加群の局所化

同義語:localization of a modulemodule of fractions

概要

加群の局所化(localization of a module)とは、可換環 $A$ の積閉集合 $S$ と $A$ 加群 $M$ に対し、$M$ の元を $S$ の元で割った分数 $m/s$ の全体として作る $S^{-1}A$ 加群 $S^{-1}M$ のことであり、$m/s=n/t$ はある $u\in S$ で $u(tm-sn)=0$ となることと定める。局所化は完全列を完全列に送り、$S^{-1}M\cong S^{-1}A\otimes_AM$ が成り立つので $S^{-1}A$ は平坦 $A$ 加群である。加群が零であること、線形写像が単射・全射であること、加群が平坦であることは、すべての極大イデアルでの局所化で判定できる。一方、Hom との交換には有限表示の仮定が要り、有限生成性や自由性は局所化では判定できない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 局所化, 加群, テンソル積, 完全列

局所化 は可換環 $A$ の積閉集合 $S$ の元を分母に許して環 $S^{-1}A$ を作る操作である。同じことを $A$ 加群 $M$ に対して行うと、「$M$ の元を $S$ の元で割った分数」からなる $S^{-1}A$ 加群 $S^{-1}M$ が得られる。これが加群の局所化である。素イデアル $\mathfrak p$ の外の元で割った $M_{\mathfrak p}$ は、$M$ を点 $\mathfrak p$ の近くだけで見たものにあたる。
加群の局所化が便利なのは、次の三つの性質による。

  1. 完全である:完全列を完全列に送る(prop-modloc-exact)。
  2. テンソル積で書ける:$S^{-1}M\cong S^{-1}A\otimes_AM$(prop-modloc-tensor)。とくに $S^{-1}A$ は平坦である。
  3. 局所的に判定できる:$M=0$ であること、線形写像が単射・全射であること、$M$ が平坦であることは、すべての極大イデアルで局所化して調べればよい(prop-modloc-zero・cor-modloc-maps・prop-modloc-flat)。
    これらにより、加群についての多くの問題は局所環上の問題に帰着される(AM69 Chapter 3、Mat89 §4)。

定義

この記事では、環は単位元 $1$ をもつ可換環とし、$A$ を環とする。部分集合 $S\subset A$ が積閉集合であるとは、$1\in S$ で、$s,t\in S$ なら $st\in S$ となることをいう($0\in S$ でもよい。積閉集合)。

加群の局所化

$S\subset A$ を積閉集合、$M$ を $A$ 加群とする。$M\times S$ 上の関係
$$(m,s)\sim(n,t)\iff\text{ある }u\in S\text{ について }u(tm-sn)=0$$
は同値関係である。$(m,s)$ の同値類を $m/s$ と書き、同値類の集合を $S^{-1}M$ と書く。$S^{-1}M$ は
$$\frac ms+\frac nt=\frac{tm+sn}{st},\qquad\frac as\cdot\frac mt=\frac{am}{st}\quad(a\in A)$$
により $S^{-1}A$ 加群になる。これを $M$ の $S$ による局所化という。$A$ 線形写像 $\varphi\colon M\to N$ に対し、$S^{-1}\varphi\colon S^{-1}M\to S^{-1}N$ を $m/s\mapsto\varphi(m)/s$ で定める。$m\mapsto m/1$ を標準写像という。

要点:推移律では、二つの関係式にそれぞれ相手の分母と補助の元を掛けて足す。演算と $S^{-1}\varphi$ が代表のとり方によらないことは、分母を払う計算で確かめられる。

詳しい確かめを開く

反射律は $u=1$、対称律は符号を変えればよい。推移律:$u(tm-sn)=0$、$v(rn-tp)=0$($u,v\in S$)とする。前者に $vr$、後者に $us$ を掛けて足すと $uvr\,tm-uvs\,tp=0$、すなわち $(uvt)(rm-sp)=0$ であり、$uvt\in S$ だから $(m,s)\sim(p,r)$ である。

