相似(行列)

同義語:相似行列行列の相似similar matricessimilarity of matrices

概要

相似(行列)(similar matrices)とは、体 $K$ 上の $n$ 次正方行列 $A,B$ の間に $B=P^{-1}AP$ を満たす正則行列 $P$ があるという関係のことで、同値関係である。線形変換の表現行列は基底を取り替えるとちょうどこの形で変わるので、相似な行列は同じ線形変換を別の基底で表したものであり、多項式 $f$ についての $\operatorname{rank}f(A)$(とくに各 $\operatorname{rank}(A-\lambda I)^k$)・最小多項式・固有多項式・行列式・跡は相似で変わらない。巡回ベクトルをもつ行列どうしは固有多項式が等しければ相似で、とくにスカラー行列でない 2 次の行列は跡と行列式で相似が決まる。無限体上の行列が大きな体の上で相似なら元の体の上でも相似であり、すべての正方行列は転置行列と相似である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 表現行列, 正則行列, 固有多項式, 同値関係

2 つの正方行列 $A,B$ が、ある正則行列 $P$ によって $B=P^{-1}AP$ と結ばれるとき、$A$ と $B$ は 相似 であるという。線形変換の表現行列は基底を取り替えるとちょうどこの形で変わるので、相似な行列とは「同じ線形変換を別の基底で見たもの」である(thm-sm-change-of-basis)。行列式・跡・固有多項式・階数など、基底によらない量はすべて相似で変わらず、逆にどの量の組で相似が判定できるかを調べることが、対角化・Jordan 標準形などの標準形の理論の目的である。
この記事では、相似の定義と基本性質のあと、相似で変わらない量(prop-sm-invariants)、巡回ベクトルをもつ行列は固有多項式だけで相似が決まること(thm-sm-cyclic)、無限体 $K$ の上の行列が大きな体の上で相似なら $K$ の上でも相似であること(thm-sm-field-extension)、すべての正方行列が自分の転置行列と相似であること(thm-sm-transpose)を証明する。

定義

以下、$K$ は体、$M_n(K)$ は $K$ の元を成分とする $n$ 次正方行列の全体、$GL_n(K)$ はその中の正則行列の全体である。

相似

$A,B\in M_n(K)$ について、
$$ B=P^{-1}AP $$
を満たす $P\in GL_n(K)$ が存在するとき、$A$ と $B$ は($K$ の上で)相似(similar)であるといい、$A\sim B$ と書く。$A$ と相似な行列全体を $A$ の 相似類(similarity class)という。
ベクトル空間 $V$ の 2 つの線形変換 $S,T$ についても、$T=U^{-1}SU$ を満たす線形同型 $U\colon V\to V$ が存在するとき、$S$ と $T$ は相似であるという。

$K$ が体 $L$ の部分体のとき、$A,B\in M_n(K)$ は $M_n(L)$ の元ともみなせる。$P$ を $GL_n(L)$ から選んでよいときは「$L$ の上で相似」といって区別する(thm-sm-field-extension)。

相似は同値関係

$\sim$ は $M_n(K)$ の上の同値関係である。したがって $M_n(K)$ は相似類に分かれる。

反射律:$A=I_n^{-1}AI_n$ である。対称律:$B=P^{-1}AP$ なら、両側から $P$ と $P^{-1}$ を掛けて $A=PBP^{-1}=(P^{-1})^{-1}BP^{-1}$ であり、$P^{-1}\in GL_n(K)$ である。推移律:$B=P^{-1}AP$、$C=Q^{-1}BQ$ なら、$C=Q^{-1}P^{-1}APQ=(PQ)^{-1}A(PQ)$ であり、$PQ\in GL_n(K)$ である。$\square$

群の言葉では、$GL_n(K)$ は $M_n(K)$ に $P\cdot A:=PAP^{-1}$ で作用し、相似類はこの作用の軌道である。$A,B$ がどちらも正則なら、$A\sim B$ は $A$ と $B$ が群 $GL_n(K)$ の中で共役であることと同じであり、正則行列の相似類は $GL_n(K)$ の共役類である(DF04 §11.2、pp. 419–420)。

