弱微分

同義語:weak derivative弱導関数

概要

弱微分(weak derivative)とは、開集合上の局所可積分関数 $u$ に対し、すべてのテスト関数 $\varphi$ について $\int u\,D^\alpha\varphi=(-1)^{|\alpha|}\int v\varphi$ を満たす局所可積分関数 $v$ のことで、存在すればほとんど至る所一意であり、超関数微分が関数で表されるときのその関数にあたる。Cantor 関数のように、ほとんど至る所の微分係数が弱微分にならない例もある。連結な開集合の上で弱勾配が $0$ なら定数であり、$1< p\le\infty$ では $L^p$ 関数の弱微分が $L^p$ に入ることが平行移動の差の評価で特徴づけられる。$\mathbb R^n$ 上の $L^2$ 関数では、弱微分は Fourier 変換で $i\xi_j$ を掛けることにあたる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Lp空間, 超関数, 軟化子, 絶対連続関数

偏微分方程式の解を極限として作ると、各点で微分できない関数が現れる。たとえば $|x|$ は原点で微分できないが、部分積分の公式 $\int u\varphi'=-\int u'\varphi$ を満たす関数 $u'$(符号関数)はもっている。弱微分は、この部分積分の公式そのものを微分の定義にしたものである。微分を滑らかなテスト関数 $\varphi$ の側へ移すので、$u$ には局所可積分性しか要求しない。弱微分が $L^p$ に入る関数の空間が Sobolev空間の基本事項 の Sobolev 空間 $W^{k,p}$ であり、弱微分は偏微分方程式の弱解を扱う基本の道具になる。
この記事で示すことは次のとおりである。

  1. 弱微分はほとんど至る所一意であり、古典的な微分を延長する。弱微分が存在することは、超関数微分が局所可積分関数で表されることと同じである(prop-wd-basic)。
  2. $|x|^a$ が弱微分をもつ条件と、ほとんど至る所の微分係数が弱微分にならない例(Cantor 関数)。
  3. 連結な開集合の上で弱勾配が $0$ なら、関数はほとんど至る所定数である(thm-wd-zero-gradient)。
  4. $1< p\le\infty$ のとき、$u\in L^p$ の弱微分が $L^p$ に入ることは、平行移動の差 $u(x+h)-u(x)$ が $|h|$ に比例する $L^p$ 評価をもつことと同値である(thm-wd-difference-quotient)。
  5. $\mathbb R^n$ 上の $L^2$ 関数では、弱微分は Fourier 変換で $i\xi_j$ を掛けることにあたる(thm-wd-fourier)。

定義

$\Omega\subset\mathbb R^n$ を開集合とする。関数は実数値または複素数値とし、$L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ は $\Omega$ の各コンパクト部分集合の上で可積分な可測関数(ほとんど至る所等しいものを同一視する)の全体を表す。$C_c^\infty(\Omega)$ は $\Omega$ の中にコンパクトな台をもつ滑らかな関数(テスト関数)の全体である。多重指数 $\alpha=(\alpha_1,\dots,\alpha_n)\in\mathbb Z_{\ge0}^n$ について $|\alpha|:=\alpha_1+\dots+\alpha_n$、$D^\alpha:=\partial_1^{\alpha_1}\cdots\partial_n^{\alpha_n}$ と書く(多重指数)。

弱微分

$u,v\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ と多重指数 $\alpha$ について、すべての $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ に対して
$$ \int_\Omega u\,D^\alpha\varphi\,dx=(-1)^{|\alpha|}\int_\Omega v\,\varphi\,dx $$
が成り立つとき、$v$ を $u$ の $\alpha$ 階の弱微分(weak derivative)または弱導関数といい、$D^\alpha u=v$ と書く。$\alpha$ が第 $j$ 単位ベクトルのときは $\partial_ju$ と書き、$\partial_1u,\dots,\partial_nu$ がすべて存在するとき $\nabla u:=(\partial_1u,\dots,\partial_nu)$ を $u$ の弱勾配という。

$v$ が実数値のテスト関数について等式を満たせば、実部と虚部に分けて複素数値のテスト関数についても満たす。したがってテスト関数は実数値のものだけを考えれば足りる。また、$|\alpha|=1$ のときはテスト関数を $C_c^1(\Omega)$ に広げても同じ条件になる。$\varphi\in C_c^1(\Omega)$ を軟化すると、台を $\Omega$ の中の一定のコンパクト集合に保ったまま $\varphi$ と $\partial_j\varphi$ が一様に近似されるからである(1 変数の場合は Bre11 Remark 1、p. 202)。$1\le p\le\infty$ について $u\in L^p(\Omega)$ で、$|\alpha|\le k$ の弱微分 $D^\alpha u$ がすべて存在して $L^p(\Omega)$ に入るような $u$ の全体が Sobolev 空間 $W^{k,p}(\Omega)$ である(Sobolev空間の基本事項 の定義「Sobolev空間」)。

