代数体(number field)とは、有理数体 $\mathbb{Q}$ を含み $\mathbb{Q}$ 上の拡大次数 $n$ が有限な体で、$\mathbb{Q}(i)$ や $\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})$ が例である。ある代数的整数 $\alpha$ で $\mathbb{Q}(\alpha)$ と書け、複素数体への埋め込みはちょうど $n$ 個あり、実埋め込みの個数 $r_1$ と複素埋め込みの組の個数 $r_2$ は $r_1+2r_2=n$ を満たす。$\mathbb{Z}$ の役割を果たす整数環 $\mathcal{O}_K$ では素因数分解の一意性が崩れることがあり($\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ では $6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})$)、その崩れ方をイデアル類群が測る。
整数論では、有理数の範囲では解けない問いを、有理数にいくつかの代数的な数を付け加えた体の中で考えると見通しがよくなることが多い。たとえば $x^2+y^2=p$ の整数解は $\mathbb{Q}(i)$ の中の分解 $p=(x+yi)(x-yi)$ として、Pell 方程式 $x^2-2y^2=1$ の解は $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の中の $(x+y\sqrt2)(x-y\sqrt2)=1$ として捉えられる。このように $\mathbb{Q}$ に有限個の代数的数を添加して得られる体、すなわち $\mathbb{Q}$ 上有限次の拡大体を代数体という。代数体 $K$ には整数 $\mathbb{Z}$ の役割を果たす部分環 $\mathcal{O}_K$ があり、代数的整数論は $\mathcal{O}_K$ の算術(素因数分解、単数、イデアル類群)を $\mathbb{Z}$ の算術の一般化として調べる。
$\mathbb{Q}$ を部分体として含む体 $K$ で、拡大次数 $[K:\mathbb{Q}]$($\mathbb{Q}$ 上のベクトル空間としての次元)が有限であるものを 代数体(number field、algebraic number field)という。$n=[K:\mathbb{Q}]$ を $K$ の 次数 という。次数 $2$ の代数体を 2 次体、次数 $3$ のものを 3 次体という。
代数体の元はすべて $\mathbb{Q}$ 上代数的である。実際、$\alpha\in K$ について $1,\alpha,\dots,\alpha^n$ の $n+1$ 個は $n$ 次元の空間で 1 次従属なので、$\alpha$ は $0$ でない有理数係数の多項式の根である。$\alpha$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式を $f_\alpha$ と書く。複素数 $\alpha_1,\dots,\alpha_m$ が代数的なら $\mathbb{Q}(\alpha_1,\dots,\alpha_m)$ は代数体である(体の拡大 の記事の命題「有限次拡大と有限生成な代数拡大」)。
代数的整数 の記事では代数体を $\mathbb{C}$ の部分体として定義している。上の定義の $K$ は $\mathbb{C}$ の部分体とは限らないが、thm-number-field-embeddings により $K$ は必ず $\mathbb{C}$ の部分体と同型になるので、2 つの定義は同型を除いて一致する。
代数体 $K$ から複素数体 $\mathbb{C}$ への環準同型 $\sigma\colon K\to\mathbb{C}$ を $K$ の(複素)埋め込みという(体の準同型は単射であり、$\mathbb{Q}$ の元は動かさない)。$\sigma(K)\subset\mathbb{R}$ となる埋め込みを 実埋め込み、そうでないものを 複素埋め込み という。実埋め込みの個数を $r_1$、複素埋め込みの個数の半分を $r_2$ と書き、組 $(r_1,r_2)$ を $K$ の 符号数(signature)という。
複素埋め込み $\sigma$ に複素共役を合成した $\bar\sigma(x):=\overline{\sigma(x)}$ も埋め込みで、$\bar\sigma\neq\sigma$ であるから、複素埋め込みは 2 つずつ組になる。これが $r_2$ を「組の個数」と数える理由である。文献によっては $r_1,r_2$ を $r,s$ と書く(Neu99 Chapter I, §§6–7)。
代数体 $K$ の元で、整数係数のモニック多項式(最高次の係数が $1$ の多項式)の根になるものの全体を
$$
\mathcal{O}_K:=\{\alpha\in K\mid f(\alpha)=0\text{ となるモニックな }f\in\mathbb{Z}[x]\text{ がある}\}
$$
