o-極小構造

同義語:o-minimal構造o-極小o-極小性o-極小理論o-minimal structureo-minimalityo-minimal theory

概要

o-極小構造(o-minimal structure)とは、稠密で端点のない全順序 $<$ をもつ構造 $(M,<,\dots)$ で、パラメータ付きの 1 階の論理式で定義できる $M$ の部分集合がすべて有限個の点と開区間の和であるもののことである。$(\mathbb{R},<)$ や実数体(Tarski–Seidenberg の定理による)が例であり、制限された解析関数や指数関数を加えた構造も o-極小である。一方、$\mathbb{Z}$ や $\mathbb{R}$ 全体の $\sin$ を加えると o-極小でなくなる。1 変数の条件だけから、定義可能な関数の単調性定理や定義可能集合の胞体分解定理が導かれ、半代数幾何・劣解析幾何を統一するtame位相の枠組みになる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一階述語論理, 論理式, 全順序, 半代数的集合

o-極小構造(o-minimal structure)とは、全順序集合に関数や関係を付け加えた構造のうち、1 階の論理式で定義できる直線の部分集合が「有限個の点と区間の和」に限られるものである。「極小」は、定義可能な 1 変数の集合が、順序があれば必ず定義できるもの(点と区間)以外にないことを表す(PS86 p. 566)。
代表例は実数体 $(\mathbb{R},+,\cdot,<)$ であり、これは Tarski–Seidenbergの定理 により定義可能集合が半代数的集合になることから従う。実数体に制限された解析関数や指数関数を加えた構造も o-極小であることが、深い定理として知られている。一方、整数全体 $\mathbb{Z}$ や、$\mathbb{R}$ 全体で定義された正弦関数を加えると o-極小でなくなる。o-極小構造では、1 変数の条件だけから、定義可能な関数の区分的な単調性や、定義可能集合の胞体への分解といった強い有限性が導かれ、半代数幾何や劣解析幾何を統一的に扱うtame位相(tame topology)の枠組みになる。

定義

$L$ を 2 項関係記号 $<$ を含む言語とし、$\mathcal{M}=(M,<,\dots)$ を $L$ 構造で、$<$ が $M$ 上の稠密で端点のない全順序(任意の $a< b$ の間に元があり、最大元も最小元もない)であるものとする。
$L$ の論理式 $\varphi(x_1,\dots,x_n,y_1,\dots,y_m)$ と $b\in M^m$ について
$$ \varphi(\mathcal{M},b):=\{a\in M^n\mid\mathcal{M}\models\varphi(a,b)\} $$
と書き、この形の集合を $\mathcal{M}$ で(パラメータ付きで)定義可能な集合という($\models$ は充足関係。一階述語論理)。$b$ をパラメータという。写像 $f\colon X\to M^k$($X\subset M^n$)は、グラフが定義可能なとき定義可能という。開区間とは、$a< b$、$a\in M\cup\{-\infty\}$、$b\in M\cup\{+\infty\}$ について $(a,b):=\{x\in M\mid a< x< b\}$ の形の集合をいう。

o-極小構造

上の $\mathcal{M}$ が o-極小であるとは、$\mathcal{M}$ で定義可能な $M$ の部分集合($n=1$ の場合)がすべて、有限個の点と有限個の開区間の和であることをいう。

点 $\{a\}$ は論理式 $x=y$ にパラメータ $a$ を入れたもの、開区間 $(a,b)$ は $y_1< x\wedge x< y_2$ にパラメータ $a,b$ を入れたもの(端点が $\pm\infty$ なら片方の条件を省く)として定義可能であり、その有限個の和も定義可能である。したがって o-極小とは、「$M$ の定義可能な部分集合は、順序があれば必ず定義できるものに限られる」という条件である。定義は Pillay–Steinhorn による(PS86 Definition 1.1、p. 566。稠密な順序を仮定する形は KPS86 p. 593、概説として Edm00 p. 5)。
o-極小性は $M$(1 変数)の部分集合だけについての条件であり、$M^n$($n\ge2$)の定義可能集合については何も仮定しない。それでも、高い次元の定義可能集合の構造が 1 変数の条件から強く制限されることが、o-極小構造の理論の中心である(下の「胞体分解定理」)。

o-極小理論

$L$ の完全な理論 $T$ が o-極小理論であるとは、$T$ のすべてのモデルが o-極小であることをいう。

o-極小構造 $\mathcal{M}$ の理論 $\mathrm{Th}(\mathcal{M})$ は o-極小理論である。すなわち、o-極小構造と初等同値な構造(同じ文を満たす構造)はすべて o-極小である(Knight–Pillay–Steinhorn の定理。KPS86 Theorem 0.2、p. 593。この記事では証明しない)。
実数の上では、論理式を使わない幾何的な定義もよく使われる。