直感

$n$ 次元のベクトル空間 $V$ の線形変換 $T$ は、基底 $v$ を選ぶと表現行列 $M_v(T)$ で表される(表現行列 の記事)。基底を $v'$ に取り替えると、表現行列は基底変換行列 $P$ によって $P^{-1}M_v(T)P$ に変わる。つまり 1 つの線形変換には相似類 1 つ分の行列が対応し、相似な 2 つの行列は同じ変換を別の座標系で書いたものにすぎない。
だから「行列 $A$ の性質」のうち線形変換の性質と呼べるもの(固有値、冪零であること、対角化できることなど)は、相似で変わらないはずである。逆に、相似類の中から最も簡単な代表元(対角行列、上三角行列(三角化)、Jordan標準形)を選ぶことは、線形変換の構造が最もよく見える座標系を選ぶことにあたる。

例

対角化による相似

$K=\mathbb{Q}$ とし、$A=\begin{pmatrix}4&1\\2&3\end{pmatrix}$ について、$A(1,1)^{\top}=(5,5)^{\top}$、$A(1,-2)^{\top}=(2,-4)^{\top}$ なので、$(1,1)^{\top}$ は固有値 $5$、$(1,-2)^{\top}$ は固有値 $2$ の固有ベクトルである。これらを列に並べた $P=\begin{pmatrix}1&1\\1&-2\end{pmatrix}$($\det P=-3$)について
$$ P^{-1}AP=\begin{pmatrix}5&0\\0&2\end{pmatrix} $$
であり、$A$ は $\mathrm{diag}(5,2)$ と相似である。列の順序を入れ替えた行列を使えば $\mathrm{diag}(2,5)$ とも相似であり、どちらも同じ相似類に入る(対角行列 の記事の定理「対角行列が相似になる条件」)。

Jordan 細胞とその転置

$J=\begin{pmatrix}\lambda&1\\0&\lambda\end{pmatrix}$ と $R=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$($R^{-1}=R$)について
$$ R^{-1}JR=\begin{pmatrix}\lambda&0\\1&\lambda\end{pmatrix}=J^{\top} $$
である。$R$ は座標の順序を逆にする置換行列で、対角線のすぐ上の $1$ をすぐ下へ移す。一方、$J$ は $\lambda I_2$ と相似でない。$\lambda I_2$ はスカラー行列なので $P^{-1}(\lambda I_2)P=\lambda I_2$ となり、$\lambda I_2$ の相似類は $\lambda I_2$ だけからなるからである。$J$ と $\lambda I_2$ は固有多項式 $(x-\lambda)^2$ が等しいのに相似でない。

2 次の行列の同伴行列

$K=\mathbb{Q}$ とし、$A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}$、$v=e_1$ とおく。$Av=(1,3)^{\top}$ は $e_1$ の定数倍でないので、$u=(e_1,Ae_1)$ は $K^2$ の基底である。固有多項式は $p_A(x)=x^2-5x-2$ で、Cayley–Hamiltonの定理 から $A^2e_1=5Ae_1+2e_1$ である(直接計算しても $A^2e_1=(7,15)^{\top}=5(1,3)^{\top}+2(1,0)^{\top}$)。したがって $u$ に関する表現行列は
$$ P^{-1}AP=\begin{pmatrix}0&2\\1&5\end{pmatrix},\qquad P=\begin{pmatrix}1&1\\0&3\end{pmatrix} $$
である($P$ は $e_1$ と $Ae_1$ を列に並べた行列)。右辺は $p_A$ の同伴行列 $C(p_A)$ である。これは thm-sm-cyclic の場合である。