弱微分の基本性質

$u\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ とする。

  1. 一意性:$u$ の $\alpha$ 階の弱微分は、存在すればほとんど至る所一意である。
  2. 古典微分との一致:$u\in C^k(\Omega)$ で $|\alpha|\le k$ なら、古典的な偏導関数 $D^\alpha u$ は $u$ の $\alpha$ 階の弱微分である。
  3. 超関数微分との関係:$u$ が定める超関数を $T_u$ とすると、$u$ が $\alpha$ 階の弱微分 $v$ をもつことは、超関数微分 $D^\alpha T_u$ が $T_v$($v\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$)と等しいことと同値である。
  4. 合成:弱微分 $w=D^\beta u$ が存在し、さらに $w$ の弱微分 $D^\alpha w$ が存在すれば、$D^{\alpha+\beta}u$ が存在して $D^\alpha w$ に等しい。

要点:1 は差が任意のテスト関数と直交することから、2 は台がコンパクトな関数の 1 変数の部分積分から、3・4 は定義の等式を書き換えて得られる。

詳しい証明を開く

1:$v_1,v_2$ がともに $\alpha$ 階の弱微分なら、$h:=v_1-v_2\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ はすべての $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ について $\int_\Omega h\varphi=0$ を満たす。軟化子 の系「変分法の基本補題」により $h=0$ がほとんど至る所成り立つ。

2:$|\alpha|=1$、$\alpha$ が第 $j$ 単位ベクトルの場合を示せば、$D^\alpha u\in C^{k-|\alpha|}(\Omega)$ に繰り返し当てはめ、4 を使えば一般の場合が従う。$\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ について $u\varphi$ を $\Omega$ の外で $0$ と置くと、$u\varphi$ は $\mathbb R^n$ 上の台がコンパクトな $C^1$ 級関数で、$\partial_j(u\varphi)=(\partial_ju)\varphi+u\,\partial_j\varphi$ である。$x_j$ 以外の座標を固定して $x_j$ について積分すると、台がコンパクトなので $\int_{\mathbb R}\partial_j(u\varphi)\,dx_j=0$ であり、Fubiniの定理 で残りの座標について積分して$$\int_\Omega u\,\partial_j\varphi\,dx=-\int_\Omega(\partial_ju)\varphi\,dx$$を得る。

3:超関数 の定義「超関数微分」により $\langle D^\alpha T_u,\varphi\rangle=(-1)^{|\alpha|}\langle T_u,D^\alpha\varphi\rangle=(-1)^{|\alpha|}\int_\Omega u\,D^\alpha\varphi$ である。これが $\langle T_v,\varphi\rangle=\int_\Omega v\varphi$ にすべての $\varphi$ で等しいことは、弱微分の定義の等式そのものである。

4:$\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ について $D^\alpha\varphi$ もテスト関数で、$D^{\alpha+\beta}\varphi=D^\beta(D^\alpha\varphi)$ なので$$\int_\Omega u\,D^{\alpha+\beta}\varphi =(-1)^{|\beta|}\int_\Omega w\,D^\alpha\varphi =(-1)^{|\alpha|+|\beta|}\int_\Omega (D^\alpha w)\varphi$$である。$\square$

3 により、弱微分は「関数で書ける超関数微分」である。超関数微分はどの $u\in L^1_{\mathrm{loc}}$ にも存在するが、関数で表されるとは限らない。跳躍関数の微分が Dirac のデルタになるのが典型である(Sobolev空間の基本事項 の例「反例:跳躍関数」)。

例

冪関数 $|x|^a$

$B:=\{x\in\mathbb R^n:|x|<1\}$、$a\neq0$、$a>-n$ とし、$u(x):=|x|^a$($x\neq0$)とおく。$a>-n$ なので $u\in L^1(B)$ である。このとき次が成り立つ。

