時間周波数解析(time-frequency analysis)とは、関数を時間(位置)と周波数の 2 変数の平面の上で同時に分析する解析学の分野であり、平行移動と変調による時間周波数移動、窓関数で切り取って Fourier 変換する短時間Fourier変換、時間と周波数の両方に集中した波束による分解を基本の道具とする。$L^2$ の関数の短時間Fourier変換は Moyal の公式により、窓の $L^2$ ノルムが $1$ なら内積を保ち、そこから再構成公式が得られる。Heisenberg の不等式などの不確定性原理が、時間周波数平面で分析できる単位を面積 $1$ 程度の長方形に制限し、Gabor 系や二進タイルの波束による敷き詰めの可能性と限界を決める。Carleson の定理の Lacey–Thiele による証明はその代表的な応用である。
前提知識: Fourier変換, Plancherelの定理, Lp空間, Hilbert空間
楽譜は、どの時刻にどの高さの音が鳴るかを書いた図である。Fourier変換 $\widehat f$ は信号 $f$ にどの周波数がどれだけ含まれるかを教えるが、その周波数がいつ鳴ったかという情報は位相の中に散らばってしまう。時間周波数解析(time-frequency analysis)は、関数を時間(位置)と周波数の両方の変数をもつ平面、すなわち時間周波数平面(位相空間)の上で同時に分析する解析学の分野である。その基本的な道具が、窓関数で切り取った部分の Fourier 変換をとる短時間 Fourier 変換と、時間と周波数の両方に集中した関数(波束)による分解である。
時間と周波数を同時にいくらでも細かく見ることはできない。関数とその Fourier 変換が同時に狭い範囲に集中することはできないという不確定性原理が、時間周波数平面の上で分析できる最小の単位を面積 $1$ 程度の長方形に制限する。この記事では、短時間 Fourier 変換の直交関係(Moyal の公式)を主定理として証明し、そこから再構成公式と集中の限界を導く。続いて Heisenberg の不等式を証明し、時間周波数平面を長方形で敷き詰める Gabor 系と、Carleson の定理の証明に使われる二進タイルと波束の直交性を調べる。
$L^2(\mathbb R)$ の内積を $\langle f,g\rangle:=\int f\overline g\,dx$ とし、Fourier変換 は $\widehat f(\xi)=\int f(x)e^{-2\pi ix\xi}\,dx$ で定め、Plancherelの定理 により $L^2(\mathbb R)$ 上のユニタリ作用素に延長したものを使う。$x,\xi\in\mathbb R$、$a>0$ について
$$
T_xf(t):=f(t-x),\qquad M_\xi f(t):=e^{2\pi i\xi t}f(t),\qquad D_af(t):=a^{-1/2}f(t/a)
$$
をそれぞれ 平行移動・変調・拡大 という。どれも $L^2(\mathbb R)$ のユニタリ作用素であり、
$$
\widehat{T_xf}=M_{-x}\widehat f,\qquad\widehat{M_\xi f}=T_\xi\widehat f,\qquad\widehat{D_af}=D_{1/a}\widehat f,\qquad M_\xi T_x=e^{2\pi ix\xi}\,T_xM_\xi
$$
が成り立つ。最初の 3 つは $f\in L^1\cap L^2$ で変数変換により確かめられ(Fourier変換 の節「基本操作」)、稠密性により $L^2$ 全体に延びる。最後の式は両辺を $t$ で評価すれば分かる。平行移動は時間の方向へ、変調は周波数の方向へ関数を動かし、Fourier 変換は 2 つの役割を入れ替える。$M_\xi T_x$ を 時間周波数移動 という。
$f,g\in L^2(\mathbb R)$ に対し
$$
V_gf(x,\xi):=\langle f,M_\xi T_xg\rangle=\int_{\mathbb R}f(t)\,\overline{g(t-x)}\,e^{-2\pi it\xi}\,dt\qquad(x,\xi\in\mathbb R)
$$
を、窓 $g$ による $f$ の 短時間 Fourier 変換(short-time Fourier transform)という(FS97 §6、p. 222)。窓に Gauss 関数を使うものを Gabor 変換 ともいう。
右辺の積分は $f\overline{T_xg}\in L^1$ なので絶対収束し、$V_gf(x,\cdot)$ は $f\overline{T_xg}$ の Fourier 変換である。$g$ が $0$ の近くに集中していれば、$V_gf(x,\xi)$ は「時刻 $x$ の近くで周波数 $\xi$ の成分がどれだけあるか」を表す。Cauchy–Schwarz の不等式から $|V_gf(x,\xi)|\le\|f\|_2\|g\|_2$ である。また $(x,\xi)\mapsto M_\xi T_xg$ は $L^2$ への連続写像なので(平行移動の $L^2$ での連続性と、変調についての優収束定理による)、$V_gf$ は $\mathbb R^2$ 上の連続関数である。