加法が代表によらないこと:$(m,s)\sim(m',s')$($u(s'm-sm')=0$)なら、$u\bigl(s't(tm+sn)-st(tm'+s'n)\bigr)=ut^2(s'm-sm')=0$ だから $(tm+sn)/(st)=(tm'+s'n)/(s't)$ である。スカラー倍も同様に、$(a,s)\sim(a',s')$ と $(m,t)\sim(m',t')$ のそれぞれについて分母を掛けて確かめられる。$S^{-1}\varphi$ については、$u(tm-sn)=0$ に $\varphi$ を施すと $u(t\varphi(m)-s\varphi(n))=0$ となる。$S^{-1}A$ 加群の公理は分母を共通にすれば $M$ の公理に帰着する。

$f\in A$ の冪の全体 $\{1,f,f^2,\ldots\}$ による局所化を $M_f$、素イデアル $\mathfrak p$ の補集合 $A\setminus\mathfrak p$ による局所化を $M_{\mathfrak p}$ と書く。$M=A$ のときは、環の局所化 $S^{-1}A$ と一致する。定義から $S^{-1}(\psi\circ\varphi)=S^{-1}\psi\circ S^{-1}\varphi$、$S^{-1}(\mathrm{id}_M)=\mathrm{id}$ であり、$S^{-1}$ は $A$ 加群の圏から $S^{-1}A$ 加群の圏への関手である。

分数が零になる条件
  1. $m/s=0$ であることと、ある $u\in S$ について $um=0$ であることは同値である。とくに標準写像 $M\to S^{-1}M$ の核は $\{m\in M:\text{ある }u\in S\text{ で }um=0\}$ である。
  2. $M$ が有限生成なら、$S^{-1}M=0$ であることと、$S\cap\operatorname{Ann}_AM\neq\emptyset$(ある $s\in S$ で $sM=0$)であることは同値である。

1:$m/s=0/1$ は、ある $u\in S$ で $u(1\cdot m-s\cdot0)=um=0$ となることである。
2:$sM=0$ なら 1 によりすべての $m/t$ が零である。逆に $M$ が $m_1,\ldots,m_r$ で生成され $S^{-1}M=0$ なら、1 により $u_im_i=0$ となる $u_i\in S$ がある。$s=u_1\cdots u_r\in S$ はすべての $m_i$、したがって $M$ を零にする。$\square$

2 は有限生成でないと成り立たない。$A=\mathbb Z$、$S=\{1,p,p^2,\ldots\}$、$M=\bigoplus_{n\ge1}\mathbb Z/p^n$ では、各元は $p$ の冪で消えるので $S^{-1}M=0$ だが、$M$ 全体を消す $p^n$ はない。

分母が可逆に働く加群

$M$ の上で各 $s\in S$ の掛け算が全単射なら、標準写像 $M\to S^{-1}M$ は同型である。とくに $S^{-1}A$ 加群 $N$ を $A$ 加群と見ると $S^{-1}N\cong N$ である。

$m/1=0$ なら prop-modloc-kernel の 1 により $um=0$($u\in S$)で、$u$ の掛け算は単射だから $m=0$ である。$m/s$ に対し $m=sm'$ となる $m'$ をとると $m/s=m'/1$ なので全射である。$\square$

完全性

局所化の完全性

$A$ 加群の列 $M'\xrightarrow{\varphi}M\xrightarrow{\psi}M''$ が $M$ で完全なら、$S^{-1}M'\xrightarrow{S^{-1}\varphi}S^{-1}M\xrightarrow{S^{-1}\psi}S^{-1}M''$ も $S^{-1}M$ で完全である。したがって $S^{-1}$ は完全関手であり、短完全列・単射・全射を保つ。

$S^{-1}\psi\circ S^{-1}\varphi=S^{-1}(\psi\circ\varphi)=0$ である。逆に $S^{-1}\psi(m/s)=\psi(m)/s=0$ とすると、prop-modloc-kernel によりある $u\in S$ で $\psi(um)=u\psi(m)=0$ となる。仮定から $um=\varphi(m')$ となる $m'\in M'$ があり、
$$\frac ms=\frac{um}{us}=S^{-1}\varphi\Bigl(\frac{m'}{us}\Bigr)$$
となる。短完全列・単射・全射については、$0\to M'\to M$、$M\to M''\to0$ の完全性として読めばよい。$\square$

