Avramovの定理(完全交叉の平坦下降)

同義語:Avramov's theorem (flat descent of complete intersections)

概要

Avramovの定理(完全交叉の平坦下降)(Avramov's theorem (flat descent of complete intersections))とは、Noether局所環の平坦局所準同型 $A\to B$ について、$B$ が完全交叉局所環であることと、$A$ と閉ファイバー $B/\mathfrak m_AB$ がともに完全交叉局所環であることが同値であるという定理である。上昇では閉ファイバーの正則列が $B$ の正則列に持ち上がる。下降の鍵は、両立する正則な提示の核 $I\subset J$ について、高次の Tor が消えれば $I/\mathfrak nI\to J/\mathfrak nJ$ が単射になることであり、これは分割冪変数をもつ Tate の解像で確かめられる。完全交叉性が任意の素イデアルでの局所化で保たれることもこの定理から従う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 完全交叉局所環, Koszulホモロジーによる完全交叉の判定, 平坦局所準同型の次元公式と深さ公式, Cohenの構造定理

Noether局所環の平坦局所準同型 $A\to B$ では、$B$ は「底 $A$ の上に閉ファイバー $F=B/\mathfrak m_AB$ を重ねたもの」と見なせる。次元と深さは底とファイバーの和になり(平坦局所準同型の次元公式と深さ公式)、Cohen–Macaulay 性は $B$ と「$A$ と $F$ の両方」とで一致する。完全交叉性についても同じことが成り立つ、というのが Avramov の定理である。
$$ B\text{ が完全交叉}\iff A\text{ と }F\text{ がともに完全交叉}. $$
上昇($\Leftarrow$)は、閉ファイバーの正則列を $B$ へ持ち上げれば済む。難しいのは下降($\Rightarrow$)である。$B$ の方程式が正則列であることから、底 $A$ の方程式も正則列であることを引き出さなければならない。この記事では、整合する正則な提示を作ってこの問題をイデアルの包含 $I\subset J$ の問題に直し、分割冪変数をもつ自由な微分次数付き代数(Tate 型の解像)を使って下降を証明する。

設定と記号

環は単位元をもつ可換環とし、局所環は Noether とする。Noether局所環を $(A,\mathfrak m_A,k_A)$ のように書く。局所準同型、平坦局所準同型、閉ファイバーは 平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の定義「局所準同型と閉ファイバー」による。有限生成加群 $M$ の最小生成元の個数を $\mu(M)$ と書く。正則列は、最後の商が零でないことを含めて 正則列 の定義「加群上の正則列」による。
完全交叉局所環は、極大イデアル進完備化を正則局所環の商として表したとき核が正則列で生成されるもの、と定義される(完全交叉局所環)。正則局所環 $Q$ からの全射 $Q\twoheadrightarrow H$ を $H$ の 正則な提示 という。次の三つを繰り返し使う。

  • (K1) Noether局所環 $H$ が正則な提示 $Q\twoheadrightarrow H$ をもつとき、$H$ が完全交叉であることと、核が $Q$ 正則列で生成されることは同値である(Koszulホモロジーによる完全交叉の判定 の定理「Koszulホモロジーによる完全交叉の判定」の最後の主張)。
  • (K2) 正則局所環 $Q$ のイデアル $J\subsetneq Q$ について、$J$ が $Q$ 正則列で生成されることと $\mu(J)=\dim Q-\dim Q/J$ は同値であり、このとき $J$ の任意の最小生成系はどの順でも $Q$ 正則列である(同じ記事の補題「正則な提示の核の判定」)。
  • (K3) どの正則な提示 $Q\twoheadrightarrow H$ の核 $J$ についても $\mu(J)\ge\dim Q-\dim H$ である(同じ記事の系「方程式の数の下界」)。

主定理

Avramovの定理

$A\to B$ を Noether局所環の平坦局所準同型とし、$F=B/\mathfrak m_AB$ をその閉ファイバーとする。このとき、$B$ が完全交叉局所環であることと、$A$ と $F$ がともに完全交叉局所環であることは同値である。

証明の組み立て

証明は次の順に進む。

  1. 完備化へ移す(lem-avr-completion)。
  2. $A$ と $B$ の正則な提示 $R\twoheadrightarrow A$、$S\twoheadrightarrow B$ を、平坦局所準同型 $R\to S$ で閉ファイバー $S/\mathfrak m_RS$ が正則なものと整合するように選ぶ(lem-avr-compatible)。
  3. 上昇は、閉ファイバーの正則列を持ち上げる(prf-avr-main の後半)。
  4. 下降は、$I=\ker(R\to A)$ と $J=\ker(S\to B)$ について「$J$ が正則列で生成されるなら $I$ も」を示す。その鍵は、イデアル $I\subset J$ について高次の Tor が消えれば $I/\mathfrak nI\to J/\mathfrak nJ$ が単射になること(lem-avr-injective)である。
    2 の図式は次の形である(縦は全射)。
    $$ \xymatrix{ R \ar[r] \ar@{->>}[d] & S \ar@{->>}[d] \\ A \ar[r] & B } $$
    段使う道具平坦性が効く所
    完備化局所平坦性判定$\widehat A\to\widehat B$ の平坦性
    整合する提示Cohen の構造定理、係数の平方零持ち上げ$R\to S$ の平坦性(Koszul 複体)
    上昇閉ファイバーの正則元の持ち上げ正則列が $B$ で正則のまま
    下降分割冪変数の解像、射影次元の評価閉ファイバーでの射影次元の有限性

完備化への帰着

完備化と閉ファイバー

$A\to B$ を Noether局所環の平坦局所準同型、$F=B/\mathfrak m_AB$ とする。誘導される $\widehat A\to\widehat B$ は平坦局所準同型であり、その閉ファイバー $\widehat B/\mathfrak m_A\widehat B$ は $F$ の極大イデアル進完備化 $\widehat F$ と同型である。

要点:$\widehat B$ は $A$ 上平坦なので $\operatorname{Tor}_1^{\widehat A}(k_A,\widehat B)=\operatorname{Tor}_1^A(k_A,\widehat B)=0$ となり、局所平坦性判定 から $\widehat A\to\widehat B$ は平坦である。閉ファイバーは完備化の完全性から $F$ の完備化になる。

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$\mathfrak m_A^nB\subset\mathfrak m_B^n$ なので $A/\mathfrak m_A^n\to B/\mathfrak m_B^n$ が両立し、逆極限で局所準同型 $\widehat A\to\widehat B$ を得る。

