解析学(analysis)とは、極限を使って関数を調べる数学の分野の総称であり、実数の連続性を基礎に、数列と級数の収束、微分と積分、関数列の収束、関数の集まりがなす空間、微分を含む方程式の解を研究する。微分積分学を土台に、測度論・関数解析・複素解析・常微分方程式・偏微分方程式・Fourier 解析などの分野からなる。議論の多くは不等式による評価と、Cauchy 列が収束するという完備性、有界な列が収束する部分列をもつというコンパクト性によって進む。極限の順序の交換が繰り返し問題になり、関数列 $(f_n)$ が一様収束して各 $f_n$ が点 $x$ で極限をもてば、$t\to x$ と $n\to\infty$ の極限は入れ替えられる。
解析学(analysis)は、極限を使って関数を調べる数学の分野の総称である。中心にあるのは、無限に続く操作(数列の極限、級数の和、微分、積分)が何を意味し、いつ意味をもつか、という問いである。微分積分学 が 1 変数・多変数の実数値関数の極限・微分・積分の基本定理を与え、その上に、積分を一般化する 測度論、関数の集まりを空間として扱う 関数解析、複素数の変数の関数を扱う 複素解析、微分を含む方程式を扱う 常微分方程式・偏微分方程式、関数を波に分解する Fourier 解析などが積み上がる。
解析学の議論の多くは、量を正確に求めるのではなく、上下から 評価 すること(不等式)で進む。また、無限の操作の順序を入れ替えてよいか、という問いが繰り返し現れる。極限と積分、微分と積分、2 つの和の順序は、どれも無条件には入れ替えられない。この記事では、解析学の基本の言葉(極限・完備性・一様収束)を定義し、分野が答える問いと代表的な定理を記事とともに一覧する。代表例として、極限の順序の交換を保証する基本定理を完全に証明し、条件を外すと順序が入れ替えられない反例を挙げる。
以下、数は実数または複素数とし、$|\cdot|$ は絶対値を表す。
収束する数列は Cauchy 列である。逆に、実数の Cauchy 列は必ず収束する(Cauchy列 の定理「実数列の Cauchy判定法」)。複素数の Cauchy 列も、実部と虚部がそれぞれ実数の Cauchy 列になるので収束する。この性質を 完備性 という。完備性は、極限の値をあらかじめ知らなくても、項どうしが近づくことだけから極限の存在を結論できるという点で、解析学の存在定理の源である。有理数の範囲では完備性が成り立たず、たとえば $\sqrt2$ に近づく有理数の列は有理数の中に極限をもたない。実数の完備性は 実数の連続性 から導かれる。
集合 $E$ の上の関数の列 $(f_n)$ と関数 $f$ について、
各点収束では $N$ が点 $t$ によってよいが、一様収束では $N$ が $t$ によらない。この違いが、次の節以降で極限の順序を入れ替えられるかどうかを分ける。
解析学の結果は、大まかに次の問いのまわりにまとまる。左の列の問いは互いに独立ではなく、たとえば Fourier 解析は積分論と関数空間の理論の上に立つ。
| 問い | 代表的な定理 | 記事 |
|---|---|---|
| 実数の上の関数の極限・微分・積分の基本的な性質は何か | 実数の連続性、中間値の定理、平均値の定理、Taylor の定理、微分積分学の基本定理、逆関数定理 | 微分積分学, 実数の連続性, 中間値の定理, Taylorの定理, 微分積分学の基本定理, 逆関数定理 |
| 積分をどこまで広げられ、極限とどう交換できるか | 測度の拡張定理、単調収束定理、優収束定理、Fubini の定理 | 測度論, Lebesgue積分, 優収束定理, Fubiniの定理 |
| 関数の集まりはどんな空間をなすか | 完備性、Hahn–Banach の定理、一様有界性原理、Arzelà–Ascoli の定理 | 関数解析, Banach空間, Hilbert空間, Lp空間, Hahn–Banachの定理, 一様有界性原理, Arzelà–Ascoliの定理 |
| 複素数の変数の関数はどう振る舞うか | Cauchy の積分公式、留数定理、Riemann の写像定理 | 複素解析, Cauchyの積分公式, 留数定理, Riemannの写像定理 |
| 微分を含む方程式の解はあるか、一意か | Banach の不動点定理、Picard–Lindelöf の定理 | 常微分方程式, 偏微分方程式, Banachの不動点定理, Picard–Lindelöfの定理 |
| 関数を単純な関数で近似・分解できるか | Weierstrass の近似定理、Fourier 級数の収束、Fourier 変換の反転公式 | Weierstrassの近似定理, Fourier級数, Fourier変換 |
分野は違っても、解析学の議論は同じ少数の道具で組み立てられている。
級数 $\sum_{k=1}^\infty\dfrac1{k^2}$ は収束し、その和は $2$ 以下である。
