S}\ge1$ を書き直すと
$$
L^2\ge4\pi S
$$
である。これが 等周不等式 で、「周の長さが同じなら、円がいちばん広い」ことを式で述べたものである。
この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| 媒介変数表示の曲線の長さ $\int\sqrt{x'^2+y'^2}\,dt$ | 速さが一定なら $\int(x'^2+y'^2)\,dt$ で書ける | lem-iso-constant-speed |
| 面積 $\int y\,dx$ を媒介変数で計算する | 閉曲線の符号付き面積 $\int x\,y'\,dt$ | def-iso-signed-area、prop-iso-area-graphs |
| 部分積分 | 導関数の Fourier 係数は $n$ 倍になる | lem-iso-derivative |
| 2 乗の和は $0$ 以上 | $n^2\ge n$ から等周不等式 | thm-iso-energy、thm-iso-main |
曲線は、媒介変数表示と曲線の長さ と同じく、媒介変数 $t$ を使って $(x(t),y(t))$ と表す。この記事では $t$ の範囲を $-\pi\le t\le\pi$ にそろえる(Fourier 係数をこの範囲で定義するため)。
区間 $[-\pi,\pi]$ 上の関数の組 $\gamma(t)=(x(t),y(t))$ が次を満たすとき、$\gamma$ を 閉じた $C^1$ 曲線 という。
長さの式は、媒介変数表示と曲線の長さ の定理「曲線の長さの公式」で、内接折れ線の長さの上限と一致することが示されている。この記事ではこの式を長さの定義として使う。
閉じた $C^1$ 曲線 $\gamma(t)=(x(t),y(t))$ に対し
$$
A(\gamma):=\int_{-\pi}^{\pi}x(t)\,y'(t)\,dt
$$
を $\gamma$ の 符号付き面積 という。
名前のとおり、$A(\gamma)$ は曲線が囲む面積を表す(向きによっては符号が変わる)。まず計算してみる。
符号付き面積には、もう 1 つの書き方がある。
閉じた $C^1$ 曲線 $\gamma$ について
$$
\int_{-\pi}^{\pi}x\,y'\,dt=-\int_{-\pi}^{\pi}y\,x'\,dt
$$
が成り立つ。
積の微分法により $(xy)'=x'y+xy'$ である。両辺を $-\pi$ から $\pi$ まで積分すると、微分積分学の基本定理 により
$$
\int_{-\pi}^{\pi}\bigl(x'y+xy'\bigr)\,dt=x(\pi)y(\pi)-x(-\pi)y(-\pi)
$$
である。閉曲線なので $x(\pi)=x(-\pi)$、$y(\pi)=y(-\pi)$ であり、右辺は $0$ になる。よって $\int xy'\,dt+\int x'y\,dt=0$ で、移項すると求める式になる。$\square$
次の命題が、$A(\gamma)$ を「面積」と呼んでよい理由である。高校で習う「$y=h(x)$ と $y=g(x)$ にはさまれた部分の面積は $\int_a^b\bigl(h(x)-g(x)\bigr)dx$」を、曲線の側から見直す。
$a< b$ とし、$g$、$h$ は $[a,b]$ で連続で $g(x)\le h(x)$ を満たすとする。図形
$$
D=\{(x,y)\mid a\le x\le b,\ g(x)\le y\le h(x)\}
$$
の境界を 1 周する閉じた $C^1$ 曲線 $\gamma$ が、$t$ の範囲を 4 つに分けて次のように動くとする。
方針:lem-iso-two-forms により $A(\gamma)=-\int_{-\pi}^{\pi}y\,x'\,dt$ である。この積分を 4 つの部分に分け、それぞれを置換積分で $x$ の積分に直す。
段 1(下のグラフの部分)。この部分の $t$ の範囲を $t_0\le t\le t_1$ とする。ここでは $y(t)=g(x(t))$、$x(t_0)=a$、$x(t_1)=b$ である。置換積分($u=x(t)$、$du=x'(t)\,dt$)により
$$
\int_{t_0}^{t_1}y\,x'\,dt=\int_{t_0}^{t_1}g\bigl(x(t)\bigr)x'(t)\,dt=\int_a^bg(u)\,du
$$
である。この置換積分の公式は、$g$ が連続で $x'$ が連続なら、$x(t)$ が単調でなくても成り立つ(置換積分の使い方は 置換積分の使い方 で扱う)。
段 2(右の辺)。$x(t)=b$ で一定なので $x'(t)=0$ であり、積分は $0$ である。
段 3(上のグラフの部分)。段 1 と同じ置換で、$x$ は $b$ から $a$ まで動くので、積分は $\int_b^ah(u)\,du=-\int_a^bh(u)\,du$ である。
段 4(左の辺)。段 2 と同じく $0$ である。
段 5(まとめ)。4 つを足すと $\int_{-\pi}^{\pi}y\,x'\,dt=\int_a^bg\,du-\int_a^bh\,du$ なので
$$
A(\gamma)=-\int_{-\pi}^{\pi}y\,x'\,dt=\int_a^b\bigl(h(u)-g(u)\bigr)\,du
$$
であり、これは $D$ の面積である。$\square$
この命題の曲線は、図形 $D$ を左手に見ながら回る向き、つまり 反時計回り である。ex-iso-circle-ellipse の 1・2 はこの形($g(x)=-\sqrt{r^2-x^2}$、$h(x)=\sqrt{r^2-x^2}$ など)で、確かに面積と一致した。媒介変数表示の曲線が囲む面積の計算そのものは 媒介変数表示の曲線が囲む面積 で扱う。
円・楕円・凸多角形のような 凸な図形(図形の中の 2 点を結ぶ線分がいつも図形に含まれるもの)は、縦の直線との共通部分がいつも線分(または 1 点)になるので、prop-iso-area-graphs の形の図形である(境界がちょうど 2 つのグラフに分かれることの細部は、ここでは証明しない)。さらに一般に、自分自身と交わらない閉曲線が反時計回りに囲む図形では $A(\gamma)$ がその面積に等しい。これは Greenの定理 の特別な場合である(本記事では証明しない。Leb26 Theorem 10.6.4 で $P=0$、$Q=x$ とおいたもの)。
