Calabi–Yau多様体(Calabi–Yau variety)とは、標準束が自明な滑らかな射影多様体、あるいは第 1 Chern 類が $0$ のコンパクト Kähler 多様体である。さらに $0<i<n$ で $H^i(X,\mathcal{O}_X)=0$ を課す流儀もあり、1 次元では楕円曲線、2 次元では K3 曲面がこれにあたる。射影空間 $\mathbb{P}^N$ の完全交叉は次数の和が $N+1$ のとき Calabi–Yau 多様体になり、$\mathbb{P}^4$ の 5 次超曲面が 3 次元の代表例である。Yau による Calabi 予想の解決から、各 Kähler 類に Ricci 平坦な Kähler 計量がただ 1 つ存在する。
Calabi–Yau 多様体(Calabi–Yau variety, Calabi–Yau manifold)とは、標準束が自明な(あるいは第 1 Chern 類が消えている)コンパクトな多様体のことである。1 次元では楕円曲線、2 次元では K3 曲面とアーベル曲面がこれにあたり、3 次元の代表例は $\mathbb{P}^4$ の滑らかな 5 次超曲面である。
名前は、Calabi の予想「コンパクト Kähler 多様体の各 Kähler 類には、第 1 Chern 類を代表する任意の $(1,1)$ 形式を Ricci 形式にもつ Kähler 計量がただ 1 つある」と、それを 1976 年に証明した Yau にちなむ。特に第 1 Chern 類が $0$ なら Ricci 平坦な Kähler 計量がある。代数幾何では「標準束が自明」、微分幾何では「Ricci 平坦」「ホロノミーが $SU(n)$ に含まれる」という形で現れ、文献によって定義の細部が違う。
この記事では、まず代数的な定義を 2 段階で与え、射影空間の完全交叉として Calabi–Yau 多様体を作る方法を完全に証明する。次に次元 3 以下の完全交叉の Calabi–Yau 多様体の型を列挙し、5 次超曲面の Chern 数を計算する。微分幾何的な側面(Yau の定理、ホロノミー、構造定理)は出典を示して紹介する。
$k$ を体とし、多様体は $k$ 上の分離的な整な有限型スキームとする。滑らかな $n$ 次元多様体 $X$ の標準層を $\omega_X:=\Omega^n_{X/k}$ とおく。
$X$ を体 $k$ 上の滑らかで幾何的に連結な $n$ 次元($n\ge1$)射影多様体とする。
(i) は Vak25 21.5.5(p. 623)の定義で、同所に「他の定義もある」との注意がある。(ii) は、微分幾何でホロノミーが $SU(n)$ 全体になる場合に現れる条件(下の「微分幾何的な側面」)を代数的に述べたものである。$n=1$ では (ii) は空の条件で、$n=2$ で (ii) をみたすものがちょうど射影的な K3 曲面である(K3曲面、Vak25 Exercise 21.5.I)。
コンパクト Kähler 多様体 $X$ で、第 1 Chern 類 $c_1(X):=c_1(T_X)$ が $H^2(X,\mathbb{R})$ の中で $0$ になるものを Calabi–Yau 多様体という(Yau09 §1, p. 278)。
$c_1(T_X)=-c_1(\omega_X)$ なので、標準束が自明なら $c_1(X)=0$ である。Yau09 §2.4(p. 280)は、さらに基本群が有限であることを慣習として課している。
| 定義 | 課す条件 | 1 次元 | 2 次元 |
|---|---|---|---|
| 代数的 (i) | $\omega_X\cong\mathcal{O}_X$ | 楕円曲線 | K3 曲面、アーベル曲面 |
