射影(直積)(projection)とは、集合の族 $(A_i)_{i\in I}$ の直積 $\prod_{i\in I}A_i$ の元 $(a_i)_{i\in I}$ にその第 $j$ 成分 $a_j$ を対応させる写像 $\operatorname{pr}_j$ のことである。直積の元はすべての射影の値で決まり、$\operatorname{pr}_j$ が全射になるのは $A_j$ が空であるか残りの成分の直積が空でないときに限り、そのとき切断は選択公理なしに作れる。部分集合の射影は「ある $b$ が存在する」という存在量化を表し、群や環の直積では射影を準同型にする演算は成分ごとの演算ただ一つに決まる。位相空間の直積では射影は連続な開写像だが閉写像とは限らず、圏論では積の普遍性を担う射を射影と呼ぶ。
平面の点 $(x,y)$ から $x$ 座標だけを取り出す写像 $(x,y)\mapsto x$ は、点を $x$ 軸へ真上から落とした「影」をとる操作である。一般に、集合の族の直積の元から一つの成分を取り出す写像を、その成分への 射影 という。射影は直積という構成の一部であり、直積の元は射影の値をすべて指定すれば決まる。位相空間・群・多様体などの直積を考えるときも、まず集合の直積をとり、射影が構造を保つように構造を入れる。そのため射影は、位相・代数・幾何・論理のどの分野にも現れる。
「射影」という語は、ほかにも 直交射影・射影空間・射影加群 など別の意味で使われる。この記事の射影は直積の成分への射影であり、冪等な線形写像としての射影との関係は最後の節で述べる。
$I$ を集合とし、$(A_i)_{i\in I}$ を $I$ で添字付けられた集合の族とする。その直積 $\prod_{i\in I}A_i$ は、写像 $f\colon I\to\bigcup_{i\in I}A_i$ ですべての $i\in I$ について $f(i)\in A_i$ を満たすものの全体であり、その元 $f$ を $(a_i)_{i\in I}$($a_i:=f(i)$)と書く(直積集合 の定義「添字付き族の直積」)。
$j\in I$ に対し、写像
$$
\operatorname{pr}_j\colon\prod_{i\in I}A_i\to A_j,\qquad (a_i)_{i\in I}\mapsto a_j
$$
を第 $j$ 成分への 射影(projection)という。2 つの集合の直積 $A\times B$ では、$\operatorname{pr}_1(a,b):=a$、$\operatorname{pr}_2(a,b):=b$ をそれぞれ第 1 成分・第 2 成分への射影という。
$\operatorname{pr}_j$ のほか、$\pi_j$、$p_j$ とも書く。直積の元 $f$ を写像 $I\to\bigcup_iA_i$ とみれば、$\operatorname{pr}_j(f)=f(j)$ は $f$ の点 $j$ での値であり、射影は「点 $j$ で値をとる」写像(評価写像)でもある。
直積の 2 つの元 $x=(x_i)_i$、$y=(y_i)_i$ について、$x=y$ であることと、すべての $j\in I$ で $\operatorname{pr}_j(x)=\operatorname{pr}_j(y)$ であることは同値である。直積の元は写像なので、写像の相等そのものである。同じことを写像で言えば、2 つの写像 $h,h'\colon X\to\prod_iA_i$ が等しいことは、すべての $j$ で $\operatorname{pr}_j\circ h=\operatorname{pr}_j\circ h'$ であることと同値である。さらに、各 $j$ に写像 $f_j\colon X\to A_j$ を与えれば $\operatorname{pr}_j\circ h=f_j$ を満たす $h$ がただ一つある。これは 直積集合 の命題「直積への写像の普遍性」であり、直積が積(圏論)であることの内容である。一つの射影だけでは元は決まらない。$\operatorname{pr}_1(0,0)=\operatorname{pr}_1(0,1)$ である。
射影は「ほかの座標を忘れる」操作である。$\mathbb{R}^3$ から $\mathbb{R}^2$ への $(x,y,z)\mapsto(x,y)$ は、立体を床に落とした影をとる写像で、影からは高さの情報が失われる。部分集合 $S$ の影 $\operatorname{pr}_1(S)$ に $a$ が入るのは、$a$ の真上(ファイバー $\{a\}\times B$)のどこかに $S$ の点があるときであり、射影をとることは「ある $b$ について」と言うことと同じになる。逆に、射影の逆像 $\operatorname{pr}_1^{-1}(T)=T\times B$ は $T$ の真上にある柱で、条件 $a\in T$ を $B$ の方向には何も制限しないことを表す。
