有限階作用素

同義語:finite-rank operator有限ランク作用素有限階数作用素

概要

有限階作用素(finite-rank operator)とは、Banach 空間の間の有界線形作用素で、像が有限次元のものである。有限個の連続線形汎関数 $\varphi_i$ とベクトル $y_i$ により $x\mapsto\sum_i\varphi_i(x)y_i$ と書け、双対作用素の階数はもとの作用素の階数に等しい。有限階作用素はコンパクトで、弱位相からノルム位相へ連続な有界作用素はちょうど有限階作用素であり、像が閉じたコンパクト作用素も有限階になる。有限階作用素の全体は作用素環 $L(E)$ の 0 でないどの両側イデアルにも含まれ、跡が定義できて $\operatorname{tr}(ST)=\operatorname{tr}(TS)$ を満たす。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Banach空間, 連続双対空間, Hahn–Banachの定理, コンパクト作用素

行列に戻る作用素

無限次元の Banach空間 の間の有界線形作用素は、一般には行列で書けない。そのなかで、像が有限次元のものは事情が違う。像の基底 $y_1,\dots,y_n$ をとると、作用素は $x\mapsto\sum_i\varphi_i(x)y_i$ という形に書け、係数 $\varphi_i$ は連続な線形汎関数になる。つまり有限個の汎関数と有限個のベクトルを並べた「$n$ 列の行列」である。このような作用素を有限階作用素(finite-rank operator)という。
有限階作用素は コンパクト作用素 のもっとも簡単な例であり、その作用素ノルムでの極限もコンパクトになる。逆に、行き先が Hilbert空間 ならコンパクト作用素はすべて有限階作用素のノルム極限である。有限階作用素の全体は、作用素の全体 $L(E)$ の 0 でないどの両側イデアルにも含まれる最小のイデアルであり、行列と同じく跡が定義できる。
この記事では、有限階作用素の標準形、双対作用素の階数、弱位相から見た特徴づけ、閉じた像をもつコンパクト作用素が有限階であること、最小のイデアルであること、跡の性質を証明する。
以下 $\mathbb K=\mathbb R$ または $\mathbb C$ とし、$E,F,G$ は $\mathbb K$ 上の Banach 空間とする。$L(E,F)$ は有界線形作用素の全体に作用素ノルムを入れた空間、$L(E):=L(E,E)$、$E^*$ は連続な線形汎関数の全体(連続双対空間)、$B_E:=\{x\in E:\|x\|\le1\}$ は閉単位球、$\ker T$・$R(T)$ は $T$ の核と像である。$\varphi\in E^*$ と $y\in F$ について、
$$ (\varphi\otimes y)(x):=\varphi(x)\,y\qquad(x\in E) $$
で $\varphi\otimes y\in L(E,F)$ を定め、$\|\varphi\otimes y\|=\|\varphi\|\,\|y\|$ である。

定義と標準形

有限階作用素

$T\in L(E,F)$ の像 $R(T)$ が有限次元のとき、$T$ を有限階作用素という。$\operatorname{rank}T:=\dim R(T)$ を $T$ の階数という(像が無限次元なら $\operatorname{rank}T=\infty$ と書く)。有限階作用素の全体を $\mathcal F(E,F)$ と書き、$\mathcal F(E):=\mathcal F(E,E)$ とする。

コンパクト作用素 の記事の定義「コンパクト作用素」で述べられている有限階作用素と同じ概念である。$\varphi\ne0$、$y\ne0$ なら $\varphi\otimes y$ は階数 $1$ の作用素であり、逆に階数 $1$ の作用素はこの形に書ける(次の命題で $n=1$ の場合)。

有限階作用素の標準形
  1. $T\in L(E,F)$ の階数が $n<\infty$ なら、$R(T)$ の基底 $y_1,\dots,y_n$ と一次独立な $\varphi_1,\dots,\varphi_n\in E^*$ で
    $$ T=\sum_{i=1}^n\varphi_i\otimes y_i $$
    となるものがある。
  2. 逆に、$\varphi_1,\dots,\varphi_m\in E^*$ と $y_1,\dots,y_m\in F$ について $\sum_{i=1}^m\varphi_i\otimes y_i$ は階数 $m$ 以下の有限階作用素である。

1:$R(T)$ の基底 $y_1,\dots,y_n$ をとり、$y=\sum_ic_i(y)y_i$ で座標の線形汎関数 $c_i\colon R(T)\to\mathbb K$ を定める。$R(T)$ は有限次元のノルム空間なので $c_i$ は連続である(連続双対空間 の記事の命題「有限次元では代数的双対と一致する」)。$\varphi_i:=c_i\circ T$ は連続な線形汎関数の合成なので $E^*$ に属し、$Tx=\sum_ic_i(Tx)y_i=\sum_i\varphi_i(x)y_i$ である。$y_j=Tx_j$ となる $x_j$ をとると $\varphi_i(x_j)=c_i(y_j)=\delta_{ij}$ なので、$\sum_ia_i\varphi_i=0$ なら $x_j$ での値から $a_j=0$ となり、$\varphi_i$ は一次独立である。
2:像は $y_1,\dots,y_m$ の張る空間に含まれる。$\square$

標準形の係数が連続になるのは、$T$ が有界であると仮定しているからである。有界性を外すと、像が 1 次元でも連続でない線形写像がある(ex-fr-counterexamples)。