| 狭義 (ii) | (i) と $H^i(\mathcal{O}_X)=0$($0< i< n$) | 楕円曲線 | K3 曲面 |
| 複素幾何的 | Kähler かつ $c_1(X)=0$(実係数) | 楕円曲線 | K3 曲面、2 次元複素トーラスなど |
曲線の種数は $\deg\omega_C=2g-2$ の符号で 3 つに分かれ、$g=0$ の射影直線は標準層の逆が豊富(Fano 型)、$g\ge2$ は標準層が豊富(一般型)、その境目の $g=1$ が楕円曲線である(Vak25 Exercise 21.5.F)。Calabi–Yau 多様体は、この境目を高次元へ延ばしたものである。実際、下で証明するように、射影空間の超曲面では次数が $N+1$ より小さいか、等しいか、大きいかで、この 3 つがちょうど分かれる。標準束が自明なので、正則な $n$ 形式(体積形式)が至るところ $0$ にならずに 1 つ定まる。これが、計量の側では Ricci 平坦性、ホロノミーの側では $SU(n)$ への縮小として現れる。
射影空間 $\mathbb{P}^N=\mathbb{P}^N_k$ の直線束のコホモロジーについては、次の事実を使う(Vak25 Theorem 18.1.2, pp. 494–495):$H^0(\mathbb{P}^N,\mathcal{O}(m))$ は $m$ 次斉次多項式の空間、$0< i< N$ ならすべての $m$ で $H^i(\mathbb{P}^N,\mathcal{O}(m))=0$、$H^N(\mathbb{P}^N,\mathcal{O}(m))\neq0$ となるのは $m\le-N-1$ のときだけ。
$d_1,\dots,d_r\ge1$ とし、$f_j\in k[x_0,\dots,x_N]$ を $d_j$ 次斉次多項式とする。$Y_0=\mathbb{P}^N$、$Y_j=V(f_1,\dots,f_j)$ とおく。各 $j=1,\dots,r$ について、$f_j$ 倍の写像
$$
\mathcal{O}_{Y_{j-1}}(-d_j)\xrightarrow{\ \cdot f_j\ }\mathcal{O}_{Y_{j-1}}
$$
が単射であるとき、$X=Y_r$ を次数 $(d_1,\dots,d_r)$ の完全交叉という。
これは、Vak25 Definition 9.5.8(p. 274)の「各点で方程式が正則列をなす」という条件を、$X$ の点だけでなく途中の各 $Y_{j-1}$ の全体で課したものである。単射性から、閉部分スキームの完全列
$$
0\to\mathcal{O}_{Y_{j-1}}(m-d_j)\xrightarrow{\ \cdot f_j\ }\mathcal{O}_{Y_{j-1}}(m)\to\mathcal{O}_{Y_j}(m)\to0\qquad(m\in\mathbb{Z})
$$
が得られる。
$X=Y_r$ を $\mathbb{P}^N$ の空でない完全交叉とし、$r< N$ とする。このとき $0\le j\le r$ について
$j$ についての帰納法で示す。$j=0$ では (a) と (b) は射影空間の事実そのもので、(c) は $H^0(\mathbb{P}^N,\mathcal{O})=k$ である。
$1\le j\le r$ とし、$j-1$ で (a)(b) が成り立つとする。$d=d_j$ とおき、上の完全列のコホモロジー長完全列の一部
$$
H^i(Y_{j-1},\mathcal{O}(m))\to H^i(Y_j,\mathcal{O}(m))\to H^{i+1}(Y_{j-1},\mathcal{O}(m-d))
$$
を見る。
