Finsler–Hadwigerの定理

同義語:フィンスラー・ハドヴィガーの定理Finsler–Hadwiger theorem

概要

Finsler–Hadwigerの定理(Finsler–Hadwiger theorem)とは、頂点 $A$ を共有し、頂点を書いた順に回る向きが同じ 2 つの正方形 $ABCD$、$AB'C'D'$($B\ne B'$)について、線分 $B'D$ の中点 $Q$、正方形 $ABCD$ の中心 $R$、線分 $BD'$ の中点 $S$、正方形 $AB'C'D'$ の中心 $T$ を順に結んだ四角形 $QRST$ が正方形になる、という定理である。1 辺の長さは $\frac12BB'$ である。$A$ を中心とする $90^\circ$ の回転でベクトル $\overrightarrow{QR}$ が $\overrightarrow{SR}$ に移ることから示せる。正三角形などに替えて回転の角を $\theta$ に替えると、中点は 1 つの角が $\theta$ のひし形を作る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Hjelmslevの定理, 複素数の掛け算は回転と拡大, 位置ベクトルと内分点, Varignonの定理

高校での出発点:頂点を共有する 2 つの正方形

大きさも向きも違う 2 つの正方形を、1 つの頂点を重ねて置く。2 つの正方形から「対応する点」を選んで線分で結び、その中点をとる。Hjelmslevの定理 では、動かす前と後の点の中点が一直線に並んだ。正方形の場合は、中点と中心が正方形を作る。まず座標で確かめる。

2 つの正方形の中点と中心

正方形 $ABCD$ を $A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(4,4)$、$D(0,4)$ とする。もう 1 つの正方形 $AB'C'D'$ を $A(0,0)$、$B'(1,2)$、$C'(-1,3)$、$D'(-2,1)$ とする。どちらも、頂点を書いた順に回ると反時計回りである。2 つ目の正方形の辺の長さは $AB'=\sqrt{1^2+2^2}=\sqrt5$ で、1 つ目の $4$ とは違う。
次の 4 点をとる。

  • $Q$:線分 $B'D$ の中点 $\left(\dfrac{1+0}2,\dfrac{2+4}2\right)=\left(\dfrac12,3\right)$
  • $R$:正方形 $ABCD$ の中心(対角線 $BD$ の中点)$(2,2)$
  • $S$:線分 $BD'$ の中点 $\left(\dfrac{4+(-2)}2,\dfrac{0+1}2\right)=\left(1,\dfrac12\right)$
  • $T$:正方形 $AB'C'D'$ の中心(対角線 $B'D'$ の中点)$\left(\dfrac{1+(-2)}2,\dfrac{2+1}2\right)=\left(-\dfrac12,\dfrac32\right)$
    四角形 $QRST$ の辺をベクトルで書くと
    $$ \overrightarrow{QR}=\left(\frac32,-1\right),\quad \overrightarrow{RS}=\left(-1,-\frac32\right),\quad \overrightarrow{ST}=\left(-\frac32,1\right),\quad \overrightarrow{TQ}=\left(1,\frac32\right) $$
    である。$\overrightarrow{QR}=-\overrightarrow{ST}$ なので、$QR$ と $TS$ は平行で長さが等しく、$QRST$ は平行四辺形である。さらに
    $$ \lvert\overrightarrow{QR}\rvert^2=\frac94+1=\frac{13}4=\lvert\overrightarrow{RS}\rvert^2,\qquad \overrightarrow{QR}\cdot\overrightarrow{RS}=\frac32\cdot(-1)+(-1)\cdot\left(-\frac32\right)=0 $$
    なので、隣り合う 2 辺の長さが等しく、直交する。よって $QRST$ は、1 辺の長さ $\dfrac{\sqrt{13}}2$ の正方形である。

辺の長さ 4 の正方形 ABCD と、辺の長さ √5 の正方形 AB′C′D′ が頂点 A を共有する。線分 B′D、BD′ の中点 Q、S と 2 つの中心 R、T が正方形 QRST を作る 辺の長さ 4 の正方形 ABCD と、辺の長さ √5 の正方形 AB′C′D′ が頂点 A を共有する。線分 B′D、BD′ の中点 Q、S と 2 つの中心 R、T が正方形 QRST を作る
1 辺の長さ $\dfrac{\sqrt{13}}2$ は、$BB'=\sqrt{(4-1)^2+(0-2)^2}=\sqrt{13}$ のちょうど半分である。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 2 つの正方形の大きさと向きをどう変えても、$QRST$ は正方形になるか。→ thm-fh-main
  2. なぜ正方形になるのか。どこで「正方形」を使っているか。→ prf-fh-main、rem-fh-varignon
  3. 正方形を正三角形や長方形に替えると、何ができるか。→ prop-fh-rhombus、ex-fh-cx-rect
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    点 $(x,y)$ を $(-y,x)$ に移す頂点 $A$ を中心とする $90^\circ$ の回転 $\rho$1 次変換(回転行列)
    対角線の中点正方形の中心 $\dfrac{\vec b+\rho(\vec b)}2$頂点の 1 次式
    $\overrightarrow{QR}$、$\overrightarrow{RS}$ の長さと内積Finsler–Hadwiger の定理$\overrightarrow{RS}=-\rho(\overrightarrow{QR})$
    中点を結ぶと平行四辺形Varignonの定理 の平行四辺形中点をとる操作は 1 次式