部分加群・商加群との両立

$N,N_1,N_2\subset M$ を部分加群とする。

  1. $S^{-1}N\to S^{-1}M$ は単射で、像は $\{n/s:n\in N,\ s\in S\}$ である。以下この像を $S^{-1}N$ と同一視する。
  2. $S^{-1}(M/N)\cong S^{-1}M/S^{-1}N$ である。とくにイデアル $I$ について $S^{-1}(A/I)\cong S^{-1}A/S^{-1}I$ である。
  3. $S^{-1}(N_1+N_2)=S^{-1}N_1+S^{-1}N_2$、$S^{-1}(N_1\cap N_2)=S^{-1}N_1\cap S^{-1}N_2$ である。

1 と 2 は短完全列 $0\to N\to M\to M/N\to0$ に prop-modloc-exact を当てればよい。3 の和は $(n_1+n_2)/s=n_1/s+n_2/s$ と通分による。交叉では $\supset$ が明らかである。$m/s$ が両方に入るとし、$m/s=n_i/t_i$($n_i\in N_i$)とすると、ある $v_i\in S$ で $v_it_im=v_isn_i\in N_i$ となる。$w=v_1t_1v_2t_2\in S$ とおけば $wm\in N_1\cap N_2$ であり、$m/s=wm/(ws)\in S^{-1}(N_1\cap N_2)$ である。$\square$

3 の交叉は有限個の場合に限る。$A=\mathbb Z$、$S=\mathbb Z\setminus\{0\}$ とすると、$S^{-1}(n\mathbb Z)=\mathbb Q$ がすべての $n\ge1$ で成り立つが、$\bigcap_{n\ge1}n\mathbb Z=0$ である。

テンソル積による表示

局所化とテンソル積

$A$ 加群 $M$ に対し、
$$\Phi_M\colon S^{-1}A\otimes_AM\longrightarrow S^{-1}M,\qquad\frac as\otimes m\longmapsto\frac{am}{s}$$
は $S^{-1}A$ 加群の同型であり、$M$ について自然である。

$(a/s,m)\mapsto am/s$ は代表によらない:$u(s'a-sa')=0$ なら $u(s'\cdot am-s\cdot a'm)=0$ である。これは各変数について $A$ 線形なので、テンソル積 の普遍性から $A$ 線形写像 $\Phi_M$ が定まり、左因子への掛け算と両立するので $S^{-1}A$ 線形である。$m/s=\Phi_M(1/s\otimes m)$ だから全射である。
単射性を示す。テンソル積の元 $\xi=\sum_{i=1}^r(a_i/s_i)\otimes m_i$ は、$s=s_1\cdots s_r$、$t_i=\prod_{j\neq i}s_j$ とおくと $a_i/s_i=(1/s)(a_it_i/1)$ だから
$$\xi=\sum_i\frac1s\otimes a_it_im_i=\frac1s\otimes m,\qquad m=\sum_ia_it_im_i$$
と 1 つの純テンソルに書ける。$\Phi_M(\xi)=m/s=0$ なら prop-modloc-kernel によりある $u\in S$ で $um=0$ であり、
$$\xi=\frac{u}{us}\otimes m=\frac1{us}\otimes um=0$$
となる。自然性は、$A$ 線形写像 $\varphi\colon M\to N$ について $\Phi_N\circ(\mathrm{id}\otimes\varphi)$ と $S^{-1}\varphi\circ\Phi_M$ が純テンソル上で一致することから従う。$\square$

局所化の平坦性

$S^{-1}A$ は平坦 $A$ 加群である。とくに $A_{\mathfrak p}$ と $A_f$ は平坦 $A$ 加群である。

単射 $M'\to M$ に対し、$S^{-1}A\otimes_AM'\to S^{-1}A\otimes_AM$ は自然な同型 $\Phi$ により $S^{-1}M'\to S^{-1}M$ と同一視され、後者は prop-modloc-exact により単射である。$\square$

テンソル積の局所化

$A$ 加群 $M,N$ について、$S^{-1}A$ 加群の同型
$$S^{-1}M\otimes_{S^{-1}A}S^{-1}N\cong S^{-1}(M\otimes_AN),\qquad\frac ms\otimes\frac nt\longmapsto\frac{m\otimes n}{st}$$
がある。また $S^{-1}A$ 加群 $U$ について $S^{-1}M\otimes_{S^{-1}A}U\cong M\otimes_AU$ である。

prop-modloc-tensor とテンソル積の結合法則から
$$S^{-1}M\otimes_{S^{-1}A}U\cong(M\otimes_AS^{-1}A)\otimes_{S^{-1}A}U\cong M\otimes_AU$$
である。$U=S^{-1}N\cong S^{-1}A\otimes_AN$ とすると、右辺は $M\otimes_AS^{-1}A\otimes_AN\cong S^{-1}(M\otimes_AN)$ となる。各同型をたどると、元の対応は主張の式になる。$\square$