(a) $0< i< N-j$ とする。$Y_{j-1}$ では $0< i< N-(j-1)$ と $0< i+1< N-(j-1)$ がともに成り立つので、帰納法の仮定 (a) により両端は $0$ で、真ん中も $0$ になる。
(b) $i=0$ の段 $H^0(Y_{j-1},\mathcal{O}(m))\to H^0(Y_j,\mathcal{O}(m))\to H^1(Y_{j-1},\mathcal{O}(m-d))$ で、$j\le r< N$ より $0<1< N-(j-1)$ だから右端は帰納法の仮定 (a) により $0$、よって左の写像は全射である。これと帰納法の仮定 (b) の全射 $H^0(\mathbb{P}^N,\mathcal{O}(m))\to H^0(Y_{j-1},\mathcal{O}(m))$ を合成すればよい。
(c) (b) を $m=0$ で使うと、$H^0(Y_j,\mathcal{O}_{Y_j})$ は定数 $k=H^0(\mathbb{P}^N,\mathcal{O})$ の像である。$Y_j\supset X\neq\emptyset$ なので定数 $1$ の像は $0$ でなく、$H^0(Y_j,\mathcal{O}_{Y_j})=k$。
(c) を代数閉包に上げて使うと、正の次元の完全交叉は幾何的に連結であることが分かる(Vak25 Exercise 18.6.U, p. 523 と同じ議論。(a) は同 Exercise 18.6.Q)。
$k$ を無限体、$r< N$、$d_1,\dots,d_r\ge1$ とする。このとき斉次多項式 $f_1,\dots,f_r$($\deg f_j=d_j$)で、すべての $Y_j$($0\le j\le r$)が $k$ 上滑らかな $N-j$ 次元の多様体となり、$X=Y_r$ が完全交叉となるものがある。
$j$ についての帰納法で $f_j$ を選ぶ。$Y_{j-1}$ が滑らかな $N-j+1$ 次元の閉部分多様体として得られているとする。Bertini の定理(Vak25 Theorem 13.4.2 と直後の Veronese 埋め込みによる注意, p. 375)により、無限体上では一般の $d_j$ 次超曲面 $V(f_j)$ との交わり $Y_j=Y_{j-1}\cap V(f_j)$ は滑らかな $N-j$ 次元のスキームになる。$N-j\ge N-r\ge1$ なので、正の次元の射影スキームと超曲面の交わりとして $Y_j$ は空でない。
単射性を確かめる。$j-1$ までの段で完全交叉の条件は成り立っているから、lem-cy-ci-cohomology (c)($r$ を $j-1$ に置き換えたもの)により $H^0(Y_{j-1},\mathcal{O})=k$ で、$Y_{j-1}$ は連結である(開かつ閉な分解があれば $k$ の外の大域切断ができる)。滑らかなスキームの局所環は整域で既約成分は交わらないから、連結な $Y_{j-1}$ は整である。$Y_j$ の次元が $Y_{j-1}$ より小さいので $f_j$ は $Y_{j-1}$ 上恒等的に $0$ ではなく、整スキーム上では $0$ でない局所切断倍は単射だから、$\mathcal{O}_{Y_{j-1}}(-d_j)\xrightarrow{\cdot f_j}\mathcal{O}_{Y_{j-1}}$ は単射である。$Y_j$ も同じ理由で連結、したがって整な多様体である。
prop-cy-ci-existence のように、すべての $Y_j$ が滑らかな完全交叉 $X=Y_r$($r< N$)について
$$
\omega_X\cong\mathcal{O}_X\Bigl(\sum_{j=1}^rd_j-N-1\Bigr).