Fourier 変換のユニタリ性と上の交換関係から、$\langle f,M_\xi T_xg\rangle=\langle\widehat f,T_\xi M_{-x}\widehat g\rangle$ であり、
$$
V_gf(x,\xi)=e^{-2\pi ix\xi}\,V_{\widehat g}\widehat f(\xi,-x)
$$
が成り立つ。$\widehat f$ を窓 $\widehat g$ で見ることは、$f$ を窓 $g$ で見ることと(位相と座標の入れ替えを除いて)同じであり、時間と周波数は対等に扱われる。
$f_1,f_2,g_1,g_2\in L^2(\mathbb R)$ なら $V_{g_j}f_j\in L^2(\mathbb R^2)$($j=1,2$)であり、
$$
\iint_{\mathbb R^2}V_{g_1}f_1(x,\xi)\,\overline{V_{g_2}f_2(x,\xi)}\,dx\,d\xi=\langle f_1,f_2\rangle\,\overline{\langle g_1,g_2\rangle}
$$
が成り立つ。とくに $\|V_gf\|_{L^2(\mathbb R^2)}=\|f\|_2\|g\|_2$ である。
この等式は Moyal の公式 と呼ばれる。$\|g\|_2=1$ なら $f\mapsto V_gf$ は $L^2(\mathbb R)$ から $L^2(\mathbb R^2)$ への等長写像であり、$f$ のエネルギーは時間周波数平面の上にちょうど配り直される。
段 1(窓が有界な場合). $g_1,g_2\in L^2\cap L^\infty$ とする。$x$ を固定すると、$F_j^x(t):=f_j(t)\overline{g_j(t-x)}$ は Cauchy–Schwarz の不等式により $L^1$ に、$g_j$ の有界性により $L^2$ に属し、$V_{g_j}f_j(x,\cdot)=\widehat{F_j^x}$ である。Plancherelの定理 の定理「Plancherelの定理($\mathbb{R}^n$)」の 1 と 3 により
$$
\int_{\mathbb R}V_{g_1}f_1(x,\xi)\,\overline{V_{g_2}f_2(x,\xi)}\,d\xi=\int_{\mathbb R}F_1^x\overline{F_2^x}\,dt=\int_{\mathbb R}f_1(t)\overline{f_2(t)}\;\overline{g_1(t-x)}\,g_2(t-x)\,dt
$$
である。$f_1=f_2=f$、$g_1=g_2=g$ として $x$ について積分すると、Fubiniの定理(非負の関数についての形)により
$$
\iint|V_gf|^2\,d\xi\,dx=\iint|f(t)|^2|g(t-x)|^2\,dt\,dx=\|f\|_2^2\|g\|_2^2<\infty
$$
となり、$V_{g_j}f_j\in L^2(\mathbb R^2)$ である。一般の組では、$V_{g_1}f_1\overline{V_{g_2}f_2}\in L^1(\mathbb R^2)$ なので左辺は $\xi$、$x$ の順の累次積分に等しい。さらに $\iint|f_1(t)f_2(t)g_1(t-x)g_2(t-x)|\,dt\,dx\le\|f_1\|_2\|f_2\|_2\|g_1\|_2\|g_2\|_2$ なので Fubini の定理が使え、左辺は
$$
\int_{\mathbb R}f_1(t)\overline{f_2(t)}\Bigl(\int_{\mathbb R}\overline{g_1(t-x)}\,g_2(t-x)\,dx\Bigr)dt=\langle f_1,f_2\rangle\,\overline{\langle g_1,g_2\rangle}
$$
に等しい。
段 2(一般の窓). $f\in L^2$ を固定する。$g\in L^2$ に対し $g^{(n)}:=g1_{\{|g|\le n\}}\in L^2\cap L^\infty$ は $L^2$ で $g$ に収束する。$V_gf$ は $g$ について共役線形なので、段 1 により
$$
\|V_{g^{(n)}}f-V_{g^{(m)}}f\|_{L^2(\mathbb R^2)}=\|V_{g^{(n)}-g^{(m)}}f\|_{L^2(\mathbb R^2)}=\|f\|_2\,\|g^{(n)}-g^{(m)}\|_2
$$
