Rellichの定理(Rellich's theorem)とは、コンパクトな空間の上の Sobolev 空間について、微分の階数の高い空間から低い空間への包含写像がコンパクト作用素になるという定理である。トーラス $\mathbb{T}^n$ 上では、Fourier 係数の重み $(1+|k|^2)^{s}$ による評価で、$s>t$ のとき $H^s(\mathbb{T}^n)\hookrightarrow H^t(\mathbb{T}^n)$ がコンパクトであることが示され、有界開集合 $\Omega$ の $H^1_0(\Omega)\hookrightarrow L^2(\Omega)$ のコンパクト性も零延長でこれに帰着する。微分の評価から弱いノルムで収束する部分列を取り出す道具で、楕円型作用素の核の有限次元性や Fredholm 性、Hodge の定理の証明に使われる。
前提知識: Hilbert空間, Fourier級数, Sobolev空間の基本事項, トーラス
Rellichの定理(Rellich's theorem)は、「微分まで込めて有界な関数の列は、微分の階数を下げたノルムでは収束する部分列をもつ」という主張である。いちばん基本的な形は、コンパクトな空間の上の Sobolev 空間について、階数の高い空間から低い空間への包含写像がコンパクト作用素になる、というものである。
偏微分方程式では、解の存在を示すのに「近似解の列が有界である」という評価から出発することが多い。無限次元の空間では有界な列が収束部分列をもつとは限らないので、評価だけでは極限がとれない。Rellich の定理は、微分についての評価をノルムの弱い空間での収束に変える。楕円型作用素の核が有限次元であること、像が閉じていること、固有値が離散的に並ぶことは、どれもこの定理から出る(Gårdingの不等式、Fredholm作用素、Hodgeの定理)。
この記事では、$n$ 次元トーラス $\mathbb T^n$ の上で Fourier 級数を使って定理を完全に証明し、その帰結として有界領域の零境界値 Sobolev 空間、一様ノルムへの埋め込みを導く。コンパクト多様体や境界つき領域への一般化は、所在を示して引用する。$W^{1,p}(\Omega)\hookrightarrow L^q(\Omega)$ に広げた形は Rellich–Kondrachov の定理と呼ばれ、Sobolevの不等式 の記事で述べられている。
$\mathbb T^n:=\mathbb R^n/2\pi\mathbb Z^n$ とし、$\mathbb T^n$ 上の関数を、各変数について周期 $2\pi$ をもつ $\mathbb R^n$ 上の関数と同一視する。積分は立方体 $[-\pi,\pi]^n$ の上でとり、内積とノルムを
$$
\langle u,v\rangle:=\frac1{(2\pi)^n}\int_{[-\pi,\pi]^n}u(x)\overline{v(x)}\,dx,\qquad \|u\|_{0}:=\langle u,u\rangle^{1/2}
$$
と正規化する。$k\in\mathbb Z^n$ に対して $e_k(x):=e^{ik\cdot x}$、$\hat u(k):=\langle u,e_k\rangle$(Fourier 係数)、$\langle k\rangle:=(1+|k|^2)^{1/2}$ とおく。多重指数 $\alpha$ について $\partial^\alpha:=\partial_1^{\alpha_1}\cdots\partial_n^{\alpha_n}$、$k^\alpha:=k_1^{\alpha_1}\cdots k_n^{\alpha_n}$ と書く。
次の事実を前提にする:$\{e_k\}_{k\in\mathbb Z^n}$ は $L^2(\mathbb T^n)$ の完全正規直交系であり、したがって Parseval の等式
$$
\|u\|_0^2=\sum_{k\in\mathbb Z^n}|\hat u(k)|^2,\qquad \langle u,v\rangle=\sum_{k\in\mathbb Z^n}\hat u(k)\overline{\hat v(k)}
$$
が成り立ち、係数列 $(c_k)$ が $\sum_k|c_k|^2<\infty$ を満たせば $\sum_kc_ke_k$ は $L^2(\mathbb T^n)$ で収束する(Hilbert空間 の記事の定理「完全正規直交系の特徴づけとParsevalの等式」)。$n=1$ の完全性は Axl20 11.30(p. 355)にあり、$n\ge2$ は直積測度の上で正規直交基底の積が正規直交基底になること(同書 Exercises 8C の 11、p. 252。同書では演習問題)から従う。この記事ではこの完全性を証明しない。
$s\in\mathbb R$ とする。複素数列 $c=(c_k)_{k\in\mathbb Z^n}$ で
$$