と書き、$K$ の 整数環(ring of integers)という。
$K\subset\mathbb{C}$ のとき $\mathcal{O}_K$ は $K$ と代数的整数全体の共通部分であり、代数的整数 の記事の定義「代数体の整数環」と一致する。同記事の定理「代数的整数全体のなす環」により $\mathcal{O}_K$ は $K$ の部分環であり、命題「有理数である代数的整数は整数」により $\mathcal{O}_K\cap\mathbb{Q}=\mathbb{Z}$ である。$\alpha\in K$ が $\mathcal{O}_K$ に属することと、最小多項式 $f_\alpha$ の係数がすべて整数であることは同値である(同記事の命題「最小多項式による判定」、Neu99 Chapter I, §1)。
$\mathcal{O}_K$ は階数 $n$ の自由 $\mathbb{Z}$ 加群であり(Neu99 Chapter I, §2)、その $\mathbb{Z}$ 上の基底 $\omega_1,\dots,\omega_n$ を 整数底 という。整数底は $K$ の $\mathbb{Q}$ 上の基底でもある。
行列式は乗法的、跡は加法的なので、$N_{K/\mathbb{Q}}(\alpha\beta)=N_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)N_{K/\mathbb{Q}}(\beta)$、$\operatorname{Tr}_{K/\mathbb{Q}}(\alpha+\beta)=\operatorname{Tr}_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)+\operatorname{Tr}_{K/\mathbb{Q}}(\beta)$ であり、有理数 $a$ については $N_{K/\mathbb{Q}}(a)=a^n$、$\operatorname{Tr}_{K/\mathbb{Q}}(a)=na$ である。
代数体 $K$ の整数底 $\omega_1,\dots,\omega_n$ について
$$
d_K:=\det\bigl(\operatorname{Tr}_{K/\mathbb{Q}}(\omega_i\omega_j)\bigr)_{1\le i,j\le n}
$$
を $K$ の 判別式 という(整数底の取り替えは行列式 $\pm1$ の整数行列によるので、$d_K$ は整数底によらない)。$\mathcal{O}_K$ の分数イデアル($0$ でない有限生成 $\mathcal{O}_K$ 部分加群 $I\subset K$)全体は積について群をなし、単項分数イデアル $\alpha\mathcal{O}_K$($\alpha\in K^\times$)全体はその部分群である。その商群を $K$ の イデアル類群 $\operatorname{Cl}(K)$ といい、位数を $K$ の 類数 $h_K$ という(Neu99 Chapter I, §6)。
$\mathcal{O}_K$ は Dedekind整域 であり、$0$ でないイデアルは素イデアルの積にただ 1 通りに分解する(Neu99 Chapter I, §3)。分数イデアルが群をなすこともこの理論の帰結である(同書 Chapter I, §3)。イデアル類群は、$\mathcal{O}_K$ の元の分解の一意性がどれだけ崩れているかを測る:$\mathcal{O}_K$ が一意分解整域であることと $h_K=1$ であることは同値である(Dedekind整域 の記事の命題「イデアル類群が自明な条件」)。イデアル類群は有限群である(Neu99 Chapter I, §6)。$d_K$ は判別式(多項式の判別式)とは別に定義される量であるが、$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\alpha]$ と書けるときは、$\alpha$ の最小多項式の判別式に等しい(Neu99 Chapter I, §2)。
代数体は「有理数に、ある方程式の根を 1 つ付け加えた数の世界」である(thm-number-field-primitive)。その中の数は、付け加えた根 $\alpha$ の多項式 $c_0+c_1\alpha+\cdots+c_{n-1}\alpha^{n-1}$($c_i\in\mathbb{Q}$)としてただ 1 通りに書ける。$\alpha$ を最小多項式の別の根に取り替えても、有理数の側からは区別がつかない。この取り替えが複素数体への $n$ 個の埋め込みであり、1 つの代数体を $\mathbb{C}$ の中で $n$ 通りの位置に置いて見ることにあたる。ノルムとトレースは、元 $\alpha$ をこの $n$ 通りの位置で見た値の積と和であり、$n$ 通りの見方に共通する有理数の情報を取り出す。
整数環 $\mathcal{O}_K$ は $\mathbb{Z}$ の拡張であるが、素因数分解の一意性はそのままでは受け継がれない。一意性を回復するためにイデアルの分解を考えるのが Dedekind の方法であり、元の分解とイデアルの分解のずれを測るのがイデアル類群である。