であり、$(V_{g^{(n)}}f)_n$ は $L^2(\mathbb R^2)$ の Cauchy 列で、ある $W$ に収束する。一方 $|V_{g^{(n)}}f-V_gf|\le\|f\|_2\|g^{(n)}-g\|_2$ なので各点で $V_{g^{(n)}}f\to V_gf$ である。$L^2$ で収束する列の部分列はほとんどいたるところ収束するので $W=V_gf$ であり、$V_gf\in L^2(\mathbb R^2)$、$V_{g^{(n)}}f\to V_gf$($L^2(\mathbb R^2)$)である。段 1 の等式で $g_1,g_2$ をこの近似に取り替えて極限をとれば、両辺は内積の連続性により一般の $g_1,g_2$ の等式に移る。$\square$
2 は不確定性原理の一つの形である。窓をどう選んでも、短時間 Fourier 変換のエネルギーのほとんどを面積が $1$ より小さい領域に閉じ込めることはできない。
関数の時間方向の広がりと周波数方向の広がりを、2 次のモーメントで測る。
$f$ を $\mathbb R$ 上の Schwartz 関数とする。任意の $a,b\in\mathbb R$ について
$$
\Bigl(\int_{\mathbb R}(x-a)^2|f(x)|^2\,dx\Bigr)\Bigl(\int_{\mathbb R}(\xi-b)^2|\widehat f(\xi)|^2\,d\xi\Bigr)\ge\frac{\|f\|_2^4}{16\pi^2}
$$
が成り立つ。
$f_0:=M_{-b}T_{-a}f$、すなわち $f_0(x)=e^{-2\pi ibx}f(x+a)$ とおくと、$f_0$ も Schwartz 関数で、$\int x^2|f_0|^2=\int(x-a)^2|f|^2$、$|\widehat{f_0}(\xi)|=|\widehat f(\xi+b)|$ より $\int\xi^2|\widehat{f_0}|^2=\int(\xi-b)^2|\widehat f|^2$、$\|f_0\|_2=\|f\|_2$ である。よって $a=b=0$ としてよい。$(|f|^2)'=2\operatorname{Re}(f'\overline f)$ であり、$x|f(x)|^2\to0$($|x|\to\infty$)なので、部分積分と Cauchy–Schwarz の不等式から
$$
\|f\|_2^2=\int|f|^2\,dx=-\int x\,(|f|^2)'\,dx=-2\operatorname{Re}\int xf(x)\overline{f'(x)}\,dx\le2\Bigl(\int x^2|f|^2\Bigr)^{1/2}\Bigl(\int|f'|^2\Bigr)^{1/2}
$$
である。$\widehat{f'}(\xi)=2\pi i\xi\widehat f(\xi)$(Fourier変換 の節「基本操作」)と Plancherelの定理 により $\int|f'|^2=4\pi^2\int\xi^2|\widehat f|^2$ なので、両辺を 2 乗して主張を得る。$\square$
$\|f\|_2=1$ なら $|f|^2$ と $|\widehat f|^2$ はどちらも確率密度であり、その標準偏差の積は $1/(4\pi)$ 以上になる。不等式は任意の $f\in L^2(\mathbb R)$ について成り立ち(左辺は $\infty$ でもよい)、等号は $f(x)=Ce^{2\pi ibx}e^{-c(x-a)^2}$($C\in\mathbb C$、$c>0$)のときに限る(FS97 Theorem 1.1、pp. 209–210。一般の $L^2$ 関数への拡張と等号の条件は、この記事では証明しない)。$f(x)=e^{-\pi x^2}$ では $\widehat f=f$(Fourier変換 の節「Gauss関数と反転公式」)であり、Gauss積分 から $\int x^2e^{-2\pi x^2}dx=\frac1{4\pi\sqrt2}$、$\|f\|_2^2=\frac1{\sqrt2}$ なので、両辺はともに $\frac1{32\pi^2}$ となり等号が成り立つ。
不確定性原理によれば、関数が時間周波数平面で占める領域の面積はおよそ $1$ 以上である。逆に、面積 $1$ の長方形で平面を敷き詰め、各長方形に集中した関数を一つずつ選んで $L^2(\mathbb R)$ の基底を作れないかと考えるのは自然である(FS97 §9、pp. 232–233)。
$g\in L^2(\mathbb R)$、$a,b>0$ について $\{M_{bn}T_{ak}g\mid k,n\in\mathbb Z\}$ を Gabor 系 という。$M_{bn}T_{ak}g$ は、$g$ が占める領域を時間方向に $ak$、周波数方向に $bn$ だけ動かした領域を占める。