言葉の準備:正方形を $90^\circ$ 回転で書く

頂点 $A$ を原点にとり、点の位置ベクトルを $\vec b=\overrightarrow{AB}$ のように小文字で書く。原点を中心とする反時計回りの $90^\circ$ の回転を $\rho$ で表す。$\rho$ は点 $(x,y)$ を点 $(-y,x)$ に移す。複素数で書けば $z\mapsto iz$ である(複素数の掛け算は回転と拡大)。
$\rho$ について、次の 3 つを使う。どれも $\rho(x,y)=(-y,x)$ の式から確かめられる。

  • 足し算と実数倍を保つ:$\rho(\vec u+\vec v)=\rho(\vec u)+\rho(\vec v)$、$\rho(k\vec u)=k\rho(\vec u)$。$(x_1+x_2,y_1+y_2)$ は $(-(y_1+y_2),x_1+x_2)=(-y_1,x_1)+(-y_2,x_2)$ に移るからである。
  • 長さを変えない:$\lvert\rho(\vec u)\rvert^2=(-y)^2+x^2=x^2+y^2=\lvert\vec u\rvert^2$。
  • もとのベクトルと直交する:$\vec u\cdot\rho(\vec u)=x\cdot(-y)+y\cdot x=0$。
頂点を共有する正方形の頂点と中心

$A$ を原点とする。頂点を $A\to B\to C\to D$ の順に回ると反時計回りになる正方形 $ABCD$ について
$$ \vec d=\rho(\vec b),\qquad \vec c=\vec b+\rho(\vec b) $$
であり、正方形の中心(2 本の対角線の交点)の位置ベクトルは
$$ \frac{\vec b+\vec d}2=\frac{\vec b+\rho(\vec b)}2 $$
である。

辺 $AD$ は辺 $AB$ を $90^\circ$ 回したもの

段 1($\vec d$)。正方形の隣り合う辺 $AB$ と $AD$ は長さが等しく直交する。頂点を $A\to B\to C\to D$ の順に回ると反時計回りなので、$\overrightarrow{AD}$ は $\overrightarrow{AB}$ を反時計回りに $90^\circ$ 回したベクトルである。よって $\vec d=\rho(\vec b)$ である。
段 2($\vec c$)。正方形は平行四辺形なので $\overrightarrow{BC}=\overrightarrow{AD}$ である。よって $\vec c=\vec b+\overrightarrow{BC}=\vec b+\vec d=\vec b+\rho(\vec b)$ である。
段 3(中心)。平行四辺形の 2 本の対角線は、互いの中点で交わる。したがって対角線の交点は対角線 $BD$ の中点で、位置ベクトルは $\dfrac{\vec b+\vec d}2$ である(位置ベクトルと内分点)。$\square$

ex-fh-start の 2 つ目の正方形では、$\vec b'=(1,2)$ から $\vec d'=\rho(1,2)=(-2,1)$、$\vec c'=(1,2)+(-2,1)=(-1,3)$ で、中心は $\dfrac{(1,2)+(-2,1)}2=\left(-\dfrac12,\dfrac32\right)$ である。これは ex-fh-start の $D'$、$C'$、$T$ と一致する。

頂点を共有する同じ向きの 2 つの正方形

2 つの正方形 $ABCD$、$AB'C'D'$ が頂点 $A$ を共有し、どちらも頂点を書いた順に回ると同じ向き(ともに反時計回り、またはともに時計回り)であるとする。このとき
$$ Q=\text{線分 }B'D\text{ の中点},\quad R=\text{正方形 }ABCD\text{ の中心},\quad S=\text{線分 }BD'\text{ の中点},\quad T=\text{正方形 }AB'C'D'\text{ の中心} $$
とおく。

