変分法の基本補題(fundamental lemma of the calculus of variations)とは、開集合 $\Omega$ 上の局所可積分関数 $u$ がすべての試験関数 $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ について $\int u\varphi=0$ を満たすなら、ほとんど至る所 $u=0$ であるという補題である。$u$ が連続なら各点で $u=0$ となる。試験関数を導関数 $\varphi'$ の形に限ると、開区間の上では $u$ がほとんど至る所定数になる(du Bois-Reymond の補題)。変分問題の停留条件から Euler–Lagrange 方程式を導くとき、弱微分の一意性、局所可積分関数を超関数とみなす対応の単射性に使われる。
前提知識: Lebesgue積分, 台(関数), 軟化子
変分法の基本補題(fundamental lemma of the calculus of variations)は、関数 $u$ について「どんな試験関数 $\varphi$ と掛けて積分しても $0$ になるなら、$u$ 自身が $0$ である」と述べる補題である。積分の等式 $\int u\varphi\,dx=0$ が「すべての $\varphi$ について」成り立つという情報を、関数の等式 $u=0$ に戻す道具であり、名前は変分法でこれが使われることによる。汎関数の停留点の条件は「すべての変分の方向 $h$ について第 1 変分が $0$」という積分の形をしていて、これを微分方程式に書き直すのがこの補題である(変分法 の定理「Euler–Lagrange 方程式」)。
同じ補題は、微分方程式の弱解や超関数の理論の土台にもなる。弱微分がただ 1 つに決まること、局所可積分関数を超関数とみなす対応が単射であることは、どちらもこの補題の言い換えである。
この記事では、連続関数の版を証明したあと、局所可積分関数の版(主定理)を完全に証明する。続いて、試験関数を導関数の形のものに限ったときの版である du Bois-Reymond の補題と、その多変数版「弱勾配が $0$ なら定数」を証明し、試験関数の族を狭めると結論がどう弱まるかを反例で確かめる。
この記事では、$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ は空でない開集合、関数は実数値とする(複素数値の関数については、thm-flcv-main の 1 と thm-flcv-dubois を実部と虚部に分けて当てればよい)。$\Omega$ 上の関数 $\varphi$ の台 $\operatorname{supp}\varphi$ は $\{\varphi\ne0\}$ の閉包である(台(関数) の定義「関数の台」)。$k\in\{0,1,2,\dots,\infty\}$ について、$C^k$ 級で台が $\Omega$ に含まれるコンパクト集合である関数の全体を $C_c^k(\Omega)$ と書く。$C_c^\infty(\Omega)$ の元を 試験関数 という。
$\Omega$ 上の可測関数 $u$ が 局所可積分 であるとは、$\Omega$ に含まれる各コンパクト集合 $K$ について $\int_K|u|\,dx< \infty$ となることをいう。局所可積分関数の全体を、ほとんど至る所一致する関数を同一視して $L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ と書く。
各点の近傍での可積分性による言い換え、$L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ の位相、$C_c^\infty(\Omega)$ による近似、Lebesgue 点など、局所可積分という性質そのものについては 局所可積分 の記事で扱う。
$u\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$、$\varphi\in C_c^0(\Omega)$ なら、$\varphi$ の台 $K$ はコンパクトで $|u\varphi|\le(\max|\varphi|)\,|u|\,\mathbf 1_K$ なので、積分 $\int_\Omega u\varphi\,dx$ は有限の値として定まる。
証明で使う試験関数は 1 種類だけである。軟化子 の例「標準的な軟化子」の $\rho$ は $C^\infty$ 級で $0$ 以上、開球 $B(0,1)$ の上で正、閉球 $\overline B(0,1)$ の外で $0$ である。$\overline B(c,r)\subset\Omega$ なら $\varphi(x):=\rho\bigl((x-c)/r\bigr)$ は $C_c^\infty(\Omega)$ に属し、$\varphi\ge0$ で、$B(c,r)$ の上で正、その外で $0$ である。これを $c$ を中心とする 隆起関数 と呼ぶ。
$f\in C(\Omega)$ とする。
1.ある $c\in\Omega$ で $f(c)<0$ だったとする。$f$ は連続なので、$r>0$ を、$\overline B(c,r)\subset\Omega$ かつ $\overline B(c,r)$ の上で $f<0$ となるようにとれる。$c$ を中心とする隆起関数 $\varphi$ をとると、$f\varphi$ は連続で $0$ 以下、空でない開集合 $B(c,r)$ の上で負である。測度が正の集合の上で負になる $0$ 以下の関数の積分は負なので、$\int_\Omega f\varphi\,dx<0$ となり、仮定に反する。
2.仮定は $f$ と $-f$ の両方について 1 の仮定を与えるので、$f\ge0$ かつ $-f\ge0$ である。$\square$