同じ図形の境界を、速さを変えてたどることもできる。長さと符号付き面積は、たどり方の速さによらない。
$\gamma(t)=(x(t),y(t))$ を閉じた $C^1$ 曲線とし、$\varphi$ を $[-\pi,\pi]$ 上の $C^1$ 級の関数で、$\varphi(-\pi)=-\pi$、$\varphi(\pi)=\pi$、すべての $u$ で $\varphi'(u)>0$ を満たすものとする。$\tilde\gamma(u):=\gamma(\varphi(u))$ とおくと、$\tilde\gamma$ も閉じた $C^1$ 曲線で
$$
L(\tilde\gamma)=L(\gamma),\qquad A(\tilde\gamma)=A(\gamma)
$$
が成り立つ。
段 1(閉じた $C^1$ 曲線であること)。$\tilde x(u)=x(\varphi(u))$ は合成関数の微分法により微分でき、$\tilde x'(u)=x'(\varphi(u))\varphi'(u)$ は連続関数の合成と積なので連続である。$\tilde y$ も同じである。$\tilde x(-\pi)=x(\varphi(-\pi))=x(-\pi)=x(\pi)=\tilde x(\pi)$ で、$\tilde y$ も同じなので閉じている。
段 2(長さ)。$\varphi'(u)>0$ なので $\sqrt{\tilde x'^2+\tilde y'^2}=\sqrt{x'(\varphi(u))^2+y'(\varphi(u))^2}\ \varphi'(u)$ である。置換 $t=\varphi(u)$ により
$$
L(\tilde\gamma)=\int_{-\pi}^{\pi}\sqrt{x'(\varphi(u))^2+y'(\varphi(u))^2}\ \varphi'(u)\,du=\int_{-\pi}^{\pi}\sqrt{x'(t)^2+y'(t)^2}\,dt=L(\gamma)
$$
である($u=\pm\pi$ のとき $t=\pm\pi$)。
段 3(面積)。同じ置換で $A(\tilde\gamma)=\int_{-\pi}^{\pi}x(\varphi(u))\,y'(\varphi(u))\,\varphi'(u)\,du=\int_{-\pi}^{\pi}x(t)\,y'(t)\,dt=A(\gamma)$ である。$\square$
速さが一定になるように媒介変数を取り替えられることが、この記事の証明の鍵になる。
$\gamma$ が正則な閉じた $C^1$ 曲線で、長さが $L>0$ ならば、lem-iso-reparam の条件を満たす $\varphi$ で、$\tilde\gamma=\gamma\circ\varphi$ の速さがすべての $u$ で $\frac{L}{2\pi}$ になるものがある。このとき
$$
\int_{-\pi}^{\pi}\bigl(\tilde x'(u)^2+\tilde y'(u)^2\bigr)\,du=2\pi\Bigl(\frac L{2\pi}\Bigr)^2=\frac{L^2}{2\pi}
$$
である。
方針:途中までの長さを $[-\pi,\pi]$ に目盛り直した関数 $\sigma$ を作り、その逆関数を $\varphi$ にする。これは 媒介変数表示と曲線の長さ の弧長パラメータを、全長が $2\pi$ になるように縮めたものである。
段 1($\sigma$ を作る)。$v(t)=\sqrt{x'(t)^2+y'(t)^2}$ とし、
$$
\sigma(t):=-\pi+\frac{2\pi}L\int_{-\pi}^{t}v(s)\,ds
$$
とおく。$\sigma(-\pi)=-\pi$、$\sigma(\pi)=-\pi+\frac{2\pi}L\cdot L=\pi$ である。微分積分学の基本定理により $\sigma'(t)=\frac{2\pi}Lv(t)$ で、これは連続であり、正則性から正である。
段 2(逆関数 $\varphi$)。$\sigma$ は $[-\pi,\pi]$ で増加し、端の値が $-\pi$、$\pi$ なので、$[-\pi,\pi]$ から $[-\pi,\pi]$ への 1 対 1 の対応である。その逆関数を $\varphi$ とする。逆関数の微分法により $\varphi$ は微分でき、$\varphi'(u)=\frac1{\sigma'(\varphi(u))}=\frac{L}{2\pi\,v(\varphi(u))}$ である。これは連続で正であり、$\varphi(-\pi)=-\pi$、$\varphi(\pi)=\pi$ である。
段 3(速さ)。prf-lem-iso-reparam の段 2 の計算により、$\tilde\gamma$ の速さは $v(\varphi(u))\,\varphi'(u)=v(\varphi(u))\cdot\frac{L}{2\pi\,v(\varphi(u))}=\frac L{2\pi}$ である。
段 4(積分)。速さの 2 乗 $\tilde x'^2+\tilde y'^2$ が一定値 $\bigl(\frac L{2\pi}\bigr)^2$ なので、長さ $2\pi$ の区間で積分すると $2\pi\cdot\frac{L^2}{4\pi^2}=\frac{L^2}{2\pi}$ である。$\square$
$\varphi(t)=t+\frac12\sin t$ とおく。$\varphi(\pm\pi)=\pm\pi$、$\varphi'(t)=1+\frac12\cos t\ge\frac12>0$ である。半径 $1$ の円を $\gamma(t)=(\cos\varphi(t),\sin\varphi(t))$ とたどる。
$[-\pi,\pi]$ 上の連続関数 $f$ の Fourier 係数 は
$$