実数上の o-極小な構造(幾何的な定義)

各 $m\ge1$ について $\mathbb{R}^m$ の部分集合の族 $\mathcal{S}_m$ が与えられ、次を満たすとする。
(T1) $\mathcal{S}_m$ は有限個の和・共通部分・補集合で閉じている。
(T2) $X\in\mathcal{S}_m$ なら $\mathbb{R}\times X$ と $X\times\mathbb{R}$ は $\mathcal{S}_{m+1}$ に属する。
(T3) $\{(x_1,\dots,x_m)\mid x_1=x_m\}\in\mathcal{S}_m$。
(T4) $X\in\mathcal{S}_{m+1}$ なら、最初の $m$ 座標への射影 $\pi(X)$ は $\mathcal{S}_m$ に属する。
さらに、すべての $r\in\mathbb{R}$ について $\{r\}\in\mathcal{S}_1$、$\{(x,y)\mid x< y\}\in\mathcal{S}_2$ であり、$\mathcal{S}_1$ の元がすべて有限個の点と区間の和であるとき、$(\mathcal{S}_m)_m$ を $\mathbb{R}$ 上の o-極小な構造(van den Dries の用語では o-極小な Tarski 系)という(vdD86 p. 191)。

$(\mathbb{R},<,\dots)$ の拡大 $\mathcal{R}$ について、$\mathcal{S}_m$ を $\mathcal{R}$ で定義可能な $\mathbb{R}^m$ の部分集合の全体とすると、(T1)〜(T4) と点・順序の条件が成り立つ。(T1) は $\wedge,\vee,\neg$、(T2) は使わない変数を加えること、(T3) は論理式 $x_1=x_m$、(T4) は $\exists x_{m+1}$、点はパラメータ付きの $x=r$、順序は $x< y$ で与えられるからである。したがって、$\mathcal{R}$ が o-極小であることと、$(\mathcal{S}_m)_m$ が上の意味で o-極小であることは同値である。逆に、(T1)〜(T4) と点の条件(すべての $\{r\}$ が $\mathcal{S}_1$ に属すること)を満たす族は、その元をすべて関係記号として加えた構造の定義可能集合の全体と一致する(vdD86 p. 191 の説明による)。

例

順序だけの構造

稠密な順序は o-極小

$(\mathbb{Q},<)$ と $(\mathbb{R},<)$ は o-極小である。

$M=\mathbb{Q}$ または $\mathbb{R}$ とし、$D=\varphi(M,b)\subset M$ を定義可能集合とする。パラメータの成分を並べて $b_1< \cdots< b_m$ とし、$b_0:=-\infty$、$b_{m+1}:=+\infty$ とおく。
自己同型で保たれること。$\sigma\colon M\to M$ が順序を保つ全単射で各 $b_j$ を動かさないなら、$\sigma(D)=D$ である。実際、論理式の構成についての帰納法で「$\mathcal{M}\models\psi(a)\iff\mathcal{M}\models\psi(\sigma(a))$」がすべての論理式 $\psi$(パラメータ $b$ を含む)と $a$ について示せる:原子論理式 $s=t$、$s< t$ は $\sigma$ が順序を保つ単射で $b$ を固定することから、$\wedge,\neg$ は明らかであり、$\exists x$ は $\sigma$ が全単射であることから従う。
区間の上で推移的に動かせること。$u,v$ が同じ区間 $(b_k,b_{k+1})$ の点なら、$b_1,\dots,b_m$ を固定し $u$ を $v$ に写す順序を保つ全単射 $\sigma$ がある。$(b_k,b_{k+1})$ の外では恒等写像とし、区間の中では、両端が有限なら $b_k\mapsto b_k$、$u\mapsto v$、$b_{k+1}\mapsto b_{k+1}$ を結ぶ 2 本の線分からなる折れ線、左端が $-\infty$ なら $x\le u$ で平行移動 $x\mapsto x+(v-u)$、$[u,b_{k+1}]$ で $u\mapsto v$、$b_{k+1}\mapsto b_{k+1}$ を結ぶ 1 次関数とする(右端が $+\infty$ の場合も同様、$m=0$ なら平行移動)。傾きは正なのでこれは順序を保つ全単射であり、係数は $b_j,u,v$ の和・差・商なので $M=\mathbb{Q}$ でも $\mathbb{Q}$ を $\mathbb{Q}$ に写す。
以上から、$D$ と各区間 $(b_k,b_{k+1})$ の共通部分は、空か区間全体である($u\in D$ なら $v=\sigma(u)\in\sigma(D)=D$)。よって $D$ は、$b_1,\dots,b_m$ のうち $D$ に属するものと、いくつかの区間 $(b_k,b_{k+1})$ の和である。$\square$

