円板代数とWiener代数(disc algebra and Wiener algebra)とは、可換 Banach 環の代表的な 2 つの例で、円板代数 $A(\overline{\mathbb{D}})$ は閉単位円板で連続かつ内部で正則な関数の環に一様ノルムを入れたもの、Wiener 代数 $W$ は単位円周上の関数で Fourier 級数が絶対収束するものの環に係数の絶対値の和をノルムとして入れたものである。指標はそれぞれ閉円板と単位円周の点での値に限られ、とくに $\mathbb{T}$ 上で $0$ にならない $f\in W$ の逆数も $W$ に入るという Wiener の定理が従う。円板代数では Gelfand 変換が全射でなく、Wiener 代数では等長でないので、どちらも $C^*$-環で成り立つ性質が崩れる例になる。
前提知識: Banach環とC*-環のスペクトル理論, Fourier級数, 最大値原理(複素解析)
円板代数と Wiener 代数は、可換 Banach 環の理論でいちばんよく使われる 2 つの具体例である。円板代数は、閉単位円板の上で連続で内部で正則な関数の環に一様ノルムを入れたもの、Wiener 代数は、単位円周の上の関数で Fourier 級数が絶対収束するものの環に係数の絶対値の和をノルムとして入れたものである。どちらも指標($\mathbb{C}$ への非零な代数準同型)が具体的に求まり、Gelfand 変換が関数そのもの、または Fourier 級数の和になる。
この 2 つの環は、$C^*$-環で成り立つ性質のどれが一般の可換 Banach 環で崩れるかを示す例としても重要である。円板代数では Gelfand 変換が全射でなく、Wiener 代数では Gelfand 変換が単射だが等長でない。他方、Wiener 代数の指標の決定からは、「単位円周の上で $0$ にならない、Fourier 級数が絶対収束する関数の逆数も、Fourier 級数が絶対収束する」という Wiener の定理が直ちに従う。
$\mathbb{D}:=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|<1\}$、$\overline{\mathbb{D}}$ をその閉包、$\mathbb{T}:=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|=1\}$ とする。コンパクト集合 $K$ 上の連続関数の環を $C(K)$ と書き、一様ノルム $\|f\|_\infty:=\max_K|f|$ を入れる。この記事の Banach 環はすべて単位元をもつ可換な複素 Banach 環で、単位元のノルムは $1$ とする。単位的可換 Banach 環 $\mathcal{B}$ の指標とは、$0$ でない代数準同型 $\varphi\colon\mathcal{B}\to\mathbb{C}$ のことで、指標全体を $\Delta(\mathcal{B})$ と書く。指標は $\varphi(1)=1$、$|\varphi(b)|\leq\|b\|$ を満たし、とくに連続である(Banach環とC*-環のスペクトル理論 の節「Gelfand変換」の定義の直後の段落)。
$$
A(\overline{\mathbb{D}}):=\{f\in C(\overline{\mathbb{D}})\mid f\ \text{は}\ \mathbb{D}\ \text{で正則}\}
$$
に各点ごとの和と積、一様ノルム $\|f\|_\infty$ を入れたものを円板代数(disc algebra)という。
$\mathbb{T}$ 上の関数 $f$ で、ある複素数列 $(c_n)_{n\in\mathbb{Z}}$ によって
$$
f(z)=\sum_{n\in\mathbb{Z}}c_nz^n\qquad(z\in\mathbb{T}),\qquad\sum_{n\in\mathbb{Z}}|c_n|<\infty
$$
と表されるもの全体を $W$ と書く。$c_n$ は $f$ の Fourier 係数 $\widehat f(n):=\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}f(e^{i\theta})e^{-in\theta}\,d\theta$ に等しい(下の prop-dw-wiener-banach)。$W$ に各点ごとの和と積、ノルム $\|f\|_W:=\sum_n|\widehat f(n)|$ を入れたものを Wiener 代数(Wiener algebra)という。
$z=e^{i\theta}$ と書けば、$W$ は Fourier 級数 $\sum_nc_ne^{in\theta}$ が絶対収束する $2\pi$ 周期の関数の全体である(Fourier級数)。
$A(\overline{\mathbb{D}})$ は $C(\overline{\mathbb{D}})$ の閉部分環であり、単位的可換 Banach 環である。さらに $f\in A(\overline{\mathbb{D}})$ について $\|f\|_\infty=\max_{\mathbb{T}}|f|$ であり、$\mathbb{T}$ への制限 $A(\overline{\mathbb{D}})\to C(\mathbb{T})$ は単射で等長な単位的代数準同型である。
