射影平面(projective plane)とは、平面に無限遠点を付け加えて、異なる 2 直線がいつもただ 1 点で交わるようにした幾何である。体 $K$ の上では、$K^3$ の原点を通る直線を点、原点を通る平面を直線とみて $\mathbb{P}^2(K)$ と書き、点を斉次座標 $[x:y:z]$ で表す。公理的には、異なる 2 点を通る直線と異なる 2 直線の交点がただ 1 つずつあることなどで定義され、点と直線を入れ替えても成り立つ双対原理をもち、点が有限個なら、1 本の直線の上の点の個数を $n+1$ として、点も直線も $n^2+n+1$ 個である。実数の射影平面は、閉円板の境界の対蹠点を貼り合わせた曲面で、Möbius の帯を含む。
まっすぐな線路の写真では、2 本のレールが地平線の 1 点に向かって集まって見える。平面の上では平行な 2 直線は交わらないが、絵の上では「無限の遠く」で交わるように描かれる。
平面幾何の定理には、「2 直線の交点」をとる場面が多い。そのたびに「平行でなければ」と断ることになり、Desarguesの定理 や Pappusの六角形定理 では平行な場合を別に扱う。平行な 2 直線にも交点を 1 つずつ付け加えて、「異なる 2 直線はいつもただ 1 点で交わる」ようにしたものが射影平面である。
付け加える点は、空間から平面を眺めると自然に見えてくる。座標空間の平面 $z=1$ を考え、原点 $O$ から眺める。
平面 z = 1 の上の平行な 2 直線 y = 0(青)と y = 1(赤)。それぞれを含む原点 O を通る平面は y = 0 と y = z で、その交わりは x 軸(緑)になる。平面 z = 1 の点 P には原点を通る直線 OP(橙)が対応する
| 高校での見方 | この記事の言葉 |
|---|---|
| 平行線は遠くの 1 点で交わる | 無限遠点、無限遠直線 |
| 点 $(x,y)$ | 斉次座標 $[x:y:1]$ |
| 直線 $ax+by+c=0$ | 直線 $ax+by+cz=0$($[a:b:c]$ で表す) |
| 2 点を通る直線、2 直線の交点 | 射影平面の公理、双対原理 |
以下、$K$ を体とする。
3 次元の数ベクトル空間 $K^3$ の 1 次元部分空間を 点、2 次元部分空間を 直線 といい、点 $U$ が直線 $W$ に含まれる($U\subset W$)とき「点 $U$ は直線 $W$ の上にある」という。点の全体と直線の全体をあわせて $K$ の上の 射影平面 といい、$\mathbb{P}^2(K)$ と書く。
$0$ でないベクトル $(x,y,z)$ が張る点を $[x:y:z]$ と書き、斉次座標という。$[x:y:z]=[\lambda x:\lambda y:\lambda z]$($\lambda\in K^\times$)である。$(a,b,c)\ne(0,0,0)$ について
$$
L(a:b:c):=\bigl\{[x:y:z]\ \bigm|\ ax+by+cz=0\bigr\}
$$
は 1 本の直線(2 次元部分空間 $\{ax+by+cz=0\}$)であり、どの直線もこの形にただ 1 通りに書ける($(a,b,c)$ は $0$ でない定数倍を除いて決まる)。
最後の主張は、2 次元部分空間 $W\subset K^3$ を核にもつ $0$ でない線形汎関数が、定数倍を除いてただ 1 つあることの言い換えである($W$ の零化空間は 1 次元:双対空間(線形代数) の定理「零化空間の次元」)。点の全体としての $\mathbb{P}^2(K)$ は、射影空間 の定義「射影空間」の $n=2$ の場合 $K\mathrm{P}^2$ と同じ集合であり、$K=\mathbb{R},\mathbb{C}$ のときは同記事の位相を入れて考える。
$K=\mathbb{R}$ とする。異なる 2 点 $[p]$、$[q]$ を通る直線は $L(p\times q)$ であり($p\times q$ は外積。$p,q$ が 1 次独立なので $p\times q\ne0$ で、$p$ とも $q$ とも内積が $0$)、異なる 2 直線 $L(a)$、$L(b)$ の交点は $[a\times b]$ である。
(1) 平面 $z=1$ の点 $(1,0)$、$(0,1)$ は $[1:0:1]$、$[0:1:1]$ で、外積は $(-1,-1,1)$ なので、2 点を通る直線は $-x-y+z=0$、平面 $z=1$ の上では $x+y=1$ である。
