Riemann積分

同義語:リーマン積分Riemann integral

概要

Riemann積分(Riemann integral)とは、有界閉区間 $[a,b]$ 上の有界な実数値関数について、区間を有限個の小区間に分割し、各小区間での上限・下限を高さとする長方形の面積の和(上限和・下限和)で上下から挟んで定める積分である。上限和の下限(上積分)と下限和の上限(下積分)が一致するとき積分可能といい、その値を積分とする。これは分割を細かくしたときの Riemann 和の極限としての定義と同値である。連続関数と単調関数は積分可能で、積分は線形性・単調性・区間についての加法性をもつ。有界でも有理数で 1、無理数で 0 をとる関数は積分可能でなく、有界でない関数は定義の対象外である(広義積分として別に扱う)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 実数, 上限と下限, 区間, 連続写像, 一様連続

動機と具体例

放物線 $y=x^2$ と $x$ 軸、直線 $x=1$ で囲まれた部分の面積を考える。区間 $[0,1]$ を 10 等分し、各小区間 $[\frac{i-1}{10},\frac{i}{10}]$ の上に、高さを「その小区間での $x^2$ の最大値 $(\frac{i}{10})^2$」とした長方形を並べると、面積の合計は
$$ \frac1{10}\sum_{i=1}^{10}\Bigl(\frac{i}{10}\Bigr)^2=\frac{385}{1000}=0.385 $$
で、求める面積より大きい。高さを最小値 $(\frac{i-1}{10})^2$ にすると合計は $0.285$ で、求める面積より小さい。$n$ 等分に細かくすると、上からの合計は $\frac{(n+1)(2n+1)}{6n^2}$、下からの合計は $\frac{(n-1)(2n-1)}{6n^2}$ となり(ex-riemann-integral-square)、両者の差 $\frac1n$ は $0$ に近づき、どちらも $\frac13$ に近づく。面積は $\frac13$ と定めるほかない。
このように、区間を細かく分けて長方形で上下から挟み、挟んだ値が一致するときにその値を積分と定めるのが Riemann 積分(Riemann integral)である。名前は B. Riemann(1826–1866)による。本記事では、上からの和の下限と下からの和の上限を比べる形(J.-G. Darboux(1842–1917)による形)で定義し、各小区間から 1 点ずつ選んだ値で作る和(Riemann 和)の極限としての定義と同値であることを thm-riemann-integral-riemann-sums で証明する(Leb §5.1、p. 181 も同じ方針で、人名の年は同書の脚注による)。

定義

以下、$a< b$ とし、$f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ は有界な関数とする。

分割と上限和・下限和

$[a,b]$ の分割とは、有限個の点 $P=\{x_0,x_1,\dots,x_n\}$ で $a=x_0< x_1<\cdots< x_n=b$ を満たすものである。$\Delta x_i:=x_i-x_{i-1}$ とおき、$|P|:=\max_i\Delta x_i$ を分割の幅という。各 $i$ について
$$ m_i:=\inf\{f(x)\mid x_{i-1}\leq x\leq x_i\},\qquad M_i:=\sup\{f(x)\mid x_{i-1}\leq x\leq x_i\} $$
とおき($f$ が有界なので実数として定まる。上限と下限 の記事の上限性質)、
$$ L(P,f):=\sum_{i=1}^{n}m_i\,\Delta x_i,\qquad U(P,f):=\sum_{i=1}^{n}M_i\,\Delta x_i $$
をそれぞれ $P$ に関する下限和、上限和という。また、各 $i$ で点 $\xi_i\in[x_{i-1},x_i]$ を選んだとき($\xi=(\xi_1,\dots,\xi_n)$ を代表点という)、
$$ S(P,\xi,f):=\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)\,\Delta x_i $$
を Riemann 和という。$m_i\leq f(\xi_i)\leq M_i$ なので $L(P,f)\leq S(P,\xi,f)\leq U(P,f)$ である。

