Selbergの篩(Selberg sieve)とは、整数の列のうち与えられた有限個の素数のどれでも割り切れない項の個数を、$\lambda_1=1$ を満たす実数の重み $\lambda_d$($d\le D$)の和の平方で上から押さえ、主要な項の二次形式を最小にするように重みを選ぶ方法である。重みを取り替えると二次形式は平方和になり、最小値は簡単な和 $G(D)$ の逆数で、最適な重みの絶対値は $1$ 以下である。応用として、法 $q$ の既約な剰余類に属する $x$ 以下の素数は $x/q$ が十分大きければ $(2+\varepsilon)x/(\varphi(q)\log(x/q))$ 個以下であること(Brun–Titchmarsh の不等式)と、$x$ 以下の双子素数の個数が $x/(\log x)^2$ の定数倍以下であることが従う。
前提知識: 篩法, Möbius関数, Cauchy–Schwarzの不等式, 中国剰余定理
Selbergの篩(Selberg sieve)は、篩関数を上から評価する方法である。整数の列のうち、与えられた素数のどれでも割り切れない項の個数を、「$\gcd$ が $1$ なら $1$、そうでなければ $0$」という指示関数を、それ以上になる平方 $\bigl(\sum_{d}\lambda_d\bigr)^2$ で置き換えて数える。実数の重み $\lambda_d$ は $\lambda_1=1$ 以外自由なので、評価の主要な項になる二次形式を最小にするように選ぶ。重みの 2 乗を使うので $\Lambda^2$ 篩 とも呼ばれる。
篩法 の記事で扱う Brun の純粋篩は、包除の和を途中で打ち切って上下の評価を得る。打ち切った和の項が多いので、$x$ 以下の双子素数の個数について $x(\log\log x)^2/(\log x)^2$ 程度の評価にとどまる。Selberg の篩は打ち切りの代わりに最適化を行い、二次形式の最小値が $1/G(D)$ という簡単な和の逆数になることを示す(thm-ss-main)。応用として、法 $q$ の算術級数の中の素数の個数の上からの評価(Brun–Titchmarsh の不等式、thm-ss-bt)と、双子素数の個数が $x/(\log x)^2$ の定数倍以下であること(thm-ss-twin)を証明する。後者は 双子素数予想 の予想「双子素数の個数の予想」が予言する大きさと定数倍しか違わない。
以下、$p$ はつねに素数を表す。正の整数 $d$ の相異なる素因数の個数を $\nu(d)$、$\mu$ を Möbius関数、$[d_1,d_2]$ と $(d_1,d_2)$ を最小公倍数と最大公約数とする。
$\mathcal{A}=(a_1,\dots,a_N)$ を整数の有限列、$\mathcal{P}$ を素数の有限集合、$P:=\prod_{p\in\mathcal{P}}p$ とし、篩法 の定義「篩の問題と篩関数」のとおり
$$
S(\mathcal{A},\mathcal{P}):=\#\{i\mid\gcd(a_i,P)=1\},\qquad A_d:=\#\{i\mid d\mid a_i\}\quad(d\mid P)
$$
とおく。さらに実数 $X>0$ と、$P$ の約数の上で定義された関数 $g$ で次を満たすものを固定する。
$\mathcal{A}=(1,\dots,\lfloor x\rfloor)$ なら $X=x$、$g(d)=1/d$、$|r_d|<1$ である。
実数 $D\ge1$ について、$P$ の約数 $d$ で添字づけられた実数の族 $\lambda=(\lambda_d)_{d\mid P}$ が 水準 $D$ の $\Lambda^2$ 篩の重み であるとは、$\lambda_1=1$ であり、$d>D$ ならば $\lambda_d=0$ であることをいう。重み $\lambda$ について
$$
Q(\lambda):=\sum_{d_1,d_2\mid P}\lambda_{d_1}\lambda_{d_2}\,g([d_1,d_2]),\qquad R(\lambda):=\sum_{d_1,d_2\mid P}|\lambda_{d_1}\lambda_{d_2}|\,|r_{[d_1,d_2]}|
$$
とおく。$d_1,d_2\mid P$ なら $[d_1,d_2]\mid P$ なので、どちらも意味をもつ。
def-ss-weights の重み $\lambda$ について $S(\mathcal{A},\mathcal{P})\le XQ(\lambda)+R(\lambda)$ である。
各 $i$ について $\gcd(a_i,P)=1$ なら $\sum_{d\mid\gcd(a_i,P)}\lambda_d=\lambda_1=1$ であり、そうでなくても平方は $0$ 以上なので
