固有写像の写像度(degree of a proper map)とは、境界のない向き付けられた $n$ 次元多様体の間の固有写像 $f\colon M\to N$($N$ は連結)について、点 $y$ の逆像の上の向きの類 $\mu_{f^{-1}(y)}\in H_n(M,M\setminus f^{-1}(y))$ の行き先が $H_n(N,N\setminus\{y\})$ の向きの定める生成元の何倍かを表す整数で、$y$ によらない。$M$、$N$ が滑らかなら、正則値 $y$ での $\sum_{x\in f^{-1}(y)}\operatorname{sgn}\det Df_x$ に等しく、写像 $M\times[0,1]\to N$ として固有なホモトピーで変わらない。写像度が $0$ でなければ $f$ は全射で、多項式写像などの全射性の証明に使われる。
前提知識: 基本類, 固有写像, 局所写像度, 向き付け可能多様体, 相対ホモロジーと長完全列
向き付けられた閉多様体の間の写像の写像度は、基本類の行き先 $f_*[M]=d\,[N]$ で定まる(基本類 の定義「閉多様体の間の写像度」)。連結でコンパクトでない多様体は基本類をもたず、最高次のホモロジーそのものが消えてしまう。それでも写像 $f\colon M\to N$ が固有(コンパクト集合の逆像がコンパクト)なら、各点 $y$ の逆像 $f^{-1}(y)$ はコンパクトであり、向き付けがコンパクト集合 $K$ ごとに定める類 $\mu_K\in H_n(M,M\setminus K)$ を基本類の代わりに使える。$\mu_{f^{-1}(y)}$ の行き先が $H_n(N,N\setminus\{y\})\cong\mathbb{Z}$ の向きの定める生成元の何倍かを表す整数は $y$ によらず、これが固有写像の写像度である。ここで $M$ は向き付けられた境界のない $n$ 次元多様体、$N$ は連結で向き付けられた境界のない $n$ 次元多様体である。
写像度は、$M$、$N$ が滑らかなとき、正則値 $y$ では逆像の点を微分の行列式の符号をつけて数えた和 $\sum_{x\in f^{-1}(y)}\operatorname{sgn}\det Df_x$ に等しく、写像 $M\times[0,1]\to N$ として固有なホモトピーで変わらない。写像度が $0$ でなければ写像は全射なので、方程式 $f(x)=y$ が解をもつことを、無限遠での写像のふるまいから導ける。
この記事では、写像度の定義と局所一定性、固有ホモトピー不変性、正則値での数え上げを証明する。応用として、$\mathbb{R}^n$ の開集合からの固有な $C^1$ 級写像で、コンパクト集合の外で Jacobian が正のものの全射性と、最高次の同次部分が $0$ 以外に共通零点をもたず $0$ 以外で Jacobian が $0$ にならない $n$ 変数の多項式写像(実係数なら $n\ge2$)の全射性を示す。
以下 $n\ge1$ とし、多様体は 基本類 と同じく Hausdorff で第 2 可算な境界のない位相多様体とする。ホモロジーは整数係数の特異ホモロジーで、部分集合 $A\subset X$ について $H_n(X\,|\,A):=H_n(X,X\setminus A)$、$H_n(X\,|\,x):=H_n(X\,|\,\{x\})$ と書く。$A\supset B$ のとき対の包含が誘導する $H_n(X\,|\,A)\to H_n(X\,|\,B)$ を 制限 とよぶ。
$M$ の向き $\mu$ とは、各点 $x$ に $H_n(M\,|\,x)\cong\mathbb{Z}$ の生成元 $\mu_x$ を局所整合的に対応させる族である(向き付け可能多様体 の定義「位相多様体の向き」)。基本類 の補題「局所ホモロジーの基本補題」の 1 により、コンパクト集合 $K\subset M$ ごとに、すべての $x\in K$ で制限が $\mu_x$ になる類 $\mu_K\in H_n(M\,|\,K)$ がただ一つある。この一意性から、コンパクト集合 $K'\subset K$ について $\mu_K$ の制限は $\mu_{K'}$ であり、$\mu_\emptyset=0$ である($H_n(M\,|\,\emptyset)=H_n(M,M)=0$)。$M$ がコンパクトなら $\mu_M$ は向き $\mu$ に関する基本類 $[M]$ である。
写像 $f\colon M\to N$、$K\subset M$、$D\subset N$ について $f^{-1}(D)\subset K$ なら、$f(M\setminus K)\subset N\setminus D$ なので $f$ は対の写像 $(M,M\setminus K)\to(N,N\setminus D)$ であり、$f_*\colon H_n(M\,|\,K)\to H_n(N\,|\,D)$ を誘導する。これは制限と可換である(どちらの合成も同じ対の写像が誘導する)。
