ブロック行列(block matrix)とは、行列の行と列を連続する区間に分け、小さな行列(ブロック)を成分のように並べて表したもので、区分行列ともいう。区分けが揃っていれば、和と積はブロックを成分とみなした規則で計算でき(転置ではブロックの並びとともに各ブロックも転置する)、区分三角行列の行列式は対角ブロックの行列式の積になる。$2\times2$ に分けた $M=\begin{pmatrix}A&B\\C&D\end{pmatrix}$ で $A$ が正則なら、$M$ は区分対角行列 $\mathrm{diag}(A,D-CA^{-1}B)$ を区分三角行列で挟んだ形に分解され、Schur 補行列 $D-CA^{-1}B$ が $M$ の行列式・正則性・逆行列・階数を決める。$CD=DC$ なら $\det M=\det(AD-BC)$ が成り立つ。
大きな行列を縦と横の線で区切り、小さな行列を成分のように並べたものとして扱うのが ブロック行列(区分行列)である。たとえば $(p+q)$ 次の正方行列を
$$
M=\begin{pmatrix}A&B\\C&D\end{pmatrix}\qquad(A\in M_p(K),\ D\in M_q(K))
$$
と 4 つに分けると、積はブロックを成分とみなした $2\times2$ 行列の積の規則で計算できる。ただしブロックどうしの積は可換でないので、$2\times2$ 行列の公式をそのまま使えるとは限らない。行列式は $AD-BC$ の行列式とは一般に異なる(ex-bm-counterexamples)。その代わりに、$A$ が正則なら $M$ は「左下を消す」「右上を消す」区分三角行列で挟んで区分対角行列 $\mathrm{diag}(A,\,D-CA^{-1}B)$ に直せる。ここに現れる $D-CA^{-1}B$(Schur 補行列)が、$M$ の行列式・正則性・逆行列・階数をすべて決める(thm-bm-schur)。ブロックが可換なときには $2\times2$ の公式が復活して $\det M=\det(AD-BC)$ となる(thm-bm-commuting)。
以下、$K$ は体とし、$K$ の元を成分とする $m\times n$ 行列の全体を $M_{m,n}(K)$、$M_n(K):=M_{n,n}(K)$ と書く。$I_n$ は $n$ 次単位行列、$O$ は零行列である。
$A\in M_{m,n}(K)$ の行の番号 $1,\dots,m$ を連続する区間 $I_1,\dots,I_r$ に、列の番号 $1,\dots,n$ を連続する区間 $J_1,\dots,J_s$ に分ける。行の番号が $I_p$、列の番号が $J_q$ に属する成分を集めた小行列を $A_{pq}$ と書き、
$$
A=\begin{pmatrix}A_{11}&\cdots&A_{1s}\\\vdots&\ddots&\vdots\\A_{r1}&\cdots&A_{rs}\end{pmatrix}
$$
と表したものを $A$ の ブロック行列(block matrix)または 区分行列(partitioned matrix)といい、$A_{pq}$ をその ブロック という。区間の長さの組 $(\lvert I_1\rvert,\dots,\lvert I_r\rvert)$ と $(\lvert J_1\rvert,\dots,\lvert J_s\rvert)$ を 区分けの型 という。
正方行列を $r=s$、$I_p=J_p$($p=1,\dots,r$)となるように区分けしたとき、対角ブロック $A_{pp}$ は正方行列である。$p\ne q$ のブロックがすべて零行列のものを 区分対角行列(ブロック対角行列)といい、$\mathrm{diag}(A_{11},\dots,A_{rr})$ または $A_{11}\oplus\cdots\oplus A_{rr}$ と書く。$p>q$ のブロックがすべて零行列のものを 区分上三角行列、$p< q$ のブロックがすべて零行列のものを 区分下三角行列 という。
この定義は 行列 の記事の定義「行列の区分け」と同じである。ブロック行列は行列の見方を変えたものにすぎず、新しい対象ではない。$1\times1$ の区間だけで区分けすれば普通の成分表示に、行を区分けせず列を 1 本ずつに区分けすれば列ベクトルを並べた表示 $A=(a_1\ \cdots\ a_n)$ になる。
演算は次のようにブロックごとに行える。
$K^{p+q}$ の縦ベクトルを上 $p$ 個と下 $q$ 個に分けて $\binom{x}{y}$($x\in K^p$、$y\in K^q$)と書くと、
$$
\begin{pmatrix}A&B\\C&D\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}Ax+By\\Cx+Dy\end{pmatrix}
