因子

同義語:divisor

概要

因子(divisor)とは、リーマン面 $X$ の点の整数係数の形式和 $D=\sum_p n_p\,p$(台は離散閉集合)のことであり、有理型関数 $f$ の零点と極を位数つきで並べた主因子 $\operatorname{div}(f)$ がその原型である。因子群を主因子で割った因子類群 $\operatorname{Cl}(X)$ は素因数分解を単数倍を除いて見ることの類似で、コンパクトなリーマン面では主因子の次数が $0$ なので次数写像 $\operatorname{Cl}(X)\to\mathbb{Z}$ が定まり、$\mathbb{P}^1$ ではこれが同型である。Dedekind 整域の素イデアルの形式和にも同じ構成があり、因子類群はイデアル類群に一致する。Riemann–Roch の定理や Weil 因子・Cartier 因子の基礎である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: リーマン面, 有理型関数, 零点の位数, アーベル群, Dedekind整域

定義

本記事の因子は divisor であり、直和因子などの factor の意味ではない。因子は、有理型関数 の零点と極を「どの点に何位あるか」という形式的な和として記録する対象である。同じ考え方は Dedekind整域 の素イデアルに対しても働き、両者は「$1$ 次元の対象の上の余次元 $1$ のサイクル」として統一的に理解される。本記事はまずリーマン面上の因子を定義し、次に Dedekind 整域の因子を定義して、両者の対応を述べる。

因子と次数

$X$ を リーマン面 とする。$X$ の因子(divisor)とは、写像 $D\colon X\to\mathbb{Z}$ であって、その台 $\operatorname{supp}D:=\{p\in X\mid D(p)\neq0\}$ が $X$ の 離散集合 かつ 閉集合 であるもの(すなわち $X$ の任意のコンパクト部分集合(コンパクト空間)と有限個の点でしか交わらないもの)をいう。$n_p:=D(p)$ とおき、因子を形式和
$$D=\sum_{p\in X}n_p\,p$$
と書く。$X$ の因子全体は各点ごとの加法によりアーベル群をなし、これを $\operatorname{Div}(X)$ と書く。$X$ がコンパクトならば台は有限集合であり、$\operatorname{Div}(X)$ は $X$ の点を基底とする 自由アーベル群 である。このとき
$$\deg D:=\sum_{p\in X}n_p\in\mathbb{Z}$$
を $D$ の次数(degree)という。すべての $p$ について $n_p\ge0$ である因子を有効因子(effective divisor)といい $D\ge0$ と書く。$D-D'\ge0$ のとき $D\ge D'$ と書く。

主因子と因子類群

$X$ をリーマン面、$f$ を $X$ 上の恒等的に $0$ でない有理型関数とする($X$ は連結とする)。点 $p\in X$ における $f$ の位数 $\operatorname{ord}_p(f)\in\mathbb{Z}$ を、$f$ が $p$ で正則かつ $0$ でないとき $0$、$m$ 位の零点をもつとき $m$、$m$ 位の極をもつとき $-m$ と定める(零点の位数)。$f$ の零点と極は離散閉集合をなすので(一致の定理)
$$\operatorname{div}(f):=\sum_{p\in X}\operatorname{ord}_p(f)\,p$$
は $X$ の因子である。これを $f$ の因子または主因子(principal divisor)といい、$(f)$ とも書く。主因子全体を $\operatorname{PDiv}(X)$ と書く。これは $\operatorname{Div}(X)$ の 部分群 であり(divisor-prop-principal)、剰余群
$$\operatorname{Cl}(X):=\operatorname{Div}(X)/\operatorname{PDiv}(X)$$
を $X$ の因子類群(因子類群、divisor class group)という。2 つの因子 $D,D'$ が $D-D'\in\operatorname{PDiv}(X)$ を満たすとき、$D$ と $D'$ は線形同値(linearly equivalent)であるといい $D\sim D'$ と書く。$X$ がコンパクトのとき、$\deg$ は $\operatorname{Cl}(X)\to\mathbb{Z}$ を誘導し(divisor-thm-degree-zero)、その核を $\operatorname{Cl}^{0}(X)$ と書く。