ともに時計回りの場合は、図形を裏返して(たとえば $x$ 軸で折り返して)考えれば、ともに反時計回りの場合になる。折り返しは中点を中点に、正方形を正方形に、正方形の中心を中心に移すので、以下ではともに反時計回りとする。

主定理:中点と中心は正方形を作る

Finsler–Hadwiger の定理

def-fh-config の配置で $B\ne B'$ とする。このとき四角形 $QRST$ は正方形で、その 1 辺の長さは $\dfrac12BB'$ である。正方形 $QRST$ の中心は線分 $RT$ の中点で、$A$ を原点とする位置ベクトルは $\dfrac{\vec b+\vec b'+\vec d+\vec d'}4$ である。

主張の「$QRST$ は正方形」の部分は Wei26 にある。1 辺の長さと中心は、証明の途中で出てくる。

4 本の辺を 1 つのベクトル $\vec v$ で書く

方針:lem-fh-square で 4 点を $\vec b$、$\vec b'$ と回転 $\rho$ で書き、4 本の辺のベクトルが $\vec v$、$-\rho(\vec v)$、$-\vec v$、$\rho(\vec v)$ になることを示す。
段 1(4 点の位置ベクトル)。lem-fh-square を 2 つの正方形に使うと $\vec d=\rho(\vec b)$、$\vec d'=\rho(\vec b')$ で、中心は $\vec r=\dfrac{\vec b+\rho(\vec b)}2$、$\vec t=\dfrac{\vec b'+\rho(\vec b')}2$ である。中点は
$$ \vec q=\frac{\vec b'+\vec d}2=\frac{\vec b'+\rho(\vec b)}2,\qquad \vec s=\frac{\vec b+\vec d'}2=\frac{\vec b+\rho(\vec b')}2 $$
である。
段 2(辺のベクトル)。$\vec v=\dfrac{\vec b-\vec b'}2$ とおく。$B\ne B'$ なので $\vec v\ne\vec 0$ である。$\rho$ が引き算と実数倍を保つことを使うと
$$ \begin{aligned} \overrightarrow{QR}&=\vec r-\vec q=\frac{\vec b+\rho(\vec b)-\vec b'-\rho(\vec b)}2=\frac{\vec b-\vec b'}2=\vec v,\\ \overrightarrow{RS}&=\vec s-\vec r=\frac{\vec b+\rho(\vec b')-\vec b-\rho(\vec b)}2=\rho\left(\frac{\vec b'-\vec b}2\right)=-\rho(\vec v),\\ \overrightarrow{ST}&=\vec t-\vec s=\frac{\vec b'+\rho(\vec b')-\vec b-\rho(\vec b')}2=\frac{\vec b'-\vec b}2=-\vec v,\\ \overrightarrow{TQ}&=\vec q-\vec t=\frac{\vec b'+\rho(\vec b)-\vec b'-\rho(\vec b')}2=\rho\left(\frac{\vec b-\vec b'}2\right)=\rho(\vec v) \end{aligned} $$
である。
段 3(平行四辺形)。$\overrightarrow{QR}=\vec v$、$\overrightarrow{TS}=-\overrightarrow{ST}=\vec v$ なので $\overrightarrow{QR}=\overrightarrow{TS}$ である。1 組の向かい合う辺が平行で長さが等しいので、$QRST$ は平行四辺形である(平行四辺形の条件)。
段 4(正方形)。$\rho$ は長さを変えないので $RS=\lvert-\rho(\vec v)\rvert=\lvert\vec v\rvert=QR$ である。また $\vec v\cdot\rho(\vec v)=0$ なので
$$ \overrightarrow{QR}\cdot\overrightarrow{RS}=\vec v\cdot\bigl(-\rho(\vec v)\bigr)=-\vec v\cdot\rho(\vec v)=0 $$
である。隣り合う 2 辺の長さが等しく直交する平行四辺形は正方形である。1 辺の長さは $\lvert\vec v\rvert=\dfrac12\lvert\vec b-\vec b'\rvert=\dfrac12BB'$ である。
段 5(中心)。正方形の中心は対角線 $QS$ の中点で
$$ \frac{\vec q+\vec s}2=\frac{\vec b+\vec b'+\rho(\vec b)+\rho(\vec b')}4=\frac{\vec b+\vec b'+\vec d+\vec d'}4 $$
である。$\dfrac{\vec r+\vec t}2$ も同じ式になるので、これは線分 $RT$ の中点でもある。$\square$

証明で「正方形」を使ったのは、lem-fh-square の $\vec d=\rho(\vec b)$ と、中心が対角線 $BD$ の中点であることの 2 か所だけである。$B=B'$ なら 2 つの正方形は一致し、$\vec v=\vec 0$ で 4 点 $Q$、$R$、$S$、$T$ はすべて同じ点(正方形の中心)になる。