$\operatorname{pr}_1\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$、$(x,y)\mapsto x$ を考える。点 $c\in\mathbb{R}$ のファイバー $\operatorname{pr}_1^{-1}(c)$ は直線 $x=c$ である。単位円板 $\{x^2+y^2\le1\}$ の像は閉区間 $[-1,1]$ であり、双曲線 $\{xy=1\}$ の像は $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ である。後者は閉集合の像が閉集合とは限らない例である(閉写像 の例「反例:射影は開写像だが閉写像でない」)。
実数列の全体 $\mathbb{R}^{\mathbb{N}}=\prod_{n\in\mathbb{N}}\mathbb{R}$ で、$\operatorname{pr}_n((a_k)_{k})=a_n$ は第 $n$ 項を取り出す写像である。より一般に、写像全体の集合 $A^I=\prod_{i\in I}A$ の射影 $\operatorname{pr}_i\colon A^I\to A$ は $f\mapsto f(i)$ である。$I$ 上の関数の族 $(f_\lambda)$ が各点で収束することは、各射影 $\operatorname{pr}_i$ を当てた値が収束することにほかならず、これが各点収束の位相を直積位相として捉える出発点になる。
集合 $M$ の上の射影 $\operatorname{pr}_2\colon M\times M\to M$、$(x,y)\mapsto y$ は二項演算である。この演算 $x\cdot y:=y$ では、すべての元 $e$ が $e\cdot y=y$ を満たし、すべての元 $z$ が $x\cdot z=z$ を満たす。すなわちすべての元が左単位元であり、右吸収元でもある。$M$ が 2 元以上なら右単位元はない。$x\cdot e=x$ がすべての $x$ で成り立つには $x=e$ でなければならないからである。
群 $G,H$ の直積 $G\times H$ に成分ごとの積を入れると、$\operatorname{pr}_1\colon G\times H\to G$ は全射準同型で、その核は $\{e_G\}\times H$ である。$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ では $\operatorname{pr}_1$ の核は位数 $3$ の部分群 $\{0\}\times\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ であり、商はこの核で割った $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ に同型である。成分ごとの積が射影を準同型にするただ一つの演算であることは thm-prj-componentwise で示す。
射影は「ほとんど」全射だが、ほかの成分に空集合があると全射でなくなる。条件は次のとおりで、ここでは選択公理を使わない。
$(A_i)_{i\in I}$ を集合の族、$j\in I$ とし、$B:=\prod_{i\in I\setminus\{j\}}A_i$ とおく。
1:$f\in\prod_iA_i$ なら、$i\ne j$ で $f(i)\in A_i$ なので制限 $f|_{I\setminus\{j\}}$ は $B$ の元であり、$\Phi$ は写像として定まる。逆向きに、$(a,g)\in A_j\times B$ に対し $\Psi(a,g)\colon I\to\bigcup_iA_i$ を $\Psi(a,g)(j):=a$、$i\neq j$ では $\Psi(a,g)(i):=g(i)$ で定めると、$\Psi(a,g)\in\prod_iA_i$ である。定義から $\Phi(\Psi(a,g))=(a,g)$ であり、$f\in\prod_iA_i$ について $\Psi(\Phi(f))$ と $f$ はすべての点で値が等しいので $\Psi(\Phi(f))=f$ である。よって $\Phi$ は全単射で、$\operatorname{pr}_1(\Phi(f))=f(j)=\operatorname{pr}_j(f)$ である。