平坦性。 $\widehat B$ は $B$ 上平坦(完備化 の定理「Noether 環の完備化は平坦」)、$B$ は $A$ 上平坦なので、$\widehat B$ は $A$ 上平坦である。$k_A$ の $A$ 上の自由分解 $P_\bullet$ に平坦な $\widehat A$ をテンソルすると、$k_A\otimes_A\widehat A=k_A$ の $\widehat A$ 上の自由分解になり、$(P_\bullet\otimes_A\widehat A)\otimes_{\widehat A}\widehat B=P_\bullet\otimes_A\widehat B$ だから$$\operatorname{Tor}_1^{\widehat A}(k_A,\widehat B)\cong\operatorname{Tor}_1^A(k_A,\widehat B)=0$$である。$\widehat B/\mathfrak m_A\widehat B$ は体 $k_A$ 上の加群なので平坦である。$\widehat A$ は Noether で(完備化 の定理「Noether 環の完備化は Noether 環」)、$\mathfrak m_A\widehat B$ は $\widehat B$ の極大イデアルに含まれるから、局所平坦性判定 の系「有限加群についての局所平坦性判定」を $M=\widehat B$ に使えば、$\widehat B$ は $\widehat A$ 上平坦である。

閉ファイバー。 $\widehat A$ の極大イデアルは $\mathfrak m_A\widehat A$ である。完備化 の命題「完備化の完全性と $\hat{A}\otimes_AM$」の 1・2 を $B$ と有限生成 $B$ 加群 $F$ に使うと、$\widehat B/\mathfrak m_A\widehat B\cong\widehat B\otimes_BF$ は $F$ の $\mathfrak m_B$ 進完備化 $\varprojlim F/\mathfrak m_B^nF$ である。$F$ の極大イデアルは $\mathfrak m_BF$ なので、これは $\widehat F$ に等しい。$\square$

$\widehat{\widehat A}=\widehat A$ だから、完全交叉の定義により $A$ と $\widehat A$、$B$ と $\widehat B$、$F$ と $\widehat F$ はそれぞれ同時に完全交叉である。従って主定理は $A$、$B$ が完備な場合に示せばよい。

整合する正則な提示

完備局所環は、係数体または Cohen 環の上の冪級数環の商である(Cohenの構造定理 の定理「Cohenの構造定理」)。局所準同型 $A\to B$ と両立するように二つの提示を選ぶには、係数を $B$ の提示の中へ持ち上げる必要がある。それには次の性質を使う。

係数の平方零持ち上げ

$\Lambda$ を標数 $0$ の体、または標数 $p$ の体の Cohen環 とする。環 $D$ のイデアル $N$ が $N^2=0$ を満たし、$\Lambda$ が Cohen 環の場合はさらに $D/N$ で $p$ が冪零であるとする。このとき任意の環準同型 $\Lambda\to D/N$ は $\Lambda\to D$ に持ち上がる。

要点:Cohen 環の場合は Cohen環 の命題「全精度の平方零持上げ性」に帰着し、体の場合は Zorn の補題と Newton の補正で一元ずつ延ばす。

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$D/N=0$ なら $1\in N$ から $1=1\cdot1\in N^2=0$ で $D=0$ となり、持ち上げは自明である。以下 $D/N\ne0$ とする。

Cohen 環の場合。$D/N$ で $p^v=0$ とすると $p^v\in N$、$p^{2v}\in N^2=0$ なので、$D$ は $\mathbb Z/p^{2v}\mathbb Z$ 代数であり、$\Lambda\to D/N$ は $\Lambda/p^{2v}\Lambda\to D/N$ を経由する。Cohen環 の命題「全精度の平方零持上げ性」(同じ記事の「平方零持上げ性」の定義のとおり、任意の $\mathbb Z/p^{2v}\mathbb Z$ 代数と平方零イデアルについての持ち上げ)により、これは $\Lambda/p^{2v}\Lambda\to D$ に持ち上がる。$\Lambda\to\Lambda/p^{2v}\Lambda$ と合成すればよい。

体の場合。$\Lambda=K$ は $\mathbb Q$ を含む。整数 $n\ne0$ の像は $D/N$ で単元なので、$nu=1+\varepsilon$($\varepsilon\in N$)となる $u\in D$ があり、$(1+\varepsilon)(1-\varepsilon)=1$ から $n$ は $D$ でも単元である。よって $D$ も $\mathbb Q$ 代数である。$\mathbb Q\subset K'\subset K$ なる部分体 $K'$ と、与えられた写像の $K'$ への制限の持ち上げ $\psi'\colon K'\to D$ との組全体に、延長による順序を入れる。鎖の合併は上界なので、Zorn の補題により極大な組 $(K_0,\psi_0)$ がある。$K_0\ne K$ と仮定して $\alpha\in K\setminus K_0$ を取り、$\bar\alpha\in D/N$ をその像、$b\in D$ をその持ち上げとする。

$\alpha$ が $K_0$ 上超越的なら、$K_0[X]\to D$、$X\mapsto b$ を考える。零でない $g\in K_0[X]$ について $g(\alpha)\in K$ は零でないので、その像は $D/N$ の単元であり、上と同じ理由で $g(b)$ は $D$ の単元である。従ってこの写像は $K_0(\alpha)$ に延び、持ち上げになる。

$\alpha$ が $K_0$ 上代数的なら、最小多項式 $h$ は標数 $0$ なので分離的で、$h'(\alpha)\ne0$ である。$h^{\psi_0}$ を係数を $\psi_0$ で送った多項式とすると、$h^{\psi_0}(b)\in N$ で、$h^{\psi_0\prime}(b)$ は上と同じく $D$ の単元である。$b'=b-h^{\psi_0}(b)\,h^{\psi_0\prime}(b)^{-1}$ と置くと、$b'-b\in N$ と $N^2=0$ から Taylor 展開は一次で止まり、$h^{\psi_0}(b')=h^{\psi_0}(b)-h^{\psi_0}(b)=0$ となる。よって $K_0(\alpha)=K_0[X]/(h)\to D$、$X\mapsto b'$ が定まり、$b'$ の像は $\bar\alpha$ なので持ち上げになる。どちらの場合も極大性に反するので $K_0=K$ である。$\square$

整合する正則な提示

$A\to B$ を完備 Noether局所環の局所準同型とする。このとき、完備正則局所環 $R$、$S$ と次の三つの写像があって、図式
$$ \xymatrix{ R \ar[r]^{\varphi} \ar@{->>}[d]_{\pi_A} & S \ar@{->>}[d]^{\pi_B} \\ A \ar[r] & B } $$
は可換になる。すなわち $\pi_B\circ\varphi$ は $\pi_A$ と $A\to B$ の合成に等しい。