性質

基底の取り替えとの関係

相似と基底の取り替え

$V$ を $n$ 次元のベクトル空間、$T$ を $V$ の線形変換、$v$ を $V$ の基底とし、$A:=M_v(T)$ とおく。

  1. $V$ の任意の基底 $v'$ について $M_{v'}(T)\sim A$ である。
  2. 逆に、$B\sim A$ なら、$M_{v'}(T)=B$ となる $V$ の基底 $v'$ がある。したがって $\{M_{v'}(T)\mid v'\text{ は }V\text{ の基底}\}$ はちょうど $A$ の相似類である。
  3. $V$ の線形変換 $S,T$ について、$S$ と $T$ が相似であることと、$M_v(S)\sim M_v(T)$ であることは同値である。

1:$P$ を $v$ から $v'$ への基底変換行列とすると、$M_{v'}(T)=P^{-1}AP$ である(線形代数学 の記事の定理「表現行列と基底の取り替え」の 3)。$P$ は正則なので $M_{v'}(T)\sim A$ である。
2:$B=P^{-1}AP$($P=(p_{ij})\in GL_n(K)$)とし、$v'_j:=\sum_ip_{ij}v_i$ とおく。座標写像 $\varphi_v$ について $\varphi_v(v'_j)=Pe_j$ は $P$ の第 $j$ 列であり、正則行列の列は $K^n$ の基底をなす(正則行列 の記事の定理「正則性の同値条件」の 8)。線形同型 $\varphi_v^{-1}$ は基底を基底に写すので、$v'=(v'_1,\dots,v'_n)$ は $V$ の基底であり、$P$ は $v$ から $v'$ への基底変換行列である。1 と同じ定理により $M_{v'}(T)=P^{-1}AP=B$ である。
3:表現行列をとる写像 $M_v\colon\operatorname{End}_K(V)\to M_n(K)$ は環の同型で、線形同型 $U$ は正則行列 $M_v(U)$ に、$U^{-1}$ はその逆行列に写る(表現行列 の記事の定理「線形写像の空間と行列の空間の同型」の 2・3)。$T=U^{-1}SU$ なら $M_v(T)=M_v(U)^{-1}M_v(S)M_v(U)$ なので $M_v(S)\sim M_v(T)$ である。逆に $M_v(T)=P^{-1}M_v(S)P$ なら、$M_v(U)=P$ となる線形変換 $U$ をとると、$U$ は線形同型で、$M_v(U^{-1}SU)=P^{-1}M_v(S)P=M_v(T)$ である。$M_v$ は単射なので $T=U^{-1}SU$ である。$\square$

$V=K^n$、$T(x)=Ax$ とみれば、2 は「$A\sim B$ なら、$B$ は $x\mapsto Ax$ を別の基底で表した行列である」ということである(DF04 §11.2、p. 419)。

相似で変わらない量

相似で変わらない量

$A,B\in M_n(K)$、$P\in GL_n(K)$、$B=P^{-1}AP$ とする。

  1. 任意の多項式 $f\in K[x]$ について $f(B)=P^{-1}f(A)P$ である。とくに $f(A)=O$ と $f(B)=O$ は同値であり、$A$ と $B$ の最小多項式は等しい。
  2. 任意の $f\in K[x]$ について $\operatorname{rank}f(A)=\operatorname{rank}f(B)$ である。とくに、任意の $\lambda\in K$ と $k\ge1$ について $\dim\ker(A-\lambda I_n)^k=\dim\ker(B-\lambda I_n)^k$ である。
  3. $A$ が正則であることと $B$ が正則であることは同値で、そのとき $A^{-1}\sim B^{-1}$ である。また $A^{\top}\sim B^{\top}$ である。
  4. $A$ と $B$ の固有多項式・固有値・行列式・跡は等しい。