(2) 平行な 2 直線 $x+y=1$、$x+y=2$ は $L(1:1:-1)$、$L(1:1:-2)$ で、外積は $(-1,1,0)$ である。交点 $[-1:1:0]$ は第 3 成分が $0$ の点、すなわち無限遠点で、2 直線の方向ベクトル $(-1,1)$ を表している。
$L_\infty:=L(0:0:1)=\{[x:y:0]\}$ を 無限遠直線、その上の点を 無限遠点 という。
平面 $K^2$(点と、$ax+by+c=0$ の形の直線をもつ。アフィン平面ともいう)から $\mathbb{P}^2(K)$ への写像 $\iota\colon K^2\to\mathbb{P}^2(K)$ を $\iota(x,y):=[x:y:1]$ で定める。
(1) $\iota$ は単射で、像は $\mathbb{P}^2(K)\setminus L_\infty$ である。
(2) $K^2$ の直線 $ax+by+c=0$($(a,b)\ne(0,0)$)の $\iota$ による像は $L(a:b:c)\setminus L_\infty$ であり、$L(a:b:c)$ と $L_\infty$ の交点はただ 1 つの無限遠点 $[-b:a:0]$ である。$L_\infty$ 以外の直線はどれもこの形をしている。
(3) $K^2$ の異なる 2 直線について、平行(交わらない)ならば、対応する射影平面の直線は無限遠点で交わる。平行でなければ、交点 $(x_0,y_0)$ の像 $[x_0:y_0:1]$ で交わる。
$\mathbb{P}^2(K)$ は、平面 $K^2$ に「方向ごとに 1 つの無限遠点」を加え、それらを 1 本の直線 $L_\infty$ にまとめたものである。どの直線を $L_\infty$ に選んでもよい:$K^3$ の基底を取り替えると、どの直線も $L(0:0:1)$ に移る。
$\mathbb{P}^2(K)$ の点と直線がもつ性質のうち、次の 3 つを取り出して公理にする。
集合 $\mathcal{P}$(元を点という)、集合 $\mathcal{L}$(元を直線という)と、関係 $I\subset\mathcal{P}\times\mathcal{L}$($(P,\ell)\in I$ を「$P$ は $\ell$ の上にある」と読む)の組 $(\mathcal{P},\mathcal{L},I)$ が 射影平面 であるとは、次をみたすことをいう。
(i) 異なる 2 点に対し、その両方が上にある直線がただ 1 本ある。
(ii) 異なる 2 直線に対し、その両方の上にある点がただ 1 つある。
(iii) 4 つの点で、どの 3 つも同じ直線の上にないものがある。
(i) の直線を $PQ$、(ii) の点を $\ell\cap m$ と書く。3 点が同じ直線の上にあることを 共線 という。(iii) は、すべての点が 1 本の直線に乗る場合や、1 本の直線とその外の 1 点だけからなる場合のような、退化した配置を除くための条件である(後者は「反例」の節)。
$\mathbb{P}^2(K)$ は axm-pp-axioms の (i)〜(iii) をみたす。
(i) 異なる 2 点 $U=Kp$、$V=Kq$ では $p,q$ が 1 次独立なので、$U+V$ は 2 次元で、$U$ と $V$ を含む直線である。$U,V$ を含む 2 次元部分空間 $W$ は $U+V$ を含み、次元が等しいので $W=U+V$ である。
(ii) 異なる 2 直線 $W_1,W_2$ では $W_1\subsetneq W_1+W_2$ なので $\dim(W_1+W_2)=3$ であり、基底と次元 の命題「部分空間の和と共通部分の次元」により
$$
\dim(W_1\cap W_2)=\dim W_1+\dim W_2-\dim(W_1+W_2)=2+2-3=1
$$
である。よって $W_1\cap W_2$ は両方の上にある点で、両方の上にある点 $U$ は $U\subset W_1\cap W_2$ をみたし、次元が等しいので $U=W_1\cap W_2$ である。
(iii) 3 点 $[p],[q],[r]$ が共線であることは、$p,q,r$ がある 2 次元部分空間に入ること、すなわち 1 次従属であることと同値である((i) により共通の直線は $Kp+Kq$ に限る)。4 点 $[1:0:0]$、$[0:1:0]$、$[0:0:1]$、$[1:1:1]$ のうちどの 3 つを並べた行列式も $\pm1$ で、どの体でも $0$ でないので、どの 3 つも 1 次独立であり、共線でない。$\square$