Dedekind整域の因子

$A$ を Dedekind 整域、$K$ をその商体とする。$A$ の因子とは、$A$ の $0$ でない 素イデアル を基底とする自由アーベル群
$$\operatorname{Div}(A):=\bigoplus_{P\neq0}\mathbb{Z}\,P$$
の元をいう。$x\in K^{\times}$ に対し、単項分数イデアル $xA$ の素イデアル分解 $xA=\prod_PP^{n_P}$($n_P\in\mathbb{Z}$、有限個を除き $0$。divisor-prop-dedekind)の指数を $\operatorname{ord}_P(x):=n_P$ と書き、
$$\operatorname{div}(x):=\sum_{P}\operatorname{ord}_P(x)\,P\in\operatorname{Div}(A)$$
を $x$ の主因子という。主因子全体 $\operatorname{PDiv}(A)$ は部分群であり、$\operatorname{Cl}(A):=\operatorname{Div}(A)/\operatorname{PDiv}(A)$ を $A$ の因子類群という。これは Dedekind整域 の記事のイデアル類群と同型である(divisor-prop-dedekind)。

直感

有理型関数 $f$ を「どこで零になり、どこで無限大になるか」だけで見ると、点 $p$ とそこでの位数 $n_p$ の一覧が残る。これが $\operatorname{div}(f)$ であり、整数の素因数分解 $n=\prod p^{n_p}$ で素数 $p$ と指数 $n_p$ の一覧だけを見るのと同じ発想である。積 $fg$ の因子は和 $\operatorname{div}(f)+\operatorname{div}(g)$ になるので、乗法的な関数の世界が加法的な因子の世界に翻訳される。整数論で「単数倍を除いて素因数分解が一致する」ことに対応するのが「因子類群における類の一致」であり、Dedekind 整域では因子類群がイデアル類群そのものになる。リーマン面の場合には、与えられた因子 $D$ に対して $\operatorname{div}(f)+D\ge0$ を満たす有理型関数 $f$ がどれだけあるか(極を $D$ で許された範囲に制限した関数の空間 $L(D)$ の次元)が Riemann–Roch の定理の主題であり、因子はその問いを定式化する言葉である。コンパクトなリーマン面では主因子の次数が $0$ なので、$\deg D\neq0$ の因子は決して主因子にならない。

例

点の因子と因子の演算

$p,q,r\in X$ を相異なる点とする。$D=1\cdot p$($n_p=1$、他の係数は $0$)は因子であり、$X$ がコンパクトなら $\deg D=1$ である。$D'=p-q$ は次数 $0$ の因子である。$D_1=2p-3q$、$D_2=q+r$ とすると
$$D_1+D_2=2p+(-3+1)q+r=2p-2q+r,\qquad\deg(D_1+D_2)=1=\deg D_1+\deg D_2$$
であり、$D_2\ge0$ であるが $D_1\ge0$ でない。

Riemann球面上の有理関数の因子

$X=\mathbb{P}^{1}=\mathbb{C}\cup\{\infty\}$(Riemann球面)とし、$f(z)=z$ とする。$f$ は $z=0$ で $1$ 位の零点をもち、$\infty$ の近傍の 局所座標 $w=1/z$ では $f=1/w$ なので $\infty$ で $1$ 位の極をもち、他の点では正則かつ $0$ でない。よって $\operatorname{div}(z)=(0)-(\infty)$ で、次数は $0$ である。
一般に $a_1,\dots,a_m,b_1,\dots,b_n\in\mathbb{C}$(重複を許す)に対し $f(z)=\prod_{i}(z-a_i)/\prod_{j}(z-b_j)$ とすると、$\mathbb{C}$ 上では $\operatorname{div}(f)=\sum_i(a_i)-\sum_j(b_j)$ であり、$\infty$ では $w=1/z$ により $f=w^{n-m}\prod_i(1-a_iw)/\prod_j(1-b_jw)$ で、右の分数は $w=0$ で正則かつ $0$ でないので $\operatorname{ord}_{\infty}(f)=n-m$ である。よって
$$\operatorname{div}(f)=\sum_{i=1}^{m}(a_i)-\sum_{j=1}^{n}(b_j)+(n-m)(\infty),\qquad\deg\operatorname{div}(f)=m-n+(n-m)=0$$
であり、divisor-thm-degree-zero と整合する。$\mathbb{P}^{1}$ 上の有理型関数はすべてこの形の 有理関数 である(For81 §2)。