複素数で確かめる

$A$ を原点とする複素数で $B$、$B'$ を $b$、$b'$ と書くと、$\rho$ は $i$ を掛けることなので
$$ q=\frac{b'+ib}2,\qquad r=\frac{(1+i)b}2,\qquad s=\frac{b+ib'}2,\qquad t=\frac{(1+i)b'}2 $$
である。ex-fh-start の $b=4$、$b'=1+2i$ では
$$ q=\frac{1+6i}2,\qquad r=2+2i,\qquad s=\frac{4+i(1+2i)}2=\frac{2+i}2,\qquad t=\frac{(1+i)(1+2i)}2=\frac{-1+3i}2 $$
で、$r-q=\dfrac{3-2i}2$、$s-r=\dfrac{-2-3i}2$ である。$-i(r-q)=\dfrac{-3i+2i^2}2=\dfrac{-2-3i}2=s-r$ となり、段 2 の $\overrightarrow{RS}=-\rho(\overrightarrow{QR})$ が確かめられる。

大きさと向きを変える

正方形 $ABCD$ を $B(3,1)$、正方形 $AB'C'D'$ を $B'(-1,2)$ で決める($A$ は原点)。lem-fh-square から $D=\rho(3,1)=(-1,3)$、$C=(2,4)$、$D'=\rho(-1,2)=(-2,-1)$、$C'=(-3,1)$ である。2 つの正方形の辺の長さは $\sqrt{10}$ と $\sqrt5$ である。
$$ Q=\left(\frac{-1+(-1)}2,\frac{2+3}2\right)=\left(-1,\frac52\right),\quad R=\left(\frac{3-1}2,\frac{1+3}2\right)=(1,2),\quad S=\left(\frac{3-2}2,\frac{1-1}2\right)=\left(\frac12,0\right),\quad T=\left(\frac{-1-2}2,\frac{2-1}2\right)=\left(-\frac32,\frac12\right) $$
で、$\overrightarrow{QR}=\left(2,-\dfrac12\right)$、$\overrightarrow{RS}=\left(-\dfrac12,-2\right)$ である。長さの 2 乗はどちらも $\dfrac{17}4$、内積は $-1+1=0$ で、$QRST$ は正方形である。$BB'=\sqrt{4^2+1^2}=\sqrt{17}$ で、1 辺の長さ $\dfrac{\sqrt{17}}2$ はその半分である。

2 つの正方形が同じ大きさの例を開く

$B(5,0)$、$B'(3,4)$ とすると、$AB=AB'=5$ で 2 つの正方形は同じ大きさである。$D=(0,5)$、$D'=\rho(3,4)=(-4,3)$ から $Q=\left(\dfrac32,\dfrac92\right)$、$R=\left(\dfrac52,\dfrac52\right)$、$S=\left(\dfrac12,\dfrac32\right)$、$T=\left(-\dfrac12,\dfrac72\right)$ である。$\overrightarrow{QR}=(1,-2)$、$\overrightarrow{RS}=(-2,-1)$ で、長さの 2 乗はどちらも $5$、内積は $-2+2=0$ である。$BB'=\sqrt{4+16}=2\sqrt5$ の半分が 1 辺 $\sqrt5$ である。中心は $(1,3)$ で、$\dfrac{\vec b+\vec b'+\vec d+\vec d'}4=\dfrac{(5+3+0-4,\ 0+4+5+3)}4=(1,3)$ と一致する。

Varignon の平行四辺形として見る

4 点 $R$、$Q$、$T$、$S$ は、四角形 $BDB'D'$(頂点をこの順に結ぶ)の 4 辺 $BD$、$DB'$、$B'D'$、$D'B$ の中点である。したがって $RQTS$ は四角形 $BDB'D'$ の Varignon の平行四辺形で、辺は対角線 $BB'$、$DD'$ に平行で長さはその半分である(Varignonの定理 の命題「中点を結ぶと平行四辺形」)。($B$、$D$、$B'$、$D'$ のうち 3 点が一直線上に並ぶ場合も、Varignonの定理 の命題「中点を結ぶと平行四辺形」のベクトルの等式はそのまま成り立つ。)
$\overrightarrow{DD'}=\vec d'-\vec d=\rho(\vec b')-\rho(\vec b)=\rho(\overrightarrow{BB'})$ なので、2 本の対角線 $BB'$ と $DD'$ は長さが等しく直交する。Varignonの定理 の命題「長方形・ひし形・正方形になる条件」により、Varignon の平行四辺形は正方形である。これが thm-fh-main の別の見方である。