部分和を $s_n:=\sum_{k=1}^n1/k^2$ とおく。$k\ge2$ なら $k^2>k(k-1)$ なので
$$\frac1{k^2}<\frac1{k(k-1)}=\frac1{k-1}-\frac1k$$
である。$n>m\ge1$ について、この評価を $k=m+1,\dots,n$ で足すと右辺の和は打ち消し合って
$$0< s_n-s_m=\sum_{k=m+1}^n\frac1{k^2}<\sum_{k=m+1}^n\Bigl(\frac1{k-1}-\frac1k\Bigr)=\frac1m-\frac1n<\frac1m$$
となる。$\varepsilon>0$ に対し $N>1/\varepsilon$ をとれば、$n>m\ge N$ で $|s_n-s_m|<1/m\le1/N<\varepsilon$ なので、$(s_n)$ は Cauchy 列である。実数の完備性により $(s_n)$ は収束する。さらに $m=1$ とすると $s_n< s_1+1=2$ なので、極限は $2$ 以下である。$\square$
この証明は和の値($\pi^2/6$ になることは Basel問題 で扱う)を一度も使わず、差 $s_n-s_m$ を上から評価しただけで収束を結論している。差を「打ち消し合う形」の量で押さえる、という評価の作り方は解析学で繰り返し使われる。同じ論法で、$|a_k|\le1/k^2$ を満たす任意の数列について $\sum a_k$ が収束することも出る(差 $|s_n-s_m|$ が $\sum_{k=m+1}^n1/k^2$ 以下になるため)。
関数の定義域としては、まず実数の 区間 が基本で、中間値の定理や平均値の定理は区間の上で述べられる。そこから $\mathbb{R}^n$ の開集合、距離空間、多様体へと舞台が広がる。
解析学で繰り返し問われるのは、2 つの極限
$$\lim_{t\to x}\lim_{n\to\infty}f_n(t)\quad\text{と}\quad\lim_{n\to\infty}\lim_{t\to x}f_n(t)$$
が等しいかどうかである。連続関数の極限が連続か(一様収束)、級数を項ごとに積分・微分してよいか、積分記号の下で微分してよいか(積分記号下の微分)、どれもこの形をしている。一般には等しくない。
どちらの例でも、内側の極限への収束は一様でない。1 では $\sup_m|a_{m,n}-0|=1$、2 では $\sup_{0\le t<1}|t^n-0|=1$ で、$n\to\infty$ としても $0$ に近づかない。一様収束を仮定すれば順序は入れ替えられる、というのが次の定理である。
以下、$E$ を 距離空間 の部分集合とし、$x$ を $E$ の集積点($x$ の任意の近傍が $x$ 以外の $E$ の点を含む点)とする。$\lim_{t\to x}g(t)=A$ は、$t\in E$、$t\ne x$ として $t$ を $x$ に近づけたときの極限を表す(関数の極限)。
$E$ 上の実数値または複素数値の関数の列 $(f_n)$ が $E$ 上で関数 $f$ に一様収束し、各 $n$ について極限 $A_n:=\lim_{t\to x}f_n(t)$ が存在するとする。このとき数列 $(A_n)$ は収束し、
$$\lim_{t\to x}f(t)=\lim_{n\to\infty}A_n$$
である。すなわち $\lim_{t\to x}\lim_{n\to\infty}f_n(t)=\lim_{n\to\infty}\lim_{t\to x}f_n(t)$ であり、両辺とも存在する。
段 1($(A_n)$ は Cauchy 列)。 $\varepsilon>0$ とする。一様収束から $N$ があって、$n\ge N$ ならすべての $t\in E$ で $|f_n(t)-f(t)|<\varepsilon$ である。$m,n\ge N$ なら、三角不等式によりすべての $t\in E$ で
$$|f_n(t)-f_m(t)|\le|f_n(t)-f(t)|+|f(t)-f_m(t)|<2\varepsilon$$
である。ここで $t\to x$ とすると、左辺は $|A_n-A_m|$ に近づくので $|A_n-A_m|\le2\varepsilon$ である。よって $(A_n)$ は Cauchy 列であり、完備性によって極限 $A$ をもつ。上の不等式で $m\to\infty$ とすれば、$n\ge N$ について $|A_n-A|\le2\varepsilon$ である。
段 2($f(t)\to A$)。 $n:=N$ と固定すると、$t\in E$ について
$$|f(t)-A|\le|f(t)-f_N(t)|+|f_N(t)-A_N|+|A_N-A|<\varepsilon+|f_N(t)-A_N|+2\varepsilon$$