$$
である。$A$ は「上の成分から上の成分へ」、$B$ は「下から上へ」、$C$ は「上から下へ」、$D$ は「下から下へ」の線形写像であり、$M$ は 4 本の線形写像を 1 つにまとめたものである。ブロックの積の公式は、これらの写像の合成を経路ごとに足し合わせたものにほかならない。$C=O$ は「上の部分空間 $K^p\oplus0$ が $M$ で自分自身に移る」ことを意味し、そのとき $M$ の働きは上の部分 $A$ と、上を無視したときの下の部分 $D$ に分かれる(商ベクトル空間 の記事の命題「誘導写像と区分上三角行列」)。
$A$ が正則なら、連立方程式 $Ax+By=b$、$Cx+Dy=c$ の 1 本目から $x=A^{-1}(b-By)$ を 2 本目に代入して
$$
(D-CA^{-1}B)\,y=c-CA^{-1}b
$$
を得る。$x$ を消去した後に $y$ に残る係数行列が Schur 補行列であり、ブロック単位で行った Gauss の消去法の結果である。
$$
M=\begin{pmatrix}2&1&3\\4&3&7\\2&5&6\end{pmatrix}
$$
を $p=1$、$q=2$ で区分けすると、$A=(2)$、$B=(1\ \ 3)$、$C=\binom{4}{2}$、$D=\begin{pmatrix}3&7\\5&6\end{pmatrix}$ である。
$$
D-CA^{-1}B=\begin{pmatrix}3&7\\5&6\end{pmatrix}-\frac12\begin{pmatrix}4\\2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&1\\4&3\end{pmatrix}
$$
は、$M$ の第 2 行から第 1 行の $2$ 倍を、第 3 行から第 1 行を引いたときに右下に残る $2\times2$ 行列そのものである。thm-bm-schur により $\det M=\det A\cdot\det(D-CA^{-1}B)=2\cdot(3-4)=-2$ であり、これは直接計算した値と一致する。
$$
A=\begin{pmatrix}1&2\\1&3\end{pmatrix},\quad B=I_2,\quad C=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix},\quad D=\begin{pmatrix}2&1\\1&3\end{pmatrix}
$$
とする。$A^{-1}=\begin{pmatrix}3&-2\\-1&1\end{pmatrix}$、$CA^{-1}=\begin{pmatrix}2&-1\\-1&1\end{pmatrix}$ なので、Schur 補行列は
$$
S=D-CA^{-1}B=\begin{pmatrix}0&2\\2&2\end{pmatrix},\qquad \det S=-4,\qquad S^{-1}=\begin{pmatrix}-\frac12&\frac12\\\frac12&0\end{pmatrix}
$$
である。$\det A=1$ なので $\det M=-4$ であり、$M$ は正則である。$4$ 次の逆行列 $M^{-1}$ を直接求めると、その右下の $2\times2$ ブロックは $S^{-1}$ に一致する。これは thm-bm-schur の逆行列の式の右下の成分である。
$V=W_1\oplus W_2$ を有限次元の直和とし、線形変換 $T\colon V\to V$ が $T(W_1)\subset W_1$、$T(W_2)\subset W_2$ を満たすとする。$W_1$ の基底と $W_2$ の基底を並べて $V$ の基底をとると、$T$ の表現行列は区分対角行列 $\mathrm{diag}(T_1,T_2)$ になる。ここで $T_i$ は $T$ の $W_i$ への制限の表現行列である。$T(W_1)\subset W_1$ だけを仮定すると、表現行列は区分上三角行列 $\begin{pmatrix}T_1&*\\O&*\end{pmatrix}$ になる(DF04 §11.2 Exercise 10、p. 423)。
$A=(a_{ij})\in M_{r,n}(K)$ と $B\in M_{s,m}(K)$ に対し、$(i,j)$ ブロックが $a_{ij}B$ である $rs\times nm$ のブロック行列を $A$ と $B$ の Kronecker 積 といい、$A\otimes B$ と書く(DF04 §11.2、p. 421)。たとえば
$$