正則関数の和と積は正則なので、$A(\overline{\mathbb{D}})$ は定数を含む部分環である。閉であることを示す。$f_n\in A(\overline{\mathbb{D}})$ が $f$ に一様収束するとする。$f$ は連続である。$z_0\in\mathbb{D}$ と、閉円板 $\{|\zeta-z_0|\leq r\}\subset\mathbb{D}$ をとる。Cauchyの積分公式 により $|z-z_0|< r$ で
$$
f_n(z)=\frac1{2\pi i}\oint_{|\zeta-z_0|=r}\frac{f_n(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta
$$
であり、円周上の一様収束で極限をとると $f$ も同じ積分表示をもつ。右辺は $z$ について積分記号下で微分でき、$f$ は $z_0$ の近くで正則である。よって $f\in A(\overline{\mathbb{D}})$ であり、$C(\overline{\mathbb{D}})$ の閉部分環として完備である。
$f\in A(\overline{\mathbb{D}})$ に 最大値原理(複素解析) の系「有界な開集合での最大値原理」を $G=\mathbb{D}$ で当てると $\max_{\overline{\mathbb{D}}}|f|=\max_{\mathbb{T}}|f|$ である。したがって制限は等長で、とくに単射である。$\square$
1:$|c_nz^n|=|c_n|$ で $\sum|c_n|<\infty$ なので、Weierstrass の M 判定法により級数は $\mathbb{T}$ 上で一様収束し、和は連続である。$e^{-im\theta}$ を掛けて項別に積分すると、$\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}e^{i(n-m)\theta}d\theta$ は $n=m$ のときだけ $1$ で他は $0$ なので $\widehat f(m)=c_m$ である。
2:$a_k:=\widehat f(k)$、$b_l:=\widehat g(l)$ とおく。$\sum_{k,l}|a_kb_l|=\|f\|_W\|g\|_W<\infty$ なので、二重級数 $\sum_{k,l}a_kb_lz^{k+l}$ は絶対収束し、和の順序を自由に入れ替えられる。$k+l=n$ ごとにまとめると
$$
f(z)g(z)=\sum_{n}\Bigl(\sum_ka_kb_{n-k}\Bigr)z^n,\qquad\sum_n\Bigl|\sum_ka_kb_{n-k}\Bigr|\leq\sum_{k,l}|a_k||b_l|=\|f\|_W\|g\|_W
$$
である。1 により $fg$ の係数は $\sum_ka_kb_{n-k}$ である。
3:1 により $f\mapsto(\widehat f(n))_n$ は $W$ から $\ell^1(\mathbb{Z})$ への線形な全単射で(任意の $(c_n)\in\ell^1(\mathbb{Z})$ は $\sum c_nz^n$ の係数になる)、定義からノルムを保つ。2 によりこれは積を畳み込みに写す。$\ell^1(\mathbb{Z})$ は完備なので $W$ も完備であり、定数関数 $1$ の係数は $n=0$ だけが $1$ で、$\|1\|_W=1$ である。最後に $|f(z)|\leq\sum|c_n|=\|f\|_W$ である。$\square$
単位的可換 Banach 環の可逆性は指標で判定できる。次の補題は Banach環とC*-環のスペクトル理論 の定理「可換Banach環のGelfand理論」の要点で、ここでは Gelfand–Mazur の定理(同じ記事の系)から直接示す。
$\mathcal{B}$ を単位的可換複素 Banach 環とし、$b\in\mathcal{B}$ とする。$b$ が可逆であることと、すべての指標 $\varphi$ で $\varphi(b)\neq0$ であることは同値である。したがって $\sigma(b)=\{\varphi(b)\mid\varphi\in\Delta(\mathcal{B})\}$ である。
$b$ が可逆なら $1=\varphi(b)\varphi(b^{-1})$ なので $\varphi(b)\neq0$ である。
$b$ が可逆でないとする。$b\mathcal{B}$ は $1$ を含まないイデアルである。$1$ を含まないイデアルの全体は包含で帰納的に順序づけられる(鎖の和集合も $1$ を含まない)ので、Zornの補題 により $b\mathcal{B}$ を含む極大イデアル $M$ がある。可逆元の全体 $\mathcal{B}^\times$ は開集合(Banach環とC*-環のスペクトル理論 の系「可逆元全体は開で、逆元をとる写像は連続である」)で、$M$ と交わらないので、閉包 $\overline M$ も $1$ を含まないイデアルである。極大性から $\overline M=M$、すなわち $M$ は閉である。