$$
$\omega_{\mathbb{P}^N}\cong\mathcal{O}(-N-1)$ である(Euler 完全列 $0\to\Omega^1_{\mathbb{P}^N}\to\mathcal{O}(-1)^{\oplus(N+1)}\to\mathcal{O}\to0$(Vak25 Theorem 21.3.6, p. 614)の最高次外積をとる)。$j$ についての帰納法で、各 $Y_j$ が空でない $N-j$ 次元の滑らかな多様体であることも同時に示す。$Y_{j-1}$ がそうであるとする。$Y_j=Y_{j-1}\cap V(f_j)$ が空なら $f_j$ は $\mathcal{O}_{Y_{j-1}}(d_j)$ の至るところ $0$ にならない切断で $\mathcal{O}_{Y_{j-1}}(d_j)$ は自明になるが、正の次元の射影多様体 $Y_{j-1}$ 上で豊富な $\mathcal{O}(d_j)$ は曲線との交点数が正なので(Vak25 Exercise 20.1.K, p. 580)自明でない。よって $Y_j$ は空でない。$f_j$ 倍が単射なので $Y_j$ は $Y_{j-1}$ の有効 Cartier 因子で、Krull の単項イデアル定理によりその各既約成分は $N-j$ 次元である。lem-cy-ci-cohomology (c)($r$ を $j$ に置き換えたもの)より $Y_j$ は連結で、滑らかなので整である。よって $Y_j$ は滑らかな $Y_{j-1}$ の滑らかな因子で、$\mathcal{O}_{Y_{j-1}}(Y_j)\cong\mathcal{O}_{Y_{j-1}}(d_j)$ だから、随伴公式 $\omega_{Y_j}\cong(\omega_{Y_{j-1}}\otimes\mathcal{O}_{Y_{j-1}}(Y_j))|_{Y_j}$(Vak25 Exercise 21.5.B, p. 623)により $\omega_{Y_j}\cong\omega_{Y_{j-1}}(d_j)|_{Y_j}$。$j=1,\dots,r$ と順に代入すれば主張を得る。
途中の $Y_j$ が滑らかでない一般の滑らかな完全交叉についても同じ公式が成り立つ(Vak25 Exercise 21.5.G(a), p. 624。余法層 $I/I^2$ が $\bigoplus_j\mathcal{O}_X(-d_j)$ になることを使う)。
$X=Y_r\subset\mathbb{P}^N$ を、すべての $Y_j$ が滑らかな完全交叉とし、$n=N-r\ge1$、$d_1+\dots+d_r=N+1$ とする。このとき $X$ は狭義の Calabi–Yau 多様体であり、
$$
h^0(\mathcal{O}_X)=h^n(\mathcal{O}_X)=1,\qquad h^i(\mathcal{O}_X)=0\quad(0< i< n)
$$
が成り立つ。
prop-cy-ci-canonical で $\sum d_j-N-1=0$ だから $\omega_X\cong\mathcal{O}_X$。prf-cy-ci-canonical で示したとおり $X$ は空でない $n$ 次元の多様体なので、lem-cy-ci-cohomology (a) を $j=r$、$m=0$ で使うと $0< i< n$ で $H^i(X,\mathcal{O}_X)=0$、(c) より $h^0(\mathcal{O}_X)=1$ である。代数閉包 $\bar k$ に基底変換しても、$f_j$ 倍の単射性(平坦な基底変換で保たれる)と滑らかさは保たれるので、同じ (c) により $X_{\bar k}$ は連結、すなわち $X$ は幾何的に連結である。$X$ は滑らかで連結だから整な射影多様体で、Serre 双対性 $h^n(\mathcal{O}_X)=h^0(\omega_X)$(Vak25 Theorem 18.5.1, p. 514)と $\omega_X\cong\mathcal{O}_X$ から $h^n(\mathcal{O}_X)=h^0(\mathcal{O}_X)=1$。
超曲面($r=1$、$d_1=d$)では $\omega_X\cong\mathcal{O}_X(d-N-1)$ で、豊富な $\mathcal{O}(1)$ の閉部分スキームへの制限は豊富だから、$d< N+1$ なら $\omega_X^{-1}$ が豊富(Fano 多様体)、$d=N+1$ なら Calabi–Yau 多様体、$d>N+1$ なら $\omega_X$ が豊富になる。「直感」の節で述べた曲線の 3 分類の、次数による類似である。