1:$k\ge1$ について $(P^{-1}AP)^k=P^{-1}A^kP$ である。$k=1$ では明らかで、$k$ で正しければ $(P^{-1}AP)^{k+1}=P^{-1}A^kP\,P^{-1}AP=P^{-1}A^{k+1}P$ となる($k=0$ でも $I_n=P^{-1}I_nP$)。$f(x)=\sum_kc_kx^k$ なら、行列の積の分配律から $f(B)=\sum_kc_kP^{-1}A^kP=P^{-1}f(A)P$ である。よって $f(A)=O$ なら $f(B)=O$ であり、$A=PBP^{-1}$ から逆も成り立つ。$f(A)=O$ を満たす $f$ の集合と $f(B)=O$ を満たす $f$ の集合が等しいので、その中で次数が最小のモニック多項式、すなわち最小多項式も等しい(最小多項式の一意性は 線形写像の最小多項式 の記事の命題「零化多項式は最小多項式の倍数」)。
2:正則行列を左右から掛けても階数は変わらない(階数(線形代数) の記事の命題「積の階数の不等式」の 2)ので、1 から $\operatorname{rank}f(B)=\operatorname{rank}(P^{-1}f(A)P)=\operatorname{rank}f(A)$ である。$f(x)=(x-\lambda)^k$ とし、次元定理 $\dim\ker X=n-\operatorname{rank}X$(線形代数学 の記事の定理「次元定理」)を使えば後半を得る。
3:$A$ が正則なら $B$ は正則行列の積なので正則で、$B^{-1}=P^{-1}A^{-1}P$ である。$A=PBP^{-1}$ から逆も同じである。転置について、$B^{\top}=P^{\top}A^{\top}(P^{-1})^{\top}$ であり、$Q:=(P^{-1})^{\top}$ とおくと $Q^{-1}=P^{\top}$($P^{\top}(P^{-1})^{\top}=(P^{-1}P)^{\top}=I_n$)なので $B^{\top}=Q^{-1}A^{\top}Q$ である。
4:固有値 の記事の命題「固有多項式の相似不変性」による。$\square$

2 の $k=1$ は固有空間の次元(幾何重複度)、$k=n$ は広義固有空間の次元が相似で変わらないことを言っている。固有多項式が $K$ 上で 1 次式の積に分解する場合には、逆に「すべての $\lambda$ と $k$ について $\operatorname{rank}(A-\lambda I_n)^k=\operatorname{rank}(B-\lambda I_n)^k$」なら $A\sim B$ である。これは Jordan 標準形の一意性から従う(Jordan標準形 の記事の定理「Jordan標準形の一意性」と系「相似であるための条件」)。一方、固有多項式や最小多項式だけでは相似は決まらない(下の「条件を外した反例」の表の 1・2 行目)。

巡回ベクトルと固有多項式

$A\in M_n(K)$ について、$v,Av,\dots,A^{n-1}v$ が $K^n$ の基底になるベクトル $v$ を $A$ の 巡回ベクトル という(線形写像の最小多項式 の記事の定義「巡回ベクトル」)。最高次の係数が $1$ の $n$ 次多項式 $f$ の同伴行列を $C(f)$ と書く(固有多項式 の記事の定義「多項式の同伴行列」)。

巡回ベクトルをもつ行列の相似
  1. $A\in M_n(K)$ が巡回ベクトルをもてば、$A\sim C(p_A)$ である($p_A(x)=\det(xI_n-A)$ は固有多項式)。
  2. $A,B\in M_n(K)$ がどちらも巡回ベクトルをもつとき、$A\sim B$ と $p_A=p_B$ は同値である。
  3. $n=2$ とする。スカラー行列 $cI_2$ と相似な行列は $cI_2$ だけである。スカラー行列でない $A,B\in M_2(K)$ について、$A\sim B$ と「$\operatorname{tr}A=\operatorname{tr}B$ かつ $\det A=\det B$」は同値である。