a_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(t)\cos nt\,dt\quad(n\ge0),\qquad b_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(t)\sin nt\,dt\quad(n\ge1)
$$
である(Fourier係数と最良近似)。次の定理は 無限次元のピタゴラスの定理 の主定理で、この記事の主定理の証明はこれに頼る。
$[-\pi,\pi]$ 上の連続関数 $f$ の Fourier 係数を $a_n$、$b_n$ とすると、右辺の級数は収束し
$$
\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(t)^2\,dt=\frac{a_0^2}2+\sum_{n=1}^{\infty}\bigl(a_n^2+b_n^2\bigr)
$$
が成り立つ。$f(-\pi)=f(\pi)$ は仮定しない。さらに、Fourier 係数がすべて等しい 2 つの連続関数は等しい。
前半は 無限次元のピタゴラスの定理 の定理「Parseval の等式」、後半は同じ記事の系「Fourier 係数による一意性」である。証明はその記事にある(三角多項式による一様近似を使う)。本記事では証明しない。
2 つの関数の積の積分も、係数で書ける。
$[-\pi,\pi]$ 上の連続関数 $f$、$g$ の Fourier 係数を、それぞれ $a_n,b_n$ と $\alpha_n,\beta_n$ とすると、右辺の級数は収束し
$$
\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(t)g(t)\,dt=\frac{a_0\alpha_0}2+\sum_{n=1}^{\infty}\bigl(a_n\alpha_n+b_n\beta_n\bigr)
$$
が成り立つ。
方針:$fg=\frac14\bigl((f+g)^2-(f-g)^2\bigr)$ を使い、$f+g$ と $f-g$ に thm-iso-parseval を使う。
段 1(係数)。Fourier 係数は積分で定めるので、$f+g$ の係数は $a_n+\alpha_n$、$b_n+\beta_n$、$f-g$ の係数は $a_n-\alpha_n$、$b_n-\beta_n$ である。
段 2(Parseval の等式を 2 回使う)。$f+g$、$f-g$ は連続なので、thm-iso-parseval により(複号同順)
$$
\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}(f\pm g)^2dt=\frac{(a_0\pm\alpha_0)^2}2+\sum_{n=1}^{\infty}\Bigl((a_n\pm\alpha_n)^2+(b_n\pm\beta_n)^2\Bigr)
$$
が成り立ち、右辺の 2 つの級数はどちらも収束する。
段 3(引き算)。$(p+q)^2-(p-q)^2=4pq$ を各項に使う。収束する 2 つの級数の差は、項ごとの差の級数として収束するので
$$
\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}\bigl((f+g)^2-(f-g)^2\bigr)dt=\frac{4a_0\alpha_0}2+\sum_{n=1}^{\infty}\bigl(4a_n\alpha_n+4b_n\beta_n\bigr)
$$
である。左辺の被積分関数は $4fg$ なので、両辺を $4$ で割ると求める式になる。$\square$
$f(t)=1+\cos t$、$g(t)=\cos t+\sin t$ とする。係数は $f$ が $a_0=2$、$a_1=1$(ほかは $0$)、$g$ が $\alpha_1=1$、$\beta_1=1$(ほかは $0$)である。$f$ の定数項 $1$ は $\frac{a_0}2$ に当たるので $a_0=2$ である。
$x(t)$ は $[-\pi,\pi]$ で $C^1$ 級で $x(-\pi)=x(\pi)$ を満たすとし、Fourier 係数を $a_n$、$b_n$ とする。このとき導関数 $x'$ の Fourier 係数は、定数項が $0$、$n\ge1$ について
$$
\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}x'(t)\cos nt\,dt=n\,b_n,\qquad\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}x'(t)\sin nt\,dt=-n\,a_n
$$
である。
方針:部分積分で微分を $\cos nt$、$\sin nt$ の側へ移す。端の項は $x(-\pi)=x(\pi)$ で消える。
段 1(定数項)。$\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}x'(t)\,dt=\frac1\pi\bigl(x(\pi)-x(-\pi)\bigr)=0$ である。
段 2($\cos nt$ の係数)。部分積分 により
$$
\int_{-\pi}^{\pi}x'(t)\cos nt\,dt=\Bigl[x(t)\cos nt\Bigr]_{-\pi}^{\pi}-\int_{-\pi}^{\pi}x(t)\cdot(-n\sin nt)\,dt
$$
である。$\cos(n\pi)=\cos(-n\pi)$ と $x(\pi)=x(-\pi)$ から、端の項は $x(\pi)\cos n\pi-x(-\pi)\cos n\pi=0$ である。残りは $n\int_{-\pi}^{\pi}x(t)\sin nt\,dt=n\pi b_n$ なので、$\pi$ で割って $nb_n$ を得る。
段 3($\sin nt$ の係数)。同じく
$$
\int_{-\pi}^{\pi}x'(t)\sin nt\,dt=\Bigl[x(t)\sin nt\Bigr]_{-\pi}^{\pi}-\int_{-\pi}^{\pi}x(t)\cdot n\cos nt\,dt
$$
