Donaldson理論(Donaldson theory)とは、滑らかな向き付けられた閉 $4$ 次元多様体の上の $\mathrm{SU}(2)$ 束や $\mathrm{SO}(3)$ 束の反自己双対接続(インスタントン)のモジュライ空間を調べ、多様体の微分位相的な性質を引き出す理論である。代表的な結果は、滑らかな閉 $4$ 次元多様体の交叉形式が定値なら整数上で対角化できるという Donaldson の定理と、$b^+$ が $3$ 以上の奇数である単連結な多様体に定まる多項式不変量で、後者は同相だが微分同相でない多様体を区別する。土台にあるのは、閉多様体の上で Yang–Mills 汎関数が第 2 Chern 数の $8\pi^2$ 倍以上で、等号が反自己双対接続でちょうど成り立つというエネルギーの等式である。
Donaldson 理論(Donaldson theory)は、滑らかな向き付けられた $4$ 次元多様体の上で、$\mathrm{SU}(2)$ 束(または $\mathrm{SO}(3)$ 束)の 反自己双対接続(インスタントン)を調べ、その解の空間(モジュライ空間)の形から多様体の微分位相的な性質を引き出す理論である。反自己双対方程式は理論物理の Yang–Mills 方程式から来たもので、Donaldson は 1982 年にこれを $4$ 次元多様体の研究の道具に転じた(Ati87 pp. 3–4)。
理論の結果は 2 つの方向に分かれる(Don87 pp. 47–48、p. 50)。1 つは、滑らかな閉 $4$ 次元多様体に現れる交叉形式への制限である。代表は Donaldsonの定理:向き付けられた滑らかな閉 $4$ 次元多様体の交叉形式が定値なら、整数上で対角化できる。もう 1 つは、モジュライ空間から作る Donaldson 不変量 で、同相だが微分同相でない多様体を区別する。これらの主定理は研究水準の解析に基づき、この記事では証明しない。
この記事では、理論の土台にある 2 つの事実を完全に証明する。1 つは、接続の曲率の $L^2$ ノルム(Yang–Mills 汎関数)が第 2 Chern 数で下から抑えられ、等号が反自己双対接続でちょうど成り立つこと(エネルギーの等式)である。もう 1 つは、$b_1=0$ で交叉形式が負定値のときの可約な接続の数え上げと、それを使って Donaldson の定理の証明の最後の段(符号数と格子の議論)を完全に行うことである。
$X$ を向き付けられた連結な滑らかな閉 $4$ 次元多様体とし、Riemann 計量 $g$ を 1 つ固定する。
$X$ の交叉形式 $Q_X(a,b)=\langle a\smile b,[X]\rangle$ は $H^2(X;\mathbb{Z})$ をねじれで割った自由加群の上の対称なユニモジュラ形式である(符号数(多様体) の定義「交叉形式と符号数」と、そのあとの注意)。実係数に延ばした $Q_X$ を対角化したときの正の係数の個数を $b^+(X)$、負の係数の個数を $b^-(X)$ と書く。$b^++b^-=b_2(X)$、$b^+-b^-=\sigma(X)$(符号数)である。$Q_X$ が負定値であることは $b^+(X)=0$ と同じである。
$4$ 次元では $2$ 次形式の上の Hodge のスター作用素 $*$ が $**=1$ をみたす(Hodgeのスター作用素 の定理「スター作用素の2回の合成」)。
各点の $2$ 次形式の空間 $\Lambda^2$ は、$*$ の固有値 $+1$、$-1$ の固有空間 $\Lambda^+$、$\Lambda^-$ の直交直和に分かれ、$\omega=\omega^++\omega^-$ について
$$
\omega\wedge\omega=\bigl(\lvert\omega^+\rvert^2-\lvert\omega^-\rvert^2\bigr)\,\mathrm{vol}_g
$$
が成り立つ。さらに、計量を正の関数 $\lambda$ で $\lambda^2g$ に取り替えても、$2$ 次形式の上の $*$、したがって $\Lambda^\pm$ は変わらない。
要点:$\omega^\pm:=\tfrac12(\omega\pm*\omega)$ と、$\omega\wedge\omega=\langle\omega,*\omega\rangle\mathrm{vol}_g$。