Riemann積分可能性と積分の値

$f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ を有界な関数とする。
$$ \underline{\int_a^b}f:=\sup_PL(P,f),\qquad\overline{\int_a^b}f:=\inf_PU(P,f) $$
($P$ は $[a,b]$ のすべての分割を動く)をそれぞれ $f$ の下積分、上積分という。両者が等しいとき、$f$ は $[a,b]$ 上で Riemann 積分可能(または単に積分可能)であるといい、その共通の値を
$$ \int_a^bf(x)\,dx $$
と書いて $f$ の $[a,b]$ 上の Riemann 積分という。有界でない関数は Riemann 積分可能とはいわない。また $\int_a^af(x)\,dx:=0$、$\int_b^af(x)\,dx:=-\int_a^bf(x)\,dx$ と約束する。

$L(P,f)$ と $U(P,f)$ はそれぞれ、グラフの下に収まる長方形の面積の和と、グラフを覆う長方形の面積の和である($f\geq0$ の場合)。後で示すように $\underline{\int_a^b}f\leq\overline{\int_a^b}f$ は常に成り立つので、可積分性は「下からの近似の最良値と上からの近似の最良値が一致すること」を意味する。定義は Leb Definition 5.1.1・5.1.3・5.1.9(pp. 181–185)と同じである。

基本的な不等式と可積分性の判定

分割 $P'$ が $P\subset P'$ を満たすとき、$P'$ を $P$ の細分という。

細分による和の比較

$|f(x)|\leq K$($x\in[a,b]$)とし、$P'$ を分割 $P$ の細分で、$P$ より高々 $k$ 個多くの点をもつものとする。このとき
$$ L(P,f)\leq L(P',f)\leq L(P,f)+2Kk|P|,\qquad U(P,f)-2Kk|P|\leq U(P',f)\leq U(P,f) $$
が成り立つ。

1 点ずつ加える

$P'$ が $P$ より実際に多くもつ点の個数を $k'$($0\leq k'\leq k$)とする。$k'=0$ なら $P'=P$ で主張は明らかである。$k'=1$ の場合($2Kk|P|$ を $2K|P|$ に置き換えた不等式)を示せば、1 点ずつ加えることを $k'$ 回繰り返して、$2Kk|P|$ を $2Kk'|P|$ に置き換えた不等式が得られる(途中の分割の幅はどれも $|P|$ 以下なので、各回の差は $2K|P|$ 以下である)。$2Kk'|P|\leq2Kk|P|$ なので主張が従う。以下、$k'=1$ の場合を示す。点 $t$ を小区間 $(x_{i-1},x_i)$ に加えたとし、$M':=\sup_{[x_{i-1},t]}f$、$M'':=\sup_{[t,x_i]}f$ とおく。部分集合の上限は小さくなるので $M',M''\leq M_i$ であり、また $M',M''\geq-K$、$M_i\leq K$ である。$U(P,f)$ と $U(P',f)$ の違いはこの小区間の項だけなので
$$ U(P,f)-U(P',f)=M_i\Delta x_i-M'(t-x_{i-1})-M''(x_i-t)=(M_i-M')(t-x_{i-1})+(M_i-M'')(x_i-t) $$
であり、右辺は $0$ 以上 $2K\Delta x_i\leq2K|P|$ 以下である。下限和も同様(不等号の向きが逆)である。

下積分と上積分の大小

任意の分割 $P_1,P_2$ について $L(P_1,f)\leq U(P_2,f)$ である。したがって、$m\leq f(x)\leq M$($x\in[a,b]$)ならば
$$ m(b-a)\leq\underline{\int_a^b}f\leq\overline{\int_a^b}f\leq M(b-a) $$
が成り立つ。

共通の細分を経由する

$P':=P_1\cup P_2$ は $P_1$ と $P_2$ の両方の細分なので、lem-riemann-integral-refinement により $L(P_1,f)\leq L(P',f)\leq U(P',f)\leq U(P_2,f)$ である。$P_1$ について上限をとり、次に $P_2$ について下限をとれば中央の不等式を得る。両端は、$m\leq m_i$、$M_i\leq M$ と $\sum_i\Delta x_i=b-a$ から任意の $P$ で $m(b-a)\leq L(P,f)$、$U(P,f)\leq M(b-a)$ となることによる。