である。$\sin(\pm n\pi)=0$ なので端の項は $0$、残りは $-n\pi a_n$ で、$\pi$ で割って $-na_n$ を得る。$\square$
閉じた $C^1$ 曲線 $\gamma(t)=(x(t),y(t))$ の $x$ の Fourier 係数を $a_n,b_n$、$y$ の Fourier 係数を $c_n,d_n$ と書く。速さの 2 乗の積分
$$
E(\gamma):=\int_{-\pi}^{\pi}\bigl(x'(t)^2+y'(t)^2\bigr)\,dt
$$
を $\gamma$ の エネルギー と呼ぶことにする。次の定理がこの記事の心臓部である。
閉じた $C^1$ 曲線 $\gamma$ について、次の 3 つの級数は収束し
$$
\begin{align}
E(\gamma)&=\pi\sum_{n=1}^{\infty}n^2\bigl(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2\bigr),\\
A(\gamma)&=\pi\sum_{n=1}^{\infty}n\bigl(a_nd_n-b_nc_n\bigr),\\
E(\gamma)-2A(\gamma)&=\pi\sum_{n=1}^{\infty}\Bigl((na_n-d_n)^2+(nb_n+c_n)^2+(n^2-1)\bigl(c_n^2+d_n^2\bigr)\Bigr)
\end{align}
$$
が成り立つ。特に $E(\gamma)\ge2A(\gamma)$ である。等号が成り立つのは、すべての $n\ge2$ で $a_n=b_n=c_n=d_n=0$、かつ $d_1=a_1$、$c_1=-b_1$ のときだけである。
方針:lem-iso-derivative で $x'$、$y'$ の係数を $x$、$y$ の係数で書き、エネルギーには thm-iso-parseval、面積には prop-iso-polar を使う。最後に 2 乗の和に整理する。
段 1($x'$、$y'$ の係数)。lem-iso-derivative により、$x'$ の係数は定数項 $0$、$\cos nt$ が $nb_n$、$\sin nt$ が $-na_n$ である。$y'$ の係数は定数項 $0$、$\cos nt$ が $nd_n$、$\sin nt$ が $-nc_n$ である。
段 2(エネルギー)。$x'$ は連続なので thm-iso-parseval が使えて
$$
\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}x'^2\,dt=\sum_{n=1}^{\infty}\bigl((nb_n)^2+(-na_n)^2\bigr)=\sum_{n=1}^{\infty}n^2\bigl(a_n^2+b_n^2\bigr)
$$
である。$y'$ も同じで、足して $\pi$ を掛けると $E(\gamma)$ の式になる。
段 3(面積)。prop-iso-polar を $f=x$、$g=y'$ に使う。$g$ の係数は $\alpha_0=0$、$\alpha_n=nd_n$、$\beta_n=-nc_n$ なので
$$
\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}x\,y'\,dt=\frac{a_0\cdot0}2+\sum_{n=1}^{\infty}\bigl(a_n\cdot nd_n+b_n\cdot(-nc_n)\bigr)=\sum_{n=1}^{\infty}n\bigl(a_nd_n-b_nc_n\bigr)
$$
である。$\pi$ を掛けると $A(\gamma)$ の式になる。
段 4(差を 2 乗の和にする)。収束する級数の差は項ごとの差の級数なので、$E(\gamma)-2A(\gamma)=\pi\sum_{n\ge1}T_n$、ただし
$$
T_n:=n^2\bigl(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2\bigr)-2n\bigl(a_nd_n-b_nc_n\bigr)
$$
である。$T_n$ が定理の 2 乗の和に等しいことを、右辺を展開して確かめる。
$$
\begin{align}
(na_n-d_n)^2&=n^2a_n^2-2na_nd_n+d_n^2,\\
(nb_n+c_n)^2&=n^2b_n^2+2nb_nc_n+c_n^2,\\
(n^2-1)(c_n^2+d_n^2)&=n^2c_n^2+n^2d_n^2-c_n^2-d_n^2.
\end{align}
$$
3 つを足すと、$d_n^2$ と $-d_n^2$、$c_n^2$ と $-c_n^2$ が打ち消し合い、$n^2(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2)-2n(a_nd_n-b_nc_n)=T_n$ が残る。
段 5(符号)。$n\ge1$ なので $n^2-1\ge0$ であり、$T_n$ は 0 以上の 3 つの項の和である。よって $E(\gamma)-2A(\gamma)\ge0$ である。
段 6(等号)。0 以上の項の和が $0$ になるのは、すべての $T_n$ が $0$ のとき、つまり $T_n$ の 3 つの項がすべて $0$ のときだけである。$n\ge2$ では $n^2-1>0$ なので $c_n=d_n=0$ であり、すると $na_n=d_n=0$、$nb_n=-c_n=0$ から $a_n=b_n=0$ である。$n=1$ では第 3 項が $0\cdot(c_1^2+d_1^2)=0$ なので、条件は $a_1-d_1=0$ と $b_1+c_1=0$ だけである。逆にこれらの条件が成り立てば、すべての $T_n$ が $0$ なので等号が成り立つ。$\square$
証明の要は段 5 で、$n\ge1$ のとき $n^2\ge n$(つまり $n^2-1\ge0$)であることだけを使っている。エネルギーには $n^2$、面積には $n$ が掛かるので、高い番号の項(細かく揺れる成分)ほどエネルギーを大きくするが、面積はあまり増やさない。