  1. $\pi_A$、$\pi_B$ は全射である。
  2. $\varphi$ は平坦局所準同型である。
  3. 閉ファイバー $S/\mathfrak m_RS$ は正則局所環である。

要点:$A$ の提示 $R=\Lambda[\![x_1,\ldots,x_r]\!]\twoheadrightarrow A$ と $B$ の提示 $T\twoheadrightarrow B$ を取り、係数 $\Lambda\to B$ を $T$ へ持ち上げる。変数は $S=T[\![y_1,\ldots,y_r]\!]$ の $z_i+y_i$ へ送る。新しい変数 $y_i$ のおかげで、$R$ の正則パラメータ系は $S$ の正則列の一部になり、平坦性と閉ファイバーの正則性が出る。

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段 1(二つの提示)。$k_A\to k_B$ は体の準同型なので、$k_A$ と $k_B$ の標数は等しい。標数 $0$ のときは $A$、$B$ は $\mathbb Q$ を含み(整数の像は剰余体で零でないので単元)、$\Lambda$ を $A$ の係数体、$\Lambda'$ を $B$ の係数体とする(Cohenの構造定理 の定理「等標数完備局所環の係数体」)。標数 $p$ のときは $\Lambda$、$\Lambda'$ を $k_A$、$k_B$ の Cohen 環と、剰余体を恒等に誘導する局所準同型 $\Lambda\to A$、$\Lambda'\to B$ とする(同じ記事の命題「剰余標数pの係数写像と級数表示」の 1・2)。極大イデアルの生成元 $\bar x_1,\ldots,\bar x_r$(標数 $p$ では $p$ と合わせて $\mathfrak m_A$ を生成するもの)を取ると、$x_i\mapsto\bar x_i$ で全射 $\pi_A\colon R=\Lambda[\![x_1,\ldots,x_r]\!]\to A$ が得られる(同じ記事の命題「有限生成極大イデアルと級数表示」と、命題「剰余標数pの係数写像と級数表示」の 4)。同様に全射 $\pi_T\colon T=\Lambda'[\![u_1,\ldots,u_v]\!]\to B$ を取る。$R$、$T$ は完備正則局所環である(同じ記事の補題「係数体又はCohen環上の級数源の正則性」)。

段 2(係数の持ち上げ)。$\lambda\colon\Lambda\to A\to B$ と置き、$T_n=T/\mathfrak m_T^n$、$B_n=B/\mathfrak m_B^n$ とする。$\pi_T(\mathfrak m_T^n)=\mathfrak m_B^n$ である。$\lambda_n\colon\Lambda\to T_n$ で $T_n\to B_n$ との合成が $\lambda$ の還元に等しいものを、$n$ について帰納的に作る。$T_1=k_B=B_1$ なので $n=1$ は $\lambda$ の還元でよい。$\lambda_n$ があるとき、ファイバー積 $P=T_n\times_{B_n}B_{n+1}$ と写像 $(\lambda_n,\lambda\bmod\mathfrak m_B^{n+1})\colon\Lambda\to P$ を考える。自然な $T_{n+1}\to P$ は全射である。実際、$(t,b)\in P$ に対し $\pi_T(t_1)\equiv b$ となる $t_1\in T$ を取ると、$\pi_T(t-t_1)\in\mathfrak m_B^n=\pi_T(\mathfrak m_T^n)$ なので $t-t_1-w\in\ker\pi_T$ となる $w\in\mathfrak m_T^n$ があり、$t-w$ が $(t,b)$ の原像になる。その核は $\mathfrak m_T^n/\mathfrak m_T^{n+1}$ に含まれるので平方零であり、標数 $p$ の場合は $p\in\mathfrak m_T$ より $P$ で $p^{n+1}=0$ である。lem-avr-coefficient-lift により $\lambda_{n+1}\colon\Lambda\to T_{n+1}$ が得られる。逆極限 $\tilde\lambda\colon\Lambda\to\varprojlim T_n=T$ は、$\pi_T\circ\tilde\lambda\equiv\lambda\pmod{\mathfrak m_B^n}$ をすべての $n$ で満たすので、$B$ の分離性から $\pi_T\circ\tilde\lambda=\lambda$ である。

段 3($S$ と $\varphi$)。$\bar x_i$ の $B$ での像は $\mathfrak m_B$ に入るので、$\pi_T(z_i)$ がその像になる $z_i\in\mathfrak m_T$ を取る。$S=T[\![y_1,\ldots,y_r]\!]$ は $\Lambda'[\![u,y]\!]$ と同型な完備正則局所環である。$\varphi\colon R\to S$ を、係数に $\tilde\lambda$ を施し $x_i$ に $z_i+y_i\in\mathfrak m_S$ を代入する写像とする。全次数 $n$ 以上の項の像は $\mathfrak m_S^n$ に入るので級数は収束し、部分和の積が $\mathfrak m_S^n$ を法として一致するから環準同型である。$\pi_B\colon S\to B$ は $y_i\mapsto0$ で $T$ に落としてから $\pi_T$ を施す写像とする。$\pi_B\circ\varphi$ と $R\to A\to B$ は $\Lambda$ 上と各 $x_i$ で一致し、どちらも $(x)^nR$ を $\mathfrak m_B^n$ に送るので、多項式で一致すれば $\mathfrak m_B^n$ を法としてすべての元で一致する。$B$ は分離的なので両者は等しい。