同じ証明は、有限個の点を固定する順序の自己同型が、それらの点で区切られた各区間の上で推移的に働くような、端点のない稠密な全順序 $(M,<)$ でそのまま通る。順序付きの可除アーベル群、順序付き斜体の上の順序付きベクトル空間も o-極小であることが知られている(Edm00 p. 7 の例 (2))。

実数体と実閉体

実閉体は o-極小

実閉体 $R$ を順序体の言語 $\{+,-,\cdot,0,1,<\}$ の構造と見たもの $(R,+,\cdot,<)$ は o-極小である。特に、実数体 $(\mathbb{R},+,\cdot,<)$ と、実代数的数の体 $(\mathbb{R}_{\mathrm{alg}},+,\cdot,<)$(実閉体 の例「実代数的数の体」)は o-極小である。

この言語の項は、変数とパラメータを整数係数で組み合わせた多項式である。パラメータを代入すると、原子論理式 $t_1=t_2$、$t_1< t_2$ は $R$ の元を係数とする多項式 $P$ についての $P=0$、$P>0$ になる。よって定義可能集合 $D\subset R$ は、Tarski–Seidenbergの定理 の定理「Tarski–Seidenbergの定理(量化記号消去)」により半代数的集合であり、半代数的集合 の命題「直線の半代数的集合は有限個の点と区間の和」により有限個の点と開区間の和である。$\square$

逆に、順序環の言語で o-極小な構造 $(R,+,-,\cdot,0,1,<)$(順序環)は実閉体である(PS86 Theorem 2.3、p. 570。この記事では証明しない)。

解析関数と指数関数を加えた構造

次の例は深い定理であり、この記事では証明しない。

制限された解析関数と指数関数
  1. $\mathbb{R}_{\mathrm{an}}$:$[-1,1]^n$ の近傍で実解析的な関数 $f$ を $[-1,1]^n$ に制限し、その外では $0$ とした関数 $\tilde f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$ をすべて実数体に加えた構造 $\mathbb{R}_{\mathrm{an}}$ は o-極小である。van den Dries が、Łojasiewicz と Gabrielov の劣解析的集合の理論から、$\mathbb{R}^m$ の「有限劣解析的集合」の族が o-極小な構造をなすことを示し(vdD86 p. 191 の THEOREM)、それは $\mathbb{R}_{\mathrm{an}}$ で定義可能な集合の族と一致する(Wil96 3.4 Proposition、p. 1061;Edm00 p. 7 の例 (4))。特に、正弦関数や指数関数を有界閉区間に制限したものは $\mathbb{R}_{\mathrm{an}}$ で定義可能である。
  2. $\mathbb{R}_{\exp}$:実数体に指数関数 $\exp\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を加えた構造 $\mathbb{R}_{\exp}=(\mathbb{R},+,\cdot,<,\exp)$ は o-極小である(Wilkie。Edm00 p. 7 の例 (5)。その鍵であるモデル完全性は Wil96 Second Main Theorem、p. 1054)。
  3. $\mathbb{R}_{\mathrm{an},\exp}$:両方を加えた構造も o-極小である(van den Dries–Miller、van den Dries–Macintyre–Marker。Edm00 p. 8 の例 (6))。

1 の $[-1,1]^n$ を $[0,1]^n$ に替える流儀もある(Wil96 p. 1052)が、1 次の座標変換で互いの関数を定義できるので、定義可能集合の族は変わらない。$\mathbb{R}_{\mathrm{an}}$ では、$\mathbb{R}$ 全体で定義された指数関数は定義できない(vdD86 p. 189)。整数全体 $\mathbb{Z}$ が定義できないことは、o-極小性から直ちに従う(ex-o-minimal-integers の議論)。$\exp$ を加えても o-極小のままだが、$\mathbb{R}$ 全体の $\sin$ を加えると o-極小でなくなる(ex-o-minimal-sine)。