図2:閉曲線(実線)と、その Fourier 係数のうち $n=1$ の項だけを残した曲線(破線、楕円)。等号が成り立つのは $n\ge2$ の揺らぎがなく、しかも楕円が円のときだけであることを見る図。
$n=1$ の項だけを残した $\bigl(\frac{a_0}2+a_1\cos t+b_1\sin t,\ \frac{c_0}2+c_1\cos t+d_1\sin t\bigr)$ は、一般に楕円を描く(図2)。等号の条件 $d_1=a_1$、$c_1=-b_1$ は、この楕円が円であるという条件である(prf-thm-iso-main の段 4 で確かめる)。
$\gamma$ を正則な閉じた $C^1$ 曲線とし、長さを $L$ とする。このとき
$$
L^2\ge4\pi A(\gamma)
$$
が成り立つ。等号が成り立つのは、$\gamma$ がある円を反時計回りにちょうど 1 周するとき、すなわち点 $(p,q)$、正の数 $R$ と、$\theta'(t)>0$、$\theta(\pi)-\theta(-\pi)=2\pi$ を満たす $C^1$ 級の関数 $\theta$ を使って
$$
\gamma(t)=\bigl(p+R\cos\theta(t),\ q+R\sin\theta(t)\bigr)
$$
と書けるときだけである。
方針:速さを一定にしても $L$ と $A(\gamma)$ は変わらない。速さが一定ならエネルギーは $\frac{L^2}{2\pi}$ なので、thm-iso-energy の $E\ge2A$ がそのまま $L^2\ge4\pi A$ になる。
段 1(速さを一定にする)。正則なので速さは正で、$L>0$ である。lem-iso-constant-speed の $\varphi$ をとり、$\tilde\gamma=\gamma\circ\varphi$ とおく。lem-iso-reparam により $L(\tilde\gamma)=L$、$A(\tilde\gamma)=A(\gamma)$ であり、lem-iso-constant-speed により $E(\tilde\gamma)=\frac{L^2}{2\pi}$ である。
段 2(不等式)。$\tilde\gamma$ に thm-iso-energy を使うと $E(\tilde\gamma)\ge2A(\tilde\gamma)$、すなわち $\frac{L^2}{2\pi}\ge2A(\gamma)$ である。両辺に $2\pi$ を掛けて $L^2\ge4\pi A(\gamma)$ を得る。
段 3(等号なら係数が決まる)。等号が成り立つとする。段 2 の式は $E(\tilde\gamma)=2A(\tilde\gamma)$ を意味するので、thm-iso-energy の等号の条件により、$\tilde\gamma=(\tilde x,\tilde y)$ の係数は $n\ge2$ ですべて $0$、$d_1=a_1$、$c_1=-b_1$ である。$\tilde x$ と三角多項式 $\frac{a_0}2+a_1\cos u+b_1\sin u$ は Fourier 係数がすべて等しい連続関数なので、thm-iso-parseval の後半により等しい。$\tilde y$ も同じで
$$
\tilde x(u)=\frac{a_0}2+a_1\cos u+b_1\sin u,\qquad\tilde y(u)=\frac{c_0}2-b_1\cos u+a_1\sin u
$$
である。
段 4(円であること)。$p=\frac{a_0}2$、$q=\frac{c_0}2$、$R=\sqrt{a_1^2+b_1^2}$ とおく。$R=0$ なら $\tilde\gamma$ は 1 点にとどまり、長さ $L>0$ に反するので $R>0$ である。$a_1=R\cos u_0$、$b_1=R\sin u_0$ となる角 $u_0$ をとると、加法定理により
$$
a_1\cos u+b_1\sin u=R\cos(u-u_0),\qquad -b_1\cos u+a_1\sin u=R\sin(u-u_0)
$$
である。よって $\tilde\gamma(u)=\bigl(p+R\cos(u-u_0),\ q+R\sin(u-u_0)\bigr)$ で、これは中心 $(p,q)$、半径 $R$ の円を反時計回りに一定の速さで 1 周する。もとの曲線は $\gamma(t)=\tilde\gamma(\sigma(t))$($\sigma$ は prf-lem-iso-constant-speed の関数で、$\varphi$ の逆関数)なので、$\theta(t):=\sigma(t)-u_0$ とおけば定理の形になる。$\theta'=\sigma'>0$、$\theta(\pi)-\theta(-\pi)=\pi-(-\pi)=2\pi$ である。
段 5(逆に、円を 1 周すれば等号)。$\gamma(t)=\bigl(p+R\cos\theta(t),\ q+R\sin\theta(t)\bigr)$ とする。速さは $R\,\theta'(t)$ なので $L=\int_{-\pi}^{\pi}R\,\theta'(t)\,dt=R\bigl(\theta(\pi)-\theta(-\pi)\bigr)=2\pi R$ である。また $y'=R\cos\theta(t)\,\theta'(t)$ なので、置換 $u=\theta(t)$ により
$$
A(\gamma)=\int_{-\pi}^{\pi}\bigl(p+R\cos\theta\bigr)R\cos\theta\ \theta'\,dt=\int_{\theta(-\pi)}^{\theta(-\pi)+2\pi}\bigl(pR\cos u+R^2\cos^2u\bigr)du=0+\pi R^2
$$
である($\cos u$、$\cos^2u$ は周期 $2\pi$ なので、長さ $2\pi$ の区間での積分は $[-\pi,\pi]$ での積分に等しい)。よって $L^2=4\pi^2R^2=4\pi\cdot\pi R^2=4\pi A(\gamma)$ で、等号が成り立つ。$\square$