$**=1$ なので $\omega^\pm:=\tfrac12(\omega\pm*\omega)$ とおくと $*\omega^\pm=\pm\omega^\pm$、$\omega=\omega^++\omega^-$ であり、$\Lambda^2=\Lambda^+\oplus\Lambda^-$ である。$*$ は等長写像なので $\langle*\alpha,\beta\rangle=\langle**\alpha,*\beta\rangle=\langle\alpha,*\beta\rangle$ である(Hodgeのスター作用素 の定理「スター作用素と内積」の 2)。これを $\alpha\in\Lambda^+$、$\beta\in\Lambda^-$ に使うと $\langle\alpha,\beta\rangle=-\langle\alpha,\beta\rangle$ なので、$\Lambda^+$ と $\Lambda^-$ は直交する。同じ定理の 1 から $\omega\wedge\omega=\omega\wedge*(*\omega)=\langle\omega,*\omega\rangle\mathrm{vol}_g$ で、$*\omega=\omega^+-\omega^-$ と直交性から $\langle\omega,*\omega\rangle=\lvert\omega^+\rvert^2-\lvert\omega^-\rvert^2$ である。最後の主張は、$p$ 次形式の上で $\lambda^2g$ のスター作用素が $\lambda^{4-2p}*$ になること(Hodgeのスター作用素 の命題「計量の共形変形とスター作用素」)を $p=2$ に使えばよい。$\square$
$\mathbb{R}^4$ の標準の計量と向きでは、$\Lambda^+$ は $dx^1\wedge dx^2+dx^3\wedge dx^4$、$dx^1\wedge dx^3-dx^2\wedge dx^4$、$dx^1\wedge dx^4+dx^2\wedge dx^3$ で張られ、$\Lambda^-$ は符号を逆にした 3 つで張られる(Hodgeのスター作用素 の例「4 次元と自己双対形式」)。
$\mathrm{SU}(2)$ 束 とは、Hermite 計量をもつ階数 $2$ の複素ベクトル束 $E\to X$ で、行列式束 $\Lambda^2E$ に計量と両立する自明化を 1 つ選んだものをいう。$X$ は連結な閉 $4$ 次元多様体なので $H^4(X;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ で、$E$ の第 2 Chern 類を整数
$$
k(E):=\langle c_2(E),[X]\rangle
$$
と同一視する。$E$ の $\mathrm{SU}(2)$ 接続 とは、計量と行列式束の自明化を保つ接続 $A$ のことで、ユニタリな局所枠での接続行列は $\mathfrak{su}(2)$(跡が $0$ の歪 Hermite 行列)に値をとる $1$ 次形式である。曲率 $F_A$ は、跡が $0$ の歪 Hermite な自己準同型の束 $\mathfrak{su}(E)$ に値をとる $2$ 次形式である(曲率形式)。
$\mathfrak{su}(2)$ に内積 $\langle\xi,\eta\rangle:=-\operatorname{tr}(\xi\eta)$ を入れる。歪 Hermite な $\xi$ について $-\operatorname{tr}(\xi^2)=\operatorname{tr}(\xi\xi^*)$ は成分の絶対値の 2 乗和なので、これは正定値で、共役 $\xi\mapsto u\xi u^{-1}$($u\in\mathrm{SU}(2)$)で保たれる。したがって $\mathfrak{su}(E)$ の各ファイバーに内積が定まる。これと計量 $g$ から $\mathfrak{su}(E)$ 値 $2$ 次形式のノルム $\lvert F_A\rvert$ が定まり、$F_A=F_A^++F_A^-$ と分解できる。
lem-dt-lambda2 の最後の主張により、反自己双対方程式は計量の共形類だけで決まる(Don87 p. 44)。
反自己双対接続の特別な性質の多くは、次の等式から来る(Don87 p. 45 の (1))。
$E\to X$ を $\mathrm{SU}(2)$ 束、$k=k(E)$ とする。$E$ の任意の $\mathrm{SU}(2)$ 接続 $A$ について
$$
\int_X\bigl(\lvert F_A^-\rvert^2-\lvert F_A^+\rvert^2\bigr)\,\mathrm{vol}_g=8\pi^2k