$N$ を $n$ 次元多様体、$\psi\colon\mathbb{R}^n\to V$ を開集合 $V\subset N$ への同相写像、$\bar B\subset\mathbb{R}^n$ を閉球とし、$D:=\psi(\bar B)$ とおく。このとき、すべての $y\in D$ について制限 $H_n(N\,|\,D)\to H_n(N\,|\,y)$ は同型である。とくに $N$ が向き $\nu$ をもてば、$H_n(N\,|\,D)\cong\mathbb{Z}$ は $\nu_D$ で生成される。
要点:切除で $\mathbb{R}^n$ の閉球と点に移し、閉球の補集合と点の補集合が同じ球面に変位レトラクトすることを使う。
$N\setminus V$ は閉集合で、開集合 $N\setminus D$ に含まれるので、切除(切除定理(特異ホモロジー) の定理「切除定理」の (1))により包含は同型 $H_n(V\,|\,D)\cong H_n(N\,|\,D)$、$H_n(V\,|\,y)\cong H_n(N\,|\,y)$ を誘導し、これらは制限と可換である。$\psi$ で移して、$\mathbb{R}^n$ の閉球 $\bar B$ と $y':=\psi^{-1}(y)\in\bar B$ について示せばよい。$y'$ を中心とし半径 $R$ の開球が $\bar B$ を含むように $R$ をとり、$S$ をその球面とする。$z\ne y'$ を $y'$ からの半直線に沿って $S$ へ動かす変形 $(z,t)\mapsto y'+\bigl((1-t)+tR/\lvert z-y'\rvert\bigr)(z-y')$ は、$\mathbb{R}^n\setminus\{y'\}$ を $S$ に変位レトラクトする。$z\notin\bar B$ なら変形の途中の点も $\bar B$ に入らない。$z$ より外側の点は、$\bar B$ が凸で $y'\in\bar B$ だから $\bar B$ に入らず(入れば $z$ も入る)、$y'$ からの距離が $R$ 以上の点も $\bar B$ に入らないからである。よって $\mathbb{R}^n\setminus\bar B$ も $S$ に変位レトラクトし、包含 $\mathbb{R}^n\setminus\bar B\hookrightarrow\mathbb{R}^n\setminus\{y'\}$ はホモトピー同値である。対の長完全列(相対ホモロジーと長完全列 の定理「対の長完全列」)と 五項補題 により $H_n(\mathbb{R}^n\,|\,\bar B)\to H_n(\mathbb{R}^n\,|\,y')$ は同型である。最後の主張は、$\nu_D$ の制限が生成元 $\nu_y$ であることによる。$\square$
$M$、$N$ を向き付けられた $n$ 次元多様体(向き $\mu$、$\nu$)とし、$f\colon M\to N$ を固有写像とする。$y\in N$ について $f^{-1}(y)$ はコンパクトであり、
$$
f_*\bigl(\mu_{f^{-1}(y)}\bigr)=d_f(y)\,\nu_y\qquad\bigl(f_*\colon H_n(M\,|\,f^{-1}(y))\to H_n(N\,|\,y)\bigr)
$$
によって整数 $d_f(y)$ が定まる。関数 $d_f\colon N\to\mathbb{Z}$ は局所定数であり、$N$ が連結なら定数である。
$\{y\}$ はコンパクトなので $f^{-1}(y)$ はコンパクトであり、$H_n(N\,|\,y)\cong\mathbb{Z}$ は $\nu_y$ で生成されるので $d_f(y)$ が定まる。
$y_0\in N$ を固定し、$y_0$ のまわりの座標近傍 $\psi\colon\mathbb{R}^n\to V$ と、$\psi^{-1}(y_0)$ を内部に含む閉球 $\bar B$ をとって $D:=\psi(\bar B)$ とおく。$D$ はコンパクトなので $K:=f^{-1}(D)$ はコンパクトであり、$f$ は対の写像 $(M,M\setminus K)\to(N,N\setminus D)$ である。lem-dpm-ball により $H_n(N\,|\,D)$ は $\nu_D$ で生成されるので、整数 $c$ によって $f_*(\mu_K)=c\,\nu_D$ と書ける。
$y\in D$ とする。$f^{-1}(y)\subset K$ なので、制限と $f_*$ の可換性により、$\mu_K$ を $H_n(M\,|\,f^{-1}(y))$ へ制限してから $f_*$ を当てたものは、$f_*(\mu_K)$ を $H_n(N\,|\,y)$ へ制限したものに等しい。
