代数体における素イデアルの分解

同義語:素イデアルの分解基本等式(素イデアル分解)分岐指数剰余次数惰性次数Kummer–Dedekindの定理decomposition of prime idealssplitting of primesramification indexresidue degree

概要

代数体における素イデアルの分解(decomposition of prime ideals in number fields)とは、代数体の拡大 $L/K$ で、$K$ の整数環の素イデアル $\mathfrak{p}$ が $L$ の整数環で生成するイデアルを素イデアルの積 $\mathfrak{P}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{P}_g^{e_g}$ に分解することである。$e_i$ を分岐指数、剰余体の拡大次数 $f_i$ を剰余次数といい、基本等式 $\sum_i e_if_i=[L:K]$ が成り立つ。多くの場合、分解は最小多項式を剰余体上で因数分解して読み取れ(Kummer–Dedekind の定理)、分岐する素イデアルは有限個である。$\mathbb{Z}[i]$ では $5=(2+i)(2-i)$ と分かれ、$2$ は分岐し、$3$ は素のまま残る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 代数体, 代数的整数, Dedekind整域, 有限体, 中国剰余定理

有理素数 $p$ は、代数体の整数環の中ではもはや素とは限らない。Gauss 整数の環 $\mathbb{Z}[i]$ では $5=(2+i)(2-i)$ と 2 つの素元に分かれ、$2=-i(1+i)^2$ は同じ素元の 2 乗になり、$3$ は素元のまま残る。一般の代数体では元の素因数分解の一意性が崩れることがあるが、イデアルで考えると、Dedekind整域の性質によって $p\mathcal{O}_L$ は素イデアルの積にただ 1 通りに分解する。この分解に現れる素イデアルの個数 $g$、各素イデアルの指数 $e_i$(分岐指数)、剰余体の拡大次数 $f_i$(剰余次数)は、拡大次数 $n$ と
$$ \sum_{i=1}^{g}e_if_i=n $$
という関係で結ばれている。これが基本等式であり、この記事の主定理である。$\mathbb{Z}[i]$ では $n=2$ で、$5$ は $e_i=f_i=1$ の素イデアル 2 個、$2$ は $e=2$ の素イデアル 1 個、$3$ は $f=2$ の素イデアル 1 個に対応し、いずれも和が $2$ になる。
この記事では、代数体の拡大 $L/K$ における素イデアルの分解を定義し、基本等式を証明する。さらに、最小多項式を剰余体の上で因数分解して分解を求める Kummer–Dedekind の定理と、分岐する素イデアルが有限個であることを証明する。Galois拡大では $e_i$ と $f_i$ がそれぞれすべて等しくなり、$efg=n$ となる。その証明と、そこから生じる群は 分解群と惰性群 の記事で扱う。

定義

以下、$K\subset L$ を代数体とし、$n:=[L:K]$ とおく。$\mathcal{O}_K\subset\mathcal{O}_L$ をそれぞれの整数環とする。次の事実を基礎として用いる。

  • $\mathcal{O}_L$ は Dedekind 整域であり、階数 $[L:\mathbb{Q}]$ の自由 $\mathbb{Z}$ 加群である(Dedekind整域 の記事の定理「整閉包へのDedekind性の遺伝」、Ste12 Proposition 2.4.5・Proposition 3.1.5)。特に $\mathcal{O}_L$ は有限生成 $\mathcal{O}_K$ 加群である。
  • $\mathcal{O}_L\cap K=\mathcal{O}_K$ である($K$ の元で $\mathbb{Z}$ 上整なものが $\mathcal{O}_K$ の元だから)。また $L$ の任意の元 $x$ に対し、$0$ でない整数 $m$ で $mx\in\mathcal{O}_L$ となるものがある(Ste12 Lemma 2.3.19)。
  • $\alpha\in\mathcal{O}_L$ の $K$ 上の最小多項式は $\mathcal{O}_K$ 係数である。実際、その根はすべて $\alpha$ の共役で $\mathbb{Z}$ 上整であり、係数は根の基本対称式なので $\mathbb{Z}$ 上整で、しかも $K$ に属するから $\mathcal{O}_K$ に属する。
    Dedekind 整域では $0$ でない素イデアルは極大イデアルであり、$0$ でないイデアルは素イデアルの積に順序を除いて一意に分解し、$I\supset J$ と「$I$ が $J$ を割る($J=IM$ となるイデアル $M$ がある)」とは同値である(Dedekind整域 の記事の定理「Dedekind整域のイデアル論的特徴づけ」と命題「Dedekind整域の基本性質」)。この記事では $0$ でない素イデアルを単に素イデアルとよび、$\mathcal{O}_K$ の素イデアルを $\mathfrak{p}$、$\mathcal{O}_L$ の素イデアルを $\mathfrak{P}$ で表す。
素イデアルの上にある素イデアル

$\mathcal{O}_L$ の素イデアル $\mathfrak{P}$ と $\mathcal{O}_K$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ について、$\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K=\mathfrak{p}$ が成り立つとき、$\mathfrak{P}$ は $\mathfrak{p}$ の上にある(lies over)といい、$\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p}$ と書く。$\mathcal{O}_K$ の剰余体を $\kappa(\mathfrak{p}):=\mathcal{O}_K/\mathfrak{p}$、$\mathcal{O}_L$ の剰余体を $\kappa(\mathfrak{P}):=\mathcal{O}_L/\mathfrak{P}$ と書く。

上にある素イデアルの存在と有限性
  1. $\mathcal{O}_L$ の素イデアル $\mathfrak{P}$ に対し、$\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K$ は $\mathcal{O}_K$ の素イデアルである。
  2. $\mathcal{O}_K$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ に対し $\mathfrak{p}\mathcal{O}_L\neq\mathcal{O}_L$ であり、$\mathfrak{p}\mathcal{O}_L=\mathfrak{P}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{P}_g^{e_g}$($\mathfrak{P}_i$ は相異なる素イデアル、$e_i\ge1$、$g\ge1$)と分解すると、$\mathfrak{p}$ の上にある素イデアルはちょうど $\mathfrak{P}_1,\dots,\mathfrak{P}_g$ である。
  3. 剰余体 $\kappa(\mathfrak{p})$、$\kappa(\mathfrak{P})$ は有限体であり、$\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p}$ のとき $\kappa(\mathfrak{P})$ は $\kappa(\mathfrak{p})$ の有限次拡大である。

