写像の拡大

同義語:extension of a map

概要

写像の拡大(extension of a map)とは、部分集合上の写像 $f\colon A\to Y$ と一致する、より大きい定義域 $X\supseteq A$ 上の写像 $F\colon X\to Y$ を求めることである。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 写像, 写像の制限

概要

写像の拡大(extension of a map)とは、部分集合上の写像 $f\colon A\to Y$ と一致する、より大きい定義域 $X\supseteq A$ 上の写像 $F\colon X\to Y$ を求めることである。
拡大は集合としては容易に作れることが多いが、連続性・微分可能性・線形性などの追加構造を保つ拡大は別問題である。存在と一意性を分けて考えることが重要である。

定義

拡大と制限のとりかた

$U\subseteq X$、$f\colon X\to Y$ とする。$f$ の $U$ への制限(restriction)とは
$$ f|_U\colon U\to Y,\qquad f|_U(u)=f(u)\quad(u\in U) $$
で定まる写像である。制限では対応規則と終域を保ち、定義域だけを $X$ から $U$ へ狭める。
$U\subseteq X$、$g\colon U\to Y$ とする。写像 $F\colon X\to Y$ がすべての $u\in U$ について $F(u)=g(u)$ を満たすとき、$F$ を $g$ の $X$ への拡大(extension)という。同じことを $F|_U=g$ とも書ける。

例と反例

同じ写像の異なる拡大

$U=[0,\infty)\subseteq\mathbb R$ 上の写像 $g(x)=x^2$ を考える。$F_1(x)=x^2$ と
$$ F_2(x)=\begin{cases}x^2&(x\ge0),\\0&(x<0) \end{cases} $$
はいずれも $\mathbb R\to\mathbb R$ という $g$ の拡大である。$F_1$ は滑らかだが $F_2$ は $0$ で二階微分可能でないため、追加構造を指定すると許される拡大が変わる。

反例:拡大は一意とは限らない

$U=\{1\}\subseteq X=\{1,2\}$、$Y=\{5,6\}$ とし、$g\colon U\to Y$ を $g(1)=5$ で定める。二つの写像 $F_1,F_2\colon X\to Y$ を
$$ F_1(1)=F_1(2)=5,\qquad F_2(1)=5,\quad F_2(2)=6 $$
で定めると、$F_1|_U=g=F_2|_U$ だが $F_1\ne F_2$ である。満たす条件は「$g$ の $X$ への拡大であること」、破れる結論は「拡大が一意であること」であり、この例は「拡大が存在すれば一意である」という含意を破る。

存在と一意性

集合としての拡大の存在

$U\subseteq X$ とし、$Y$ は空でないとする。任意の写像 $g\colon U\to Y$ は $X$ 上の写像へ拡大できる。

集合としての拡大の存在の証明

$y_0\in Y$ を一つ固定し、
$$ F(x):=\begin{cases}g(x)&(x\in U),\\y_0&(x\in X\setminus U) \end{cases} $$
と定める。各 $x\in X$ に値がただ一つ定まり、$u\in U$ では $F(u)=g(u)$ だから $F|_U=g$ である。$\square$

すべての拡大が一意になる条件

$Y$ は空でないとする。任意の写像 $g\colon U\to Y$ の $X$ への拡大が一意であるための必要十分条件は、$U=X$ または $Y$ が一点集合であることである。

すべての拡大が一意になる条件の証明

$U=X$ なら拡大は $g$ 自身だけであり、$Y$ が一点集合なら $X\to Y$ という写像自体が一つしかない。逆に $U\neq X$ かつ $Y$ に異なる二点 $y_0,y_1$ があるとする。$x_0\in X\setminus U$ を選ぶ。存在命題の拡大を一つ取り、$x_0$ での値だけを $y_0$ または $y_1$ にした二つの写像を作れば、どちらも $g$ の拡大だが互いに異なる。$\square$

拡大の存在に関する端の場合

与えられた $g\colon U\to Y$ が $X$ へ拡大できるための必要十分条件は
$$ X=U\quad\text{または}\quad Y\neq\emptyset $$
である。

拡大の存在に関する端の場合の証明

$X=U$ なら $g$ 自身が拡大である。$Y\neq\emptyset$ なら先の命題で拡大を構成した。
逆に $X\neq U$ とし、$F\colon X\to Y$ が拡大として存在するとする。$x_0\in X\setminus U$ を取れば $F(x_0)\in Y$ なので、$Y$ は空でない。従って条件は必要でもある。

特に $Y=\emptyset$ の場合、写像 $g\colon U\to Y$ がそもそも存在するのは $U=\emptyset$ のときだけである。その空写像を $X$ へ拡大できるのは $X=\emptyset$ の場合に限る。