段 4(平坦性と閉ファイバー)。$T$ 代数としての自己同型 $\sigma\colon S\to S$、$y_i\mapsto y_i-z_i$ を考える(逆は $y_i\mapsto y_i+z_i$)。$\sigma\circ\varphi$ は $x_i$ を $y_i$ に送る。$R$ の正則パラメータ系は、標数 $0$ では $x_1,\ldots,x_r$、標数 $p$ では $x_1,\ldots,x_r,p$ である。$\sigma$ で移すと、その像は $y_1,\ldots,y_r$(標数 $p$ では $y_1,\ldots,y_r,p$)になる。これは $S$ 正則列である。実際、$y_i$ は $T[\![y_i,\ldots,y_r]\!]$ の非零因子であり、$S/(y)=T$ は正則局所環なので整域(正則局所環 の命題「正則局所環は整域」)で、$\Lambda'\subset T$ の標数は $0$ だから $p\ne0$ は $T$ の非零因子、$T/pT\ne0$ である。従って$$S/\mathfrak m_RS\cong T\quad(\text{標数 }0),\qquad S/\mathfrak m_RS\cong T/pT\cong k_B[\![u_1,\ldots,u_v]\!]\quad(\text{標数 }p)$$はどちらも正則局所環である。$R$ の正則パラメータ系の Koszul 複体 $K$ は $k_R$ の自由分解である(正則局所環 の命題「正則パラメータ系は正則列で、正則局所環は Cohen–Macaulay」と Koszul複体 の定理「正則列のKoszulホモロジー」)。$K\otimes_RS$ は $\varphi$ による像の Koszul 複体であり、$\sigma$ によって上の $S$ 正則列の Koszul 複体(並べる順は基底の並べ替えで変わらない)と同型だから、正の次数のホモロジーは零である。よって $\operatorname{Tor}_1^R(k_R,S)=0$ であり、局所平坦性判定 の系「有限加群についての局所平坦性判定」を $M=S$ に使えば $\varphi$ は平坦である。$\varphi(\mathfrak m_R)\subset\mathfrak m_S$ なので局所準同型である。$\square$

分割冪変数をもつ自由な代数

下降の証明では、Koszul複体 を高い次数へ延ばした自由分解を使う。Koszul 複体は次数 $1$ の変数の外積代数であり、次数 $2$ 以上の変数を足すとき、偶数次の変数には普通の冪ではなく分割冪 $v^{[a]}$(標数 $0$ なら $v^a/a!$ にあたるもの)を使う。

分割冪変数をもつ自由次数付き代数

$R$ を環とし、$X$ を正の次数をもつ変数の集合で、各次数の変数が有限個のものとする。奇数次の変数 $u$ には外積代数 $R\oplus Ru$($u^2=0$)を、偶数次の変数 $v$ には
$$ \Gamma_R(v)=\bigoplus_{a\ge0}R\,v^{[a]},\qquad v^{[a]}v^{[b]}=\binom{a+b}{a}v^{[a+b]},\quad v^{[0]}=1,\quad\deg v^{[a]}=a\deg v $$
を対応させ、これらの次数付きテンソル積($(x\otimes y)(x'\otimes y')=(-1)^{\deg y\deg x'}xx'\otimes yy'$)を $R\langle X\rangle$ と書く。

$\Gamma_R(v)=R\otimes_{\mathbb Z}\mathbb Z\langle v\rangle$ は 分割冪構造 の命題「分割冪多項式環」の環の係数拡大なので、結合的な可換環である。$R\langle X\rangle$ は、変数を固定した順に並べた単項式 $\prod u^{\epsilon_u}\prod v^{[a_v]}$($\epsilon_u\in\{0,1\}$)を基底とする自由 $R$ 加群で、各次数の成分は有限階数である(次数 $q$ の単項式に現れる変数は次数 $q$ 以下の有限個で、指数も有界)。斉次元は $xy=(-1)^{\deg x\deg y}yx$ を満たし、奇数次の元 $x$ は $x^2=0$ を満たす($x$ を単項式の和に展開すると、各単項式の平方は同じ奇数次の変数を二度含むので零、異なる二つの積は $mm'+m'm=0$ で打ち消し合う)。また $R\to R''$ に沿って $R\langle X\rangle\otimes_RR''=R''\langle X\rangle$ である。
$R\langle X\rangle$ の $R$ 線型写像 $\delta$ で次数を $s$ だけずらすものが 導分 であるとは $\delta(xy)=\delta(x)y+(-1)^{s\deg x}x\,\delta(y)$ を満たすことをいい、さらに偶数次の各変数 $v$ について $\delta(v^{[a]})=\delta(v)v^{[a-1]}$($a\ge1$)を満たすとき 分割冪導分 という。次数 $2$ の元 $x$ を基底で $x=\sum_lc_lw_l$ と展開する。$w_l$ は次数 $2$ の変数 $v$ か、次数 $1$ の変数の積 $e_ie_j$($i< j$)である。このとき
$$ \gamma_n(x)=\sum_{n_1+\cdots+n_L=n}\ \prod_l\gamma_{n_l}(c_lw_l),\qquad \gamma_m(cv)=c^mv^{[m]},\quad\gamma_m(c\,e_ie_j)=\begin{cases}1&m=0\\ c\,e_ie_j&m=1\\0&m\ge2\end{cases} $$
と置く(次数 $2$ の元はすべて互いに可換なので積の順序はよらない)。係数の整数係数多項式なので、$\gamma_n$ は係数環の準同型による還元と両立する。

分割冪導分の性質

$R\langle X\rangle$ について次が成り立つ。

  1. 各変数 $t$ に次数 $\deg t-1$ の元 $z_t$ を指定すると、$\delta(t)=z_t$ を満たす次数 $-1$ の分割冪導分 $\delta$ がただ一つある。
  2. 次数 $-1$ の分割冪導分 $d$ について、$d^2$ は次数 $-2$ の分割冪導分である。特に各変数 $t$ について $d^2(t)=0$ なら $d^2=0$ である。
  3. 任意の分割冪導分 $\delta$ と次数 $2$ の元 $x$ について、$\delta\gamma_n(x)=\delta(x)\gamma_{n-1}(x)$($n\ge1$)である。

要点:1 は基底の単項式に Leibniz 則で値を定め、関係式(並べ替え・$u^2=0$・分割冪の積)と両立することを確かめる。2 は奇数次の元の平方が零であることから、3 は一項ずつの確認と和についての帰納法から従う。

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1. 一意性は、$R\langle X\rangle$ が $u$ と $v^{[a]}$ で生成され、$\delta(v^{[a]})$ が $\delta(v)$ で決まることから従う。存在:基底の単項式 $m=g_1\cdots g_r$($g_i$ は $u$ か $v^{[a]}$、固定した順)に $\delta(m)=\sum_i(-1)^{s(\deg g_1+\cdots+\deg g_{i-1})}g_1\cdots\delta(g_i)\cdots g_r$、$\delta(v^{[a]})=z_vv^{[a-1]}$ と定め、$R$ 線型に延ばす($s=-1$)。単項式どうしの積は、並べ替え(符号)・同じ奇数次変数の重なり(零)・同じ偶数次変数の分割冪の積(二項係数)で基底に戻る。Leibniz 則がこの三つと両立すればよい。並べ替えとの両立は、次数付き可換性の符号が導分の符号と同じ規則で動くことによる。$u^2=0$ との両立は、$u\,\delta(u)=(-1)^{\deg u(\deg u+s)}\delta(u)u=(-1)^{1+s}\delta(u)u$ から $\delta(u)u+(-1)^{s}u\,\delta(u)=0$ となることによる。分割冪の積との両立は、$\delta(v^{[a]})v^{[b]}+v^{[a]}\delta(v^{[b]})=z_v\bigl(\binom{a+b-1}{a-1}+\binom{a+b-1}{a}\bigr)v^{[a+b-1]}=\binom{a+b}{a}z_vv^{[a+b-1]}$ による($v^{[a]}$ は偶数次なので符号は出ない)。