要点:1 は最小多項式の定数項が $\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K$ に入ることから、2 は $\mathfrak{p}^{-1}$ の元を用いた背理法と分解の一意性から、3 は $\mathcal{O}_L$ が有限階数の自由 $\mathbb{Z}$ 加群であることから従う。

詳しい証明を開く

1。$\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K$ は $1$ を含まない素イデアルである(素イデアルの引き戻し)。$0$ でないことを示す。$0$ でない $x\in\mathfrak{P}$ の $K$ 上の最小多項式を $x^m+a_{m-1}x^{m-1}+\cdots+a_0$($a_j\in\mathcal{O}_K$)とすると、既約性から $a_0\neq0$ であり、$a_0=-x(x^{m-1}+a_{m-1}x^{m-2}+\cdots+a_1)\in\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K$ である。

2。$\mathfrak{p}$ は Dedekind 整域 $\mathcal{O}_K$ の $0$ でないイデアルなので可逆であり、$\mathfrak{p}^{-1}:=\{x\in K\mid x\mathfrak{p}\subset\mathcal{O}_K\}$ は $\mathcal{O}_K$ を真に含む($\mathfrak{p}^{-1}=\mathcal{O}_K$ なら $\mathcal{O}_K=\mathfrak{p}\mathfrak{p}^{-1}=\mathfrak{p}$ となって矛盾する)。$x\in\mathfrak{p}^{-1}\setminus\mathcal{O}_K$ を取る。$\mathfrak{p}\mathcal{O}_L=\mathcal{O}_L$ と仮定すると、$x\mathcal{O}_L=x\mathfrak{p}\mathcal{O}_L\subset\mathcal{O}_K\mathcal{O}_L=\mathcal{O}_L$ より $x\in\mathcal{O}_L\cap K=\mathcal{O}_K$ となり矛盾する。よって $\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ は $0$ でない真のイデアルで、$g\ge1$ 個の素イデアルの積に分解する。

素イデアル $\mathfrak{P}$ について、$\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K=\mathfrak{p}$ ならば $\mathfrak{P}\supset\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ である。逆に $\mathfrak{P}\supset\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ ならば、素イデアル $\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K$ は極大イデアル $\mathfrak{p}$ を含むので $\mathfrak{p}$ に等しい。一方、$\mathfrak{P}\supset\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ は $\mathfrak{P}$ が $\mathfrak{P}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{P}_g^{e_g}$ を割ることと同値であり、分解の一意性からこれは $\mathfrak{P}$ がある $\mathfrak{P}_i$ に等しいことと同値である。

3。1 を拡大 $L/\mathbb{Q}$ に適用すると $\mathfrak{P}\cap\mathbb{Z}\neq0$ なので、$0$ でない整数 $a\in\mathfrak{P}$ が取れる。$\mathcal{O}_L\cong\mathbb{Z}^{[L:\mathbb{Q}]}$ より $\mathcal{O}_L/a\mathcal{O}_L\cong(\mathbb{Z}/a\mathbb{Z})^{[L:\mathbb{Q}]}$ は有限なので、その商 $\kappa(\mathfrak{P})=\mathcal{O}_L/\mathfrak{P}$ は有限である。$\kappa(\mathfrak{p})$ も同様に有限であり、$\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K=\mathfrak{p}$ から単射 $\kappa(\mathfrak{p})\to\kappa(\mathfrak{P})$ が引き起こされる。有限体の拡大は有限次である。$\square$

分岐指数と剰余次数

$\mathfrak{p}\mathcal{O}_L=\mathfrak{P}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{P}_g^{e_g}$ を prop-pdnf-lying-over の分解とする。$e_i=:e(\mathfrak{P}_i\mid\mathfrak{p})$ を $\mathfrak{P}_i$ の $\mathfrak{p}$ 上の分岐指数(ramification index)、
$$ f_i=f(\mathfrak{P}_i\mid\mathfrak{p}):=[\kappa(\mathfrak{P}_i):\kappa(\mathfrak{p})] $$
を剰余次数(residue degree、惰性次数ともいう)とよぶ。$g=g(\mathfrak{p})$ は $\mathfrak{p}$ の上にある素イデアルの個数である。

分解の様子には次の名前がある。

分解の型

$\mathcal{O}_K$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ について、上の記号で次のようにいう。

  1. ある $i$ で $e_i\ge2$ のとき、$\mathfrak{p}$ は $L$ で分岐する(ramified)という。すべての $i$ で $e_i=1$ のとき不分岐(unramified)という。$\mathfrak{P}_i$ 自身についても、$e_i\ge2$ のとき $\mathfrak{P}_i$ は $\mathfrak{p}$ 上分岐するという。
  2. $g=1$、$e_1=n$ のとき(したがって $f_1=1$)、$\mathfrak{p}$ は完全分岐する(totally ramified)という。
  3. $g=1$、$e_1=1$ のとき(したがって $f_1=n$)、$\mathfrak{p}$ は惰性する(inert)という。$\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ が素イデアルのままであることにあたる。
  4. $g=n$ のとき(したがってすべての $e_i=f_i=1$)、$\mathfrak{p}$ は完全分解する(splits completely)という。
    括弧内の「したがって」は thm-pdnf-fundamental による。$K=\mathbb{Q}$ のときは素イデアル $p\mathbb{Z}$ を素数 $p$ と同一視し、$p\mathcal{O}_L$ の分解を「$p$ の分解」とよぶ。

