秘書問題

同義語:最良選択問題secretary problem

概要

秘書問題(secretary problem)とは、$n$ 人の候補者が無作為な順に 1 人ずつ来て、それまでの人との優劣だけを見てその場で採否を決め(断った人は採れない)、いちばん良い人を採る確率を最大にする問題である。最初の $r-1$ 人を見送り、その後それまでの誰よりも良い人が来たら採る戦略の成功確率は $\frac{r-1}n\sum_{k=r}^n\frac1{k-1}$($2\le r\le n$)で、$\frac1r+\cdots+\frac1{n-1}\le1$ となる最小の $r$ で最大になる。$n\to\infty$ でその $r$ は $\frac ne$ に近く、成功確率は $\frac1e\approx0.368$ に近づく。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 記録更新の回数, 和と積分の差, 関数の増減と極値, 確率の定義と条件付き確率

高校での出発点:3 人の候補者から 1 人を選ぶ

秘書を 1 人採用したい。候補者は $n$ 人いて、1 人ずつ面接に来る。面接が終わるたびに、その人を採用するかどうかをその場で決めなければならず、一度断った人を後から呼びもどすことはできない。面接では、それまでに会った人どうしの優劣は分かるが、まだ会っていない人と比べることはできない。いちばん良い人を採用できる確率を大きくするには、どうすればよいだろうか。
早く決めすぎると、後から来るもっと良い人を逃す。待ちすぎると、いちばん良い人をすでに断ってしまっている。まず $n=3$ で、全部の場合を書いてみる。

3 人のときの 3 つの戦略

3 人の良さを $1,2,3$($3$ がいちばん良い)で表し、来る順番の 6 通りが同様に確からしいとする。次の 3 つの戦略を比べる。

  • 戦略 A:1 人目を採る。
  • 戦略 B:1 人目は見送り、2 人目以降で、それまでの誰よりも良い人が来たら採る。そういう人が来なければ 3 人目を採る。
  • 戦略 C:2 人を見送り、3 人目を採る。
    来る順$(1,2,3)$$(1,3,2)$$(2,1,3)$$(2,3,1)$$(3,1,2)$$(3,2,1)$
    戦略 A で採る人$1$$1$$2$$2$$3$ ○$3$ ○
    戦略 B で採る人$2$$3$ ○$3$ ○$3$ ○$2$$1$
    戦略 C で採る人$3$ ○$2$$3$ ○$1$$2$$1$
    ○ がいちばん良い人を採れた場合である。成功の確率は、戦略 A が $\dfrac26=\dfrac13$、戦略 B が $\dfrac36=\dfrac12$、戦略 C が $\dfrac26=\dfrac13$ である。1 人だけ見送って様子を見る戦略 B がいちばん良い。

戦略 B の「それまでの誰よりも良い人」は、記録更新の回数 の言葉で言えば記録である。戦略 B は「最初の 1 人を見送り、その後の最初の記録を採る」戦略である。この記事では、$n$ 人のときに何人見送るのがよいか、そのとき成功の確率はいくらかを調べる。答える問いは次の 3 つである。

  1. 最初の $r-1$ 人を見送ってから最初の記録を採るとき、成功の確率はいくらか。→ thm-sec-prob
  2. 何人見送るのがいちばんよいか。→ prop-sec-best
  3. $n$ が大きいとき、見送る人数の割合と成功の確率はどうなるか。→ thm-sec-limit
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    6 通りを並べて成功を数える見送り型の戦略の成功確率停止時刻の成功確率
    それまでの誰よりも良い人記録相対順位が $1$
    見送る人数を 1 つずらして比べる差 $P_n(r+1)-P_n(r)$ の符号最適停止の閾値
    和 $\frac1r+\cdots+\frac1{n-1}$ と $\log$$\frac ne$ 人見送り、確率 $\frac1e$和と積分の比較による極限

