余弦の積と倍角の公式

同義語:Morrieの法則Morrie's lawproduct of cosines and the double-angle formula

概要

余弦の積と倍角の公式(product of cosines and the double-angle formula)とは、$\sin\alpha\ne0$ のとき $\cos\alpha\cos2\alpha\cdots\cos2^{k-1}\alpha=\frac{\sin2^k\alpha}{2^k\sin\alpha}$ と 1 つの正弦で書けるという公式である。2 倍角の公式の繰り返しで示せ、$\cos20^\circ\cos40^\circ\cos80^\circ=\frac18$ はその例である。$x\ne0$ なら $\cos\frac x2\cdots\cos\frac x{2^k}$ は $k\to\infty$ で $\frac{\sin x}{x}$ に近づき、$x=\frac\pi2$ として $\frac2\pi$ を根号で表す Viète の式が出る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く, sin x/xの極限, 数学的帰納法と整列性

高校での出発点:$\cos20^\circ\cos40^\circ\cos80^\circ$ を求める

$\cos20^\circ$、$\cos40^\circ$、$\cos80^\circ$ は、どれも有理数でも簡単な根号の式でもない($\cos20^\circ$ は 3 次方程式 $8x^3-6x-1=0$ の解である。加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く)。ところが 3 つを掛けると、きれいな値になる。

$\cos20^\circ\cos40^\circ\cos80^\circ$ の値

$P=\cos20^\circ\cos40^\circ\cos80^\circ$ とおく。両辺に $\sin20^\circ$ を掛け、2 倍角の公式 $2\sin\beta\cos\beta=\sin2\beta$ を 3 回使う。
$$ \begin{aligned} 8\sin20^\circ\cdot P&=4\,(2\sin20^\circ\cos20^\circ)\cos40^\circ\cos80^\circ=4\sin40^\circ\cos40^\circ\cos80^\circ\\ &=2\,(2\sin40^\circ\cos40^\circ)\cos80^\circ=2\sin80^\circ\cos80^\circ\\ &=\sin160^\circ \end{aligned} $$
である。$\sin160^\circ=\sin(180^\circ-20^\circ)=\sin20^\circ$ なので $8\sin20^\circ\cdot P=\sin20^\circ$ である。$\sin20^\circ\ne0$ だから両辺を $8\sin20^\circ$ で割って
$$ P=\cos20^\circ\cos40^\circ\cos80^\circ=\frac18 $$
を得る。計算機で確かめると $0.9396926\times0.7660444\times0.1736482=0.1250000$ である。

$\cos36^\circ\cos72^\circ$ の値

同じように $Q=\cos36^\circ\cos72^\circ$ に $4\sin36^\circ$ を掛けると
$$ 4\sin36^\circ\cdot Q=2\,(2\sin36^\circ\cos36^\circ)\cos72^\circ=2\sin72^\circ\cos72^\circ=\sin144^\circ $$
である。$\sin144^\circ=\sin(180^\circ-36^\circ)=\sin36^\circ$ なので、$Q=\dfrac14$ である。

どちらの計算も、角が $2$ 倍ずつ並んでいることを使った。$\sin$ を 1 つ掛けておくと、2 倍角の公式で「$\sin$ と $\cos$ の積」が次々に 1 つの $\sin$ にまとまり、最後に 1 つの $\sin$ だけが残る。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 角が $2$ 倍ずつ並ぶ余弦の積は、いつも 1 つの正弦で書けるか。→ thm-pcd-product
  2. 角を半分ずつにしながら掛ける個数を増やすと、積はどこへ近づくか。→ thm-pcd-limit
  3. そこから円周率 $\pi$ の式が出るか。→ cor-pcd-viete
    高校の計算この記事の言葉先にあるもの
    $\sin$ を掛けて 2 倍角の公式を繰り返す余弦の積の公式積が順に 1 つにまとまる式(望遠鏡のような積)
    $\dfrac{\sin x}{x}\to1$部分積の極限無限積
    半角の公式 $\cos\dfrac\theta2=\sqrt{\dfrac{1+\cos\theta}2}$根号が重なる式円周率の無限積の表示