直感

$\mathcal{O}_L$ の素イデアル全体を点の集合とみると、$\mathfrak{P}\mapsto\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K$ は $\mathcal{O}_L$ の素イデアルから $\mathcal{O}_K$ の素イデアルへの写像であり、prop-pdnf-lying-over はこの写像のファイバーが空でない有限集合であることをいう。基本等式は、各ファイバーの点を「重複度 $e_i$」と「剰余体の大きさ $f_i$」の重みを付けて数えると、つねに拡大次数 $n$ になることを主張する。これは、次数 $n$ の多項式が代数閉体上で重複度を込めてちょうど $n$ 個の根をもつことの類似であり、実際 Kummer–Dedekind の定理(thm-pdnf-kummer-dedekind)によれば、多くの素イデアルでは $e_i,f_i$ は最小多項式を剰余体上で因数分解したときの因子の重複度と次数そのものである。

基本等式

剰余環 $\mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ の次元

$\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ は $\mathfrak{p}$ で消されるので、$\mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ は体 $\kappa(\mathfrak{p})$ 上のベクトル空間である。基本等式は、この次元を 2 通りに数えることで示される。

剰余環の次元は拡大次数

$\mathcal{O}_K$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ について、$\dim_{\kappa(\mathfrak{p})}\mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L=n$ である。

要点:$K=\mathbb{Q}$ なら $\mathcal{O}_L\cong\mathbb{Z}^n$ から直ちに従う。一般には $\mathfrak{p}$ で局所化すると $\mathcal{O}_K$ は単項イデアル整域(離散付値環)になり、$\mathcal{O}_L$ の局所化はその上の階数 $n$ の自由加群になる。$\mathfrak{p}$ を法とした剰余環は局所化しても変わらない。

詳しい証明を開く

$K=\mathbb{Q}$、$\mathfrak{p}=p\mathbb{Z}$ の場合は、$\mathcal{O}_L\cong\mathbb{Z}^n$ より $\mathcal{O}_L/p\mathcal{O}_L\cong\mathbb{F}_p^n$ であり、主張は直ちに従う。一般の場合は $\mathcal{O}_K$ が単項イデアル整域とは限らないので、$\mathfrak{p}$ で局所化して同じ議論に帰着させる。

$S:=\mathcal{O}_K\setminus\mathfrak{p}$、$A:=S^{-1}\mathcal{O}_K$、$B:=S^{-1}\mathcal{O}_L\subset L$ とおく。$A$ は離散付値環(Dedekind整域 の記事の定理「Noether整域におけるDedekind整域の特徴づけ」の 3)であり、特に単項イデアル整域である。

段 1($B$ は階数 $n$ の自由 $A$ 加群)。$B$ は有限生成 $A$ 加群であり、体 $L$ の部分加群なので捩れをもたない。単項イデアル整域上の有限生成で捩れのない加群は自由なので(単項イデアル整域 の記事の定理「単項イデアル整域上の加群」)、$B$ は基底 $b_1,\dots,b_r$ をもつ。$b_j$ たちは $K$ 上 1 次独立である($K$ 係数の 1 次関係は、分母を払えば $A$ 係数の 1 次関係になる)。また $L$ の任意の元 $x$ は $0$ でない整数 $m$ により $mx\in\mathcal{O}_L\subset B$ となるので、$b_j$ たちは $L$ を $K$ 上張る。よって $r=n$ である。

段 2($A/\mathfrak{p}A\cong\kappa(\mathfrak{p})$ と $B/\mathfrak{p}B\cong\mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$)。$s\in S$ に対し、$\mathfrak{p}$ は極大なので $st-1\in\mathfrak{p}$ となる $t\in\mathcal{O}_K$ がある。自然な写像 $\mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L\to B/\mathfrak{p}B$ を考える。全射であること:$b\in\mathcal{O}_L$、$s\in S$ について $b/s-tb=b(1-st)/s\in\mathfrak{p}B$ である。単射であること:$x\in\mathcal{O}_L\cap\mathfrak{p}B$ なら、分母を払って $sx\in\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ となる $s\in S$ があり、$x=t(sx)+(1-st)x\in\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ である。同じ議論を $\mathcal{O}_K$ と $A$ に当てると $\kappa(\mathfrak{p})=\mathcal{O}_K/\mathfrak{p}\cong A/\mathfrak{p}A$ を得る。

段 3。段 1 から $B/\mathfrak{p}B\cong(A/\mathfrak{p}A)^n$ であり、段 2 と合わせて $\mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L\cong\kappa(\mathfrak{p})^n$ である。これらの同型は $\mathcal{O}_K$ の作用と両立するので、$\kappa(\mathfrak{p})$ 上のベクトル空間の同型である。$\square$

素イデアルの冪による剰余環

$\mathfrak{P}$ を $\mathfrak{p}$ の上にある $\mathcal{O}_L$ の素イデアル、$e\ge1$ とする。$\mathcal{O}_L/\mathfrak{P}^e$ は $\kappa(\mathfrak{p})$ 上のベクトル空間であり、その次元は $e\cdot f(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})$ である。

要点:各 $\mathfrak{P}^j/\mathfrak{P}^{j+1}$ は、間に挟まるイデアルがないので $\kappa(\mathfrak{P})$ 上 1 次元であり、$\kappa(\mathfrak{p})$ 上では $f(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})$ 次元である。それが $e$ 段あるので、次元は合計 $ef$ になる。

詳しい証明を開く

減少列 $\mathcal{O}_L=\mathfrak{P}^0\supset\mathfrak{P}\supset\mathfrak{P}^2\supset\cdots\supset\mathfrak{P}^e$ を考えると、$$\dim_{\kappa(\mathfrak{p})}\mathcal{O}_L/\mathfrak{P}^e=\sum_{j=0}^{e-1}\dim_{\kappa(\mathfrak{p})}\mathfrak{P}^j/\mathfrak{P}^{j+1}$$である。各 $\mathfrak{P}^j/\mathfrak{P}^{j+1}$ は $\mathfrak{P}$ で消されるので体 $\kappa(\mathfrak{P})$ 上のベクトル空間である。これが $\kappa(\mathfrak{P})$ 上 1 次元であることを示せば、$\kappa(\mathfrak{p})$ 上の次元は $f(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})$ となり、主張が従う。