問題の設定と見送り型の戦略

秘書問題

$n$ 人($n\ge2$)の候補者に、良さの順位 $1,2,\ldots,n$ がついている(同じ順位はなく、$n$ がいちばん良い)。次の条件のもとで、候補者を 1 人採用する。
(R1) 候補者は 1 人ずつ来る。来る順番は $n!$ 通りのどれも同様に確からしい。
(R1) $i$ 人目が来たとき分かるのは、1 人目から $i$ 人目までの $i$ 人の間の優劣だけである。
(R1) $i$ 人目を採用するかどうかは、$i$ 人目が来たときに決める。断った人を後から採用することはできない。$n-1$ 人目まで誰も採用しなかったら、$n$ 人目を採用する。
いちばん良い人(順位 $n$ の人)を採用することを 成功 という。成功の確率をできるだけ大きくする問題を 秘書問題 という。

条件 (i) により、来る順の良さの列 $(a_1,\ldots,a_n)$ は $1,\ldots,n$ の無作為な並べ方である(記録更新の回数 の定義「記録と記録の個数」)。条件 (ii) により、$i$ 人目が来たときに分かるのは、記録更新の回数 の相対順位 $r_1,\ldots,r_i$(それぞれが、それまでの人の中で何番目に良いか)である。

記録でない人を採っても成功しない

$i$ 人目が記録でない、つまり 1 人目から $i-1$ 人目までに $i$ 人目より良い人がいるなら、$i$ 人目はいちばん良い人ではない。このとき $i$ 人目を採用すると必ず失敗する。したがって、成功をねらうなら、採用するのは記録になった人だけでよい。問題は「どの記録で止まるか」である。

ex-sec-n3 の戦略 B を一般にしたものが、次の戦略である。

見送り型の戦略

$1\le r\le n$ とする。最初の $r-1$ 人は、どんな人でも採用しない(見送る)。$r$ 人目以降は、記録になった人が来たら、その最初の人を採用する。$n-1$ 人目まで記録が来なければ $n$ 人目を採用する。この戦略を $r-1$ 人見送る戦略 といい、その成功の確率を $P_n(r)$ と書く。

$r=1$ は、1 人目は必ず記録なので「1 人目を採る」戦略(ex-sec-n3 の戦略 A)で、$P_n(1)=\dfrac1n$ である。$n=3$ では $P_3(1)=\dfrac13$、$P_3(2)=\dfrac12$、$P_3(3)=\dfrac13$ だった。
見送り型の戦略で $n$ 人目を無理に採るのは、$r$ 人目以降に記録が 1 人も来なかったときである。そのとき、いちばん良い人は見送った $r-1$ 人の中にいるので、$n$ 人目を採っても失敗である。成功の確率 $P_n(r)$ は、「$n$ 人目を無理に採る」という決まりに関係しない。

主定理 1:見送り型の戦略の成功確率

成功するのは、いちばん良い人がある位置 $k$($k\ge r$)にいて、しかも $r$ 人目から $k-1$ 人目までに記録が来なかったときである。記録が来ていれば、その人を採って終わってしまう。これを数えると、次の式になる。

見送り型の戦略の成功確率

$2\le r\le n$ のとき
$$ P_n(r)=\frac{r-1}n\sum_{k=r}^{n}\frac1{k-1}=\frac{r-1}n\left(\frac1{r-1}+\frac1r+\cdots+\frac1{n-1}\right) $$
である。また $P_n(1)=\dfrac1n$ である。