  1. $u$ が $B$ の上で弱勾配をもつための必要十分条件は $a>1-n$ である。そのとき弱微分は $\partial_ju(x)=a\,x_j|x|^{a-2}$($x\neq0$)である。
  2. $a>1-n$、$1\le p<\infty$ のとき、$|\nabla u|\in L^p(B)$ であるための必要十分条件は $a>1-n/p$ である。
    特に $n\ge2$、$1\le p< n$ なら、$1-n/p< a<0$ をみたす $a$ について、$B$ の上で有界でない関数 $u$ が $W^{1,p}(B)$ に属する($u\in L^p(B)$ は $ap>-n$ から従う)。$p< n$ の Sobolev 関数は連続とは限らない(Sobolevの埋め込み定理)。

要点:原点の外では古典微分が弱微分になるので、弱微分があれば $|x|^{a-1}$ が可積分でなければならない。逆に $a>1-n$ なら、原点のまわりの小球を除いて部分積分したときの境界項 $\varepsilon^{a+n-1}$ が $0$ に近づく。

詳しい証明を開く

極座標により、$\gamma\in\mathbb R$ について $\int_B|x|^\gamma dx=\sigma_{n-1}\int_0^1r^{\gamma+n-1}dr$ であり、これが有限であるための必要十分条件は $\gamma>-n$ である。ここで $\sigma_{n-1}$ は単位球面の面積($n=1$ では $2$)とする。$B\setminus\{0\}$ の上で $u$ は滑らかで、古典的な偏導関数は $v_j(x):=a\,x_j|x|^{a-2}$、$|(v_1,\dots,v_n)|=|a||x|^{a-1}$ である。

必要性:弱微分 $w_j\in L^1_{\mathrm{loc}}(B)$ が存在したとする。$\varphi\in C_c^\infty(B\setminus\{0\})$ は $B$ のテスト関数でもあるから、prop-wd-basic の 2 と 1 を開集合 $B\setminus\{0\}$ の上で使うと、$w_j=v_j$ がほとんど至る所成り立つ。$\{|x|\le1/2\}$ は $B$ のコンパクト部分集合なので、$\int_{|x|\le1/2}|a||x|^{a-1}dx\le\sum_j\int_{|x|\le1/2}|w_j|<\infty$ である。極座標で $\int_{|x|\le1/2}|x|^\gamma dx=\sigma_{n-1}\int_0^{1/2}r^{\gamma+n-1}dr$ なので、上と同じく $a-1>-n$、すなわち $a>1-n$ である。

十分性:$a>1-n$ とする。$|v_j|\le|a||x|^{a-1}$ なので $v_j\in L^1(B)$ である。$\varphi\in C_c^\infty(B)$ と $0<\varepsilon<1$ について $A_\varepsilon:=\{\varepsilon<|x|<1\}$ の上で発散定理を $u\varphi$ に当てはめる。$\varphi$ は $|x|=1$ の近くで $0$ であり、内側の球面 $|x|=\varepsilon$ での外向き単位法線は $-x/|x|$ なので$$\int_{A_\varepsilon}u\,\partial_j\varphi\,dx =-\int_{A_\varepsilon}v_j\varphi\,dx-\int_{|x|=\varepsilon}u\varphi\,\frac{x_j}{\varepsilon}\,dS$$である($n=1$ では球面は 2 点 $\pm\varepsilon$ で、面積分は値の和である)。最後の項の絶対値は $\varepsilon^a\|\varphi\|_\infty\sigma_{n-1}\varepsilon^{n-1}$ 以下で、$a+n-1>0$ なので $\varepsilon\to0$ で $0$ に近づく。$u\,\partial_j\varphi$ と $v_j\varphi$ は $B$ 上で可積分なので、優収束定理 により左辺と右辺第 1 項は $B$ 上の積分に収束し、$\int_Bu\,\partial_j\varphi=-\int_Bv_j\varphi$ を得る。

2 は $|\nabla u|^p=|a|^p|x|^{(a-1)p}$ に最初の積分の判定を当てはめればよい。$(a-1)p>-n$ は $a>1-n/p$ と同じである。$\square$

ほとんど至る所の微分係数が存在して可積分でも、それが弱微分になるとは限らない。弱微分は点ごとの情報ではなく、積分の等式で決まるからである。

反例:Cantor 関数は弱微分をもたない

Cantor 関数 $c\colon[0,1]\to[0,1]$ は連続かつ単調非減少で、ほとんど至る所 $c'=0$ だが $c(0)=0$、$c(1)=1$ である(Cantor集合 の注意「反例:微積分の基本定理が成り立たない単調連続関数」)。$c$ は区間 $(0,1)$ の上で弱微分をもたない。