$\mathfrak{P}^j\neq\mathfrak{P}^{j+1}$ である(等しければ可逆イデアル $\mathfrak{P}^j$ を消去して $\mathcal{O}_L=\mathfrak{P}$ となる)。$\kappa(\mathfrak{P})$ 部分空間は $\mathcal{O}_L$ 部分加群、すなわち $\mathfrak{P}^{j+1}\subset J\subset\mathfrak{P}^j$ を満たすイデアル $J$ に対応する。含むことは割ることなので $J$ は $\mathfrak{P}^{j+1}$ を割り、分解の一意性から $J=\mathfrak{P}^i$($i\le j+1$)であり、$J\subset\mathfrak{P}^j$ から $i\ge j$ である。よって $J$ は $\mathfrak{P}^j$ か $\mathfrak{P}^{j+1}$ であり、$\mathfrak{P}^j/\mathfrak{P}^{j+1}$ は $0$ と自分自身以外の部分空間をもたない $0$ でないベクトル空間、すなわち 1 次元である。$\square$

主定理

基本等式

$K\subset L$ を代数体、$n=[L:K]$、$\mathfrak{p}$ を $\mathcal{O}_K$ の素イデアルとし、$\mathfrak{p}\mathcal{O}_L=\mathfrak{P}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{P}_g^{e_g}$ と分解して $f_i=f(\mathfrak{P}_i\mid\mathfrak{p})$ とおく。このとき
$$ \sum_{i=1}^{g}e_if_i=n $$
が成り立つ。特に $g\le n$ であり、各 $e_i$、$f_i$ は $n$ 以下である。

$\mathfrak{P}_1^{e_1},\dots,\mathfrak{P}_g^{e_g}$ は対ごとに互いに素である。実際 $i\neq j$ で $\mathfrak{P}_i^{e_i}+\mathfrak{P}_j^{e_j}\neq\mathcal{O}_L$ なら、これを含む極大イデアル $\mathfrak{M}$ は素イデアルなので $\mathfrak{P}_i$ と $\mathfrak{P}_j$ を含み、$\mathfrak{P}_i,\mathfrak{P}_j$ の極大性から $\mathfrak{P}_i=\mathfrak{M}=\mathfrak{P}_j$ となって矛盾する。したがって中国剰余定理(同記事の定理「可換環における中国剰余定理」)により、環の同型
$$ \mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L\;\cong\;\mathcal{O}_L/\mathfrak{P}_1^{e_1}\times\cdots\times\mathcal{O}_L/\mathfrak{P}_g^{e_g} $$
がある。この同型は $\mathcal{O}_K$ の作用と両立するので、$\kappa(\mathfrak{p})$ 上のベクトル空間の同型である。左辺の次元は lem-pdnf-dimension により $n$、右辺の第 $i$ 成分の次元は lem-pdnf-prime-power により $e_if_i$ である。よって $n=\sum_ie_if_i$ である。$e_i,f_i\ge1$ なので残りの主張も従う。$\square$

$L/K$ が Galois 拡大なら、$e_i$ たちも $f_i$ たちもそれぞれすべて等しく、共通の値を $e,f$ とすると $efg=n$ となる(分解群と惰性群 の記事の系「Galois 拡大での $efg=n$」)。一般の拡大では $e_i$ や $f_i$ は等しいとは限らない(ex-pdnf-cubic-cbrt2、ex-pdnf-cubic-23)。

拡大の塔

分岐指数と剰余次数の乗法性

$K\subset M\subset L$ を代数体とし、$\mathcal{O}_L$ の素イデアル $\mathfrak{P}$、$\mathfrak{Q}:=\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_M$、$\mathfrak{p}:=\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K$ とおく。このとき
$$ e(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})=e(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{Q})\,e(\mathfrak{Q}\mid\mathfrak{p}),\qquad f(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})=f(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{Q})\,f(\mathfrak{Q}\mid\mathfrak{p}) $$
である。

要点:$f$ は剰余体の拡大次数の乗法性から、$e$ は $\mathfrak{p}\mathcal{O}_M$ の分解を $\mathcal{O}_L$ に持ち上げ、$\mathfrak{P}$ が $\mathfrak{Q}$ 以外の素イデアルの上にないことを使って指数を比べれば得られる。

詳しい証明を開く

$f$ については、剰余体の拡大 $\kappa(\mathfrak{p})\subset\kappa(\mathfrak{Q})\subset\kappa(\mathfrak{P})$ に拡大次数の乗法性を当てればよい。$e$ については、$\mathfrak{p}\mathcal{O}_M=\mathfrak{Q}^{a}\mathfrak{A}$($a=e(\mathfrak{Q}\mid\mathfrak{p})$、$\mathfrak{A}$ は $\mathfrak{Q}$ で割り切れないイデアル)と書き、$\mathcal{O}_L$ に持ち上げると $\mathfrak{p}\mathcal{O}_L=(\mathfrak{Q}\mathcal{O}_L)^{a}\,\mathfrak{A}\mathcal{O}_L$ である。$\mathfrak{Q}\mathcal{O}_L$ における $\mathfrak{P}$ の指数は $e(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{Q})$ である。$\mathfrak{A}$ を割る素イデアル $\mathfrak{Q}'\neq\mathfrak{Q}$ について、$\mathfrak{Q}'\mathcal{O}_L$ を割る素イデアルは $\mathfrak{Q}'$ の上にあり(prop-pdnf-lying-over の 2)、$\mathfrak{Q}$ の上にある $\mathfrak{P}$ とは異なる。よって $\mathfrak{A}\mathcal{O}_L$ は $\mathfrak{P}$ で割り切れず、$\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ における $\mathfrak{P}$ の指数は $a\cdot e(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{Q})$ である。$\square$