\begin{pmatrix}1&2\\0&1\end{pmatrix}\otimes\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&1&0&2\\1&0&2&0\\0&0&0&1\\0&0&1&0\end{pmatrix}
$$
である。$I_r\otimes B=\mathrm{diag}(B,\dots,B)$ は区分対角行列である。ブロックの積の公式により、型の合う行列について $(A\otimes B)(A'\otimes B')=(AA')\otimes(BB')$ が成り立つ($(i,l)$ ブロックが $\sum_ja_{ij}a'_{jl}BB'$ になる)。
$M,N\in M_n(K)$ を、行と列を同じ区間 $I_1,\dots,I_r$ で区分けした区分上三角行列とする。
1:ブロックの積の公式により $(MN)_{pq}=\sum_kM_{pk}N_{kq}$ である。$M_{pk}\ne O$ なら $p\le k$、$N_{kq}\ne O$ なら $k\le q$ なので、$p>q$ のときどの項も $O$ であり、$p=q$ のときは $k=p$ の項だけが残る。
2:$r$ についての帰納法による。$r=1$ は明らかである。$r\ge2$ のとき、$M$ を最初のブロック $M_{11}$ と残り全体に分けると $M=\begin{pmatrix}M_{11}&*\\O&M'\end{pmatrix}$ で、$M'$ は対角ブロック $M_{22},\dots,M_{rr}$ をもつ区分上三角行列である。行列式 の記事の命題「三角行列と区分三角行列の行列式」の 2 により $\det M=\det M_{11}\det M'$ であり、帰納法の仮定から結論を得る。
3:正方行列が正則であることは行列式が $0$ でないことと同値なので(行列式 の記事の定理「正則性の判定」)、前半は 2 から従う。後半を $r$ についての帰納法で示す。$r=2$ のとき、右辺を $M=\begin{pmatrix}A&B\\O&D\end{pmatrix}$ に右から掛けるとブロックの積の公式により
$$
\begin{pmatrix}A&B\\O&D\end{pmatrix}\begin{pmatrix}A^{-1}&-A^{-1}BD^{-1}\\O&D^{-1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}I_p&-BD^{-1}+BD^{-1}\\O&I_q\end{pmatrix}=I
$$
となる。正方行列では片側の逆行列が逆行列なので(正則行列 の記事の定理「片側の逆行列で十分であること」)、これが $M^{-1}$ である。$r\ge3$ では、2 の証明と同じく $M=\begin{pmatrix}M_{11}&*\\O&M'\end{pmatrix}$ と分けて $r=2$ の式を使えば、$M^{-1}$ の右下は $M'^{-1}$ であり、帰納法の仮定によりこれは区分上三角行列で対角ブロックは $M_{pp}^{-1}$ である。区分下三角行列は、転置をとれば区分上三角行列になるので同じである。$\square$
区分対角行列は区分上三角かつ区分下三角なので、prop-bm-triangular から次が分かる。$\mathrm{diag}(A_1,\dots,A_r)\,\mathrm{diag}(B_1,\dots,B_r)=\mathrm{diag}(A_1B_1,\dots,A_rB_r)$ である(Axl24 8.35 と §8B Exercise 22、pp. 314・318)。したがって多項式 $f$ について $f(\mathrm{diag}(A_1,\dots,A_r))=\mathrm{diag}(f(A_1),\dots,f(A_r))$ であり、行列式は対角ブロックの行列式の積、逆行列は対角ブロックごとの逆行列を並べたものである。階数は $\operatorname{rank}\mathrm{diag}(A_1,\dots,A_r)=\sum_p\operatorname{rank}A_p$ である(列空間が各ブロックの列空間の直和になる)。
$M=\begin{pmatrix}A&B\\C&D\end{pmatrix}$ で $A$ が正則なとき、$q$ 次の正方行列
$$
M/A:=D-CA^{-1}B
$$
を $M$ における $A$ の Schur 補行列(Schur complement)という。$D$ が正則なときの $M/D:=A-BD^{-1}C$ も同様に定める。
$M=\begin{pmatrix}A&B\\C&D\end{pmatrix}$ で $A$ が正則とし、$S:=M/A=D-CA^{-1}B$ とおく。このとき
$$