方針:いちばん良い人の位置 $k$ で場合を分ける。各場合の確率を、記録更新の回数 の補題「相対順位の列と並べ方の 1 対 1 の対応」を使って、相対順位の列を数えて求める。
段 1(成功の言いかえ)。$r\ge2$ とする。いちばん良い人(値 $n$)が $k$ 番目にいるとする。$k< r$ なら、その人は見送られるので失敗である。$k\ge r$ のとき、成功するのは、$r$ 番目から $k-1$ 番目までに記録が 1 つもないときであり、そのときに限る。実際、記録がなければ、$k$ 番目は記録(それまでの誰よりも良い)なので、そこで採用して成功する。記録があれば、最初の記録の人を採用して終わり、その人は $k$ 番目の人ではないので失敗する。
段 2(相対順位で書く)。「値 $n$ が $k$ 番目にある」ことは、「$k$ 番目が記録で、$k+1$ 番目から $n$ 番目は記録でない」ことと同じである($k$ 番目より後に記録があれば、その人は値 $n$ より良いことになり矛盾し、逆に $k$ 番目の後に記録がなければ $k$ 番目の値は全体の最大である)。よって、$k$ 番目にいちばん良い人がいて成功する事象は、相対順位の列が
$$ r_k=1,\qquad r_j\ne1\quad(j=r,\ldots,k-1\text{ と }j=k+1,\ldots,n) $$
を満たす事象である。
段 3(列を数える)。$1\le r_j\le j$ を満たす列のうち、段 2 の条件を満たすものを数える。$r_k$ は $1$ の 1 通り、条件のついた $j$ では $r_j$ は $2,\ldots,j$ の $j-1$ 通り、それ以外の $j$($j< r$)では $j$ 通りである。並べ方と相対順位の列は 1 対 1 に対応し、並べ方は $n!$ 通りで同様に確からしいので、確率は
$$ \frac1k\prod_{j=r}^{k-1}\frac{j-1}j\prod_{j=k+1}^{n}\frac{j-1}j $$
である(列の個数を $n!=1\cdot2\cdots n$ で割ると、各 $j$ について「選べる個数 $\mathbin{÷}\,j$」の積になる)。積は隣どうしで約分されて
$$ \prod_{j=r}^{k-1}\frac{j-1}j=\frac{r-1}r\cdot\frac r{r+1}\cdots\frac{k-2}{k-1}=\frac{r-1}{k-1},\qquad\prod_{j=k+1}^{n}\frac{j-1}j=\frac kn $$
となる($k=r$ のとき 1 つ目の積は項がなく $1$ で、右辺も $\dfrac{r-1}{r-1}=1$ である。$k=n$ のときの 2 つ目の積も同じく $1$ である)。よって確率は
$$ \frac1k\cdot\frac{r-1}{k-1}\cdot\frac kn=\frac{r-1}{n(k-1)} $$
である。
段 4(足す)。$k=r,r+1,\ldots,n$ の事象は互いに排反なので、足して
$$ P_n(r)=\sum_{k=r}^{n}\frac{r-1}{n(k-1)}=\frac{r-1}n\sum_{k=r}^{n}\frac1{k-1} $$
を得る。$r=1$ のときは 1 人目を採るので、1 人目がいちばん良い確率 $\dfrac1n$ である。$\square$

段 3 の確率 $\dfrac{r-1}{n(k-1)}$ は、「いちばん良い人が $k$ 番目にいる確率 $\dfrac1n$」と「$k-1$ 番目までの最大の人が、見送った $r-1$ 人の中にいる確率 $\dfrac{r-1}{k-1}$」の積になっている。$r$ 番目から $k-1$ 番目までに記録がないことは、最初の $k-1$ 人の中の最良の人が最初の $r-1$ 人の中にいることと同じだからである。

5 人のとき

$n=5$ で 2 人見送る($r=3$)と
$$ P_5(3)=\frac25\left(\frac12+\frac13+\frac14\right)=\frac25\cdot\frac{13}{12}=\frac{13}{30}=0.433\ldots $$
である。ほかの $r$ では $P_5(1)=\dfrac15$、$P_5(2)=\dfrac15\left(1+\dfrac12+\dfrac13+\dfrac14\right)=\dfrac{5}{12}$、$P_5(4)=\dfrac35\left(\dfrac13+\dfrac14\right)=\dfrac7{20}$、$P_5(5)=\dfrac45\cdot\dfrac14=\dfrac15$ で、2 人見送るのがいちばんよい。