1:$v$ を巡回ベクトルとし、$u_j:=A^{j-1}v$($j=1,\dots,n$)とおく。$u=(u_1,\dots,u_n)$ は基底なので、$A^nv=-\sum_{k=0}^{n-1}c_kA^kv$ を満たす $c_0,\dots,c_{n-1}\in K$ がただ一通りに定まる。$f(x):=x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_0$ とおく。$x\mapsto Ax$ の基底 $u$ に関する表現行列を求めると、$j< n$ では $Au_j=u_{j+1}$ なので第 $j$ 列は $e_{j+1}$、$Au_n=A^nv=\sum_{k}(-c_k)u_{k+1}$ なので第 $n$ 列は $(-c_0,\dots,-c_{n-1})^{\top}$ である。これは $C(f)$ そのものである。$u_1,\dots,u_n$ を列に並べた行列を $P$ とすると、$P$ は標準基底から $u$ への基底変換行列で、標準基底に関する表現行列は $A$ なので、$P^{-1}AP=C(f)$ である(thm-sm-change-of-basis の 1 の証明と同じ)。よって $A\sim C(f)$ である。相似な行列の固有多項式は等しく(prop-sm-invariants の 4)、$p_{C(f)}=f$ である(固有多項式 の記事の命題「同伴行列の固有多項式」)から、$p_A=f$ であり、$A\sim C(p_A)$ である。
2:$A\sim B$ なら $p_A=p_B$ である(prop-sm-invariants の 4)。逆に $p_A=p_B=:f$ なら、1 により $A\sim C(f)$、$B\sim C(f)$ であり、prop-sm-equivalence により $A\sim B$ である。
3:$P^{-1}(cI_2)P=cI_2$ なので、スカラー行列の相似類はそれ自身だけである。次に、スカラー行列でない $A\in M_2(K)$ は巡回ベクトルをもつことを示す。$K^2$ の $0$ でないベクトルがすべて $A$ の固有ベクトルだとすると、$Ae_1=\alpha e_1$、$Ae_2=\beta e_2$、$A(e_1+e_2)=\gamma(e_1+e_2)$ と書けて、$\alpha e_1+\beta e_2=\gamma e_1+\gamma e_2$ から $\alpha=\gamma=\beta$、すなわち $A=\alpha I_2$ となる。よって $A$ がスカラー行列でなければ、固有ベクトルでない $v\ne0$ があり、$Av$ は $v$ の定数倍でないので $v,Av$ は線形独立で、$K^2$ の基底である。最後に $A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ について $p_A(x)=(x-a)(x-d)-bc=x^2-(\operatorname{tr}A)x+\det A$ なので、$p_A=p_B$ は跡と行列式がそれぞれ等しいことと同値である。2 により主張が従う。$\square$

3 の「スカラー行列でない」は外せない。$I_2$ と $\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ は跡 $2$・行列式 $1$ が等しいが、$I_2$ の相似類は $I_2$ だけなので相似でない(ex-sm-jordan-transpose と同じ理由)。3 次以上では、スカラー行列でなくても巡回ベクトルをもたない行列がある。さらに 4 次以上では、固有多項式と最小多項式がともに等しくても相似とは限らない(表の 2 行目)。一般の体の上で相似を完全に判定するには、巡回ベクトルをもつ部分空間に分解して得られる有理標準形を使う。$A$ と $B$ が相似であることは有理標準形が一致することと同値である(DF04 §12.2 Theorem 17、p. 477)。この記事ではこの定理を証明しない。

係数の体を広げても相似は変わらない

無限体の上で消えない点

$K$ を無限体、$f\in K[t_1,\dots,t_r]$ を $0$ でない多項式とする。このとき $f(a)\ne0$ となる $a\in K^r$ がある。

要点:変数を 1 つずつ固定し、1 変数の多項式の根が有限個であることを繰り返し使う。

詳しい証明を開く

$r$ についての帰納法で示す。$r=1$ のとき、$f$ の次数を $d$ とすると $f$ の $K$ の中の根は高々 $d$ 個である(多項式 の記事の命題「根の個数の上界」)。$K$ は無限集合なので、根でない $a\in K$ がある。$r\ge2$ とし、$f=\sum_{k=0}^{d}g_k(t_1,\dots,t_{r-1})\,t_r^k$ と $t_r$ について整理する。$f\ne0$ なので、ある $g_k$ は $0$ でない。帰納法の仮定により $g_k(a')\ne0$ となる $a'\in K^{r-1}$ がある。すると $f(a',t_r)\in K[t_r]$ は $t_r^k$ の係数が $0$ でないので $0$ でない多項式であり、$r=1$ の場合により $f(a',a_r)\ne0$ となる $a_r\in K$ がある。$a:=(a',a_r)$ とおけばよい。$\square$