整数環と2次体の整数環

$A=\mathbb{Z}$ のとき $\operatorname{Div}(\mathbb{Z})$ は素数 $p$ に対する $(p)$ を基底とする自由アーベル群であり、$0$ でない有理数 $x$ の主因子は $\operatorname{div}(x)=\sum_p\operatorname{ord}_p(x)\,(p)$($\operatorname{ord}_p$ は $p$ 進付値、付値環)である。素因数分解の一意性はすべての因子が主因子であること、すなわち $\operatorname{Cl}(\mathbb{Z})=0$ を意味する。
$A=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ のとき、Dedekind整域 の記事の例「2次体の整数環」の記号で $\operatorname{div}(6)=2P_2+P_3+P_3'$、$\operatorname{div}(1+\sqrt{-5})=P_2+P_3$、$\operatorname{div}(2)=2P_2$ である。因子 $P_2$ は主因子でない($P_2$ が単項イデアルでないから)ので $\operatorname{Cl}(A)\neq0$ であり、実際 $\operatorname{Cl}(A)\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である(Neu99 Chapter I, §6)。$2P_2=\operatorname{div}(2)$ は主因子なので、$P_2$ の類は位数 $2$ である。

コンパクトでないリーマン面

$X=\mathbb{C}$ 上の有理型関数 $f(z)=\sin z$ は $z=k\pi$($k\in\mathbb{Z}$)に $1$ 位の零点をもち、極をもたない。よって $\operatorname{div}(\sin z)=\sum_{k\in\mathbb{Z}}(k\pi)$ であり、台は無限集合だが離散閉集合である。divisor-def で台を有限集合に限らず離散閉集合としたのはこのためである。コンパクトでないリーマン面では次数は定義されず、Weierstrass の定理により任意の因子が主因子になる(For81 §26)ので $\operatorname{Cl}(\mathbb{C})=0$ である。

反例:主因子でない因子
  1. $X$ をコンパクトなリーマン面、$p\in X$ とする。$D=1\cdot p$ は因子である(満たす性質)が、$\deg D=1\neq0$ なので divisor-thm-degree-zero により主因子でない(満たさない性質)。すなわち「因子 $\Rightarrow$ 主因子」は成り立たない。これは、コンパクトなリーマン面上に $p$ でだけ $1$ 位の極をもち他に極も零点ももたない有理型関数が存在しないことを意味する。
  2. 次数が $0$ でも主因子とは限らない。$X$ を 種数 $1$ のコンパクトなリーマン面(複素トーラス $\mathbb{C}/\Lambda$)、$p\neq q$ をその 2 点とすると、$D=p-q$ は次数 $0$ である(満たす性質)が主因子でない(満たさない性質)。もし $\operatorname{div}(f)=p-q$ なら $f$ は $q$ にだけ $1$ 位の極をもつので、$f\colon X\to\mathbb{P}^{1}$ は次数 $1$ の 正則写像、すなわち 双正則写像 となり、$X$ が $\mathbb{P}^{1}$ と同型になるが、トーラスは単連結でない(単連結空間)ので矛盾する(次数 $1$ の固有正則写像が双正則であることは For81 §4)。したがって $\operatorname{Cl}^{0}(X)\neq0$ である。実際 $\operatorname{Cl}^{0}(\mathbb{C}/\Lambda)\cong\mathbb{C}/\Lambda$ である(Abelの定理、For81 §20–21)。
  3. Dedekind 整域では次数の概念がなく、$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ の因子 $P_2$ が主因子でないことは、イデアルが単項でないことから直接分かる(divisor-ex-dedekind)。