以下、$K$ を次数 $n$ の代数体とする。
ある $\alpha\in\mathcal{O}_K$ について $K=\mathbb{Q}(\alpha)$ である。このとき $\alpha$ の最小多項式 $f_\alpha$ は次数 $n$ の整数係数のモニックな既約多項式であり、$K$ の元は $c_0+c_1\alpha+\cdots+c_{n-1}\alpha^{n-1}$($c_i\in\mathbb{Q}$)とただ 1 通りに書ける。
$\mathbb{Q}$ は標数 $0$ なので $K/\mathbb{Q}$ は分離拡大であり(分離拡大 の記事の命題「標数が 0 の体と有限体の上の代数拡大」)、原始元定理 により $K=\mathbb{Q}(\beta)$ となる $\beta\in K$ がある(Mil22 Theorem 5.1)。
$\beta$ の最小多項式の分母を払うと、$\beta$ は整数係数の多項式 $a_mx^m+a_{m-1}x^{m-1}+\cdots+a_0$($a_m\neq0$)の根である。$\beta$ についての等式 $\sum_{k=0}^ma_k\beta^k=0$ の両辺に $a_m^{m-1}$ を掛けると、$a_k\beta^k\cdot a_m^{m-1}=a_ka_m^{m-1-k}(a_m\beta)^k$ だから
$$
(a_m\beta)^m+a_{m-1}(a_m\beta)^{m-1}+a_{m-2}a_m(a_m\beta)^{m-2}+\cdots+a_0a_m^{m-1}=0
$$
となる。よって $\alpha:=a_m\beta$ は整数係数のモニック多項式の根であり、$\alpha\in\mathcal{O}_K$ である(同じ議論は 代数的整数 の記事の命題「代数的数の整数倍」にある)。$a_m\neq0$ は有理数なので $\mathbb{Q}(\alpha)=\mathbb{Q}(\beta)=K$ である。
$[\mathbb{Q}(\alpha):\mathbb{Q}]=\deg f_\alpha$ なので $\deg f_\alpha=n$ であり、$1,\alpha,\dots,\alpha^{n-1}$ は $K$ の $\mathbb{Q}$ 上の基底である(体の拡大 の記事の定理「単純拡大の構造」)。$\alpha\in\mathcal{O}_K$ なので、$\alpha$ を $f_\alpha$ の複素数の根に送る埋め込みで $K$ を $\mathbb{C}$ の部分体とみれば $f_\alpha\in\mathbb{Z}[x]$ である(代数的整数 の記事の命題「最小多項式による判定」)。$\square$
$\mathbb{Q}(\alpha)=K$ となる $\alpha\in\mathcal{O}_K$ をとっても、$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\alpha]$ とは限らない。$K=\mathbb{Q}(\sqrt5)$ と $\alpha=\sqrt5$ では、黄金比 $(1+\sqrt5)/2$ が $\mathcal{O}_K$ に属するが $\mathbb{Z}[\sqrt5]$ に属さない(反例の表の 3 行目)。
$K$ の複素埋め込みはちょうど $n$ 個あり、$r_1+2r_2=n$ である。より詳しく、$K=\mathbb{Q}(\alpha)$ と書くと、埋め込み $\sigma$ に $\sigma(\alpha)$ を対応させる写像は、埋め込み全体から $f_\alpha$ の複素数の根全体への全単射であり、実埋め込みは実根に対応する。
thm-number-field-primitive により $K=\mathbb{Q}(\alpha)$ と書け、$f:=f_\alpha$ は $n$ 次の既約多項式である。$f$ は $\mathbb{C}$ で相異なる $n$ 個の根をもつ:重根 $\beta$ があれば $\beta$ は $f$ と導関数 $f'$ の共通根であるが、$f$ は既約で $f'\neq0$ は $f$ より次数が小さいので、$f$ と $f'$ の最大公約多項式は $1$ であり、共通根はない。
埋め込み $\sigma$ は $\mathbb{Q}$ の元を動かさない環準同型なので、$f(\alpha)=0$ から $f(\sigma(\alpha))=0$ であり、$\sigma(\alpha)$ は $f$ の根である。$K$ の元は $\alpha$ の有理数係数の多項式なので、$\sigma$ は $\sigma(\alpha)$ で決まる。逆に $f$ の根 $\beta\in\mathbb{C}$ をとると、体の拡大 の記事の定理「単純拡大の構造」により $\mathbb{Q}(\alpha)\cong\mathbb{Q}[x]/(f)\cong\mathbb{Q}(\beta)$ で、$\alpha\mapsto\beta$ となる体の同型があり、これは $\sigma(\alpha)=\beta$ となる埋め込みを与える。よって埋め込みと根は 1 対 1 に対応し、ちょうど $n$ 個ある。