2. 次数 $-1$ の導分の平方は次数 $-2$ の導分である(交差項 $d(x)d(y)$ の係数が $(-1)^{\deg x-1}+(-1)^{\deg x}=0$)。偶数次の変数 $v$ と $a\ge2$ について、$d(v)$ は奇数次なので $d(v)^2=0$ であり$$d^2(v^{[a]})=d\bigl(d(v)v^{[a-1]}\bigr)=d^2(v)v^{[a-1]}-d(v)d(v)v^{[a-2]}=d^2(v)v^{[a-1]}$$となる。$a=1$ は自明である。$d^2$ が生成元 $u$、$v^{[a]}$ で零なら、Leibniz 則により全体で零である。

3. $\delta$ の次数を $s$ とする。$x=cv$ なら $\delta(c^nv^{[n]})=c^n\delta(v)v^{[n-1]}=\delta(cv)\gamma_{n-1}(cv)$。$x=c\,e_ie_j$ なら、$n=1$ は自明、$n\ge3$ は両辺零、$n=2$ は $\delta(e_ie_j)e_ie_j=0$ を示せばよい。$\delta(e_ie_j)=\delta(e_i)e_j\pm e_i\delta(e_j)$ に $e_ie_j$ を掛けると、各項は並べ替えの符号を除いて $e_j^2$ または $e_i^2$ を含むので零である。次に、$x$ が一項の場合に成り立ち、$x'$ について成り立つとき $x'+x$ について示す。定義から $\gamma_n(x'+x)=\sum_{i+j=n}\gamma_i(x')\gamma_j(x)$ であり、$\gamma_i(x')$ は偶数次なので符号なしに$$\delta\bigl(\gamma_i(x')\gamma_j(x)\bigr)=\delta(x')\gamma_{i-1}(x')\gamma_j(x)+\delta(x)\gamma_i(x')\gamma_{j-1}(x)$$である。$i+j=n$ について足すと $(\delta(x')+\delta(x))\gamma_{n-1}(x'+x)$ になる。項の数についての帰納法で 3 が従う。$\square$

有限生成な各次数をもつ自由分解

$R$ を Noether 環、$L=(a_1,\ldots,a_s)$ をイデアルとする。次数 $1$ の変数が $e_1,\ldots,e_s$ で各次数の変数が有限個の $R\langle X\rangle$ と、次数 $-1$ の分割冪導分 $d$ で $d^2=0$、$d(e_j)=a_j$ を満たすものがあって、$(R\langle X\rangle,d)$ は $R/L$ の自由分解になる。すなわち $H_0=R/L$、$H_q=0$($q>0$)である。

要点:$a_1,\ldots,a_s$ の Koszul 複体から始め、次数 $m$ のホモロジーの有限個の生成元を、次数 $m+1$ の新しい変数の境界にして殺す。新しい変数は次数 $m$ 以下を変えないので、合併が自由分解になる。

詳しい証明を開く

$D^{(1)}=R\langle e_1,\ldots,e_s\rangle$、$d(e_j)=a_j$ は $a_1,\ldots,a_s$ の Koszul 複体で、$H_0=R/L$ である。$D^{(m)}$(変数の次数は $m$ 以下、$0< q< m$ で $H_q=0$、$d^2=0$)ができたとする。$D^{(m)}_m$ は有限階数の自由加群で $R$ は Noether なので、$H_m(D^{(m)})$ は有限生成である。その生成元を代表するサイクル $z_1,\ldots,z_t$ を取り、次数 $m+1$ の変数 $t_1,\ldots,t_t$ を $d(t_i)=z_i$ として足した代数を $D^{(m+1)}$ とする(lem-avr-gamma-derivation の 1。$d(z_i)=0$ なので 2 により $d^2=0$)。新しい単項式の次数は $m+1$ 以上なので、次数 $m$ 以下の成分と微分は変わらず、次数 $m+1$ の新しい境界が $H_m$ を殺す。合併 $D=\bigcup_mD^{(m)}$ では、次数 $q$ と $q+1$ の成分は $D^{(q+1)}$ と同じなので $H_q(D)=H_q(D^{(q+1)})=0$($q>0$)である。$\square$

このような分解を Tate の解像という。

下降の鍵:イデアルの包含と高次の Tor

有限の Tor と最小生成系の単射

$(T,\mathfrak n,k)$ を Noether局所環、$I\subset J\subset\mathfrak n$ をイデアルとする。十分大きいすべての $q$ で $\operatorname{Tor}_q^{T/I}(T/J,k)=0$ なら、自然な写像 $I/\mathfrak nI\to J/\mathfrak nJ$ は単射である。

要点:単射でないなら、$f\in I\cap\mathfrak nJ$ で $f\notin\mathfrak nI$ となる元がある。$T/I$ 上の Tate の解像を、$f$ の分だけ大きい環 $T/I'$ へ持ち上げると、微分の平方が $f$ の倍数になり、そこから剰余体上の次数 $-2$ の導分 $\theta$ ができる。次数 $2$ のサイクル $\bar\xi$ について $\theta^n\gamma_n(\bar\xi)=1$ となるので、偶数次の Tor はどれも零でない。

詳しい証明を開く

単射でないとして矛盾を導く。$k$ 線型写像の核に零でない元があるので、$f\in I\setminus\mathfrak nI$ で $f\in\mathfrak nJ$ となるものがある。$I/\mathfrak nI$ の中で $f$ の類と補い合う部分空間の逆像を $I'$ とすると、$I'$ はイデアルで $\mathfrak nI\subset I'\subset I$、$I/I'=k\bar f$ である。

$R=T/I$、$R'=T/I'$ と置き、$R'$ の極大イデアルを $\mathfrak m'$ とする。$\mathfrak nf\subset\mathfrak nI\subset I'$ かつ $f\notin I'$ なので、$R'$ で $f\ne0$、$\mathfrak m'f=0$ であり$$\operatorname{Ann}_{R'}(f)=\mathfrak m',\qquad\ker(R'\to R)=fR'\cong k$$である。$J=(a_1,\ldots,a_s)$、$f=\sum_jb_ja_j$($b_j\in\mathfrak n$)と書く。