公理 (i)〜(iii) だけからは導けない性質もある。Desargues の定理は、座標が数の体系(掛け算が可換とは限らない斜体でもよい)から来る射影平面で成り立ち、Pappus の定理は座標の掛け算の可換性と結びついている(Desarguesの定理 の注意「射影平面と斜体」、Pappusの六角形定理 の注意「座標の掛け算の可換性」)。Desargues の定理が成り立たない射影平面の例は「反例」の節で述べる。
公理 (i) と (ii) は、「点」と「直線」、「上にある」と「通る」を入れ替えると互いに移り合う。(iii) も入れ替えた形が成り立つことを示せば、点と直線の役割は完全に対称になる。
$(\mathcal{P},\mathcal{L},I)$ を射影平面とし、$I^{\mathrm{op}}:=\{(\ell,P)\mid(P,\ell)\in I\}$ とおく。このとき $(\mathcal{L},\mathcal{P},I^{\mathrm{op}})$(直線を「点」、点を「直線」とみる)も射影平面である。したがって、公理 (i)〜(iii) から証明された命題の「点」と「直線」、「上にある」と「通る」を入れ替えた命題も、すべての射影平面で成り立つ。
入れ替えた組での (i) は元の (ii) そのもので、入れ替えた組での (ii) は元の (i) そのものである。入れ替えた組での (iii) は「4 本の直線で、どの 3 本も同じ点を通らないものがある」である。(iii) の 4 点を $A,B,C,D$ とし、4 本の直線 $AB$、$BC$、$CD$、$DA$ をとる。
これらは互いに異なる:たとえば $AB=CD$ なら $A,B,C$ が共線になり、ほかの組も同様である。3 本が同じ点 $X$ を通ったとする。$AB,BC,CD$ の場合、$AB\cap BC=B$(異なる 2 直線の共有点は 1 つ)なので $X=B$ で、$B$ が $CD$ の上にあるから $B,C,D$ が共線になり矛盾する。$BC,CD,DA$ の場合も同様に $X=D$ から $B,C,D$ が共線になる。$AB,BC,DA$ の場合、$X=AB\cap BC=B$ かつ $X=AB\cap DA=A$ となり $A\ne B$ に矛盾する。$AB,CD,DA$ の場合、$X=AB\cap DA=A$ が $CD$ の上にあり、$A,C,D$ が共線になって矛盾する。
後半:公理から命題 $S$ を導く推論を、入れ替えた組(これも射影平面)にそのまま当てはめれば、入れ替えた命題が得られる。$\square$
$\mathbb{P}^2(K)$ では、点 $[a:b:c]$ と直線 $L(a:b:c)$ を対応させると、「点 $[x:y:z]$ が直線 $L(a:b:c)$ の上にある」は $ax+by+cz=0$ で、$(a,b,c)$ と $(x,y,z)$ について対称な条件である。よって点 $[x:y:z]$ が直線 $L(a:b:c)$ の上にあることと、点 $[a:b:c]$ が直線 $L(x:y:z)$ の上にあることは同値であり、この対応で $\mathbb{P}^2(K)$ はその双対と同じ形になる。ex-pp-cross で「2 点を通る直線」と「2 直線の交点」がどちらも外積で求まったのは、この対称性の表れである。
たとえば、次の節の thm-pp-finite の (2)「どの点も $n+1$ 本の直線の上にある」は、(1)「どの直線も $n+1$ 個の点をもつ」の双対である。
点が有限個しかない射影平面もある。一般の射影平面で、点と直線の個数を数えるための補題から始める。
$(\mathcal{P},\mathcal{L},I)$ を点が有限個の射影平面とする。このとき $n\ge2$ となる整数 $n$ がただ 1 つあって、次が成り立つ。
(1) どの直線の上にも、ちょうど $n+1$ 個の点がある。
(2) どの点も、ちょうど $n+1$ 本の直線の上にある。
(3) 点の個数と直線の個数は、どちらも $n^2+n+1$ である。
この $n$ を射影平面の 位数 という。
2 元体 $\mathbb{F}_2=\{0,1\}$ の上の射影平面 $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_2)$ は、$\mathbb{F}_2^3$ の $0$ でない 7 個のベクトルがそのまま 7 個の点になり($\mathbb{F}_2^\times=\{1\}$)、直線は $ax+by+cz=0$($(a,b,c)\ne0$)の 7 本で、各直線に 3 点がある。位数 $2$ の射影平面であり、Fano 平面と呼ばれる(図 2)。三角形の 3 辺と 3 本の中線、それに円で描いた直線 $x+y+z=0$(3 点 $[0:1:1]$、$[1:0:1]$、$[1:1:0]$)で 7 本である。