証明で使ったのは、$\overline B(c,r)\subset\Omega$ となる各球について、$B(c,r)$ の上で正、その外で $0$ になる $0$ 以上の試験関数が 1 つあることだけなので、仮定の「すべての $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$」は、そのような関数を各球について含む族に置き換えてよい($C^1$ 級の関数でもよい)。たとえば 1 次元で、両端で $0$ になる $C^1$ 級の多項式の継ぎ合わせを使うこともできる(変分法 の補題「区間上の変分法の基本補題」)。
連続でない関数では、1 点での値を変えても積分は変わらないので、結論は「ほとんど至る所」になる。
$u\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ とする。
2 の仮定のもとで 2 を、1 の仮定のもとで 1 を、同じ 2 段で示す。
段 1(有界な関数への拡張).$g$ を $\Omega$ 上の有界な可測関数で、あるコンパクト集合 $K_g\subset\Omega$ の外で $0$ になるものとする。このとき、1 の仮定のもとでは $\int_\Omega ug\,dx=0$ であり、2 の仮定のもとでは $g\ge0$ なら $\int_\Omega ug\,dx\ge0$ であることを示す。
$\delta>0$ を、$\Omega\ne\mathbb{R}^n$ なら $K_g$ と $\mathbb{R}^n\setminus\Omega$ の距離の半分、$\Omega=\mathbb{R}^n$ なら $1$ とし、$L:=K_g+\overline B(0,\delta)$ とおく。$L$ は $\Omega$ に含まれるコンパクト集合である。$g$ を $\Omega$ の外で $0$ と延ばした関数を $\bar g$ とすると、$\bar g$ は $\mathbb{R}^n$ 上で有界かつ可積分である。$\rho$ を軟化子とし、$0< \varepsilon_k< \delta$、$\varepsilon_k\to0$ となる列について $g_k:=\rho_{\varepsilon_k}*\bar g$ とおく。軟化子 の命題「軟化の基本性質」により、次が成り立つ。
段 1 は、仮定の積分の等式を、試験関数の $L^1$ 極限で「ほとんど至る所の極限」にもなっている有界な関数まで延ばしている。$u$ 自身を軟化して $u$ に近づける別の証明は、軟化子 の系「軟化による変分法の基本補題」にある。
$u,v\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ が、すべての $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ について $\int_\Omega u\varphi\,dx=\int_\Omega v\varphi\,dx$ を満たすなら、ほとんど至る所 $u=v$ である。
$u-v\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ に thm-flcv-main の 1 を当てればよい。$\square$
この系は二通りに読める。一つは、局所可積分関数 $u$ に超関数 $\varphi\mapsto\int u\varphi$ を対応させる写像が単射であること(超関数 の命題「局所可積分関数の埋め込みは単射」)である。もう一つは、弱微分が存在すればほとんど至る所ただ 1 つに決まること(弱微分 の命題「弱微分の基本性質」の 1)である。実際、$v_1,v_2$ がともに $u$ の弱微分 $\partial_iu$ なら、すべての $\varphi$ について $\int v_1\varphi=-\int u\,\partial_i\varphi=\int v_2\varphi$ となる。
$f\in C(\Omega)$ とし、$u\in C^2(\Omega)$ が、すべての $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ について
$$
\int_\Omega\nabla u\cdot\nabla\varphi\,dx=\int_\Omega f\varphi\,dx
$$
を満たすとする(Poisson 方程式 $-\Delta u=f$ の弱い形)。$\varphi$ の台はコンパクトなので、各変数について部分積分すると境界項は出ず、$\int_\Omega\nabla u\cdot\nabla\varphi\,dx=-\int_\Omega(\Delta u)\varphi\,dx$ である。よって $\int_\Omega(-\Delta u-f)\varphi\,dx=0$ がすべての $\varphi$ で成り立ち、$-\Delta u-f$ は連続なので、thm-flcv-continuous の 2 により $\Omega$ の各点で $-\Delta u=f$ である。
仮定の試験関数を $\varphi'$ の形のものだけにすると、$u$ は $0$ とは限らない。定数 $c$ について $\int c\varphi'\,dx=0$ だからである。1 次元では、それ以外にはないことが示せる。
$I\subset\mathbb{R}$ を開区間(有界でなくてもよい)とし、$f\in L^1_{\mathrm{loc}}(I)$ がすべての $\varphi\in C_c^\infty(I)$ について
$$
\int_If\varphi'\,dx=0
$$
を満たすとする。このとき定数 $C$ があって、$I$ の上でほとんど至る所 $f=C$ である。
$\psi\in C_c^\infty(I)$ を $\int_I\psi\,dx=1$ となるように 1 つ固定する(区間の中の点を中心とする隆起関数を、積分で割ればよい)。$C:=\int_If\psi\,dx$ とおく。