拡大全体と自由度

$U$ 上で値が固定されているため、拡大を選ぶ自由度は補集合 $X\setminus U$ 上の値だけにある。

拡大と補集合上の写像の対応

$Y\neq\emptyset$ とする。$g\colon U\to Y$ の $X$ への拡大全体と、写像全体 $\operatorname{Map}(X\setminus U,Y)$ の間には全単射がある。対応は
$$ F\longmapsto F|_{X\setminus U} $$
で与えられる。

拡大と補集合上の写像の対応の証明

拡大 $F$ は $U$ 上で $g$ と一致するので、$F|_{X\setminus U}$ が分かれば $X=U\cup(X\setminus U)$ 上のすべての値が分かる。従って対応は単射である。
逆に任意の $h\colon X\setminus U\to Y$ に対して
$$ F_h(x)= \begin{cases} g(x)&x\in U,\\ h(x)&x\in X\setminus U \end{cases} $$
と定めれば $g$ の拡大を得る。その補集合への制限は $h$ なので対応は全射である。

有限集合で $|Y|=m$、$|X\setminus U|=n$ なら、拡大の個数は $m^n$ である。$n=0$ のときは $m^0=1$ であり、$U=X$ の一意性と一致する。

段階的な制限と拡大

$U\subseteq V\subseteq X$ とする。$H\colon X\to Y$ が $h\colon V\to Y$ の拡大であり、$h$ が $g\colon U\to Y$ の拡大なら、$H$ は $g$ の拡大である。

段階的な制限と拡大の証明

制限の合成則により
$$ H|_U=(H|_V)|_U=h|_U=g $$
である。従って $H$ は $g$ の $X$ への拡大である。

性質を保つ拡大

集合としての拡大は、単射性や全射性を自動的には保たない。それらを保つための条件は、補集合にどの値を割り当てられるかで記述できる。

単射な拡大の存在条件

$g\colon U\to Y$ が単射な拡大 $F\colon X\to Y$ をもつための必要十分条件は、$g$ が単射であり、単射
$$ h\colon X\setminus U\longrightarrow Y\setminus g(U) $$
が存在することである。

単射な拡大の存在条件の証明

単射な拡大 $F$ が存在するとする。その制限 $g=F|_U$ も単射である。また $x\in X\setminus U$ について $F(x)\in g(U)$ なら、ある $u\in U$ に対して $F(x)=g(u)=F(u)$ となり、単射性から $x=u$ となって矛盾する。従って $F|_{X\setminus U}$ は $Y\setminus g(U)$ に値を取り、単射である。
逆に条件を満たす $h$ があるとする。$U$ 上では $g$、$X\setminus U$ 上では $h$ として $F$ を定める。同じ側に属する二点は $g$ または $h$ の単射性により区別され、異なる側の値は $g(U)$ と $Y\setminus g(U)$ に分かれる。従って $F$ は単射な拡大である。

全射な拡大の存在条件

$g\colon U\to Y$ が全射な拡大 $F\colon X\to Y$ をもつための必要十分条件は、写像 $h\colon X\setminus U\to Y$ で
$$ g(U)\cup h(X\setminus U)=Y $$
を満たすものが存在することである。

全射な拡大の存在条件の証明

全射な拡大 $F$ があれば $h=F|_{X\setminus U}$ とおく。$X$ は $U$ と $X\setminus U$ の和なので
$$ Y=F(X)=F(U)\cup F(X\setminus U)=g(U)\cup h(X\setminus U) $$
である。逆にそのような $h$ があれば、$g$ と $h$ を場合分けで貼り合わせて拡大 $F$ を作る。表示式から $F(X)=Y$ なので $F$ は全射である。

構造を保つ拡大

集合として拡大できても、追加条件を保てるとは限らない。たとえば $g\colon\mathbb R\setminus\{0\}\to\mathbb R$、$g(x)=1/x$ は集合としては $\mathbb R$ へ拡大できるが、$0$ で連続になるようには拡大できない。実際、連続な拡大 $F$ が存在すれば $x_n=1/n\to0$ に対して $F(x_n)=n$ が $F(0)$ へ収束しなければならないが、これは不可能である。
連続関数にはTietzeの拡張定理、滑らかな局所データには1の分割、線形写像には基底の延長など、構造ごとに異なる道具を使う。これらの定理には、閉部分集合、正規空間、部分空間、値域の形など固有の仮定がある。「集合として拡大できる」ことだけから、それらの仮定なしに構造を保つ拡大を結論してはいけない。

拡大と解析接続の違い

写像の拡大は、指定された部分集合上で値が一致するという集合論的条件である。解析接続は、正則性と連結性のもとで局所的に一致する正則関数を延長する概念であり、一致の定理によって一意性が生じる。一般の写像の拡大が非一意であることと、解析接続がしばしば一意であることは矛盾しない。後者では正則性という強い追加条件を課しているからである。
集合としての拡大、制限、写像の相等については Hara20(第3章 §§3.1--3.3)、Matsusaka68(第1章 §§3--4, pp. 22--41)を参照した。構造を保つ個別の拡張定理は各リンク先の記事で扱う。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する