主定理 1:余弦の積の公式

ex-pcd-start の計算を、角 $\alpha$ と個数 $k$ を文字にして行う。

余弦の積の公式

$\sin\alpha\ne0$ とする。$k\ge1$ のすべての整数 $k$ について
$$ \cos\alpha\cos2\alpha\cos4\alpha\cdots\cos2^{k-1}\alpha=\frac{\sin2^k\alpha}{2^k\sin\alpha} $$
が成り立つ。左辺は $\cos2^j\alpha$($j=0,1,\ldots,k-1$)の $k$ 個の積である。

方針:分母を払った式
$$ 2^k\sin\alpha\cdot\cos\alpha\cos2\alpha\cdots\cos2^{k-1}\alpha=\sin2^k\alpha\qquad(\ast) $$
を $k$ についての数学的帰納法で示す(数学的帰納法と整列性)。$(\ast)$ が示せれば、$\sin\alpha\ne0$ なので両辺を $2^k\sin\alpha$ で割って主張を得る。
段 1($k=1$)。2 倍角の公式(加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く の系「2 倍角の公式」)により $2\sin\alpha\cos\alpha=\sin2\alpha$ なので、$(\ast)$ は $k=1$ で成り立つ。
段 2($k$ から $k+1$ へ)。$(\ast)$ が $k$ で成り立つとする。$k+1$ のときの左辺は、$k$ のときの左辺に $2\cos2^k\alpha$ を掛けたものなので
$$ 2^{k+1}\sin\alpha\cdot\cos\alpha\cdots\cos2^{k-1}\alpha\cdot\cos2^k\alpha=2\cos2^k\alpha\cdot\Bigl(2^k\sin\alpha\cdot\cos\alpha\cdots\cos2^{k-1}\alpha\Bigr) $$
である。括弧の中は、帰納法の仮定により $\sin2^k\alpha$ に等しい。よってこれは
$$ 2\sin2^k\alpha\cos2^k\alpha=\sin\bigl(2\cdot2^k\alpha\bigr)=\sin2^{k+1}\alpha $$
となる(2 倍角の公式を角 $2^k\alpha$ に使った)。これは $(\ast)$ の $k+1$ の場合である。
段 1・段 2 により、$(\ast)$ はすべての $k\ge1$ で成り立つ。$\square$

証明の中で $\sin\alpha\ne0$ を使ったのは、最後に割る所だけである。$(\ast)$ そのものはすべての実数 $\alpha$ で成り立つ。

余弦の積の公式を 3 つの角で使う
  1. $\alpha=20^\circ$、$k=3$:右辺は $\dfrac{\sin160^\circ}{8\sin20^\circ}=\dfrac18$ で、ex-pcd-start と同じ値である。
  2. $\alpha=36^\circ$、$k=2$:右辺は $\dfrac{\sin144^\circ}{4\sin36^\circ}=\dfrac14$ で、ex-pcd-start2 と同じ値である。
  3. $\alpha=\dfrac\pi7$、$k=3$:左辺は $\cos\dfrac\pi7\cos\dfrac{2\pi}7\cos\dfrac{4\pi}7$ である。右辺の分子は
    $$ \sin\frac{8\pi}7=\sin\Bigl(\pi+\frac\pi7\Bigr)=-\sin\frac\pi7 $$
    なので、
    $$ \cos\frac\pi7\cos\frac{2\pi}7\cos\frac{4\pi}7=\frac{-\sin\frac\pi7}{8\sin\frac\pi7}=-\frac18 $$
    である。$\cos\dfrac{4\pi}7<0$ なので積が負になるのは正しい。計算機では $0.9009689\times0.6234898\times(-0.2225209)=-0.1250000$ である。

(1)〜(3) に共通するのは、$2^k\alpha$ が $\pi\pm\alpha$ になることである。$2^k\alpha=\pi-\alpha$ なら $\sin2^k\alpha=\sin\alpha$ で積は $\dfrac1{2^k}$、$2^k\alpha=\pi+\alpha$ なら積は $-\dfrac1{2^k}$ になる。$(2^k+1)\alpha=\pi$ となる角 $\alpha=\dfrac{\pi}{2^k+1}$($k=2$ で $36^\circ$、$k=3$ で $20^\circ$)と、$(2^k-1)\alpha=\pi$ となる角 $\alpha=\dfrac{\pi}{2^k-1}$($k=3$ で $\dfrac\pi7$)が、きれいな値の出る角である。