反例

反例:整数を加えた構造

実数体に整数全体 $\mathbb{Z}$ を 1 項関係として加えた構造 $(\mathbb{R},+,\cdot,<,\mathbb{Z})$ は o-極小でない。$\mathbb{Z}$ はこの構造で(論理式 $\mathbb{Z}(x)$ により)定義可能だが、有限個の点と開区間の和ではない。実際、$\mathbb{Z}$ はどの開区間も含まない(開区間は整数でない点を含む)ので、そのような和だとすれば有限個の点の和で有限集合になるが、$\mathbb{Z}$ は無限集合である。

反例:正弦関数を加えた構造

$(\mathbb{R},<,\sin)$、したがって実数体に正弦関数を加えた $(\mathbb{R},+,\cdot,<,\sin)$ は o-極小でない。パラメータ $0$ を使った論理式 $\sin(x)=0$ で定義される集合は $\pi\mathbb{Z}=\{k\pi\mid k\in\mathbb{Z}\}$ であり、ex-o-minimal-integers と同じ理由で有限個の点と開区間の和ではない。さらに実数体を含む構造では、パラメータ $\pi$ を使った $\sin(\pi x)=0$ で $\mathbb{Z}$ 自身も定義できる。正弦関数を有界区間に制限したものは $\mathbb{R}_{\mathrm{an}}$ で定義可能で o-極小性を壊さない(ex-o-minimal-an-exp)ので、壊しているのは「$\mathbb{R}$ 全体で無限回振動すること」である。

反例:定義可能に完備だが o-極小でない構造

$P:=\{1/n\mid n\ge1\}$ を 1 項関係として加えた $(\mathbb{Q},<,P)$ は o-極小でない。$P$ は定義可能で、無限集合であり、どの開区間も含まない($1/(n+1)$ と $1/n$ の間に $P$ の点はない)からである。一方、この構造は定義可能に完備である(PS86 p. 566)。したがって、下の prop-o-minimal-definable-completeness の逆は成り立たない。

2 つの o-極小構造を合わせた構造は o-極小とは限らない。Rolin–Speissegger–Wilkie は、実数体の o-極小な拡大 $\mathcal{R}_1,\mathcal{R}_2$ で、両方の関数を合わせると $\mathbb{Z}$ が定義できるものを構成した。特に、「最大の o-極小な実数体の拡大」は存在しない(RSW03 Corollary (1) とその直後の説明、p. 752)。

外す条件反例成り立たなくなること
定義可能な 1 変数の集合が有限個の点と区間$(\mathbb{R},+,\cdot,<,\mathbb{Z})$(ex-o-minimal-integers)o-極小性
加える関数を有界区間に制限すること$\mathbb{R}$ 全体の $\sin$(ex-o-minimal-sine)o-極小性($\pi\mathbb{Z}$ が定義できる)
有限性の条件(完備性だけにする)$(\mathbb{Q},<,\{1/n\})$(ex-o-minimal-predicate)o-極小性(定義可能な完備性からは従わない)
1 つの o-極小構造の中で考えること$\mathcal{R}_1$ と $\mathcal{R}_2$ を合わせた構造(RSW03)o-極小性(合併で保たれない)

1 変数の基本的な性質

以下、$\mathcal{M}=(M,<,\dots)$ を o-極小構造とし、「定義可能」は $\mathcal{M}$ でパラメータ付きで定義可能なことを指す。

定義可能な完備性

定義可能な空でない集合 $A\subset M$ が上に有界なら、$A$ は $M$ の中に上限をもつ。下に有界なら下限をもつ。

$A$ は有限個の点 $p_1,\dots,p_r$ と開区間 $(a_1,b_1),\dots,(a_t,b_t)$ の和である。$A$ が上に有界なので $b_j\ne+\infty$ であり、$s:=\max\{p_1,\dots,p_r,b_1,\dots,b_t\}\in M$ が上限である。実際 $s$ は上界であり、$s'< s$ なら、$s=p_i$ のとき $p_i\in A$ が $s'$ より大きく、$s=b_j$ のとき順序の稠密性から $(\max(a_j,s'),b_j)$ に $A$ の元があって $s'$ より大きい。下限も同様である。$\square$