分解の計算:Kummer–Dedekindの定理

基本等式は分解の「総量」を与えるだけで、個々の $e_i,f_i$ は教えない。多くの素イデアルについて、それらは最小多項式を剰余体の上で因数分解すれば読み取れる。
以下 $L=K(\alpha)$、$\alpha\in\mathcal{O}_L$ とし、$\alpha$ の $K$ 上の最小多項式を $h\in\mathcal{O}_K[x]$(モニック、次数 $n$)とする。$\mathcal{O}_K$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ に対し、$u\in\mathcal{O}_K[x]$ の係数を $\kappa(\mathfrak{p})$ に落とした多項式を $\bar u\in\kappa(\mathfrak{p})[x]$ と書く。

Kummer–Dedekindの定理

上の記号で、$\mathfrak{p}$ は
$$ \mathcal{O}_L=\mathcal{O}_K[\alpha]+\mathfrak{p}\mathcal{O}_L\qquad(\mathrm{KD}) $$
を満たすとする。$\bar h=\bar g_1^{e_1}\cdots\bar g_r^{e_r}$ を $\kappa(\mathfrak{p})[x]$ における相異なるモニック既約多項式 $\bar g_i$ への分解とし、$g_i\in\mathcal{O}_K[x]$ を $\bar g_i$ のモニックな持ち上げとする。このとき
$$ \mathfrak{P}_i:=\mathfrak{p}\mathcal{O}_L+g_i(\alpha)\mathcal{O}_L\qquad(1\le i\le r) $$
は $\mathfrak{p}$ の上にある相異なる素イデアルであり、$\mathfrak{p}$ の上にある素イデアルはこれで尽きる。さらに $f(\mathfrak{P}_i\mid\mathfrak{p})=\deg\bar g_i$ であり、
$$ \mathfrak{p}\mathcal{O}_L=\mathfrak{P}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{P}_r^{e_r} $$
が成り立つ。特に $\mathcal{O}_L=\mathcal{O}_K[\alpha]$ ならすべての $\mathfrak{p}$ で (KD) が成り立つ。

$k:=\kappa(\mathfrak{p})$ とおく。環準同型 $\mathcal{O}_K[x]\to\mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$、$x\mapsto\alpha$ は (KD) により全射であり、$\mathfrak{p}[x]$ と $h$ を核に含むので、全射
$$ \psi\colon k[x]/(\bar h)\to\mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L,\qquad\bar x\mapsto\alpha\bmod\mathfrak{p}\mathcal{O}_L $$
を引き起こす。$\bar h$ はモニックで次数 $n$ なので左辺は $k$ 上 $n$ 次元であり、右辺も lem-pdnf-dimension により $n$ 次元である。$k$ 線形な全射なので $\psi$ は環の同型である。
$\mathcal{O}_L$ の $\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ を含むイデアルは、$\mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ のイデアルと対応し、$\psi$ を通して $k[x]/(\bar h)$ のイデアル、すなわち $\bar h$ の約数 $\bar u$ で生成されるイデアル $(\bar u)/(\bar h)$ と対応する。極大イデアルどうしが対応し、$k[x]/(\bar h)$ の極大イデアルは $(\bar g_i)/(\bar h)$($1\le i\le r$)である。$(\bar g_i)$ に対応する $\mathcal{O}_L$ のイデアルは、$g_i(\alpha)$ と $\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ で生成される $\mathfrak{P}_i$ である。したがって $\mathfrak{P}_1,\dots,\mathfrak{P}_r$ は相異なる極大イデアルで、$\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ を含む素イデアル、すなわち $\mathfrak{p}$ の上にある素イデアル(prop-pdnf-lying-over の 2)はこれで尽きる。剰余体は
$$ \mathcal{O}_L/\mathfrak{P}_i\cong k[x]/(\bar h,\bar g_i)=k[x]/(\bar g_i) $$
であり、$f(\mathfrak{P}_i\mid\mathfrak{p})=\deg\bar g_i$ である。
指数を決める。イデアルの積は生成元の積で生成されるので
$$ \mathfrak{P}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{P}_r^{e_r}\subset\mathfrak{p}\mathcal{O}_L+g_1(\alpha)^{e_1}\cdots g_r(\alpha)^{e_r}\mathcal{O}_L $$
である。$g_1^{e_1}\cdots g_r^{e_r}-h$ の係数は $\mathfrak{p}$ に属し $h(\alpha)=0$ なので、$g_1(\alpha)^{e_1}\cdots g_r(\alpha)^{e_r}\in\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ であり、右辺は $\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ に等しい。含むことは割ることなので $\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ は $\mathfrak{P}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{P}_r^{e_r}$ を割り、分解の一意性から $\mathfrak{p}\mathcal{O}_L=\mathfrak{P}_1^{a_1}\cdots\mathfrak{P}_r^{a_r}$、$1\le a_i\le e_i$ と書ける。基本等式(thm-pdnf-fundamental)により
$$ \sum_{i=1}^{r}a_i\deg\bar g_i=n=\deg\bar h=\sum_{i=1}^{r}e_i\deg\bar g_i $$
であり、$a_i\le e_i$ と $\deg\bar g_i\ge1$ から、すべての $i$ で $a_i=e_i$ である。$\square$

条件 (KD) は、$\mathcal{O}_K[\alpha]\to\mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ が全射であることを言っている。$K=\mathbb{Q}$ のときは、素数 $p$ が指数 $[\mathcal{O}_L:\mathbb{Z}[\alpha]\,]$ を割らなければ (KD) が成り立つ(指数を $m$ とすると $m\mathcal{O}_L\subset\mathbb{Z}[\alpha]$ で、$m$ は $p$ を法として可逆だから)。この形の定理は Ste12 Theorem 4.2.3 にある。指数を計算しなくても使える十分条件が次の補題である。

