Frobeniusの定理(可積分性)

同義語:Frobeniusの定理フロベニウスの定理(可積分性)Frobeniusの積分可能性定理包合的な分布積分多様体Frobenius theorem (integrability)

概要

Frobeniusの定理(可積分性)(Frobenius theorem)とは、多様体 $M$ 上の階数 $k$ の分布 $D$(各点の接空間の $k$ 次元部分空間の滑らかな族)について、$D$ に値をとるベクトル場が Lie 括弧で閉じていること(包合性)と、各点のまわりに $D=\operatorname{span}\{\partial/\partial y^1,\dots,\partial/\partial y^k\}$ となる局所座標があること、各点を通る積分多様体があることが同値であるという定理である。$k=1$ の場合は整流定理である。$\mathbb{R}^3$ の $\partial_x$ と $\partial_y+x\,\partial_z$ が張る平面の族は包合的でなく、どの点を通る積分曲面ももたない。大域版は葉層構造を与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可微分多様体, ベクトル場, Lie括弧, ベクトル場の流れ

多様体の各点に接空間の $k$ 次元部分空間 $D_p$ を滑らかに指定したもの(分布)が与えられたとき、「接空間がつねに $D$ に一致する $k$ 次元の部分多様体」(積分多様体)で多様体を局所的に埋めつくせるかを問う。$k=1$ なら、0 にならないベクトル場の積分曲線がそれを与えるので、答えはいつも肯定的である。$k\ge2$ ではそうはいかず、$\mathbb{R}^3$ の各点に平面を指定しても、それらに接する曲面がないことがある。Frobenius の定理(Frobenius theorem)は、積分多様体で局所的に埋めつくせるための必要十分条件が、$D$ に値をとるベクトル場が Lie括弧 で閉じていること(包合性)であると述べる。このとき、分布は適当な局所座標で座標平面の族 $\{y^{k+1},\dots,y^n=\text{一定}\}$ の接空間の族になる。包合性は各点での Lie 括弧の計算だけで確かめられる条件であり、定理はこれを「曲面が存在する」という情報に変える。この記事では局所の形を完全に証明し、多様体全体での形(葉層)は案内にとどめる。

定義

以下、$M$ を $n$ 次元の滑らかな多様体(可微分多様体)、$0\le k\le n$ とする。開集合 $U\subset M$ 上の滑らかなベクトル場の全体を $\mathfrak{X}(U)$ と書く。

分布と局所枠

各点 $p\in M$ に $T_pM$ の $k$ 次元部分空間 $D_p$ を対応させたもの $D$ が、階数 $k$ の(滑らかな)分布であるとは、各点 $p$ に開近傍 $U$ と $X_1,\dots,X_k\in\mathfrak{X}(U)$ があって、すべての $q\in U$ で $X_1(q),\dots,X_k(q)$ が $D_q$ の基底になることをいう。この $X_1,\dots,X_k$ を $U$ 上の $D$ の局所枠という。ベクトル場 $X\in\mathfrak{X}(U)$ がすべての $q\in U$ で $X_q\in D_q$ をみたすとき、$X$ は $D$ に値をとるといい、そのようなもの全体を $\Gamma(U,D)$ と書く。

包合的な分布

分布 $D$ が包合的(involutive)であるとは、任意の開集合 $U$ と $X,Y\in\Gamma(U,D)$ について $[X,Y]\in\Gamma(U,D)$ となることをいう。