$$
\xymatrix{
H_n(M\,|\,K) \ar[r]^-{f_*} \ar[d] & H_n(N\,|\,D) \ar[d]\\
H_n(M\,|\,f^{-1}(y)) \ar[r]^-{f_*} & H_n(N\,|\,y)
}
$$
$\mu_K$ の制限は $\mu_{f^{-1}(y)}$、$\nu_D$ の制限は $\nu_y$ なので、$d_f(y)\,\nu_y=c\,\nu_y$、すなわち $d_f(y)=c$ である。よって $d_f$ は $y_0$ の近傍 $\psi(\operatorname{int}\bar B)$ の上で一定であり、局所定数である。局所定数な整数値関数は連結な空間の上で定数である。$\square$
$M$、$N$ を向き付けられた $n$ 次元多様体とし、$N$ は連結とする。固有写像 $f\colon M\to N$ について、thm-dpm-constant の定数 $d_f(y)$ を $f$ の 写像度(degree)といい、$\deg f$ と書く。
$N$ が連結でないときは、$N$ の連結成分ごとに $d_f$ の値が定まる(反例の節の表の 2 行目のように、成分ごとに値は異なりうる)。定義から次が分かる。$f^{-1}(y)=\emptyset$ なら $\mu_\emptyset=0$ なので $d_f(y)=0$ である。$N$ の向きを $-\nu$ に替えるか、$M$ の向きを $-\mu$ に替えると、写像度は $-1$ 倍になる。$M$ は連結でなくてもよい。
def-dpm-main の設定で $\deg f\ne0$ なら、$f$ は全射である。
$y\notin f(M)$ なら $d_f(y)=0$ なので、$\deg f=0$ である。$\square$
$M$ をコンパクトで向き付けられた $n$ 次元多様体、$N$ を連結で向き付けられた $n$ 次元多様体、$f\colon M\to N$ を連続写像とする。このとき $f$ は固有であり、次が成り立つ。
要点:$[M]=\mu_M$ の制限は $\mu_{f^{-1}(y)}$ なので、$f_*[M]$ の $H_n(N\,|\,y)$ への制限は $\deg f\cdot\nu_y$ である。
$f$ が固有であることは 固有写像 の例「コンパクト空間からの写像と閉集合の包含」の 1 による。$y\in N$ について、$[M]=\mu_M$ の制限は $\mu_{f^{-1}(y)}$ なので、$f_*[M]\in H_n(N)$ の $H_n(N\,|\,y)$ への制限は $f_*(\mu_{f^{-1}(y)})=\deg f\cdot\nu_y$ である。1:$[N]=\nu_N$ の制限は $\nu_y$ なので、$f_*[M]=d[N]$ の制限は $d\,\nu_y$ であり、$d=\deg f$ である。2:$N$ は連結でコンパクトでないので、基本類 の命題「コンパクトでない多様体の最高次のホモロジー」により $H_n(N)=0$ であり、$f_*[M]=0$、よって $\deg f=0$ である。$\square$
写像 $H\colon M\times[0,1]\to N$ が固有写像であるとき、$H$ を $H_0:=H(\,\cdot\,,0)$ から $H_1:=H(\,\cdot\,,1)$ への 固有ホモトピー(proper homotopy)という。$M\times\{t\}$ は閉集合なので、各 $H_t:=H(\,\cdot\,,t)$ は固有である(固有写像 の命題「合成・制限・分解」の 2)。
$M$、$N$ を向き付けられた $n$ 次元多様体、$N$ を連結とし、$H\colon M\times[0,1]\to N$ を固有写像とする。このとき $\deg H_0=\deg H_1$ である。
$y\in N$ を固定する。$H^{-1}(y)$ は $M\times[0,1]$ のコンパクト集合なので、射影 $M\times[0,1]\to M$ による像 $A$ は $M$ のコンパクト集合であり、すべての $t$ について $H_t^{-1}(y)\subset A$ である。よって $H$ は $(M\setminus A)\times[0,1]$ を $N\setminus\{y\}$ に写し、$H_0$ と $H_1$ は、対の写像 $(M,M\setminus A)\to(N,N\setminus\{y\})$ として対のホモトピー $H$ で結ばれる。相対ホモロジーと長完全列 の命題「対のホモトピー不変性」により
$$
(H_0)_*=(H_1)_*\colon H_n(M\,|\,A)\to H_n(N\,|\,y)
