壁紙模様の対称性(symmetry of wallpaper patterns)とは、平行でない 2 つの向きの平行移動で重なり、重なる平行移動の長さに正の最小値がある平面の模様(周期的な模様)を自分自身に重ねる合同変換のことである。中心の定理は結晶学的制限で、周期的な模様の回転対称の角 $\varphi$($0^\circ<\varphi<360^\circ$)は $60^\circ$ か $90^\circ$ の倍数に限られ、1 点のまわりの回転対称の位数は $1,2,3,4,6$ のどれかである。証明は、最短の平行移動を回すともっと短い平行移動ができるという矛盾によるものと、格子の基底で回転を表した整数行列のトレース $2\cos\varphi$ が整数になることによる 2 通り。有限の模様なら 5 回の回転対称もありうる。周期的な模様の対称性の型(壁紙群)は 17 種類ある。
前提知識: 格子点の正多角形, 平面の合同変換の分類, 回転・鏡映と行列の群, トレースと固有値
正方形のタイルを敷き詰めた床を思い浮かべる。床全体を、タイル 1 枚分だけ横にずらしても、縦にずらしても、模様はもとの模様に重なる。タイルの中心のまわりに $90^\circ$ 回しても重なる。蜂の巣の模様なら、正六角形の中心のまわりに $60^\circ$ 回すと重なる。
では、$72^\circ$ 回して重なる床の模様、つまり 5 回回すと 1 周する対称性をもつ、平面全体にくり返す模様は作れるだろうか。正多角形の敷き詰め で見たように、正五角形では平面を敷き詰められない。しかし正五角形を使わない模様なら、作れるかもしれない。
正方形の敷き詰め(左)と正六角形の敷き詰め(右)の回転の中心。青い正方形は 4 回、橙の六角形は 6 回、緑の三角形は 3 回、赤い菱形は 2 回の回転の中心
図 1 の記号のように、回転の中心には「何回回すと 1 周するか」の数がある。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 点を回す式 $(x,y)\mapsto(1-y,x)$ | 模様の対称性 | 合同変換の群 |
| 平行移動で重なる | 周期的な模様・平行移動の格子 | 2 次元の格子 $\mathbb{Z}^2$ |
| 回転の行列 $R(\theta)$ | 格子を保つ回転 | 整数行列と共役 |
| $2\cos\theta$ が整数 | 回転は 2・3・4・6 回 | 結晶学的制限 |
| 模様の型 | 17 種類 | 壁紙群(2 次元結晶群) |
平面の各点に色を 1 つずつ割り当てたものを 模様 とよぶ。平面の合同変換 $f$ が模様の 対称性 であるとは、どの点 $x$ についても、$f(x)$ の色が $x$ の色と同じであることをいう。
合同変換は、平行移動・回転・鏡映・すべり鏡映の 4 種類に分類される(平面の合同変換の分類)。模様の対称性はこれらのどれかである。2 つの対称性を続けて行った写像も、対称性の逆写像も、また対称性である(色を保つ写像を続けても色は保たれる)。
模様の対称性になっている平行移動 $x\mapsto x+\vec t$ のベクトル $\vec t$ の全体を $T$ とかき、模様の 平行移動の格子 とよぶ($\vec 0\in T$)。模様が次の (i)(ii) を満たすとき、周期的な模様(壁紙模様)という。
(R1) $T$ に、平行でない 2 つのベクトルがある(2 つの向きにくり返す)。
(R2) $T$ の $\vec 0$ でないベクトルの長さには、正の最小値がある(いくらでも短い平行移動で重なることはない)。
模様の対称性になっている、点 $c$ のまわりの回転を、$c$ を中心とする 回転対称 という。
条件 (ii) は、一色に塗った平面のような「どれだけずらしても重なる」模様を除くためのものである(ex-wpg-cx-plain)。
平行移動の格子は、足し算と $-1$ 倍について閉じている。$\vec s,\vec t\in T$ なら、$\vec s$ の平行移動に続けて $\vec t$ の平行移動を行うと $\vec s+\vec t$ の平行移動で、対称性を続けたものも対称性だから $\vec s+\vec t\in T$ である。逆写像を考えれば $-\vec t\in T$ である。