性質

リーマン面上の因子

次数写像の準同型性

$X$ をコンパクトなリーマン面とする。$\deg\colon\operatorname{Div}(X)\to\mathbb{Z}$ は群の 全射準同型 である。

$D=\sum_pn_pp$、$D'=\sum_pn'_pp$ とすると、群演算の定義から $D+D'=\sum_p(n_p+n'_p)p$ であり、和はいずれも有限和なので
$$\deg(D+D')=\sum_p(n_p+n'_p)=\sum_pn_p+\sum_pn'_p=\deg D+\deg D'$$
である。$\deg(1\cdot p)=1$ なので全射である。$\square$

主因子の準同型性

$X$ を連結なリーマン面、$\mathcal{M}(X)^{\times}$ を $X$ 上の恒等的に $0$ でない有理型関数全体のなす 乗法群 とする。

  1. 任意の $f,g\in\mathcal{M}(X)^{\times}$ と $p\in X$ について $\operatorname{ord}_p(fg)=\operatorname{ord}_p(f)+\operatorname{ord}_p(g)$ であり、$f+g\neq0$ ならば $\operatorname{ord}_p(f+g)\ge\min\{\operatorname{ord}_p(f),\operatorname{ord}_p(g)\}$ である。
  2. $\operatorname{div}\colon\mathcal{M}(X)^{\times}\to\operatorname{Div}(X)$ は 群準同型 である。したがって $\operatorname{PDiv}(X)$ はその像として $\operatorname{Div}(X)$ の部分群であり、$\operatorname{div}(1/f)=-\operatorname{div}(f)$ である。
  3. $\operatorname{div}(f)=0$ であることと、$f$ が零点も極ももたない、すなわち $f$ が $X$ 上の 正則関数 で $1/f$ も正則であることは同値である。$X$ がコンパクトなら、これは $f$ が $0$ でない定数であることと同値である。

1。乗法性と非 Archimedes 的不等式は、零点の位数 の記事の命題「位数の与える付値」($\operatorname{ord}_p$ が $\mathcal{M}(X)$ の付値であること)に譲る。
2。1 により各点で $\operatorname{ord}_p(fg)=\operatorname{ord}_p(f)+\operatorname{ord}_p(g)$ なので $\operatorname{div}(fg)=\operatorname{div}(f)+\operatorname{div}(g)$ である。群準同型の像は部分群であり、$\operatorname{div}(1)=0$ から $\operatorname{div}(1/f)=-\operatorname{div}(f)$ である。
3。$\operatorname{div}(f)=0$ はすべての点で $\operatorname{ord}_p(f)=0$、すなわち零点も極もないことである。このとき $f$ と $1/f$ は正則関数である。$X$ がコンパクトで連結なら、正則関数 $f$ の絶対値 $|f|$ はコンパクト集合上で最大値を取り、最大値原理 により $f$ は定数である(For81 §2)。$\square$

コンパクトなリーマン面上の主因子の次数

$X$ をコンパクトで連結なリーマン面、$f$ を $X$ 上の恒等的に $0$ でない有理型関数とする。このとき $\deg\operatorname{div}(f)=0$、すなわち $f$ の零点の個数と極の個数は重複度を込めて等しい。したがって $\deg$ は群準同型 $\deg\colon\operatorname{Cl}(X)\to\mathbb{Z}$ を誘導する。