\|c\|_s^2:=\sum_{k\in\mathbb Z^n}\langle k\rangle^{2s}|c_k|^2<\infty
$$
を満たすもの全体を $H^s(\mathbb T^n)$ と書き、内積 $\langle c,d\rangle_s:=\sum_k\langle k\rangle^{2s}c_k\overline{d_k}$ を入れる。$s\ge0$ のときは、$u\in L^2(\mathbb T^n)$ を係数列 $(\hat u(k))_k$ と同一視し、$H^s(\mathbb T^n)$ を $\|u\|_s<\infty$ となる $u\in L^2(\mathbb T^n)$ 全体とみなす。特に $H^0(\mathbb T^n)=L^2(\mathbb T^n)$ で、$\|\cdot\|_0$ は上の $L^2$ ノルムに一致する。
$H^s(\mathbb T^n)$ は重みつきの数列空間 $\ell^2$ にほかならないので Hilbert 空間である(写像 $c\mapsto(\langle k\rangle^sc_k)_k$ が $\ell^2(\mathbb Z^n)$ への等長同型になる)。$t< s$ なら $\langle k\rangle^{2t}\le\langle k\rangle^{2s}$ なので
$$
H^s(\mathbb T^n)\subset H^t(\mathbb T^n),\qquad \|c\|_t\le\|c\|_s
$$
であり、包含は連続である。有限個の $k$ を除いて $c_k=0$ となる列、すなわち三角多項式 $\sum_{|k|\le N}c_ke_k$ は、どの $H^s(\mathbb T^n)$ でも稠密である($\|c-P_Nc\|_s^2=\sum_{|k|>N}\langle k\rangle^{2s}|c_k|^2\to0$)。ここで
$$
P_Nc:=(c_k\mathbf 1_{|k|\le N})_k
$$
は $|k|\le N$ の係数だけを残す写像で、どの $H^s$ の上でもノルム $1$ 以下の直交射影である。$s<0$ の元は一般に関数ではなく周期的な超関数に当たるが、この記事では係数列として扱えば足りる。
整数 $m\ge0$ について、$H^m(\mathbb T^n)$ は「$m$ 階までの弱微分が 2 乗可積分な関数」の空間と一致する。$\mathbb T^n$ 上の弱微分は、Sobolev空間の基本事項 の記事の定義「弱微分」のテスト関数を周期的な滑らかな関数に替えたものである:$u,v\in L^2(\mathbb T^n)$ について、すべての $\varphi\in C^\infty(\mathbb T^n)$ に対して
$$
\int_{[-\pi,\pi]^n}u\,\partial^\alpha\varphi\,dx=(-1)^{|\alpha|}\int_{[-\pi,\pi]^n}v\,\varphi\,dx
$$
が成り立つとき、$v$ を $u$ の $\alpha$ 階弱微分といい $\partial^\alpha u=v$ と書く。
$m\ge0$ を整数、$u\in L^2(\mathbb T^n)$ とする。次は同値である。
要点:$e_{-k}$ をテスト関数に選ぶと、弱微分の定義から係数の関係 $\widehat{\partial^\alpha u}(k)=(ik)^\alpha\hat u(k)$ が出る。逆向きは、この係数で級数 $\sum_k(ik)^\alpha\hat u(k)e_k$ を作って弱微分であることを確かめる。ノルムの比較は、多項定理による $\langle k\rangle^{2m}=\sum_{|\beta|\le m}c_\beta k^{2\beta}$($c_\beta\ge1$)から出る。
係数の比較.多項定理により $$\langle k\rangle^{2m}=\sum_{j=0}^m\binom mj|k|^{2j}=\sum_{|\beta|\le m}c_\beta\,k^{2\beta},\qquad c_\beta:=\binom m{|\beta|}\frac{|\beta|!}{\beta!}\ge1$$ である。$C_m:=\max_{|\beta|\le m}c_\beta$ とおくと $$\sum_{|\beta|\le m}|k^\beta|^2\le\langle k\rangle^{2m}\le C_m\sum_{|\beta|\le m}|k^\beta|^2 .$$ この 2 つの不等式を (1) と呼ぶ。