回転対称があると、平行移動の格子 $T$ は、その回転で自分自身に重なる。これが主定理の鍵である。以下、原点のまわりの角 $\varphi$ の回転の行列を $R(\varphi)$ とかく(回転・鏡映と行列の群)。
周期的な模様が、点 $c$ を中心とする角 $\varphi$ の回転対称 $\rho$ をもつとする。このとき、$\vec t\in T$ ならば $R(\varphi)\vec t\in T$ である。
方針:「$\rho$ の逆写像 → $\vec t$ の平行移動 → $\rho$」と続けた写像が、$R(\varphi)\vec t$ の平行移動になることを式で確かめる。
段 1(式で書く)。$\rho(x)=c+R(\varphi)(x-c)$、$\rho^{-1}(x)=c+R(-\varphi)(x-c)$ である。$\tau(x)=x+\vec t$ を $\vec t$ の平行移動とする。
段 2(続けた写像)。点 $x$ に $\rho^{-1}$、$\tau$、$\rho$ をこの順に行うと
$$
\rho\bigl(\tau(\rho^{-1}(x))\bigr)=c+R(\varphi)\bigl(c+R(-\varphi)(x-c)+\vec t-c\bigr)=c+(x-c)+R(\varphi)\vec t=x+R(\varphi)\vec t
$$
である($R(\varphi)R(-\varphi)$ は角 $0$ の回転で、何も動かさない)。つまり続けた写像は $R(\varphi)\vec t$ の平行移動である。
段 3(対称性になる)。$\rho^{-1}$、$\tau$、$\rho$ はどれも模様の対称性なので、続けた写像も対称性である。よって $R(\varphi)\vec t\in T$ である。$\square$
周期的な模様が、点 $c$ を中心とする角 $\varphi$($0^\circ<\varphi<360^\circ$)の回転対称をもつならば、$\varphi$ は
$$
60^\circ,\quad90^\circ,\quad120^\circ,\quad180^\circ,\quad240^\circ,\quad270^\circ,\quad300^\circ
$$
のどれかである。したがって、$c$ を中心とする回転対称の角のうち最小の正のものは $\dfrac{360^\circ}n$($n=2,3,4,6$)の形で、$c$ のまわりの回転対称は、この角の $0,1,\dots,n-1$ 倍の $n$ 個である。$c$ を中心とする回転対称が恒等写像しかないときも $n=1$ とすると、$n$ は
$$
n=1,\quad2,\quad3,\quad4,\quad6
$$
のどれかである。この $n$ を、$c$ を中心とする 回転対称の位数 という。
方針:$T$ の最短のベクトル $\vec t$ を 1 つとる。回転の角が小さすぎたり $72^\circ$ だったりすると、$\vec t$ を回したベクトルの和や差から、$\vec t$ より短い $\vec 0$ でない $T$ のベクトルができて矛盾する。
段 1(最短のベクトル)。条件 (ii) により、$T$ の $\vec 0$ でないベクトルの長さには正の最小値 $\ell$ がある。長さ $\ell$ の $\vec t\in T$ をとる。
段 2(角の集まり)。$c$ を中心とする回転対称の角($0^\circ$ 以上 $360^\circ$ 未満で測る)の集まりを $A$ とする。$0^\circ\in A$ で、$\alpha,\beta\in A$ なら $\alpha+\beta$ と $-\alpha$ も($360^\circ$ の倍数を足し引きして)$A$ に入る。回転対称を続けたものと逆写像も、$c$ を中心とする回転対称だからである。
段 3(小さい角はない)。$A$ に $0^\circ<\varphi<60^\circ$ の角 $\varphi$ があったとする。lem-wpg-conj により $R(\varphi)\vec t\in T$ で、差 $\vec s=R(\varphi)\vec t-\vec t$ も $T$ に入る。$\vec t$ と $R(\varphi)\vec t$ は長さ $\ell$ でなす角 $\varphi$ なので、余弦定理により
$$