2:1 により、$\operatorname{pr}_j$ が全射であることは、$\operatorname{pr}_1\colon A_j\times B\to A_j$ が全射であることと同値である(全単射 $\Phi$ との合成は全射性を変えない)。$A_j=\emptyset$ なら $A_j$ への写像はつねに全射である。$B\neq\emptyset$ なら $b\in B$ を一つとり、$a\in A_j$ に対し $\operatorname{pr}_1(a,b)=a$ なので全射である。逆に $A_j\neq\emptyset$ かつ $B=\emptyset$ なら、$A_j\times B=\emptyset$ なので $\operatorname{pr}_1$ の像は空であり、空でない $A_j$ への全射でない。
3:$f\in\prod_iA_i$ をとれば $f|_{I\setminus\{j\}}\in B$ なので $B\ne\emptyset$ であり、2 により $\operatorname{pr}_j$ は全射である。$\square$
すべての $A_i$ が空でないとき、$I$ が有限なら直積は空でなく(選択公理 の記事の例「有限族の選択関数」)、すべての射影は全射である。$I$ が無限のときは、すべての $A_i$ が空でなくても直積が空でないことは選択公理と同値であり(直積集合 の定理「選択公理との同値」)、選択公理を仮定すれば「$A_j=\emptyset$ または、すべての $i\neq j$ で $A_i\neq\emptyset$」が射影 $\operatorname{pr}_j$ の全射性の条件になる。
写像 $p\colon E\to X$ の 切断 とは、$p\circ s=\operatorname{id}_X$ を満たす写像 $s\colon X\to E$ のことである(切断)。一般の全射が切断をもつことは選択公理と同値だが、射影の切断は選択なしに具体的に作れる。
記号を thm-prj-surjective のとおりとする。写像 $g\colon A_j\to B$ に対し $s_g(a):=\Psi(a,g(a))$(第 $j$ 成分が $a$、それ以外の成分が $g(a)$ の元)と定めると、$g\mapsto s_g$ は、写像 $A_j\to B$ の全体から $\operatorname{pr}_j$ の切断の全体への全単射である。とくに $\operatorname{pr}_j$ が全射なら、$\operatorname{pr}_j$ は切断をもつ。
$\operatorname{pr}_j(s_g(a))=a$ なので $s_g$ は切断である。逆に $s$ を切断とし、$g_s:=\operatorname{pr}_2\circ\Phi\circ s\colon A_j\to B$ とおく。$\Phi(s(a))=(\operatorname{pr}_j(s(a)),g_s(a))=(a,g_s(a))$ なので $s(a)=\Psi(a,g_s(a))=s_{g_s}(a)$ である。また $g$ から作った $s_g$ については $\Phi(s_g(a))=(a,g(a))$ なので $g_{s_g}=g$ である。よって 2 つの対応は互いに逆である。
$\operatorname{pr}_j$ が全射なら、thm-prj-surjective の 2 により $A_j=\emptyset$ または $B\ne\emptyset$ である。$A_j=\emptyset$ なら空写像 $g\colon\emptyset\to B$ がある。$B\ne\emptyset$ なら $b\in B$ を一つとり、定値写像 $g(a):=b$ をとればよい。どちらの場合も $s_g$ が切断である。$\square$
$A\times B$ の場合、切断 $A\to A\times B$ は $a\mapsto(a,g(a))$ の形のものに限り、写像 $g\colon A\to B$ と一対一に対応する。その像は $g$ のグラフである(切断 の例「直積射影の切断」)。とくに、$\operatorname{pr}_1$ を $g$ のグラフ $\Gamma_g$ に制限した写像 $\Gamma_g\to A$ は全単射である。
$(A_i)_{i\in I}$ を集合の族、$j\in I$ とする。