$g:=1_{[0,1)}$、$a=b=1$ とすると、Gabor 系 $\{M_nT_kg\}=\{e^{2\pi int}1_{[k,k+1)}(t)\}$ は $L^2(\mathbb R)$ の正規直交基底である。
$k\ne k'$ なら台が交わらないので直交し、$k=k'$ なら $\int_k^{k+1}e^{2\pi i(n-n')t}\,dt=\delta_{nn'}$ である。$f\in L^2(\mathbb R)$ がすべての元と直交すれば、各 $k$ について $f|_{[k,k+1)}$ の Fourier 係数がすべて $0$ である。$\{e^{2\pi int}\}_{n\in\mathbb Z}$ は $L^2([k,k+1))$ の正規直交基底なので(Fourier級数 の Parseval の等式の後の段落を、注意「周期が $2\pi$ でない場合」の変数変換で周期 $1$ に移したもの)、$f=0$ が $[k,k+1)$ の上でほとんどいたるところ成り立つ。
この $g$ は時間では $[0,1)$ に集中しているが、$|\widehat g(\xi)|=|\sin\pi\xi|/(\pi|\xi|)$ なので $\int\xi^2|\widehat g|^2\,d\xi=\infty$ であり、周波数方向にはまったく集中していない。これは偶然ではない。$\|g\|_2=1$ で $\{M_nT_kg\}$ が $L^2(\mathbb R)$ の正規直交基底(より一般にフレーム)になるなら、どの $x_0,\xi_0\in\mathbb R$ についても $\int(x-x_0)^2|g|^2\,dx$ と $\int(\xi-\xi_0)^2|\widehat g|^2\,d\xi$ のどちらかは $\infty$ になる(Balian–Low の定理。FS97 §9、p. 233。この記事では証明しない)。Gauss 関数 $g(x)=e^{-\pi x^2}$ による $a=b=1$ の Gabor 系 $\{M_nT_kg\}$ は $L^2$ を張るがフレームにならない(同所)。$a=b=1$ の Gabor 系では、時間と周波数の両方によく集中した正規直交基底は作れない。
周波数の尺度も変えれば、よく集中した関数による分解が使える。$[k2^j,(k+1)2^j)$($j,k\in\mathbb Z$)の形の区間を 二進区間 という。二進区間 $I,\omega$ で $|I|\,|\omega|=1$ となる長方形 $P=I\times\omega$ を タイル という。$c(\cdot)$ で区間の中心を表す。$\widehat\varphi$ が $[-\frac14,\frac14]$ に台をもつ Schwartz 関数 $\varphi\ne0$ を 1 つ固定し(台が $[-\frac14,\frac14]$ に含まれる滑らかな関数 $\psi\ne0$ をとり $\varphi:=\mathcal F^{-1}\psi$ とすればよい)、タイル $P$ に対して
$$
\varphi_P:=M_{c(\omega)}T_{c(I)}D_{|I|}\varphi,\qquad\varphi_P(t)=|I|^{-1/2}e^{2\pi ic(\omega)t}\varphi\Bigl(\frac{t-c(I)}{|I|}\Bigr)
$$
とおき、$P$ に付随する 波束 という。$\|\varphi_P\|_2=\|\varphi\|_2$ であり、$\varphi_P$ は時間では $I$ の近く($|I|$ の尺度で急減少)に集中する。冒頭の公式から $\widehat{\varphi_P}=T_{c(\omega)}M_{-c(I)}D_{1/|I|}\widehat\varphi$ なので、$\widehat{\varphi_P}$ の台は $\omega$ の中央の半分 $[c(\omega)-\frac{|\omega|}4,c(\omega)+\frac{|\omega|}4]$ に含まれる。
$P=I\times\omega$、$P'=I'\times\omega'$ をタイルとする。
要点:1 は Fourier 変換の台が交わらないことと Plancherel の定理、2 は変数変換と Schwartz 関数の減衰、3 は $A(k)$ が $|\widehat\varphi|^2$ の Fourier 係数であることによる。
1. 交わらない二進区間 $\omega,\omega'$ の中央の半分(閉区間)は交わらないので、$\widehat{\varphi_P}\overline{\widehat{\varphi_{P'}}}=0$ であり、Plancherelの定理 により $\langle\varphi_P,\varphi_{P'}\rangle=\langle\widehat{\varphi_P},\widehat{\varphi_{P'}}\rangle=0$ である。