$\mathbb{R}$ では上に有界な集合はいつも上限をもつが、たとえば $\mathbb{R}_{\mathrm{alg}}$ は(実閉体として)o-極小なので、$\mathbb{R}_{\mathrm{alg}}$ で定義可能な有界集合は上限をもつ。一方、$\mathbb{R}_{\mathrm{alg}}$ の有界な部分集合一般は上限をもつとは限らない(実閉体 の例「実代数的数の体」)。o-極小性は、完備性の「定義可能な集合だけについての版」を与える(PS86 Proposition 1.2、p. 566)。
次の補題は、定義可能な 1 変数関数の単調性定理の第一歩である。

定数か単射になる部分区間

$I\subset M$ を開区間、$f\colon I\to M$ を定義可能な関数とする。このとき開区間 $J\subset I$ で、$f$ が $J$ 上で定数か単射であるものが存在する。

場合 1:ある $c\in M$ について $f^{-1}(c)$ が無限集合。$f^{-1}(c)=\{x\in I\mid f(x)=c\}$ はパラメータ $c$ を使って定義可能なので、o-極小性により有限個の点と開区間の和であり、無限集合なので開区間 $J$ を含む。$f$ は $J$ 上で定数 $c$ である。
場合 2:すべての $c$ について $f^{-1}(c)$ が有限集合。開区間 $I$ は(順序の稠密性から)無限集合で、各値の逆像が有限なので、像 $f(I)=\{y\mid\exists x\,(x\in I\wedge f(x)=y)\}$ は無限の定義可能集合であり、o-極小性により開区間 $K$ を含む。$y\in K$ について $f^{-1}(y)$ は空でない有限集合なので最小元をもち、
$$ g\colon K\to I,\qquad g(y):=\min f^{-1}(y) $$
が定まる。$g$ のグラフは $\{(y,x)\mid y\in K,\ f(x)=y,\ \forall x'\,(x'\in I\wedge f(x')=y\Rightarrow x\le x')\}$ なので $g$ は定義可能である。$y\ne y'$ なら $f^{-1}(y)\cap f^{-1}(y')=\emptyset$ なので $g$ は単射であり、像 $g(K)\subset I$ は無限の定義可能集合で、開区間 $J$ を含む。
$J$ 上で $f$ が単射であることを示す。$x_1,x_2\in J$ で $f(x_1)=f(x_2)=y$ とする。$x_i\in g(K)$ なので $x_i=g(y_i)$ となる $y_i\in K$ があり、$g$ の定義から $f(x_i)=y_i$、すなわち $y_1=y_2=y$ である。よって $x_1=g(y)=x_2$ である。$\square$

この補題の「単射」をさらに「狭義単調かつ連続」に強め、区間を有限個に分けて全体を覆うと、次の定理になる。

単調性定理

$f\colon(a,b)\to M$ を定義可能な関数とする。$a=a_0< a_1< \cdots< a_k=b$ となる点 $a_1,\dots,a_{k-1}\in M$ があって、各 $(a_{i-1},a_i)$ の上で $f$ は定数であるか、狭義単調かつ連続(像の開区間への順序を保つか逆にする全単射)である。

定理の意味

この定理は、o-極小な構造では 1 変数の定義可能関数が有限個の区間に分けると単純な形(定数か、狭義単調で連続)になることを述べる。o-極小性は 1 変数の定義可能集合についての条件だが、そこから関数の様子が制御される。$\sin$ を加えた構造のように、無限回増減を繰り返す関数が定義できる構造は o-極小ではない。

この記事では証明しない(Pillay–Steinhorn。PS86 Theorem 4.2、p. 578。その主要な補題が同 Lemma 4.3、p. 579 の「定数か狭義単調な無限部分区間の存在」で、lem-o-minimal-constant-or-injective はその弱い形である。$\mathbb{R}$ 上の o-極小な構造についての述べ方は vdD86 p. 191 の PIECEWISE MONOTONICITY)。たとえば実数体では、半代数的関数 $\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ は区分的に単調で連続であり、$\sin$ のように無限回増減を繰り返す関数は現れない。

連結性による特徴づけ

定義可能集合 $X\subset M^n$ が定義可能に連結であるとは、$X$ が、$X$ の中で開であるような 2 つの交わらない空でない定義可能集合の和にならないことをいう(KPS86 Definition 2.2、p. 597)。

連結性による o-極小性の特徴づけ

$\mathcal{R}=(\mathbb{R},<,\dots)$ を $(\mathbb{R},<)$ の拡大とする。次は同値である。

  1. $\mathcal{R}$ は o-極小である。
  2. $\mathcal{R}$ で定義可能な $\mathbb{R}$ の部分集合は、どれも有限個の定義可能に連結な定義可能集合の和である。