$\sigma(K)=\mathbb{Q}(\sigma(\alpha))$ なので、$\sigma(K)\subset\mathbb{R}$ であることと $\sigma(\alpha)\in\mathbb{R}$ であることは同値である。$f$ の係数は実数なので、実数でない根は複素共役と組になって現れる。したがって $r_1$ は $f$ の実根の個数、$2r_2$ は実数でない根の個数であり、$r_1+2r_2=n$ である。$\square$
とくに $K$ は $\mathbb{C}$ の部分体 $\sigma(K)$ と同型であり、$n$ が奇数なら $r_1\ge1$(実根をもつ)である。
$\alpha\in K$ とし、$\sigma_1,\dots,\sigma_n$ を $K$ の複素埋め込みの全体とする。$m_\alpha$ の固有多項式は
$$
\det(xI-m_\alpha)=\prod_{i=1}^n(x-\sigma_i(\alpha))=f_\alpha(x)^{n/d}\qquad(d=\deg f_\alpha)
$$
であり、したがって
$$
N_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)=\prod_{i=1}^n\sigma_i(\alpha),\qquad \operatorname{Tr}_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)=\sum_{i=1}^n\sigma_i(\alpha)
$$
である。とくに $\alpha\in\mathcal{O}_K$ なら $N_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)$ と $\operatorname{Tr}_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)$ は整数である。
$e:=[K:\mathbb{Q}(\alpha)]$ とすると、拡大次数の乗法性(体の拡大 の記事の定理「拡大次数の乗法性」)から $n=de$ である。
固有多項式が $f_\alpha^e$ であること:$K$ の $\mathbb{Q}(\alpha)$ 上の基底 $u_1,\dots,u_e$ をとると、$\alpha^iu_j$($0\le i< d$、$1\le j\le e$)は $K$ の $\mathbb{Q}$ 上の基底である。$f_\alpha=x^d+c_{d-1}x^{d-1}+\cdots+c_0$ とすると、$m_\alpha$ は $\alpha^iu_j\mapsto\alpha^{i+1}u_j$($i< d-1$)、$\alpha^{d-1}u_j\mapsto\alpha^du_j=-\sum_{i< d}c_i\alpha^iu_j$ と働くので、各 $j$ について $u_j,\alpha u_j,\dots,\alpha^{d-1}u_j$ の張る部分空間を保ち、そこでの行列は $f_\alpha$ の同伴行列である。同伴行列の固有多項式は $f_\alpha$ なので、$m_\alpha$ の固有多項式は $f_\alpha^e$ である。
$\prod_i(x-\sigma_i(\alpha))=f_\alpha^e$ であること:$f_\alpha$ の根は $\mathbb{Q}(\alpha)$ の埋め込み $\tau$ の値 $\tau(\alpha)$ として 1 回ずつ現れる(thm-number-field-embeddings を $\mathbb{Q}(\alpha)$ に使う)。したがって、$\mathbb{Q}(\alpha)$ の各埋め込み $\tau$ が $K$ の埋め込みにちょうど $e$ 通りに延びることを示せばよい。
$K=\mathbb{Q}(\alpha)(\gamma)$ となる $\gamma$ をとる(thm-number-field-primitive の $K$ の原始元でよい)。$\gamma$ の $\mathbb{Q}(\alpha)$ 上の最小多項式を $g$ とすると $\deg g=e$ である。$\tau$ の延長 $\sigma$ は $\sigma(\gamma)$ で決まり、$\sigma(\gamma)$ は $g$ の係数に $\tau$ を施した多項式 $\tau g$ の根である。逆に $\tau g$ の根 $\delta$ ごとに、$\mathbb{Q}(\alpha)[x]/(g)\cong K$ と $\tau$ から $\gamma\mapsto\delta$ となる延長が得られる($\tau g$ は体 $\tau(\mathbb{Q}(\alpha))$ 上既約で、$\mathbb{Q}(\alpha)[x]/(g)\cong\tau(\mathbb{Q}(\alpha))[x]/(\tau g)$)。$\tau g$ は標数 $0$ の体の上の既約多項式なので、thm-number-field-embeddings の証明と同じ理由で $e$ 個の相異なる根をもつ。よって延長はちょうど $e$ 個である。