確かめ

実際、弱微分 $v\in L^1_{\mathrm{loc}}(0,1)$ があったとする。$0< s< t<1$ を固定すると $v\in L^1(s,t)$ なので、$c$ を $(s,t)$ に制限したものは $W^{1,1}(s,t)$ に属する。絶対連続関数 の定理「$W^{1,1}$ との一致」により、ほとんど至る所 $c$ と等しい絶対連続関数 $f$ が $[s,t]$ 上にあり、ほとんど至る所 $f'=v$ である。$c$ と $f$ はともに連続なので $[s,t]$ 上で $c=f$ であり、$v=c'=0$ がほとんど至る所成り立つ。よって $c(t)-c(s)=\int_s^tv=0$ である。$s\downarrow0$、$t\uparrow1$ として $c$ の連続性を使うと $c(1)-c(0)=0$ となり、矛盾する。

この例は「ほとんど至る所の微分係数 $c'$ が存在して可積分なら、それが弱微分である」という含意を破る。

弱勾配が $0$ の関数

古典微分では「連結な開集合の上で勾配が $0$ なら定数」が基本である。弱微分でも同じことが成り立つ。証明では軟化を使う。軟化子 の記号に合わせ、$\rho$ を軟化子、$\Omega_\varepsilon:=\{x\in\Omega\mid\operatorname{dist}(x,\mathbb R^n\setminus\Omega)>\varepsilon\}$ とし、$u$ を $\Omega$ の外で $0$ と延ばした関数と $\rho_\varepsilon$ との畳み込みを $\Omega_\varepsilon$ に制限したものを $u_\varepsilon$ と書く。

弱勾配が $0$ なら定数

$\Omega\subset\mathbb R^n$ を連結な開集合、$u\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ とし、$j=1,\dots,n$ のすべてについて弱微分 $\partial_ju$ が存在して $0$ に等しいとする。このときある定数 $c$ があって、$\Omega$ の上でほとんど至る所 $u=c$ である。

局所的に定数であること。 $x_0\in\Omega$ と $r>0$ を $\overline B(x_0,2r)\subset\Omega$ となるようにとる。$0<\varepsilon< r$ なら $B(x_0,r)\subset\Omega_\varepsilon$ である。軟化子 の命題「軟化と弱微分の交換」により $\Omega_\varepsilon$ の上で $\partial_ju_\varepsilon=(\partial_ju)_\varepsilon=0$ であり、$u_\varepsilon$ は滑らかなので、連結な $B(x_0,r)$ の上で定数 $c_\varepsilon$ に等しい。軟化子 の定理「軟化による近似」の 3($p=1$)により、$\varepsilon\to0$ で $u_\varepsilon\to u$ が $L^1(\overline B(x_0,r/2))$ で成り立つ。定数関数 $c_\varepsilon$ の $L^1(B(x_0,r/2))$ ノルムは $|c_\varepsilon|$ の定数倍なので、$c_\varepsilon$ は Cauchy 列をなしてある $c(x_0)$ に収束し、$B(x_0,r/2)$ の上でほとんど至る所 $u=c(x_0)$ である。
全体で定数であること。 各点 $x\in\Omega$ に対し、上のようにして $x$ のある球近傍の上でほとんど至る所 $u=c(x)$ となる数 $c(x)$ が定まる。$x$ の 2 つの球近傍は正の測度の共通部分をもつので、$c(x)$ は近傍の選び方によらない。$x$ の球近傍 $B$ の上でほとんど至る所 $u=c(x)$ なら、$B$ の各点 $y$ について $y$ の小さな球近傍を $B$ の中にとれるので $c(y)=c(x)$ である。したがって $x\mapsto c(x)$ は局所定数で、$\Omega$ が連結なので一定値 $c$ をとる。$\Omega$ はこのような球の可算個で覆えるので(有理点を中心とし有理数の半径をもつ球だけで足りる)、$\Omega$ の上でほとんど至る所 $u=c$ である。$\square$

連結性は外せない。2 つの成分をもつ開集合では、一方の成分の指示関数の弱勾配が $0$ になる(Sobolev空間の基本事項 の例「反例:非連結領域では一つの平均値では足りない」)。

平行移動の差による特徴づけ

$u\in L^p(\Omega)$ の弱微分が $L^p$ に入るかどうかは、微分を使わずに判定できる。$\omega\subset\Omega$ が開集合で、閉包 $\overline\omega$ がコンパクトで $\Omega$ に含まれるとき、$\omega\Subset\Omega$ と書く。$\operatorname{dist}(\omega,\partial\Omega)$ は $\omega$ と $\Omega$ の境界の距離で、$\Omega=\mathbb R^n$ なら $+\infty$ とする。$x\in\omega$、$|h|<\operatorname{dist}(\omega,\partial\Omega)$ なら $x+h\in\Omega$ である。$p$ の共役指数を $p'$($1/p+1/p'=1$)とし、$\|\nabla u\|_{L^p}$ は $|\nabla u|$(Euclid ノルム)の $L^p$ ノルムを表す。