体の拡大と相似

$K$ を無限体、$L$ を $K$ を部分体として含む体とし、$A,B\in M_n(K)$ とする。$A$ と $B$ が $L$ の上で相似($B=P^{-1}AP$ となる $P\in GL_n(L)$ がある)なら、$K$ の上でも相似($B=Q^{-1}AQ$ となる $Q\in GL_n(K)$ がある)である。

$P$ の $n^2$ 個の成分が $K$ 上で張る $L$ の部分空間を $U$ とし、その基底 $c_1,\dots,c_r\in L$ をとる($P\ne O$ なので $r\ge1$)。$P$ の各成分を $c_1,\dots,c_r$ の $K$ 係数の線形結合で書くと、$P_k\in M_n(K)$ によって
$$ P=c_1P_1+c_2P_2+\cdots+c_rP_r $$
と書ける。
$B=P^{-1}AP$ は $AP=PB$ と同値である。これを代入すると $\sum_kc_k(AP_k-P_kB)=O$ である。$AP_k-P_kB$ は $K$ の元を成分とする行列なので、各成分ごとに見ると、$c_1,\dots,c_r$ の $K$ 係数の線形結合が $0$ になっている。$c_1,\dots,c_r$ は $K$ 上線形独立なので係数はすべて $0$ であり、$AP_k=P_kB$($k=1,\dots,r$)である。
次に、$r$ 個の変数の多項式
$$ g(t_1,\dots,t_r):=\det\Bigl(\sum_{k=1}^{r}t_kP_k\Bigr)\in K[t_1,\dots,t_r] $$
を考える(行列式は成分の多項式なので、$g$ は $K$ 係数の多項式である)。$t_k$ に $c_k$ を代入すると $g(c_1,\dots,c_r)=\det P\ne0$ なので、$g$ は $0$ でない多項式である。lem-sm-nonvanishing により $g(a)\ne0$ となる $a=(a_1,\dots,a_r)\in K^r$ がある。$Q:=\sum_ka_kP_k\in M_n(K)$ とおくと $\det Q=g(a)\ne0$ なので $Q\in GL_n(K)$ であり、
$$ AQ=\sum_ka_kAP_k=\sum_ka_kP_kB=QB $$
であるから $B=Q^{-1}AQ$ である。$\square$

とくに、実数を成分とする 2 つの行列が複素数の正則行列で相似なら、実数の正則行列でも相似である。たとえば回転行列 $R_\theta=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}$($\theta\notin\pi\mathbb{Z}$)と $R_{-\theta}$ は、複素数の上ではどちらも $\mathrm{diag}(e^{i\theta},e^{-i\theta})$ と相似なので互いに相似であり、thm-sm-field-extension により実数の上でも相似である。実際 $S=\mathrm{diag}(1,-1)$ について $S^{-1}R_\theta S=R_{-\theta}$ である。
$K$ が有限体のときも同じ結論が成り立つ(DF04 §12.2 Corollary 18、pp. 477–478。有理標準形が体を広げても変わらないことによる)。この記事では有限体の場合を証明しない。上の証明は $K$ が無限であることを lem-sm-nonvanishing で使っており、有限体では $0$ でない多項式が $K^r$ のすべての点で消えることがある($\mathbb{F}_2$ 上の $t^2+t$)。