次数がすべて $2$ 以上の完全交叉で $\sum d_j=N+1$ となるもの(thm-cy-ci の型)は、次元 $n=N-r$ を固定すると、$n+1$ の分割(順序を無視した正の整数の和への分け方)と 1 対 1 に対応する。対応は $(d_1,\dots,d_r)\mapsto(d_1-1,\dots,d_r-1)$ で与えられる。特に $n\le3$ の型は次の表のとおりである。
| 次元 $n$ | 型($\mathbb{P}^N$ の中の次数) | 個数 |
|---|---|---|
| $1$ | $(3)\subset\mathbb{P}^2$、$(2,2)\subset\mathbb{P}^3$ | $2$ |
| $2$ | $(4)\subset\mathbb{P}^3$、$(2,3)\subset\mathbb{P}^4$、$(2,2,2)\subset\mathbb{P}^5$ | $3$ |
| $3$ | $(5)\subset\mathbb{P}^4$、$(2,4)\subset\mathbb{P}^5$、$(3,3)\subset\mathbb{P}^5$、$(2,2,3)\subset\mathbb{P}^6$、$(2,2,2,2)\subset\mathbb{P}^7$ | $5$ |
$N=n+r$ だから、条件 $\sum_{j=1}^rd_j=N+1$ は $\sum_{j=1}^r(d_j-1)=n+1$ と同値である。$d_j\ge2$ は $d_j-1\ge1$ と同値なので、次数の組(順序を無視したもの)は $n+1$ を $r$ 個の正の整数の和に分ける分け方と 1 対 1 に対応し、$r$ を動かせば $n+1$ の分割全体と対応する。逆に分割 $(e_1,\dots,e_r)$ からは $d_j=e_j+1$、$N=n+r$ として型が一つに定まる。$n+1=2,3,4$ の分割はそれぞれ $\{2,\ 1+1\}$、$\{3,\ 2+1,\ 1+1+1\}$、$\{4,\ 3+1,\ 2+2,\ 2+1+1,\ 1+1+1+1\}$ で、各成分に $1$ を足すと表の次数の組になる。
次数 $1$ の方程式を許しても、超平面 $V(f)\cong\mathbb{P}^{N-1}$ の中の完全交叉に置き換わるだけなので、新しい型は生じない。表が小さいことは Vak25 Exercise 21.5.G(c)(p. 624)でも注意されている。
$k$ の標数が $5$ でなければ、Fermat の 5 次超曲面 $X=V(x_0^5+\dots+x_4^5)\subset\mathbb{P}^4$ は滑らかである(偏導関数 $5x_i^4$ が同時に消えるのは原点だけ)。thm-cy-ci より $X$ は狭義の Calabi–Yau 3 次元多様体である。これは Calabi–Yau 3 次元多様体の最初の例として知られる(Yau09 §2.5, p. 281)。
$k=\mathbb{C}$ として位相的な Chern 数を計算する。$h\in H^2(X,\mathbb{Z})$ を超平面類の制限とする。法束の完全列 $0\to T_X\to T_{\mathbb{P}^4}|_X\to\mathcal{O}_X(5)\to0$(Vak25 Theorem 21.2.31, p. 610 の双対)と、Whitney の和公式・$c(T_{\mathbb{P}^4})=(1+h)^5$(Chern類の例「複素射影空間の接束」)から
$$
c(T_X)=\frac{(1+h)^5}{1+5h}=(1+5h+10h^2+10h^3)(1-5h+25h^2-125h^3)=1+10h^2-40h^3
$$
($h^4=0$ で打ち切る)。$c_1(T_X)=0$ は標準層の自明性と合っている。$\int_Xh^3=\deg X=5$ だから $\int_Xc_3(T_X)=-200$ である。$c_3(T_X)$ は実 6 次元の向き付けられた接束の Euler 類なので(Chern類の同じ例の後の検算)、これは $X$ の Euler 標数 $\chi_{\mathrm{top}}(X)=-200$ を意味する。