2 ⇒ 1.$\varphi=e_{-k}$($\varphi(x)=e^{-ik\cdot x}$)は周期的な滑らかな関数で、$\partial^\alpha e_{-k}=(-ik)^\alpha e_{-k}$ である。弱微分の定義に代入して $(2\pi)^n$ で割ると $$(-ik)^\alpha\hat u(k)=(-1)^{|\alpha|}\widehat{\partial^\alpha u}(k),\quad\text{すなわち}\quad \widehat{\partial^\alpha u}(k)=(ik)^\alpha\hat u(k).$$ Parseval の等式から $\|\partial^\alpha u\|_0^2=\sum_k|k^\alpha|^2|\hat u(k)|^2$ であり、$|\alpha|\le m$ について足して (1) の右側の不等式を使えば $\|u\|_m^2\le C_m\sum_{|\alpha|\le m}\|\partial^\alpha u\|_0^2<\infty$ となる。
1 ⇒ 2.$\|u\|_m<\infty$ とする。(1) の左側から $\sum_k|k^\alpha|^2|\hat u(k)|^2\le\|u\|_m^2$ なので、$v_\alpha:=\sum_k(ik)^\alpha\hat u(k)e_k$ は $L^2(\mathbb T^n)$ で収束する。$\varphi\in C^\infty(\mathbb T^n)$ について、$\psi:=\overline{\partial^\alpha\varphi}$ とおくと Parseval の等式(内積の形)から $$\frac1{(2\pi)^n}\int u\,\partial^\alpha\varphi\,dx=\langle u,\psi\rangle=\sum_k\hat u(k)\overline{\hat\psi(k)}.$$ 部分積分(周期性により境界項は消える)で $\widehat{\partial^\alpha\varphi}(-k)=(-ik)^\alpha\,\hat\varphi(-k)$ となり、$\overline{\hat\psi(k)}=\widehat{\partial^\alpha\varphi}(-k)$ だから、右辺は $$\sum_k\hat u(k)(-ik)^\alpha\hat\varphi(-k)=(-1)^{|\alpha|}\sum_k\hat v_\alpha(k)\hat\varphi(-k)=(-1)^{|\alpha|}\frac1{(2\pi)^n}\int v_\alpha\,\varphi\,dx$$ である。よって $v_\alpha=\partial^\alpha u$ は弱微分である。不等式の左側も同じ計算から出る。$\square$
$m=1$ では $c_\beta=1$($|\beta|\le1$)なので $C_1=1$ であり、
$$
\|u\|_1^2=\|u\|_0^2+\sum_{j=1}^n\|\partial_ju\|_0^2
$$
が等号で成り立つ。これを (2) と呼ぶ。
$X,Y$ をノルム空間とする。線形写像 $T\colon X\to Y$ がコンパクト作用素であるとは、$X$ の任意の有界列 $(x_j)$ に対し、$(Tx_j)$ が $Y$ で収束する部分列をもつことをいう。$X\subset Y$ で包含写像がコンパクト作用素のとき、この包含をコンパクト埋め込みという。
コンパクト作用素は有界である(有界でなければ $\|x_j\|\le1$、$\|Tx_j\|\ge j$ となる列がとれ、$(Tx_j)$ はどの部分列も有界でないので収束しない)。有界作用素とコンパクト作用素の合成はコンパクト作用素である:$S$ が有界、$T$ がコンパクトなら、$STx_j$ は $Tx_j$ の収束部分列の像として収束し、$TSx_j$ は有界列 $(Sx_j)$ に $T$ を当てたものだから収束部分列をもつ。無限次元の Hilbert 空間の恒等写像はコンパクトでない(正規直交系 $(f_j)$ は $\|f_i-f_j\|=\sqrt2$($i\ne j$)なので収束部分列をもたない)。
$s>t$ を実数とする。包含写像
$$
\iota\colon H^s(\mathbb T^n)\hookrightarrow H^t(\mathbb T^n)
$$
はコンパクト作用素である。さらに、$|k|\le N$ の係数だけを残す有限階の作用素 $\iota P_N$ について
$$
\|\iota-\iota P_N\|_{H^s\to H^t}\le(1+N^2)^{-(s-t)/2}\longrightarrow0\quad(N\to\infty)
$$
が成り立つ。
尾の評価.$c\in H^s(\mathbb T^n)$ とする。$|k|>N$ なら $\langle k\rangle^2>1+N^2$ であり、$t-s<0$ なので $\langle k\rangle^{2(t-s)}\le(1+N^2)^{t-s}$ である。よって
$$
\|c-P_Nc\|_t^2=\sum_{|k|>N}\langle k\rangle^{2s}\langle k\rangle^{2(t-s)}|c_k|^2\le(1+N^2)^{t-s}\|c\|_s^2 .