転置行列との相似

正方行列は転置行列と相似

$K$ を無限体とする。任意の $A\in M_n(K)$ について $A\sim A^{\top}$ である。

段 1(Jordan 細胞)。$k\ge1$ とし、$R_k\in M_k(K)$ を $R_ke_j=e_{k+1-j}$ で定まる置換行列(座標の順序を逆にする行列)とする。$R_k^2=I_k$ である。$N:=J_k(0)$ は $(j-1,j)$ 成分だけが $1$ の行列なので、$Ne_1=0$、$Ne_j=e_{j-1}$($j\ge2$)である。一方 $N^{\top}e_j=e_{j+1}$($j< k$)、$N^{\top}e_k=0$ である。$j\le k-1$ なら $k+1-j\ge2$ なので
$$ R_kNR_ke_j=R_kNe_{k+1-j}=R_ke_{k-j}=e_{j+1}, $$
$j=k$ なら $R_kNR_ke_k=R_kNe_1=0$ である。よって $R_kNR_k=N^{\top}$ であり、$J_k(\lambda)=\lambda I_k+N$ について $R_k^{-1}J_k(\lambda)R_k=\lambda I_k+N^{\top}=J_k(\lambda)^{\top}$ である。
段 2(代数閉体)。$K$ が代数閉体なら、$A$ は Jordan 行列 $J=\mathrm{diag}(J_{k_1}(\lambda_1),\dots,J_{k_s}(\lambda_s))$ と相似である(Jordan標準形 の記事の定理「Jordan標準形の存在」)。$R:=\mathrm{diag}(R_{k_1},\dots,R_{k_s})$ とおくと、区分けした行列の積(行列 の記事の命題「区分けした行列の積」)と段 1 により $R^{-1}JR=\mathrm{diag}(J_{k_1}(\lambda_1)^{\top},\dots,J_{k_s}(\lambda_s)^{\top})=J^{\top}$ である。よって $J\sim J^{\top}$ である。$A\sim J$ なら $A^{\top}\sim J^{\top}$(prop-sm-invariants の 3)なので、$A\sim J\sim J^{\top}\sim A^{\top}$ である。
段 3(無限体)。$K$ の代数閉包 $\overline{K}$ をとる(代数的閉包 の記事の定理「代数閉包の存在」)。$A,A^{\top}$ を $M_n(\overline{K})$ の元とみると、段 2 により $\overline{K}$ の上で相似である。$K$ は無限体なので、thm-sm-field-extension により $K$ の上でも相似である。$\square$

$K$ が有限体のときも $A\sim A^{\top}$ である。段 3 で thm-sm-field-extension の代わりに DF04 §12.2 Corollary 18 を使えばよいが、この記事ではその系を証明しない。$A$ と $A^{\top}$ は同じ線形変換を表すとは限らない($x\mapsto Ax$ と $x\mapsto A^{\top}x$ は一般に別の写像である)が、相似類としては区別できない。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
スカラー行列でない($n=2$)$I_2$ と $\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$跡と行列式が等しければ相似
巡回ベクトルをもつ$N_1=J_2(0)\oplus J_2(0)$ と $N_2=J_2(0)\oplus O_2$固有多項式と最小多項式が等しければ相似
係数が体整数を成分とする $\mathrm{diag}(1,3)$ と $\begin{pmatrix}1&1\\0&3\end{pmatrix}$大きい体($\mathbb{Q}$)の上で相似なら元の係数の上でも相似
両側で同じ $P$ を使う$\mathrm{diag}(1,0)$ と $\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$$QAP$($P,Q$ 正則)の形で移り合えば相似
右に $P$、左に $P^{-1}$ を掛ける実数の上の $I_2$ と $2I_2$$P^{\top}AP$ の形で移り合えば相似
反例:表の各行の確かめ