可積分性の判定条件

有界な $f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ が Riemann 積分可能であるための必要十分条件は、任意の $\varepsilon>0$ に対して $U(P,f)-L(P,f)<\varepsilon$ となる分割 $P$ が存在することである。このとき、任意の分割 $P$ について $L(P,f)\leq\int_a^bf\leq U(P,f)$ である。

上下の和を挟む

条件が成り立つとすると、prop-riemann-integral-lower-upper により $0\leq\overline{\int_a^b}f-\underline{\int_a^b}f\leq U(P,f)-L(P,f)<\varepsilon$ であり、$\varepsilon$ は任意なので両者は等しい。逆に $f$ が積分可能で値が $I$ なら、上限・下限の定義から $L(P_1,f)>I-\varepsilon/2$、$U(P_2,f)< I+\varepsilon/2$ となる分割 $P_1,P_2$ があり、$P:=P_1\cup P_2$ について lem-riemann-integral-refinement から $U(P,f)-L(P,f)\leq U(P_2,f)-L(P_1,f)<\varepsilon$ となる。最後の主張は下積分・上積分の定義そのものである。

この判定条件の十分性は Leb Proposition 5.1.13(p. 187)にある。

放物線の下の面積

$f(x)=x^2$ を $[0,1]$ で考え、$P_n:=\{0,\frac1n,\frac2n,\dots,1\}$ とする。$f$ は $[0,1]$ で増加なので $M_i=(\frac in)^2$、$m_i=(\frac{i-1}n)^2$ であり、$\sum_{i=1}^{n}i^2=\frac{n(n+1)(2n+1)}6$ から
$$ U(P_n,f)=\frac1{n^3}\sum_{i=1}^{n}i^2=\frac{(n+1)(2n+1)}{6n^2},\qquad L(P_n,f)=\frac1{n^3}\sum_{i=1}^{n-1}i^2=\frac{(n-1)(2n-1)}{6n^2} $$
となる($n=10$ でそれぞれ $0.385$、$0.285$)。$U(P_n,f)-L(P_n,f)=\frac{1}{n^3}\cdot n^2=\frac1n$ は $n$ を大きくすればいくらでも小さいので、thm-riemann-integral-criterion により $f$ は積分可能で、$L(P_n,f)\leq\int_0^1x^2\,dx\leq U(P_n,f)$ である。$n\to\infty$ で両端はともに $\frac13$ に収束するので、$\int_0^1x^2\,dx=\frac13$ である。

Riemann 和による特徴づけ

高校や多くの微積分の教科書では、積分を「分割を細かくしたときの Riemann 和の極限」として定義する。この定義は本記事の定義と同値である。

Riemann和の極限としての積分

$f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ を有界な関数、$I$ を実数とする。次の 2 条件は同値である。

  1. $f$ は $[a,b]$ 上で Riemann 積分可能で、$\int_a^bf=I$ である。
  2. 任意の $\varepsilon>0$ に対して $\delta>0$ が存在し、$|P|<\delta$ を満たす任意の分割 $P$ と、$P$ の任意の代表点 $\xi$ について $|S(P,\xi,f)-I|<\varepsilon$ となる。
幅の小さい分割の上下の和を評価する