積分多様体と平板座標
  1. $M$ の部分集合 $S$ が $k$ 次元の部分多様体であるとは、$S$ の各点 $q$ に $M$ の局所座標 $(V;z^1,\dots,z^n)$ があって $S\cap V=\{z^{k+1}=\dots=z^n=0\}$ となることをいう。このとき $(z^1,\dots,z^k)$ の制限が $S$ の局所座標を与え、$T_qS$ は $T_qM$ の部分空間 $\operatorname{span}\{\partial/\partial z^1|_q,\dots,\partial/\partial z^k|_q\}$ とみなされる。
  2. $k$ 次元の部分多様体 $S$ で、すべての $q\in S$ で $T_qS=D_q$ となるものを $D$ の積分多様体という。各点を通る積分多様体があるとき、$D$ は積分可能であるという。
  3. $M$ の局所座標 $(V;y^1,\dots,y^n)$ で、$V$ の各点で $D=\operatorname{span}\{\partial/\partial y^1,\dots,\partial/\partial y^k\}$ となるものを $D$ の平板座標という。各点のまわりに平板座標があるとき、$D$ は完全積分可能であるという。

平板座標 $(V;y)$ があれば、各 $c\in\mathbb{R}^{n-k}$ について $V$ の切り口 $\{q\in V\mid(y^{k+1}(q),\dots,y^n(q))=c\}$ は(空でなければ)$D$ の積分多様体である($z:=y-(0,c)$ を (i) の座標にとればよい)。包合性は局所枠だけで確かめられる。

局所枠による判定

$X_1,\dots,X_k$ を開集合 $U$ 上の $D$ の局所枠とする。
(R1) $X\in\Gamma(U',D)$($U'\subset U$ は開集合)は、$U'$ 上の滑らかな関数 $f^1,\dots,f^k$ によってただ 1 通りに $X=\sum_if^iX_i$ と書ける。
(R2) $D$ が包合的であることと、$M$ を覆う局所枠のそれぞれについて、すべての $i,j$ で $[X_i,X_j]\in\Gamma(U,D)$ となることは同値である。

(i):各点 $q$ で $X_q\in D_q$ は基底 $X_i(q)$ の 1 次結合としてただ 1 通りに書けるので、係数 $f^i(q)$ が定まる。滑らかさを示す。$q_0\in U'$ のまわりの局所座標で $X_i=\sum_aX_i^a\,\partial_a$、$X=\sum_aX^a\,\partial_a$ と書くと、$n\times k$ 行列 $(X_i^a)$ は各点で階数 $k$ なので、$q_0$ で正則な $k$ 次の小行列 $\Delta$ があり、連続性から $q_0$ の近くでも正則である。$X=\sum_if^iX_i$ の成分のうち $\Delta$ の行にあたる $k$ 本の式は $(f^i)$ についての連立 1 次方程式で、Cramer の公式から $f^i$ は成分 $X_i^a$、$X^a$ の有理式(分母は $\det\Delta\ne0$)であり、滑らかである。
(ii):前者から後者は定義そのものである。逆を示す。$X,Y\in\Gamma(U',D)$ とする。Lie 括弧の値は各点の近くのベクトル場だけで決まるので、$U'$ が 1 つの局所枠の定義域に含まれるとしてよい。(i) により $X=\sum_if^iX_i$、$Y=\sum_jg^jX_j$ と書け、Lie括弧の記事の命題「Lie 括弧の基本性質」の (i)(iii) により
$$ [X,Y]=\sum_{i,j}\Bigl(f^ig^j\,[X_i,X_j]+f^i\,(X_ig^j)\,X_j-g^j\,(X_jf^i)\,X_i\Bigr) $$
である。仮定から右辺の各項は $D$ に値をとるので、$[X,Y]\in\Gamma(U',D)$ である。$\square$

定理の主張

Frobenius の定理

$M$ 上の階数 $k$ の分布 $D$ について、次は同値である。
(R1) $D$ は包合的である。
(R2) $D$ は完全積分可能である(各点のまわりに平板座標がある)。
(R3) $D$ は積分可能である(各点を通る積分多様体がある)。