\lvert\vec s\rvert^2=\ell^2+\ell^2-2\ell^2\cos\varphi=2\ell^2(1-\cos\varphi)
$$
である。$0^\circ<\varphi<60^\circ$ から $\dfrac12<\cos\varphi<1$ で、$0<\lvert\vec s\rvert^2<\ell^2$ となる。$\vec s$ は長さが $\ell$ より短い $\vec 0$ でない $T$ のベクトルで、$\ell$ の最小性に反する。同じく $300^\circ<\varphi<360^\circ$ の角もない($-\varphi$ を考えると $0^\circ<360^\circ-\varphi<60^\circ$ の角が $A$ に入るから)。
段 4($A$ は等間隔)。$A$ の異なる 2 つの角 $\beta<\gamma$ の差 $\gamma-\beta$ も段 2 により $A$ に入る正の角なので、段 3 より $60^\circ$ 以上である。$0^\circ$ 以上 $360^\circ$ 未満の範囲に、互いに $60^\circ$ 以上離れた角は 6 個までしか置けないので、$A$ は有限個の角からなる。$A$ に正の角があるとし、その最小のものを $\alpha$ とする。$A$ の角 $\beta$ について、$\beta=k\alpha+\gamma$($k$ は整数、$0^\circ\le\gamma<\alpha$)と書くと、段 2 より $\gamma=\beta-k\alpha\in A$ で、$\alpha$ の最小性から $\gamma=0^\circ$ である。$\beta=360^\circ$ にも同じことが使えて($360^\circ$ は $0^\circ$ と同じ回転)、$360^\circ$ は $\alpha$ の整数倍、つまり $\alpha=\dfrac{360^\circ}n$($n$ は正の整数)である。よって $A$ は $\alpha$ の $0,1,\dots,n-1$ 倍の $n$ 個である。段 3 から $\alpha\ge60^\circ$、つまり $n\le6$ である。
段 5($n=5$ はない)。$n=5$ とすると $\alpha=72^\circ$ で、$144^\circ\in A$ である。lem-wpg-conj により $\vec s=\vec t+R(144^\circ)\vec t\in T$ である。$\vec t$ と $R(144^\circ)\vec t$ は長さ $\ell$ でなす角 $144^\circ$ なので
$$
\lvert\vec s\rvert^2=\ell^2+\ell^2+2\ell^2\cos144^\circ=2\ell^2(1+\cos144^\circ)
$$
である。$120^\circ<144^\circ<180^\circ$ から $-1<\cos144^\circ<-\dfrac12$ で、$0<\lvert\vec s\rvert^2<\ell^2$ となり、$\ell$ の最小性に反する。
段 6(まとめ)。段 4・段 5 より $n$ は $1,2,3,4,6$ のどれかで、$A$ の正の角は $\dfrac{360^\circ}n$ の倍数である。$n=2,3,4,6$ の倍数($360^\circ$ 未満)を集めると $60^\circ,90^\circ,120^\circ,180^\circ,240^\circ,270^\circ,300^\circ$ になる。$\square$
5 回の回転対称があると、最短の平行移動 t と 144° 回した R(144°)t の和が t より短くなる
8 回の回転対称があると、t と 45° 回した R(45°)t の差が t より短くなる
prf-wpg-main では、$\vec t$ を 最短 のベクトルに選んだことが効いている。最短でないベクトルから始めると、作ったベクトルが短くなっても矛盾にはならない。たとえば正方形の敷き詰めで $\vec t=(2,0)$ から始めて $90^\circ$ 回した差を作ると $(-2,2)$ で長くなるし、$\vec t=(2,0)$ より短い $(1,0)$ はもともと $T$ に入っている。