1:$f\in\operatorname{pr}_j^{-1}(T)$ は $f(j)\in T$ かつ $i\neq j$ で $f(i)\in A_i$ を満たす $f$ のことで、これは $f\in\prod_iT_i$ と同じ条件である。ファイバーについては、$\Phi$ が $\operatorname{pr}_j^{-1}(a)$ を $\operatorname{pr}_1^{-1}(a)=\{a\}\times B$ へ全単射に移すことと、$b\mapsto(a,b)$ が $B$ から $\{a\}\times B$ への全単射であることによる。
2:$\operatorname{pr}_j(C)\subset C_j$ は定義から明らかである。$C\neq\emptyset$ として $c\in C$ をとり、$u\in C_j$ に対し、$c$ の第 $j$ 成分だけを $u$ に取り替えた元 $c'$ を考えると、$c'\in C$ かつ $\operatorname{pr}_j(c')=u$ なので $C_j\subset\operatorname{pr}_j(C)$ である。$C=\emptyset$ のときは明らかである。$\square$
1 の形の集合 $\operatorname{pr}_j^{-1}(T)$ を 柱集合(cylinder set)ということがある。直積位相は、$T$ が開集合の柱集合を準開基として生成される位相である。2 で $C\ne\emptyset$ を外すことはできない。$C_1=\{0\}$、$C_2=\emptyset$ なら $C=\emptyset$ で $\operatorname{pr}_1(C)=\emptyset\neq C_1$ である。2 の証明では $c$ を一つ選ぶだけなので、選択公理は要らない。
部分集合の射影は、論理の「存在する」を集合の言葉で表したものである。以下 $A,B$ を集合とし、$\operatorname{pr}_1\colon A\times B\to A$ を第 1 成分への射影とする。
$S\subset A\times B$、$T\subset A$ とする。
1:$a\in\operatorname{pr}_1(S)$ は、$\operatorname{pr}_1(p)=a$ を満たす $p\in S$ があることである。$p=(a',b)$ と書けば $\operatorname{pr}_1(p)=a$ は $a'=a$ のことなので、これは $(a,b)\in S$ を満たす $b$ があることと同じである。
2:$\operatorname{pr}_1(S)\subset T$ とし、$(a,b)\in S$ とすると $a=\operatorname{pr}_1(a,b)\in T$ なので $(a,b)\in T\times B$ である。逆に $S\subset T\times B$ なら、$S$ の点の第 1 成分はすべて $T$ に属するので $\operatorname{pr}_1(S)\subset T$ である。$\operatorname{pr}_1^{-1}(T)=T\times B$ は prop-prj-fiber の 1 の場合である。
3:1 により、左辺に $a$ が属することは「$(a,b)\in S$ かつ $a\in T$ を満たす $b$ がある」ことであり、$a\in T$ は $b$ によらないので、これは「$(a,b)\in S$ を満たす $b$ があり、かつ $a\in T$」と同じである。これは右辺に $a$ が属する条件である。
4:$a\in\operatorname{pr}_1(\bigcup_\lambda S_\lambda)$ は、ある $\lambda$ とある $b$ について $(a,b)\in S_\lambda$ であることで、存在の順序を入れ替えれば右辺の条件になる。共通部分については、$(a,b)\in\bigcap_\lambda S_\lambda$ ならどの $\lambda$ でも $a\in\operatorname{pr}_1(S_\lambda)$ なので包含が成り立つ。等号でない例は $A=\{0\}$、$B=\{0,1\}$、$S_1=\{(0,0)\}$、$S_2=\{(0,1)\}$ で、$S_1\cap S_2=\emptyset$ だが $\operatorname{pr}_1(S_1)\cap\operatorname{pr}_1(S_2)=\{0\}$ である。
5:$a$ が右辺に属さないことは、1 により $(a,b)\notin S$ を満たす $b$ があることであり、これは左辺の条件の否定である。$\square$