テンソル積は任意の直和と交換するので、prop-modloc-tensor により局所化も任意の直和と交換する:$S^{-1}\bigl(\bigoplus_iM_i\bigr)\cong\bigoplus_iS^{-1}M_i$。有限個の直積は直和なので局所化と交換するが、無限個の直積とは一般には交換しない(下の反例の表)。$\operatorname{Hom}$ との交換も一般には成り立たない。$M$ が有限表示加群なら $S^{-1}\operatorname{Hom}_A(M,N)\cong\operatorname{Hom}_{S^{-1}A}(S^{-1}M,S^{-1}N)$ が成り立つ(有限表示加群 の命題「局所化と Hom の交換」)が、有限表示の仮定は外せない(下の反例の表)。

局所的性質

加群についての性質で、すべての素イデアル $\mathfrak p$(同じことだが、すべての極大イデアル)での局所化で判定できるものを局所的性質という。基本になるのは零加群の判定である。極大イデアルの存在には Zorn の補題を使う:零環でない環の真のイデアルはある極大イデアルに含まれる(極大イデアル の定理「真イデアルを含む極大イデアルの存在」)。

零加群であることの局所判定

$A$ 加群 $M$ について次は同値である。

  1. $M=0$。
  2. すべての素イデアル $\mathfrak p$ で $M_{\mathfrak p}=0$。
  3. すべての極大イデアル $\mathfrak m$ で $M_{\mathfrak m}=0$。

1 ⇒ 2 ⇒ 3 は明らかである。3 を仮定し、$x\in M$ を零でないとする。零化イデアル $\operatorname{Ann}(x)=\{a\in A:ax=0\}$ は $1\notin\operatorname{Ann}(x)$ なので真のイデアルであり、ある極大イデアル $\mathfrak m$ に含まれる。$M_{\mathfrak m}=0$ より $x/1=0$ だから、prop-modloc-kernel によりある $u\in A\setminus\mathfrak m$ で $ux=0$ となる。すると $u\in\operatorname{Ann}(x)\subset\mathfrak m$ となって矛盾する。よって $M=0$ である。$\square$

線形写像の局所判定

$A$ 線形写像 $\varphi\colon M\to N$ が単射(全射、同型)であることと、すべての極大イデアル $\mathfrak m$ で $\varphi_{\mathfrak m}\colon M_{\mathfrak m}\to N_{\mathfrak m}$ が単射(全射、同型)であることは同値である。

prop-modloc-exact により $(\ker\varphi)_{\mathfrak m}=\ker(\varphi_{\mathfrak m})$、$(\operatorname{Coker}\varphi)_{\mathfrak m}=\operatorname{Coker}(\varphi_{\mathfrak m})$ である。これらに prop-modloc-zero を当てればよい。$\square$

平坦性の極大点判定

$A$ 加群 $M$(有限生成とは限らない)が平坦であることと、すべての極大イデアル $\mathfrak m$ で $M_{\mathfrak m}$ が平坦 $A_{\mathfrak m}$ 加群であることは同値である。

$M$ が平坦で、$U\to V$ が $A_{\mathfrak m}$ 加群の単射とする。prop-modloc-tensor-tensor により $M_{\mathfrak m}\otimes_{A_{\mathfrak m}}U\cong M\otimes_AU$ であり、$M\otimes_AU\to M\otimes_AV$ は $U\to V$ を $A$ 加群の単射と見て単射である。よって $M_{\mathfrak m}$ は平坦である。
逆に、すべての $M_{\mathfrak m}$ が平坦とし、$U\to V$ を $A$ 加群の単射、$K=\ker(M\otimes_AU\to M\otimes_AV)$ とする。局所化は完全なので $K_{\mathfrak m}$ は $(M\otimes_AU)_{\mathfrak m}\to(M\otimes_AV)_{\mathfrak m}$ の核であり、prop-modloc-tensor-tensor によりこれは $M_{\mathfrak m}\otimes U_{\mathfrak m}\to M_{\mathfrak m}\otimes V_{\mathfrak m}$ の核である。$U_{\mathfrak m}\to V_{\mathfrak m}$ は単射で $M_{\mathfrak m}$ は平坦だから $K_{\mathfrak m}=0$ であり、prop-modloc-zero により $K=0$ である。$\square$