である。$A_N=\lim_{t\to x}f_N(t)$ なので、$x$ の近傍 $V$ があって、$t\in V\cap E$、$t\ne x$ なら $|f_N(t)-A_N|<\varepsilon$ である。このとき $|f(t)-A|<4\varepsilon$ である。$\varepsilon>0$ は任意なので $\lim_{t\to x}f(t)=A$ である。$\square$
証明の要は段 2 で、1 つの $N$ を固定して、関数 $f$ を関数 $f_N$ で $E$ 全体にわたって近似していることである。各点収束では、近似に必要な $N$ が点 $t$ ごとに変わるので、$t\to x$ の極限の中でこの議論ができない。同じ方針の証明が Rud76 Theorem 7.11(p. 149)にある。
二重数列 $(a_{m,n})$ については、$E:=\{1/m\mid m\ge1\}\subset\mathbb{R}$、$x:=0$、$f_n(1/m):=a_{m,n}$ とおけば $t\to x$ が $m\to\infty$ にあたるので、この定理から「$n\to\infty$ の収束が $m$ について一様で、各 $n$ で $\lim_ma_{m,n}$ が存在すれば、2 つの累次極限は存在して一致する」ことが出る。ex-an-swap の 1 はこの一様性が欠けた例である。
$E$ 上の関数 $u_k$($k\ge1$)について、級数 $\sum_{k=1}^\infty u_k(t)$ が $E$ 上で一様収束し、各 $k$ について $c_k:=\lim_{t\to x}u_k(t)$ が存在するとする。このとき $\sum_kc_k$ は収束し、
$$\lim_{t\to x}\sum_{k=1}^\infty u_k(t)=\sum_{k=1}^\infty c_k$$
である。
部分和 $f_n(t):=\sum_{k=1}^nu_k(t)$ は仮定により $E$ 上で和 $f(t):=\sum_{k=1}^\infty u_k(t)$ に一様収束し、極限の和の法則により $A_n:=\lim_{t\to x}f_n(t)=\sum_{k=1}^nc_k$ が存在する。thm-an-interchange により $(A_n)$、すなわち $\sum_kc_k$ の部分和の列は収束し、その極限は $\lim_{t\to x}f(t)$ に等しい。$\square$
$E:=[0,1)$、$x:=1$、$u_k(t):=t^k/k^2$ とする。$|u_k(t)|\le1/k^2$ で $\sum1/k^2$ は収束するので、一様収束 の定理「Weierstrassの優級数判定法」により $\sum u_k$ は $E$ 上で一様収束する。$c_k=\lim_{t\to1}t^k/k^2=1/k^2$ なので、cor-an-series により
$$\lim_{t\to1-0}\sum_{k=1}^\infty\frac{t^k}{k^2}=\sum_{k=1}^\infty\frac1{k^2}$$
である。一方 $\sum_kt^k$($u_k(t)=t^k$)では $c_k=1$ で $\sum c_k$ は発散し、左辺も $\lim_{t\to1}t/(1-t)=\infty$ で有限の値をもたない。$\sum t^k$ は $[0,1)$ 上で一様収束しないので、cor-an-series の仮定を満たさない。
thm-an-interchange で $x\in E$ とし、各 $f_n$ が $x$ で連続($A_n=f_n(x)$)とすると、$\lim_{t\to x}f(t)=\lim f_n(x)=f(x)$、つまり 連続関数の一様極限は連続 であることが出る(一様収束 の定理「連続関数の一様極限の連続性」)。ex-an-swap の 2 は、一様でない各点収束の極限が連続でない例になっている($[0,1]$ 上で考えると極限は $t=1$ だけで $1$)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 一様収束(各点収束に弱める) | $E=[0,1)$、$x=1$、$f_n(t)=t^n$ | 2 つの累次極限が $0$ と $1$ で異なる |
| 各 $n$ での極限 $A_n$ の存在 | $E=(0,1]$、$x=0$、$f_n(t)=\sin\frac1t$($n$ によらない) | $f_n\to f$ は一様だが、$\lim_{t\to0}f(t)$ が存在しない |
2 行目では $f_n=f$ なので一様収束は明らかだが、$f(t)=\sin\frac1t$ は $t=1/(2\pi k)$ と $t=1/(2\pi k+\pi/2)$ で値 $0$ と $1$ をとるので、$t\to0$ で極限をもたない。定理が結論する外側の極限 $\lim_{t\to x}f(t)$ と $\lim_nA_n$ の存在は、一様収束だけからは出ず、各 $f_n$ が $x$ で極限をもつという仮定が要る。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する