判別式を掛けると $\mathcal{O}_K[\alpha]$ に入る

$d:=\Delta(h)$ を最小多項式 $h$ の判別式とする。$d$ は $\mathcal{O}_K$ の $0$ でない元であり、$d\,\mathcal{O}_L\subset\mathcal{O}_K[\alpha]$ が成り立つ。したがって $d\notin\mathfrak{p}$ となる素イデアル $\mathfrak{p}$ はすべて (KD) を満たす。

要点:$x\in\mathcal{O}_L$ を $1,\alpha,\dots,\alpha^{n-1}$ で表したときの係数は、行列 $\bigl(\operatorname{Tr}_{L/K}(\alpha^{i+j})\bigr)_{i,j}$ を係数とする $\mathcal{O}_K$ 上の連立 1 次方程式の解であり、この行列の行列式が $d$ なので、余因子行列を掛けると係数の $d$ 倍が $\mathcal{O}_K$ に入る。

詳しい証明を開く

$h$ の係数は $\mathcal{O}_K$ に属し、判別式は係数の整数係数多項式なので(判別式 の記事の定理「判別式は係数の多項式である」)$d\in\mathcal{O}_K$ である。$h$ は標数 $0$ の体上の既約多項式なので重根をもたず、$d\neq0$ である。

$x\in\mathcal{O}_L$ を $K$ 上の基底 $1,\alpha,\dots,\alpha^{n-1}$ で $x=\sum_{i=0}^{n-1}c_i\alpha^i$($c_i\in K$)と書く。$0\le j\le n-1$ について $x\alpha^j$ のトレース $\operatorname{Tr}_{L/K}$($K$ 線形写像 $L\to L$、$z\mapsto x\alpha^jz$ の跡)を取ると$$\operatorname{Tr}_{L/K}(x\alpha^j)=\sum_{i=0}^{n-1}\operatorname{Tr}_{L/K}(\alpha^{i+j})\,c_i$$である。$\operatorname{Tr}_{L/K}(y)$ は $L$ の $K$ 上の $n$ 個の埋め込み $\sigma_1,\dots,\sigma_n$($K$ の代数閉包への)による像の和であり(Ste12 Proposition 2.4.3)、$y\in\mathcal{O}_L$ なら各 $\sigma_k(y)$ は $\mathbb{Z}$ 上整なので、$\operatorname{Tr}_{L/K}(y)\in K$ は $\mathcal{O}_K$ に属する。よって行列 $T:=\bigl(\operatorname{Tr}_{L/K}(\alpha^{i+j})\bigr)_{i,j}$ と左辺の列ベクトル $b$ は $\mathcal{O}_K$ 成分である。$V:=\bigl(\sigma_k(\alpha)^{i}\bigr)_{k,i}$ とおくと $T=V^{\mathsf T}V$ であり、Vandermonde の行列式により$$\det T=(\det V)^2=\prod_{1\le k< l\le n}\bigl(\sigma_k(\alpha)-\sigma_l(\alpha)\bigr)^2=d$$である。$Tc=b$ の両辺に $T$ の余因子行列 $\operatorname{adj}T$($\mathcal{O}_K$ 成分)を掛けると $d\,c=(\operatorname{adj}T)\,b$ なので、$dc_i\in\mathcal{O}_K$、すなわち $dx\in\mathcal{O}_K[\alpha]$ である。

$d\notin\mathfrak{p}$ なら $dt-1\in\mathfrak{p}$ となる $t\in\mathcal{O}_K$ があり、$x\in\mathcal{O}_L$ について $x=t(dx)+(1-dt)x\in\mathcal{O}_K[\alpha]+\mathfrak{p}\mathcal{O}_L$ である。$\square$

分岐する素イデアルは有限個

上の記号で、$d=\Delta(h)\notin\mathfrak{p}$ となる素イデアル $\mathfrak{p}$ は $L$ で不分岐である。したがって $L$ で分岐する $\mathcal{O}_K$ の素イデアルは有限個である。

$d\notin\mathfrak{p}$ なら lem-pdnf-discriminant により (KD) が成り立ち、thm-pdnf-kummer-dedekind が使える。$\bar h$ の判別式は $d$ の像 $\bar d\neq0$ なので、$\bar h$ は重根をもたない(判別式 の記事の命題「判別式が 0 になる条件」)。$\kappa(\mathfrak{p})[x]$ で $\bar g_i^{2}$ が $\bar h$ を割れば $\bar g_i$ の根が重根になるから、すべての $e_i=1$ であり、$\mathfrak{p}$ は不分岐である。$d\neq0$ なので $d\mathcal{O}_K$ を割る素イデアル、すなわち $d\in\mathfrak{p}$ となる $\mathfrak{p}$ は有限個である。$\square$

実際には、$K=\mathbb{Q}$ のとき $p$ が $L$ で分岐することと、$p$ が $L$ の判別式(代数体) $d_L$ を割ることは同値である(Dedekind の判別定理)。この記事では証明しない(Ste12 §9.2.1, p. 103 に主張がある)。lem-pdnf-discriminant の $d=\Delta(h)$ は $d_L$ に指数 $[\mathcal{O}_L:\mathbb{Z}[\alpha]\,]$ の 2 乗を掛けたものであり(Ste12 Proposition 6.2.6)、分岐しない素数で割り切れることもある。たとえば $\mathbb{Q}(\sqrt5)$ で $\alpha=\sqrt5$ とすると $\Delta(x^2-5)=20$ は $2$ で割り切れるが、$2$ は分岐しない(ex-pdnf-counterexamples)。

例

Gauss 整数 $\mathbb{Z}[i]$ における素数の分解

$L=\mathbb{Q}(i)$ の整数環は $\mathbb{Z}[i]$ であり(代数的整数 の記事の命題「2 次体の整数環の決定」)、thm-pdnf-kummer-dedekind をすべての素数 $p$ と $h=x^2+1$ に使える。$n=2$ なので可能な型は $(e,f,g)=(2,1,1),(1,2,1),(1,1,2)$ の 3 つである。