$\cos20^\circ\cos40^\circ\cos80^\circ=\frac18$ を 3 次方程式から出す別解を開く

3 倍角の公式 $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$ に $\theta=20^\circ,\ 140^\circ,\ 260^\circ$ を入れると、どれも $\cos3\theta=\cos60^\circ$、$\cos420^\circ$、$\cos780^\circ$ で値は $\dfrac12$ である。よって $\cos20^\circ$、$\cos140^\circ$、$\cos260^\circ$ は 3 次方程式 $4x^3-3x-\dfrac12=0$、つまり $8x^3-6x-1=0$ の解であり、3 つは互いに異なるので、この方程式の 3 つの解のすべてである。解と係数の関係(根と係数の関係と対称式)により 3 つの解の積は $\dfrac18$ である。$\cos140^\circ=-\cos40^\circ$、$\cos260^\circ=-\cos80^\circ$ なので、$\cos20^\circ\cdot(-\cos40^\circ)\cdot(-\cos80^\circ)=\dfrac18$ となり、同じ値を得る。

主定理 2:角を半分ずつにした余弦の積の極限

主定理 1 で角の順を逆に読む。$x$ を固定し、$\alpha=\dfrac x{2^k}$ とおくと、左辺は
$$ \cos\frac x{2^k}\cos\frac x{2^{k-1}}\cdots\cos\frac x2 $$
となる。$k$ を $1$ ずつ増やすと、すでにある因子は変わらず、新しい因子 $\cos\dfrac x{2^{k+1}}$ が 1 つ加わる。つまりこれは、無限に続く積 $\cos\dfrac x2\cos\dfrac x4\cos\dfrac x8\cdots$ の、最初の $k$ 個までの積である。

部分積とその極限

実数 $x$ について、$k\ge1$ に対して
$$ p_k(x)=\cos\frac x2\cos\frac x4\cdots\cos\frac x{2^k} $$
とおき、$p_k(x)$ を 部分積 という。$k\to\infty$ のとき $p_k(x)$ がある値 $L$ に近づくなら、$L$ を $\cos\dfrac x2\cos\dfrac x4\cos\dfrac x8\cdots$ の値と考え、
$$ \cos\frac x2\cos\frac x4\cos\frac x8\cdots=L $$
と書く。

まず数値で見る。$x=1$ のとき、部分積は次のように $\sin1=0.8414709848\cdots$ に近づいていく。

$k$$1$$2$$3$$6$$10$$20$
$p_k(1)$$0.8775826$$0.8503006$$0.8436663$$0.8415052$$0.8414711$$0.8414710$

表は近づく様子を見せるだけで、近づくことの証明ではない。証明は次の定理で与える。

余弦の積の極限

$x\ne0$ とする。$k\to\infty$ のとき
$$ p_k(x)=\cos\frac x2\cos\frac x4\cdots\cos\frac x{2^k}\ \longrightarrow\ \frac{\sin x}x $$
である。

方針:主定理 1 で $p_k(x)$ を閉じた式に直し、$\dfrac{\sin t}t\to1$ を使う。
段 1(閉じた式)。$\alpha=\dfrac x{2^k}$ とおく。$k$ が十分大きければ $0<\lvert\alpha\rvert<\pi$ なので $\sin\alpha\ne0$ である。このとき thm-pcd-product により
$$ p_k(x)=\cos\alpha\cos2\alpha\cdots\cos2^{k-1}\alpha=\frac{\sin2^k\alpha}{2^k\sin\alpha}=\frac{\sin x}{2^k\sin\frac x{2^k}} $$
である(因子の並ぶ順は逆だが、積は順によらない)。
段 2(変形)。$2^k=\dfrac{x}{x/2^k}$ と書けるので、
$$ p_k(x)=\frac{\sin x}{x}\cdot\frac{\frac x{2^k}}{\sin\frac x{2^k}} $$
である。
段 3(極限)。$t_k=\dfrac x{2^k}$ とおくと、$t_k\ne0$ で、$k\to\infty$ のとき $t_k\to0$ である。sin x/xの極限 の定理「$\frac{\sin x}{x}$ の極限の値」により $\dfrac{\sin t}{t}\to1$($t\to0$)なので、$\dfrac{t_k}{\sin t_k}\to1$ である。よって段 2 から $p_k(x)\to\dfrac{\sin x}{x}\cdot1=\dfrac{\sin x}x$ である。$\square$