平行移動の差による特徴づけ

$\Omega\subset\mathbb R^n$ を開集合、$1< p\le\infty$ とし、$u\in L^p(\Omega)$ を実数値とする。次の 3 条件は同値である。

  1. $u\in W^{1,p}(\Omega)$、すなわち弱微分 $\partial_1u,\dots,\partial_nu$ が存在して $L^p(\Omega)$ に属する。
  2. 定数 $C$ があって、すべての $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ と $j=1,\dots,n$ について
    $$ \left|\int_\Omega u\,\partial_j\varphi\,dx\right|\le C\|\varphi\|_{L^{p'}(\Omega)}. $$
  3. 定数 $C$ があって、すべての開集合 $\omega\Subset\Omega$ と $|h|<\operatorname{dist}(\omega,\partial\Omega)$ をみたすすべての $h\in\mathbb R^n$ について
    $$ \left(\int_\omega|u(x+h)-u(x)|^p\,dx\right)^{1/p}\le C|h| \qquad(p=\infty\text{ では左辺を }\|u(\cdot+h)-u\|_{L^\infty(\omega)}\text{ とする}). $$
    1 が成り立てば 3 は $C=\|\nabla u\|_{L^p(\Omega)}$ で成り立ち、2 が成り立てば $\|\partial_ju\|_{L^p(\Omega)}\le C$ である(Bre11 Proposition 9.3、pp. 267–268)。

1 ⇒ 3、3 ⇒ 2、2 ⇒ 1 の順に示す。
1 ⇒ 3。 まず $1\le p<\infty$ とする(この段は $p=1$ でも成り立つ)。$\omega\Subset\Omega$ と $|h|<\operatorname{dist}(\omega,\partial\Omega)$ を固定し、$K:=\{x+th\mid x\in\overline\omega,\ 0\le t\le1\}$ とおく。$x\in\overline\omega$ から $\Omega$ の外までの距離は $|h|$ より大きいので $K\subset\Omega$ であり、$K$ はコンパクトである。滑らかな関数 $v$ が $K$ の近傍で定義されていれば、$x\in\omega$ について
$$ v(x+h)-v(x)=\int_0^1\nabla v(x+th)\cdot h\,dt $$
であり、Hölderの不等式(区間 $[0,1]$ の上)から $|v(x+h)-v(x)|^p\le|h|^p\int_0^1|\nabla v(x+th)|^pdt$ である。$\omega$ の上で積分して Fubiniの定理 で順序を入れ替え、$\omega+th\subset K$ を使うと
$$ \int_\omega|v(x+h)-v(x)|^pdx\le|h|^p\int_0^1\int_{\omega+th}|\nabla v(y)|^p\,dy\,dt\le|h|^p\int_K|\nabla v|^p\,dy $$
を得る。$\varepsilon$ が小さければ $K\subset\Omega_\varepsilon$ なので、この評価を $v=u_\varepsilon$ に当てはめる。軟化子 の定理「Sobolev 関数の軟化による近似」の 2 により $\varepsilon\to0$ で $u_\varepsilon\to u$、$\nabla u_\varepsilon\to\nabla u$ が $L^p(K)$ で成り立つ。$\omega$ と $\omega+h$ は $K$ に含まれるので、$\int_\omega|u_\varepsilon(x+h)-u(x+h)|^pdx\le\|u_\varepsilon-u\|_{L^p(K)}^p\to0$ である。極限をとって
$$ \left(\int_\omega|u(x+h)-u(x)|^pdx\right)^{1/p}\le|h|\,\|\nabla u\|_{L^p(K)}\le|h|\,\|\nabla u\|_{L^p(\Omega)}. $$
$p=\infty$ のときは、有界な開集合の上で $q<\infty$ の場合に帰着させ、$q\to\infty$ とする。