$A(\gamma)$ が図形の面積になる場合(prop-iso-area-graphs、rem-iso-green)には、主定理はそのまま図形の等周不等式になる。
図形 $D$ の境界を反時計回りに 1 周する正則な閉じた $C^1$ 曲線 $\gamma$ があり、$A(\gamma)$ が $D$ の面積 $S$ に等しいとする(たとえば prop-iso-area-graphs の形の図形)。境界の長さを $L$ とすると
$$
L^2\ge4\pi S
$$
であり、等号が成り立つのは $D$ が円板のときだけである。
thm-iso-main に $A(\gamma)=S$ を代入すると $L^2\ge4\pi S$ である。等号が成り立てば、thm-iso-main により境界 $\gamma$ は円を 1 周するので、$D$ はその円が囲む円板である。逆に $D$ が半径 $R$ の円板なら $L=2\pi R$、$S=\pi R^2$ で等号が成り立つ。$\square$
楕円 $\frac{x^2}{a^2}+\frac{y^2}{b^2}\le1$ は凸な図形で、面積は $\pi ab$ である(ex-iso-circle-ellipse)。cor-iso-figure から $L^2\ge4\pi\cdot\pi ab$、すなわち
$$
L\ge2\pi\sqrt{ab}
$$
である。楕円の周の長さは初等関数で書けない積分(楕円積分)だが、下からの評価はこのように得られる。$a=2$、$b=1$ では右辺は $2\pi\sqrt2=8.885\ldots$ で、数値積分で求めた周の長さ $L=\int_{-\pi}^{\pi}\sqrt{4\sin^2t+\cos^2t}\,dt=9.688\ldots$ はこれより大きい。$L^2=93.86\ldots$、$4\pi S=8\pi^2=78.95\ldots$ である。
積分で定める内積 と Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学) を、速さ $v(t)$ と定数関数 $1$ に使うと
$$
L^2=\Bigl(\int_{-\pi}^{\pi}v(t)\cdot1\,dt\Bigr)^2\le\int_{-\pi}^{\pi}v(t)^2\,dt\int_{-\pi}^{\pi}1^2\,dt=2\pi\,E(\gamma)
$$
であり、等号は $v$ が定数のときに限る。つまり、長さが同じ曲線のなかで、エネルギー $E(\gamma)$ は速さが一定のときに最小値 $\frac{L^2}{2\pi}$ をとる。ex-iso-speed では $E=\frac{9\pi}4>2\pi=\frac{L^2}{2\pi}$ だった。thm-iso-energy の $E\ge2A$ はどんな媒介変数でも成り立つが、$L$ と比べるには、$E$ がいちばん小さくなる「速さ一定」の媒介変数で使うのが最も強い。
ex-iso-perimeter-12 の正方形や正六角形は、角で向きが急に変わるので、境界は $C^1$ 曲線ではない。そのため thm-iso-main をそのまま使うことはできない。ここでは、多角形を少し太らせた図形を使って、凸多角形にも等周不等式が成り立つことを示す。
凸多角形 $K$ と正の数 $r$ に対し、$K$ のどこかの点からの距離が $r$ 以下である点全体を $K_r$ と書き、$K$ の 平行領域 という。
凸多角形 $K$ の周の長さを $L$、面積を $S$ とする。$r>0$ のとき、$K_r$ の境界の長さと面積は
$$
L+2\pi r,\qquad S+Lr+\pi r^2
$$
である。
方針:$K_r$ を、$K$ と、辺ごとの長方形と、頂点ごとの扇形に分ける(図3)。扇形の中心角の和が外角の和 $2\pi$ になることが要点である。
段 1(外角の和)。$K$ を $n$ 角形とし、頂点 $P_1,\dots,P_n$ での内角を $\alpha_1,\dots,\alpha_n$、外角を $\theta_i:=\pi-\alpha_i$ とする。1 つの頂点から対角線を引くと $K$ は $n-2$ 個の三角形に分かれ、その内角をすべて集めると $K$ の内角になるので、$\alpha_1+\dots+\alpha_n=(n-2)\pi$ である。よって
$$
\theta_1+\dots+\theta_n=n\pi-(n-2)\pi=2\pi
$$
である。内角・外角の和は 多角形の内角の和と外角の和 でも扱う。
段 2(分け方)。$K$ の外にある $K_r$ の点 $Q$ について、$K$ の中で $Q$ に最も近い点は、ある辺の内部の点か、ある頂点である。前者なら $Q$ はその辺の外側に立てた幅 $r$ の長方形に入り、後者なら $Q$ はその頂点を中心とする半径 $r$、中心角 $\theta_i$ の扇形に入る(扇形は、頂点で隣り合う 2 辺に外向きに立てた垂線ではさまれる。その間の角は外角 $\theta_i$ に等しい)。こうして $K_r$ は、$K$、$n$ 個の長方形、$n$ 個の扇形に、境界以外で重ならずに分かれる。この分け方で重なりもすき間もないこと(最も近い点が辺の内部か頂点かで場合を分けて確かめる)は、本記事では証明しない。図3 で様子を確かめる。
段 3(面積)。辺の長さを $\ell_1,\dots,\ell_n$ とすると $\ell_1+\dots+\ell_n=L$ である。長方形の面積の和は $\ell_1r+\dots+\ell_nr=Lr$、扇形の面積の和は段 1 により
$$
\frac12r^2\theta_1+\dots+\frac12r^2\theta_n=\frac12r^2\cdot2\pi=\pi r^2
$$
である。$K$ の面積 $S$ と合わせて $S+Lr+\pi r^2$ となる。
段 4(境界の長さ)。$K_r$ の境界は、長方形の外側の辺(長さ $\ell_i$)と扇形の弧(長さ $r\theta_i$)が交互に並んだものである。長さの和は $L+r(\theta_1+\dots+\theta_n)=L+2\pi r$ である。$\square$
図3:凸多角形(青)を距離 $r$ だけ太らせた平行領域。辺ごとの長方形(橙)と頂点ごとの扇形(緑)に分かれ、扇形を集めるとちょうど半径 $r$ の円 1 枚分になることを見る図。