$$
これは作用素ノルムの評価そのものである。
部分列の抽出.$(c^{(j)})_j$ を $H^s(\mathbb T^n)$ の有界列とし、$\|c^{(j)}\|_s\le M$ とする。各 $k$ について $|c^{(j)}_k|\le\langle k\rangle^{-s}M$ なので、複素数列 $(c^{(j)}_k)_j$ は有界である。$\mathbb Z^n$ は可算なので $k_1,k_2,\dots$ と並べ、Bolzano–Weierstrass の定理により、$(c^{(j)}_{k_1})_j$ が収束する部分列をとり、その中から $(c^{(j)}_{k_2})_j$ も収束する部分列をとる、と続ける。$\ell$ 番目の部分列の $\ell$ 番目の項を並べた対角列を $(d^{(\ell)})_\ell$ とすると、すべての $k$ について $(d^{(\ell)}_k)_\ell$ は収束する。
Cauchy 列であること.$\varepsilon>0$ とし、$2M(1+N^2)^{-(s-t)/2}<\varepsilon/2$ となる $N$ をとる。$|k|\le N$ の $k$ は有限個で、各成分が収束するから、ある $L$ があって $\ell,\ell'\ge L$ なら $\|P_N(d^{(\ell)}-d^{(\ell')})\|_t<\varepsilon/2$ となる。尾の評価と合わせて
$$
\|d^{(\ell)}-d^{(\ell')}\|_t\le\|P_N(d^{(\ell)}-d^{(\ell')})\|_t+(1+N^2)^{-(s-t)/2}\cdot2M<\varepsilon .
$$
$H^t(\mathbb T^n)$ は完備なので $(d^{(\ell)})$ は $H^t$ で収束する。$\square$
$s=1$、$t=0$ の場合を (2) で言い換えると、次のようになる:$\mathbb T^n$ 上の関数列 $(u_j)$ で $\|u_j\|_0$ と $\|\partial_1u_j\|_0,\dots,\|\partial_nu_j\|_0$ がすべて一様に有界なものは、$L^2(\mathbb T^n)$ で収束する部分列をもつ。証明の要点は、Fourier 係数ごとの収束は有限次元の話で片づき、高い周波数の部分は $\langle k\rangle^{-(s-t)}$ の分だけ一様に小さい、という 2 点である。
$L^2(\mathbb T^n)$ 上の作用素 $R$ を $\widehat{Ru}(k):=\langle k\rangle^{-2}\hat u(k)$ で定める。これは $1-\Delta$($\Delta=\sum_j\partial_j^2$)の逆に当たる:$u\in H^2(\mathbb T^n)$ なら prop-rel-integer により $\widehat{(1-\Delta)u}(k)=(1+|k|^2)\hat u(k)$ である。$\|Ru\|_2=\|u\|_0$ なので $R$ は $L^2$ から $H^2$ への等長写像であり、thm-rel-torus($s=2$、$t=0$)の包含と合成すれば、$R\colon L^2\to L^2$ はコンパクト作用素である。$R$ は自己共役で、固有ベクトル $e_k$、固有値 $\langle k\rangle^{-2}$ をもち、固有値は $0$ だけに集積する。これは スペクトル定理 の記事の定理「コンパクト自己共役作用素のスペクトル定理」の典型例であり、$-\Delta$ の固有値 $|k|^2$ が離散的に並ぶことの言い換えである。
Rellich の定理は、次の形で「弱いノルムで強いノルムの一部を置き換える」不等式に使われる。Gårdingの不等式 の証明や、楕円型作用素の核が有限次元であることの証明で、この形が繰り返し現れる。
$X,Y,Z$ を Banach 空間とし、$X\subset Y\subset Z$ で、包含 $X\hookrightarrow Y$ はコンパクト、包含 $Y\hookrightarrow Z$ は連続で単射とする。このとき、任意の $\varepsilon>0$ に対して定数 $C_\varepsilon$ があり、すべての $x\in X$ について
$$
\|x\|_Y\le\varepsilon\|x\|_X+C_\varepsilon\|x\|_Z .
