Néron–Tate高さ(Néron–Tate height)とは、楕円曲線 $E$ の有理点 $P$ について、$x$ 座標の高さ $h$ から極限 $\hat h(P)=\lim_{n\to\infty}h(2^nP)/4^n$ で定める関数である。$\hat h-h$ は有界で、$\hat h(2P)=4\hat h(P)$ をみたす関数はこれに限り、中線定理をみたす 2 次形式になる。$\hat h(P)=0$ は $P$ が有限位数であることと同値で、$\hat h$ は $E(\mathbb{Q})\otimes\mathbb{R}$ 上で正定値である。その対から作る単数基準が Birch–Swinnerton-Dyer 予想の公式に現れ、文献により正規化が 2 倍異なる。
前提知識: 楕円曲線, Weil高さ, Mordell–Weilの定理, 2次形式
Néron–Tate 高さ(Néron–Tate height)は、楕円曲線の有理点に定まる実数値の 2 次形式 $\hat h$ で、点の座標の分母・分子の大きさ(素朴な高さ)との差が有界なものである。標準的な高さ(canonical height)ともいう。素朴な高さ $h$ は 2 倍写像で「ほぼ 4 倍」になるだけだが、$\hat h(P):=\lim_{n\to\infty}h(2^nP)/4^n$ と極限をとると、ちょうど $\hat h(2P)=4\hat h(P)$ をみたし、さらに中線定理をみたす 2 次形式になる。この極限による定義は Tate による。Néron は同じ関数を素点ごとの局所的な高さの和として構成した(Sil09 §VIII.9 冒頭、p. 247)。
$\hat h$ は捩れ点でちょうど $0$ になり、Mordell–Weilの定理 による有限生成アーベル群 $E(\mathbb{Q})$ を、正定値な内積をもつ格子に変える。その格子の基本領域の体積が単数基準(regulator)で、Birch–Swinnerton-Dyer予想 の公式に現れる。
この記事では、有理数体上の楕円曲線について $\hat h$ の存在と一意性、捩れ点の特徴付け、中線定理、$E(\mathbb{Q})\otimes\mathbb{R}$ 上の正定値性を証明する。中線定理の証明に使う素朴な高さの不等式の 1 つは引用にする。
$\mathbb{P}^1(\mathbb{Q})$ の点 $[a:c]$($a,c$ は互いに素な整数)の高さを $H([a:c]):=\max(\lvert a\rvert,\lvert c\rvert)$、$h:=\log H$ とする(Weil高さ の Weil 高さの $\mathbb{Q}$ の点での値)。有理数 $t$ には $h(t):=h([t:1])$ とおく。
$E$ を $\mathbb{Q}$ 上の楕円曲線とし、短い Weierstrass 方程式 $y^2=x^3+ax+b$($a,b\in\mathbb{Q}$、$4a^3+27b^2\ne0$)で与える。
$P\in E(\mathbb{Q})$ について、$P\ne O$ なら $h(P):=h(x(P))$、$h(O):=0$ とおく。これを $E$ の 素朴な高さ(naive height、$x$ 座標の高さ)という。$x(P)=m/e^2$($m,e$ は互いに素な整数、$e\ge1$)と書けるとき $h(P)=\log\max(\lvert m\rvert,e^2)$ である。
$H\ge1$ なので $h\ge0$ である。また、高さが $B$ 以下の $x$ 座標は有限個で、1 つの $x$ 座標に点は高々 2 つなので、$\{P\in E(\mathbb{Q})\mid h(P)\le B\}$ は有限集合である(Diophantus幾何学 の命題「Northcott の性質(有理数体の場合)」)。
定数 $A\ge0$ があって、すべての $P\in E(\mathbb{Q})$ について $\lvert h(2P)-4h(P)\rvert\le A$ が成り立つ。
$P$ が 2 等分点($2P=O$)でなければ、2 倍の公式により $x(2P)=F(x(P),1)/G(x(P),1)$ である。ここで
$$
F(X,Z)=X^4-2aX^2Z^2-8bXZ^3+a^2Z^4,\qquad G(X,Z)=4Z(X^3+aXZ^2+bZ^3)
$$
は次数 $4$ の同次多項式で、$F(X,1)=(3X^2+a)^2-8X(X^3+aX+b)$ である(Mil21 Lemma IV.4.4、p. 123)。$F,G$ が $\bar{\mathbb{Q}}^2\setminus\{0\}$ に共通零点をもたないことを確かめる。$Z=0$ なら $F=X^4$ なので $X=0$ である。$Z=1$ で $G(x_0,1)=0$ なら $f(x_0)=0$($f(X):=X^3+aX+b$)であり、$F(x_0,1)=f'(x_0)^2$ がさらに $0$ なら $x_0$ は $f$ の重根になるが、$4a^3+27b^2\ne0$ なので $f$ は重根をもたない。