格子点の正多角形 の「大学数学で見る」で、$2\cos\theta$ が有理数になるかどうかが鍵だった。周期的な模様では、もっと強く $2\cos\varphi$ が 整数 になる。そのために、平行移動の格子を 2 つのベクトルの整数倍の和で書く。
周期的な模様の平行移動の格子 $T$ には、平行でない 2 つのベクトル $\vec e_1,\vec e_2$ があって、$T$ のベクトルはどれも $m\vec e_1+n\vec e_2$($m,n$ は整数)とただ 1 通りに書ける。このような $\vec e_1,\vec e_2$ を $T$ の 基底 という。
要点:$\vec e_1$ を $T$ の最短のベクトル、$\vec e_2$ を $\vec e_1$ と平行でない $T$ のベクトルのうち最短のものにとる。$T$ のベクトル $\vec v=x\vec e_1+y\vec e_2$ から、$x,y$ に最も近い整数 $m,n$ を使って $m\vec e_1+n\vec e_2$ を引くと、残りは $\vec e_2$ より短いので、$\vec e_1$ の整数倍でなければならず、さらに $\vec e_1$ より短いので $\vec 0$ になる。
段 1(有限性)。条件 (ii) の最小値を $\ell$ とする。$T$ の 2 つのベクトルの差は $T$ に入るので、$T$ の異なる 2 つのベクトルの終点(始点を原点にそろえる)は $\ell$ 以上離れている。したがって、どの円の中にも $T$ のベクトルの終点は有限個しかない(半径 $\dfrac\ell2$ の円を各点のまわりに置くと互いに重ならず、面積を比べると個数が限られる)。
段 2($\vec e_1,\vec e_2$ を選ぶ)。$\vec 0$ でない最短のベクトル $\vec e_1$ をとる。条件 (i) により $\vec e_1$ と平行でない $T$ のベクトルがあり、段 1 によりそのうち最短のもの $\vec e_2$ がとれる。$\vec e_1,\vec e_2$ は平行でないので、平面のベクトル $\vec v$ はどれも $\vec v=x\vec e_1+y\vec e_2$($x,y$ は実数)とただ 1 通りに書ける。
段 3($y$ は整数)。$\vec v\in T$ とし、$x,y$ に最も近い整数を $m,n$ とする($\lvert x-m\rvert\le\dfrac12$、$\lvert y-n\rvert\le\dfrac12$)。$\vec w=\vec v-m\vec e_1-n\vec e_2=x'\vec e_1+y'\vec e_2$($x'=x-m$、$y'=y-n$)は $T$ に入る。$y'\ne0$ と仮定する。$\vec w$ は $\vec e_1$ と平行でない。$x'=0$ なら $\lvert\vec w\rvert=\lvert y'\rvert\lvert\vec e_2\rvert\le\dfrac12\lvert\vec e_2\rvert<\lvert\vec e_2\rvert$ である。$x'\ne0$ なら、平行でない 2 つのベクトル $x'\vec e_1$、$y'\vec e_2$ の和なので三角形の 2 辺の和の不等式は等号にならず、$\lvert\vec w\rvert<\lvert x'\rvert\lvert\vec e_1\rvert+\lvert y'\rvert\lvert\vec e_2\rvert\le\dfrac12\lvert\vec e_1\rvert+\dfrac12\lvert\vec e_2\rvert\le\lvert\vec e_2\rvert$ である($\lvert\vec e_1\rvert\le\lvert\vec e_2\rvert$ を使った)。どちらの場合も $\vec e_2$ の選び方に反するので、$y'=0$、つまり $y=n$ は整数である。
段 4($x$ も整数)。すると $\vec w=x'\vec e_1\in T$ で、$\lvert\vec w\rvert=\lvert x'\rvert\lvert\vec e_1\rvert\le\dfrac12\lvert\vec e_1\rvert$ である。$\vec w\ne\vec 0$ なら $\vec e_1$ の最短性に反するので $\vec w=\vec 0$、つまり $x=m$ も整数である。表し方がただ 1 通りなのは、$\vec e_1,\vec e_2$ が平行でないからである。