加群 $M$ の台を $\operatorname{Supp}M=\{\mathfrak p:M_{\mathfrak p}\neq0\}$ と書く(加群の台)。prop-modloc-zero は「$M=0$ と $\operatorname{Supp}M=\emptyset$ は同値」と言い換えられる。

有限生成加群の台

$M$ が有限生成なら、$\operatorname{Supp}M=\{\mathfrak p:\operatorname{Ann}_AM\subset\mathfrak p\}$ である。

prop-modloc-kernel の 2 を $S=A\setminus\mathfrak p$ に当てると、$M_{\mathfrak p}=0$ であることと $(A\setminus\mathfrak p)\cap\operatorname{Ann}_AM\neq\emptyset$、すなわち $\operatorname{Ann}_AM\not\subset\mathfrak p$ であることは同値である。$\square$

例

整数上の巡回加群

$A=\mathbb Z$、$p$ を素数、$n\ge1$ を $n=p^em$($p\nmid m$)と書く。中国剰余定理により $\mathbb Z/n\cong\mathbb Z/p^e\oplus\mathbb Z/m$ である。$\mathbb Z/m$ は $m\notin(p)$ に消されるので、prop-modloc-kernel の 2 により $(\mathbb Z/m)_{(p)}=0$ である。一方 $p$ と素な整数 $s$ は $\mathbb Z/p^e$ 上で可逆に働くので、prop-modloc-invertible により $(\mathbb Z/p^e)_{(p)}\cong\mathbb Z/p^e$ である。局所化は直和と交換するので
$$(\mathbb Z/n)_{(p)}\cong\mathbb Z/p^e$$
となる。局所化 $(p)$ は、$n$ の $p$ 部分だけを取り出す操作である。零イデアルでの局所化 $(\mathbb Z/n)_{(0)}=\mathbb Q\otimes\mathbb Z/n$ は零である。

有限生成アーベル群の階数

$A=\mathbb Z$、$S=\mathbb Z\setminus\{0\}$ とすると $S^{-1}\mathbb Z=\mathbb Q$ であり、prop-modloc-tensor により $S^{-1}M\cong\mathbb Q\otimes_{\mathbb Z}M$ である。有限生成アーベル群 $M\cong\mathbb Z^r\oplus T$($T$ は有限)については、$T$ はその位数に消されるので $S^{-1}T=0$ であり、$S^{-1}M\cong\mathbb Q^r$ となる。$\dim_{\mathbb Q}S^{-1}M$ が $M$ の階数である(階数(加群))。局所化は捩れ部分を消し、自由な部分の大きさだけを残す。

一つの元による局所化と開集合

$f\in A$ について $M_f$ の元は $m/f^k$ の形で、$m/f^k=0$ となるのは $f^lm=0$ となる $l$ があるときである。たとえば $A=k[x]$($k$ は体)、$M=k[x]/(x)$ とすると、$x$ は $M$ を消すので $M_x=0$ であり、$x-1$ は $M$ 上で可逆に働くので $M_{x-1}\cong M$ である。幾何学的には、$M$ は原点にだけ載っている加群で、原点を含まない基本開集合 $D(x)$ の上では見えなくなる。一般に $\operatorname{Spec}A$ 上の 準連接層 $\widetilde M$ の $D(f)$ 上の切断が $M_f$、点 $\mathfrak p$ での茎が $M_{\mathfrak p}$ である。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
$M$ が有限表示(Hom との交換)$A=\mathbb Z$、$S=\mathbb Z\setminus\{0\}$、$M=\mathbb Q$、$N=\mathbb Z$$S^{-1}\operatorname{Hom}_A(M,N)\cong\operatorname{Hom}_{S^{-1}A}(S^{-1}M,S^{-1}N)$
部分加群が有限個(交叉との両立)$\mathbb Z$ の部分加群 $n\mathbb Z$($n\ge1$ のすべて)、同じ $S$$S^{-1}\bigl(\bigcap_iN_i\bigr)=\bigcap_iS^{-1}N_i$
直積の因子が有限個$M=\prod_{n\ge1}\mathbb Z/n$、同じ $S$$S^{-1}\bigl(\prod_iM_i\bigr)\cong\prod_iS^{-1}M_i$
$M$ が有限生成(零化の判定)$A=\mathbb Z$、$S=\{p^k\}$、$M=\bigoplus_{n\ge1}\mathbb Z/p^n$$S^{-1}M=0\Rightarrow S\cap\operatorname{Ann}M\neq\emptyset$
すべての極大イデアルで調べる$M=\mathbb Z/p$ を、極大イデアル $(p)$ 以外の素イデアルだけで調べる零加群の局所判定