$$
S(\mathcal{A},\mathcal{P})\le\sum_{i=1}^N\Bigl(\sum_{d\mid\gcd(a_i,P)}\lambda_d\Bigr)^2=\sum_{d_1,d_2\mid P}\lambda_{d_1}\lambda_{d_2}\,\#\{i\mid d_1\mid a_i,\ d_2\mid a_i\}
$$
である。$d_1\mid a_i$ かつ $d_2\mid a_i$ は $[d_1,d_2]\mid a_i$ と同値なので、右辺の個数は $A_{[d_1,d_2]}=Xg([d_1,d_2])+r_{[d_1,d_2]}$ であり、剰余項の部分を絶対値で上から押さえて主張を得る。$\square$
$\gcd(a_i,P)=1$ の指示関数は $\sum_{d\mid\gcd(a_i,P)}\mu(d)$ に等しい(篩法 の定理「Legendre の恒等式」)。この $\mu(d)$ をすべての $d\mid P$ について使うと評価は正確になるが、剰余項の和に $P$ の約数すべてが現れて大きくなりすぎる。$d\le D$ の重みだけを残すと剰余項は $[d_1,d_2]\le D^2$ の範囲に収まる。その代わり指示関数そのものは表せないので、$0$ 以上の量である平方を使って上から押さえる。残る自由度 $\lambda_d$($1< d\le D$)を、主要な項 $XQ(\lambda)$ が最小になるように選ぶのが Selberg の篩である。$Q$ は $\lambda$ の二次形式なので、変数を取り替えて平方和に直せば(lem-ss-diagonal)、最小値は Cauchy–Schwarzの不等式 で求まる。
$p\in\mathcal{P}$ について $h(p):=\dfrac{g(p)}{1-g(p)}$ とおき、$P$ の約数 $d$ について $h(d):=\prod_{p\mid d}h(p)$($h(1)=1$)と定める。$0< g(p)<1$ より $h(p)>0$ である。さらに
$$
G(D):=\sum_{d\mid P,\ d\le D}h(d)
$$
とおく。$d=1$ の項があるので $G(D)\ge1$ である。
def-ss-weights の重み $\lambda$ について、$P$ の約数 $e$ ごとに $y_e:=\sum_{d\mid P,\ e\mid d}\lambda_dg(d)$ とおく。このとき次が成り立つ。
要点:$g([d_1,d_2])=g(d_1)g(d_2)/g((d_1,d_2))$ と $1/g(m)=\sum_{e\mid m}1/h(e)$ を組み合わせると、$Q$ が $e\mid(d_1,d_2)$ にわたる和に分かれる。2・3 は約数の束での Möbius 関数の和の計算である。
1:$P$ の約数は平方因子をもたないので、$p\mid[d_1,d_2]$ となる素数は $d_1$ か $d_2$ の素因数で、$(d_1,d_2)$ の素因数はその両方に現れる。乗法性から $g([d_1,d_2])g((d_1,d_2))=g(d_1)g(d_2)$ である。また $p\in\mathcal{P}$ について $\frac1{g(p)}=1+\frac{1-g(p)}{g(p)}=1+\frac1{h(p)}$ なので、平方因子をもたない $m\mid P$ について積を展開して $\frac1{g(m)}=\prod_{p\mid m}\bigl(1+\frac1{h(p)}\bigr)=\sum_{e\mid m}\frac1{h(e)}$ である。よって $$Q(\lambda)=\sum_{d_1,d_2}\lambda_{d_1}g(d_1)\lambda_{d_2}g(d_2)\sum_{e\mid(d_1,d_2)}\frac1{h(e)}=\sum_{e\mid P}\frac1{h(e)}\Bigl(\sum_{e\mid d}\lambda_dg(d)\Bigr)^2$$ である($e\mid(d_1,d_2)$ は $e\mid d_1$ かつ $e\mid d_2$ と同値)。
2:$e\mid d$ なら $d\ge e$ なので、$e>D$ なら和の項はすべて $\lambda_d=0$ である。また $$\sum_{e\mid P}\mu(e)y_e=\sum_{d\mid P}\lambda_dg(d)\sum_{e\mid d}\mu(e)=\lambda_1g(1)=1$$ である。ここで Möbius関数 の記事の定理「約数にわたる和」により、$\sum_{e\mid d}\mu(e)$ は $d=1$ のとき $1$、それ以外で $0$ である。