$R$ 上の分解。 lem-avr-tate で $R/JR=T/J$ の自由分解 $D=R\langle X\rangle$ を $d(e_j)=\bar a_j$ として作る。$\operatorname{Tor}_q^R(T/J,k)=H_q(\overline D)$、$\overline D=D\otimes_Rk$ である。$\eta=\sum_j\bar b_je_j$ は $d\eta=\bar f=0$ を満たし、$H_1(D)=0$ より $d\xi=\eta$ となる $\xi\in D_2$ がある。$b_j\in\mathfrak n$ なので $\overline D$ では $\bar d\bar\xi=0$ である。

$R'$ への持ち上げと曲率。 同じ変数で $D'=R'\langle X\rangle$ を作り、各変数の像の係数を $R'$ に持ち上げて($e_j$ には $a_j$ の像)、lem-avr-gamma-derivation の 1 で分割冪導分 $d'$ を定める。$D'\to D$ の核は $fD'$ で、$d'$ の還元は $d$ だから、$d^2=0$ より $d'^2(D')\subset fD'$ である。$d'^2=0$ とは限らない。基底ごとに見ると$$\iota\colon fD'\xrightarrow{\ \cong\ }\overline D,\qquad fy\longmapsto\bar y$$は矛盾なく定まる同型である($fy=fy'$ なら $y-y'\in\operatorname{Ann}(f)D'=\mathfrak m'D'$)。$d'^2$ は $R'$ 線型で $d'^2(\mathfrak m'D')\subset\mathfrak m'fD'=0$ なので、$$\theta\colon\overline D\to\overline D,\qquad\theta(\bar y)=\iota\bigl(d'^2y\bigr)$$は持ち上げ $y$ によらない次数 $-2$ の写像である。

$\theta$ の性質。 (a) $\iota(fy\cdot z)=\iota(fy)\bar z$、$\iota(z\cdot fy)=\bar z\,\iota(fy)$ と、$d'^2$ が導分であること(lem-avr-gamma-derivation の 2)から、$\theta$ は導分である。(b) $d'd'^2=d'^2d'$ と $\iota(d'(fy))=\iota(fd'y)=\bar d\iota(fy)$ から $\theta\bar d=\bar d\theta$ であり、$\theta$ は境界を境界に送る。(c) $d'^2$ は分割冪導分なので、lem-avr-gamma-derivation の 3 を $\xi$ の持ち上げ $\xi'$ に使い、$\gamma_n$ が還元と両立することから $\theta\gamma_n(\bar\xi)=\theta(\bar\xi)\gamma_{n-1}(\bar\xi)$ である。

$\theta(\bar\xi)=1$。 $d'\xi'$ の還元は $\eta$ なので、$d'\xi'=\sum_jb'_je_j+fu'$($b'_j$ は $b_j$ の像、$u'\in D'_1$)と書ける。$a'_j$ を $a_j$ の像とすると$$d'^2\xi'=\sum_jb'_ja'_j+f\,d'u'=f+f\,d'u'$$である。$d'u'$ は $a'_j\in\mathfrak m'$ の一次結合なので $f\,d'u'=0$ であり、$d'^2\xi'=f$、$\theta(\bar\xi)=\iota(f)=1$ となる。

矛盾。 (c) を繰り返すと $\theta^n\gamma_n(\bar\xi)=1$ である。$\bar d\gamma_n(\bar\xi)=\bar d(\bar\xi)\gamma_{n-1}(\bar\xi)=0$ なので $\gamma_n(\bar\xi)$ はサイクルである。一方 $\bar d(e_j)=\bar a_j=0$($a_j\in\mathfrak n$)なので $\overline D_0=k$ の $1$ は境界でない。$\gamma_n(\bar\xi)=\bar dw$ なら (b) により $1=\theta^n\bar dw=\bar d\theta^nw$ となって矛盾する。従ってすべての $n\ge1$ で $\operatorname{Tor}_{2n}^R(T/J,k)=H_{2n}(\overline D)\ne0$ であり、仮定に反する。$\square$

正則な閉ファイバーと射影次元

$A\to C$ を Noether局所環の平坦局所準同型とし、閉ファイバー $F_0=C/\mathfrak m_AC$ が $d$ 次元の正則局所環であるとする。有限生成 $C$ 加群 $N$ が $A$ 上平坦なら $\operatorname{pd}_CN\le d$ であり、特に $q>d$ で $\operatorname{Tor}_q^C(N,k_C)=0$ である。

要点:$N$ の極小自由分解の各段は $A$ 上平坦なので、$k_A$ をテンソルすると閉ファイバー $F_0$ 上の極小自由分解になる。$F_0$ は正則で剰余体の射影次元が $d$ だから、その $d$ より上の項は零であり、元の分解の項も零になる。

詳しい証明を開く

$N$ の極小自由分解 $P_\bullet\to N$ を取る。各 $P_i$ は有限階数で、微分の行列の成分は $\mathfrak m_C$ に入る(各段で核の最小生成系で覆えばよい。平坦加群 の補題「有限Nakayamaの補題」)。第 $i$ 段の像を $K_i$($K_0=N$)とする。$0\to K_{i+1}\to P_i\to K_i\to0$ で $P_i$($C$ が $A$ 平坦)と $K_i$ が $A$ 平坦なら、Tor の長完全列(Tor関手 の命題「長完全列」)から任意の $A$ 加群 $M$ で $\operatorname{Tor}_1^A(M,K_{i+1})=0$ となり、$K_{i+1}$ も平坦である。従ってこれらの短完全列は $k_A$ をテンソルしても完全で、$\overline P_\bullet=P_\bullet\otimes_Ak_A$ は $\overline N=N/\mathfrak m_AN$ の $F_0$ 上の自由分解であり、微分の成分は $F_0$ の極大イデアルに入る。よって $\overline P_\bullet\otimes_{F_0}k_C$ の微分は零で$$P_i\otimes_Ck_C\cong\operatorname{Tor}_i^{F_0}(\overline N,k_C)$$である。$F_0$ は正則なので $\operatorname{pd}_{F_0}k_C=d$(大域次元 の定理「正則局所環の全加群上界」)であり、$k_C$ の長さ $d$ の分解で計算すれば右辺は $i>d$ で零である。有限階数の自由加群 $P_i$ は $P_i\otimes k_C=0$ なら零なので、$i>d$ で $P_i=0$ である。$\square$