Fano 平面。7 つの点は斉次座標で表してある。三角形の 3 辺、3 本の中線、内側の円がそれぞれ 1 本の直線で、どの直線も 3 点を通り、どの点も 3 本の直線の上にある
より一般に、$q$ 元の有限体 $\mathbb{F}_q$ の上の $\mathbb{P}^2(\mathbb{F}_q)$ は位数 $q$ の射影平面で、点の個数は $q^2+q+1$ である(射影空間 の命題「有限体上の射影空間の点の個数」と一致する)。$q=2,3,5,7$ で $7,13,31,57$ 個である。
$K=\mathbb{R}$ のとき、$\mathbb{R}\mathrm{P}^2:=\mathbb{P}^2(\mathbb{R})$ には $\mathbb{R}^3\setminus\{0\}$ からの商位相が入り、コンパクトな Hausdorff 空間で、単位球面 $S^2$ の対蹠点 $v,-v$ を同一視した空間と同相である(射影空間 の命題「球面の商としての射影空間」)。ここでは、これを閉円板の貼り合わせとして見直す。
$D^2:=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\mid x^2+y^2\le1\}$ の上で、境界の点 $v$ と $-v$($\lvert v\rvert=1$)を同一視する同値関係を $\sim$ とする。$\varphi\colon D^2\to\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ を
$$
\varphi(x,y):=\bigl[x:y:\sqrt{1-x^2-y^2}\bigr]
$$
で定めると、$\varphi$ は同相写像 $D^2/{\sim}\to\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ を誘導する。
$h(x,y):=\bigl(x,y,\sqrt{1-x^2-y^2}\bigr)$ は $D^2$ から上半球面 $\{(a,b,c)\in S^2\mid c\ge0\}$ への連続な全単射で、$\varphi$ は $h$ と商写像 $\mathbb{R}^3\setminus\{0\}\to\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ の合成なので連続である。
全射であること:点 $[a:b:c]$ の代表を長さ $1$ にとり、$c<0$ なら $-1$ 倍すれば、$c\ge0$ の単位ベクトルになる。これは $h(a,b)$ であり、$\varphi(a,b)=[a:b:c]$ である。
同一視される点:$\varphi(v)=\varphi(w)$ とすると、単位ベクトル $h(v),h(w)$ は $0$ でない定数倍の関係にあり、長さが $1$ なので $h(w)=\pm h(v)$ である。$+$ なら $w=v$ である。$-$ なら第 3 成分が $\ge0$ どうしで符号が逆なので両方 $0$、すなわち $v,w$ は境界の点で $w=-v$ である。逆に境界の $v$ について $\varphi(-v)=[-v:0]=[v:0]=\varphi(v)$ である。よって $\varphi$ のファイバーはちょうど $\sim$ の同値類で、$\varphi$ は連続な全単射 $D^2/{\sim}\to\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ を誘導する。$D^2/{\sim}$ はコンパクトな $D^2$ の像なのでコンパクトで、$\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ は Hausdorff なので、この全単射は同相写像である(閉集合の像がコンパクト、したがって閉になる)。$\square$
境界の上半円と下半円は対蹠点で重なるので、境界の貼り方は「同じ文字 $a$ の辺を 2 回、同じ向きに回る」形になる(図 3 の左)。Hit18 §7.5 では、射影平面をこの形の多角形の曲面 $C_1$ として扱う。
長方形 $R:=[-1,1]\times\bigl[-\tfrac12,\tfrac12\bigr]$ の上で $(1,y)\sim(-1,-y)$ と同一視した空間(Möbius の帯)を $M$ とする。$\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ は $M$ と同相な部分空間を含む。