$|f(x)|\leq K$($K>0$)とする。
1 ⇒ 2:$\varepsilon>0$ をとる。thm-riemann-integral-criterion により $U(P_0,f)-L(P_0,f)<\varepsilon/2$ となる分割 $P_0$ があり、その点の個数を $k$ とする。$\delta:=\varepsilon/(8Kk)$ とおき、$|P|<\delta$ となる分割 $P$ をとる。$P':=P\cup P_0$ は $P$ より高々 $k$ 個多くの点をもつ $P$ の細分であり、$P_0$ の細分でもあるので、lem-riemann-integral-refinement から
$$ U(P,f)\leq U(P',f)+2Kk|P|\leq U(P_0,f)+2Kk\delta,\qquad L(P,f)\geq L(P_0,f)-2Kk\delta $$
となり、$U(P,f)-L(P,f)<\varepsilon/2+4Kk\delta=\varepsilon$ である。$S(P,\xi,f)$ と $I$ はどちらも $L(P,f)$ と $U(P,f)$ の間にある(thm-riemann-integral-criterion)ので、$|S(P,\xi,f)-I|<\varepsilon$ である。
2 ⇒ 1:$\varepsilon>0$ をとり、2 の $\delta$ に対して $|P|<\delta$ となる分割 $P=\{x_0,\dots,x_n\}$(たとえば十分細かい等分)をとる。上限の定義から、各 $i$ で $f(\xi_i)>M_i-\varepsilon/(b-a)$ となる $\xi_i\in[x_{i-1},x_i]$ がある。この代表点について $S(P,\xi,f)>U(P,f)-\varepsilon$ であり、2 から $S(P,\xi,f)< I+\varepsilon$ なので $U(P,f)< I+2\varepsilon$ である。同様に $f(\eta_i)< m_i+\varepsilon/(b-a)$ となる代表点 $\eta$ を選ぶと $L(P,f)>I-2\varepsilon$ となる。したがって $U(P,f)-L(P,f)<4\varepsilon$ であり、$\varepsilon$ は任意なので thm-riemann-integral-criterion により $f$ は積分可能である。さらに $\int_a^bf$ は $L(P,f)$ と $U(P,f)$ の間にあるので $\bigl|\int_a^bf-I\bigr|<2\varepsilon$ であり、$\varepsilon$ は任意なので $\int_a^bf=I$ である。

この同値性は Leb Exercise 5.1.12・5.1.13(p. 190)で演習として扱われている。2 の「任意の代表点について」は外せない(ex-riemann-integral-dirichlet)。なお、有界でない関数では 2 は決して成り立たない。どの分割にも $f$ が有界でない小区間があり、その小区間の代表点を選び直すと $S(P,\xi,f)$ をいくらでも大きく(または小さく)できるからである。したがって「有界な関数だけを考える」という定義の制限は、Riemann 和による定義とも食い違わない。

積分可能な関数

連続関数の可積分性

$f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ が連続ならば、$f$ は $[a,b]$ 上で Riemann 積分可能である。

一様連続性で振れ幅を抑える

$[a,b]$ はコンパクトである(コンパクト空間 の記事の定理「有界閉集合とコンパクト性の一致」)。同記事の定理「最大値・最小値の存在」により $f$ は有界であり、一様連続 の記事の定理「Heine–Cantorの定理」により $f$ は一様連続である。$\varepsilon>0$ に対して、$|x-y|<\delta$ なら $|f(x)-f(y)|<\frac{\varepsilon}{2(b-a)}$ となる $\delta>0$ をとり、$|P|<\delta$ となる分割 $P$ をとる。各小区間の 2 点 $x,y$ について $f(x)-f(y)<\frac{\varepsilon}{2(b-a)}$ なので、$x$ について上限、$y$ について下限をとって $M_i-m_i\leq\frac{\varepsilon}{2(b-a)}$ を得る。よって
$$ U(P,f)-L(P,f)=\sum_{i=1}^{n}(M_i-m_i)\Delta x_i\leq\frac{\varepsilon}{2(b-a)}(b-a)<\varepsilon $$
であり、thm-riemann-integral-criterion により $f$ は積分可能である。

単調関数の可積分性

$f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ が単調(増加または減少)ならば、$f$ は $[a,b]$ 上で Riemann 積分可能である。

等分割で和が打ち消し合う

増加の場合を示す(減少の場合は $-f$ を考えるか、同様に示す)。$f$ は $f(a)\leq f(x)\leq f(b)$ なので有界である。$[a,b]$ の $n$ 等分 $P_n$ では $M_i=f(x_i)$、$m_i=f(x_{i-1})$、$\Delta x_i=\frac{b-a}n$ なので
$$ U(P_n,f)-L(P_n,f)=\frac{b-a}{n}\sum_{i=1}^{n}\bigl(f(x_i)-f(x_{i-1})\bigr)=\frac{(b-a)\bigl(f(b)-f(a)\bigr)}{n} $$
であり、$n$ を大きくすればいくらでも小さい。thm-riemann-integral-criterion により $f$ は積分可能である。