部分積を k=1, 2, 3, 6 まで描くと、k を増やすほど sin x / x のグラフ(破線)に重なっていく 部分積を k=1, 2, 3, 6 まで描くと、k を増やすほど sin x / x のグラフ(破線)に重なっていく
図 1 は $-3\pi\le x\le3\pi$ で $p_1,p_2,p_3,p_6$ と $\dfrac{\sin x}x$ を描いたものである。$k$ が小さいうちは原点から離れた所でずれるが、$k=6$ ではほとんど区別できない。ただし $0$ になる場所は少しずつしかそろわない。$\dfrac{\sin x}x$ は $x=m\pi$($m$ は $0$ でない整数)のすべてで $0$ になる。一方 $p_k(x)=0$ となるのは、ある因子 $\cos\dfrac x{2^j}$($1\le j\le k$)が $0$ になるとき、つまり $x=2^{j-1}(2n+1)\pi$($n$ は整数)のときで、これは「$x=m\pi$ で、$m$ が $2^k$ の倍数でない」ことと同じである。たとえば $p_1(x)=\cos\dfrac x2$ は $x=\pm\pi$ で $0$ だが、$x=\pm2\pi$ では $-1$ である。

円周率の式

主定理 2 に $x=\dfrac\pi2$ を入れると、$\dfrac{\sin(\pi/2)}{\pi/2}=\dfrac2\pi$ なので
$$ \cos\frac\pi4\cos\frac\pi8\cos\frac\pi{16}\cdots=\frac2\pi $$
となる。左辺の因子は、半角の公式で根号の重なった式に書ける。

根号が重なる式

$a_1=\sqrt2$、$a_{j+1}=\sqrt{2+a_j}$($j\ge1$)で数列を定める。すべての $j\ge1$ について
$$ \cos\frac{\pi}{2^{j+1}}=\frac{a_j}2 $$
である。つまり $\cos\dfrac\pi4=\dfrac{\sqrt2}2$、$\cos\dfrac\pi8=\dfrac{\sqrt{2+\sqrt2}}2$、$\cos\dfrac\pi{16}=\dfrac{\sqrt{2+\sqrt{2+\sqrt2}}}2$、… である。

$j$ についての帰納法で示す。$j=1$ では $\cos\dfrac\pi4=\dfrac{\sqrt2}2=\dfrac{a_1}2$ である。$j$ で成り立つとする。$\theta=\dfrac\pi{2^{j+1}}$ とおくと $0<\dfrac\theta2<\dfrac\pi2$ なので $\cos\dfrac\theta2>0$ であり、半角の公式(加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く の系「半角の公式と次数下げの公式」)から
$$ \cos\frac{\pi}{2^{j+2}}=\cos\frac\theta2=\sqrt{\frac{1+\cos\theta}2}=\sqrt{\frac{1+\frac{a_j}2}2}=\sqrt{\frac{2+a_j}4}=\frac{\sqrt{2+a_j}}2=\frac{a_{j+1}}2 $$
である(3 つ目の等号で帰納法の仮定を使った。根号の前の符号は $\cos\frac\theta2>0$ から正にとる)。よって $j+1$ でも成り立つ。$\square$

Viète の式

$$ \frac2\pi=\frac{\sqrt2}2\cdot\frac{\sqrt{2+\sqrt2}}2\cdot\frac{\sqrt{2+\sqrt{2+\sqrt2}}}2\cdots $$
すなわち、lem-pcd-nested の $a_j$ について、$k\to\infty$ のとき $\dfrac{a_1}2\cdot\dfrac{a_2}2\cdots\dfrac{a_k}2\to\dfrac2\pi$ である。

lem-pcd-nested により $\dfrac{a_1}2\cdots\dfrac{a_k}2=\cos\dfrac\pi4\cos\dfrac\pi8\cdots\cos\dfrac\pi{2^{k+1}}=p_k\Bigl(\dfrac\pi2\Bigr)$ である。thm-pcd-limit を $x=\dfrac\pi2$ で使うと、$k\to\infty$ のとき $p_k\bigl(\frac\pi2\bigr)\to\dfrac{\sin(\pi/2)}{\pi/2}=\dfrac2\pi$ である。$\square$