基底 $\vec e_1,\vec e_2$ を使うと、回転 $R(\varphi)$ は整数を成分とする行列で表される。
周期的な模様が角 $\varphi$ の回転対称をもつならば、$2\cos\varphi$ は整数である。
方針:$R(\varphi)$ を基底 $\vec e_1,\vec e_2$ で表した行列 $A$ は整数行列で、そのトレース(対角成分の和)が $R(\varphi)$ のトレース $2\cos\varphi$ に等しいことを示す。
段 1(整数行列)。lem-wpg-conj により $R(\varphi)\vec e_1$ と $R(\varphi)\vec e_2$ は $T$ に入るので、lem-wpg-basis により
$$
R(\varphi)\vec e_1=a\vec e_1+c\vec e_2,\qquad R(\varphi)\vec e_2=b\vec e_1+d\vec e_2
$$
($a,b,c,d$ は整数)と書ける。$\vec e_1,\vec e_2$ を列に並べた行列を $P$、$A=\begin{pmatrix}a&b\\ c&d\end{pmatrix}$ とすると、この 2 式はまとめて $R(\varphi)P=PA$ と書ける。$\vec e_1,\vec e_2$ は平行でないので $P$ には逆行列があり、$A=P^{-1}R(\varphi)P$ である。
段 2(トレース)。2 次の正方行列 $X,Y$ について $\mathrm{tr}(XY)=\mathrm{tr}(YX)$ である($X=(x_{ij})$、$Y=(y_{ij})$ とすると、どちらも $x_{11}y_{11}+x_{12}y_{21}+x_{21}y_{12}+x_{22}y_{22}$)。$X=P^{-1}$、$Y=R(\varphi)P$ とすると
$$
\mathrm{tr}A=\mathrm{tr}\bigl(P^{-1}\cdot R(\varphi)P\bigr)=\mathrm{tr}\bigl(R(\varphi)P\cdot P^{-1}\bigr)=\mathrm{tr}R(\varphi)=\cos\varphi+\cos\varphi=2\cos\varphi
$$
である(トレースと固有値)。
段 3(結論)。$\mathrm{tr}A=a+d$ は整数なので、$2\cos\varphi$ は整数である。$\square$
thm-wpg-trace から thm-wpg-main がすぐに出る。$-1\le\cos\varphi\le1$ なので $2\cos\varphi$ は $-2,-1,0,1,2$ のどれかで、$0^\circ<\varphi<360^\circ$ でこれを満たす角は
$$
2\cos\varphi=-2,\,-1,\,0,\,1\quad\Longleftrightarrow\quad\varphi=180^\circ;\ 120^\circ,240^\circ;\ 90^\circ,270^\circ;\ 60^\circ,300^\circ
$$
である($2\cos\varphi=2$ は $\varphi=0^\circ$ だけ)。これは thm-wpg-main の 7 つの角と一致する。
回転対称の位数は、平行移動の格子の形も決める。
周期的な模様が位数 $4$ の回転対称をもてば、平行移動の格子 $T$ は正方形の格子(長さの等しい垂直な 2 つのベクトルを基底にもつ)である。位数 $3$ か $6$ の回転対称をもてば、$T$ は三角格子(長さが等しくなす角が $60^\circ$ の 2 つのベクトルを基底にもつ)である。
要点:$T$ の最短のベクトル $\vec e_1$ を回したベクトルも最短で、$\vec e_1$ と平行でないので、lem-wpg-basis の証明の $\vec e_2$ にとれる。