したがって Diophantus幾何学 の定理「射と高さ」(次数 $d=4$。分母を払って係数を整数にしてよい)により、定数 $C_1,C_2$ があってすべての $t\in\mathbb{P}^1(\mathbb{Q})$ で $4h(t)-C_1\le h([F(t):G(t)])\le4h(t)+C_2$ となる。$P\ne O$ で $2P\ne O$ なら $h(2P)=h([F:G](x(P)))$ なので $\lvert h(2P)-4h(P)\rvert\le\max(C_1,C_2)$ である。2 等分点は高々 3 個しかないので、それらと $O$ での差の最大値も含めて $A$ をとればよい。$\square$
$E/\mathbb{Q}$ と $h$ を上のとおりとする。
$\hat h$ を $E$ の Néron–Tate 高さ という。
1:$N\ge M\ge0$ について、lem-neron-tate-doubling を $2^nP$ に当てて
$$
\Bigl\lvert\frac{h(2^NP)}{4^N}-\frac{h(2^MP)}{4^M}\Bigr\rvert\le\sum_{n=M}^{N-1}\frac{\lvert h(2^{n+1}P)-4h(2^nP)\rvert}{4^{n+1}}\le\sum_{n=M}^{\infty}\frac{A}{4^{n+1}}=\frac{A}{3\cdot4^M}
$$
である。よって数列 $h(2^nP)/4^n$ は Cauchy 列で、収束する。
2:上の評価で $M=0$ とし $N\to\infty$ とすると $\lvert\hat h(P)-h(P)\rvert\le A/3$ である。また $\hat h(2P)=\lim_nh(2^{n+1}P)/4^n=4\lim_nh(2^{n+1}P)/4^{n+1}=4\hat h(P)$ である。
3:$\lvert g-h\rvert\le B$ とすると $\lvert g(2^nP)-h(2^nP)\rvert\le B$ であり、$g(2^nP)=4^ng(P)$ なので $\lvert g(P)-h(2^nP)/4^n\rvert\le B/4^n$ である。$n\to\infty$ として $g(P)=\hat h(P)$ を得る。$\square$
この構成と証明は Mil21 Lemma IV.4.5・4.6、Theorem IV.4.7(pp. 124–125)に従う。$\hat h$ は Weierstrass 方程式の取り方によらない。別の方程式の $x$ 座標は $x'=u^2x+r$($u\in\mathbb{Q}^\times$、$r\in\mathbb{Q}$)で、$t\mapsto u^2t+r$ は $\mathbb{P}^1$ の次数 $1$ の射なので、Diophantus幾何学 の定理「射と高さ」から $h(x')-h(x)$ は有界である。よって 3 の一意性により、どちらの方程式から作っても同じ $\hat h$ が得られる。一般の Weierstrass 方程式 $y^2+a_1xy+a_3y=\cdots$ でも、$x$ 座標の高さから同じ $\hat h$ が定まる。
1:$\hat h(P)\le C$ なら $h(P)\le C+A/3$ であり、そのような点は有限個である。
2:$h\ge0$ だから $\hat h\ge0$ である。$P$ が有限位数なら $\{2^nP\}$ は有限集合で、$\hat h$ はその上で有界、たとえば $D$ 以下である。$\hat h(P)=\hat h(2^nP)/4^n\le D/4^n$ がすべての $n$ で成り立つので $\hat h(P)=0$ である。$P$ が無限位数なら $\{2^nP\}$ は無限集合なので、1 によりある $n$ で $\hat h(2^nP)>1$ となり、$\hat h(P)=\hat h(2^nP)/4^n>0$ である。$\square$
中線定理の証明には、次の不等式を使う。
定数 $C\ge0$ があって、すべての $P,Q\in E(\mathbb{Q})$ について
$$
h(P+Q)+h(P-Q)\le2h(P)+2h(Q)+C
$$
が成り立つ。
Mil21 Lemma IV.4.10(p. 126)が $H(P+Q)H(P-Q)\le C'H(P)^2H(Q)^2$ の形で証明している。この記事では証明しない。要点は、$x(P+Q)x(P-Q)$ と $x(P+Q)+x(P-Q)$ が $x(P),x(Q)$ の多項式の比で、$\bigl[x(P+Q)x(P-Q):x(P+Q)+x(P-Q):1\bigr]$ の 3 つの座標が $x(P)$ と $x(Q)$ についてそれぞれ $2$ 次の式で書けることと、$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^2$、$([a:b],[c:d])\mapsto[ac:ad+bc:bd]$ が高さをほぼ掛け算にすること(同 Lemma 4.2、p. 122)である。
すべての $P,Q\in E(\mathbb{Q})$ について
$$
\hat h(P+Q)+\hat h(P-Q)=2\hat h(P)+2\hat h(Q).