$w\in C_c^\infty(I)$ を任意にとり、$h:=w-\bigl(\int_Iw\,dx\bigr)\psi$ とおく。$h\in C_c^\infty(I)$ で $\int_Ih\,dx=0$ である。$h$ の台を含む有界閉区間 $[\alpha,\beta]\subset I$ をとり、$\varphi(x):=\int_\alpha^xh(t)\,dt$($x\in I$)とおく。$\varphi$ は $C^\infty$ 級で $\varphi'=h$ であり(微分積分学の基本定理 の定理「積分の上端についての微分」)、$x\le\alpha$ では $\varphi(x)=0$、$x\ge\beta$ では $\varphi(x)=\int_Ih=0$ である。よって $\varphi\in C_c^\infty(I)$ で、仮定から
$$
0=\int_If\varphi'\,dx=\int_Ifw\,dx-\Bigl(\int_Iw\,dx\Bigr)C=\int_I(f-C)\,w\,dx
$$
である。$w$ は任意なので、thm-flcv-main の 1 を $f-C\in L^1_{\mathrm{loc}}(I)$ に当てると、ほとんど至る所 $f=C$ である。$\square$
証明が示しているのは、開区間 $I$ の上では、$\{\varphi'\mid\varphi\in C_c^\infty(I)\}$ が「積分が $0$ の試験関数」の全体に一致することである($\varphi'$ の積分は $\varphi$ の台の両端での値の差なので $0$ になる)。この補題は、変分法 で $u''$ の存在を仮定せずに Euler–Lagrange 方程式を導くところで使われる(同記事の補題「du Bois-Reymond の補題」は $f$ が連続な場合)。また、1 次元 Sobolev 空間の関数が連続な代表をもつことの証明の要にもなる(1次元Sobolev空間 の定理「連続な代表」)。
多変数では、すべての偏導関数の方向で積分が $0$ になるという仮定から、連結性のもとで同じ結論が出る。
$\Omega$ を連結な開集合とし、$u\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ がすべての $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ と $i=1,\dots,n$ について $\int_\Omega u\,\partial_i\varphi\,dx=0$ を満たすとする。このとき定数 $C$ があって、$\Omega$ の上でほとんど至る所 $u=C$ である。
仮定は「$u$ の弱微分 $\partial_iu$ が存在して $0$ に等しい」ことなので、弱微分 の定理「弱勾配が $0$ なら定数」から従う。証明はそちらにある(軟化 $u_\varepsilon$ は球の上で定数になるので $u$ は局所的に定数で、局所的に定数な関数は連結性により定数である)。$\square$
thm-flcv-main・thm-flcv-continuous・thm-flcv-dubois の仮定や結論の形を 1 つずつ変えた反例を挙げる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 試験関数がすべての $C_c^\infty(\Omega)$ を動く(積分が $0$ のものだけにする) | $\Omega=(0,1)$、$u\equiv1$ | $u=0$ a.e.(thm-flcv-main) |
| 試験関数の台が $\Omega$ 全体を動く(台が $(0,\tfrac12)$ に入るものだけにする) | $\Omega=(0,1)$、$u=\mathbf 1_{(1/2,1)}$ | $u=0$ a.e.(thm-flcv-main) |
| $f$ の連続性(各点での結論) | $\Omega=(0,1)$、$f=\mathbf 1_{\{1/2\}}$ | 各点で $f=0$(thm-flcv-continuous) |
| 区間 $I$ の連結性 | $I=(0,1)\cup(2,3)$、$f=\mathbf 1_{(2,3)}$ | $f$ がほとんど至る所定数(thm-flcv-dubois) |
1 行目:$\int_0^1\varphi\,dx=0$ なら $\int_0^1u\varphi\,dx=0$ だが $u\ne0$ である。thm-flcv-dubois の証明から、この形の仮定から言えるのは「$u$ がほとんど至る所定数」までである。
2 行目:台が $(0,\frac12)$ に入る $\varphi$ では $u\varphi=0$ なので積分は $0$ である。結論が言えるのは $(0,\frac12)$ の上で $u=0$ ということだけである。
3 行目:$f$ は $1$ 点の外で $0$ なので、すべての $\varphi$ で $\int f\varphi=0$ だが、$f(\frac12)=1$ である。thm-flcv-main の結論「ほとんど至る所 $f=0$」は成り立っている。
4 行目:$\varphi\in C_c^\infty(I)$ について $\int_2^3\varphi'\,dx=\varphi(3^-)-\varphi(2^+)$ であり、$\varphi$ の台は $I$ に含まれるコンパクト集合なので、$2$ と $3$ の近くで $\varphi=0$ となり、積分は $0$ である。しかし $f$ は $(0,1)$ で $0$、$(2,3)$ で $1$ なので定数でない。$I$ の各連結成分の上では定数であり、結論が成り立つのは成分ごとである。
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