3 つの条件の関係
  1. は Lie 括弧という代数的な条件、(R2) と (R3) は積分多様体の存在という幾何的な条件である。定理は、微分方程式を解かずに括弧の計算だけで積分多様体の存在が判定できることを述べている。階数 $1$ の分布は、局所的に 1 本のベクトル場 $X$ で張られ、$[fX,gX]=(f\,Xg-g\,Xf)X$ が $D$ に入るので、つねに包合的である。一方、$\mathbb{R}^3$ の分布 $D=\langle\partial_x+y\partial_z,\ \partial_y\rangle$ では $[\partial_y,\partial_x+y\partial_z]=\partial_z\notin D$ なので包合的でなく、したがって積分可能でもない。

(ii)⇒(iii) は定義の後で見たとおりである(平板座標の切り口)。(iii)⇒(i) を次の節で、(i)⇒(ii) を「包合的な分布の平板座標」の節で示す。後者が定理の本体である。

積分可能なら包合的

積分多様体と Lie 括弧

$D$ が積分可能なら、$D$ は包合的である。より詳しく、点 $p$ を通る積分多様体 $S$ があれば、$p$ の近くで $D$ に値をとる任意の $X,Y$ について $[X,Y]_p\in D_p$ である。

$X,Y\in\Gamma(U,D)$、$p\in U$ とし、$p$ を通る積分多様体 $S$ をとる。$S\cap U$ は開集合 $U$ の中の部分多様体であり、その各点 $q$ で $X_q,Y_q\in D_q=T_qS$、すなわち $X$、$Y$ は $S\cap U$ に接する。Lie括弧の記事の命題「積分曲面に接するベクトル場の括弧」(多様体 $U$ と部分多様体 $S\cap U$ に使う)により、$[X,Y]_p\in T_pS=D_p$ である。$p$ は任意なので $[X,Y]\in\Gamma(U,D)$ である。$\square$

この命題は「1 点を通る積分多様体があるだけで、その点での括弧が $D$ に入る」ことを言っている。したがって包合的でない分布では、括弧が $D_p$ から外れる点 $p$ を通る積分多様体は 1 つもない(ex-fr-counterexamples の 1 行目)。

包合的な分布の平板座標

証明は $k$ についての帰納法である。まず局所枠の 1 本 $X_1$ をベクトル場の流れの記事の定理「整流定理」で $\partial/\partial y^1$ にまっすぐにし、残りの枠を $y^1$ を変えない形に取り替える。すると残りの枠は切り口 $\{y^1=0\}$ の上の階数 $k-1$ の包合的な分布を定めるので、帰納法の仮定が使える。最後に、切り口で得た座標を $y^1$ の方向に延ばしたものが平板座標になることを、線形の常微分方程式の解の一意性で示す。