$E_1,\dots,E_n$($n\ge2$)を楕円曲線とし、$X=E_1\times\dots\times E_n$ とする。各 $\Omega^1_{E_i}\cong\mathcal{O}_{E_i}$(楕円曲線の「不変微分の因子」)から $\Omega^1_X\cong\mathcal{O}_X^{\oplus n}$、$\omega_X=\det\Omega^1_X\cong\mathcal{O}_X$ で、$X$ は Calabi–Yau 多様体である。一方、第 1 成分への射影 $p_1$ は切断 $x\mapsto(x,O_2,\dots,O_n)$ をもつので $p_1^\ast\colon H^1(E_1,\mathcal{O})\to H^1(X,\mathcal{O}_X)$ は単射で、$h^1(\mathcal{O}_X)\ge1$。よって $X$ は狭義の Calabi–Yau 多様体ではない($n=2$ の場合の詳細は K3曲面の「反例:アーベル曲面」)。
$X$ を $n$ 次元の Calabi–Yau 多様体((i) の意味)とすると、すべての $m\ge1$ で多重種数 $P_m(X):=h^0(\omega_X^{\otimes m})$ は $1$ であり、$X$ は $\mathbb{P}^n$ と双有理同値でない。
$\omega_X^{\otimes m}\cong\mathcal{O}_X$ で、$X$ は幾何的に連結な滑らかな射影多様体だから $h^0(\mathcal{O}_X)=1$(大域関数の環 $K=H^0(X,\mathcal{O}_X)$ は有限次元の整域、すなわち $k$ の有限次拡大体で、平坦な基底変換により $K\otimes_k\bar k\cong H^0(X_{\bar k},\mathcal{O}_{X_{\bar k}})$ となる。$X_{\bar k}$ は滑らかなので被約、幾何的連結性により連結だから、この有限次元 $\bar k$ 代数は $\bar k$ に一致し、$K=k$ である)。よって $P_m(X)=1$。一方 $\mathbb{P}^n$ では $P_1(\mathbb{P}^n)=h^0(\mathcal{O}(-n-1))=0$ である。滑らかな射影多様体の多重種数は双有理不変量なので(双有理幾何学の「多重種数の双有理不変性」)、$X$ と $\mathbb{P}^n$ は双有理同値でない。
多重種数がすべて $1$ なので、Calabi–Yau 多様体の小平次元は $0$ である。極小モデル理論の言葉では、標準因子がネフ(実際には自明)な極小モデルそのものである(双有理幾何学)。
この節の事実はこの記事では証明しない(出典は Yau09 §2.2–2.4, pp. 279–281、§3.2, p. 286)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| (i) $\omega_X\cong\mathcal{O}_X$ | 射影空間 $\mathbb{P}^n$ | 多重種数が $0$ で、有理多様体になる(prop-cy-not-rational) |
| (ii) $H^i(\mathcal{O}_X)=0$ | 楕円曲線の積 $E_1\times\dots\times E_n$ | (i) はみたすが $h^1(\mathcal{O}_X)\ge1$(ex-cy-abelian) |
| 次数の和 $=N+1$ | $\mathbb{P}^4$ の滑らかな 6 次超曲面 | $\omega_X\cong\mathcal{O}_X(1)$ が豊富で自明でない |
| 滑らかさ | 標数 $5$ の Fermat の 5 次式 | $V(F)$ が被約でなく、滑らかな多様体でない |
$\mathbb{P}^n$ では $\omega\cong\mathcal{O}(-n-1)$ なので、$m\ge1$ で $h^0(\omega^{\otimes m})=h^0(\mathcal{O}(-m(n+1)))=0$。6 次超曲面では prop-cy-ci-canonical より $\omega_X\cong\mathcal{O}_X(6-5)$ で、$h^0(\omega_X)=h^0(\mathcal{O}_X(1))=5$(完全列 $0\to\mathcal{O}(-5)\to\mathcal{O}(1)\to\mathcal{O}_X(1)\to0$ で $H^0(\mathcal{O}(-5))=H^1(\mathcal{O}(-5))=0$ だから $H^0(\mathcal{O}_X(1))\cong H^0(\mathbb{P}^4,\mathcal{O}(1))$)だから $\omega_X\not\cong\mathcal{O}_X$。標数 $5$ では $(a+b)^5=a^5+b^5$ より $\sum x_i^5=(\sum x_i)^5$ で、$V(F)$ は超平面を 5 重に数えた被約でないスキームである。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する