凸多角形の周の長さを $L$、面積を $S$ とすると
$$
L^2>4\pi S
$$
が成り立つ(等号は成り立たない)。
方針:$K_r$ の境界は角のない曲線なので cor-iso-figure が使える。その不等式を展開すると、$r$ を含む項が両辺で打ち消し合い、$K$ の不等式が残る。
段 1($K_r$ の境界は正則な $C^1$ 曲線)。長方形の外側の辺と、隣の扇形の弧は、つなぎ目で向きがそろう。つなぎ目では、辺は外向きの垂線に直交し、弧の接線も半径(その垂線)に直交するからである。そこで、境界を一定の速さでたどる媒介変数($t$ の範囲は $[-\pi,\pi]$)をとると、$x'$、$y'$ はつなぎ目でも連続で、速さは $0$ にならない。
段 2($K_r$ は凸)。$K_r$ の 2 点 $Q_1$、$Q_2$ をとり、$K$ の点 $P_1$、$P_2$ で $|Q_1-P_1|\le r$、$|Q_2-P_2|\le r$ となるものを選ぶ。$0\le\lambda\le1$ に対し、$Q=(1-\lambda)Q_1+\lambda Q_2$、$P=(1-\lambda)P_1+\lambda P_2$ とおくと、$K$ は凸なので $P$ は $K$ の点であり、ベクトルの三角不等式により
$$
|Q-P|=\bigl|(1-\lambda)(Q_1-P_1)+\lambda(Q_2-P_2)\bigr|\le(1-\lambda)r+\lambda r=r
$$
である。よって $Q$ は $K_r$ の点で、$K_r$ は凸である。rem-iso-green により、境界を反時計回りにたどる曲線の $A(\gamma)$ は $K_r$ の面積に等しい(本記事では証明しない事実 rem-iso-green を使う。凸であることはこの事実を使うために示した)。
段 3(不等式)。cor-iso-figure と prop-iso-steiner により
$$
(L+2\pi r)^2\ge4\pi\bigl(S+Lr+\pi r^2\bigr)
$$
である。左辺は $L^2+4\pi Lr+4\pi^2r^2$、右辺は $4\pi S+4\pi Lr+4\pi^2r^2$ なので、共通の項を引くと $L^2\ge4\pi S$ となる。
段 4(等号にならない)。段 3 で等号が成り立つなら、cor-iso-figure により $K_r$ は円板である。しかし $K_r$ の境界は長さ $\ell_1>0$ の線分を含み、円周は線分を含まないので、これは起こらない。よって段 3 の不等式は $>$ で、引き算した後も $L^2>4\pi S$ である。$\square$
1 辺 $1$ の正方形では $L=4$、$S=1$ で、$L^2-4\pi S=16-4\pi=3.43\ldots>0$ である。$r=1$ の平行領域では、prop-iso-steiner により周は $4+2\pi$、面積は $1+4+\pi=5+\pi$ である。
$$
(4+2\pi)^2-4\pi(5+\pi)=16+16\pi+4\pi^2-20\pi-4\pi^2=16-4\pi
$$
で、差はもとの正方形と同じ $16-4\pi$ になる。prf-cor-iso-polygon の段 3 の打ち消し合いが、数でも確かめられる。
1 辺 $s$ の正 $n$ 角形を、中心と各辺を結ぶ $n$ 個の二等辺三角形に分ける。頂角は $\frac{2\pi}n$、高さは $\frac{s/2}{\tan(\pi/n)}$ なので、面積は $S=n\cdot\frac12\cdot s\cdot\frac{s}{2\tan(\pi/n)}=\frac{ns^2}{4\tan(\pi/n)}$、周は $L=ns$ である。よって
$$
\frac{L^2}{4\pi S}=\frac{n^2s^2}{4\pi}\cdot\frac{4\tan(\pi/n)}{ns^2}=\frac{n\tan(\pi/n)}{\pi}
$$
である。
| $n$ | $3$ | $4$ | $6$ | $12$ | $100$ |
|---|---|---|---|---|---|
| $n\tan\frac\pi n$ | $3\sqrt3$ | $4$ | $2\sqrt3$ | $24-12\sqrt3$ | $3.1426\ldots$ |
| $\frac{L^2}{4\pi S}$ | $1.653\ldots$ | $1.273\ldots$ | $1.102\ldots$ | $1.023\ldots$ | $1.0003\ldots$ |
$0< x<\frac\pi2$ で $\tan x>x$ なので、$n\tan\frac\pi n>n\cdot\frac\pi n=\pi$ であり、比はいつも $1$ より大きい(cor-iso-polygon と合う)。$n$ を大きくすると比は $1$ に近づく。$n\tan\frac\pi n$ が $\pi$ を上から挟むことは 正多角形で円周率を挟む で使った評価と同じである。
凸でない多角形でも $L^2>4\pi S$ は成り立つ。凸でない多角形を、へこみをふさいだ凸多角形(凸包)に取り替えると、周は短くなり面積は大きくなるので、凸の場合に帰着できる(本記事では証明しない)。また、周の長さが同じ三角形の中では正三角形の面積が最大である。これは Heron の公式と相加平均・相乗平均の不等式で示せ、三角形の等周問題 で扱う。
主定理 thm-iso-main と、図形の形 cor-iso-figure の仮定を 1 つずつ外すと、どの主張が崩れるかを表にまとめる。「平面の図形である」「反時計回り」「ちょうど 1 周する」は cor-iso-figure の仮定(「ちょうど 1 周」は thm-iso-main の等号の条件にも入っている)である。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 曲線が閉じている(周をすべて数える) | $L^2\ge4\pi S$ | ex-iso-dido |
| 平面の図形である | $L^2\ge4\pi S$ | ex-iso-hemisphere |