1 行目:どちらも跡 $2$、行列式 $1$ だが、$I_2$ の相似類は $I_2$ だけなので相似でない(thm-sm-cyclic の 3)。右の行列 $\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ は $e_2$ を巡回ベクトルにもつが、$I_2$ はもたない。
2 行目:$J_2(0)=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ の区分対角行列 $N_1,N_2\in M_4(K)$ は、どちらも対角成分が $0$ の上三角行列なので固有多項式は $x^4$ である。$N_1^2=N_2^2=O$ で $N_1,N_2\ne O$ なので、最小多項式はどちらも $x^2$ である。しかし $\operatorname{rank}N_1=2$、$\operatorname{rank}N_2=1$ なので、prop-sm-invariants の 2($f(x)=x$)により相似でない。どちらも巡回ベクトルをもたない(もてば最小多項式は次数 $4$ になる。線形写像の最小多項式 の記事の命題「巡回ベクトルがある場合」)。
3 行目:$A=\mathrm{diag}(1,3)$、$B=\begin{pmatrix}1&1\\0&3\end{pmatrix}$ とする。$P=\begin{pmatrix}1&1\\0&2\end{pmatrix}$ について $BP=PA$ なので、$\mathbb{Q}$ の上では $P^{-1}BP=A$ で相似である。ところが、整数を成分とし行列式が $\pm1$ の $Q$(逆行列も整数行列になる正則行列)で $Q^{-1}BQ=A$ となるものはない。実際、そのような $Q$ があれば $BQ=QA$ なので、$Q$ の第 1 列 $q_1$ は $Bq_1=q_1$、第 2 列 $q_2$ は $Bq_2=3q_2$ を満たす。$B$ の固有値 $1$ の固有ベクトルは $(1,0)^{\top}$ の定数倍、固有値 $3$ の固有ベクトルは $(1,2)^{\top}$ の定数倍なので、$q_1=(a,0)^{\top}$、$q_2=(b,2b)^{\top}$ と書け、成分が整数なので $a,b\in\mathbb{Z}$ である。すると $\det Q=2ab$ は偶数で $\pm1$ にならず、矛盾する。thm-sm-field-extension は係数が体であることを使っている。
4 行目:どちらも階数 $1$ なので、正則行列 $P,Q$ で一方を他方の $QAP$ の形に移せる(階数(線形代数) の記事の定理「階数による標準形」)。しかし跡が $1$ と $0$ で異なるので相似でない(prop-sm-invariants の 4)。定義域と終域の基底を別々に取り替えてよい線形写像の分類(階数だけで決まる)と、同じ基底を使う線形変換の分類(相似)は別物である。
5 行目:$P=\sqrt2\,I_2$ について $P^{\top}I_2P=2I_2$ なので、$I_2$ と $2I_2$ は $P^{\top}AP$ の形で移り合う(合同である)。しかしスカラー行列の相似類はそれ自身だけなので相似でない。

補足

相似・同値・合同

正方行列 $A$ を正則行列で挟む変換には、表すものに応じて 3 種類がある。

相似同値合同
変換$P^{-1}AP$$QAP$$P^{\top}AP$
行列が表すもの線形変換 $V\to V$線形写像 $V\to W$双線形形式 $V\times V\to K$
基底の取り替え$V$ の基底を 1 つ$V$ と $W$ の基底を別々に$V$ の基底を 1 つ
変わらない量の例固有多項式・最小多項式・$\operatorname{rank}(A-\lambda I)^k$階数階数・行列式の平方類

合同は 2次形式 や双線形形式の行列の変わり方であり、実対称行列については正と負の固有値の個数が合同で変わらない(2次形式 の記事の定理「実2次形式の係数の符号の不変性」)。直交行列 $P$($P^{\top}=P^{-1}$)を使うときは、相似と合同が一致する。

文献

相似の定義、基底の取り替えとの関係、正則行列の相似類が $GL(V)$ の共役類であることは DF04 §11.2(pp. 419–420)にある。有理標準形による相似の判定は同 §12.2 Theorem 17(p. 477)、係数の体を広げても相似が変わらないことは Corollary 18(pp. 477–478)にある。基底の取り替えの公式は Axl24 3.84(§3D、p. 93)にある。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004, §11.2(pp. 419–420)、§12.2 Theorem 17・Corollary 18(pp. 477–478)

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