$$
lem-neron-tate-sum-difference を $2^nP,2^nQ$ に当てて $4^n$ で割り、$n\to\infty$ とすると
$$
\hat h(P+Q)+\hat h(P-Q)\le2\hat h(P)+2\hat h(Q)
$$
を得る($2^n(P\pm Q)=2^nP\pm2^nQ$ を使う)。逆向きを示すため、同じ不等式を $P':=P+Q$、$Q':=P-Q$ に当てる。$P'+Q'=2P$、$P'-Q'=2Q$ なので
$$
\hat h(2P)+\hat h(2Q)\le2\hat h(P+Q)+2\hat h(P-Q),
$$
すなわち $4\hat h(P)+4\hat h(Q)\le2\hat h(P+Q)+2\hat h(P-Q)$ である(thm-neron-tate-existence の 2)。2 で割ると逆向きの不等式になる。$\square$
一般に、アーベル群 $M$ 上の実数値関数 $f$ が中線定理 $f(x+y)+f(x-y)=2f(x)+2f(y)$ をみたせば、$f(x+y)-f(x)-f(y)$ は双加法的である(Mil21 Lemma IV.4.8、p. 125)。この事実を折りたたみの中で示す。これを $f=\hat h$ に当てると 2 の双加法性が得られ、$\langle P,P\rangle=\frac12(\hat h(2P)-2\hat h(P))=\hat h(P)$ である。1 は、双加法性から $\langle mP,mP\rangle=m^2\langle P,P\rangle$ となることによる。$\square$
$x=y=0$ とおくと $f(0)=0$、$x=y$ とおくと $f(2x)=4f(x)$、$x=0$ とおくと $f(-y)=f(y)$ である。$B(x,y):=f(x+y)-f(x)-f(y)$ は対称なので、$B(x+y,z)=B(x,z)+B(y,z)$、すなわち
$$f(x+y+z)-f(x+y)-f(x+z)-f(y+z)+f(x)+f(y)+f(z)=0$$
を示せばよい。中線定理を 4 回使うと次の 4 式を得る:
$$f(x+y+z)+f(x+y-z)-2f(x+y)-2f(z)=0,$$ $$f(x+y-z)+f(x-y+z)-2f(x)-2f(y-z)=0,$$ $$f(x+y+z)+f(x-y+z)-2f(x+z)-2f(y)=0,$$ $$2f(y+z)+2f(y-z)-4f(y)-4f(z)=0.$$
1 番目から 2 番目を引き、3 番目を足し、4 番目を引くと、求める式の 2 倍になる。$\square$
$E(\mathbb{Q})$ は有限生成なので(Mordell–Weilの定理)、$V:=E(\mathbb{Q})\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{R}$ は有限次元の実ベクトル空間で、$\Lambda:=E(\mathbb{Q})/E(\mathbb{Q})_{\mathrm{tors}}$ はその中の格子(基底で生成される部分群)である。cor-neron-tate-quadratic の対 $\langle\ ,\ \rangle$ は捩れ点で $0$ なので $V$ 上の対称双線形形式に一意に延び、$\hat h$ は $V$ 上の 2 次形式 $q(v)=\langle v,v\rangle$ に延びる。
$\hat h$ の延長 $q$ は $V=E(\mathbb{Q})\otimes\mathbb{R}$ 上の正定値な 2 次形式である。
$\Lambda$ 上で $q$ は次をみたす:(i) $q(P)=0$ なら $P=0$(thm-neron-tate-torsion の 2)、(ii) 各 $C$ について $\{P\in\Lambda\mid q(P)\le C\}$ は有限(同 1)。一般に、有限次元の実ベクトル空間 $V$ の格子 $\Lambda$ 上で (i)(ii) をみたす 2 次形式は $V$ 上で正定値である(Mil21 Lemma IV.6.2、pp. 133–134。Sil09 Lemma VIII.9.5、p. 249)。これを折りたたみの中で示す。$\square$
$n=\dim V$ とし、基底を選んで $q(x)=x_1^2+\dots+x_s^2-x_{s+1}^2-\dots-x_t^2$($t\le n$)とする(2次形式 の慣性法則)。$s=n$ を示せばよい。$s< n$ と仮定する。(i)(ii) により $\lambda:=\min\{q(P)\mid P\in\Lambda,P\ne0\}$ が存在して正である。$\delta>0$ について
$$B(\delta):=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x_1^2+\dots+x_s^2\le\lambda/2,\ x_{s+1}^2+\dots+x_n^2\le\delta\}$$