この定理は Neu99 Chapter I, §2 にある。ノルムは単数の判定に使える。
$\alpha\in\mathcal{O}_K$ が $\mathcal{O}_K$ の単元(逆元が $\mathcal{O}_K$ に属する元)であることと、$N_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)=\pm1$ であることは同値である。
要点:単元のノルムは整数の積が $1$ になることから $\pm1$ であり、逆はノルムの式から $1/\alpha$ が $\alpha$ の他の共役の積(の $\pm1$ 倍)として代数的整数になることによる。
$\alpha\beta=1$($\beta\in\mathcal{O}_K$)なら $N(\alpha)N(\beta)=N(1)=1$ で、$N(\alpha),N(\beta)$ は整数なので $N(\alpha)=\pm1$ である。逆に $N(\alpha)=\pm1$ とする。thm-number-field-embeddings により $K$ を $\mathbb{C}$ の部分体とみなし、包含写像を $\sigma_1$ とすると、thm-number-field-norm-trace により $\alpha\prod_{i\ge2}\sigma_i(\alpha)=N(\alpha)$ である。$\beta:=N(\alpha)\prod_{i\ge2}\sigma_i(\alpha)$ とおくと、$N(\alpha)^2=1$ から $\alpha\beta=1$、すなわち $\beta=1/\alpha\in K$ である。一方、各 $\sigma_i(\alpha)$ は $f_\alpha\in\mathbb{Z}[x]$ の根なので代数的整数であり、その積に $\pm1$ を掛けた $\beta$ も代数的整数である(代数的整数 の記事の定理「代数的整数全体のなす環」)。よって $\beta\in\mathcal{O}_K$ であり、$\alpha$ は単元である。$\square$
(Neu99 Chapter I, §7)。
次数 $2$ の代数体 $K$ は、$0,1$ でない平方因子をもたない整数 $d$($1$ より大きい平方数で割り切れない整数)によって $K\cong\mathbb{Q}(\sqrt d)$ と書ける。このような $d$ は $K$ からただ 1 つに決まる。
存在:$K=\mathbb{Q}(\beta)$ とし、$\beta$ の最小多項式を $x^2+bx+c$($b,c\in\mathbb{Q}$)とする。$\gamma:=2\beta+b$ とおくと $\gamma^2=4\beta^2+4b\beta+b^2=b^2-4c=:D\in\mathbb{Q}$ であり、$\mathbb{Q}(\gamma)=\mathbb{Q}(\beta)=K$ である。$D$ は有理数の平方でない(平方なら $x^2+bx+c$ が $\mathbb{Q}$ 上で 1 次式の積になる)。$D=u/v$($u,v$ は整数、$v>0$)と書くと $D=uv/v^2$ であり、整数 $uv$ を $s^2d$($s$ は正の整数、$d$ は平方因子をもたない整数)と書けば、$\delta:=v\gamma/s\in K$ は $\delta^2=d$ を満たす。$D$ が平方でないので $d\neq0,1$ であり、$K=\mathbb{Q}(\delta)\cong\mathbb{Q}(\sqrt d)$ である。
一意性:$K$ の中に $\delta^2=d$ と $\varepsilon^2=d'$ を満たす元があり、$d,d'$ がどちらも $0,1$ でない平方因子をもたない整数だとする。$1,\delta$ は $K$ の基底なので $\varepsilon=a+b\delta$($a,b\in\mathbb{Q}$)と書け、$d'=\varepsilon^2=a^2+b^2d+2ab\delta$ である。$1,\delta$ は 1 次独立なので $ab=0$ である。$b=0$ なら $\varepsilon=a\in\mathbb{Q}$ で $d'$ が有理数の平方になり、$d'$ は平方因子をもたず $1$ でないのでそれはありえない。よって $a=0$、$d'=b^2d$ である。$b=p/q$($p,q$ は互いに素な整数、$q>0$)とすると $q^2d'=p^2d$ であり、$q^2\mid p^2d$ と $\gcd(p,q)=1$ から $q^2\mid d$、$d$ は平方因子をもたないので $q=1$ である。同様に $p^2\mid d'$ から $p=\pm1$ であり、$d'=d$ である。$\square$