3:右辺に $y_e$ の定義を代入すると $\sum_{d\mid c}\lambda_cg(c)\sum_{d\mid e\mid c}\mu(e/d)$ となる($c$ は $P$ の約数)。$e=dk$ と書くと内側の和は $\sum_{k\mid c/d}\mu(k)$ で、$c=d$ のとき $1$、それ以外で $0$ である。$\square$
def-ss-setting の設定で、$D\ge1$ とする。
要点:lem-ss-diagonal で $Q$ を $y_e$ の平方和に直すと、条件は 1 次式 $\sum_{e\le D}\mu(e)y_e=1$ だけになり、Cauchy–Schwarz の不等式の等号の場合が最小を与える。$|\lambda^{\mathrm S}_d|\le1$ は、$G(D)$ の和を $d$ との最大公約数で分けて比べればよい。
1:lem-ss-diagonal の 2 と Cauchy–Schwarzの不等式 により $$1=\Bigl(\sum_{e\mid P,\ e\le D}\mu(e)\sqrt{h(e)}\cdot\frac{y_e}{\sqrt{h(e)}}\Bigr)^2\le\Bigl(\sum_{e\mid P,\ e\le D}h(e)\Bigr)\Bigl(\sum_{e\mid P,\ e\le D}\frac{y_e^2}{h(e)}\Bigr)=G(D)\,Q(\lambda)$$ である($\mu(e)^2=1$ を使った。最後は lem-ss-diagonal の 1 と、$e>D$ で $y_e=0$ であることによる)。
2:$y'_e:=\mu(e)h(e)/G(D)$($e\le D$)、$y'_e:=0$($e>D$)とおく。$\lambda_dg(d):=\sum_{d\mid e}\mu(e/d)y'_e$ で $\lambda$ を定めると、$\mu(e/d)\mu(e)=\mu(d)$($e$ は平方因子をもたない)と $e=dm$、$h(dm)=h(d)h(m)$ から、$\lambda=\lambda^{\mathrm S}$ である。この $\lambda$ について $\sum_{d\mid P,\ e\mid d}\lambda_dg(d)=\sum_{c\mid P,\ e\mid c}y'_c\sum_{e\mid d\mid c}\mu(c/d)=y'_e$ なので(prf-ss-diagonal の 3 と同じ計算)、lem-ss-diagonal の $y_e$ は $y'_e$ に等しい。$d>D$ で $\lambda_d=0$ であり、$\lambda_1=\frac1{G(D)}\sum_{m\le D}h(m)=1$ なので $\lambda$ は重みである。lem-ss-diagonal の 1 から $Q(\lambda)=\sum_{e\le D}h(e)/G(D)^2=1/G(D)$ である。
$|\lambda^{\mathrm S}_d|\le1$:$d\le D$ とし、$T:=\sum_{m\mid P/d,\ m\le D/d}h(m)$ とおく。$k\mid d$ と $m\mid P/d$($m\le D/d$)の組ごとに $km$ は $P$ の約数で、$km\le dm\le D$ であり、$(k,m)$ は $km$ から $k=(km,d)$ として復元できるので、異なる組は異なる約数を与える。よって $$G(D)\ge\sum_{k\mid d}\ \sum_{m\mid P/d,\ m\le D/d}h(k)h(m)=T\prod_{p\mid d}(1+h(p))$$ である。$1+h(p)=\frac1{1-g(p)}=\frac{h(p)}{g(p)}$ なので右辺は $T\,h(d)/g(d)$ に等しく、$|\lambda^{\mathrm S}_d|=\frac{h(d)T}{g(d)G(D)}\le1$ である。
3:lem-ss-basic を $\lambda^{\mathrm S}$ に使い、$|\lambda^{\mathrm S}_{d_1}\lambda^{\mathrm S}_{d_2}|\le1$ と $d>D$ で $\lambda^{\mathrm S}_d=0$ を使えば最初の不等式である。$[d_1,d_2]=d$ となる $d_1,d_2\mid P$ の組は、$d$ の各素因数を $d_1$ だけ、$d_2$ だけ、両方のどれに入れるかで決まるので $3^{\nu(d)}$ 個あり、$d_1,d_2\le D$ なら $d\le D^2$ である。$\square$
$\mathcal{A}=(1,\dots,30)$、$\mathcal{P}=\{2,3\}$、$X=30$、$g(d)=1/d$ とする。$6\mid30$ なので剰余項はすべて $0$ である。$h(2)=1$、$h(3)=\frac12$、$h(6)=\frac12$ である。