$p=\infty$ の場合の詳細

$K$ を含む有界な開集合 $\Omega'$ で $\overline{\Omega'}\subset\Omega$ となるものをとる。$\Omega'$ の測度は有限なので、各 $1\le q<\infty$ について $u|_{\Omega'}\in W^{1,q}(\Omega')$ である。上の議論を $\Omega'$ と $q$ で行うと、この最後の評価の中辺から $\|u(\cdot+h)-u\|_{L^q(\omega)}\le|h|\,\lambda(K)^{1/q}\|\nabla u\|_{L^\infty(\Omega)}$ を得る($\lambda$ は Lebesgue 測度)。$q\to\infty$ とすると、Lp空間 の命題「$p\to\infty$ の極限」により左辺は $\|u(\cdot+h)-u\|_{L^\infty(\omega)}$ に収束する。$\omega$ が空でなければ $\lambda(K)\ge\lambda(\omega)>0$ なので、右辺は $|h|\,\|\nabla u\|_{L^\infty(\Omega)}$ に収束する。


3 ⇒ 2。 $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ をとり、$d:=\operatorname{dist}(\operatorname{supp}\varphi,\mathbb R^n\setminus\Omega)>0$ とする。$\omega:=\{x\mid\operatorname{dist}(x,\operatorname{supp}\varphi)< d/3\}$ とおくと $\omega\Subset\Omega$、$\operatorname{dist}(\omega,\partial\Omega)\ge2d/3$ である。$0<|t|< d/3$、$h:=te_j$($e_j$ は第 $j$ 単位ベクトル)とする。3 と Hölder の不等式から
$$ \left|\int_\omega\bigl(u(x+h)-u(x)\bigr)\varphi(x)\,dx\right|\le C|t|\,\|\varphi\|_{L^{p'}(\Omega)} $$
である。$\varphi$ の台は $\omega$ に入るので、$y=x+h$ と変数変換すると左辺の積分は $\int_\Omega u(y)\bigl(\varphi(y-h)-\varphi(y)\bigr)dy$ に等しい。よって
$$ \left|\int_\Omega u(y)\,\frac{\varphi(y-te_j)-\varphi(y)}{t}\,dy\right|\le C\|\varphi\|_{L^{p'}(\Omega)}. $$
$t\to0$ のとき、被積分関数の差分商は $-\partial_j\varphi$ に $\mathbb R^n$ 上で一様に収束し($\partial_j\varphi$ の一様連続性と平均値の定理)、台はすべて $\overline\omega$ に入る。$u$ は $\overline\omega$ の上で可積分なので、左辺は $|\int_\Omega u\,\partial_j\varphi|$ に収束し、2 が同じ $C$ で成り立つ。
2 ⇒ 1。 $j$ を固定し、$\ell(\varphi):=\int_\Omega u\,\partial_j\varphi\,dx$ とおく。$1< p\le\infty$ なので $1\le p'<\infty$ であり、$C_c^\infty(\Omega)$ は $L^{p'}(\Omega)$ で稠密である(軟化子 の系「滑らかな関数の稠密性」)。2 により $\ell$ は $L^{p'}(\Omega)$ 上のノルム $C$ 以下の有界線形汎関数に一意に延びる。$L^{p'}$ の双対空間は $L^p$ なので($1< p'<\infty$ では Bre11 Theorem 4.11、p. 97、$p'=1$ では Theorem 4.14、p. 99。Lp空間 の注意「双対空間」)、ある $g\in L^p(\Omega)$ で $\|g\|_{L^p}\le C$ かつすべての $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ について $\int_\Omega u\,\partial_j\varphi=\int_\Omega g\varphi$ となるものがある。これは $-g$ が $u$ の弱微分 $\partial_ju$ であることを意味し、$\partial_ju\in L^p(\Omega)$ である。$\square$

$\Omega=\mathbb R^n$ では $\omega$ を大きな球にとり、1 ⇒ 3 の証明の最後の評価で半径を大きくすれば、$\|u(\cdot+h)-u\|_{L^p(\mathbb R^n)}\le|h|\,\|\nabla u\|_{L^p(\mathbb R^n)}$ である。この評価は Rellich–Kondrachovの定理 の証明に使われる(Bre11 Theorem 9.16 の証明、pp. 285–286)。
$p=1$ では 1 ⇒ 3 ⇒ 2 は成り立つが、2 ⇒ 1 は成り立たない。2(または 3)を $p=1$ でみたす関数は有界変動関数と呼ばれ、超関数微分が有限な符号付き測度になる関数として特徴づけられる(Bre11 Remark 6、p. 269。この記事では証明しない)。跳躍関数がその典型である(下の反例の表)。