10 人のとき

$n=10$ で、thm-sec-prob の式から $P_{10}(r)$ を計算すると次のようになる。

見送る人数 $r-1$$0$$1$$2$$3$$4$$5$$6$$7$$8$$9$
$P_{10}(r)$$0.100$$0.283$$0.366$$0.399$$0.398$$0.373$$0.327$$0.265$$0.189$$0.100$

3 人見送る($r=4$)とき最大で、$P_{10}(4)=\dfrac{3349}{8400}=0.3986\ldots$ である。4 人見送っても $0.3983\ldots$ でほとんど変わらない。

見送る人数の割合 (r-1)/n を横軸にとった成功確率 P_n(r)。n=10、20、100 の点と、曲線 y = x log(1/x)。どれも横軸 1/e のあたりで最大になる 見送る人数の割合 (r-1)/n を横軸にとった成功確率 P_n(r)。n=10、20、100 の点と、曲線 y = x log(1/x)。どれも横軸 1/e のあたりで最大になる
図 1 は、$n=10,20,100$ の $P_n(r)$ を、見送る人数の割合 $\dfrac{r-1}n$ に対して描いたものである。$n$ が大きくなると点は 1 本の曲線に近づき、最大は横軸が $\dfrac1e=0.367\ldots$ のあたりにある。この曲線が何かを、以下で確かめる。

何人見送るのがよいか

ex-sec-n10 の表では、$P_{10}(r)$ は $r$ とともに増えてから減る。増えるか減るかは、隣どうしの差で決まる。以下、$1\le r\le n-1$ について
$$ T_r=\frac1r+\frac1{r+1}+\cdots+\frac1{n-1} $$
とおく。$T_r$ は $r$ が大きいほど項が減るので小さくなり、$T_{n-1}=\dfrac1{n-1}\le1$ である。thm-sec-prob の式は、$r\ge2$ のとき $P_n(r)=\dfrac{r-1}nT_{r-1}$ と書ける。

最良の見送り人数
  1. $1\le r\le n-1$ のとき
    $$ P_n(r+1)-P_n(r)=\frac1n\,(T_r-1) $$
    である。
  2. $T_r\le1$ となる最小の $r$ を $r^*$ とする。このとき
    $$ P_n(1)< P_n(2)<\cdots< P_n(r^*),\qquad P_n(r^*)\ge P_n(r^*+1)>P_n(r^*+2)>\cdots>P_n(n) $$
    である。つまり、成功の確率は $r=r^*$ で最大になる。見送る人数は $r^*-1$ 人である。
  1. $r\ge2$ とする。$T_{r-1}=\dfrac1{r-1}+T_r$ なので
    $$ P_n(r)=\frac{r-1}n\left(\frac1{r-1}+T_r\right)=\frac1n+\frac{r-1}nT_r $$
    である。一方 $P_n(r+1)=\dfrac rnT_r$ なので、引いて $P_n(r+1)-P_n(r)=\dfrac1nT_r-\dfrac1n$ である。$r=1$ のときは、$P_n(2)=\dfrac1nT_1$、$P_n(1)=\dfrac1n$ から同じ式になる。
  2. $r< r^*$ なら、$r^*$ の決め方から $T_r>1$ なので、(1) により $P_n(r+1)>P_n(r)$ である。$r=r^*$ なら $T_{r^*}\le1$ なので $P_n(r^*+1)\le P_n(r^*)$ である。$r>r^*$ なら、$T_r< T_{r^*}\le1$ なので $P_n(r+1)< P_n(r)$ である。$\square$
規則を当てはめる
  1. $n=3$:$T_1=1+\dfrac12=\dfrac32>1$、$T_2=\dfrac12\le1$ なので $r^*=2$ で、1 人見送る。ex-sec-n3 の戦略 B である。
  2. $n=10$:$T_3=\dfrac13+\dfrac14+\cdots+\dfrac19=1.329\ldots>1$、$T_4=\dfrac14+\cdots+\dfrac19=0.995\ldots\le1$ なので $r^*=4$ で、3 人見送る。ex-sec-n10 の表と一致する。$T_4$ が $1$ にとても近いので、$P_{10}(4)$ と $P_{10}(5)$ の差 $\dfrac1{10}(T_4-1)=-0.0004\ldots$ はとても小さい。