商空間 $\mathcal{B}/M$ に商ノルム $\|b+M\|:=\inf_{m\in M}\|b+m\|$ を入れると、閉部分空間による Banach 空間の商なので完備で、$\|xy+M\|\leq\|x+M\|\|y+M\|$ を満たす($\|(x+m)(y+m')\|\leq\|x+m\|\|y+m'\|$ と $(x+m)(y+m')\in xy+M$ による)。$1+M\neq0$ で $\|1+M\|\leq\|1\|=1$、$\|1+M\|=\|(1+M)^2\|\leq\|1+M\|^2$ から $\|1+M\|=1$ である。$M$ は可換環の極大イデアルなので $\mathcal{B}/M$ は体であり、$0$ 以外のすべての元が可逆である。Gelfand–Mazur の定理(Banach環とC*-環のスペクトル理論 の系「Gelfand–Mazur の定理」)により $\mathcal{B}/M=\mathbb{C}(1+M)$ である。商写像 $\mathcal{B}\to\mathcal{B}/M\cong\mathbb{C}$ は指標 $\varphi$ で、$b\in M$ なので $\varphi(b)=0$ である。
最後の主張は、$b$ を $\lambda1-b$ に替えて $\varphi(\lambda1-b)=\lambda-\varphi(b)$ を使えばよい。$\square$
$z_0\in\overline{\mathbb{D}}$ に対し $\varphi_{z_0}(f):=f(z_0)$ とおくと、$z_0\mapsto\varphi_{z_0}$ は $\overline{\mathbb{D}}$ から $\Delta(A(\overline{\mathbb{D}}))$ への全単射である。したがって $f\in A(\overline{\mathbb{D}})$ について $\sigma(f)=f(\overline{\mathbb{D}})$ であり、$f$ が $A(\overline{\mathbb{D}})$ で可逆であることと $f$ が $\overline{\mathbb{D}}$ で $0$ にならないことは同値である。
$\varphi_{z_0}$ は指標であり、$\varphi_{z_0}(z)=z_0$ なので $z_0\mapsto\varphi_{z_0}$ は単射である。全射を示す。指標 $\varphi$ について $z_0:=\varphi(z)$ とおくと $|z_0|\leq\|z\|_\infty=1$ である。$\varphi$ は準同型なので、多項式 $p$ について $\varphi(p)=p(z_0)$ である。
多項式は $A(\overline{\mathbb{D}})$ で稠密である。実際 $f\in A(\overline{\mathbb{D}})$ と $0< r<1$ について $f_r(z):=f(rz)$ とおくと、$f$ の $\overline{\mathbb{D}}$ 上の一様連続性から $\|f_r-f\|_\infty\to0$($r\uparrow1$)である。また $f$ は $\mathbb{D}$ で正則なので、$0$ を中心とする Taylor 級数 $\sum a_nw^n$ が $\mathbb{D}$ で $f$ に収束する(正則関数 の定理「正則関数の冪級数展開」)。収束半径は $1$ 以上なので、この級数は閉円板 $|w|\leq r$ で一様に収束し、$w=rz$ とおけば $f_r(z)=\sum a_nr^nz^n$ は $|z|\leq1$ で一様に収束する。よって $f_r$ は多項式で一様に近似でき、$f$ もそうである。
$\varphi$ と $\varphi_{z_0}$ はどちらも連続で、稠密な多項式の上で一致するので、$\varphi=\varphi_{z_0}$ である。スペクトルの主張は lem-dw-character-kills から従い、$f$ の可逆性は $0\notin\sigma(f)$ と同じである。$\square$
$f\in A(\overline{\mathbb{D}})$ が $\overline{\mathbb{D}}$ で $0$ にならなければ $1/f$ も $\mathbb{D}$ で正則で $\overline{\mathbb{D}}$ で連続なので、可逆性の主張だけならじかにも分かる。thm-dw-disc-characters の内容は、指標がすべて点での値であることにある。$\Delta(A(\overline{\mathbb{D}}))$ に弱*位相を入れると、$z_0\mapsto\varphi_{z_0}$ はコンパクト空間 $\overline{\mathbb{D}}$ から Hausdorff 空間への連続な全単射なので同相であり、この同一視のもとで Gelfand 変換 $\widehat f$ は $f$ そのものである。