$S$ が条件 $\varphi(a,b)$ で定まる集合 $\{(a,b)\mid\varphi(a,b)\}$ なら、1 は $\operatorname{pr}_1(S)$ が条件「$\varphi(a,b)$ を満たす $b$ が存在する」で定まることを、5 は「すべての $b$ について $\varphi(a,b)$」が補集合と射影で書けることを言っている。2 は、射影をとる操作が逆像 $T\mapsto T\times B$ の「左側の相手」であることを表し、圏論ではこれを随伴の形で述べる(随伴関手)。3 は、条件 $a\in T$ が $b$ によらないので存在の外へ出せる、という論理の規則に対応する。4 の後半で等号が成り立たないのは、「ある $b$ について $P$ かつ $Q$」と「ある $b$ について $P$、かつ、ある $b$ について $Q$」が違うからである。
この見方から、射影は「どんな集合が定義できるか」を調べる場面で中心になる。実数の多項式の等式・不等式で定まる集合(半代数的集合)の射影はまた半代数的集合であるという Tarski–Seidenberg の定理は、実閉体の理論で量化記号を消去できることの幾何的な言い換えである(半代数的集合の射影定理 の定理「Tarski–Seidenbergの定理(射影定理)」。この記事では証明しない)。記述集合論では、Borel 集合の射影と補集合を繰り返して得られる集合の階層を考える(射影階層)。
群・環・加群などの直積では、直積集合に「成分ごとの演算」を入れる。これは、射影が準同型になるという要請だけから決まる。
各 $i\in I$ について $M_i$ を二項演算 $*_i$ をもつ集合とし、$P:=\prod_{i\in I}M_i$ とおく。
1:定義そのものである。
2:$\star$ が条件を満たすとすると、すべての $j$ で $\operatorname{pr}_j(x\star y)=x_j*_jy_j=\operatorname{pr}_j(x*y)$ なので、rem-prj-jointly-injective により $x\star y=x*y$ である。
3:$h$ が演算を保つなら、1 により $\operatorname{pr}_j$ も演算を保つので、合成 $\operatorname{pr}_j\circ h$ も演算を保つ。逆にすべての $\operatorname{pr}_j\circ h$ が演算を保つとすると、$u,v\in X$ について
$$
\operatorname{pr}_j(h(u\cdot v))=\operatorname{pr}_j(h(u))*_j\operatorname{pr}_j(h(v))=\operatorname{pr}_j\bigl(h(u)*h(v)\bigr)
$$
がすべての $j$ で成り立つ(2 つ目の等号は 1)。rem-prj-jointly-injective により $h(u\cdot v)=h(u)*h(v)$ である。
4:結合律は、各成分で $((x*y)*z)_i=(x_i*_iy_i)*_iz_i=x_i*_i(y_i*_iz_i)=(x*(y*z))_i$ となることから従う。可換律も同様である。$e:=(e_i)_i$ について $(e*x)_i=e_i*_ix_i=x_i$、$(x*e)_i=x_i$ なので $e$ は単位元である。群の場合、$x^{-1}:=(x_i^{-1})_i$ とおくと $(x*x^{-1})_i=e_i=(x^{-1}*x)_i$ である。どの場合も、成分ごとに等しいことから rem-prj-jointly-injective により元として等しい。$\square$
4 で使ったのは、結合律・単位元・逆元がすべて「等式」で書けることである。環・加群・ベクトル空間の公理も等式で書けるので、成分ごとの演算で直積が同じ種類の代数系になり、射影は準同型になる。3 は、こうしてできた直積が群の圏などで積(圏論)になることを言っている。群の直積 $\prod_iG_i$ の射影 $\operatorname{pr}_j$ の核は $\{x\mid x_j=e_j\}$ であり、正規部分群である。
等式で書けない性質は直積に移るとは限らない。体 $\mathbb{F}_2$ の直積環 $\mathbb{F}_2\times\mathbb{F}_2$ では $(1,0)\neq0$ だが $(1,0)(a,b)=(a,0)\neq(1,1)$ なので $(1,0)$ は逆元をもたず、体でない。「$0$ でない元は逆元をもつ」は「$x\ne0$ なら」という仮定を含み、等式だけでは書けないからである(直積環)。