連続関数の場合は Leb Lemma 5.2.7(p. 195)、単調関数の場合は同書の Proposition 5.2.11(p. 197、証明は Exercise 5.2.14(p. 199)の一部として演習)にある。単調関数は不連続点を無限個もちうるので、prop-riemann-integral-monotone は thm-riemann-integral-continuous に含まれない。

可積分な関数の範囲

有界で不連続点が有限個の関数は Riemann 積分可能である(Leb Theorem 5.2.9、p. 196)。さらに一般に、有界な関数 $f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ が Riemann 積分可能であるための必要十分条件は、$f$ の不連続点の集合が測度 $0$ の集合(零集合、測度)であることである(Riemann–Lebesgue の定理、または Lebesgue–Vitali の定理。Leb2 Theorem 10.4.3、p. 118 は $\mathbb{R}^n$ の閉じた直方体上で述べており、$n=1$ の場合が区間である)。

跳びのある階段関数

$[0,2]$ 上で $f(x)=1$($x<1$)、$f(1)=\frac12$、$f(x)=0$($x>1$)とする。$0<\varepsilon<1$ について $P:=\{0,1-\varepsilon,1+\varepsilon,2\}$ とすると、$L(P,f)=1-\varepsilon$、$U(P,f)=(1-\varepsilon)+2\varepsilon=1+\varepsilon$ である。thm-riemann-integral-criterion により $f$ は積分可能で、$1-\varepsilon\leq\int_0^2f\leq1+\varepsilon$ がすべての $\varepsilon$ で成り立つので $\int_0^2f=1$ である(Leb Example 5.1.12、p. 186)。$x=1$ での値は積分に影響しない。

反例:至るところ不連続な関数

$[0,1]$ 上で、$x$ が有理数なら $D(x)=1$、無理数なら $D(x)=0$ と定める(Dirichlet の関数)。長さが正のどの区間 $(s,t)$ にも有理数があり(実数 の記事の定理「有理数の稠密性」)、$(s-\sqrt2,t-\sqrt2)$ にある有理数 $q$ をとれば $q+\sqrt2$ は $(s,t)$ にある無理数である。したがってどの分割でも $m_i=0$、$M_i=1$ であり、$L(P,D)=0$、$U(P,D)=1$、下積分は $0$、上積分は $1$ である(Leb Example 5.1.4、p. 183)。$D$ は有界であるという性質を満たすが、Riemann 積分可能であるという性質を満たさない。有界性だけでは積分可能性は従わない。
さらに、$[0,1]$ の $n$ 等分 $P_n$ と代表点 $\xi_i=\frac in$(有理数)をとると $S(P_n,\xi,D)=1$ がすべての $n$ で成り立ち、この特定の分割と代表点の列については Riemann 和が収束する。それでも $D$ は積分可能でない。thm-riemann-integral-riemann-sums の 2 が「幅の小さい任意の分割と任意の代表点」を要求していることが本質的であり、特定の選び方だけで収束しても積分可能とは限らない(Leb Exercise 5.1.11、p. 189 の問 b の趣旨)。

反例:有界でない関数

$f(x)=1/\sqrt x$($0< x\leq1$)、$f(0)=0$ は $[0,1]$ 上で有界でないので、Riemann 積分可能でない。一方、$0<\varepsilon<1$ ごとに $f$ は $[\varepsilon,1]$ 上で連続で、$\int_\varepsilon^1\frac{dx}{\sqrt x}=2-2\sqrt\varepsilon$(微分積分学の基本定理 による)は $\varepsilon\to+0$ で $2$ に収束する。このように端点の近くで有界でない関数の「積分」は、有界閉区間上の Riemann 積分の極限として別に定義する(広義積分)。広義積分は Riemann 積分とは別の概念であり、有界性の仮定を外すための拡張である。

性質

以下、$[a,b]$ 上で Riemann 積分可能な関数全体を $\mathcal R[a,b]$ と書く。

積分の線形性

$f,g\in\mathcal R[a,b]$、$\alpha\in\mathbb{R}$ ならば、$f+g$ と $\alpha f$ も $\mathcal R[a,b]$ に属し、
$$ \int_a^b(f+g)=\int_a^bf+\int_a^bg,\qquad\int_a^b\alpha f=\alpha\int_a^bf $$
が成り立つ。