この規則「$\dfrac1r+\dfrac1{r+1}+\cdots+\dfrac1{n-1}\le1$ となる最小の $r$ を選び、$r-1$ 人見送る」は、GS06 の §3.1 の演習問題 24 にも書かれている。

主定理 2:$\frac ne$ 人見送り、確率は $\frac1e$ に近づく

$T_r$ は 和と積分の差 と同じ方法で対数ではさめる。これを使うと、$n$ が大きいときの $r^*$ と成功の確率が分かる。

和 $T_r$ を対数ではさむ

$2\le r\le n-1$ のとき
$$ \log\frac nr< T_r<\log\frac{n-1}{r-1} $$
である。

$y=\dfrac1x$ は $x>0$ で減少するので、正の整数 $m$ について、$m< x< m+1$ なら $\dfrac1{m+1}<\dfrac1x<\dfrac1m$ である。区間 $[m,m+1]$ で積分して
$$ \frac1{m+1}<\int_m^{m+1}\frac{dx}x<\frac1m $$
を得る。右の不等式を $m=r,\ldots,n-1$ で足すと $\displaystyle\int_r^n\frac{dx}x=\log\frac nr< T_r$ である。左の不等式を $m=r-1,\ldots,n-2$ で足すと $T_r=\dfrac1r+\cdots+\dfrac1{n-1}<\displaystyle\int_{r-1}^{n-1}\frac{dx}x=\log\frac{n-1}{r-1}$ である。$\square$

見送る割合と成功の確率の極限

$n\ge6$ とし、$r^*$ を prop-sec-best の最良の $r$ とする。このとき
(1) $\dfrac ne< r^*<\dfrac{n-1}e+2$ である。
(2) $\dfrac{r^*-1}n< P_n(r^*)\le\dfrac{r^*}n$ である。
(3) したがって $\dfrac1e-\dfrac1n< P_n(r^*)<\dfrac1e+\dfrac2n$ であり、$n\to\infty$ のとき $\dfrac{r^*}n\to\dfrac1e$、$P_n(r^*)\to\dfrac1e$ である。