Fourier 変換による特徴づけ

$\mathbb R^n$ 全体の $L^2$ 関数では、弱微分は Fourier 変換で掛け算に変わる。Fourier 変換の規格化は 緩増加超関数とFourier変換 と同じく
$$ \widehat f(\xi):=(2\pi)^{-n/2}\int_{\mathbb R^n}e^{-ix\cdot\xi}f(x)\,dx $$
とする。これは Plancherelの定理 の規格化 $\int f(x)e^{-2\pi ix\cdot\eta}dx$ を $\eta=\xi/(2\pi)$ と変数変換して $(2\pi)^{-n/2}$ 倍したものなので、やはり $L^2(\mathbb R^n)$ のユニタリ作用素に延び、$\int f\overline g=\int\widehat f\,\overline{\widehat g}$(Parseval の等式)が成り立つ。

Fourier 変換による弱微分の特徴づけ

$u,g\in L^2(\mathbb R^n)$、$1\le j\le n$ とする。$g$ が $u$ の弱微分 $\partial_ju$ であるための必要十分条件は、ほとんど至る所
$$ \widehat g(\xi)=i\xi_j\,\widehat u(\xi) $$
が成り立つことである。したがって $u\in L^2(\mathbb R^n)$ が $H^1(\mathbb R^n)=W^{1,2}(\mathbb R^n)$ に属するための必要十分条件は $\int(1+|\xi|^2)|\widehat u(\xi)|^2d\xi<\infty$ であり、そのとき
$$ \|u\|_{L^2}^2+\sum_{j=1}^n\|\partial_ju\|_{L^2}^2=\int_{\mathbb R^n}(1+|\xi|^2)|\widehat u(\xi)|^2\,d\xi $$
である。

Schwartz 空間 $\mathcal S(\mathbb R^n)$ の 3 つの性質を使う。(a) $\varphi\in\mathcal S$ なら $\widehat{\partial_j\varphi}=i\xi_j\widehat\varphi$(緩増加超関数とFourier変換 の命題「Fourier変換と微分・掛け算」)。(b) Fourier 変換は $\mathcal S$ からそれ自身への全単射である(Schwartz空間 の定理「Schwartz空間上のFourier変換」)。(c) $C_c^\infty(\mathbb R^n)$ は $\mathcal S$ で稠密であり(緩増加超関数とFourier変換 の命題「コンパクト台テスト関数の稠密性」)、$\mathcal S$ での収束は $L^2$ での収束を導く($\|\psi\|_{L^2}^2\le\sup_x(1+|x|^2)^n|\psi(x)|^2\int(1+|x|^2)^{-n}dx$ で、最後の積分は有限)。
必要性。 $g=\partial_ju$ とする。(c) により $\varphi\in\mathcal S$ は $C_c^\infty$ の列で $\varphi$ と $\partial_j\varphi$ をともに $L^2$ で近似できるので、弱微分の等式 $\int u\,\partial_j\varphi=-\int g\varphi$ はすべての $\varphi\in\mathcal S$ について成り立ち、$\overline\varphi\in\mathcal S$ にも当てはまる。Parseval の等式と (a) から
$$ \int u\,\overline{\partial_j\varphi} =\int\widehat u\,\overline{i\xi_j\widehat\varphi} =-\int i\xi_j\widehat u\,\overline{\widehat\varphi}, \qquad -\int g\,\overline\varphi=-\int\widehat g\,\overline{\widehat\varphi} $$
なので、$w:=\widehat g-i\xi_j\widehat u$ はすべての $\varphi\in\mathcal S$ について $\int w\,\overline{\widehat\varphi}=0$ を満たす。(b) により $\widehat\varphi$ は $\mathcal S$ 全体、特に $C_c^\infty(\mathbb R^n)$ 全体を動く。$w$ は局所可積分なので($\widehat u\in L^2$ と $\xi_j$ の局所有界性)、軟化子 の系「変分法の基本補題」により $w=0$ がほとんど至る所成り立つ。
十分性。 $\widehat g=i\xi_j\widehat u$ なら、実数値の $\varphi\in C_c^\infty(\mathbb R^n)$ について上の等式を逆にたどって $\int u\,\partial_j\varphi=\int u\,\overline{\partial_j\varphi}=-\int\widehat g\,\overline{\widehat\varphi}=-\int g\varphi$ を得る。
後半:$u\in H^1$ なら必要性から $\xi_j\widehat u=-i\widehat{\partial_ju}\in L^2$ である。逆に各 $j$ で $\xi_j\widehat u\in L^2$ なら、ユニタリ性により $\widehat{g_j}=i\xi_j\widehat u$ となる $g_j\in L^2$ があり、十分性から $g_j=\partial_ju$ である。ノルムの等式は Plancherel の等式 $\|\partial_ju\|_{L^2}=\|\xi_j\widehat u\|_{L^2}$ を $j$ について足せばよい。$\square$