$$
である。一方 $H_t$ は対の写像 $(M,M\setminus A)\to(M,M\setminus H_t^{-1}(y))\to(N,N\setminus\{y\})$ に分解し、$\mu_A$ の制限は $\mu_{H_t^{-1}(y)}$ なので、$(H_t)_*\mu_A=(H_t)_*\mu_{H_t^{-1}(y)}=\deg H_t\cdot\nu_y$ である。$t=0,1$ を比べて $\deg H_0=\deg H_1$ を得る。$\square$
証明では、すべての $t$ の逆像 $H_t^{-1}(y)$ を一つのコンパクト集合 $A$ に収めるために $H$ 全体の固有性を使った。各 $H_t$ が固有であるだけでは写像度は保たれない(反例の節の表の 4 行目)。
連続な固有写像の写像度は、滑らかな写像による近似を経ずに直接定まる。$M$、$N$ が滑らかで $f$ が $C^\infty$ 級なら、正則値は稠密にあり(Sardの定理 の系「多様体の間の写像に対するSardの定理」)、次節の数え上げで写像度を計算できる。
$M$、$N$ を向き付けられた $n$ 次元多様体、$f\colon M\to N$ を連続写像、$x\in M$、$y:=f(x)$ とし、$x$ が $f^{-1}(y)$ の孤立点であるとする。$x$ の開近傍 $W$ で $W\cap f^{-1}(y)=\{x\}$ となるものをとると、$f|_W$ は対の写像 $(W,W\setminus\{x\})\to(N,N\setminus\{y\})$ である。同型 $H_n(W\,|\,x)\cong H_n(M\,|\,x)$(局所ホモロジー の命題「局所ホモロジーの局所性」)で $\mu_x$ に対応する元の行き先を $\deg_xf\cdot\nu_y$ と書き、整数 $\deg_xf$ を $f$ の $x$ における 局所写像度 という。
$W$ を小さい開近傍 $W'\subset W$ に替えても、$f|_{W'}$ は包含 $(W',W'\setminus\{x\})\hookrightarrow(W,W\setminus\{x\})$ を経由するので値は変わらず、$\deg_xf$ は $W$ によらない。$M=N=S^n$ に同じ向きを入れたときは、局所写像度 の定義「局所写像度」と同じものである。
def-dpm-main の設定で、$y\in N$ の逆像が有限集合 $\{x_1,\dots,x_m\}$($m\ge0$)なら、$\deg f=\sum_{i=1}^m\deg_{x_i}f$ である。
要点:$L:=f^{-1}(y)$ の各点の互いに交わらない近傍 $U_i$ への切除で $H_n(M\,|\,L)\cong\bigoplus_iH_n(U_i\,|\,x_i)$ となり、$\mu_L$ は各成分の $\mu_{x_i}$ の組に対応するので、$f_*\mu_L=\deg f\cdot\nu_y$ が局所写像度の和に分かれる(局所写像度 の定理「局所写像度の和の公式」と同じ形の議論)。
$x_i$ の開近傍 $U_i$ を互いに交わらないようにとる($M$ は Hausdorff)。$M\setminus\bigcup_iU_i$ は開集合 $M\setminus L$ に含まれる閉集合なので、切除により包含は同型 $H_n(\bigcup_iU_i\,|\,L)\cong H_n(M\,|\,L)$ を誘導する。特異単体の像は弧状連結でどれか 1 つの $U_i$ に入るので、包含 $k_i\colon H_n(U_i\,|\,x_i)\to H_n(M\,|\,L)$ を並べた写像 $\bigoplus_ik_i$ は同型である。$x_j$ への制限を $p_j$ とすると、$p_j\circ k_j$ は局所ホモロジーの局所性の同型であり、$i\ne j$ なら $U_i\subset M\setminus\{x_j\}$ なので $p_j\circ k_i$ は $H_n(U_i,U_i)=0$ を経由して $0$ である。$\mu_L=\sum_ik_i(a_i)$ と書いて $p_j$ を当てると $\mu_{x_j}=p_jk_j(a_j)$ なので、$a_j$ は $\mu_{x_j}$ に対応する元である。よって $\deg f\cdot\nu_y=f_*\mu_L=\sum_if_*k_i(a_i)=\sum_i\deg_{x_i}f\cdot\nu_y$ である($m=0$ なら両辺とも $0$)。$\square$