2 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt d)$ は $d>0$ なら $(r_1,r_2)=(2,0)$(実 2 次体)、$d<0$ なら $(0,1)$(虚 2 次体)である。整数環は $d\equiv2,3\pmod4$ なら $\mathbb{Z}[\sqrt d]$、$d\equiv1\pmod4$ なら $\mathbb{Z}[(1+\sqrt d)/2]$ である(代数的整数 の記事の命題「2 次体の整数環の決定」)。
平方因子をもたない整数 $d$ について、2 次体 $K=\mathbb{Q}(\sqrt d)$ の整数環 $\mathcal{O}_K$、判別式 $d_K$、符号数、類数 $h_K$ は次のとおりである。
| $d$ | $\mathcal{O}_K$ | $d_K$ | $(r_1,r_2)$ | $h_K$ |
|---|---|---|---|---|
| $-1$ | $\mathbb{Z}[i]$ | $-4$ | $(0,1)$ | $1$ |
| $-2$ | $\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]$ | $-8$ | $(0,1)$ | $1$ |
| $-3$ | $\mathbb{Z}[(1+\sqrt{-3})/2]$ | $-3$ | $(0,1)$ | $1$ |
| $-5$ | $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ | $-20$ | $(0,1)$ | $2$ |
| $-6$ | $\mathbb{Z}[\sqrt{-6}]$ | $-24$ | $(0,1)$ | $2$ |
| $2$ | $\mathbb{Z}[\sqrt2]$ | $8$ | $(2,0)$ | $1$ |
| $3$ | $\mathbb{Z}[\sqrt3]$ | $12$ | $(2,0)$ | $1$ |
| $5$ | $\mathbb{Z}[(1+\sqrt5)/2]$ | $5$ | $(2,0)$ | $1$ |
| $10$ | $\mathbb{Z}[\sqrt{10}]$ | $40$ | $(2,0)$ | $2$ |
判別式は、$d\equiv2,3\pmod4$ なら $d_K=4d$、$d\equiv1\pmod4$ なら $d_K=d$ である。類数は、Minkowski の限界 $M_K=\frac{n!}{n^n}\bigl(\frac4\pi\bigr)^{r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}$ 以下のノルムをもつ素イデアルがイデアル類群を生成すること(Neu99 Chapter I, §§5–6)から求まる。以下で一部の二次体の判別式と類数を具体的に計算する。
判別式:$d\equiv2,3\pmod4$ のとき整数底 $1,\sqrt d$ について $\operatorname{Tr}(1)=2$、$\operatorname{Tr}(\sqrt d)=0$、$\operatorname{Tr}(d)=2d$ なので $d_K=\det\begin{pmatrix}2&0\\0&2d\end{pmatrix}=4d$ である。$d\equiv1\pmod4$ のとき整数底 $1,\omega$($\omega=(1+\sqrt d)/2$)について $\operatorname{Tr}(\omega)=1$、$\omega^2=\omega+\frac{d-1}4$ から $\operatorname{Tr}(\omega^2)=1+\frac{d-1}2=\frac{d+1}2$ なので $d_K=\det\begin{pmatrix}2&1\\1&(d+1)/2\end{pmatrix}=d$ である(トレースは thm-number-field-norm-trace により $\sqrt d\mapsto\pm\sqrt d$ の 2 つの値の和)。
類数:$n=2$ なので $M_K=\frac12\bigl(\frac4\pi\bigr)^{r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}$ である。$d=-2$ では $\frac2\pi\sqrt8\approx1.80$、$d=-3$ では $\frac2\pi\sqrt3\approx1.10$、$d=2$ では $\frac12\sqrt8\approx1.41$、$d=3$ では $\frac12\sqrt{12}\approx1.73$ で、どれも $2$ 未満である。ノルムが $2$ 未満の $0$ でないイデアルは $\mathcal{O}_K$ 自身だけなので、イデアル類群は自明で $h_K=1$ である。$d=-5$ では $M_K=\frac2\pi\sqrt{20}\approx2.85$ なので、イデアル類群は $2$ の上にある素イデアルで生成される。$2\mathcal{O}_K=\mathfrak{p}^2$、$\mathfrak{p}=(2,1+\sqrt{-5})$ であり、$\mathfrak{p}$ はノルム $2$ である。$\mathfrak{p}=(a+b\sqrt{-5})$ と単項なら $a^2+5b^2=2$ となるが、これは整数解をもたないので $\mathfrak{p}$ は単項でない。$\mathfrak{p}^2=(2)$ は単項なので、イデアル類群は $\mathfrak{p}$ の類で生成される位数 $2$ の群であり、$h_K=2$ である。