$$
が成り立つ。したがって
$$
\mathrm{YM}(A)=8\pi^2k+2\int_X\lvert F_A^+\rvert^2\,\mathrm{vol}_g\ \ge\ 8\pi^2k
$$
であり、等号は $A$ が反自己双対接続のときに限り成り立つ。
段 1:Chern 形式。 ユニタリな局所枠で曲率を $2$ 次形式を成分とする $2\times2$ 行列 $F$ で表す。成分は偶数次の形式で互いに可換なので、$2\times2$ 行列の恒等式 $\det M=\tfrac12\bigl((\operatorname{tr}M)^2-\operatorname{tr}(M^2)\bigr)$ がそのまま使える。$\operatorname{tr}F=0$ なので、Chern 形式の $4$ 次の成分は
$$
c_2(E,A)=\det\Bigl(\frac{i}{2\pi}F\Bigr)=-\frac12\Bigl(\frac{i}{2\pi}\Bigr)^2\operatorname{tr}(F\wedge F)=\frac1{8\pi^2}\operatorname{tr}(F\wedge F)
$$
である(Chern–Weil理論 の定義「Chern 形式と Pontryagin 形式」)。Chern–Weil の定理(同記事の定理「Chern–Weil の定理」)により、この形式の de Rham 類は $c_2(E)$ の実係数での像であり、向き付けられた閉多様体の基本類は $C^\infty$ 級特異輪体で代表でき、最高次の形式のその上の積分は多様体上の積分に一致する(de Rhamの定理 の定義「単体上の積分と de Rham 準同型」と例「原点を除いた Euclid 空間」)ので
$$
\frac1{8\pi^2}\int_X\operatorname{tr}(F_A\wedge F_A)=k
$$
である。
段 2:各点での計算。 1 点の近くで $\mathfrak{su}(E)$ の正規直交な局所枠 $\xi_1,\xi_2,\xi_3$($-\operatorname{tr}(\xi_a\xi_b)=\delta_{ab}$)をとり、$F_A=\sum_a\xi_a\otimes\omega_a$($\omega_a$ は実の $2$ 次形式)と書く。$2$ 次形式どうしは可換なので
$$
\operatorname{tr}(F_A\wedge F_A)=\sum_{a,b}\operatorname{tr}(\xi_a\xi_b)\,\omega_a\wedge\omega_b=-\sum_a\omega_a\wedge\omega_a
$$
である。lem-dt-lambda2 により $\omega_a\wedge\omega_a=(\lvert\omega_a^+\rvert^2-\lvert\omega_a^-\rvert^2)\mathrm{vol}_g$ であり、枠が正規直交なので $\lvert F_A^\pm\rvert^2=\sum_a\lvert\omega_a^\pm\rvert^2$ である。よって
$$
\operatorname{tr}(F_A\wedge F_A)=\bigl(\lvert F_A^-\rvert^2-\lvert F_A^+\rvert^2\bigr)\mathrm{vol}_g
$$
で、段 1 と合わせて最初の等式を得る。
段 3。 $\lvert F_A\rvert^2=\lvert F_A^+\rvert^2+\lvert F_A^-\rvert^2$(直交性)なので、$\mathrm{YM}(A)=\int(\lvert F_A^-\rvert^2-\lvert F_A^+\rvert^2)+2\int\lvert F_A^+\rvert^2=8\pi^2k+2\int\lvert F_A^+\rvert^2$ である。$F_A^+$ は連続なので、$\int\lvert F_A^+\rvert^2=0$ と $F_A^+=0$ は同値である。$\square$
$E$ が反自己双対接続 $A$ をもてば $k(E)\ge0$ であり、$\mathrm{YM}(A)=8\pi^2k(E)$ は $E$ の接続の Yang–Mills 汎関数の最小値である。$k(E)=0$ なら $A$ は平坦($F_A=0$)である。