$$
成り立たないとすると、ある $\varepsilon>0$ と $x_j\in X$ があって $\|x_j\|_Y>\varepsilon\|x_j\|_X+j\|x_j\|_Z$ となる。$x_j\ne0$ なので $\|x_j\|_X=1$ と正規化してよい(不等式は正の定数倍で不変)。$(x_j)$ は $X$ で有界だから、部分列をとって $x_j\to y$($Y$ で)としてよい。$\|x_j\|_Y\le\|\iota\|$ は有界なので $\|x_j\|_Z<\|x_j\|_Y/j\to0$、よって $Z$ で $x_j\to0$ である。$Y\hookrightarrow Z$ は連続なので $Z$ でも $x_j\to y$ となり、$y=0$ である。すると $\|x_j\|_Y\to0$ だが、一方で $\|x_j\|_Y>\varepsilon\|x_j\|_X=\varepsilon$ であり矛盾する。$\square$
トーラスの場合は、係数ごとの比較で定数まで具体的に出る。$m\ge1$、$\delta>0$ として、$\langle k\rangle^2\ge1/\delta$ なら $\langle k\rangle^{2(m-1)}\le\delta\langle k\rangle^{2m}$、そうでなければ $\langle k\rangle^{2(m-1)}\le\delta^{-(m-1)}$ だから、
$$
\|u\|_{m-1}^2\le\delta\|u\|_m^2+\delta^{-(m-1)}\|u\|_0^2\qquad(u\in H^m(\mathbb T^n))
$$
である。prop-rel-ehrling の抽象的な形は、Fourier 係数が使えないコンパクト多様体の上でも、Rellich の定理さえあれば同じ種類の不等式が得られることを示している。
$u\in H^1(\mathbb T^n)$ の平均を $\bar u:=\hat u(0)$ とすると
$$
\|u-\bar u\|_0\le\Bigl(\sum_{j=1}^n\|\partial_ju\|_0^2\Bigr)^{1/2}
$$
が成り立ち、定数 $1$ は最良である。実際、Parseval の等式と prop-rel-integer により左辺の 2 乗は $\sum_{k\ne0}|\hat u(k)|^2$、右辺の 2 乗は $\sum_{k\ne0}|k|^2|\hat u(k)|^2$ で、$k\ne0$ なら $|k|^2\ge1$ である。$u=e_k$($|k|=1$)で等号が成り立つ。$n=1$ で $u$ が $C^1$ 級の場合が、Parsevalの等式 の記事の命題「Wirtingerの不等式」である。有界領域上の同種の不等式は、Rellich の定理を使って背理法で示すのが標準的な方法であり(上の prf-rel-ehrling と同じ型の議論)、トーラスでは Fourier 係数でそれが一行で済む。
トーラス上の定理から、$\mathbb R^n$ の任意の有界開集合について、零境界値 Sobolev 空間の場合の Rellich の定理が出る。境界の滑らかさは要らない。$\Omega\subset\mathbb R^n$ を開集合とし、$H^1(\Omega)=W^{1,2}(\Omega)$ のノルムを $\|u\|_{H^1(\Omega)}^2=\|u\|_{L^2(\Omega)}^2+\sum_j\|\partial_ju\|_{L^2(\Omega)}^2$、$H^1_0(\Omega)$ を $C_c^\infty(\Omega)$ のこのノルムでの閉包とする(Sobolev空間の基本事項 の記事の定義「Sobolev空間」「零境界値Sobolev空間」)。
$\Omega\subset\mathbb R^n$ を有界な開集合とする。包含写像
$$
H^1_0(\Omega)\hookrightarrow L^2(\Omega)
$$
はコンパクト作用素である。すなわち、$H^1_0(\Omega)$ で有界な列は $L^2(\Omega)$ で収束する部分列をもつ。
トーラスに入れる.$\Omega$ は有界なので、平行移動と拡大縮小 $x\mapsto\lambda x+b$($\lambda>0$)で $\Omega\subset(-\pi,\pi)^n$ とできる。この変数変換は $L^2(\Omega)$ のノルムと $H^1(\Omega)$ のノルムをそれぞれ正の定数倍の範囲で変え、$C_c^\infty(\Omega)$ を $C_c^\infty$ に移すので、コンパクト性は変わらない。以下 $\Omega\subset(-\pi,\pi)^n$ とする。
零延長.$\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ の台は開立方体 $(-\pi,\pi)^n$ のコンパクト部分集合なので、$\Omega$ の外で $0$ と延長し、さらに各変数に周期 $2\pi$ で延長した関数 $E\varphi$ は $\mathbb T^n$ 上の滑らかな関数であり、$\partial_j(E\varphi)=E(\partial_j\varphi)$ である。積分の範囲が $\Omega$ から $[-\pi,\pi]^n$ に広がるだけなので、(2) と prop-rel-integer から
$$
\|E\varphi\|_1^2=\frac1{(2\pi)^n}\|\varphi\|_{H^1(\Omega)}^2,\qquad \|E\varphi\|_0^2=\frac1{(2\pi)^n}\|\varphi\|_{L^2(\Omega)}^2 .