各行を確かめる。

  • 1 行目:$h\colon\mathbb Q\to\mathbb Z$ が準同型なら、各 $n\ge1$ について $h(1)=nh(1/n)$ は $n$ の倍数なので $h(1)=0$ であり、同様に $b\,h(a/b)=a\,h(1)=0$ から $h=0$ となる。よって左辺は $S^{-1}0=0$ である。一方、右辺は $\operatorname{Hom}_{\mathbb Q}(\mathbb Q,\mathbb Q)=\mathbb Q$ である。
  • 2 行目:prop-modloc-sub の後の注意のとおり、左辺は $0$、右辺は $\mathbb Q$ である。
  • 3 行目:各 $\mathbb Z/n$ は $n$ に消されるので右辺は $0$ である。一方 $e=(1,1,1,\ldots)\in M$ は、$0$ でないどの整数 $s$ についても成分 $n=|s|+1$ で $s\cdot1\neq0$ だから $se\neq0$ であり、prop-modloc-kernel により $e/1\neq0$、左辺は $0$ でない。
  • 4 行目:prop-modloc-kernel の後の注意のとおりである。
  • 5 行目:$q\neq p$ なら $p\notin(q)$ が $\mathbb Z/p$ を消すので $(\mathbb Z/p)_{(q)}=0$、零イデアルでも $(\mathbb Z/p)_{(0)}=0$ だが、$M\neq0$ である。調べていない $(p)$ では $(\mathbb Z/p)_{(p)}=\mathbb Z/p\neq0$ である。
    局所化で判定できない性質もある。
    性質反例理由
    有限生成$A=\mathbb Z$、$M=\bigoplus_p\mathbb Z/p$($p$ はすべての素数)各 $M_{(q)}\cong\mathbb Z/q$ と $M_{(0)}=0$ は有限生成だが、$M$ は有限生成でない
    自由$A=\mathbb Z/6$、$M=3\mathbb Z/6\mathbb Z\cong\mathbb Z/2$各素イデアルでの局所化は自由だが、$M$ は 2 元なので自由 $\mathbb Z/6$ 加群でない
    2 行目を確かめる。$\mathbb Z/6$ の素イデアルは $(2)$ と $(3)$ である。$\mathfrak p=(3)$ では $2\notin\mathfrak p$ が $M$ を消すので $M_{\mathfrak p}=0$(階数 $0$ の自由加群)である。$\mathfrak p=(2)$ では、$3\notin\mathfrak p$ は冪等元($3^2=3$)で $(1-3)\cdot3=0$ だから、局所化で $2=-(1-3)$ の像は零になり、$A_{(2)}$ は $\mathbb Z/6$ を $2$ で割った体 $\mathbb Z/2$ に、$M_{(2)}$ はその上の 1 次元空間になる。自由 $\mathbb Z/6$ 加群の元の個数は $6$ の冪なので、2 元の $M$ は自由でない。$M$ は $\mathbb Z/6=3\mathbb Z/6\oplus2\mathbb Z/6$ の直和因子なので射影加群ではあるが、各点で自由でも全体で自由とは限らない。

関連項目

参考文献

[1]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley(Westview Press 版), 1969, Chapter 3:Proposition 3.3・Corollary 3.4(p. 39)、Proposition 3.5(pp. 39–40)、Corollary 3.6・Proposition 3.7・3.8(p. 40)、Proposition 3.9(pp. 40–41)、Proposition 3.10(p. 41)、Proposition 3.14(p. 43)

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