thm-dt-energy により $8\pi^2k=\mathrm{YM}(A)\ge0$ で、ほかの任意の接続 $B$ について $\mathrm{YM}(B)\ge8\pi^2k=\mathrm{YM}(A)$ である。$k=0$ なら $\int\lvert F_A\rvert^2=0$ なので $F_A=0$ である。$\square$
向きを逆にすると $\Lambda^+$ と $\Lambda^-$ が入れ替わり(Hodgeのスター作用素 の命題「向きを逆にしたスター作用素」)、$k$ の符号も変わるので、自己双対接続($F_A^-=0$)は $k\le0$ の束の Yang–Mills 汎関数の最小値を与える。自己双対と反自己双対のどちらを主に使うかは向きの約束の違いである。
次の事実は Donaldson 理論の解析的な基礎で、この記事では証明しない。
$X$ が単連結($b_1=0$)のとき、$k=1$ の $\mathrm{SU}(2)$ 束のモジュライ空間の期待される次元は $8-3(1+b^+)=5-3b^+$ である。
$X$ を向き付けられた滑らかな閉 $4$ 次元多様体とする。$Q_X$ が定値なら、$Q_X$ は整数上で対角化でき、正定値なら $b_2(X)\langle1\rangle$、負定値なら $b_2(X)\langle-1\rangle$ と同型である。
主張の意味と帰結($E_8\oplus E_8$ を交叉形式にもつ位相多様体が滑らかな構造をもたないことなど)と、定値な形式が対角化できるかを長さ $1$ のベクトルの個数で判定する補題は Donaldsonの定理 にある。
証明の筋。Don87 は、最初の証明が単連結な場合に $5$ 次元の $\mathrm{SU}(2)$ 接続のモジュライ空間を使ったこと(p. 47)、モジュライ空間を切り詰めて、可約な接続での特異点のリンクと低い層から来る境界の間の同境を得る方針(p. 48)を述べている。これを $k=1$ に当てはめた筋は次のとおりで、細部はこの記事では証明しない。$X$ を単連結で $Q_X$ が負定値とし、$k=1$ の $\mathrm{SU}(2)$ 束のモジュライ空間 $M_1$ を使う。期待される次元は $5$ である(ex-dt-dimension)。$Q_X(e,e)=-1$ となる $\pm e$ の組ごとに可約な接続が 1 つ現れ(prop-dt-reducible)、一般の計量ではその近くで $M_1$ は複素射影空間の錐の形をしている($5$ 次元なので錐の底は $4$ 次元の $\mathbb{C}P^2$ である)。Uhlenbeck のコンパクト化で付け加わる層は $X\times M_0$ で、$M_0$ は自明な接続の 1 点である。錐の頂点の近くと低い層の近くを切り落とすと境界が既知の多様体になり、切り詰めたモジュライ空間がそれらの間の同境を与える。こうして $X$ と、可約な接続の個数だけの $\pm\mathbb{C}P^2$ の非交和の間の同境が得られ、最後に符号数と格子の議論で結論が出る。可約な接続を作る部分と最後の段を、次の 2 つの命題で完全に行う。
$b_1(X)=0$、$b^+(X)=0$ とし、$L$ を $X$ 上の Hermite 直線束、$e:=c_1(L)$ とする。
要点:存在は Hodge 分解で曲率を調和形式に取り替え、$b^+=0$ から調和 $2$ 次形式が反自己双対であることを使う。一意性は $\int da\wedge da=0$ と $b_1=0$ による。
1 の存在。$L$ のユニタリ接続を 1 つとり $\nabla_0$ とする。ユニタリ接続全体は $\nabla_0+ia$($a$ は実の $1$ 次形式)であり、$\nabla_0$ の曲率は $i\eta$($\eta$ は実の閉 $2$ 次形式)、$\nabla_0+ia$ の曲率は $i(\eta+da)$ である(局所的には接続行列が純虚の $1$ 次形式で、直線束では $A\wedge A=0$ なので曲率は $dA$)。Hodge 分解(Hodgeの定理 の定理「Hodgeの定理」の 2)で $\eta=h+d\alpha+d^*\beta$ と書く。$d\eta=0$ から $dd^*\beta=0$ なので $\| d^*\beta\|^2=\langle\!\langle\beta,dd^*\beta\rangle\!\rangle=0$ であり、$\eta=h+d\alpha$ である。$\nabla:=\nabla_0-i\alpha$ の曲率は $ih$ である。