正則な閉ファイバーに沿う正則列の下降

$R\to S$ を Noether局所環の平坦局所準同型とし、$S$ と閉ファイバー $S/\mathfrak m_RS$ は正則局所環とする。イデアル $I\subset\mathfrak m_R$ と $J\subsetneq S$ が $IS\subset J$ を満たし、$S/J$ は $R/I$ 上平坦で、$J$ は $S$ 正則列で生成されるとする。このとき、$I$ は $R$ 正則列で生成され、$J/IS$ は $S/IS$ 正則列で生成される。

$C=S/IS=S\otimes_RR/I$ は $R/I$ 上平坦で、閉ファイバーは $S/\mathfrak m_RS$ である。lem-avr-pd を $R/I\to C$ と $N=S/J$ に使うと、$q$ が大きければ $\operatorname{Tor}_q^{S/IS}(S/J,k_S)=0$ である。lem-avr-injective を $T=S$ とイデアル $IS\subset J$ に使えば、$IS/\mathfrak m_SIS\to J/\mathfrak m_SJ$ は単射である。
そこで $IS/\mathfrak m_SIS$ の基底を $J/\mathfrak m_SJ$ の基底に延ばし、前半を $IS$ の元 $g_1,\ldots,g_r$、後半を $J$ の元 $h_1,\ldots,h_t$ に持ち上げる。Nakayama の補題により、$g$ は $IS$ の、$g,h$ は $J$ の最小生成系である。(K2) により $g,h$ は $S$ 正則列なので(正則列 の命題「初期部分と連結」)、$h$ の像は $S/IS$ 正則列で $J/IS$ を生成する。
$I$ の最小生成系 $f_1,\ldots,f_m$ を取る。$S$ の平坦性から $I\otimes_RS\cong IS$ で、$IS/\mathfrak m_SIS\cong(I/\mathfrak m_RI)\otimes_{k_R}k_S$ なので、$f$ の像は $IS$ の最小生成系である。$IS$ は正則列 $g$ で生成されるので、(K2) により $f$ の像は $S$ 正則列である。$R/(f_1,\ldots,f_{i-1})$ 上の $f_i$ 倍の核に $S$ をテンソルすると、平坦性から $S/(f_1,\ldots,f_{i-1})S$ 上の $f_i$ 倍の核、すなわち零になる。$S$ は $R$ 上忠実平坦なので(忠実平坦加群 の命題「忠実平坦環写像と素イデアル」)元の核も零である。$f\subset\mathfrak m_R$ なので最後の商は零でなく、$f$ は $R$ 正則列である。$\square$

主定理の証明

lem-avr-completion とその後の注意により、$A$、$B$ は完備としてよい。lem-avr-compatible の図式を取り、
$$ I=\ker\pi_A,\qquad J=\ker\pi_B,\qquad C=S/IS,\qquad F_0=S/\mathfrak m_RS,\qquad L=J/IS $$
と置く。図式の可換性から $IS\subset J$ である。$C=S\otimes_RA$ は $A$ 上平坦で(平坦加群 の命題「平坦加群の基底拡大」)、$A\to C$ の閉ファイバーは $C/\mathfrak m_AC=F_0$、すなわち正則局所環である。$B=C/L$ であり、$A\to B$ の閉ファイバーは
$$ F=B/\mathfrak m_AB=F_0/\overline L,\qquad\overline L=(J+\mathfrak m_RS)/\mathfrak m_RS $$
である。(K1) により、$A$ が完全交叉 $\iff$ $I$ が $R$ 正則列で生成される、$B$ が完全交叉 $\iff$ $J$ が $S$ 正則列で生成される、$F$ が完全交叉 $\iff$ $\overline L$ が $F_0$ 正則列で生成される($F_0\twoheadrightarrow F$ は $F$ 自身の正則な提示)。
下降($\Rightarrow$)。 $B$ が完全交叉なら $J$ は $S$ 正則列で生成され、$B=S/J$ は $A=R/I$ 上平坦である。lem-avr-descent により、$I$ は $R$ 正則列で生成されて $A$ は完全交叉であり、$L$ は $C$ 正則列 $h_1,\ldots,h_t$ で生成される。
閉ファイバーについては次元を数える。平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の定理「平坦局所準同型の次元公式と深さ公式」を $A\to C$ と $A\to B$ に使うと
$$ \dim C=\dim A+\dim F_0,\qquad\dim B=\dim A+\dim F. $$
$B=C/(h_1,\ldots,h_t)$ で $h$ は $C$ 正則列なので、Cohen–Macaulay環 の補題「有限加群の次元降下」を $t$ 回使って $\dim B=\dim C-t$ である。よって $\dim F_0-\dim F=t$ である。$\overline L$ は $h$ の像の $t$ 個で生成されるので $\mu(\overline L)\le t=\dim F_0-\dim F$ であり、(K3) の逆向きの不等式と合わせて等号が成り立つ。(K2) により $\overline L$ は $F_0$ 正則列で生成され、$F$ は完全交叉である。
上昇($\Leftarrow$)。 $A$ と $F$ が完全交叉とする。$I$ は $R$ 正則列 $f_1,\ldots,f_m$ で生成される。$B$ は $A$ 上平坦なので $\operatorname{Tor}_1^A(k_A,B)=0$ であり、$0\to L\to C\to B\to0$ に $k_A$ をテンソルすると
$$ 0\to L/\mathfrak m_AL\to F_0\to F\to0 $$
が完全になる。従って $L/\mathfrak m_AL=\overline L$ であり、これは $F_0$ 正則列 $\bar h_1,\ldots,\bar h_t$ で生成される。$\bar h_i$ を $L$ の元 $h_i$ に持ち上げると、平坦加群 の補題「有限Nakayamaの補題」により $h$ は $L$ を生成する($\mathfrak m_AL\subset\mathfrak m_CL$)。平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の補題「閉ファイバーの正則元の持ち上げ」の 2 を $A\to C$ と $N=C/(h_1,\ldots,h_{i-1})$ に順に使うと($N/\mathfrak m_AN=F_0/(\bar h_1,\ldots,\bar h_{i-1})$ 上で $\bar h_i$ は単射)、$h_i$ は $N$ 正則元で $N/h_iN$ は再び $A$ 上平坦である。よって $h$ は $C$ 正則列である。
一方、$f$ は $R$ 正則列で $S$ は $R$ 上平坦なので、$f$ の像は $S$ 正則列である(各段の $f_i$ 倍の単射に $S$ をテンソルし、最後の商は $\mathfrak m_RS\subset\mathfrak m_S$ により零でない)。$h$ を $S$ に持ち上げて $f$ の後ろにつなげると、$S/(f)S=C$ 上で $h$ が正則なので、つないだ列は $S$ 正則列で(正則列 の命題「初期部分と連結」)、$IS+(h)=J$ を生成する。(K1) により $B$ は完全交叉である。$\square$