$$
よって $E$ は定数倍を除いて等長で、$H^1_0(\Omega)$ から $H^1(\mathbb T^n)$ への有界線形写像に一意に延長される。延長した $E$ も $L^2$ の段階では零延長である($\varphi_j\to u$ が $H^1(\Omega)$ で成り立てば、$E\varphi_j$ は $L^2(\mathbb T^n)$ で $u$ の零延長に収束するから)。
合成.$R\colon L^2(\mathbb T^n)\to L^2(\Omega)$ を $[-\pi,\pi]^n$ 上の関数の $\Omega$ への制限とすると、$R$ は有界で、$R\circ\iota\circ E$ は包含 $H^1_0(\Omega)\hookrightarrow L^2(\Omega)$ に等しい。ここで $\iota\colon H^1(\mathbb T^n)\hookrightarrow L^2(\mathbb T^n)$ は thm-rel-torus によりコンパクトなので、有界作用素との合成もコンパクトである。$\square$
この定理は、Sobolevの不等式 の記事の定理「Rellich--Kondrachovのコンパクト埋め込み」の $p=2$、$q=2$ の場合の零境界値版に当たる。零境界値を外して $H^1(\Omega)$ 全体を考えると、境界の条件(Lipschitz 領域など)が必要になり、それがないと成り立たないことがある(下の ex-rel-bad-domain)。
後の応用(楕円型方程式の解が滑らかであること)では、Sobolev 空間の元が連続関数、さらに滑らかな関数であることを知る必要がある。トーラスでは、これも Fourier 係数の計算で済む。
$s>n/2$ とする。$u\in H^s(\mathbb T^n)$ の Fourier 級数 $\sum_k\hat u(k)e_k$ は絶対一様収束し、その和は $u$ の連続な代表である。さらに
$$
\sup_{x}|u(x)|\le A_s\|u\|_s,\qquad A_s:=\Bigl(\sum_{k\in\mathbb Z^n}\langle k\rangle^{-2s}\Bigr)^{1/2}<\infty .
$$
整数 $\ell\ge0$ について $s>n/2+\ell$ なら、$u$ は $C^\ell$ 級の代表をもつ。
要点:$s>n/2$ なら $\sum_k\langle k\rangle^{-2s}$ が収束するので、Cauchy–Schwarz の不等式で $\sum_k|\hat u(k)|\le A_s\|u\|_s$ となり、Fourier 級数は Weierstrass の M 判定法で一様収束する。微分した級数にも同じ評価を $s-\ell$ で当てる。
級数の有限性.$1+|k|^2\ge1+k_i^2$(各 $i$)なので $(1+|k|^2)^n\ge\prod_i(1+k_i^2)$、よって $$\sum_{k\in\mathbb Z^n}\langle k\rangle^{-2s}\le\sum_{k\in\mathbb Z^n}\prod_{i=1}^n(1+k_i^2)^{-s/n}=\Bigl(\sum_{m\in\mathbb Z}(1+m^2)^{-s/n}\Bigr)^n$$ であり、$2s/n>1$ だから右辺の 1 変数の級数は収束する。
絶対収束.Cauchy–Schwarz の不等式により $$\sum_k|\hat u(k)|=\sum_k\langle k\rangle^{-s}\cdot\langle k\rangle^s|\hat u(k)|\le A_s\|u\|_s<\infty .$$ よって $\sum_k\hat u(k)e_k$ は Weierstrass の M 判定法で一様収束し、和 $v$ は連続で $|v|\le A_s\|u\|_s$ である。一様収束は $L^2$ 収束を含意し、$L^2$ での和は $u$ だから、$u=v$ がほとんど至るところ成り立つ。
微分.$s>n/2+\ell$、$|\alpha|\le\ell$ なら、$|(ik)^\alpha\hat u(k)|\le\langle k\rangle^{\ell}|\hat u(k)|$ で $\sum_k\langle k\rangle^{\ell}|\hat u(k)|\le A_{s-\ell}\|u\|_s<\infty$ である。項別に $\partial^\alpha$ をとった級数がすべて一様収束するので、和は $C^\ell$ 級で、項別微分が許される。$\square$