要点:円板の中の帯 $S:=\{(x,y)\in D^2\mid\lvert y\rvert\le\tfrac12\}$ を長方形 $R$ とみなすと、prop-pp-disc の貼り合わせは $S$ の上ではちょうど $(1,y)\sim(-1,-y)$ になる。
$\psi\colon R\to S$ を $\psi(s,y):=\bigl(s\sqrt{1-y^2},\ y\bigr)$ で定めると、$\psi$ は連続な全単射で(各高さ $y$ で線分 $[-1,1]$ を $S$ の横の弦に伸ばす)、$R$ はコンパクト、$S$ は Hausdorff なので同相写像である。$S$ の点のうち $D^2$ の境界にあるのは $\psi(\pm1,y)$ だけで、$\psi(1,y)=\bigl(\sqrt{1-y^2},y\bigr)$ の対蹠点は $\bigl(-\sqrt{1-y^2},-y\bigr)=\psi(-1,-y)$ である。したがって、合成 $\varphi\circ\psi\colon R\to\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ で同じ点に移る $R$ の 2 点は、ちょうど $(1,y)$ と $(-1,-y)$ の組である。$\varphi\circ\psi$ は連続なので連続な全単射 $M\to\varphi(S)$ を誘導し、$M$ はコンパクト、$\varphi(S)\subset\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ は Hausdorff なので、これは同相写像である。
左:閉円板の境界の対蹠点(点線で結んだ 2 点)を同一視すると射影平面になる。境界の上半分と下半分は同じ向きの辺 a として貼られる。橙の帯 |y| ≤ 1/2 は両端が上下を入れ替えて貼られる。右:その帯は Möbius の帯である
Möbius の帯を含む曲面を向き付け不可能という(Hit18 §7.5 の定義。帯に沿って 1 周すると時計回りが反時計回りに変わる)。したがって $\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ は向き付け不可能な曲面である。このほか、次のことが知られている。
| 外す条件・変えるもの | 例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 公理 (ii)(2 直線は交わる) | 平面 $K^2$ と普通の直線 | 平行な 2 直線が交わること |
| 公理 (iii)(一般の位置の 4 点) | 1 本の直線とその外の 1 点 | 直線の点の個数がそろうこと(thm-pp-finite の (1)) |
| 座標が数の体系から来ること | Moulton の平面に無限遠点を加えたもの | Desargues の定理 |
| 座標が実数であること | $\mathbb{P}^2(\mathbb{C})$ の 9 点の配置 | Sylvester–Gallai の定理 |
$K^2$ の点と直線($ax+by+c=0$、$(a,b)\ne(0,0)$)は、公理 (i) と (iii) をみたす((i) は 2 点を通る直線がただ 1 本あること、(iii) は $(0,0),(1,0),(0,1),(1,1)$ で確かめられる)。満たさない性質は (ii) である:平行な 2 直線 $x=0$、$x=1$ は共有点をもたない。prop-pp-affine は、平行な直線の組ごとに無限遠点を 1 つ加えると (ii) が回復することを示している。
$k\ge2$ とし、点を $P_0,\dots,P_k,Q$ の $k+2$ 個、直線を $\ell_0:=\{P_0,\dots,P_k\}$ と $m_i:=\{P_i,Q\}$($0\le i\le k$)の $k+2$ 本とする(直線を、その上の点の集合で表した)。(i):$P_i,P_j$ を通るのは $\ell_0$ だけ、$P_i,Q$ を通るのは $m_i$ だけである。(ii):$\ell_0\cap m_i=\{P_i\}$、$m_i\cap m_j=\{Q\}$($i\ne j$)である。満たさない性質は (iii) で、どの 4 点を選んでも $P$ のうち 3 つが入り、それらは $\ell_0$ の上にある。この配置では $\ell_0$ に $k+1$ 個、$m_i$ に $2$ 個の点があり、thm-pp-finite の (1) が成り立たない。(iii) は定理の証明で、lem-pp-count の (2) を使うところに効いている。