$h$ が反自己双対であることを示す。調和形式は閉かつ余閉であり、$*$ は調和形式を調和形式に写す(Laplace–de Rham作用素 の命題「外微分・余微分・スター作用素との可換性」)ので、$h^+=\tfrac12(h+*h)$ は自己双対な調和形式である。自己双対な調和形式の空間 $\mathcal{H}^+$ の上で、de Rhamの定理 の定理「外積とカップ積の対応」と、prf-thm-dt-energy の段 1 と同じ積分と基本類の対応から $Q_X([\omega],[\omega])=\int_X\omega\wedge\omega$ で、lem-dt-lambda2 によりこれは $\|\omega\|^2$ であり、Hodge の同型 $\omega\mapsto[\omega]$ は単射なので、$Q_X$ は $\mathcal{H}^+$ の像の上で正定値である。正定値な部分空間の次元は $b^+$ 以下であり(正定値な部分空間は、対角化の基底のうち係数が $0$ 以下のものが張る $b_2-b^+$ 次元の部分空間と $0$ でしか交わらない。二次形式 の定理「実2次形式の係数の符号の不変性」の証明と同じ議論)、$b^+=0$ なので $\mathcal{H}^+=0$、$h^+=0$ である。
1 の一意性。$\nabla$ と $\nabla+ia$ がともに反自己双対なら、曲率の差 $i\,da$ も反自己双対で、lem-dt-lambda2 により $da\wedge da=-\lvert da\rvert^2\mathrm{vol}_g$ である。一方 $da\wedge da=d(a\wedge da)$ なので Stokes の定理により $\int_Xda\wedge da=0$ であり、$da=0$ を得る。$b_1=0$ なので $a=df$($f$ は実関数)と書け、$u:=e^{if}$ について $u^{-1}\circ\nabla\circ u=\nabla+i\,df$ なので、2 つの接続はゲージ同値である。
2.$L^{-1}$ の双対接続の曲率は $-ih$ なので、直和の曲率は対角行列 $\operatorname{diag}(ih,-ih)$ で、跡は $0$、各成分は反自己双対である。$L\oplus L^{-1}$ の行列式束は $L\otimes L^{-1}$ で、標準的に自明化され、直和の接続はそれを保つ。$e^{i\theta}\oplus e^{-i\theta}$ で保たれるので可約である。Chern 類は Chern類 の系「直線束の全Chern類と双対」と Whitney の公式から $c(L\oplus L^{-1})=(1+e)(1-e)=1-e^2$ なので、$k=-\langle e\smile e,[X]\rangle=-Q_X(e,e)$ である。
3 は 2 と $c_1(L^{-1})=-e$ からすぐ従う。$\square$
thm-dt-energy で確かめると、$\lvert\operatorname{diag}(ih,-ih)\rvert^2=2\lvert h\rvert^2$ なので $8\pi^2k=2\| h\|^2$ であり、$h\ne0$($e\ne0$)なら $k>0$ である。負定値な $Q_X$ で $Q_X(e,e)<0$ となることと合っている。
$Q_X$ が負定値のとき、$Q_X(e,e)=-1$ となる $e$ は $\pm e$ の組で現れる。その組の数を $m_X$ と書く。
$X$ を向き付けられた滑らかな閉 $4$ 次元多様体で $Q_X$ が負定値なものとし、$n:=b_2(X)$ とする。$j\le m_X$ と、$\mathbb{C}P^2$ または $\overline{\mathbb{C}P^2}$ である $N_1,\dots,N_j$ があって、$X$ と非交和 $N_1\sqcup\dots\sqcup N_j$ が向き付けられた同境であるとする。このとき $j=m_X=n$ で、$Q_X\cong n\langle-1\rangle$ である。
$\sigma(N_i)=\varepsilon_i\in\{\pm1\}$ である(符号数(多様体) の例「基本的な例」の 2)。$Q_X$ は負定値なので $\sigma(X)=-n$ である。符号数の同境不変性(符号数(多様体) の系「向き付けられた同境不変性」と命題「非交和と向きの反転」)から
$$
n=\lvert\sigma(X)\rvert=\Bigl\lvert\sum_{i=1}^j\varepsilon_i\Bigr\rvert\le j\le m_X
$$