M=\begin{pmatrix}I_p&O\\CA^{-1}&I_q\end{pmatrix}\begin{pmatrix}A&O\\O&S\end{pmatrix}\begin{pmatrix}I_p&A^{-1}B\\O&I_q\end{pmatrix}
$$
が成り立つ。したがって
右辺の 3 つの行列を左から $L$、$\Delta$、$U$ とおく。ブロックの積の公式により
$$
L\Delta=\begin{pmatrix}A&O\\CA^{-1}A&S\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}A&O\\C&S\end{pmatrix},\qquad L\Delta U=\begin{pmatrix}A&AA^{-1}B\\C&CA^{-1}B+S\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}A&B\\C&D\end{pmatrix}
$$
であり、分解が成り立つ。$L$ と $U$ は対角ブロックが単位行列の区分三角行列なので、prop-bm-triangular の 2 により $\det L=\det U=1$ である。
1:積の行列式の公式(行列式 の記事の定理「積の行列式」)と prop-bm-triangular の 2 により $\det M=\det L\det\Delta\det U=\det A\det S$ である。
2:$\det A\ne0$ なので、1 により $\det M\ne0$ と $\det S\ne0$ は同値である。
3:prop-bm-triangular の 3 により
$$
L^{-1}=\begin{pmatrix}I_p&O\\-CA^{-1}&I_q\end{pmatrix},\qquad U^{-1}=\begin{pmatrix}I_p&-A^{-1}B\\O&I_q\end{pmatrix},\qquad \Delta^{-1}=\begin{pmatrix}A^{-1}&O\\O&S^{-1}\end{pmatrix}
$$
である。$M^{-1}=U^{-1}\Delta^{-1}L^{-1}$ をブロックの積で計算する。$\Delta^{-1}L^{-1}=\begin{pmatrix}A^{-1}&O\\-S^{-1}CA^{-1}&S^{-1}\end{pmatrix}$ に左から $U^{-1}$ を掛けると、左上は $A^{-1}+A^{-1}BS^{-1}CA^{-1}$、右上は $-A^{-1}BS^{-1}$ になり、下の行は変わらない。
4:正則行列を左右から掛けても階数は変わらない(階数(線形代数) の記事の命題「積の階数の不等式」の 2)ので $\operatorname{rank}M=\operatorname{rank}\Delta$ であり、区分対角行列の階数は対角ブロックの階数の和なので $\operatorname{rank}\Delta=\operatorname{rank}A+\operatorname{rank}S=p+\operatorname{rank}S$ である。
$D$ が正則な場合は、右辺の積をブロックで計算すると $\begin{pmatrix}M/D+BD^{-1}C&B\\DD^{-1}C&D\end{pmatrix}=M$ となり、行列式の式は 1 と同じ理由で従う。$\square$
分解の 3 つの因子は、それぞれ「ブロック単位の行の消去」「対角への分離」「ブロック単位の列の消去」にあたる。左から $L^{-1}$ を掛けることは、下の $q$ 行から上の $p$ 行の $CA^{-1}$ 倍を引くことであり、ex-bm-elimination の消去をブロック単位で行ったものである。
$A$ と $D$ がともに正則なら、thm-bm-schur の 2 つの式を比べて
$$
\det A\cdot\det(D-CA^{-1}B)=\det M=\det D\cdot\det(A-BD^{-1}C)
$$
を得る。$M$ をうまく選ぶと、大きさの違う行列の行列式どうしが結びつく。
1:$M=\begin{pmatrix}I_m&-X\\Y&I_n\end{pmatrix}$ では左上・右下がともに単位行列で正則である。$M/I_m=I_n-YI_m^{-1}(-X)=I_n+YX$、$M/I_n=I_m-(-X)I_n^{-1}Y=I_m+XY$ なので、上の等式から $\det(I_n+YX)=\det(I_m+XY)$ である。
2:$M=\begin{pmatrix}A&-u\\v^{\top}&1\end{pmatrix}$($q=1$)とすると、$M/A=1+v^{\top}A^{-1}u$、$M/(1)=A+uv^{\top}$ なので、上の等式から $\det A\,(1+v^{\top}A^{-1}u)=\det(A+uv^{\top})$ である。