次数定理の出典

$f$ が定数なら明らかである。定数でないとき、$f$ は $X$ から $\mathbb{P}^{1}$ への定数でない正則写像とみなせ、コンパクト性から 固有写像 である。定数でない固有正則写像 $F\colon X\to Y$ には次数 $n$ が定まり、$Y$ の各点の逆像は重複度を込めてちょうど $n$ 点である(For81 §4, Theorem 4.24)。$0$ の逆像の重複度の和が零点の個数、$\infty$ の逆像の重複度の和が極の個数なので、両者はともに $n$ に等しい(同 Corollary 4.25)。別証明として、有理型1形式 $df/f$ の留数の総和が $0$ であること(留数定理、For81 §10)を用いる方法もある。$\deg$ が $\operatorname{Cl}(X)$ 上で定まることは、divisor-prop-degree により $\deg$ が準同型で、$\operatorname{PDiv}(X)$ 上で $0$ になることから従う。

Riemann球面の因子類群

$X=\mathbb{P}^{1}$ について、$\deg\colon\operatorname{Cl}(\mathbb{P}^{1})\to\mathbb{Z}$ は同型である。すなわち $\mathbb{P}^{1}$ 上の因子が主因子であることと次数が $0$ であることは同値である。

$\deg$ は全射なので(divisor-prop-degree)単射性を示せばよい。$D=\sum_{i=1}^{r}n_i(a_i)+n_{\infty}(\infty)$($a_i\in\mathbb{C}$ は相異なる、$n_i,n_{\infty}\in\mathbb{Z}$)を次数 $0$ の因子とし、$n_{\infty}=-\sum_in_i$ に注意する。有理関数 $f(z):=\prod_{i=1}^{r}(z-a_i)^{n_i}$ を考えると、divisor-ex-sphere の計算により $\mathbb{C}$ 上で $\operatorname{div}(f)=\sum_in_i(a_i)$、$\infty$ での位数は $-\sum_in_i=n_{\infty}$ である。よって $\operatorname{div}(f)=D$ であり、$D$ は主因子である。$\square$

$\mathbb{P}^{1}$ の場合が特別であることは divisor-rem-counterexample の 2 が示す。一般のコンパクトなリーマン面では $\operatorname{Cl}^{0}(X)$ は複素トーラス(Jacobi多様体)の構造をもち、Abel の定理と Jacobi の逆問題がこれを記述する(For81 §20–21)。

Riemann–Rochの定理の主張

$X$ を種数 $g$ のコンパクトで連結なリーマン面とし、因子 $D$ に対し
$$L(D):=\{f\in\mathcal{M}(X)\mid f=0\ \text{または}\ \operatorname{div}(f)+D\ge0\}$$
とおく。$L(D)$ は有限次元の複素ベクトル空間であり、$K$ を $X$ の 標準因子($0$ でない有理型 $1$ 形式の因子)とすると
$$\dim L(D)-\dim L(K-D)=\deg D+1-g$$
が成り立つ。

Riemann–Rochの出典

証明は For81 §16–17(Theorem 16.9 と Serre双対性)、および代数曲線の場合は Har77 Chapter IV, Theorem 1.3 に譲る。$L(D)$ は $D$ の線形同値類だけで決まる($D'=D+\operatorname{div}(h)$ なら $f\mapsto fh$ が $L(D')\to L(D)$ の同型を与える)ので、Riemann–Roch は因子類群上の関数の間の等式である。この定理から、$\deg D>2g-2$ ならば $\dim L(D)=\deg D+1-g$ であること、任意のコンパクトなリーマン面が定数でない有理型関数をもつことなどが従う。