1 ⇒ 2。点と開区間は(通常の位相で)連結空間である。定義可能集合の分離は位相的な分離でもあるので、点と開区間は定義可能に連結であり、o-極小性から 2 が従う。
2 ⇒ 1。まず、定義可能に連結な空でない定義可能集合 $C\subset\mathbb{R}$ が区間(1 点を含む)であることを示す。区間でないとすると、$a,b\in C$ と $c\notin C$ で $a< c< b$ となるものがある。$U:=C\cap(-\infty,c)$、$V:=C\cap(c,+\infty)$ はパラメータ $c$ を使って定義可能で、$C$ の中で開であり、$a\in U$、$b\in V$ なので空でなく、交わらず、$c\notin C$ から $U\cup V=C$ である。これは $C$ が定義可能に連結であることに反する。
$\mathbb{R}$ の区間は、端点(高々 2 個、$\pm\infty$ でないもの)と高々 1 つの開区間の和なので、有限個の点と開区間の和である。2 により、定義可能な $D\subset\mathbb{R}$ は有限個の区間の和であり、したがって有限個の点と開区間の和である。$\square$

証明の 2 ⇒ 1 で、区切りの点 $c$ をパラメータとして使えることが本質的である。o-極小構造では、高い次元でも「定義可能集合は有限個の定義可能に連結な定義可能集合の交わらない和である」ことが成り立ち(KPS86 Theorem 0.1、p. 593)、さらに定義可能な族のファイバーの成分の個数は一様に有界である(同 Theorem 0.3)。$\mathbb{R}$ の o-極小な拡大では、「定義可能に連結」を通常の「連結」に置き換えられる(同 Theorem 0.3 (b))。

胞体分解定理

胞体は次のように帰納的に定める(KPS86 Definition 1.5、pp. 595–596)。$M$ の胞体は 1 点と開区間である。$X\subset M^n$ が胞体のとき、定義可能な連続関数 $f\colon X\to M$ のグラフ $\{(x,f(x))\mid x\in X\}$ と、定義可能な連続関数 $f< g\colon X\to M\cup\{\pm\infty\}$ で挟まれた帯 $\{(x,y)\mid x\in X,\ f(x)< y< g(x)\}$ が $M^{n+1}$ の胞体である。

胞体分解定理

$\mathcal{M}$ を o-極小構造とする。

  1. 定義可能集合 $X_1,\dots,X_k\subset M^n$ に対し、$M^n$ を有限個の胞体に分割して、各 $X_i$ がそのいくつかの和になるようにできる。
  2. 定義可能な関数 $f\colon X\to M$($X\subset M^n$)に対し、$X$ を有限個の胞体に分割して、各胞体の上で $f$ が連続になるようにできる。
定理の意味

1 は、有限個の定義可能集合を同時に有限個の胞体の和として表せることを述べる。胞体はグラフと帯を順に重ねて作る単純な形なので、定義可能集合の次元や連結成分を調べる作業が胞体ごとの作業に帰着する。2 は、定義可能な関数を連続な部分に分けられることを述べ、1 変数の場合の単調性定理を高次元へ広げたものにあたる。

この記事では証明しない(Knight–Pillay–Steinhorn。KPS86 の (3.5)$_N$・(3.6)$_N$、p. 598 を §§4–5 で証明している。そこでは分割するものを胞体 $X$ としているが、$M^n$ 自身が胞体であり、2 の一般の $X$ は 1 で $X$ を胞体に分けてから各胞体に当てればよい。実数体の場合の柱状分解は BPR16 Theorem 5.6、p. 177)。詳しくは 胞体分解定理(o-極小) で扱う。胞体分解定理から定義可能集合の次元や定義可能に連結な成分の有限性が導かれ、順序環を拡大した o-極小構造では、定義可能な三角形分割、定義可能な写像の自明化(Hardt の定理)、Whitney 層別の存在なども成り立つ(Edm00 p. 6 の一覧)。こうして o-極小構造で定義可能な集合は「病的な集合」を含まない。これが、o-極小構造をtame位相(tame topology)の枠組みと呼ぶ理由である。

関連項目

参考文献

[5]
Mário J. Edmundo, An introduction to o-minimal structures, arXiv:math/0012051, arXiv:math/0012051v2(2000)。§2(o-極小の定義 p. 5、幾何的性質の一覧 p. 6、例 (2)–(6) pp. 7–8)

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