3:thm-bm-schur の 2 により $M/A$ と $M/D$ はどちらも正則である。$D$ についての分解から
$$
M^{-1}=\begin{pmatrix}I_p&O\\-D^{-1}C&I_q\end{pmatrix}\begin{pmatrix}(M/D)^{-1}&O\\O&D^{-1}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}I_p&-BD^{-1}\\O&I_q\end{pmatrix}
$$
であり、その左上のブロックは $(M/D)^{-1}$ である。一方 $A$ についての thm-bm-schur の 3 によれば、$M^{-1}$ の左上は $A^{-1}+A^{-1}B(M/A)^{-1}CA^{-1}$ である。両者を等しいとおけばよい。$\square$
1 で $X$ を $-X$ に変えると $\det(I_m-XY)=\det(I_n-YX)$ であり、これは 固有多項式 の記事の定理「$AB$ と $BA$ の固有多項式」を $x=1$ で比べた式でもある。2 は、階数 $1$ 以下の行列 $uv^{\top}$ を足したときの行列式の変化を、$n$ 次の行列式を計算し直さずに $1$ つの数 $v^{\top}A^{-1}u$ で与える。3 で $B$ を $-B$ に替えると $(A+BD^{-1}C)^{-1}$ の式になり、これは Woodbury の公式と呼ばれる。$q=1$、$D=(1)$、$B=u$、$C=-v^{\top}$ の場合は、$1+v^{\top}A^{-1}u\ne0$ のとき(2 によりこれは $M$ が正則であることと同値)
$$
(A+uv^{\top})^{-1}=A^{-1}-\frac{A^{-1}uv^{\top}A^{-1}}{1+v^{\top}A^{-1}u}
$$
となる(Sherman–Morrison の公式)。
$2\times2$ 行列の行列式 $ad-bc$ は、成分が可換だから成り立つ式である。ブロックが可換なら、同じ形の式が成り立つ。
$A,B,C,D\in M_n(K)$ とし、$CD=DC$ と仮定する。このとき
$$
\det\begin{pmatrix}A&B\\C&D\end{pmatrix}=\det(AD-BC)
$$
が成り立つ。
段 1($D$ が正則な場合):ブロックの積の公式と $CD=DC$ により
$$
\begin{pmatrix}A&B\\C&D\end{pmatrix}\begin{pmatrix}D&O\\-C&I_n\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}AD-BC&B\\CD-DC&D\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}AD-BC&B\\O&D\end{pmatrix}
$$
である。左辺の 2 つ目の行列は区分下三角行列で、その行列式は $\det D\cdot\det I_n=\det D$ である。両辺の行列式をとると、積の行列式の公式と区分三角行列の行列式により
$$
\det M\cdot\det D=\det(AD-BC)\cdot\det D
$$
を得る。$\det D\ne0$ なら両辺を $\det D$ で割って結論を得る。
段 2(一般の場合):$x$ を不定元とし、多項式環 $K[x]$ の元を成分とする $D_x:=D+xI_n$ を考える。$CD_x=CD+xC=DC+xC=D_xC$ なので、段 1 の行列の等式は $D$ を $D_x$ に替えても成り立つ。行列式の積の公式と区分三角行列の行列式は、成分が可換環 $K[x]$ の元でも同じ証明で成り立つ(行列式 の記事の注意「可換環上の行列式」)ので、$M_x:=\begin{pmatrix}A&B\\C&D_x\end{pmatrix}$ について
$$
\det M_x\cdot\det D_x=\det(AD_x-BC)\cdot\det D_x\qquad(K[x]\text{ の等式})
$$
が成り立つ。$\det D_x=\det(xI_n+D)$ は最高次の係数が $1$ の $n$ 次多項式なので $0$ でなく、$K[x]$ は整域なので両辺から約せて $\det M_x=\det(AD_x-BC)$ を得る。行列式は成分の多項式なので、$x=0$ を代入する操作と行列式をとる操作は入れ替えられる。$x=0$ を代入すると $D_0=D$ なので $\det M=\det(AD-BC)$ である。$\square$