$\bigcap_{s\in\mathbb R}H^s(\mathbb T^n)=C^\infty(\mathbb T^n)$ である。すなわち、$u\in L^2(\mathbb T^n)$ が滑らかな代表をもつことと、すべての $m$ について $\sum_k\langle k\rangle^{2m}|\hat u(k)|^2<\infty$ となることは同値である。さらに $s>n/2$ なら、包含 $H^s(\mathbb T^n)\hookrightarrow C(\mathbb T^n)$(一様ノルム)はコンパクトである。
$u$ がすべての $H^s$ に属すれば、prop-rel-sobolev-lemma によりすべての $\ell$ について $C^\ell$ 級の代表をもち、それらは連続関数としてほとんど至るところ一致するので一致する。逆に $u\in C^\infty(\mathbb T^n)$ なら、古典的な導関数は弱微分でもあるので、prop-rel-integer によりすべての $m$ で $u\in H^m$ である。
コンパクト性:$n/2< s'< s$ をとる。thm-rel-torus により $H^s\hookrightarrow H^{s'}$ はコンパクトで、prop-rel-sobolev-lemma により $H^{s'}\to C(\mathbb T^n)$ は有界だから、合成はコンパクトである。$\square$
楕円型作用素の解の正則性は、この系を通して「すべての $H^s$ に入る」ことから「滑らかである」ことへ移る(楕円正則性、Hodgeの定理)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 指数の差 $s>t$($s=t$ にする) | $H^s(\mathbb T^n)$ の正規直交系 $\langle k\rangle^{-s}e_k$ | 包含(恒等写像)のコンパクト性 |
| 空間のコンパクト性($\mathbb T^n$ を $\mathbb R^n$ にする) | 1 つの山形の関数の平行移動 | $H^1(\mathbb R^n)\hookrightarrow L^2(\mathbb R^n)$ のコンパクト性 |
| 零境界値($H^1_0(\Omega)$ を $H^1(\Omega)$ にする) | 小さな球を無限個並べた有界開集合 | $H^1(\Omega)\hookrightarrow L^2(\Omega)$ のコンパクト性 |
| Sobolev の補題の $s>n/2$($n=1$、$s=1/2$) | 係数 $1/(k\log k)$ の三角多項式 | 一様ノルムの評価 $\sup\lvert u\rvert\le A\|u\|_s$ |
$f_k:=\langle k\rangle^{-s}e_k$(係数列としては $k$ 番目だけが $\langle k\rangle^{-s}$)とおくと、$\langle f_k,f_{k'}\rangle_s=\delta_{kk'}$ なので $(f_k)$ は $H^s(\mathbb T^n)$ の正規直交系である。$k\ne k'$ なら $\|f_k-f_{k'}\|_s=\sqrt2$ なので、有界列 $(f_k)$ は $H^s$ で収束する部分列をもたない。満たす性質は「有界な包含写像であること」、満たさない性質は「コンパクトであること」で、thm-rel-torus の仮定 $s>t$ を $s=t$ に弱めると結論が崩れる。一方 $t< s$ なら $\|f_k\|_t=\langle k\rangle^{t-s}\to0$ であり、同じ列が $H^t$ では $0$ に収束する。
$0\ne\varphi\in C_c^\infty(\mathbb R^n)$ の台が球 $\{|x|< r\}$ に含まれるとし、$u_j(x):=\varphi(x-3jr\,\mathbf e_1)$($\mathbf e_1$ は第 1 座標の単位ベクトル)とおく。$\|u_j\|_{H^1(\mathbb R^n)}=\|\varphi\|_{H^1(\mathbb R^n)}$ は $j$ によらず、$i\ne j$ なら台が交わらないので
$$
\|u_i-u_j\|_{L^2(\mathbb R^n)}^2=2\|\varphi\|_{L^2(\mathbb R^n)}^2>0 .