方針:$r^*$ の決め方「$T_{r^*}\le1< T_{r^*-1}$」に lem-sec-log を当てはめる。
段 1(左の不等式)。$T_{r^*}\le1$ である。$r^*\le n-1$ で、$r^*=1$ とすると $T_1=1+\dfrac12+\cdots+\dfrac1{n-1}>1$ となり $T_{r^*}\le1$ に反するので $r^*\ge2$ である。lem-sec-log の左側から $\log\dfrac n{r^*}< T_{r^*}\le1$、つまり $\dfrac n{r^*}< e$ で、$r^*>\dfrac ne$ である。
段 2(右の不等式)。$n\ge6$ なので、段 1 から $r^*>\dfrac6e=2.2\ldots$、つまり $r^*\ge3$ で、$r^*-1\ge2$ である。$r^*$ は $T_r\le1$ となる最小の $r$ なので $T_{r^*-1}>1$ である。lem-sec-log の右側を $r=r^*-1$ で使うと $1< T_{r^*-1}<\log\dfrac{n-1}{r^*-2}$、つまり $\dfrac{n-1}{r^*-2}>e$ で、$r^*<\dfrac{n-1}e+2$ である。
段 3(成功の確率)。$P_n(r^*)=\dfrac{r^*-1}nT_{r^*-1}$ で、$T_{r^*-1}=\dfrac1{r^*-1}+T_{r^*}$ である。$1< T_{r^*-1}$ と $T_{r^*}\le1$ から
$$ 1< T_{r^*-1}\le1+\frac1{r^*-1} $$
である。各辺に $\dfrac{r^*-1}n$ を掛けて $\dfrac{r^*-1}n< P_n(r^*)\le\dfrac{r^*-1}n+\dfrac1n=\dfrac{r^*}n$ を得る。
段 4(極限)。段 1〜3 から
$$ P_n(r^*)>\frac{r^*-1}n>\frac{n/e-1}n=\frac1e-\frac1n,\qquad P_n(r^*)\le\frac{r^*}n<\frac{(n-1)/e+2}n<\frac1e+\frac2n $$
である。$n\to\infty$ で両端は $\dfrac1e$ に近づくので、はさみうちの原理により $P_n(r^*)\to\dfrac1e$ である。$\dfrac{r^*}n$ も (1) を $n$ で割った $\dfrac1e<\dfrac{r^*}n<\dfrac1e+\dfrac{2-1/e}n$ から $\dfrac1e$ に近づく。$\square$

いろいろな $n$ での最良の戦略
$n$$5$$10$$20$$50$$100$$1000$
見送る人数 $r^*-1$$2$$3$$7$$18$$37$$368$
見送る割合 $\frac{r^*-1}n$$0.400$$0.300$$0.350$$0.360$$0.370$$0.368$
成功の確率 $P_n(r^*)$$0.433$$0.399$$0.384$$0.374$$0.371$$0.368$

$n=100$ では 37 人見送って 38 人目から記録を待ち、成功の確率は $0.3710\ldots$ である。thm-sec-limit (1) の範囲 $36.8< r^*<38.4$ に $r^*=38$ が入っている。候補者が何人いても、いちばん良い人を約 37% の確率で採用できる。

最良の r である r* を n で割った値(点)と成功の確率(三角)が、n とともに 1/e に近づく様子。灰色の帯は 1/e-1/n から 1/e+2/n までの範囲 最良の r である r* を n で割った値(点)と成功の確率(三角)が、n とともに 1/e に近づく様子。灰色の帯は 1/e-1/n から 1/e+2/n までの範囲
図 2 は、$n=6$ から $200$ までの $\dfrac{r^*}n$ と $P_n(r^*)$ を、thm-sec-limit (3) の範囲 $\dfrac1e-\dfrac1n$ から $\dfrac1e+\dfrac2n$ までの帯と並べたものである。(1) を $n$ で割ると $\dfrac1e<\dfrac{r^*}n<\dfrac1e+\dfrac{2-1/e}n$ なので、$\dfrac{r^*}n$ も同じ帯の中にある。どちらの値も、$n$ が大きくなると $\dfrac1e$ の線に近づく。$\dfrac{r^*}n$ がぎざぎざなのは、$r^*$ が整数だからである。

曲線 $y=x\log\frac1x$

見送る割合を $x=\dfrac{r-1}n$ とすると、lem-sec-log から $T_{r-1}$ はおよそ $\log\dfrac n{r-1}=\log\dfrac1x$ なので、$P_n(r)=\dfrac{r-1}nT_{r-1}$ はおよそ
$$ f(x)=x\log\frac1x=-x\log x\qquad(0< x<1) $$
である。これが図 1 の曲線である。$f'(x)=-\log x-1$ は $x<\dfrac1e$ で正、$x>\dfrac1e$ で負なので、$f$ は $x=\dfrac1e$ で最大値 $f\left(\dfrac1e\right)=\dfrac1e\log e=\dfrac1e$ をとる(関数の増減と極値)。thm-sec-limit は、この見積もりを不等式で確かめたものである。