| 反時計回りにたどる | $A(\gamma)$ が面積に等しい | ex-iso-clockwise |
| ちょうど 1 周する | $A(\gamma)$ が面積に等しい(cor-iso-figure の仮定)/等号の条件から「ちょうど 1 周」を落とした「像が円なら等号」 | ex-iso-twice |
半径 $r$ の半円板を考え、弧の部分の長さ $\pi r$ だけを数えて $L'=\pi r$ とする(直径の部分は、たとえば海岸線のように「ただで使える」とする)。面積は $S=\frac{\pi r^2}2$ なので
$$
L'^2=\pi^2r^2,\qquad4\pi S=2\pi^2r^2
$$
で、$L'^2<4\pi S$ となり等周不等式が成り立たない。弧だけでは閉じた曲線にならないことが原因である。境界全体の長さ $L=\pi r+2r$ を数えれば $L^2=(\pi+2)^2r^2=26.4\ldots\times r^2$ で、$4\pi S=19.7\ldots\times r^2$ より大きい。直線の岸を使う場合の最大問題は Didoの問題 で扱う(答えは半円である)。
満たす性質:平面の図形。満たさない性質:数える周が閉じた曲線であること。破る主張:$L^2\ge4\pi S$。
半径 $1$ の球面を赤道で切った北半球を考える。境界の赤道の長さは $L=2\pi$、北半球の面積は球面の面積 $4\pi$ の半分で $S=2\pi$ である。
$$
L^2=4\pi^2,\qquad4\pi S=8\pi^2
$$
なので $L^2<4\pi S$ となる。球面は曲がっているので、同じ周で平面より広い面積を囲める。
満たす性質:境界は閉じた円。満たさない性質:図形が平面にあること。破る主張:$L^2\ge4\pi S$。
半径 $r$ の円を $x=r\cos t$、$y=-r\sin t$ とたどると、ex-iso-circle-ellipse の 3 により $A(\gamma)=-\pi r^2$ である。$L^2=4\pi^2r^2\ge4\pi A(\gamma)$ は成り立つが、右辺が負なので何も言っていない。$A(\gamma)$ は円板の面積 $\pi r^2$ ではない。
満たす性質:正則な閉じた $C^1$ 曲線。満たさない性質:反時計回り。破る主張:$A(\gamma)$ が囲む図形の面積に等しいこと(cor-iso-figure の仮定)。
$x=r\cos2t$、$y=r\sin2t$ は半径 $r$ の円を 2 周する。長さは $L=4\pi r$、符号付き面積は ex-iso-energy の 2 と同じ計算で $A(\gamma)=2\pi r^2$ である。
$$
L^2=16\pi^2r^2>8\pi^2r^2=4\pi A(\gamma)
$$
で、曲線の像は円なのに等号にならない。また $A(\gamma)=2\pi r^2$ は円板の面積の 2 倍で、面積ではない。
満たす性質:正則な閉じた $C^1$ 曲線で、像は円。満たさない性質:ちょうど 1 周すること。破る主張:「像が円なら等号」と、$A(\gamma)$ が面積に等しいこと。thm-iso-main の等号の条件に「ちょうど 1 周」が入っているのはこのためである。
周の長さ $4$ の長方形で、辺を $2-\varepsilon$ と $\varepsilon$($0<\varepsilon<1$)にとると、面積は $\varepsilon(2-\varepsilon)<2\varepsilon$ である。$\varepsilon=\frac1{100}$ なら面積は $\frac{199}{10000}$ で、$\varepsilon$ を小さくすれば面積はいくらでも $0$ に近づく。等周不等式は面積の上からの限界 $S\le\frac{L^2}{4\pi}$ を与えるだけで、周の長さを決めても面積は下からは抑えられない。
証明を振り返ると、曲線 $\gamma$ を Fourier 係数の列 $(a_n,b_n,c_n,d_n)_{n\ge1}$ という「無限次元のベクトル」とみて、エネルギーと面積をその 2 次式として比べたことになる。エネルギーでは第 $n$ 成分に $n^2$、面積では $n$ が掛かり、$n^2\ge n$ が不等式を生んだ。同じ計算から、次の不等式も得られる。
$f$ は $[-\pi,\pi]$ で $C^1$ 級、$f(-\pi)=f(\pi)$、$\int_{-\pi}^{\pi}f(t)\,dt=0$ を満たすとする。このとき
$$
\int_{-\pi}^{\pi}f'(t)^2\,dt\ge\int_{-\pi}^{\pi}f(t)^2\,dt
$$
であり、等号は $f(t)=a\cos t+b\sin t$ の形のときだけ成り立つ。
$f$ の係数を $a_n$、$b_n$ とする。仮定から $a_0=\frac1\pi\int f\,dt=0$ である。thm-iso-parseval と lem-iso-derivative により
$$
\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f'^2\,dt-\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f^2\,dt=\sum_{n=1}^{\infty}n^2\bigl(a_n^2+b_n^2\bigr)-\sum_{n=1}^{\infty}\bigl(a_n^2+b_n^2\bigr)=\sum_{n=1}^{\infty}(n^2-1)\bigl(a_n^2+b_n^2\bigr)\ge0
$$
である。等号は $n\ge2$ のすべての係数が $0$ のときに限り、thm-iso-parseval の後半によりそのとき $f=a_1\cos t+b_1\sin t$ である。逆にこの形なら両辺はともに $\pi(a_1^2+b_1^2)$ で等しい。$\square$
この不等式は大学で Wirtingerの不等式 と呼ばれる。ほかにも次のような広がりがある。
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