四角形 BDB′D′ の対角線 BB′ と DD′ は長さが等しく直交する。4 辺の中点 R、Q、T、S を結ぶと正方形になる 四角形 BDB′D′ の対角線 BB′ と DD′ は長さが等しく直交する。4 辺の中点 R、Q、T、S を結ぶと正方形になる
図 2 では、頂点 $A$ を中心とする $90^\circ$ の回転が $B$ を $D$ に、$B'$ を $D'$ に移すので、対角線 $BB'$ を回すと対角線 $DD'$ に重なる。

回転の角を変える:正三角形と正六角形

prf-fh-main で使った $\rho$ の性質は、段 2 の「足し算と実数倍を保つ」と、段 4 の「長さを変えない」「直交する」だけである。$90^\circ$ の回転を一般の角 $\theta$ の回転に替えると、直交だけが「角 $\theta$」に変わる。

中点のひし形

$A$ を中心とする角 $\theta$($0^\circ<\theta<180^\circ$)の回転を $\rho_\theta$ とし、異なる 2 点 $B$、$B'$ をとる。$X=\rho_\theta(B)$、$X'=\rho_\theta(B')$ とし、
$$ M_1=\text{線分 }BX\text{ の中点},\quad M_2=\text{線分 }XB'\text{ の中点},\quad M_3=\text{線分 }B'X'\text{ の中点},\quad M_4=\text{線分 }X'B\text{ の中点} $$
とおく。このとき四角形 $M_1M_2M_3M_4$ はひし形で、1 辺の長さは $\dfrac12BB'$、頂点 $M_1$ の角は $\theta$ である。

正方形の場合と同じ計算

$A$ を原点とし、$\vec w=\dfrac{\vec b'-\vec b}2$($\ne\vec 0$)とおく。$\rho_\theta$ は足し算と実数倍を保つので
$$ \overrightarrow{M_1M_2}=\frac{\rho_\theta(\vec b)+\vec b'-\vec b-\rho_\theta(\vec b)}2=\vec w,\qquad \overrightarrow{M_1M_4}=\frac{\rho_\theta(\vec b')+\vec b-\vec b-\rho_\theta(\vec b)}2=\rho_\theta(\vec w) $$
である。同じく $\overrightarrow{M_4M_3}=\dfrac{\vec b'+\rho_\theta(\vec b')-\rho_\theta(\vec b')-\vec b}2=\vec w=\overrightarrow{M_1M_2}$ なので、$M_1M_2M_3M_4$ は平行四辺形である。$\rho_\theta$ は長さを変えないので $M_1M_4=\lvert\rho_\theta(\vec w)\rvert=\lvert\vec w\rvert=M_1M_2$ で、隣り合う 2 辺の長さが等しいのでひし形である。頂点 $M_1$ の角は、$\vec w$ と $\rho_\theta(\vec w)$ のなす角 $\theta$ である。$\square$

$\theta=90^\circ$ で $B$、$X$ を正方形の頂点 $B$、$D$ にとると、$M_1=R$、$M_2=Q$、$M_3=T$、$M_4=S$ で、thm-fh-main にもどる。正多角形を頂点 $A$ で共有すると、$A$ の隣の 2 頂点は、$A$ を中心とする内角の大きさの回転で移り合う。

共有する図形(同じ向き)回転の角 $\theta$$X=\rho_\theta(B)$$M_1$中点の四角形
正三角形 $ABC$、$AB'C'$$60^\circ$$C$辺 $BC$ の中点1 つの角が $60^\circ$ のひし形
正方形 $ABCD$、$AB'C'D'$$90^\circ$$D$正方形の中心正方形(thm-fh-main)
正六角形 $ABCDEF$、$AB'C'D'E'F'$$120^\circ$$F$線分 $BF$ の中点1 つの角が $120^\circ$ のひし形

正方形の場合だけ、$M_1=R$ と $M_3=T$ が図形の中心になる。正方形の対角線 $BD$ の中点は中心だが、正三角形の辺 $BC$ の中点や正六角形の線分 $BF$ の中点は中心ではないからである。