包合的なら完全積分可能であること

段 0(帰着).主張は局所的なので、$p$ のまわりの局所座標で、$M$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合、$p=0$ としてよい。「任意の $n$、$\mathbb{R}^n$ の任意の開集合上の包合的な階数 $k$ の分布は、各点のまわりに平板座標をもつ」ことを $k$ についての帰納法で示す。$k=0$ なら $D=0$ であり、任意の局所座標が平板座標である。$k\ge1$ とし、$k-1$ では成り立つとする。
段 1(1 本目をまっすぐにする).$0$ の近くの局所枠 $X_1,\dots,X_k$ をとる。$X_1(0)\ne0$ なので、整流定理により $0$ のまわりの局所座標 $(V;y^1,\dots,y^n)$ で、$V$ 上 $X_1=\partial/\partial y^1$ となるものがある。平行移動して $y(0)=0$ とし、$V$ を小さくとり直して、$y(V)=(-a,a)\times Q$($a>0$、$Q$ は $\mathbb{R}^{n-1}$ の $0$ を中心とする開球)としてよい。以下、$V$ の点を座標 $(y^1,u)$($u=(y^2,\dots,y^n)\in Q$)で表す。
段 2(枠の取り替え).$Y_1:=X_1$、$Y_i:=X_i-(X_iy^1)\,X_1$($2\le i\le k$)とおく。$Y_1,\dots,Y_k$ は $X_i$ から正則な三角行列で移ったものなので、$V$ 上の $D$ の局所枠であり、$Y_1y^1=1$、$Y_iy^1=0$($i\ge2$)である。包合性と lem-fr-frame (i) により、滑らかな関数 $c_{ij}^l$ で $[Y_i,Y_j]=\sum_{l=1}^kc_{ij}^lY_l$ と書ける。両辺を $y^1$ に施すと、左辺は $Y_i(Y_jy^1)-Y_j(Y_iy^1)$ で、$j\ge2$ なら($Y_jy^1=0$、$Y_iy^1$ は定数 $0$ または $1$ なので)$0$ であり、右辺は $c_{ij}^1$ である。よって
$$ [Y_i,Y_j]=\sum_{l=2}^kc_{ij}^l\,Y_l\qquad(1\le i\le k,\ 2\le j\le k) $$
である。
段 3(切り口の分布).$i\ge2$ では $Y_iy^1=0$ なので、$Y_i$ の $\partial/\partial y^1$ の成分は $0$ であり、$Y_i=\sum_{a\ge2}Y_i^a\,\partial/\partial y^a$ と書ける。切り口 $\{y^1=0\}$ を $Q$ と同一視し、$Q$ 上のベクトル場 $\widehat Y_i:=\sum_{a\ge2}Y_i^a(0,u)\,\partial/\partial u^a$($2\le i\le k$)を考える。$Y_i(0,u)$ たちは 1 次独立なので $\widehat Y_i(u)$ たちも 1 次独立であり、$\widehat D:=\operatorname{span}\{\widehat Y_2,\dots,\widehat Y_k\}$ は $Q$ 上の階数 $k-1$ の分布である。Lie括弧の記事の命題「局所座標での成分」の式で $[Y_i,Y_j]$ の成分を計算すると、$Y_i$、$Y_j$ は $\partial/\partial y^1$ の成分をもたないので $y^1$ についての微分は現れず、$y^1=0$ で
$$ [\widehat Y_i,\widehat Y_j](u)=\sum_{a\ge2}[Y_i,Y_j]^a(0,u)\,\frac{\partial}{\partial u^a}=\sum_{l=2}^kc_{ij}^l(0,u)\,\widehat Y_l(u) $$
である。lem-fr-frame (ii) により $\widehat D$ は包合的である。帰納法の仮定により、$0$ の開近傍 $Q'\subset Q$ 上の局所座標 $(z^2,\dots,z^n)$ で、$Q'$ 上 $\widehat D=\operatorname{span}\{\partial/\partial z^2,\dots,\partial/\partial z^k\}$ となるものがある。とくに $\widehat Y_iz^j=0$($2\le i\le k< j\le n$)である。
段 4(座標を延ばす).$V':=\{(y^1,u)\mid\lvert y^1\rvert< a,\ u\in Q'\}$ の上で
$$ w^1:=y^1,\qquad w^j:=z^j(u)\quad(2\le j\le n) $$
とおく。$(y^1,u)\mapsto(y^1,z(u))$ は $(-a,a)\times Q'$ から開集合 $(-a,a)\times z(Q')$ への微分同相写像なので、$(V';w)$ は局所座標である。$j>k$ を固定し、$g_i:=Y_iw^j$($2\le i\le k$)とおく。$y^1=0$ では、$Y_i$ の成分が $\widehat Y_i$ の成分と一致するので $g_i(0,u)=\widehat Y_iz^j(u)=0$ である。また $Y_1=\partial/\partial y^1$ と $Y_1w^j=0$($w^j$ は $y^1$ によらない)、段 2 の式から
$$ \frac{\partial g_i}{\partial y^1}=Y_1(Y_iw^j)=[Y_1,Y_i]\,w^j+Y_i(Y_1w^j)=\sum_{l=2}^kc_{1i}^l\,g_l $$
である。$u\in Q'$ を固定すると、$s\mapsto G(s):=(g_2,\dots,g_k)(s,u)$ は $(-a,a)$ 上の線形の方程式 $G'=C(s)G$($C(s):=(c_{1i}^l(s,u))$ は連続)の解で $G(0)=0$ をみたす。線形の方程式の解は初期値で決まる(常微分方程式の記事の定理「線形方程式の解の大域存在と解空間」の (ii))ので $G\equiv0$ である。よって $V'$ 上 $Y_iw^j=0$($2\le i\le k< j$)であり、$Y_1w^j=0$ と合わせて、すべての $i\le k< j$ で $Y_iw^j=0$ である。
段 5(結論).$q\in V'$ とする。座標 $w$ に関して、接ベクトル $v$ の $\partial/\partial w^j$ の成分は $v(w^j)$ である。段 4 により $D_q=\operatorname{span}\{Y_i(q)\}$ の元はすべて $j>k$ の成分が $0$ であり、$D_q\subset\operatorname{span}\{\partial/\partial w^1|_q,\dots,\partial/\partial w^k|_q\}$ である。両辺とも $k$ 次元なので等号が成り立ち、$(V';w)$ は $D$ の平板座標である。$\square$