以下、$M$、$N$ は滑らかな($C^\infty$ 級の)向き付けられた多様体とし、滑らかな向きと位相的な向きを 向き付け可能多様体 の命題「滑らかな向きと位相的な向きの一致」で同一視する。このとき正の向きの局所座標 $(U;\varphi)$ は、各点 $p\in U$ で、$H_n(M\,|\,p)\cong H_n(U\,|\,p)\xrightarrow{\varphi_*}H_n(\mathbb{R}^n\,|\,\varphi(p))$ により $\mu_p$ を $\mathbb{R}^n$ の標準の局所的な向きに写す(同命題の前の定義と 2)。
連続写像 $f\colon M\to N$ が点 $x$ で 微分可能 であるとは、局所座標による局所表示が $x$ の座標で微分可能であることをいう。座標変換は $C^\infty$ 級なので、これは局所座標のとり方によらない。$y\in N$ が $f$ の 正則値 であるとは、$f^{-1}(y)$ の各点 $x$ で $f$ が微分可能で、局所表示の Jacobi 行列 $Df_x$ が可逆であることをいう。正の向きの局所座標で計算した $\operatorname{sgn}\det Df_x$ は、正の向きの局所座標の座標変換の Jacobi 行列式が正なので、連鎖律により局所座標のとり方によらない。逆像が空な点は正則値である。$f$ が $C^\infty$ 級なら、これは Sardの定理 の定義「臨界点・臨界値・正則値」の正則値と同じである。
$f\colon M\to N$ を連続写像とし、$f$ が点 $x$ で微分可能で $Df_x$ が可逆であるとする。このとき $x$ は $f^{-1}(f(x))$ の孤立点であり、$\deg_xf=\operatorname{sgn}\det Df_x$ である。
要点:正の向きの局所座標で $\mathbb{R}^n$ の開集合の間の写像に移し、局所写像度 の定理「微分可能な写像の局所写像度」を使う。
$y:=f(x)$ とし、正の向きの局所座標 $(V;\psi)$ を $y$ のまわりに、$(U;\varphi)$ を $x$ のまわりに $f(U)\subset V$ となるようにとって、$g:=\psi\circ f\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(U)\to\mathbb{R}^n$ とおく。上の定理により、$\varphi(x)$ は $g^{-1}(\psi(y))$ の孤立点であり、$\deg_{\varphi(x)}g=\operatorname{sgn}\det Dg(\varphi(x))=\operatorname{sgn}\det Df_x$ である。よって $x$ は $f^{-1}(y)$ の孤立点である。
局所写像度 が $\mathbb{R}^n$ の各点 $z$ で使う生成元 $j_z(\alpha)$ は、$z$ を含む有界な開球 $B$ について $H_n(S^n\,|\,B)$ を経由するので $\mathbb{R}^n$ の向きである。連結な $\mathbb{R}^n$ の向きは 2 つしかないので(向き付け可能多様体 の定理「向きの 2 重被覆による判定」の 1)、この向きは標準の局所的な向きか、その $-1$ 倍に一致する。局所写像度は定義域と終域で同じ族の生成元を使うので、どちらで測っても同じ値になる。終域の $H_n(\psi(V)\,|\,\psi(y))$ と $H_n(S^n\,|\,\psi(y))$ は局所ホモロジーの局所性で同一視する。
$x$ の開近傍 $W\subset U$ を $W\cap f^{-1}(y)=\{x\}$ となるようにとると、$W$ の上で $f=\psi^{-1}\circ g\circ\varphi$ である。$\varphi_*$ は $\mu_x$ を標準の生成元に写し、$g_*$ はそれを $\deg_{\varphi(x)}g$ 倍の標準の生成元に写し、$(\psi^{-1})_*$ は標準の生成元を $\nu_y$ に写すので、$f_*\mu_x=\deg_{\varphi(x)}g\cdot\nu_y$ である。$\square$
$M$、$N$ を向き付けられた滑らかな $n$ 次元多様体、$N$ を連結とし、$f\colon M\to N$ を固有写像、$y\in N$ を $f$ の正則値とする。このとき $f^{-1}(y)$ は有限集合であり、
$$
\deg f=\sum_{x\in f^{-1}(y)}\operatorname{sgn}\det Df_x
$$
である。とくに、正則値の逆像の点の個数は $\lvert\deg f\rvert$ 以上で、$\deg f$ と偶奇が一致する。
lem-dpm-chart により $f^{-1}(y)$ の各点は孤立点なので、$f^{-1}(y)$ は離散である。$f$ は固有なので $f^{-1}(y)$ はコンパクトであり、コンパクトで離散な集合は有限集合である。prop-dpm-sum により $\deg f$ は各点の局所写像度の和であり、lem-dpm-chart により各点の局所写像度は $\operatorname{sgn}\det Df_x$ である。最後の主張は、右辺が $\pm1$ の和であることによる。$\square$