  • $p=2$:$x^2+1\equiv(x+1)^2\pmod2$ なので $2\mathbb{Z}[i]=(2,1+i)^2=(1+i)^2$ であり、$2$ は(完全)分岐する。
  • $p\equiv1\pmod4$:第 1 補充法則(平方剰余の相互法則 の記事の定理「補充法則」)により $a^2\equiv-1\pmod p$ となる $a$ があり、$p$ が奇数なので $a\not\equiv-a$ である。$x^2+1\equiv(x-a)(x+a)$ から $p\mathbb{Z}[i]=(p,i-a)(p,i+a)$ と完全分解する。たとえば $5\mathbb{Z}[i]=(5,i-2)(5,i+2)=(2+i)(2-i)$ である。
  • $p\equiv3\pmod4$:$-1$ は平方剰余でないので $x^2+1$ は $\mathbb{F}_p$ 上既約であり、$p$ は惰性する。剰余体は $\mathbb{Z}[i]/(p)\cong\mathbb{F}_{p^2}$ である。
    こうして、素数が 2 つの平方数の和 $p=a^2+b^2=(a+bi)(a-bi)$ に書けるかどうか(Fermat の二平方和定理)が、$p$ の分解の型と結びつく。
$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ における分解

整数環は $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ で、$h=x^2+5$ である。$x^2+5\equiv(x+1)^2\pmod2$ から $2\mathcal{O}=(2,1+\sqrt{-5})^2$(分岐)、$x^2+5\equiv(x-1)(x+1)\pmod3$ から $3\mathcal{O}=(3,1+\sqrt{-5})(3,1-\sqrt{-5})$(完全分解)、$x^2+5\equiv x^2\pmod5$ から $5\mathcal{O}=(\sqrt{-5})^2$(分岐)、$-5\equiv3^2\pmod7$ から $7\mathcal{O}=(7,3+\sqrt{-5})(7,3-\sqrt{-5})$(完全分解)である。$2$ と $3$ の分解は Dedekind整域 の記事の例「2次体の整数環」で生成元の計算によって確かめられており、$(6)=\mathfrak{P}_2^2\mathfrak{P}_3\mathfrak{P}_3'$ となる。

3 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})$ における分解

$L=\mathbb{Q}(\theta)$、$\theta=\sqrt[3]{2}$、$h=x^3-2$ とする。$h$ の判別式は $-27\cdot2^2=-108$ なので、$p\neq2,3$ では lem-pdnf-discriminant により thm-pdnf-kummer-dedekind が使える。

$p$$x^3-2$ の $\mathbb{F}_p$ 上の分解$p\mathcal{O}_L$$(e_i,f_i)$
$2$(直接計算)$(\theta)^3$$(3,1)$
$3$(直接計算)$(\theta+1)^3$$(3,1)$
$5$$(x+2)(x^2+3x+4)$$\mathfrak{P}_1\mathfrak{P}_2$$(1,1),(1,2)$
$7$既約$7\mathcal{O}_L$(素イデアル)$(1,3)$
$31$$(x-4)(x-7)(x-20)$$\mathfrak{P}_1\mathfrak{P}_2\mathfrak{P}_3$$(1,1)$ が 3 つ

$p=5$ では 2 つの素イデアルの剰余次数が $1$ と $2$ で異なる。$L/\mathbb{Q}$ は Galois 拡大でない(Galois拡大 の記事の例「反例:正規でない拡大 $\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})/\mathbb{Q}$」)ので、これは Galois 拡大での $e_i,f_i$ の一致と矛盾しない。

表の各行の確かめを開く

$p=2$:$\theta^3=2$ なので $2\mathcal{O}_L=I^3$、$I:=\theta\mathcal{O}_L$ である。$\theta$ のノルムは $2$ なので単元でなく(代数体 の記事の系「単数とノルム」)、$I\neq\mathcal{O}_L$ である。$I$ を割る素イデアル $\mathfrak{P}$ は $2\mathcal{O}_L$ で指数 $3$ 以上をもつので $e(\mathfrak{P}\mid2)\ge3$ であり、基本等式から $e=3$、$f=1$、$g=1$、$I=\mathfrak{P}$ である。

$p=3$:$(\theta+1)^3=\theta^3+3\theta^2+3\theta+1=3(\theta^2+\theta+1)$ であり、$(\theta-1)(\theta^2+\theta+1)=\theta^3-1=1$ より $\theta^2+\theta+1$ は単元である。$\theta+1$ は $(y-1)^3=2$、すなわち $y^3-3y^2+3y-3=0$ の根でノルムは $3$ なので単元でない。$p=2$ と同じ議論で $3\mathcal{O}_L=((\theta+1)\mathcal{O}_L)^3$ は完全分岐である。

$p=5$:$(x+2)(x^2+3x+4)=x^3+5x^2+10x+8\equiv x^3-2\pmod5$ であり、$x^2+3x+4$ の判別式 $9-16=-7\equiv3$ は $\mathbb{F}_5$ の平方元($0,1,4$)でないので 2 次の因子は既約である。

$p=7$:$\mathbb{F}_7^\times$ の元の 3 乗は $\pm1$ だけなので $x^3-2$ は $\mathbb{F}_7$ に根をもたず、3 次式なので既約である。

$p=31$:$4^3=64=2+62$、$7^3=343=2+341$、$20^3=8000=2+7998$ で、$62,341,7998$ はすべて $31$ の倍数である。相異なる 3 根をもつので $x^3-2\equiv(x-4)(x-7)(x-20)$ である。