である。一方、$H^2(X;\mathbb{Z})$ をねじれで割った格子に $-Q_X$ を入れると、階数 $n$ の正定値なユニモジュラ形式で、長さ $1$ のベクトル($-Q_X(x,x)=1$)はちょうど $2m_X$ 個ある。Donaldsonの定理 の補題「長さ 1 のベクトルの分離」の 2 により、この個数は $2k'$($k'\le n$)の形なので $m_X\le n$ である。よって $j=m_X=n$ で、長さ $1$ のベクトルは $2n$ 個ある。同じ補題の 3 により $-Q_X\cong n\langle1\rangle$、すなわち $Q_X\cong n\langle-1\rangle$ である。$\square$
Donaldson の議論では、上の同境をモジュライ空間から作り、その仮定を満たすことを示すのが解析の仕事である。命題自体は解析を使わず、符号数の同境不変性と格子の数え上げだけで閉じている。
不定値な形式についても、同じ種類の議論で制限が得られる。$H_1$ に $2$ ねじれのない滑らかなコンパクト向き付けられた $4$ 次元多様体の交叉形式が偶で、正の部分の階数が $2$ なら、その形式は $H\oplus H$($H$ は双曲形式)と同型である(Don87 p. 48 の Theorem 2)。
もう 1 つの方向では、モジュライ空間そのものを不変量に使う。$b^+$ が大きいと可約な接続が計量の族の中でも現れないので、モジュライ空間の「基本類」と、写像 $\mu\colon H_2(X;\mathbb{Z})\to H^2(\mathcal{B}^*;\mathbb{Z})$(普遍束の特性類から作る。$\mathcal{B}^*$ は既約な接続のゲージ同値類の空間)で作ったコホモロジー類を組み合わせて数を取り出す(Don87 p. 48 の (4)、pp. 50–51)。次の 3 つの定理はこの記事では証明しない。
$X$ を単連結で滑らかな向き付けられた閉 $4$ 次元多様体とし、$b^+(X)=2r+1$、$r>0$ とする。$H^2$ 上の交叉形式の極大な正定値部分空間の向きを固定する。このとき、$\mathrm{SO}(3)$ 束の第 2 Stiefel–Whitney 類 $u\in H^2(X;\mathbb{Z}/2)$ と $j=-p_1$($p_1$ は第 1 Pontryagin 数)が $4$ を法とする両立条件をみたし、$j$ が $r$ だけで決まる数より大きいとき、その $\mathrm{SO}(3)$ 束のモジュライ空間のホモロジー類は $H_2(X)$ の上の次数 $j-3(1+r)$ の多項式($\mathbb{Z}$ に値をとる)を定め、それは $X$ の計量によらない。
Don87 p. 51 の Theorem 8 で、Donaldson の論文(同所の文献 [10])による。極大な正定値部分空間の向きがモジュライ空間の向きを決める。
thm-dt-polynomial の $X$ が連結和 $X_1\#X_2$ で、$b^+(X_1)>0$、$b^+(X_2)>0$ なら、その多項式不変量はすべて $0$ である。
Don87 p. 52 の Theorem 9 による。
単連結なコンパクト複素代数曲面が連結和に分解できるなら、どちらかの因子の交叉形式は負定値である。
Don87 p. 52 の Theorem 10 による。射影代数曲面では、超平面類から作ったコホモロジー類がモジュライ空間の上の豊富な直線束の第 1 Chern 類になるので不変量が正になり、これと thm-dt-vanishing から従う(同所)。
同じ論法により、同じ古典的不変量をもつのに Donaldson 不変量で区別される多様体の例が多く得られる(Don87 p. 52)。
$b^+=1$ の場合には、可約な接続が計量の余次元 $1$ の族で現れるので、計量の「部屋」ごとに不変量が定まる。これを使って、Dolgachev 曲面 $D_{s,t}$($s,t$ は互いに素な $2$ 以上の整数)が $\mathbb{C}P^2\#9\overline{\mathbb{C}P^2}$ とホモトピー同値(したがって同相で h 同境)だが微分同相でないことが示され、滑らかな $5$ 次元の h同境定理 が成り立たないことが分かった(Don87 p. 51 の Theorem 6)。
Freedman の理論は交叉形式の直和分解を位相的な分解として実現するが、Donaldson の定理などはそれを滑らかには実現させない。この食い違いから、$\mathbb{R}^4$ と同相だが微分同相でない滑らかな多様体(エキゾチックR⁴)が存在する(Don87 p. 49)。Taubes は、互いに微分同相でないものが $\mathbb{R}^2$ のパラメータの族として非可算個あることを示した(同 p. 50 の Theorem 5)。