Desarguesの定理 の定義「Moulton の平面」は、平面の点の集合はそのままにして、傾きが負の直線を $x$ 軸で折り曲げたものを「直線」とする平面である。同記事は、この平面でも「異なる 2 点を通る直線がただ 1 本ある」「直線の外の点を通ってそれと交わらない直線がただ 1 本ある」ことを考え方とともに述べ(証明は与えていない。この記事でもこの 2 つの性質は証明せずに使う)、例「反例:Moulton の平面では Desargues の定理が成り立たない」で、1 点に関して配景的な 2 つの三角形の対応する辺の交点が一直線上にない配置を示している。
この 2 つの性質(とその平面に一直線上にない 3 点があること)をみたす平面には、prop-pp-affine と同じように、平行な直線の組ごとに無限遠点を加え、それらを 1 本の無限遠直線にまとめることで、公理 (i)〜(iii) をみたす射影平面ができる。Moulton の平面から作ったこの射影平面では、同記事の反例の配置がそのまま残るので、Desargues の定理が成り立たない。したがって Desargues の定理は公理 (i)〜(iii) からは証明できず、Moulton の平面から作った射影平面は、どの体 $K$ の $\mathbb{P}^2(K)$ とも(点と直線の関係を保つ全単射で)移り合わない。
点と直線の組が、(A1) 異なる 2 点を通る直線がただ 1 本ある、(A2) 直線 $\ell$ と $\ell$ の上にない点 $P$ に対し、$P$ を通り $\ell$ と交わらない直線がただ 1 本ある、(A3) 一直線上にない 3 点 $A,B,C$ がある、をみたすとする。直線 $\ell,m$ が「平行」とは $\ell=m$ または共有点がないことと定める。
平行は同値関係である:推移律だけを示す。$\ell\parallel m$、$m\parallel n$、$\ell\ne n$ で $\ell$ と $n$ が点 $P$ を共有したとする。$\ell\ne m$ かつ $n\ne m$ の場合、$P$ は $m$ の上になく($m$ は $\ell$ とも $n$ とも交わらない)、$P$ を通り $m$ と交わらない直線が $\ell$ と $n$ の 2 本になって (A2) に反する。$\ell=m$ または $n=m$ の場合は $\ell\parallel n$ が明らかである。
平行の同値類ごとに新しい点(無限遠点)を 1 つ加え、各直線にその同値類の無限遠点を加え、無限遠点の全体を新しい直線とする。(i):もとの 2 点は (A1) の直線(とその無限遠点)だけで結ばれる。もとの点 $P$ と無限遠点 $[m]$ は、$P$ を通り $m$ に平行な直線ただ 1 本で結ばれる((A2)、$P$ が $m$ の上にあれば $m$ 自身)。2 つの無限遠点は無限遠直線だけで結ばれる(もとの直線は無限遠点を 1 つしかもたない)。(ii):もとの 2 直線は、交わるならその交点((A1) により 1 点だけ)で、平行ならその無限遠点だけで交わる。もとの直線と無限遠直線はその無限遠点だけで交わる。(iii):$D$ を、$B$ を通り $AC$ に平行な直線と $C$ を通り $AB$ に平行な直線の交点とする(この 2 直線が平行なら推移律で $AC\parallel AB$、すなわち $AC=AB$ となり矛盾)。$D$ は $C$ を通る $AB$ の平行線の上にあるので $AB$ の上になく、同様に $AC$ の上にない。$D$ が $BC$ の上にあれば $BD=BC$ が $AC$ に平行になり、$C$ を共有するので $BC=AC$ となって矛盾する。よって $A,B,C,D$ のどの 3 つも共線でない。
複素数の場合は、Sylvester–Gallaiの定理 の例「反例:複素射影平面の 9 点」が、$\mathbb{P}^2(\mathbb{C})$ の 9 点で、どの 2 点を結ぶ直線も 3 点目を通るものを与えている。実数の平面では(有限個の点を避ける直線を無限遠直線に選べば $\mathbb{P}^2(\mathbb{R})$ でも)、一直線上にない有限個の点の集まりには、そのうちのちょうど 2 点だけを通る直線が必ずある(同記事の定理)ので、この性質は $\mathbb{P}^2(\mathbb{R})$ と $\mathbb{P}^2(\mathbb{C})$ の違いを示す。
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