部分積を計算する

部分積 $v_k=p_k\bigl(\frac\pi2\bigr)$ と、$\dfrac2\pi=0.6366198\cdots$ との差を表にする。

$k$$v_k$$v_k-\frac2\pi$前の差との比
$1$$0.7071068$$7.05\times10^{-2}$—
$2$$0.6532815$$1.67\times10^{-2}$$0.236$
$3$$0.6407289$$4.11\times10^{-3}$$0.247$
$4$$0.6376436$$1.02\times10^{-3}$$0.249$
$5$$0.6368755$$2.56\times10^{-4}$$0.2498$
$6$$0.6366837$$6.39\times10^{-5}$$0.2499$

$v_1=\dfrac{\sqrt2}2$、$v_2=\dfrac{\sqrt2}2\cdot\dfrac{\sqrt{2+\sqrt2}}2=\dfrac{\sqrt{2(2+\sqrt2)}}4$ のように、根号と四則だけで $\dfrac2\pi$ に近づく値が作れる。$k$ を 1 つ増やすごとに差がほぼ $\dfrac14$ になっている。

差の比が $\dfrac14$ に近いことは、表で見ただけで、この記事では証明しない。理由の見通しだけ述べる。prf-pcd-limit の段 2 から $v_k-\dfrac2\pi=\dfrac2\pi\Bigl(\dfrac{t}{\sin t}-1\Bigr)$($t=\dfrac{\pi}{2^{k+1}}$)であり、$\dfrac t{\sin t}-1$ は $t$ が小さいとき $\dfrac{t^2}6$ に近い大きさである(sin x/xの極限 の例「表のずれが $\frac{x^2}{6}$ に近い理由」)。$k$ を 1 つ増やすと $t$ は半分になり、$t^2$ は $\dfrac14$ 倍になる。

図形で読む:正多角形の面積の比

Viète の式の因子 $\cos\dfrac\pi m$ は、正多角形の面積の比として現れる。

内接する正多角形の面積の比

半径 $1$ の円に内接する正 $m$ 角形を、中心と隣り合う 2 頂点を結ぶ $m$ 個の二等辺三角形に分ける。どれも 2 辺が $1$ で挟む角が $\dfrac{2\pi}m$ なので面積は $\dfrac12\sin\dfrac{2\pi}m$ であり、正 $m$ 角形の面積は
$$ S_m=\frac m2\sin\frac{2\pi}m $$
である。辺の数を 2 倍にすると $S_{2m}=m\sin\dfrac\pi m$ で、2 倍角の公式 $\sin\dfrac{2\pi}m=2\sin\dfrac\pi m\cos\dfrac\pi m$ から
$$ \frac{S_m}{S_{2m}}=\frac{\frac m2\cdot2\sin\frac\pi m\cos\frac\pi m}{m\sin\frac\pi m}=\cos\frac\pi m $$
である。$m=4,8,16,\ldots$ と 2 倍ずつにして比を掛けると、$\dfrac{S_4}{S_{2^{k+2}}}=\cos\dfrac\pi4\cos\dfrac\pi8\cdots\cos\dfrac\pi{2^{k+1}}=v_k$ となる。$S_4=2$(正方形)で、$S_{2^{k+2}}$ は円の面積 $\pi$ に近づくので、$v_k$ は $\dfrac2\pi$ に近づく。数値では $S_4=2$、$S_8=2.8284$、$S_{16}=3.0615$ で、$\dfrac{S_4}{S_8}=0.7071=\cos\dfrac\pi4$、$\dfrac{S_8}{S_{16}}=0.9239=\cos\dfrac\pi8$ である。