Dedekind整域の因子

Dedekind整域の因子群

$A$ を Dedekind 整域、$K$ をその商体、$\mathcal{I}(A)$ を $0$ でない分数イデアル全体のなす群とする。

  1. $0$ でない任意の分数イデアル $I$ は $I=\prod_PP^{n_P}$($n_P\in\mathbb{Z}$、有限個を除き $0$)と一意に書ける。したがって
    $$\operatorname{Div}(A)\to\mathcal{I}(A),\qquad\sum_Pn_PP\mapsto\prod_PP^{n_P}$$
    は群の同型である。
  2. この同型のもとで主因子 $\operatorname{div}(x)$ は単項分数イデアル $xA$ に対応し、$\operatorname{div}\colon K^{\times}\to\operatorname{Div}(A)$ は群準同型で、その核は $A^{\times}$ である。したがって $\operatorname{Cl}(A)$ は Dedekind整域 の記事のイデアル類群 $\mathcal{I}(A)/\{xA\mid x\in K^{\times}\}$ と同型である。
  3. 各 $P$ について $\operatorname{ord}_P\colon K\to\mathbb{Z}\cup\{\infty\}$($\operatorname{ord}_P(0):=\infty$)は $K$ の付値であり、その付値環は局所化 $A_P$ である。

1。$0$ でない分数イデアル $I$ に対し $aI\subset A$ となる $a\in A$、$a\neq0$ を取る。$aI$ と $aA$ は $0$ でないイデアルなので、Dedekind 整域の定義により $aI=\prod_PP^{a_P}$、$aA=\prod_PP^{b_P}$($a_P,b_P\ge0$、有限個を除き $0$)と書け、分数イデアルの群の中で $I=(aA)^{-1}(aI)=\prod_PP^{a_P-b_P}$ である。一意性について、$\prod_PP^{n_P}=\prod_PP^{m_P}$ とし、すべての $P$ について $n_P+N\ge0$、$m_P+N\ge0$ となる整数 $N\ge0$ を取って、$n_P\neq0$ または $m_P\neq0$ となる有限個の $P$ の積 $J:=\prod_PP^{N}$ を両辺に掛けると、$0$ でないイデアルの 2 つの素イデアル分解 $\prod_PP^{n_P+N}=\prod_PP^{m_P+N}$ が得られ、分解の一意性から $n_P=m_P$ である。写像が群準同型で全単射であることは、$\mathcal{I}(A)$ の積が指数の和に対応することと、いま示した存在と一意性から従う。
2。定義から $\operatorname{div}(x)$ は $xA=\prod_PP^{\operatorname{ord}_P(x)}$ に対応する。$(xy)A=(xA)(yA)$ なので $\operatorname{div}(xy)=\operatorname{div}(x)+\operatorname{div}(y)$ であり、$\operatorname{div}(x)=0$ は $xA=A$、すなわち $x\in A^{\times}$ と同値である。$\operatorname{PDiv}(A)$ は同型 1 のもとで単項分数イデアルの群に写るので、剰余群も同型である。
3。$\operatorname{ord}_P(xy)=\operatorname{ord}_P(x)+\operatorname{ord}_P(y)$ は 2 による。$0$ でない分数イデアル $I,J$ について、$I\subset J$ は $J^{-1}I\subset A$(両辺に可逆な $J^{-1}$ を掛ける)と同値であり、1 の表示で $J^{-1}I$ の指数がすべて $0$ 以上であること、すなわち各素イデアルにおける $I$ の指数が $J$ の指数以上であることと同値である。$x,y,x+y\neq0$ に対し、$n:=\min\{\operatorname{ord}_P(x),\operatorname{ord}_P(y)\}$ とおき、$N$ を $xA$、$yA$ に現れる指数がすべて $-N$ 以上になるように取ると、$J:=P^{n}\prod_{Q\neq P}Q^{-N}$($Q$ は $xA$ または $yA$ に現れる $P$ 以外の素イデアル)について $xA\subset J$、$yA\subset J$ であり、$J$ は $A$ 加群なので $(x+y)A\subset J$ である。したがって $(x+y)A$ の $P$ における指数は $n$ 以上である。よって $\operatorname{ord}_P(x+y)\ge n$ であり、$\operatorname{ord}_P$ は付値である。$\operatorname{ord}_P(x)\ge0$ であることと $x\in A_P$ であることの同値性を示す。$x=a/s$($a\in A$、$s\notin P$)なら $\operatorname{ord}_P(s)=0$($sA\subset P$ でない)より $\operatorname{ord}_P(x)=\operatorname{ord}_P(a)\ge0$ である。逆に $\operatorname{ord}_P(x)\ge0$ とし、$x=a/b$($a,b\in A$、$b\neq0$)と書く。$bA=P^{k}J$($J$ は $P$ で割り切れないイデアル)と分解すると $J\not\subset P$ なので $s\in J\setminus P$ が取れ、$sA\subset J$ より $sA=JJ'$ と書ける。このとき $sx=sa/b$ の分数イデアルは $(sA)(aA)(bA)^{-1}=J'\cdot aA\cdot P^{-k}$ であり、その $P$ の指数は $\operatorname{ord}_P(x)+\operatorname{ord}_P(s)\ge0$ なので、$sxA$ は $0$ でない指数をもつ素イデアルの非負冪の積、すなわち $A$ のイデアルである。よって $sx\in A$、$x\in A_P$ である。$\square$