$G(D)$ は $P$ の約数の一部についての和なので $G(D)\le\sum_{d\mid P}h(d)=\prod_{p\in\mathcal{P}}(1+h(p))=\prod_{p\in\mathcal{P}}(1-g(p))^{-1}$ であり、$X/G(D)\ge X\prod_{p\in\mathcal{P}}(1-g(p))$ である。右辺は「各 $p$ で割り切れない割合 $1-g(p)$ が独立に掛かる」とした場合の個数である。$D\ge P$ なら等号が成り立ち、ex-ss-small の $D=6$ のように $\lambda^{\mathrm S}_d=\mu(d)$ となって、lem-ss-basic は 篩法 の定理「Legendre の恒等式」に戻る。Selberg の篩の要点は、$D$ を $P$ よりずっと小さくとっても、$G(D)$ が $\prod(1-g(p))^{-1}$ と同じ程度の大きさになりうることである。
$q\ge1$ と $a$ を互いに素な整数とし、$x$ 以下の素数 $p$ で $p\equiv a\pmod q$ を満たすものの個数を $\pi(x;q,a)$、$\varphi$ を Euler関数 とする。Dirichletの算術級数定理 により、$q$ を固定して $x\to\infty$ とすると素数は $\varphi(q)$ 個の既約な剰余類にほぼ均等に分かれると期待される。次の定理は、$q$ が $x$ に比べて大きい場合も含めて、1 つの類の素数の個数を上から評価する。
$q\ge1$、$D\ge1$ ならば
$$
\sum_{\substack{d\le D,\ (d,q)=1\\ d\text{ は平方因子をもたない}}}\frac1{\varphi(d)}\ge\frac{\varphi(q)}q\log D
$$
である。
要点:平方因子をもたない $d$ について $1/\varphi(d)$ を、素因数の集合が $d$ と同じ $n$ にわたる $1/n$ の和に展開し、調和級数と比べる。法 $q$ との公約数は積の形で分けて取り除く。
平方因子をもたない $d$ について $\frac1{\varphi(d)}=\prod_{p\mid d}\frac1{p-1}=\prod_{p\mid d}\sum_{k\ge1}p^{-k}=\sum_{n}\frac1n$ である。最後の和は、素因数の集合が $d$ の素因数の集合に一致する正の整数 $n$ にわたる。そのような $n$ は $d$ 以上なので、$q=1$ の場合は$$\sum_{d\le D}\frac{\mu(d)^2}{\varphi(d)}\ge\sum_{n\le D}\frac1n\ge\int_1^{\lfloor D\rfloor+1}\frac{dt}t\ge\log D$$である。一般の $q$ では、平方因子をもたない $d\le D$ を $d=km$($k=(d,q)$、$(m,q)=1$)と一意に分けると $\varphi(d)=\varphi(k)\varphi(m)$ で、$m\le D$ なので$$\sum_{d\le D}\frac{\mu(d)^2}{\varphi(d)}\le\Bigl(\sum_{k\mid q}\frac{\mu(k)^2}{\varphi(k)}\Bigr)\sum_{\substack{m\le D,\ (m,q)=1}}\frac{\mu(m)^2}{\varphi(m)}$$である。$\sum_{k\mid q}\mu(k)^2/\varphi(k)=\prod_{p\mid q}\bigl(1+\frac1{p-1}\bigr)=\frac q{\varphi(q)}$ なので主張を得る。$\square$
任意の $\varepsilon>0$ について $Y_0>0$ があって、互いに素な整数 $q\ge1$、$a$ と、$x/q\ge Y_0$ を満たす実数 $x$ について
$$
\pi(x;q,a)\le\frac{(2+\varepsilon)\,x}{\varphi(q)\log(x/q)}
$$
である。
$Y:=x/q$、$D:=\sqrt Y/\log Y$ とおき、$Y$ は $D\ge2$ となるほど大きいとする。$\mathcal{A}$ を $1\le n\le x$、$n\equiv a\pmod q$ を満たす $n$ の列、$\mathcal{P}$ を $D$ 以下で $q$ を割り切らない素数の集合とする。