とおく。$B(\delta)$ はコンパクトで凸で原点について対称であり、$x\in B(\delta)$ では $q(x)\le x_1^2+\dots+x_s^2\le\lambda/2$ なので、$B(\delta)\cap\Lambda=\{0\}$ である。一方 $s< n$ なので、$\delta$ を大きくすれば $B(\delta)$ の体積はいくらでも大きくなる。体積が $\Lambda$ の基本平行体の $2^n$ 倍以上になれば、Minkowskiの凸体定理 により $B(\delta)$ は $0$ でない格子点を含み、矛盾する。$\square$
条件 (ii) は外せない(節「反例」の表の 2 行目)。
$P_1,\dots,P_r$ を $E(\mathbb{Q})/E(\mathbb{Q})_{\mathrm{tors}}$ の基底とするとき、$R_E:=\det\bigl(\langle P_i,P_j\rangle\bigr)_{1\le i,j\le r}$ を $E$ の 単数基準(regulator)という($r=0$ なら $R_E=1$)。
基底を取り替える行列 $U$ は $\mathrm{GL}_r(\mathbb{Z})$ の元で、対の行列は $U^{\mathsf T}(\langle P_i,P_j\rangle)U$ に変わり、$\det U=\pm1$ なので $R_E$ は基底によらない。thm-neron-tate-positive により $R_E>0$ である。
文献によって正規化が 2 倍異なることに注意する。この記事の $\hat h$ と $\langle\ ,\ \rangle$ は Cre97 §3.4(pp. 71–72)と同じで、この正規化の $R_E$ が Birch–Swinnerton-Dyer 予想の公式に $2^r$ の因子なしで入る(同 p. 72 の注意と脚注)。Sil09 は $\hat h$ をこの記事の値の半分に正規化し、予想の公式に $2^r$ を付けている(Remark VIII.9.2、p. 248、Conjecture C.16.5、p. 452)。
$E\colon y^2=x^3+1$ の点 $P=(2,3)$ を考える。2 倍の公式から $2P=(0,1)$、$3P=(-1,0)$ であり、$3P$ は 2 等分点なので $6P=O$ である。素朴な高さは $h(P)=\log2$、$h(2P)=h(0)=0$ で、$h(2P)\ne4h(P)$ である。一方 $P$ は有限位数なので $\hat h(P)=0$ である(thm-neron-tate-torsion)。$\hat h$ と $h$ は一致しないが、thm-neron-tate-existence の 2 のとおり差は有界である。
$E\colon y^2+y=x^3-x$(判別式 $37$)と $P=(0,0)$ を考える。一般の Weierstrass 方程式でも $h(Q):=h(x(Q))$ として $\hat h(P)=\lim h(2^nP)/4^n$ で計算すると、$2P=(1,0)$、$4P=(2,-3)$、$8P=(21/25,-69/125)$ で、$h(2^nP)/4^n$ は $n=2,3,4$ で $0.0433$、$0.0503$、$0.0511$ となり、$\hat h(P)\approx0.0511$ である(数値は計算による)。$P$ は無限位数なので値は正である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 極限をとる(素朴な高さのまま) | ex-neron-tate-torsion-point の $P$ | $h(2P)=4h(P)$、捩れ点で $0$ |
| 格子上で $\{q\le C\}$ が有限 | $\mathbb{Z}^2\subset\mathbb{R}^2$ 上の $q(x,y)=(x-\sqrt2\,y)^2$ | $V$ 上の正定値性 |
| 定義体の次数の上界 | $E(\bar{\mathbb{Q}})$ の捩れ点 | $\{\hat h\le C\}$ の有限性 |
1 行目:例で計算したとおりである。2 行目:$x-\sqrt2y=0$ となる $(x,y)\in\mathbb{Z}^2$ は $\sqrt2$ が無理数なので $(0,0)$ だけで、(i) はみたす。しかし Dirichlet の近似定理により $\lvert x-\sqrt2y\rvert< 1/y$ となる整数の組が無限にあり、$\{q\le1\}$ は無限集合である。$q$ は $(\sqrt2,1)$ で $0$ になり、正定値でない。3 行目:$\hat h$ は代数体上の点にも Sil09 Proposition VIII.9.1(p. 247)の形で定まり、捩れ点で $0$ になる(同 Theorem VIII.9.3 (d))。$E[n](\bar{\mathbb{Q}})$ は $n^2$ 個の点からなるので、$\hat h=0$ の点は無限にある。点の定義体の次数を固定すれば有限性は戻る(Weil高さ の定理「Northcott の定理」)。
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