すべての戦略の中で最良か

ここまでは見送り型の戦略だけを比べた。記録で止まるかどうかを、それまでの相対順位の様子に応じてもっと複雑に決める戦略も考えられる。しかし、実は見送り型の戦略で $r=r^*$ としたものが、条件 (i)〜(iii) のもとで考えられるすべての戦略の中で最良であることが知られている(GS06 §3.1 の演習問題 24。そこでは証明の文献として Dynkin と Yushkevich の本が挙げられている)。この事実は、この記事では証明しない。

最良であることの考え方を開く

完全な証明ではなく、証明の筋だけを述べる。

(a) rem-sec-record により、記録でない人を採る戦略は、その人を見送る戦略にかえても成功の確率が下がらない。

(b) $k$ 人目が記録のとき、その人がいちばん良い確率は、それまでの相対順位によらず $\dfrac kn$ である($k+1$ 人目以降に記録が来ない確率 $\dfrac k{k+1}\cdot\dfrac{k+1}{k+2}\cdots\dfrac{n-1}n=\dfrac kn$。記録更新の回数 の独立性による)。一方、$k$ 人目を見送って、その後いちばんうまく続けたときの成功の確率 $W_k$ も、$k+1$ 人目以降の相対順位がそれまでと独立なので、それまでの様子によらない。

(c) $k$ 人目が記録なら、$\dfrac kn\ge W_k$ のとき採り、そうでなければ見送るのがよい。$\dfrac kn$ は $k$ とともに増え、$W_k$ は $k$ とともに増えない(後になるほど選べる機会が減る)ので、「採る」となる $k$ はある番号以上の全部になる。これは見送り型の戦略である。見送り型の中で最良のものは prop-sec-best の $r^*$ である。

(b) の「それまでの様子によらない」ことと、(c) の「後から来る人に応じて決める一般の戦略」を正確に定めて比べるには、条件付き確率の扱いが要る。

例と反例

thm-sec-limit の「約 37%」は、見送ること、目標が「いちばん良い人」であること、分かるのが優劣だけであることに支えられている。1 つずつ変えると次のようになる。

外す条件反例成り立たなくなること
最初の何人かを見送る見送らずに 1 人目を採る成功の確率が $\frac1e$ に近い
目標は「いちばん良い人」上位 2 人のどちらかでよい($n=6$)記録だけを採る見送り型が最良
条件 (ii):分かるのは優劣だけ良さの値そのものが分かる($n=2$)成功の確率の最大が $\frac12$
反例:見送らないと、確率は 0 に近づく

1 人目を採る戦略($r=1$)の成功の確率は $P_n(1)=\dfrac1n$ で、$n=10$ で $0.1$、$n=100$ で $0.01$ と、$n\to\infty$ で $0$ に近づく。見送りすぎても同じで、最後の人を採る戦略($r=n$)は $P_n(n)=\dfrac{n-1}n\cdot\dfrac1{n-1}=\dfrac1n$ である。ex-sec-n10 の表の両端がこれである。$\frac1e$ に近い確率は、見送る割合を $\frac1e$ のあたりにしたときにだけ得られる。

反例:上位 2 人のどちらかでよいとき

$n=6$ で、上位 2 人(順位 $6$ か $5$)のどちらかを採れば成功とする。来る順の 720 通りを数える(計算機で数えた有限の計算)と、記録だけを採る見送り型の戦略では、2 人見送る($r=3$)ときが最良で、成功の確率は $\dfrac{59}{90}=0.655\ldots$ である。
ところが、次の戦略のほうが良い。2 人見送り、3 人目以降は記録が来たら採る。さらに 5 人目以降は、それまでで 2 番目に良い人(相対順位 $2$)が来ても採る。誰も採らなければ 6 人目を採る。この戦略の成功の確率は $\dfrac{31}{45}=\dfrac{62}{90}=0.688\ldots$ である。目標を変えると、記録でない人を採ることにも意味が出て、最良の戦略の形が変わる。