正三角形の場合

$A(0,0)$、$B(4,0)$、$B'(1,2)$ として、反時計回りの正三角形 $ABC$、$AB'C'$ を作る。$C$、$C'$ は $B$、$B'$ を $A$ のまわりに $60^\circ$ 回した点で、$60^\circ$ の回転は点 $(x,y)$ を $\left(\dfrac12x-\dfrac{\sqrt3}2y,\ \dfrac{\sqrt3}2x+\dfrac12y\right)$ に移すので
$$ C=(2,\ 2\sqrt3),\qquad C'=\left(\frac12-\sqrt3,\ \frac{\sqrt3}2+1\right) $$
である。中点は $M_1$(辺 $BC$)$=(3,\sqrt3)$、$M_2$(線分 $CB'$)$=\left(\dfrac32,\sqrt3+1\right)$ で
$$ \overrightarrow{M_1M_2}=\left(-\frac32,1\right)=\frac{\vec b'-\vec b}2 $$
である。prop-fh-rhombus により、$M_1M_2M_3M_4$ は 1 辺 $\dfrac{\sqrt{13}}2$、頂点 $M_1$ の角 $60^\circ$ のひし形である。1 辺の長さは ex-fh-start の正方形 $QRST$ と同じである($B$、$B'$ が同じだから)。

残りの 2 点と角を確かめる計算を開く

$M_3$(線分 $B'C'$)$=\left(\dfrac34-\dfrac{\sqrt3}2,\ \dfrac32+\dfrac{\sqrt3}4\right)$、$M_4$(線分 $C'B$)$=\left(\dfrac94-\dfrac{\sqrt3}2,\ \dfrac12+\dfrac{\sqrt3}4\right)$ である。$\overrightarrow{M_1M_4}=\left(-\dfrac34-\dfrac{\sqrt3}2,\ \dfrac12-\dfrac{3\sqrt3}4\right)$ で、長さの 2 乗は $\left(\dfrac34+\dfrac{\sqrt3}2\right)^2+\left(\dfrac12-\dfrac{3\sqrt3}4\right)^2=\dfrac9{16}+\dfrac{3\sqrt3}4+\dfrac34+\dfrac14-\dfrac{3\sqrt3}4+\dfrac{27}{16}=\dfrac{13}4$ である。内積は $\left(-\dfrac32\right)\left(-\dfrac34-\dfrac{\sqrt3}2\right)+1\cdot\left(\dfrac12-\dfrac{3\sqrt3}4\right)=\dfrac98+\dfrac{3\sqrt3}4+\dfrac12-\dfrac{3\sqrt3}4=\dfrac{13}8$ で、$\cos\angle M_1=\dfrac{13/8}{13/4}=\dfrac12$、つまり $\angle M_1=60^\circ$ である。

頂点 A を共有する 2 つの正三角形 ABC、AB′C′。辺 BC、線分 CB′、辺 B′C′、線分 C′B の中点は、1 つの角が 60° のひし形を作る 頂点 A を共有する 2 つの正三角形 ABC、AB′C′。辺 BC、線分 CB′、辺 B′C′、線分 C′B の中点は、1 つの角が 60° のひし形を作る

例と反例

thm-fh-main の仮定を 1 つ外すと、$QRST$ は正方形でなくなる。どの場合も $QRST$ は平行四辺形のままである。$R$、$T$ が対角線 $BD$、$B'D'$ の中点であるかぎり、$\vec d$、$\vec d'$ が何であっても $\overrightarrow{QR}=\dfrac{\vec b+\vec d}2-\dfrac{\vec b'+\vec d}2=\dfrac{\vec b-\vec b'}2$、$\overrightarrow{TS}=\dfrac{\vec b+\vec d'}2-\dfrac{\vec b'+\vec d'}2=\dfrac{\vec b-\vec b'}2$ となるからである。

外す条件反例成り立たなくなること
2 つの正方形が同じ向きex-fh-start の 2 つ目の正方形を時計回りにする$QR=RS$ と $QR\perp RS$
正方形(隣り合う辺の長さが等しい)縦が横の 2 倍の長方形 2 つ$QR=RS$
頂点 $A$ を共有する2 つ目の正方形を $(1,0)$ だけ平行移動する$QR=RS$ と $QR\perp RS$
反例:向きが逆の 2 つの正方形

ex-fh-start の正方形 $ABCD$ はそのままにし、2 つ目の正方形を時計回りの $AB'C'D'$:$B'(1,2)$、$C'(3,1)$、$D'(2,-1)$ にする($\overrightarrow{AD'}$ は $\overrightarrow{AB'}$ を時計回りに $90^\circ$ 回したもの)。中心は $T\left(\dfrac32,\dfrac12\right)$、中点は $Q\left(\dfrac12,3\right)$、$S\left(3,-\dfrac12\right)$ で、$R(2,2)$ は変わらない。
$$ \overrightarrow{QR}=\left(\frac32,-1\right),\qquad \overrightarrow{RS}=\left(1,-\frac52\right) $$
で、$QR^2=\dfrac{13}4$、$RS^2=\dfrac{29}4$ と長さが違い、内積は $\dfrac32\cdot1+(-1)\cdot\left(-\dfrac52\right)=4\ne0$ である。$QRST$ は正方形でも長方形でもない平行四辺形である。
崩れた理由は、$\vec d=\rho(\vec b)$ に対して $\vec d'=\rho^{-1}(\vec b')$(時計回りの回転)となり、$\overrightarrow{DD'}$ が $\overrightarrow{BB'}$ を回したものでなくなったことである(rem-fh-varignon)。