$f$ は連続であればよく、微分可能性は $f^{-1}(y)$ の点でだけ使う。Hir76 Ch. 5 §1 は $C^\infty$ 級の固有写像の写像度を正則値での右辺で定め、それが正則値によらないことと、固有ホモトピーで変わらないことを演習としている(Exercise 10、p. 131)。thm-dpm-count により、$N$ が連結なら、その写像度はこの記事の写像度と一致する。
係数を $\mathbb{Z}/2$ に替えると、すべての多様体は $\mathbb{Z}/2$ 向き付け可能である(向き付け可能多様体 の定義「位相多様体の向き」の後の説明)。基本類 の補題「局所ホモロジーの基本補題」は任意の係数環で成り立ち、lem-dpm-ball の証明も係数によらないので、thm-dpm-constant・thm-dpm-homotopy・prop-dpm-sum の証明はそのまま通る。こうして、向き付けを仮定しない多様体の間の固有写像($N$ は連結)にも $\mathbb{Z}/2$ に値をとる写像度が定まる。逆像が有限で、各点の近くで $f$ が開集合の上への同相写像なら、それは逆像の点の個数を $2$ で割った余りである。
$\mathbb{R}^n$ とその開集合には標準の向きを入れる(恒等写像が正の向きの局所座標になる)。
$n\ge1$ とし、$U\subset\mathbb{R}^n$ を空でない開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}^n$ を固有な $C^1$ 級写像とする。あるコンパクト集合 $K\subset U$ の外の各点 $x$ で $\det Df(x)>0$ ならば、$f$ は全射である。とくに方程式 $f(x)=0$ は $U$ に解をもつ。
まず $f(U)$ は有界でない。有界なら、$f(U)$ を含む閉球 $\bar B$ について $U=f^{-1}(\bar B)$ はコンパクトなので $\mathbb{R}^n$ の閉集合であり、空でない開集合でもあるので、$\mathbb{R}^n$ の連結性から $U=\mathbb{R}^n$ となって、$\mathbb{R}^n$ がコンパクトでないことに反する。$f(K)$ はコンパクトなので有界であり、$y\in f(U)\setminus f(K)$ がとれる。$f^{-1}(y)$ は空でなく $U\setminus K$ に含まれるので、その各点で $\det Df>0$ であり、$y$ は正則値である。thm-dpm-count により $\deg f=\#f^{-1}(y)\ge1$ であり、cor-dpm-surjective により $f$ は全射である。$\square$
正則値は直接見つかるので、Sardの定理 は使っていない。この定理は Hir76 Ch. 5 §1 Exercise 11(p. 131)の主張である。
$\mathbb{K}=\mathbb{R}$ で $n\ge2$、または $\mathbb{K}=\mathbb{C}$ で $n\ge1$ とする。$f_1,\dots,f_n$ を $\mathbb{K}$ 係数の $n$ 変数多項式とし、$f_k=h_k+r_k$($h_k$ は次数 $d_k\ge1$ の同次多項式、$r_k$ は次数が $d_k$ 未満の多項式または $0$)と書く。$h:=(h_1,\dots,h_n)$ が次の 2 条件を満たすとする。
$\mathbb{C}^n=\mathbb{R}^{2n}$ とみなし、$\lvert\cdot\rvert$ を Euclid ノルムとする。
段 1(一様な下からの評価).$r:=(r_1,\dots,r_n)$、$F_t:=h+tr$($0\le t\le1$)とおく。$a:=\min_{\lvert\theta\rvert=1}\lvert h(\theta)\rvert$ は条件 1 により正であり、ある $R_0\ge1$ について
$$
\lvert F_t(x)\rvert\ge\frac{a}{2\sqrt n}\lvert x\rvert\qquad(\lvert x\rvert\ge R_0,\ 0\le t\le1)
$$
が成り立つ。