$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ では $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ で、$N(a+b\sqrt{-5})=a^2+5b^2$ である(thm-number-field-norm-trace、埋め込みは $\sqrt{-5}\mapsto\pm\sqrt{-5}$)。
$$
6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})
$$
で、4 つの因子のノルムは $4,9,6,6$ である。ノルムが $2$ または $3$ の元はない($a^2+5b^2=2,3$ は整数解をもたない)ので、これらの因子はどれも $\mathcal{O}_K$ でそれ以上分解しない既約元であり、単元は $N=\pm1$ の元 $\pm1$ だけである(cor-number-field-units)。よって $6$ の既約元への分解は 2 通りあり、$\mathcal{O}_K$ は一意分解整域でない(Gauss整数 の記事の例「反例:素因数分解が一意でない $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$」)。これは $h_K=2\neq1$ と合う。イデアルとしては $(6)=\mathfrak{p}^2\mathfrak{q}\mathfrak{q}'$($\mathfrak{p}=(2,1+\sqrt{-5})$、$\mathfrak{q}=(3,1+\sqrt{-5})$、$\mathfrak{q}'=(3,1-\sqrt{-5})$)と一意に分解する(Neu99 Chapter I, §3)。
$K=\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})$ は次数 $3$ で、$x^3-2$ の根 $\sqrt[3]{2}$、$\omega\sqrt[3]{2}$、$\omega^2\sqrt[3]{2}$($\omega=e^{2\pi i/3}$)のうち実根は 1 つなので、thm-number-field-embeddings により $(r_1,r_2)=(1,1)$ である。基底 $1,\theta,\theta^2$($\theta=\sqrt[3]{2}$)に関する $\alpha=a+b\theta+c\theta^2$ 倍写像の行列は
$$
m_\alpha=\begin{pmatrix}a&2c&2b\\b&a&2c\\c&b&a\end{pmatrix}
$$
なので、$N(\alpha)=a^3+2b^3+4c^3-6abc$、$\operatorname{Tr}(\alpha)=3a$ である。たとえば $N(1+\theta)=1+2=3$、$N(\theta-1)=-1+2=1$ であり、cor-number-field-units により $\theta-1$ は $\mathcal{O}_K$ の単元である(実際 $(\theta-1)(\theta^2+\theta+1)=\theta^3-1=1$)。
$\zeta=e^{2\pi i/5}$ とすると $K=\mathbb{Q}(\zeta)$ は $x^4+x^3+x^2+x+1$ の根で生成される次数 $4$ の代数体である(この多項式の既約性は Mil22 Theorem 5.10)。4 つの根 $\zeta,\zeta^2,\zeta^3,\zeta^4$ はどれも実数でないので $(r_1,r_2)=(0,2)$ である。thm-number-field-norm-trace により $\operatorname{Tr}(\zeta)=\zeta+\zeta^2+\zeta^3+\zeta^4=-1$、$N(\zeta)=\zeta^{1+2+3+4}=1$ である。$K/\mathbb{Q}$ は Galois 拡大で、その Galois群 は位数 $4$ の巡回群 $(\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^\times$ である(Galois群 の記事の例「円分体の Galois 群」)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 拡大次数が有限 | $\mathbb{Q}(\pi)$ | 元がすべて代数的であること |
| 拡大次数が有限 | 代数的数全体 $\overline{\mathbb{Q}}$ | 「元がすべて代数的」なら拡大次数が有限 |