同じ議論で $D^\alpha u\in L^2$ は $\xi^\alpha\widehat u\in L^2$ と同値になり、$H^k(\mathbb R^n)$ は $(1+|\xi|^2)^{k/2}\widehat u\in L^2$ で特徴づけられる(弱微分による解析の見取り図)。

仮定を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
$\Omega$ の連結性(thm-wd-zero-gradient)$\Omega=(-2,-1)\cup(1,2)$ 上の $\mathbf 1_{(1,2)}$弱勾配が $0$ なら定数
$p>1$(thm-wd-difference-quotient の 3 ⇒ 1)$(-1,1)$ 上の跳躍関数 $H=\mathbf 1_{(0,1)}$、$p=1$平行移動の差の評価から $u\in W^{1,p}$
弱微分の意味で $\nabla u=0$(ほとんど至る所の微分係数が $0$ に弱める。thm-wd-zero-gradient)$(0,1)$ 上の Cantor 関数定数であること
$a>1-n$(ex-wd-power の 1)$n=1$、$a=-1/2$ の $\lvert x\rvert^{-1/2}$弱勾配の存在
表の反例の確かめ
詳細

1 行目:$\mathbf 1_{(1,2)}$ は各成分の上で定数なので、テスト関数 $\varphi$ について $\int\mathbf 1_{(1,2)}\varphi'=\int_1^2\varphi'=0$ であり、弱微分は $0$ である。しかし定数ではない。

2 行目:$\omega\Subset(-1,1)$ と $|h|<\operatorname{dist}(\omega,\{\pm1\})$ について、$H(x+h)-H(x)$ が $0$ でない点 $x$ は長さ $|h|$ の区間に入り、そこで $|H(x+h)-H(x)|=1$ なので、$\int_\omega|H(x+h)-H(x)|dx\le|h|$ である。よって 3 が $C=1$ で成り立つが、$H\notin W^{1,1}(-1,1)$ である(Sobolev空間の基本事項 の例「反例:跳躍関数」)。

3 行目:Cantor 関数はほとんど至る所で微分係数 $0$ をもつが定数でない。ex-wd-cantor のとおり、弱微分は存在しない。

4 行目:$n=1$ では $1-n=0$ で、$a=-1/2>-1$ なので $|x|^{-1/2}\in L^1(-1,1)$ だが、ex-wd-power の 1 により弱微分をもたない。

prop-wd-basic の 4 の逆も成り立たない。高階の弱微分が存在しても、途中の弱微分が存在するとは限らない。

反例:高階の弱微分だけが存在する

要点:$x_2$ 方向の微分は $u$ に何もしないので混合微分は $0$ だが、$x_1$ 方向の微分は直線 $x_1=0$ 上の測度になり関数で書けない。

確かめ

$\mathbb R^2$ 上で $u(x_1,x_2):=\mathbf 1_{(0,\infty)}(x_1)$ とする。$\varphi\in C_c^\infty(\mathbb R^2)$ について$$\int u\,\partial_1\partial_2\varphi\,dx=\int_0^\infty\left(\int_{\mathbb R}\partial_2(\partial_1\varphi)\,dx_2\right)dx_1=0$$なので、$D^{(1,1)}u=0$ が弱微分として存在する。一方 $\int u\,\partial_1\varphi\,dx=-\int_{\mathbb R}\varphi(0,x_2)\,dx_2$ である。$v\in L^1_{\mathrm{loc}}(\mathbb R^2)$ が $\partial_1u$ なら、台が $\{x_1\neq0\}$ に入る $\varphi$ を使って $v=0$ がほとんど至る所分かり、すべての $\varphi$ について $\int\varphi(0,x_2)\,dx_2=0$ となって矛盾する。よって $\partial_1u$ は存在しない。この例は「$D^{\alpha+\beta}u$ が存在すれば $D^\beta u$ も存在する」という含意を破る($\alpha=(0,1)$、$\beta=(1,0)$)。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Universitext, Springer, 2011, Theorem 4.11(p. 97、$L^p$ の双対)、Theorem 4.14(p. 99、$L^1$ の双対)、§8.2 Remark 1(p. 202、テスト関数の取り方)、§9.1 Proposition 9.3(pp. 267–268、平行移動の差による特徴づけ)、Remark 6(p. 269、$p=1$ と有界変動関数)、Theorem 9.16 の証明(pp. 285–286)

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