段 2 で括弧の $Y_1$ の係数 $c_{ij}^1$ が消えることが、切り口に落とした分布が再び包合的になり(段 3)、さらに切り口での性質が $y^1$ の方向に伝わる(段 4)ことの両方を支えている。包合性はこの 2 か所で使われた。

積分多様体の局所的な一意性

平板座標の中では、積分多様体は切り口の一部に限られる。

積分多様体は切り口に含まれる

$(V;w)$ を $D$ の平板座標、$S\subset V$ を連結な積分多様体とする。このとき $w^{k+1},\dots,w^n$ は $S$ の上で一定であり、$S$ は 1 つの切り口 $\{(w^{k+1},\dots,w^n)=c\}$ に含まれる。

$j>k$ とし、$h:=w^j|_S$ を $S$ 上の関数とみる。$q\in S$ と $v\in T_qS=D_q$ について $dh_q(v)=v(w^j)$ は $v$ の $\partial/\partial w^j$ の成分であり、$D_q=\operatorname{span}\{\partial/\partial w^1,\dots,\partial/\partial w^k\}$ なので $0$ である。したがって $S$ の局所座標で $h$ のすべての偏導関数は $0$ であり、$h$ は各点の近く(座標球の上)で一定である。$h$ が値 $h(q_0)$ をとる点の集合は $S$ の開集合かつ閉集合であり、$S$ は連結なので $S$ 全体に等しい。$\square$

例

階数 1 の分布と整流定理

$X$ が $M$ 上の 0 にならないベクトル場なら、$D_p:=\operatorname{span}\{X_p\}$ は階数 1 の分布で、$X$ 自身が局所枠である。$[X,X]=0$ なので lem-fr-frame (ii) により $D$ はつねに包合的であり、Frobenius の定理の $k=1$ の場合は、ベクトル場の流れの記事の定理「整流定理」そのものである。積分多様体は $X$ の積分曲線(の像の一部)である。