また、演算でない構造については 2 の一意性が成り立たない。$\mathbb{R}^2$ に離散位相を入れても 2 つの射影は連続であり、射影を連続にする位相は一つに決まらない。そのため位相空間の直積では、射影を連続にする位相のうち 最も粗いもの を選ぶ(直積位相 の命題「射影を連続にする最も粗い位相」)。
位相空間の族 $(X_i)_{i\in I}$ の直積集合には、すべての射影 $\operatorname{pr}_j$ を連続にする最も粗い位相として直積位相を入れる。これは射影の族が定める始位相である(始位相 の例「射影族」)。射影についての主な事実は次のとおりで、いずれも各記事で証明している。
| 性質 | 成り立つか | 所在 |
|---|---|---|
| 連続 | つねに | 直積位相 の命題「射影を連続にする最も粗い位相」 |
| 写像 $Y\to\prod_iX_i$ の連続性が射影との合成で判定できる | つねに | 直積位相 の定理「直積位相の普遍性」 |
| 開写像 | つねに | 直積位相 の命題「射影は連続な開写像である」、開写像 の定理「射影は開写像である」 |
| 閉写像 | 一般には成り立たない | 閉写像 の例「反例:射影は開写像だが閉写像でない」 |
| $X\times K\to X$ が閉写像 | $K$ がコンパクトなら成り立つ | 完全写像 の命題「コンパクトな因子に沿う積射影」 |
連続な開写像で全射なものは商写像である(開写像 の命題「連続な開全射は商写像」)。したがって thm-prj-surjective と合わせると、直積が空でなければ各射影 $\operatorname{pr}_j\colon\prod_iX_i\to X_j$ は商写像である。$K$ がコンパクトのとき $X\times K\to X$ が閉写像であることは、点 $x$ のファイバー $\{x\}\times K$ を含む開集合が $W\times K$ の形の開集合(管)を含むという管状近傍補題と同じ内容である(Mun00 §26, Lemma 26.8, p. 168、Exercise 26.7, p. 171)。双曲線 $\{xy=1\}$ の例は、因子 $\mathbb{R}$ がコンパクトでないとこの結論が成り立たないことを示している(Mun00 §22, Example 2, p. 138)。
箱位相でも射影は連続な開写像だが、成分ごとに連続な写像が連続とは限らず、普遍性が成り立たない(直積位相 の注意「反例:箱位相では成分ごとの連続性から連続性が従わない」)。射影がよい性質をもつことと、射影の族が直積を特徴づけることは別のことである。
可微分多様体 $M,N$ の直積 $M\times N$ の射影 $M\times N\to M$ は滑らかで、局所座標では $(x,y)\mapsto x$ と書けるので、各点での微分は座標で $\begin{pmatrix}I&0\end{pmatrix}$ の形の全射な線形写像である。
スキームの圏でも積の射影 $p_1,p_2$ を考える。たとえば 交叉理論 の記事は $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ の 2 つの射影を使う。ただしスキームの積はファイバー積として作られ(スキームの圏そのものの積は $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ 上のファイバー積である)、その台集合は台集合の直積と一致するとは限らない。体 $k$ 上の積、つまり $\operatorname{Spec}k$ 上のファイバー積 $\mathbb{A}^1_k\times_k\mathbb{A}^1_k$ はアフィン平面 $\mathbb{A}^2_k=\operatorname{Spec}k[x,y]$ であり、その点は 2 つの射影による像の組だけでは決まらない。実際、2 つの射影は包含 $k[x]\to k[x,y]$、$k[y]\to k[x,y]$ から来るので、素イデアル $\mathfrak{p}$ の行き先は縮約 $\mathfrak{p}\cap k[x]$、$\mathfrak{p}\cap k[y]$ である。対角線 $\{x=y\}$ の生成点(素イデアル $(x-y)$)については、$f(x)\in(x-y)$ なら $x=y$ を代入して $f(y)=0$、すなわち $f=0$ となるので $(x-y)\cap k[x]=0$、同様に $(x-y)\cap k[y]=0$ である。平面全体の生成点(素イデアル $(0)$)も縮約は $0$ なので、2 つの点はどちらも 2 つの射影でアフィン直線の生成点に移る。射影という名前は、ここでは積(圏論)の意味で使われている。