主要な項と剰余項:$d\mid P$ なら $(d,q)=1$ なので、中国剰余定理 により $n\equiv a\pmod q$ かつ $d\mid n$ は $n$ が法 $qd$ の 1 つの剰余類に属することと同値である。1 つの剰余類に属する $1\le n\le x$ の個数は、$x/(qd)$ との差が $1$ 以下である(篩法 の補題「双子素数の篩での個数」の証明の第 2 段落と同じ数え方)。よって $X=x/q$、$g(d)=1/d$、$|r_d|\le1$ である。このとき $h(p)=1/(p-1)$、$h(d)=1/\varphi(d)$ で、$d\le D$ の素因数は $D$ 以下なので、$G(D)$ は lem-ss-phi-sum の左辺に等しい。
篩への帰着:$p\equiv a\pmod q$ を満たす素数 $p\le x$ のうち、$p\le D$ のものは $D$ 個以下である。$p>D$ なら $p$ は $\mathcal{P}$ のどの素数でも割り切れないので $S(\mathcal{A},\mathcal{P})$ に数えられる。thm-ss-main の 3 の最初の不等式で、剰余項の和は $D$ 以下の $d_1,d_2$ の組の個数 $D^2$ 以下なので、lem-ss-phi-sum と合わせて
$$
\pi(x;q,a)\le D+\frac{x/q}{G(D)}+D^2\le\frac{x}{\varphi(q)\log D}+2D^2
$$
である。$2D^2=\dfrac{2x}{q(\log Y)^2}\le\dfrac{2x}{\varphi(q)(\log Y)^2}$、$\log D=\frac12\log Y-\log\log Y$ なので
$$
\pi(x;q,a)\le\frac{x}{\varphi(q)\log Y}\Bigl(\frac1{\frac12-\frac{\log\log Y}{\log Y}}+\frac2{\log Y}\Bigr)
$$
である。$Y\to\infty$ で括弧の中は $2$ に収束するので、$Y\ge Y_0$ で $2+\varepsilon$ 以下になる $Y_0$ がとれる。$\square$
絶対定数 $C$ があって、互いに素な整数 $q\ge1$、$a$ と、$x>q$ を満たす実数 $x$ について $\pi(x;q,a)\le\dfrac{Cx}{\varphi(q)\log(x/q)}$ である。
要点:$x/q$ が大きいときは thm-ss-bt、小さいときは類に属する整数の個数という自明な評価を使う。
thm-ss-bt を $\varepsilon=1$ で使い、その $Y_0$($Y_0>e$ にとる)をとる。$x/q\ge Y_0$ なら $C=3$ でよい。$1< x/q< Y_0$ なら、$n\equiv a\pmod q$ となる $1\le n\le x$ は $x/q+1<2x/q$ 個以下なので$$\pi(x;q,a)<\frac{2x}q=\frac{2\log(x/q)\cdot x}{q\log(x/q)}\le\frac{2\log Y_0\cdot x}{\varphi(q)\log(x/q)}$$である($\varphi(q)\le q$)。$C:=\max(3,2\log Y_0)$ とすればよい。$\square$
$\pi(x;q,a)$ は期待される大きさ $\frac{x}{\varphi(q)\log x}$ と比べられる。thm-ss-bt の分母は $\log x$ ではなく $\log(x/q)$ なので、$q$ が $x^{1-\delta}$ 以下($\delta>0$ は定数)なら、期待される大きさの定数倍以下であることが分かる。証明で $D$ が $\sqrt{x/q}$ 程度までしかとれないのは、剰余項の和が $D^2$ 程度になるからであり、定数 $2$ はこのことから来る。van Lint と Richert は同じ方法で剰余項をていねいに扱い、$1\le q< x$ と $(a,q)=1$ のもとで $\pi(x;q,a)<\dfrac{3x}{\varphi(q)\log(x/q)}$ を示した(vLR65 Corollary 2、p. 210。この記事では証明しない)。cor-ss-bt-uniform の形の評価は Pol09 の第 6 章の演習 21(p. 206)にもある。
$x=10^6$ での実際の個数と、thm-ss-bt の右辺から定数を除いた量 $x/(\varphi(q)\log(x/q))$ との比は次のとおりである。
| $(q,a)$ | $(3,1)$ | $(10,3)$ | $(100,1)$ | $(1000,7)$ |
|---|---|---|---|---|
| $\pi(10^6;q,a)$ | $39231$ | $19665$ | $1964$ | $192$ |
| $x/(\varphi(q)\log(x/q))$ | $39317.8$ | $21714.7$ | $2714.3$ | $361.9$ |