同心球面の接平面

$M:=\mathbb{R}^3\setminus\{0\}$ の点 $p$ に、$p$ に直交する平面 $D_p:=p^\perp$ を対応させる。$p$ を通る球面 $\{\lvert x\rvert=\lvert p\rvert\}$ の $p$ での接平面は $p^\perp$ なので、球面は $D$ の積分多様体であり、$D$ は積分可能である。極座標($x=r\sin\theta\cos\phi$、$y=r\sin\theta\sin\phi$、$z=r\cos\theta$、$z$ 軸を除き $\phi$ の範囲を長さ $2\pi$ 未満の開区間に限った範囲)を $(\theta,\phi,r)$ の順に並べたものは平板座標で、$D=\operatorname{span}\{\partial/\partial\theta,\partial/\partial\phi\}$ である($\theta$、$\phi$ を動かしても $r=\lvert p\rvert$ は変わらないので、$\partial/\partial\theta$、$\partial/\partial\phi$ は球面に接し、1 次独立である)。
包合性を括弧で確かめることもできる。$e_1,e_2,e_3$ を標準基底として、回転の場 $L_i(p):=e_i\times p$、すなわち
$$ L_1=y\,\partial_z-z\,\partial_y,\qquad L_2=z\,\partial_x-x\,\partial_z,\qquad L_3=x\,\partial_y-y\,\partial_x $$
はどれも $D$ に値をとり($e_i\times p\perp p$)、各点で $D_p$ を張る。成分の式から $[L_1,L_2]=-L_3$ であり、括弧は再び $D$ に値をとる。$(e_1\times p)\times(e_2\times p)=z\,p$ なので、$e_1\times p$ と $e_2\times p$ は $z\ne0$ の点で 1 次独立であり、そこで $L_1,L_2$ は局所枠であり、lem-fr-frame (ii) の条件がみたされる(他の点では別の 2 本を枠にとる)。

1-形式の核:積分可能な場合

$\mathbb{R}^3$ で $D:=\operatorname{span}\{X,Y\}$、$X:=\partial_x+y\,\partial_z$、$Y:=\partial_y+x\,\partial_z$ とする。$D_q$ は 1-形式 $dz-y\,dx-x\,dy=d(z-xy)$ の核である。成分の式から
$$ [X,Y]=(\partial_xx)\,\partial_z-(\partial_yy)\,\partial_z=0 $$
なので $D$ は包合的である。実際、関数 $f:=z-xy$ について $Xf=y-y=0$、$Yf=x-x=0$ なので、曲面 $\{z=xy+c\}$ は積分多様体であり、$(x,y,z-xy)$ が平板座標である。次の反例の表の 1 行目は、1-形式を $dz-x\,dy$ に変えただけで包合性が失われる例である。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
包合的$\mathbb{R}^3$ の $\operatorname{span}\{\partial_x,\ \partial_y+x\,\partial_z\}$積分多様体の存在(どの点を通るものもない)
包合性をすべての点で要求する(1 点だけにする)$\mathbb{R}^3$ の $\operatorname{span}\{\partial_x,\ \partial_y+x^2\partial_z\}$ と原点原点を通る積分多様体の存在
階数が一定$\mathbb{R}^2$ の $\operatorname{span}\{\partial_x,\ \rho(x)\,\partial_y\}$($\rho$ は下の関数)原点を通る積分多様体の存在
反例の確かめ

1 行目:$X:=\partial_x$、$Y:=\partial_y+x\,\partial_z$ は各点で 1 次独立で、階数 2 の分布 $D_q=\{(a,b,bx)\}$ を定める(満たす性質:滑らかな分布)。$[X,Y]=\partial_z$ であり、$(0,0,1)=(a,b,bx)$ となる $a,b$ はないので $\partial_z\notin D_q$ である(満たさない性質:包合的)。prop-fr-necessary により、どの点 $q$ を通る積分多様体もない。破れる含意は「滑らかな平面の族には積分曲面がある」である。この $D$ は 1-形式 $dz-x\,dy$ の核であり、Lie括弧の記事の反例の表の 3 行目と同じ例である。
2 行目:$X:=\partial_x$、$Y:=\partial_y+x^2\partial_z$ について $[X,Y]=2x\,\partial_z$ である。原点では $[X,Y]_0=0\in D_0$ だが(満たす性質:原点での括弧の条件)、$x\ne0$ の点では $\partial_z\notin D_q$ なので $[X,Y]_q\notin D_q$ である(満たさない性質:包合性)。