$z_0\in\mathbb{T}$ に対し $\psi_{z_0}(f):=f(z_0)$ とおくと、$z_0\mapsto\psi_{z_0}$ は $\mathbb{T}$ から $\Delta(W)$ への全単射である。したがって $f\in W$ について $\sigma_W(f)=f(\mathbb{T})$ である。
$\psi_{z_0}$ は指標で、$\psi_{z_0}(z)=z_0$ だから単射である。指標 $\psi$ について $z_0:=\psi(z)$ とおく。$e_n(z):=z^n$ は $\|e_n\|_W=1$ を満たし、$e_ne_{-n}=1$ なので、すべての $n\in\mathbb{Z}$ で $|z_0^n|=|\psi(e_n)|\leq1$ である。$n=1$ と $n=-1$ から $|z_0|\leq1$ と $|z_0|^{-1}\leq1$、すなわち $|z_0|=1$ である。$f=\sum c_ne_n\in W$ の部分和は $\|\cdot\|_W$ で $f$ に収束し、$\psi$ は連続なので
$$
\psi(f)=\sum_nc_n\psi(e_n)=\sum_nc_nz_0^n=f(z_0)
$$
である。スペクトルの主張は lem-dw-character-kills による。$\square$
$f\in W$ が $\mathbb{T}$ の上で $0$ にならなければ、$1/f\in W$ である。すなわち、Fourier 級数が絶対収束し、$0$ にならない周期関数の逆数も、Fourier 級数が絶対収束する。
仮定と thm-dw-wiener-characters により $0\notin f(\mathbb{T})=\sigma_W(f)$ なので、$f$ は $W$ で可逆である。逆元 $g\in W$ は $fg=1$ を各点で満たすので $g=1/f$ である。$\square$
Fourier 係数を直接評価してこの結論を出すのは容易でない。$1/f$ の係数は $f$ の係数から無限個の方程式 $\sum_k\widehat f(k)\widehat g(n-k)=\delta_{n0}$ を解いて決まるからである。Gelfand の理論は、この問題を「$W$ の指標をすべて求める」問題に置き換え、それは $e_1$ と $e_{-1}$ の値だけで片づく。$F$ を $f(\mathbb{T})$ の近傍で正則な関数とするとき $F\circ f\in W$ となるという一般化は Wiener と Lévy の定理と呼ばれる(Hor90 第 3 章の注、p. 75)。
prop-dw-disc-banach の制限写像により $A(\overline{\mathbb{D}})$ を $C(\mathbb{T})$ の閉部分環とみなす。座標関数 $z$ のスペクトルは、$A(\overline{\mathbb{D}})$ では thm-dw-disc-characters により $\overline{\mathbb{D}}$、$C(\mathbb{T})$ では $\lambda-z$ が $\mathbb{T}$ 上で $0$ にならないことと同値なので $\mathbb{T}$ である(Sun00 Example 3.1.12、p. 92)。たとえば $0\in\sigma_{A(\overline{\mathbb{D}})}(z)$ だが、$C(\mathbb{T})$ では $z$ の逆元 $\overline z$ がある。$C^*$-環の対合で閉じた閉部分環ではスペクトルは変わらない(Banach環とC*-環のスペクトル理論 の補題「$C^*$-部分環でのスペクトルの一致」)。$A(\overline{\mathbb{D}})$ は $C(\mathbb{T})$ の複素共役で閉じていない($\overline z\notin A(\overline{\mathbb{D}})$)ので、その補題の仮定を満たさない。
$A(\overline{\mathbb{D}})$ の上には、一様ノルムについて $C^*$-恒等式を満たす対合は存在しない。
そのような対合があったとする。$A(\overline{\mathbb{D}})$ は単位的可換 $C^*$-環になるので、Gelfand 変換は $C(\Delta(A(\overline{\mathbb{D}})))$ への全射である(Banach環とC*-環のスペクトル理論 の定理「可換Gelfand--Naimark定理」)。thm-dw-disc-characters の同一視のもとで Gelfand 変換は包含 $A(\overline{\mathbb{D}})\to C(\overline{\mathbb{D}})$ なので、$\overline z\in A(\overline{\mathbb{D}})$ となる。しかし $\overline z$ は $0$ で複素微分できない($h\to0$ で $\overline h/h$ は極限をもたない)ので正則でなく、矛盾である。$\square$
Wiener 代数の Gelfand 変換 $W\to C(\mathbb{T})$ は、thm-dw-wiener-characters の同一視のもとで $f$ を $\mathbb{T}$ 上の関数 $f$ そのものに送る写像で、単射である。しかし等長でも全射でもない。
多項式の列を $P_0=Q_0=1$、
