近傍系(Neighborhood system)とは、位相空間論において、ある点 $x$ に「位相的に近い」とみなせる部分集合全体の族のことである。距離空間における「点 $x$ から距離 $\epsilon$ 以内を含む範囲」という概念を一般化したものであり、距離関数に依存せずに収束や連続性といった局所的な位相的性質を定義するための基礎構造となる。現代的な定義では開集合系から導かれることが多いが、歴史的にはFelix Hausdorffによって位相空間を定義するための出発点(近傍公理)として導入された概念である。
近傍系は、通常は位相空間の開集合を用いて定義されるが、逆に近傍系を公理的に与えることで位相を定めることもできる。
位相空間 $(X, \mathcal{O})$ において、点 $x \in X$ の近傍(Neighborhood)とは、$x$ を含む開集合 $U \in \mathcal{O}$ を部分集合として含むような $X$ の部分集合 $V$ のことである。
点 $x$ のすべての近傍の集まりを、点 $x$ の近傍系(Neighborhood system)といい、通常 $\mathcal{V}_x$ または $\mathcal{N}(x)$ と表記する。
$$\mathcal{V}_x = \{ V \subseteq X \mid \exists U \in \mathcal{O} \text{ s.t. } x \in U \subseteq V \}$$
注意: 文脈によっては「近傍」という言葉が「開近傍(近傍である開集合)」のみを指す場合もあるが、一般には閉集合やその他の集合であっても、内部に $x$ を含んでいれば近傍と呼ばれる。
位相空間論の創始者の一人であるHausdorffは、開集合よりも直感的な「近さ」を表す近傍系を出発点として位相空間を定義した。
集合 $X$ の各点 $x$ に、部分集合族 $\mathcal{V}_x$ が対応し、以下の4条件を満たすとき、この対応は $X$ 上に一つの位相を定める。
この公理系は、近傍系が数学的には「各点上のフィルター」であることを示しており、公理4が位相構造(開集合の概念)を生み出す鍵となっている。
近傍系は、解析学における極限操作を一般化する枠組みを提供する。
また、開集合系と近傍系は相互に変換可能である。
部分集合 $A \subseteq X$ が開集合であるための必要十分条件は、$A$ がそれに含まれるすべての点の近傍となることである。
$$A \in \mathcal{O} \iff \forall x \in A, A \in \mathcal{V}_x$$
近傍系の構造を見ることで、その空間の位相的性質(特に分離公理や可算公理)が理解できる。
近傍系 $\mathcal{V}_x$ は通常、非常に巨大な集合族となる。これを効率的に扱うために、その「芯」となる部分だけを取り出したものが基本近傍系である。
例えば、$\mathbb{R}$ において「$x$ を中心とする全ての開区間」は基本近傍系であり、それに閉区間やより複雑な集合を加えた全体が近傍系である。