1994 年の終わりに、Seiberg と Witten は $\mathrm{U}(1)$ 接続とスピノルについての新しい方程式を導入し、そのモジュライ空間はインスタントンの場合よりはるかに扱いやすく、無条件にコンパクトである(Don96 p. 45、p. 50)。交叉形式への制限の多くも、この方程式で証明し直され、拡張された(同 pp. 67–68)。Seiberg と Witten の物理的な議論は、$b^+>1$ の多様体のインスタントンの不変量が Seiberg–Witten 不変量で表されることを予言したが、Don96 pp. 54–55 はそれを、両辺は厳密に定義されているものの、導く議論は厳密な数学の外にある公式として紹介している。
各行は、上の命題の仮定を 1 つだけ外したものである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $X$ が閉(thm-dt-energy) | $\mathbb{R}^4$ の開単位球体 $B$ 上の自明束の接続 $d+(x^2dx^1-x^4dx^3)\xi$ | $\frac1{8\pi^2}\int(\lvert F^-\rvert^2-\lvert F^+\rvert^2)$ が整数 |
| $b_1(X)=0$(prop-dt-reducible の 1) | $S^1\times S^3$ の自明な直線束 | 反自己双対接続のゲージ同値類が 1 つ |
| $Q_X$ が負定値(prop-dt-final-step) | $S^2\times S^2$ | $Q_X\cong b_2(X)\langle-1\rangle$ |
1 行目:$\xi\in\mathfrak{su}(2)$ を $-\operatorname{tr}(\xi^2)=1$ となる元とし、$\theta:=x^2dx^1-x^4dx^3$ とおく。接続形式 $\theta\xi$ について $\theta\xi\wedge\theta\xi=(\theta\wedge\theta)\xi^2=0$ なので、曲率は $d\theta\,\xi=(-dx^1\wedge dx^2+dx^3\wedge dx^4)\xi$ である。$-dx^1\wedge dx^2+dx^3\wedge dx^4$ は反自己双対で長さの 2 乗が $2$ なので、$F^+=0$、$\lvert F^-\rvert^2=2$ である。$B$ の体積は $\pi^2/2$ なので $\frac1{8\pi^2}\int_B(\lvert F^-\rvert^2-\lvert F^+\rvert^2)=\frac1{8\pi^2}\cdot\pi^2=\frac18$ で、整数でない。破れる条件は $X$ が閉であること(積分が Chern 数にならない)である。
2 行目:$S^1\times S^3$ は $b_1=1$、$b_2=0$(とくに $b^+=0$)である。$\theta$ を $S^1$ の角座標として、自明な直線束の接続 $\nabla_c:=d+ic\,d\theta$($c\in\mathbb{R}$)は平坦なので反自己双対である。ゲージ変換 $u$ について $u^{-1}\circ\nabla_c\circ u=\nabla_c+u^{-1}du$ で、$\frac1{2\pi i}\int_{S^1\times\{pt\}}u^{-1}du$ は整数($u$ の写像度)である。よって $\nabla_c$ と $\nabla_{c'}$ がゲージ同値なら $c'-c\in\mathbb{Z}$ であり、$c\in[0,1)$ の接続は互いにゲージ同値でない。
3 行目:$Q_{S^2\times S^2}$ は双曲形式 $H$ で(符号数(多様体) の例「基本的な例」の 3)、$Q(ae_1+be_2,ae_1+be_2)=2ab$ は偶数なので $m_X=0$ である。$S^2\times S^2$ は $S^2\times D^3$ の境界なので、$j=0$ 個の非交和(空集合)と同境である。符号数は $0$ で定理の他の仮定はすべて成り立つが、$H$ は不定値で $2\langle-1\rangle$ と同型でない。
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