線形代数では、$P\circ P=P$ を満たす線形写像 $P$(冪等な線形写像)を射影と呼ぶ(射影行列、直交射影)。これは直積の射影と次のようにつながる。ベクトル空間 $V_1,V_2$ の直積 $V_1\times V_2$ で、射影 $\operatorname{pr}_1$ と埋め込み $\iota_1(v):=(v,0)$ を合成した $e:=\iota_1\circ\operatorname{pr}_1$、すなわち $(v_1,v_2)\mapsto(v_1,0)$ は冪等であり、像は $V_1\times\{0\}$、核は $\{0\}\times V_2$ である。逆に冪等な線形写像 $e\colon V\to V$ があれば $V=\operatorname{im}e\oplus\ker e$ と直和に分解し、この分解のもとで $e$ は第 1 成分への射影と第 1 成分の埋め込みの合成になる(直和 の命題「直和分解と冪等な自己準同型」)。冪等な写像が「射影」と呼ばれるのはこのためである。ただし同じ部分空間 $\operatorname{im}e$ でも、補う部分空間 $\ker e$ を変えれば別の射影になる。直積の射影は、成分の組への分解を固定してはじめて定まる。
圏 $\mathcal{C}$ の対象の族 $(A_i)_{i\in I}$ の積(圏論)は、対象 $P$ と射の族 $(p_j\colon P\to A_j)_{j\in I}$ で、任意の対象 $X$ と射の族 $(f_j\colon X\to A_j)_j$ に対し、すべての $j$ で $p_j\circ h=f_j$ を満たす射 $h\colon X\to P$ がただ一つあるものである。この $p_j$ も 射影 と呼ぶ。集合の圏では、直積集合と射影 $\operatorname{pr}_j$ が積である(rem-prj-jointly-injective、Rie16 Definition 3.1.9, p. 85)。積は射影を含めて同型を除いて一意なので、どの積を使っても射影の性質は変わらない(積(圏論) の命題「射影を保つ一意な同型」)。
prop-prj-sections は、集合の圏で「射影が全射なら切断をもつ」ことを示した。一般の圏で射影が分裂エピ射になる条件は 積(圏論) の命題「射影が分裂エピ射になる条件」が扱う。積の射影は極限(圏論)の錐の脚の特別な場合でもあり、図式が離散圏のとき、錐とは頂点から各対象への射の族にほかならない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| ほかの成分の直積が空でない | $\operatorname{pr}_1\colon\{0\}\times\emptyset\to\{0\}$ | 射影が全射である |
| 直方体 $\prod_iC_i$ が空でない | $C_1=\{0\}$、$C_2=\emptyset$ | $\operatorname{pr}_1(\prod_iC_i)=C_1$ |
| 共通部分でなく和集合をとる | $\{0\}\times\{0,1\}$ の $\{(0,0)\}$ と $\{(0,1)\}$ | 射影の像が共通部分と交換する |
| すべての射影を使う(一つだけにしない) | $\operatorname{pr}_1(0,0)=\operatorname{pr}_1(0,1)$ | 一つの射影の値で元が決まる |
| 公理が等式で書ける | $\mathbb{F}_2\times\mathbb{F}_2$ | 体の直積が体である |
| 構造が演算である | 離散位相の $\mathbb{R}^2$ | 射影を連続にする構造がただ一つ |
| もう一方の因子がコンパクト | 双曲線 $\{xy=1\}\subset\mathbb{R}^2$ | 射影が閉写像である |
1・2 行目は thm-prj-surjective と prop-prj-fiber の後の注意、3 行目は thm-prj-exists の 4 の証明、4 行目は rem-prj-jointly-injective、5・6 行目は thm-prj-componentwise の後の注意、7 行目は ex-prj-plane で確かめた。
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