分岐指数が異なる例

$h=x^3-x-1$ の根 $\alpha$ で生成される 3 次体 $L=\mathbb{Q}(\alpha)$ を考える。$h$ の判別式は $-4(-1)^3-27=-23$ である。$\mathbb{Z}[\alpha]$ の判別式は $h$ の判別式に等しく、それは $d_L$ と指数 $[\mathcal{O}_L:\mathbb{Z}[\alpha]\,]$ の 2 乗の積なので(Ste12 Proposition 6.2.6)、$-23$ が平方因子をもたないことから指数は $1$、すなわち $\mathcal{O}_L=\mathbb{Z}[\alpha]$ である。$\mathbb{F}_{23}$ 上で
$$ x^3-x-1\equiv(x-3)(x-10)^2\pmod{23} $$
である($3^3-3-1=23$、$10^3-10-1=989=23\cdot43$、$3\cdot10^2-1=299=23\cdot13$ なので $10$ は重根)。よって $23\mathcal{O}_L=\mathfrak{P}_1\mathfrak{P}_2^2$、$(e_1,f_1)=(1,1)$、$(e_2,f_2)=(2,1)$ であり、基本等式 $1\cdot1+2\cdot1=3$ が成り立つ。同じ素数の上で分岐指数が $1$ と $2$ に分かれている。

反例

基本等式と Kummer–Dedekind の定理の仮定を 1 つ外すと、次のように結論が崩れる。

外す条件反例成り立たなくなること
Kummer–Dedekind の条件 (KD)$\mathbb{Q}(\sqrt5)$、$\alpha=\sqrt5$、$p=2$$\bar h$ の因子の重複度が分岐指数を与えること
環が整閉(Dedekind 整域)$\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$、$p=2$$p$ で生成されるイデアルが素イデアルの積に分解すること
$L/K$ が Galois 拡大$\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})$、$p=5$剰余次数 $f_i$ がすべて等しいこと
$L/K$ が Galois 拡大$x^3-x-1$ の根の体、$p=23$分岐指数 $e_i$ がすべて等しいこと
反例の確認

表の 1 行目と 2 行目を確かめる。3 行目と 4 行目は ex-pdnf-cubic-cbrt2 と ex-pdnf-cubic-23 で示した。

1 行目と 2 行目の確かめを開く
  1. $L=\mathbb{Q}(\sqrt5)$ の整数環は $\mathcal{O}_L=\mathbb{Z}[\varphi]$、$\varphi=(1+\sqrt5)/2$ である。$\alpha=\sqrt5$ は $L$ を生成し、$h=x^2-5\equiv(x+1)^2\pmod2$ なので、定理を形式的に当てると $2$ が分岐すると予想してしまう。しかし $\varphi$ の最小多項式 $x^2-x-1$ は $\mathbb{F}_2$ 上既約で、$\mathcal{O}_L=\mathbb{Z}[\varphi]$ に定理を使うと $2$ は惰性する($e=1$、$f=2$)。実際 $(2,1+\sqrt5)=(2,2\varphi)=2\mathcal{O}_L$ であり、予想された素イデアルの 2 乗にはならない。$\alpha=\sqrt5$ について (KD) が成り立たないのは、$\varphi\in\mathbb{Z}[\sqrt5]+2\mathcal{O}_L$ と仮定して $\varphi=a+b\sqrt5+2(c+d\varphi)$($a,b,c,d\in\mathbb{Z}$)と書くと、$\sqrt5=2\varphi-1$ を代入して $\varphi$ の係数を比べ $1-2d=2b$ となり、偶奇が合わないからである。また $h$ の判別式 $20$ は $2$ で割り切れるが $2$ は分岐しないので、cor-pdnf-finitely-many-ramified の逆は成り立たない。
  2. $R=\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$ は整閉でない(Dedekind整域 の記事の注意「反例:Dedekind整域でない整域」)。$R/2R\cong\mathbb{F}_2[x]/(x^2+3)=\mathbb{F}_2[x]/((x+1)^2)$ の素イデアルは $(x+1)$ だけなので、$2$ を含む $R$ の素イデアルは $P=(2,1+\sqrt{-3})$ だけで、$R/P\cong\mathbb{F}_2$ である。$(1+\sqrt{-3})^2=-2+2\sqrt{-3}=2(1+\sqrt{-3})-4$ より $P^2=(4,2+2\sqrt{-3})=2P$ であり、$R$ における指数は $\lvert R/P\rvert=2$、$\lvert R/2R\rvert=4$、$\lvert R/P^2\rvert=\lvert R/2R\rvert\cdot\lvert 2R/2P\rvert=8$ である。$2R$ が素イデアルの積なら $P$ の冪であるが、$P^k$ の指数は $k=1$ で $2$、$k\ge2$ で $8$ 以上なので、指数 $4$ の $2R$ はどの $P^k$ とも一致しない。よって $2R$ は素イデアルの積に書けず、分岐指数そのものが定義できない。

補足

幾何的な見方

$\operatorname{Spec}\mathcal{O}_L\to\operatorname{Spec}\mathcal{O}_K$ を「曲線の有限被覆」とみると、$\mathfrak{p}$ の上のファイバーは $\operatorname{Spec}(\mathcal{O}_L/\mathfrak{p}\mathcal{O}_L)$ であり、中国剰余定理による分解はファイバーの点ごとの分解、$e_i$ は点の重複度、$f_i$ は点の剰余体の次数にあたる。基本等式は「被覆の次数はどのファイバーでも $n$」という主張であり、lem-pdnf-dimension で用いた「$\mathcal{O}_L$ が $\mathfrak{p}$ の近くで階数 $n$ の自由加群である」ことは被覆の平坦性にあたる。分岐する素イデアルが有限個であること(cor-pdnf-finitely-many-ramified)は、Riemann 面の有限被覆で分岐点が有限個であることの類似である。

Galois 拡大と算術への応用

$L/K$ が Galois 拡大のとき、Galois群 は $\mathfrak{p}$ の上の素イデアルに推移的に作用し、$e_i,f_i$ がそろう。1 つの素イデアルを固定する部分群が分解群、剰余体に自明に作用する部分群が惰性群であり(分解群と惰性群)、不分岐な素イデアルでは剰余体の Frobenius 自己同型を持ち上げた Frobenius元 が定まる。素イデアルの分解の型は Frobenius 元の共役類で決まり(Frobenius元 の記事の定理「分解の型と Frobenius 元の巡回型」)、各型の素イデアルがどれだけ多く現れるかは Chebotarevの密度定理 が扱う。

関連項目

参考文献

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