| 比 | $0.998$ | $0.906$ | $0.724$ | $0.531$ |
比はどれも thm-ss-bt の定数 $2$ よりかなり小さい。$q$ が大きいほど比が小さいのは、分母の $\log(x/q)$ が $\log x$ より小さいからである。
$x$ 以下の素数 $p$ で $p+2$ も素数であるものの個数を $\pi_2(x)$ と書く。$\mathcal{A}=(n(n+2))_{1\le n\le x}$、$\mathcal{P}$ を $D$ 以下の奇素数の集合とすると、篩法 の補題「双子素数の篩での個数」により、$X=x$、$g(d)=2^{\nu(d)}/d$、$|r_d|\le2^{\nu(d)}$ である。$p\ge3$ なので $0< g(p)=2/p<1$ であり、$h(p)=\dfrac{2/p}{1-2/p}=\dfrac2{p-2}$ である。
上の設定で、$D\ge1$ ならば $G(D)\ge\dfrac{(\log D)^2}{16}$ である。
要点:$h(p)=2/(p-2)$ を $\sum_k\tau(p^k)/p^k$ で下から押さえると、$G(D)$ は奇数 $n\le D$ にわたる $\tau(n)/n$ の和以上になり、それは奇数の逆数の和の平方以上である。
$\tau(n)$ を $n$ の正の約数の個数とする。奇素数 $p$ について、$2(p-1)^2-(2p-1)(p-2)=p\ge0$ なので$$h(p)=\frac2{p-2}\ge\frac{2p-1}{(p-1)^2}=\Bigl(1-\frac1p\Bigr)^{-2}-1=\sum_{k\ge1}\frac{k+1}{p^k}=\sum_{k\ge1}\frac{\tau(p^k)}{p^k}$$である。$d$ を $D$ 以下の奇素数の積(重複なし)とし、積を展開すると、$\tau$ の乗法性から $h(d)\ge\sum_n\tau(n)/n$ である。和は、素因数の集合が $d$ の素因数の集合に一致する $n$ にわたる。奇数 $n\le D$ はちょうど 1 つの $d$($n$ の相異なる素因数の積。$d\le n\le D$)についてこの和に現れるので$$G(D)\ge\sum_{\substack{n\le D\\ n\text{ は奇数}}}\frac{\tau(n)}n=\sum_{\substack{ab\le D\\ a,b\text{ は奇数}}}\frac1{ab}\ge\Bigl(\sum_{\substack{a\le\sqrt D\\ a\text{ は奇数}}}\frac1a\Bigr)^2$$である。$y\ge1$ について、奇数 $a\le y$ では $\frac1a>\frac1{a+1}$ なので、$\sum_{a\le y,\ a\text{ 奇}}\frac1a$ は偶数 $b\le y$ にわたる $\sum\frac1b$ 以上であり、2 つを足すと $\sum_{n\le y}\frac1n\ge\log y$ になる。よって奇数にわたる和は $\frac12\log y$ 以上で、$y=\sqrt D$ として主張を得る。$\square$
定数 $x_0$ があって、$x\ge x_0$ ならば
$$
\pi_2(x)\le\frac{258\,x}{(\log x)^2}
$$
である。
$D:=x^{1/2}/(\log x)^3$ とおき、$x$ は $D\ge3$ かつ $12\log\log x\le\log x$ となるほど大きいとする。篩法 の定理「双子素数の個数の上からの評価」の証明の段 1 と同じく、$p\le D$ の双子素数の組は $D$ 個以下で、$p>D$ なら $n=p$ は $S(\mathcal{A},\mathcal{P})$ に数えられるので、$\pi_2(x)\le D+S(\mathcal{A},\mathcal{P})$ である。
thm-ss-main の 3 の最初の不等式を使う。$2^{\nu([d_1,d_2])}\le2^{\nu(d_1)}2^{\nu(d_2)}$ と、平方因子をもたない $d$ で $2^{\nu(d)}=\tau(d)$ であることから、剰余項の和は
$$
\Bigl(\sum_{d\le D}\tau(d)\Bigr)^2=\Bigl(\sum_{a\le D}\Bigl\lfloor\frac Da\Bigr\rfloor\Bigr)^2\le D^2(1+\log D)^2\le\frac{x(1+\log x)^2}{(\log x)^6}\le\frac{4x}{(\log x)^4}
$$