| 整数環が $\mathbb{Z}[\alpha]$ | $\mathbb{Q}(\sqrt5)$ と $\alpha=\sqrt5$ | $K=\mathbb{Q}(\alpha)$、$\alpha\in\mathcal{O}_K$ なら $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\alpha]$ |
| 類数が $1$ | $\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ | 整数環の元の分解の一意性 |
表の 4 つの反例は、それぞれ「外す条件」以外の仮定を満たし、「成り立たなくなること」が実際に破れる。
1. 円周率 $\pi$ は超越数である(超越数 の記事の例「超越数の例」、定理「Lindemann–Weierstrass の定理」)。したがって $1,\pi,\pi^2,\dots$ は $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立であり、$[\mathbb{Q}(\pi):\mathbb{Q}]$ は無限大である。$\mathbb{Q}(\pi)$ は $\mathbb{Q}$ を含む体だが代数体でなく、元 $\pi$ は代数的でない。
2. $\mathbb{C}$ の中の代数的数全体 $\overline{\mathbb{Q}}$ は体であり(超越数 の記事の命題「代数的数全体は体をなす」)、元はすべて代数的である。しかし各 $m\ge1$ について $x^m-2$ は Eisenstein の判定法(素数 $2$)で既約なので $[\mathbb{Q}(2^{1/m}):\mathbb{Q}]=m$ であり、$\overline{\mathbb{Q}}\supset\mathbb{Q}(2^{1/m})$ から $[\overline{\mathbb{Q}}:\mathbb{Q}]$ は無限大である。「すべての元が代数的」は代数体であるための十分条件ではない。
3. $K=\mathbb{Q}(\sqrt5)$ では $\sqrt5\in\mathcal{O}_K$ で $K=\mathbb{Q}(\sqrt5)$ だが、黄金比 $\varphi=(1+\sqrt5)/2$ は $x^2-x-1$ の根なので $\mathcal{O}_K$ に属し、$\mathbb{Z}[\sqrt5]=\{a+b\sqrt5\mid a,b\in\mathbb{Z}\}$ には属さない(代数的整数 の記事の例「2 次体の整数環の例」)。$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\varphi]$ であり、$\mathbb{Z}[\sqrt5]$ は $\mathcal{O}_K$ の指数 $2$ の部分環である。
4. $\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ は類数 $2$ で、$6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})$ と既約元への分解が 2 通りある(ex-number-field-sqrt-minus-5)。$\mathbb{Q}(i)$ のように類数 $1$ の場合は整数環が一意分解整域になる(Dedekind整域 の記事の命題「イデアル類群が自明な条件」)。
$\mathcal{O}_K$ の単元全体 $\mathcal{O}_K^\times$ は、有限巡回群($K$ に含まれる 1 の冪根の群)と階数 $r_1+r_2-1$ の自由アーベル群の直積と同型である(Dirichlet の単数定理、Neu99 Chapter I, §7)。虚 2 次体では $r_1+r_2-1=0$ なので単数は有限個($\mathbb{Q}(i)$ では $\pm1,\pm i$)であり、実 2 次体と $\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})$ では階数 $1$ である。ex-number-field-cbrt2 の $\sqrt[3]{2}-1$ は、後者での単数の具体例である。実 2 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt d)$ では、Pell方程式 $x^2-dy^2=1$ の整数解 $(x,y)$ はノルム $1$ の単数 $x+y\sqrt d$ を与え、解が無限個あることが単数定理から従う(Neu99 Chapter I, §7)。符号数 $(r_1,r_2)$ はこのように単数群の大きさを決め、Minkowski の限界を通してイデアル類群の計算にも現れる。
「代数体」は「有限次代数体」「代数的数体」とも呼ばれる。$\mathbb{Q}$ 上無限次の代数拡大(たとえば $\overline{\mathbb{Q}}$)を「無限次代数体」と呼ぶ文献もあるが、本記事の「代数体」は有限次に限る。代数体 $K$ の判別式 $d_K$ は多項式の判別式や 2次形式と2次曲線の判別式 とは定義が異なるので、どの判別式かを確かめる必要がある。
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