lem-wpg-basis の証明は、$\vec e_1$ を最短のベクトル、$\vec e_2$ を $\vec e_1$ と平行でないベクトルのうち最短のものにとれば、どのようにとっても基底になることを示している。位数 $4$ なら、lem-wpg-conj により $R(90^\circ)\vec e_1\in T$ で、長さは $\vec e_1$ と同じ(つまり $T$ の最短の長さ)で、$\vec e_1$ に垂直なので平行でない。よって $\vec e_2=R(90^\circ)\vec e_1$ にとれて、基底 $\vec e_1,R(90^\circ)\vec e_1$ は長さが等しく垂直である。位数 $3$ なら $R(120^\circ)\vec e_1\in T$、位数 $6$ なら $R(60^\circ)\vec e_1\in T$ で、同じ理由で $\vec e_2$ にとれる。$\vec e_2=R(120^\circ)\vec e_1$ のとき、$\vec e_1$ と $\vec e_1+\vec e_2$ も基底で($m\vec e_1+n\vec e_2=(m-n)\vec e_1+n(\vec e_1+\vec e_2)$)、$\vec e_1+\vec e_2=R(60^\circ)\vec e_1$ なので、長さが等しくなす角 $60^\circ$ の基底になる($1+\cos120^\circ=\cos60^\circ$、$\sin120^\circ=\sin60^\circ$ から、$\vec e_1+R(120^\circ)\vec e_1=R(60^\circ)\vec e_1$)。
| 位数 $n$ | 最小の角 | $2\cos\dfrac{360^\circ}n$ | 平行移動の格子の形 | 例 |
|---|---|---|---|---|
| $1$ | — | $2$ | どんな形でもよい | 回転対称のない模様 |
| $2$ | $180^\circ$ | $-2$ | どんな形でもよい | 図 4 の左上 |
| $3$ | $120^\circ$ | $-1$ | 三角格子 | 図 4 の右上 |
| $4$ | $90^\circ$ | $0$ | 正方形の格子 | 図 4 の左下、正方形の敷き詰め |
| $6$ | $60^\circ$ | $1$ | 三角格子 | 図 4 の右下、蜂の巣の模様 |
位数 $2$ はどの格子でも起こる。$R(180^\circ)\vec t=-\vec t$ はいつも $T$ に入るからである。
自作の模様。左上は 2 回、右上は 3 回、左下は 4 回、右下は 6 回の回転対称をもち、黒い点がその回転の中心
図 4 の 4 つの模様は、曲がった腕の形(左右が非対称)を、格子の各点のまわりに $n$ 本ずつ等間隔に並べて作った。
(1) 左上:格子は $(1,0)$ と $(0.35,0.8)$ を基底とする平行四辺形の格子で、腕は 2 本($180^\circ$ ずつ)である。黒い点のまわりの $180^\circ$ の回転で重なるが、$90^\circ$ の回転では重ならない。
(2) 右上と右下:三角格子で、腕は 3 本(右上)と 6 本(右下)である。右上は $120^\circ$ の回転で重なるが $60^\circ$ では重ならない。右下は $60^\circ$ で重なる。
(3) 左下:正方形の格子で、腕は 4 本である。黒い点のまわりのほか、4 つの黒い点に囲まれた正方形の中心のまわりでも $90^\circ$ の回転で重なる。
腕の形は裏返すと別の形(鏡に映した形)になり、どの模様にも裏返した腕は現れない。鏡映とすべり鏡映は形を裏返すので、どの模様にも鏡映・すべり鏡映の対称性はない。
thm-wpg-main の条件を外すと、何が変わるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 2 つの向きにくり返す(条件 (i)) | 5 枚の花びらの花(有限の模様) | 回転対称の位数は $1,2,3,4,6$ |
| 平行移動の長さに正の最小値がある(条件 (ii)) | 一色に塗った平面 | 回転対称の位数は $1,2,3,4,6$ |
各行の確認は ex-wpg-flower と ex-wpg-cx-plain である。逆に、くり返す向きを 1 つに減らした帯模様(ex-wpg-frieze)では、回転対称はもっと限られて、あっても $180^\circ$ だけになる。