$$
よって $(u_j)$ は $H^1(\mathbb R^n)$ で有界だが、$L^2(\mathbb R^n)$ で収束する部分列をもたない。満たす性質は $H^1$ での有界性、満たさない性質は $L^2$ での相対コンパクト性で、定義域が有界(コンパクト)であることが外せないことを示す。トーラスでは、平行移動した関数はいずれ元の位置に戻ってくるので、この現象は起こらない。
$n\ge1$ とし、有界な箱の中に互いに交わらない開球 $B_j$($j=1,2,\dots$)をとり、$\Omega:=\bigcup_jB_j$ とする。$u_j:=|B_j|^{-1/2}\mathbf 1_{B_j}$ は各連結成分の上で定数なので弱勾配が $0$ で(Sobolevの不等式 の記事の証明「弱勾配が0であることの確認」と同じ計算)、$\|u_j\|_{H^1(\Omega)}=\|u_j\|_{L^2(\Omega)}=1$ である。台が交わらないので $\|u_i-u_j\|_{L^2(\Omega)}=\sqrt2$($i\ne j$)であり、収束する部分列はない。満たす性質は $\Omega$ の有界性と $H^1(\Omega)$ での有界性、満たさない性質は $L^2(\Omega)$ での相対コンパクト性である。$u_j$ は球の境界で $0$ にならないので $H^1_0(\Omega)$ には属さず、thm-rel-h10 とは矛盾しない。
$n=1$、$s=1/2$ とし、$N\ge2$ に対して $u_N:=\sum_{k=2}^N\frac{1}{k\log k}e_k$ とおく。
$$
\|u_N\|_{1/2}^2=\sum_{k=2}^N\frac{(1+k^2)^{1/2}}{k^2(\log k)^2}\le\sqrt2\sum_{k=2}^\infty\frac1{k(\log k)^2}<\infty
$$
は $N$ によらず有界だが、$u_N(0)=\sum_{k=2}^N\frac1{k\log k}$ は $N\to\infty$ で発散する(積分判定法で $\int_2^N\frac{dx}{x\log x}=\log\log N-\log\log2$ と比べる)。よって $\sup|u|\le A\|u\|_{1/2}$ となる定数 $A$ は存在しない。prop-rel-sobolev-lemma の仮定 $s>n/2$ を等号に弱めると評価が崩れる。
コンパクト多様体 $M$ の上の Sobolev 空間 $H^s(M)$ は、座標近傍と 1 の分割を使って、局所的に $\mathbb R^n$ 上の $H^s$ に属する超関数として定義される。次の一般化は、この記事では証明しない。
$M$ を境界のないコンパクト $C^\infty$ 多様体とし、$s\in\mathbb R$、$\sigma>0$ とする。包含 $H^{s+\sigma}(M)\hookrightarrow H^s(M)$ はコンパクト作用素である。エルミート計量つきのベクトル束の切断の Sobolev 空間についても、整数階の包含 $W^{k+1}\hookrightarrow W^k$ はコンパクトである。
Tay18a の第 4 章 §3 は、トーラスの場合((3.12) 式、Fourier 係数による証明)を示したうえで、一般のコンパクト多様体の場合を命題 3.4 として述べ、1 の分割で $H^{s+\sigma}(M)$ の元を有限個の $H^{s+\sigma}(\mathbb T^n)$ の元に分けてトーラスの場合に帰着させる、という証明の筋を与えている。つまり thm-rel-torus が一般の場合の核心である。同章 §4 の命題 4.4 は、滑らかな境界をもつコンパクト多様体 $\Omega$ について $s\ge0$、$\sigma>0$ で $H^{s+\sigma}(\Omega)\hookrightarrow H^s(\Omega)$ がコンパクトであることを、拡張作用素を通して述べている。ベクトル束の切断について、整数階 $W^{k+1}\hookrightarrow W^k$ のコンパクト性は Dem12 第 VI 章 (2.2)(p. 289)に「Rellich lemma」として述べられ、同所の (2.4) の証明で楕円型作用素の核が有限次元であることを導くのに使われている。$L^p$ 型の $W^{1,p}(\Omega)\hookrightarrow L^q(\Omega)$ の形(Rellich–Kondrachov の定理)は Sobolevの不等式 の記事の定理「Rellich--Kondrachovのコンパクト埋め込み」にある。
Hodge 理論での使われ方は次のとおりである。楕円型作用素 $P$ に対して Gårdingの不等式 の型の評価 $\|u\|_{k+d}\le C(\|Pu\|_k+\|u\|_0)$ があると、$P$ の核の単位球は $H^d$ で有界になり、Rellich の定理により $L^2$ でコンパクトになる。閉単位球がコンパクトなノルム空間は有限次元なので(Fredholm作用素 の記事の補題「Rieszの補題」)、核は有限次元である。同じ議論で像が閉じることも示され、$P$ は Fredholm作用素 になる。
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