$A_P$ は離散付値環であり(Dedekind整域 の記事の定理「Noether整域におけるDedekind整域の特徴づけ」)、$\operatorname{ord}_P$ はその付値にほかならない。リーマン面の $\operatorname{ord}_p$ が $p$ における収束冪級数環(離散付値環)の付値であること(付値環 の記事の例)と対応している。

補足

リーマン面と Dedekind 整域はどちらも「$1$ 次元」であり、因子はどちらの場合も「点」(閉点、または $0$ でない素イデアル)の整数係数の形式和である。この共通の構造は スキーム の言葉で統一される。整で正規な Noether スキーム $X$ に対し、余次元 $1$ の 既約閉部分集合(素因子)を基底とする自由アーベル群の元を Weil因子 といい、有理関数 $f$ に対して各素因子に沿った位数(その 生成点 での 局所環 が離散付値環であることによる)を並べたものが主因子 $\operatorname{div}(f)$ である。局所的に主因子で与えられる因子を Cartier因子 といい、その線形同値類の群は Picard群 $\operatorname{Pic}(X)$ に一致する。Dedekind 整域 $A$ に対する $X=\operatorname{Spec}A$ では、すべての局所環が離散付値環なので Weil 因子と Cartier 因子が一致し、$\operatorname{Pic}(A)\cong\operatorname{Cl}(A)$ である(Picard群 の記事の定理「因子類群との比較(引用)」、Har77 Chapter II, §6)。コンパクトなリーマン面は $\mathbb{C}$ 上の滑らかな 射影曲線 と同じものであり(Har77 Appendix B)、本記事のリーマン面上の因子はこの曲線の Weil 因子と一致する。正規でない、あるいは高次元の場合に Weil 因子と Cartier 因子がどのようにずれるかは 局所Picard群 の記事が扱う。
本記事の $\operatorname{Div}(X)$ はコンパクトでないリーマン面では局所有限な和を許した。旧来の定義のように有限和に限る流儀もあるが、コンパクトな場合には両者は一致し、コンパクトでない場合に $\operatorname{div}(\sin z)$ のような主因子を扱うには局所有限な定義が必要である。

関連項目

参考文献

[1]
Otto Forster (translated by Bruce Gilligan), Lectures on Riemann Surfaces, Graduate Texts in Mathematics 81, Springer, 1981, §2(有理型関数、$\mathbb{P}^1$ 上の有理型関数)、§4(Theorem 4.24, Corollary 4.25 固有正則写像の次数と零点・極の個数)、§10(留数定理)、§16–17(Riemann–Roch の定理と Serre 双対性)、§20–21(Abel の定理、Jacobi の逆問題)、§26(Weierstrass の定理)
[2]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, Chapter II, §6(Weil 因子と Cartier 因子)、Chapter IV, Theorem 1.3(Riemann–Roch)、Appendix B(リーマン面と代数曲線)

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