反例:値が分かるとき

$n=2$ とする。優劣しか分からないなら、1 人目を採っても 2 人目を採っても成功の確率は $\dfrac12$ で、prop-sec-best の $P_2(1)=P_2(2)=\dfrac12$ が最大である。
ここで、2 人の良さが、$0$ 以上 $1$ 以下の一様乱数 $X_1$、$X_2$(独立。一様分布と指数分布)で、面接で値そのものが分かるとする。「$X_1>\frac12$ なら 1 人目を採り、そうでなければ 2 人目を採る」戦略の成功の確率は、$X_1=x$ のとき 1 人目が良い確率が $x$、2 人目が良い確率が $1-x$ であることから
$$ \int_{1/2}^{1}x\,dx+\int_0^{1/2}(1-x)\,dx=\frac38+\frac38=\frac34 $$
である。値が分かると、1 人目の値だけで「十分に良いか」を判断できるので、優劣しか分からない場合の最大 $\dfrac12$ を超える。

演習

4 人のとき

$n=4$ で、$P_4(1),P_4(2),P_4(3),P_4(4)$ を求め、何人見送るのがよいかを答えよ。prop-sec-best の規則でも確かめよ。

解答を開く

thm-sec-prob により $P_4(1)=\dfrac14$、$P_4(2)=\dfrac14\left(1+\dfrac12+\dfrac13\right)=\dfrac{11}{24}$、$P_4(3)=\dfrac24\left(\dfrac12+\dfrac13\right)=\dfrac5{12}$、$P_4(4)=\dfrac34\cdot\dfrac13=\dfrac14$ である。最大は $\dfrac{11}{24}=0.458\ldots$ で、1 人見送る。規則では $T_1=1+\dfrac12+\dfrac13=\dfrac{11}6>1$、$T_2=\dfrac12+\dfrac13=\dfrac56\le1$ なので $r^*=2$ で、一致する。

半分を見送る戦略

$n$ が偶数のとき、半分の $\dfrac n2$ 人を見送る戦略($r=\dfrac n2+1$)の成功の確率は $\dfrac14$ より大きいことを示せ。

解答を開く

thm-sec-prob で $r-1=\dfrac n2$ とおくと

$$P_n\left(\frac n2+1\right)=\frac12\left(\frac1{n/2}+\frac1{n/2+1}+\cdots+\frac1{n-1}\right)$$

である。かっこの中は $\dfrac n2$ 個の項の和で、どの項も $\dfrac1{n-1}$ 以上である。よってかっこの中は $\dfrac n2\cdot\dfrac1{n-1}=\dfrac n{2(n-1)}$ 以上で、$n>n-1$ から $\dfrac n{2(n-1)}>\dfrac12$ なので、$P_n\left(\dfrac n2+1\right)>\dfrac12\cdot\dfrac12=\dfrac14$ である。たとえば $n=10$ では $0.373$、$n=100$ では $0.349$ である。

さらに先へ

  • 秘書問題の設定は GS06 §3.1 の演習問題 23・24 にもある(候補者の優劣だけが分かる設定、半分見送る戦略、最良の見送り人数の規則と $\frac1e$)。
  • 見送り型の戦略が最良であることの証明は、後ろから順に最良の行動を決める方法(動的計画法、最適停止の理論)で行う。この記事の「考え方」はその筋である。
  • 止める規則で待ち時間を考える問題は、期待値の漸化式と停止 でも扱った。そちらは「いつ止まるか」の平均を求め、こちらは「どこで止めるか」を選んで成功の確率を最大にする。
  • $e$ が現れる別の場面は eはなぜ特別か と (1+1/n)^nの極限 にある。ここでは和 $\frac1r+\cdots+\frac1{n-1}$ が $\log$ に近いことから $e$ が現れた。

関連項目

参考文献

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