図 5 の花は、中心のまわりに $72^\circ$ 回すと重なる。平面のほかの部分は白く塗っておく。この模様の対称性になる平行移動は、恒等写像($\vec 0$ の平行移動)しかない。花をずらすと、花のない場所に花が移るからである。$T=\{\vec 0\}$ なので条件 (i) を満たさず($\vec 0$ でないベクトルがないので (ii) の最小値も考えられない)、thm-wpg-main は当てはまらない。回転対称の位数は $5$ である。
1 つの模様が有限の範囲にあるなら、どんな位数の回転対称もありうる(正 $n$ 角形の対称性、回転・鏡映と行列の群 の二面体群)。結晶学的制限は、2 つの向きにくり返すことと、回転とが両立するかどうかの問題である。
5 回の回転対称をもつ花。平面全体にくり返す模様ではないので、結晶学的制限は当てはまらない
平面全体を同じ色で塗った模様では、どんな合同変換も対称性である。$T$ はすべてのベクトルからなり、条件 (i) は満たすが、いくらでも短い $\vec 0$ でないベクトルがあるので条件 (ii) を満たさない。どの点のまわりのどの角の回転も対称性で、たとえば $72^\circ$ の回転対称がある。
prf-wpg-main の段 1 で最短のベクトルがとれないので、証明が始まらない。縦じまの模様(色が $x$ 座標だけで決まり、$x$ について周期 $1$)も、$(0,s)$ の平行移動がどんな $s$ でも対称性なので、条件 (ii) を満たさない。ただしこの模様の回転対称は、あっても $180^\circ$ だけで、結論はたまたま成り立っている。
図 6 のように、帯の中で 1 つの向きにだけくり返す模様を 帯模様 という。帯模様の回転対称は、帯を帯に移さなければならないので、あっても $180^\circ$ の回転だけである(帯の向きを変える回転では、帯が斜めの帯に移る)。図 6 の模様は、横に $1$ ずらす平行移動と、隣り合う 2 つの四角い枠のすき間の中心(と各枠の中心)のまわりの $180^\circ$ の回転で重なる。帯模様の対称性の型は 7 種類に分類される(Wei26b。この記事では証明しない)。
1 つの向きにだけくり返す帯模様。横にずらす平行移動と 180° の回転で重なる
模様の対称性の全体は、合成について 群 をなす(回転・鏡映と行列の群、平面の合同変換の分類 の「合同変換の群」)。周期的な模様の対称性の群を 壁紙群(2 次元結晶群)という。lem-wpg-conj は、壁紙群の中で平行移動の全体 $T$ が共役で保たれる(正規部分群である)ことの一部で、回転の部分は $T$ を保つ回転に限られる、というのが thm-wpg-main である。
周期的な模様の対称性の群は、群としての型で分けると 17 種類ある(Wei26a。この記事では証明しない)。どの型でも、回転対称の位数は thm-wpg-main のとおり $1,2,3,4,6$ である。
記号は結晶学の国際記号である。「最大の位数」は、回転対称の位数のうち最大のもの。
| 最大の位数 | 型 |
|---|---|
| 1 | p1 |
| 1 | pm |
| 1 | pg |
| 1 | cm |
| 2 | p2 |
| 2 | pmm |
| 2 | pmg |
| 2 | pgg |
| 2 | cmm |
| 3 | p3 |
| 3 | p3m1 |
| 3 | p31m |
| 4 | p4 |
| 4 | p4m |
| 4 | p4g |
| 6 | p6 |
| 6 | p6m |
最大の位数ごとに数えると、$1$ が 4 種類、$2$ が 5 種類、$3$ が 3 種類、$4$ が 3 種類、$6$ が 2 種類で、合計 17 種類である。
空間で 3 つの向きにくり返す模様(結晶の原子の並び)でも、lem-wpg-conj と prf-wpg-trace の議論はそのまま使える。空間の回転の行列のトレースは、回転の軸のまわりの角を $\varphi$ として $1+2\cos\varphi$ であり、空間の平行移動の全体にも 3 つのベクトルの基底があること(この記事では証明しない)を認めると、基底で表した行列が $3$ 次の整数行列になることから $2\cos\varphi$ が整数になる。よって結晶の回転対称も 2 回・3 回・4 回・6 回に限られる。空間の周期的な模様の対称性の群(空間群)は 230 種類あることが知られている(この記事では証明しない)。
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