共通の分割で上下の和を比べる

和について:小区間 $[x_{i-1},x_i]$ 上では $f(x)+g(x)\leq\sup f+\sup g$、$f(x)+g(x)\geq\inf f+\inf g$ なので、どの分割 $P$ でも
$$ L(P,f)+L(P,g)\leq L(P,f+g)\leq U(P,f+g)\leq U(P,f)+U(P,g) $$
である。$\varepsilon>0$ に対し、thm-riemann-integral-criterion により $U(P_1,f)-L(P_1,f)<\varepsilon/2$、$U(P_2,g)-L(P_2,g)<\varepsilon/2$ となる分割をとり、$P:=P_1\cup P_2$ とすると、lem-riemann-integral-refinement により $P$ でも同じ不等式が成り立つ。上の式から $U(P,f+g)-L(P,f+g)<\varepsilon$ なので $f+g$ は積分可能であり、$\int(f+g)$ と $\int f+\int g$ はどちらも区間 $[L(P,f)+L(P,g),\,U(P,f)+U(P,g)]$(長さ $<\varepsilon$)にあるので一致する。
定数倍について:$\alpha\geq0$ なら各小区間で $\sup\alpha f=\alpha\sup f$、$\inf\alpha f=\alpha\inf f$ なので $L(P,\alpha f)=\alpha L(P,f)$、$U(P,\alpha f)=\alpha U(P,f)$ であり、上限・下限をとれば主張を得る。$\alpha=-1$ なら $\sup(-f)=-\inf f$ なので $L(P,-f)=-U(P,f)$、$U(P,-f)=-L(P,f)$ であり、下積分と上積分が入れ替わって符号が変わる。一般の $\alpha<0$ は $\alpha f=(-1)(|\alpha|f)$ と書けばよい。

積分の単調性と絶対値の評価

$f,g\in\mathcal R[a,b]$ とする。

  1. すべての $x$ で $f(x)\leq g(x)$ ならば $\int_a^bf\leq\int_a^bg$ である。
  2. $m\leq f(x)\leq M$($x\in[a,b]$)ならば $m(b-a)\leq\int_a^bf\leq M(b-a)$ である。
  3. $|f|\in\mathcal R[a,b]$ であり、$\bigl|\int_a^bf\bigr|\leq\int_a^b|f|$ である。
小区間ごとの比較

1:$g-f\geq0$ は thm-riemann-integral-linear により積分可能で、どの分割でも $L(P,g-f)\geq0$ なので $\int(g-f)\geq0$、したがって $\int g-\int f\geq0$ である。2 は prop-riemann-integral-lower-upper である。3:小区間 $[x_{i-1},x_i]$ の 2 点 $x,y$ について $\bigl||f(x)|-|f(y)|\bigr|\leq|f(x)-f(y)|\leq M_i-m_i$ なので、$|f|$ のこの小区間での上限と下限の差は $M_i-m_i$ 以下である。よって $U(P,|f|)-L(P,|f|)\leq U(P,f)-L(P,f)$ であり、thm-riemann-integral-criterion により $|f|$ は積分可能である。$-|f|\leq f\leq|f|$ に 1 を使えば $-\int|f|\leq\int f\leq\int|f|$ を得る。

区間についての加法性

$a< c< b$ とし、$f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ を有界とする。$f\in\mathcal R[a,b]$ であることと、$f$ の制限が $\mathcal R[a,c]$ と $\mathcal R[c,b]$ に属することは同値であり、このとき
$$ \int_a^bf=\int_a^cf+\int_c^bf $$
が成り立つ。