反例:長方形 2 つ

正方形の代わりに、$AD=2AB$ の長方形 $ABCD$、$AB'C'D'$(どちらも反時計回り)をとる。$\vec d=2\rho(\vec b)$、$\vec d'=2\rho(\vec b')$ である。$B(2,0)$、$B'(1,1)$ とすると $D(0,4)$、$D'(-2,2)$ で、2 つの長方形の中心は $R(1,2)$、$T\left(-\dfrac12,\dfrac32\right)$、中点は $Q\left(\dfrac12,\dfrac52\right)$、$S(0,1)$ である。
$$ \overrightarrow{QR}=\left(\frac12,-\frac12\right),\qquad \overrightarrow{RS}=(-1,-1) $$
で、内積は $-\dfrac12+\dfrac12=0$ と直交するが、$QR^2=\dfrac12$、$RS^2=2$ と長さが違う。$QRST$ は、隣り合う辺の長さの比が $1:2$ の長方形である。prf-fh-main の段 2 で $\overrightarrow{RS}=-2\rho(\vec v)$ になり、長さが $2$ 倍になったからである。

2 つ目の正方形を時計回りにすると、Q、R、S、T は正方形でない平行四辺形になる 2 つ目の正方形を時計回りにすると、Q、R、S、T は正方形でない平行四辺形になる
縦が横の 2 倍の長方形を 2 つ使うと、Q、R、S、T は辺の比が 1 対 2 の長方形になる 縦が横の 2 倍の長方形を 2 つ使うと、Q、R、S、T は辺の比が 1 対 2 の長方形になる
反例:頂点を共有しない 2 つの正方形

ex-fh-start の 2 つ目の正方形を $(1,0)$ だけ平行移動し、$A'(1,0)$、$B'(2,2)$、$C'(0,3)$、$D'(-1,1)$ とする(反時計回りのまま)。1 つ目の正方形 $ABCD$ と頂点を共有しない。$Q$(線分 $B'D$ の中点)$=(1,3)$、$R=(2,2)$、$S$(線分 $BD'$ の中点)$=\left(\dfrac32,\dfrac12\right)$、$T$(2 つ目の中心)$=\left(\dfrac12,\dfrac32\right)$ で
$$ \overrightarrow{QR}=(1,-1),\qquad \overrightarrow{RS}=\left(-\frac12,-\frac32\right) $$
である。$QR^2=2$、$RS^2=\dfrac52$、内積は $-\dfrac12+\dfrac32=1\ne0$ で、正方形にならない。$D'$ が $A'$ を中心とする回転で $B'$ から作られるため、$\overrightarrow{DD'}$ が $\overrightarrow{BB'}$ を回したものにならない。実際、$\overrightarrow{BB'}=(-2,2)$ を $90^\circ$ 回すと $(-2,-2)$ だが、$\overrightarrow{DD'}=(-1,-3)$ である。

大学数学で見る:2 つの変数について 1 次の中点

thm-fh-main の 4 点は、1 つの式でまとめて書ける。点 $X$、$Y$ に対して
$$ m(X,Y)=\frac{\vec x+\rho(\vec y)}2 $$
とおく。$X$ と、$Y$ を $A$ のまわりに $90^\circ$ 回した点を結ぶ線分の中点である。$\rho(\vec b)=\vec d$、$\rho(\vec b')=\vec d'$ なので
$$ R=m(B,B),\qquad Q=m(B',B),\qquad T=m(B',B'),\qquad S=m(B,B') $$
である。$m$ は $X$ と $Y$ の座標をまとめた 4 つの数について定数項のない 1 次式で(線形写像)、$X$ だけ、$Y$ だけを動かすとそれぞれ 1 次式で変わる。双線形写像 とは違い、$X$ を $2$ 倍しても $m$ は $2$ 倍にならない。$Y$ を止めて $X$ を $B$ から $B'$ に動かすと $m$ は $\dfrac{\vec b'-\vec b}2$ だけ動き、$X$ を止めて $Y$ を $B$ から $B'$ に動かすと $\rho\left(\dfrac{\vec b'-\vec b}2\right)$ だけ動く。この 2 つのベクトルが長さが等しく直交することが、thm-fh-main の中身である。