以下である($\sum_{a\le D}1/a\le1+\log D$、$\log x\ge1$)。主要な項は lem-ss-twin-g から $x/G(D)\le16x/(\log D)^2$ で、$\log D=\frac12\log x-3\log\log x\ge\frac14\log x$ なので $256x/(\log x)^2$ 以下である。まとめて
$$
\pi_2(x)\le x^{1/2}+\frac{256x}{(\log x)^2}+\frac{4x}{(\log x)^4}
$$
であり、$x$ が十分大きければ右辺は $258x/(\log x)^2$ 以下である。$\square$
定数 $258$ は証明の粗さによるもので、意味のある値ではない。篩法 の定理「双子素数の個数の上からの評価」は Brun の純粋篩で $x(\log\log x)^2/(\log x)^2$ の定数倍の評価を与えるので、thm-ss-twin は因子 $(\log\log x)^2$ を除いたことになる。双子素数の個数は $x/(\log x)^2$ の定数倍程度と予想されている(双子素数予想 の予想「双子素数の個数の予想」)ので、この評価は定数倍を除いて最良と期待される大きさである。
$p$ と $p+2$ がともに素数となる素数 $p$ すべてにわたる和 $\sum_p\bigl(\frac1p+\frac1{p+2}\bigr)$ は収束する。
$\frac1{p+2}<\frac1p$ なので $\sum_p\frac1p$ の収束を示せばよい。$2^j< p\le2^{j+1}$ の範囲の和は $\pi_2(2^{j+1})/2^j$ 以下であり、thm-ss-twin により十分大きい $j$ で
$$
\frac{\pi_2(2^{j+1})}{2^j}\le\frac{2\cdot258}{((j+1)\log2)^2}
$$
である。$\sum_j1/(j+1)^2$ は収束するので、正項級数の比較により主張を得る。$\square$
これは 双子素数予想 の定理「Brunの定理」である。篩法 の系「双子素数の逆数の和の収束」は同じ結論を Brun の純粋篩から導くが、そこでは $(\log n)^2/n^2$ の形の和の収束を使う。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 重みの条件 $\lambda_1=1$(def-ss-weights) | $\lambda_d=0$(すべての $d$)、ex-ss-small の $\mathcal{A}$ | lem-ss-basic の不等式 $S\le XQ+R$ |
| $\mathcal{P}$ から $q$ の素因数を除くこと(prf-ss-bt の主要な項) | $q=6$、$a=1$、$x=60$、$d=3$ | $\lvert A_d-x/(qd)\rvert\le1$ |
| 重みの水準 $D$ を $\sqrt{x/q}$ 程度にとる(prf-ss-bt) | $q=1$、$x=10^4$、$D=10^4$ | 剰余項の評価 $D^2$ が自明な評価 $x/q+1$ より小さいこと |
1 行目:すべての重みを $0$ にすると $Q=R=0$ なので右辺は $0$ だが、$S(\mathcal{A},\mathcal{P})=10$ である。$\lambda_1=1$ は、篩に残る項の平方 $\bigl(\sum_{d\mid1}\lambda_d\bigr)^2$ を $1$ にするための条件である。
2 行目:$n\equiv1\pmod6$ なら $3\nmid n$ なので、$1\le n\le60$ で $n\equiv1\pmod 6$ を満たす $10$ 個の $n$ に $3$ の倍数はなく、$A_3=0$ である。一方 $x/(qd)=60/18>3.3$ で、差は $3$ を超える。$d\mid q$ なら $n\equiv a\pmod q$ のもとで $d\mid n$ は $d\mid a$ と同値なので、$A_d$ は $0$ か類に属する整数全体の個数になり、法 $qd$ の 1 つの類にはならない。$(a,q)>1$ では、類に属する素数は $(a,q)$ が素数のときのその素数 $1$ 個だけになり、篩の問題として扱う意味もない。$(a,q)=1$ は thm-ss-bt の主張に置いた条件で、証明の数え上げには使わない。
3 行目:$D=x$ とすると剰余項の評価 $D^2=10^8$ は、$1\le n\le10^4$ の個数 $10^4$ よりはるかに大きく、thm-ss-main の評価から何も分からない。$D$ を大きくすると主要な項 $X/G(D)$ は小さくなるが、剰余項が増えるので、両者のつり合う $D\approx\sqrt{x/q}$ が選ばれる。
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