$r_k$ の各単項式の次数は $d_k-1$ 以下なので、定数 $C_k$ があって $\lvert x\rvert\ge1$ なら $\lvert r_k(x)\rvert\le C_k\lvert x\rvert^{d_k-1}$ である。$C:=(\sum_kC_k^2)^{1/2}$、$R_0:=\max\{1,2C/a\}$ とおく。$x=\rho\theta$($\rho=\lvert x\rvert\ge R_0$、$\lvert\theta\rvert=1$)と書くと、同次性 $h_k(\rho\theta)=\rho^{d_k}h_k(\theta)$ により $F_t$ の第 $k$ 成分は $\rho^{d_k}v_k$、$v_k:=h_k(\theta)+t\,r_k(x)/\rho^{d_k}$ であり、$\lvert(v_1,\dots,v_n)\rvert\ge\lvert h(\theta)\rvert-C/\rho\ge a/2$ である。よってある $k$ で $\lvert v_k\rvert\ge a/(2\sqrt n)$ となり、$\rho\ge1$、$d_k\ge1$ から $\lvert F_t(x)\rvert\ge\rho^{d_k}\lvert v_k\rvert\ge a\rho/(2\sqrt n)$ である。
$\mathbb{K}=\mathbb{C}$、$n=1$ の場合は、$0$ でない複素数 $a$ と $d\ge1$ で $h(z)=az^d$ となるので条件 1・2 は自動的に成り立ち、代数学の基本定理 になる。実数の場合の $n\ge2$ と条件 2 は外せない(反例の節の表の 6・7 行目)。この定理は Hir76 Ch. 5 §1 Exercise 12(p. 131)の主張である。
1:$\lvert x\rvert\to\infty$ で像の絶対値も $\infty$ に行くので、固有写像 の命題「無限遠へ行く点列による判定」により固有である。thm-dpm-count を、$x^3$ には正則値 $1$(逆像 $\{1\}$、微分 $3>0$)、$x^2$ には正則値 $-1$(逆像は空)、$-x$ には正則値 $0$(微分 $-1$)で使う。2:同相写像は固有であり、各点の逆像は 1 点 $x$ で、$h_*\colon H_n(M\,|\,x)\to H_n(N\,|\,h(x))$ は同型なので(局所ホモロジー の系「局所ホモロジーの同相不変性」)、$\deg h=\deg_xh=\pm1$ である。3:$\lvert z^k\rvert=\lvert z\rvert^k$ なので固有である。$1$ の逆像は $1$ の $k$ 乗根 $\zeta$ で、微分は $0$ でない複素数 $k\zeta^{k-1}$ の掛け算なので実の行列式は $\lvert k\zeta^{k-1}\rvert^2>0$ であり、写像度は $k$ である。$\square$
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $f$ が固有(thm-dpm-constant) | 包含 $(0,1)\hookrightarrow\mathbb{R}$ | $d_f(y)$ が $y$ によらないこと |
| $N$ が連結(def-dpm-main) | $\mathbb{R}\sqcup\mathbb{R}$ から $\mathbb{R}\sqcup\mathbb{R}$ の第 1 成分へ、各成分を恒等写像で写す写像 | 写像度が 1 つの整数で定まること |
| $M$ の向き付け可能性(thm-dpm-homotopy) | $\mathbb{RP}^2$ から $S^2$ への、円板の外を一点につぶす写像 $c$ | 局所的な生成元を固定して測った符号つきの個数が、ホモトピーで変わらないこと |
| ホモトピー $H$ 全体が固有(thm-dpm-homotopy) | $H_t(x)=x-tx^3$($x\in\mathbb{R}$)。各 $H_t$ は固有 | $\deg H_0=\deg H_1$($1$ と $-1$) |
| $K$ の外で $\det Df>0$(thm-dpm-jacobian) | $f(x)=x^2$($U=\mathbb{R}$) | 全射性 |
| $n\ge2$(thm-dpm-polynomial、$\mathbb{K}=\mathbb{R}$) | $n=1$、$f(x)=x^2$ | 全射性 |
| 条件 2(thm-dpm-polynomial、$\mathbb{K}=\mathbb{R}$) | $h(x,y)=(x^2+y^2,\ x^2+2y^2)$、$f=h$ | 全射性 |