Hjelmslev の定理の中点の写像との関係を開く

$X=Y$ のとき、$m(X,X)=\dfrac{\vec x+\rho(\vec x)}2$ は、回転 $\rho$ で対応する点 $X$、$\rho(X)$ の中点である。Hjelmslevの定理 の命題「中点の写像の形」の (2) により、これは $A$ を中心に $45^\circ$ 回転して $\cos45^\circ=\dfrac1{\sqrt2}$ 倍にする回転相似である。複素数では $z\mapsto\dfrac{1+i}2z$ で、ex-fh-complex の $r=\dfrac{(1+i)b}2$、$t=\dfrac{(1+i)b'}2$ はこの写像による $B$、$B'$ の像である。したがって $RT=\dfrac1{\sqrt2}BB'$ で、これは 1 辺 $\dfrac12BB'$ の正方形の対角線の長さ $\dfrac{\sqrt2}2BB'$ と一致する。

$X$、$Y$ がそれぞれ線分 $BB'$ の上を動くとき、$m(X,Y)$ の全体は正方形 $QRST$ の周と内部をちょうど埋める。$X=B+s(B'-B)$、$Y=B+u(B'-B)$($0\le s,u\le1$)とおくと、$\vec w=\dfrac{\vec b'-\vec b}2$ として $m(X,Y)=\vec r+s\vec w+u\rho(\vec w)$ である。$s,u$ が $0$ か $1$ のときが 4 頂点 $R$、$Q$($s=1$、$u=0$)、$S$($s=0$、$u=1$)、$T$($s=u=1$)で、全体は直交する同じ長さの 2 つのベクトル $\vec w$、$\rho(\vec w)$ で張られる正方形である。2 つの線分 $\dfrac12BB'$ と $\dfrac12\rho(BB')$ の「和」をとる、という見方で、大学では集合の和(Minkowski 和)と呼ばれる。

演習

2 つの正方形の中点と中心

$A(0,0)$、$B(2,0)$、$B'(1,3)$ として、反時計回りの正方形 $ABCD$、$AB'C'D'$ を作る。
(1) $D$、$D'$ と、def-fh-config の $Q$、$R$、$S$、$T$ の座標を求めよ。
(2) $QRST$ が正方形であることを確かめ、その面積が $\dfrac14BB'^2$ であることを確かめよ。

解答を開く

(1) lem-fh-square により $D=\rho(2,0)=(0,2)$、$D'=\rho(1,3)=(-3,1)$ である。$Q$(線分 $B'D$ の中点)$=\left(\dfrac12,\dfrac52\right)$、$R$(線分 $BD$ の中点)$=(1,1)$、$S$(線分 $BD'$ の中点)$=\left(-\dfrac12,\dfrac12\right)$、$T$(線分 $B'D'$ の中点)$=(-1,2)$ である。

(2) $\overrightarrow{QR}=\left(\dfrac12,-\dfrac32\right)$、$\overrightarrow{RS}=\left(-\dfrac32,-\dfrac12\right)$、$\overrightarrow{ST}=\left(-\dfrac12,\dfrac32\right)$、$\overrightarrow{TQ}=\left(\dfrac32,\dfrac12\right)$ である。$\overrightarrow{QR}=-\overrightarrow{ST}$ で平行四辺形、$QR^2=RS^2=\dfrac{10}4$、$\overrightarrow{QR}\cdot\overrightarrow{RS}=-\dfrac34+\dfrac34=0$ なので正方形である。面積は $QR^2=\dfrac52$ で、$BB'^2=(1-2)^2+3^2=10$ の $\dfrac14$ である。

さらに先へ

  • 図形の辺の上に正方形や正三角形を立て、その中心を結ぶと新しい図形ができる定理は多い。四角形の 4 辺に正方形を立てる Van Aubelの定理(四角形)、三角形の 3 辺に正三角形を立てる Napoleonの定理、平行四辺形の 4 辺に正方形を立てる Thébaultの定理、多角形の辺に二等辺三角形を立てる操作をくり返す Petr–Douglas–Neumannの定理 がある。どれも「$90^\circ$ や $60^\circ$ の回転は 1 次式」という同じ道具で証明できる。
  • 中点をとる代わりに、四角形の辺を 3 等分した点を使うと、四角形の板の重心が現れる。これは Wittenbauerの平行四辺形 で扱う。
  • 回転を複素数の掛け算で書く見方は、1次変換と行列式:面積の拡大率 の回転行列 $\begin{pmatrix}0&-1\\ 1&0\end{pmatrix}$ と同じものである。

関連項目

参考文献

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