$$
P_{k+1}(z):=P_k(z)+z^{2^k}Q_k(z),\qquad Q_{k+1}(z):=P_k(z)-z^{2^k}Q_k(z)
$$
で定める(Rudin–Shapiro 多項式)。帰納法により $P_k$、$Q_k$ は次数 $2^k-1$ 以下で、$z^0,\dots,z^{2^k-1}$ の係数はすべて $\pm1$ である($P_k$ と $z^{2^k}Q_k$ の係数の位置が重ならない)。よって $\|P_k\|_W=2^k$ である。$|z|=1$ では中線定理 $|a+b|^2+|a-b|^2=2|a|^2+2|b|^2$ と $|z^{2^k}|=1$ から
$$
|P_{k+1}(z)|^2+|Q_{k+1}(z)|^2=2\bigl(|P_k(z)|^2+|Q_k(z)|^2\bigr)
$$
である。$|P_0|^2+|Q_0|^2=2$ なので、帰納的に $\mathbb{T}$ 上で $|P_k|^2+|Q_k|^2=2^{k+1}$、とくに $\|P_k\|_\infty\leq2^{(k+1)/2}$ である。
1:$k=2$ では $P_2=1+z+z^2-z^3$、$\|P_2\|_\infty\leq2\sqrt2<4=\|P_2\|_W$ である。
2:$W=C(\mathbb{T})$ と仮定する。恒等写像 $(W,\|\cdot\|_W)\to(C(\mathbb{T}),\|\cdot\|_\infty)$ は $\|f\|_\infty\leq\|f\|_W$ により有界な線形全単射で、両辺は Banach 空間なので、有界逆写像定理 により逆写像も有界である。ある定数 $C$ ですべての $f$ について $\|f\|_W\leq C\|f\|_\infty$ となるが、$f=P_k$ では $2^k\leq C\,2^{(k+1)/2}$、すなわち $2^{(k-1)/2}\leq C$ がすべての $k$ で成り立つことになり、矛盾である。$\square$
2 から、$\mathbb{T}$ 上の連続関数で Fourier 級数が絶対収束しないものが存在する。$W$ は複素共役 $f\mapsto\overline f$(係数では $\widehat{\overline f}(n)=\overline{\widehat f(-n)}$)で閉じた Banach $*$-環だが、1 の $P_2$ について $\overline{P_2}P_2=|P_2|^2=4+(z+z^{-1})-(z^3+z^{-3})$ なので $\|\overline{P_2}P_2\|_W=8\neq16=\|P_2\|_W^2$ となり、$C^*$-恒等式を満たさない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\mathbb{T}$ 上で $0$ にならないこと(thm-dw-wiener) | $f(z)=1-z$ | $1/f\in W$ |
| 対合で閉じた部分環(スペクトルの一致) | $A(\overline{\mathbb{D}})\subset C(\mathbb{T})$ と $f=z$ | 部分環と全体でスペクトルが一致すること |
| $C^*$-恒等式(Gelfand 変換の全射性) | $A(\overline{\mathbb{D}})$ | Gelfand 変換が $C(\Delta)$ の上への写像であること |
| $C^*$-恒等式(Gelfand 変換の等長性) | $W$ と $P_2=1+z+z^2-z^3$ | $\|\widehat f\|_\infty=\|f\|$ |
1 行目:$1-z\in W$ は $z=1$ で $0$ になるので、$W$ のどの元 $g$ についても $(1-z)g$ は $z=1$ で $0$ で、$1$ に等しくなれない。$\sigma_W(1-z)=\{1-z_0\mid z_0\in\mathbb{T}\}\ni0$ である。2 行目は ex-dw-spectrum-change、3 行目は prop-dw-disc-not-cstar、4 行目は prop-dw-wiener-not-isometric の 1 による。3 行目と 4 行目の環は、どちらも単位的可換 Banach 環としての公理はすべて満たしている。
円板代数の定義と、$A(\overline{\mathbb{D}})\subset C(\mathbb{T})$ でのスペクトルの違いは Sun00 Example 3.1.12(p. 92)にある(スペクトルの決定は同書では演習として残されている)。$\ell^1(\mathbb{Z})$ の指標が単位円周の点と対応することは同書 Example 3.2.14 (2)(pp. 101–102)にあり、同じ箇所で、一般の局所コンパクト可換群 $G$ の $L^1(G)$ では Gelfand 変換が Fourier 変換になることが述べられている。lem-dw-character-kills は Hor90 の補題 3.1.11 と定理 3.1.12(p. 65)と同じ内容である。
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