2. $|I'|=1/|\omega'|=|I|$ なので、変調の因子は打ち消し合い、$t=c(I)+|I|y$ と置き換えると $c(I')=c(I)+k|I|$ より $A(k)$ を得る。$\varphi$ は Schwartz 関数なので $|\varphi(y)|\le B(1+|y|)^{-N-2}$ となる $B$ がある。$1+|k|\le(1+|y|)(1+|y-k|)$ から $(1+|y|)^{-N-2}(1+|y-k|)^{-N-2}\le(1+|k|)^{-N}(1+|y|)^{-2}$ であり、$|A(k)|\le B^2(1+|k|)^{-N}\int(1+|y|)^{-2}dy=2B^2(1+|k|)^{-N}$ である。
3. Plancherel の定理と $\widehat{T_k\varphi}=M_{-k}\widehat\varphi$ から $A(k)=\langle\varphi,T_k\varphi\rangle=\int|\widehat\varphi(\eta)|^2e^{2\pi ik\eta}\,d\eta$ である。$q:=|\widehat\varphi|^2$ は $[-\frac12,\frac12]$ の上の連続関数で両端の近くで $0$ であり、$A(-k)$ は $q$ の周期 $1$ の Fourier 係数である。すべての $k\ne0$ で $A(k)=0$ なら、$q-A(0)$ の Fourier 係数はすべて $0$ となり、Parseval の等式(Fourier級数 の注意「Riemann 積分可能な関数の Parseval の等式」を周期 $1$ に移したもの)から $q$ は定数 $A(0)$ に等しい。両端の近くで $q=0$ なので $q\equiv0$、すなわち $\varphi=0$ となり矛盾する。
周波数の区間が交わらない波束は正確に直交するが、同じ周波数で時間の区間だけが交わらない波束は、一般には「ほぼ直交する」だけである。タイルの集合 $\mathbf P$ について $\sum_{P\in\mathbf P}|\langle f,\varphi_P\rangle|^2$ を評価するには、周波数による正確な直交性と、時間方向の急減少による近似的な直交性を組み合わせる。
Carlesonの定理 の Lacey–Thiele による証明は、実数直線の Carleson 作用素(Fourier 積分を周波数 $N$ で切ったものの $N$ についての上限)を、少し異なる正規化の波束 $\varphi_P$ の和からなる模型の作用素に置き換え、タイルを時間周波数平面の順序で「木」にまとめて評価する(LT00 §2–§3、pp. 362–365)。そこでは、選んだ木に属する波束の係数の 2 乗和を、周波数による正確な直交性と時間方向の急減少を組み合わせて抑える(LT00 §5、pp. 366–367)。この証明は、時間と周波数の両方を同時に分解する時間周波数解析の手法の代表的な応用である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-tfa-moyal の窓が $L^2$ に属すること | $g\equiv1$、$f\in L^1\cap L^2$、$f\ne0$ | $V_1f(x,\xi)=\widehat f(\xi)$ は $x$ によらず、$L^2(\mathbb R^2)$ に属さない |
| cor-tfa-inversion の 1 の $\langle\gamma,g\rangle\ne0$ | $g=1_{[0,1)}$、$\gamma=M_1g$($\langle\gamma,g\rangle=\int_0^1e^{2\pi it}dt=0$) | $\iint V_gf\,\overline{V_\gamma h}=0$ がすべての $f,h$ で成り立ち、この組からは $f$ を取り出せない |
| prop-tfa-wave-packet の 1 の周波数の区間が交わらないこと | $\omega=\omega'$、$I'=I+k\lvert I\rvert$(prop-tfa-wave-packet の 3 の $k$) | 時間の区間は交わらないのに $\langle\varphi_P,\varphi_{P'}\rangle=A(k)\ne0$ |
1 行目では、$V_1f(x,\cdot)$ は $f$ そのものの Fourier 変換で $|V_1f(x,\xi)|^2$ の $\xi$ についての積分が $\|f\|_2^2>0$ なので、$x$ について積分すると $\infty$ になる。窓のない Fourier 変換は時間の情報をまったくもたない。2 行目では thm-tfa-moyal の右辺が $\langle f,h\rangle\overline{\langle g,\gamma\rangle}=0$ になる。
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