上昇の証明は lem-avr-compatible の図式の平坦性と、閉ファイバーの正則列の持ち上げしか使っていない。分割冪の解像を使うのは下降の lem-avr-descent だけである。

例

冪級数環と多項式環の局所化

任意の Noether局所環 $(A,\mathfrak m,k)$ について、$A\to A[\![T_1,\ldots,T_n]\!]$ と $A\to A[T]_{(\mathfrak m,T)}$ は平坦局所準同型で、閉ファイバーはそれぞれ正則局所環 $k[\![T_1,\ldots,T_n]\!]$、$k[T]_{(T)}$ である。正則局所環は完全交叉なので、主定理により
$$ A[\![T_1,\ldots,T_n]\!]\text{ が完全交叉}\iff A[T]_{(\mathfrak m,T)}\text{ が完全交叉}\iff A\text{ が完全交叉}. $$

平坦性と閉ファイバーの確認を開く

$A[T]$ は $A$ 上自由で、その局所化は平坦である。$A[\![T]\!]$ は Noether 環 $A[T]$ の $(T)$ 進完備化なので $A[T]$ 上平坦であり(完備化 の定理「Noether 環の完備化は平坦」)、従って $A$ 上平坦である。$\mathfrak m$ は有限生成なので $\mathfrak mA[\![T]\!]$ は係数がすべて $\mathfrak m$ に入る冪級数の全体であり、閉ファイバーは $k[\![T]\!]$ である。

正則性は閉ファイバーへ下りないが、完全交叉性は下りる

$k$ を体とし、$A=k[\![s]\!]\to B=k[\![x]\!]$、$s\mapsto x^2$ とする。冪級数を偶数次と奇数次の項に分けると $B=A\oplus Ax$ なので、$B$ は $A$ 上自由、特に平坦で、局所準同型である。閉ファイバーは
$$ F=B/sB=k[\![x]\!]/(x^2) $$
であり、正則でないが、一つの非零因子 $x^2$ による正則局所環の商なので完全交叉である。$B$ は正則なのに $F$ は正則でない。正則性については $A$ と $F$ が正則 $\Rightarrow$ $B$ が正則は成り立つ($\mathfrak m_B$ は $\mathfrak m_A$ の正則パラメータ系の像と $F$ の正則パラメータ系の持ち上げの計 $\dim A+\dim F=\dim B$ 個で生成される)が、逆は成り立たない。完全交叉性では主定理のとおり両向きが成り立ち、$A$、$F$、$B$ はどれも完全交叉である。

高次の Tor が消えない包含

$T=k[\![x]\!]$、$I=(x^2)\subset J=(x)$ とする。$f=x^2=x\cdot x$ は $\mathfrak nJ$ に入るが $\mathfrak nI$ には入らないので、$I/\mathfrak nI\to J/\mathfrak nJ$ は零写像で単射でない。実際 $T/I=k[x]/(x^2)$ 上の $T/J=k$ の極小自由分解は $\cdots\xrightarrow{x}T/I\xrightarrow{x}T/I\to k$ で、$\operatorname{Tor}_q^{T/I}(k,k)=k$ はすべての $q$ で零でない。lem-avr-injective の仮定は外せない。

条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
$A\to B$ が平坦$A=k[\![x,y]\!]\to B=k[\![x,y]\!]/(x^2,xy)$(全射)。$A$ は正則、$F=k$ も正則だが、$B$ は完全交叉でない上昇「$A$ と $F$ が完全交叉 $\Rightarrow$ $B$ が完全交叉」
$A\to B$ が平坦$A=k[\![x,y]\!]/(x^2,xy)\to B=A/(x,y)=k$。$B$ と $F=k$ は完全交叉だが、$A$ は完全交叉でない下降「$B$ が完全交叉 $\Rightarrow$ $A$ が完全交叉」
高次の Tor が消える(lem-avr-injective)ex-avr-injective-fails の $I=(x^2)\subset J=(x)$$I/\mathfrak nI\to J/\mathfrak nJ$ の単射
性質が完全交叉(正則に替える)ex-avr-square の $k[\![s]\!]\to k[\![x]\!]$下降「$B$ が正則 $\Rightarrow$ $F$ が正則」

一行目と二行目の写像は局所準同型だが平坦でない。平坦なら $A$ の非零因子は $B$ の非零因子になるが、一行目では $x$ が $B$ の零因子であり、二行目では $\operatorname{Tor}_1^A(k,k)\ne0$ である。$k[\![x,y]\!]/(x^2,xy)$ が完全交叉でないことは 完全交叉局所環 の例「反例:方程式の数は余次元以上だが順に非零因子にならない」による。

補足

局所化への応用

完全交叉局所環 $A$ の素イデアル $\mathfrak p$ について、$A_{\mathfrak p}\to\widehat A_{\mathfrak q}$($\mathfrak q$ は $\mathfrak p$ の上にある $\widehat A$ の素イデアル)は平坦局所準同型で、$\widehat A_{\mathfrak q}$ は正則局所環の商の局所化として完全交叉である。主定理の下降を使えば $A_{\mathfrak p}$ も完全交叉になる。この議論は 完全交叉性の局所化と平坦下降 の系「任意の素イデアルでの局所化」にあり、主定理の一般の場合がこの記事で証明されたことで、局所化の定理も完全に証明されたことになる。

文献

主定理は Avramov(1975)による。Mat89 p. 171 は、正則局所環の商と表せない完全交叉局所環の局所化の問題が Avramov により André のホモロジー論(余接複体 のホモロジー)を使って肯定的に解かれたことを述べている。この記事の証明は André のホモロジーを使わず、StacksAvramov(Proposition 23.8.4)の筋に沿っている。整合する正則な提示は StacksCompatible(Lemma 15.40.3)、lem-avr-injective と lem-avr-descent は StacksDescent(Lemma 23.7.3〜23.7.6)にあたる。完全交叉の定義に完備化を使わない形の主張は StacksCIFlat(Lemma 23.8.9)にある。

関連項目

参考文献

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