$n=1$ のとき仮定は自動的に満たされ、普通の $2\times2$ の行列式 $ad-bc$ になる。仮定は「$C$ と $D$ が可換」であり、$AD-BC$ の積の順序もこの仮定に合わせたものである。$A,B$ についての仮定は要らない。$D$ が正則なら、可換性を仮定しなくても thm-bm-schur により $\det M=\det D\cdot\det(A-BD^{-1}C)=\det(AD-BD^{-1}CD)$ であり、$CD=DC$ なら $D^{-1}CD=C$ なのでこれは $\det(AD-BC)$ に等しい。thm-bm-commuting は、この計算を $D$ が正則でない場合まで多項式の変数を使って広げたものである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 列と行の区分けが揃っている | 列を $(1,2)$ で区分けした $2\times3$ 行列と、行を $(2,1)$ で区分けした $3\times2$ 行列 | ブロックの積の公式($A_{pk}B_{kq}$ が定義されない) |
| ブロックの行列式を成分のように扱う | $M=\begin{pmatrix}O&I_2\\I_2&O\end{pmatrix}$ | $\det M=\det A\det D-\det B\det C$ |
| $CD=DC$ | $A=I_2$、$B=E_{11}$、$C=E_{12}$、$D=E_{21}$ | $\det M=\det(AD-BC)$ |
| $A$ が正則 | $M=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$($p=q=1$) | $A$ についての分解と $\det M=\det A\det(M/A)$ |
| 区分三角行列である | $M=\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}$($p=q=1$) | $\det M=\det A\det D$ |
1 行目:左の行列を $A$、右の行列を $B$ とすると、$A$ の列の区間の長さは $1,2$、$B$ の行の区間の長さは $2,1$ なので、$A_{11}$ は $2\times1$、$B_{11}$ は $2\times2$ で積 $A_{11}B_{11}$ が定義されない。区分けを揃えれば公式が使えるが、揃えない区分けではブロックごとに計算できない。
2 行目:$M$ は第 $1$ 列と第 $3$ 列、第 $2$ 列と第 $4$ 列を入れ替えた $4$ 次の置換行列なので $\det M=(-1)^2=1$ である。一方 $\det A\det D-\det B\det C=0-1=-1$ である。この $M$ では $C=I_2$ と $D=O$ が可換なので、thm-bm-commuting の $\det(AD-BC)=\det(-I_2)=1$ は正しい値を与える。
3 行目:$E_{ij}$ は $(i,j)$ 成分だけが $1$ の $2$ 次行列である。$CD=E_{12}E_{21}=E_{11}$、$DC=E_{21}E_{12}=E_{22}$ なので可換でない。$A=I_2$ は正則なので thm-bm-schur により $\det M=\det(D-CB)=\det(E_{21}-E_{12}E_{11})=\det E_{21}=0$ である。一方 $AD-BC=E_{21}-E_{11}E_{12}=E_{21}-E_{12}$ の行列式は $1$ である。積の順序 $CB$ と $BC$ の違いがそのまま現れている。
4 行目:$A=(0)$ は正則でないので $M/A$ が定義されない。$\det A=0$ なので、$\det M$ を $\det A$ の倍数として表す式はこの $M$ では成り立たない($\det M=-1$)。$D=(0)$ も正則でないが、2 つの行を入れ替えて単位行列にしてから区分けし直せば分解が使える。
5 行目:$\det M=0$ だが $\det A\det D=1$ である。区分三角行列でないので $C=(1)$ の寄与が落ちている。$A$ は正則なので、正しくは $\det M=\det A\cdot\det(D-CA^{-1}B)=1\cdot(1-1)=0$ である。
ブロックがすべて互いに可換なら、ブロック全体は $M_n(K)$ の可換な部分環 $R$ に入り、$M$ は $R$ の元を成分とする $2\times2$ 行列とみなせる。thm-bm-commuting は、この見方で「$R$ 上の行列式 $AD-BC$ をとってから $K$ 上の行列式をとっても、$M$ の行列式が得られる」ことを $2\times2$ の場合に示したものである。ブロックが可換でないときは、$R$ 上の行列式そのものが定義されない。
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