1 行目:$[0,1]$ の逆像 $(0,1)$ はコンパクトでない。$y\in(0,1)$ では逆像 $\{y\}$ で $d_f(y)=1$、$y\notin(0,1)$ では逆像が空で $d_f(y)=0$ である。2 行目:写像は固有で向きを保つが、thm-dpm-count の数え上げで第 1 成分の点では $2$、第 2 成分の点では $0$ である。5 行目:$f$ は固有な $C^1$ 級写像だが、$x<0$ で $f'(x)<0$ であり、像は $[0,\infty)$ である。6 行目:$h=x^2$ は $0$ 以外で $0$ にならず、$x\ne0$ で $h'(x)=2x\ne0$ なので条件 1・2 を満たすが、$\mathbb{R}\setminus\{0\}$ は連結でなく、像は $[0,\infty)$ である。7 行目:$h=0$ なら $x^2+y^2=0$ なので条件 1 を満たすが、$\det Dh=2x\cdot4y-2y\cdot2x=4xy$ は座標軸の上で $0$ になり、像は第 1 成分が $0$ 以上の部分に含まれる。
4 行目:$H_0$ は恒等写像で写像度 $1$ である。$t>0$ なら $H_t$ は 3 次の多項式で、$\lvert x\rvert\to\infty$ で $\lvert H_t(x)\rvert\to\infty$ なので固有である。$H_1(x)=x-x^3$ は $x\ge-1/\sqrt3$ で $2/(3\sqrt3)< 1$ 以下の値しかとらず、$x< -1/\sqrt3$ では微分 $1-3x^2< 0$ で狭義単調減少して $+\infty$ から $-2/(3\sqrt3)$ まで動く。よって $y=10$ の逆像は 1 点で微分は負であり、$\deg H_1=-1$ である。$H$ が固有でないのは、$H(1/\sqrt t,t)=0$($0< t\le1$)により $H^{-1}(0)$ が有界でないからである。
3 行目:$q\colon S^2\to\mathbb{RP}^2$ を商写像とし、$e_1:=(1,0,0)$、$0<\delta<1/8$ について $\tilde D:=\{x\in S^2\mid x_1>0,\ x_2^2+x_3^2<\delta^2\}$ とおくと、$q$ は $\tilde D$ を開円板 $D$ の上へ同相に写す。$c$ は $\mathbb{RP}^2\setminus D$ を一点 $\ast$ につぶし、$\bar D/\partial\bar D\cong S^2$ と同一視した写像である(定義域はコンパクトなので $c$ も以下のホモトピーも固有)。$\beta\colon\mathbb{R}\to[0,1]$ を、$\lvert s\rvert\le1/8$ で $1$、$\lvert s\rvert\ge1/4$ で $0$ となる連続な偶関数とし、$R_t\colon S^2\to S^2$ を、各点 $x$ を $x_3$ 軸のまわりに角 $\pi t\beta(x_3)$ だけ回す写像とする。$R_t$ は同相写像で $R_t(-x)=-R_t(x)$ を満たすので、$\mathbb{RP}^2$ の同相写像 $\Phi_t$ を誘導し、$\Phi_0=\mathrm{id}$ である。$\tilde D$ の上では $R_1(x)=(-x_1,-x_2,x_3)=-\sigma(x)$($\sigma(x):=(x_1,x_2,-x_3)$)なので、$\Phi_1$ は $D$ を $D$ に写し、$q$ で $D$ と $\tilde D$ を同一視すると $\Phi_1|_D=\sigma|_{\tilde D}$ である。よって $c\circ\Phi_1=\rho\circ c$($\rho$ は $\sigma$ が $\bar D/\partial\bar D$ に誘導する同相写像)であり、$c\circ\Phi_t$ は $c$ から $\rho\circ c$ へのホモトピーである。$x_0:=q(e_1)$、$y:=c(x_0)$ とおくと $\rho(y)=y$ で、$c$ と $\rho\circ c$ の $y$ の逆像はどちらも $\{x_0\}$ である。$H_2(\mathbb{RP}^2\,|\,x_0)$ と $H_2(S^2\,|\,y)$ の生成元を一つずつ固定して測ると、$c$ は $x_0$ の近くで同相写像なので $\deg_{x_0}c=\varepsilon=\pm1$ である。$\rho$ は $y$ の近くで座標 $(x_2,x_3)$ の鏡映 $(x_2,x_3)\mapsto(x_2,-x_3)$ なので $\deg_y\rho=-1$(局所写像度 の定理「線形写像の局所写像度」)であり、$\deg_{x_0}(\rho\circ c)=-\varepsilon$ である。ホモトピックな 2 つの写像で値が $\varepsilon$ と $-\varepsilon$ になるので、$\mathbb{RP}^2$ に向きがない限り、符号つきの個数から整数の写像度は定まらない。rem-dpm-mod2 の $\mathbb{Z}/2$ に値をとる写像度はどちらも $1$ である。
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