分割点に $c$ を加える

$[a,c]$ の分割 $P_1$ と $[c,b]$ の分割 $P_2$ の和 $P:=P_1\cup P_2$ は $c$ を含む $[a,b]$ の分割であり、逆に $c$ を含む $[a,b]$ の分割はこの形に一意に書ける。このとき小区間は $P_1$ のものと $P_2$ のものに分かれるので、
$$ L(P,f)=L(P_1,f)+L(P_2,f),\qquad U(P,f)=U(P_1,f)+U(P_2,f) $$
である。
制限が両方で積分可能なら、$\varepsilon>0$ について $U(P_j,f)-L(P_j,f)<\varepsilon/2$($j=1,2$)となる $P_1,P_2$ をとると $U(P,f)-L(P,f)<\varepsilon$ であり、$f\in\mathcal R[a,b]$ となる。逆に $f\in\mathcal R[a,b]$ なら、$U(Q,f)-L(Q,f)<\varepsilon$ となる分割 $Q$ に $c$ を加えた $P$ も(lem-riemann-integral-refinement により)同じ不等式を満たし、$\bigl(U(P_1,f)-L(P_1,f)\bigr)+\bigl(U(P_2,f)-L(P_2,f)\bigr)<\varepsilon$ の各項は非負なのでどちらも $\varepsilon$ 未満となり、制限は両方で積分可能である。
どちらの場合も、$\int_a^bf$ と $\int_a^cf+\int_c^bf$ はともに $L(P,f)$ と $U(P,f)$ の間(幅 $<\varepsilon$)にあるので一致する。

$\int_b^a:=-\int_a^b$ の約束により、$f$ が $a,b,c$ を含む最小の閉区間上で積分可能なら、$a,b,c$ の大小によらず $\int_a^bf=\int_a^cf+\int_c^bf$ が成り立つ(大小の各場合に thm-riemann-integral-additive を使えば確かめられる)。線形性・単調性・加法性は Leb Proposition 5.2.4・5.2.6・5.2.2(pp. 192–194)にある。

積分の平均値の定理

$f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ が連続ならば、
$$ \int_a^bf(x)\,dx=f(c)\,(b-a) $$
を満たす $c\in[a,b]$ が存在する。

最大値と最小値の間の値

コンパクト空間 の記事の定理「最大値・最小値の存在」により、$f$ は点 $x_1$ で最小値 $m$、点 $x_2$ で最大値 $M$ をとる。prop-riemann-integral-inequalities の 2 により $\mu:=\frac1{b-a}\int_a^bf$ は $m\leq\mu\leq M$ を満たす。$x_1$ と $x_2$ を端点とする閉区間上で 中間値の定理 を使えば($x_1=x_2$ なら $f$ は定数)、$f(c)=\mu$ となる $c$ がその区間、したがって $[a,b]$ にある。

$\mu=\frac1{b-a}\int_a^bf$ は $f$ の $[a,b]$ 上の平均値であり、連続関数は平均値を実際にどこかでとる、というのがこの定理の意味である(Leb Exercise 5.2.4、p. 197)。連続性は外せない。ex-riemann-integral-step の関数の $[0,2]$ 上の平均値は $\frac12$ で、これは $x=1$ でしかとられないが、$[0,1.5]$ 上では平均値 $\frac23$ をどこでもとらない。

補足

極限との交換とLebesgue積分

Riemann 積分可能な関数の列の各点での極限は、積分可能とは限らない。$[0,1]$ の有理数を $r_1,r_2,\dots$ と並べ、$f_k$ を $\{r_1,\dots,r_k\}$ 上で $1$、それ以外で $0$ とすると、$f_k$ は不連続点が有限個なので積分可能で $\int_0^1f_k=0$ である(rem-riemann-integral-lebesgue-criterion)。しかし各点での極限は ex-riemann-integral-dirichlet の $D$ であり、積分可能でない。関数列が一様収束する場合には極限も積分可能で、積分と極限が交換できる(一様収束 の記事)。各点収束の極限まで扱える積分として Lebesgue積分 がある。

多変数への一般化

$\mathbb{R}^n$ の閉じた直方体を小さな直方体に分割し、同じように上限和と下限和を比べれば、多変数の Riemann 積分が定義される(Leb2 §10.1、p. 91 以降)。区間の場合の性質の多くはそのまま成り立ち、累次積分との関係は Fubini の定理で与えられる。

関連項目

参考文献

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