半径 1 の円に内接する正方形・正八角形・正十六角形を横に並べたもので、辺の数を 2 倍にするたびに面積は円の面積 π に近づく 半径 1 の円に内接する正方形・正八角形・正十六角形を横に並べたもので、辺の数を 2 倍にするたびに面積は円の面積 π に近づく
この見方では、「$S_{2^{k+2}}\to\pi$」を使うのに、内接正多角形の面積が円の面積に近づくことが要る。thm-pcd-limit による証明はそれを使わず、$\dfrac{\sin t}t\to1$ だけで済んでいる。辺の数を 2 倍にして $\pi$ を挟む方法は 正多角形で円周率を挟む でも扱い、そこでは周の長さの漸化式に半角の公式を使う。

例と反例

thm-pcd-product と thm-pcd-limit の仮定や形を変えると、式は成り立たない。

外す条件反例成り立たなくなること
$\sin\alpha\ne0$(主定理 1)$\alpha=\pi$、$k=2$右辺 $\frac{\sin4\pi}{4\sin\pi}$ が $\frac00$ で定まらない(左辺は $-1$)
角が $2$ 倍ずつ並ぶ(式の形の外)$\cos20^\circ\cos60^\circ$(角が $3$ 倍)同じ形の $\frac{\sin9\alpha}{9\sin\alpha}$ と一致しない
$x\ne0$(主定理 2)$x=0$右辺 $\frac{\sin x}x$ が定義されない(左辺はつねに $1$)
反例の確認
  1. $\alpha=\pi$、$k=2$:左辺は $\cos\pi\cos2\pi=-1\cdot1=-1$ である。右辺は分子 $\sin4\pi=0$、分母 $4\sin\pi=0$ で値をもたない。ただし $(\ast)$ の形 $4\sin\pi\cdot(-1)=\sin4\pi$ は $0=0$ として成り立っている。割り算ができないだけである。
  2. 角を $3$ 倍ずつにして $\cos\alpha\cos3\alpha$ を考える。2 倍角の公式の代わりに使える「$\sin\beta\cos3\beta$ を 1 つの正弦にまとめる公式」はない(積和の公式では $\sin\beta\cos3\beta=\frac12(\sin4\beta-\sin2\beta)$ と 2 つの項になる。加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)。実際 $\alpha=20^\circ$ では $\cos20^\circ\cos60^\circ=0.4698\cdots$ であり、主定理 1 をまねた式 $\dfrac{\sin(9\cdot20^\circ)}{9\sin20^\circ}=\dfrac{\sin180^\circ}{9\sin20^\circ}=0$ とは一致しない。
  3. $x=0$:$p_k(0)=\cos0\cdots\cos0=1$ で、$k$ によらず $1$ である。右辺 $\dfrac{\sin x}x$ は $x=0$ で定義されない。ただし $x\to0$ のとき $\dfrac{\sin x}x\to1$ なので、$x=0$ での値を $1$ と決めれば式は $x=0$ でも成り立つ。

大学数学で見る

名前と一般の式

Wei26 は、$\cos20^\circ\cos40^\circ\cos80^\circ=\dfrac18$ を Morrie の法則(Morrie's law)と呼び、それを $2^k\prod_{j=0}^{k-1}\cos(2^ja)=\dfrac{\sin(2^ka)}{\sin a}$ の $k=3$、$a=20^\circ$ の場合として述べている。この一般の式は thm-pcd-product の分母を払った形 $(\ast)$ そのものである。同じ頁は、この等式を物理学者 Feynman が子どものころ Morrie Jacobs という少年から教わったと書いている。

thm-pcd-limit は「無限積」の最も簡単な例である。大学の解析では、無限に続く積 $c_1c_2c_3\cdots$ の値を部分積の極限として定め、どんな条件で極限があるかを調べる。この記事では def-pcd-partial のとおり、部分積が近づく先を値とよぶだけにとどめた。

さらに先へ

  • この記事の積は角が $2$ 倍ずつ並ぶ積だった。角が等間隔に並ぶ正弦の積 $\sin x\sin\bigl(x+\frac\pi n\bigr)\cdots\sin\bigl(x+\frac{(n-1)\pi}n\bigr)$ も、1 つの正弦 $\sin nx$ で書ける。これは 等間隔の角の正弦の積 で、複素数平面を使って示す。
  • 円周率の式としては、逆正接の和を使う Machinの公式 もある。Viète の式は根号だけで書けるのが特徴で、収束は ex-pcd-viete-table のとおり 1 段ごとに誤差が約 $\dfrac14$ になる速さである。

関連項目

参考文献

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