原点を通る積分多様体がないことの確かめを開く

原点を通る積分多様体 $S$ があったとする。$T_0S=D_0=\operatorname{span}\{\partial_x,\partial_y\}$ なので、$S$ の原点のまわりの局所座標 $(s^1,s^2)$ で、関数 $x|_S$ の微分は原点で $0$ でない。したがって $x|_S$ は原点のどの近傍でも定数でなく、原点のいくらでも近くに $x\ne0$ となる $S$ の点 $q$ がある。その点で prop-fr-necessary を使うと $[X,Y]_q\in D_q$ となるが、これは上で見たことに反する。

破れる含意は「1 点で括弧の条件がみたされれば、その点を通る積分多様体がある」である。
3 行目:$\rho(x):=0$($x\le0$)、$\rho(x):=e^{-1/x}$($x>0$)は $\mathbb{R}$ 上 $C^\infty$ 級である(ベクトル場の記事の補題「隆起関数の存在と局所関数の延長」の証明の最初の段)。$E_q:=\operatorname{span}\{\partial_x,\rho(x)\partial_y\}$ は $x\le0$ で 1 次元、$x>0$ で 2 次元であり、階数が一定でないので分布の定義をみたさない(満たさない性質)。括弧 $[\partial_x,\rho\,\partial_y]=\rho'\,\partial_y$ は各点で $E_q$ に入る($x\le0$ では $\rho'=0$、$x>0$ では $E_q=T_q\mathbb{R}^2$)ので、括弧で閉じるという条件はみたされる(満たす性質)。しかし原点を通り、各点 $q$ で接空間が $E_q$ に一致する部分多様体はない:そのような $S$ は原点で 1 次元なので曲線であり、原点での接線は $x$ 軸の方向だから、$S$ は原点のいくらでも近くに $x>0$ の点をもつ。そこでは $E_q$ が 2 次元なので、1 次元の $S$ の接空間とは一致しない。破れる含意は「Lie 括弧で閉じた接空間の族は積分可能である」であり、Frobenius の定理の階数一定の仮定が落とせないことを示す。

補足

  • 1-形式による言い換え:階数 $n-r$ の分布が $r$ 個の 1 次独立な 1-形式 $\omega_1,\dots,\omega_r$ の共通の核として与えられているとき、包合性は $d\omega_i\wedge\omega_1\wedge\dots\wedge\omega_r=0$($1\le i\le r$)と同値である。この形は微分形式の記事の定理「Frobenius の定理」に述べられており、同値の理由は同記事の注意「Frobenius の定理の出典と説明」にある式 $d\omega(X,Y)=X(\omega(Y))-Y(\omega(X))-\omega([X,Y])$ である。ex-fr-kernel の $\omega=d(z-xy)$ では $d\omega=0$、反例の表の 1 行目の $\omega=dz-x\,dy$ では $\omega\wedge d\omega=-dx\wedge dy\wedge dz\ne0$ である。
  • 大域的な形:包合的な分布 $D$ があると、平板座標の切り口を貼り合わせて、$M$ は葉と呼ばれる互いに交わらない連結な部分集合に分かれる。各葉はそれ自身の多様体の構造をもち、包含写像は単射なはめ込みで、各点で接空間が $D$ に一致する。これが葉層構造であり、Frobenius の定理の大域版と呼ばれる(Mic08 3.19・3.20、pp. 33–34)。この記事では証明しない。
  • 別証明:Mic08 3.18(p. 32)は、段 2 と同じ考え方の取り替えで括弧がすべて $0$ の局所枠を作り、可換な流れを合成した写像 $(t_1,\dots,t_k,y)\mapsto\Phi^{Y_1}_{t_1}\circ\dots\circ\Phi^{Y_k}_{t_k}(y)$ の逆写像を平板座標にする(括弧が $0$ なら流れが可換であることは同書 3.15(p. 28)、同じ構成で括弧が $0$ の枠を座標ベクトル場にすることは同書 3.17(p. 31))。この記事の帰納法による証明は、流れを整流定理でしか使わず、代わりに線形の常微分方程式の一意性を使う。

関連項目

参考文献

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