和と合成
  1. $\mathcal F(E,F)$ は $L(E,F)$ の線形部分空間で、$\operatorname{rank}(S+T)\le\operatorname{rank}S+\operatorname{rank}T$ である。
  2. $T\in L(E,F)$、$S\in L(F,G)$ の一方が有限階なら $ST$ も有限階で、$\operatorname{rank}(ST)\le\min(\operatorname{rank}S,\operatorname{rank}T)$ である。
  3. 有限階作用素はコンパクトであり、$\mathcal F(E,F)$ の作用素ノルムでの閉包は $K(E,F)$ に含まれる。

1 は $R(S+T)\subset R(S)+R(T)$ から、2 は $R(ST)=S(R(T))\subset R(S)$ と $\dim S(R(T))\le\dim R(T)$ から従う。3 は コンパクト作用素 の記事の定義の直後の注意(有限次元のノルム空間の有界集合は全有界)と、同記事の定理「コンパクト作用素の全体は閉じたイデアル」の 2 である。$\square$

閉包が $K(E,F)$ 全体に一致するかは空間による。$F$ が Hilbert 空間なら一致する(コンパクト作用素 の記事の命題「Hilbert空間への作用素の有限階近似」)。一般の Banach 空間では一致しない例があり、この問題は 近似性質 として扱われる。

有限階でないコンパクト作用素

$\ell^2$ 上の $Tx:=(x_1,\tfrac12x_2,\tfrac13x_3,\dots)$ はコンパクトだが有限階でない。最初の $N$ 成分だけを残した $T_N$ は階数 $N$ で、$\|T-T_N\|=\tfrac1{N+1}\to0$ である。$Te_n=e_n/n$($e_n$ は標準基底)なので $R(T)$ は無限次元であり、$\mathcal F(\ell^2)$ は作用素ノルムで閉じていない。

双対作用素の階数

$T\in L(E,F)$ の双対作用素 $T^*\colon F^*\to E^*$ を $T^*\psi:=\psi\circ T$ で定める。$\varphi\otimes y$ の双対作用素は $\psi\mapsto\psi(y)\varphi$ である。

双対作用素の階数

$T\in L(E,F)$ について $\operatorname{rank}T^*=\operatorname{rank}T$ である(両辺が $\infty$ の場合を含む)。特に、$T$ が有限階であることと $T^*$ が有限階であることは同値である。

$\operatorname{rank}T^*\ge\operatorname{rank}T$.$R(T)$ が一次独立な $y_1=Tx_1,\dots,y_m=Tx_m$ を含むとき、$\operatorname{rank}T^*\ge m$ を示せば十分である。$M:=\operatorname{span}\{y_1,\dots,y_m\}$ 上の座標の汎関数 $c_j$($c_j(y_i)=\delta_{ij}$)は連続で(連続双対空間 の記事の命題「有限次元では代数的双対と一致する」)、Hahn–Banachの定理 の記事の系「ノルムを保つ延長」により $\psi_j\in F^*$ に延長できる。すると
$$ (T^*\psi_j)(x_i)=\psi_j(Tx_i)=\psi_j(y_i)=\delta_{ij} $$
なので、$\sum_ja_jT^*\psi_j=0$ なら $x_i$ での値から $a_i=0$ となり、$T^*\psi_1,\dots,T^*\psi_m$ は一次独立である。よって $\operatorname{rank}T^*\ge m$ である。
$\operatorname{rank}T^*\le\operatorname{rank}T$.$\operatorname{rank}T=n<\infty$ の場合だけ示せばよい。prop-fr-normal-form の形 $T=\sum_{i=1}^n\varphi_i\otimes y_i$ に書くと、$\psi\in F^*$ について
$$ T^*\psi=\psi\circ T=\sum_{i=1}^n\psi(y_i)\,\varphi_i $$
なので $R(T^*)\subset\operatorname{span}\{\varphi_1,\dots,\varphi_n\}$、$\operatorname{rank}T^*\le n$ である。$\square$

前半の議論は、$R(T)$ が無限次元なら $R(T^*)$ も無限次元であることを示している。有限次元の線形代数で「行列とその転置の階数は等しい」という事実の、無限次元での形である。

弱位相から見た特徴づけ

$E$ の弱位相とは、すべての $\varphi\in E^*$ を連続にする最も弱い位相である。$x_0\in E$ の近傍の基本系は、有限個の $\varphi_1,\dots,\varphi_n\in E^*$ と $\delta>0$ による
$$ V(x_0;\varphi_1,\dots,\varphi_n;\delta):=\{x\in E:|\varphi_j(x-x_0)|<\delta\ (j=1,\dots,n)\} $$
の形の集合である。$T\in L(E,F)$ が弱位相からノルム位相へ連続とは、$E$ に弱位相、$F$ にノルム位相を入れて $T$ が連続であることをいう。

弱位相からノルム位相への連続性

$T\in L(E,F)$ について、$T$ が弱位相からノルム位相へ連続であることと、$T$ が有限階であることは同値である。

有限階なら連続.$T=\sum_{i=1}^n\varphi_i\otimes y_i$ と書く(prop-fr-normal-form)。$\varepsilon>0$ と $x_0$ について、$\delta:=\varepsilon/(1+\sum_i\|y_i\|)$ とおけば、$x\in V(x_0;\varphi_1,\dots,\varphi_n;\delta)$ なら
$$ \|Tx-Tx_0\|\le\sum_{i=1}^n|\varphi_i(x-x_0)|\,\|y_i\|<\varepsilon $$
である。
連続なら有限階.$0$ での連続性から、$\varphi_1,\dots,\varphi_n\in E^*$ と $\delta>0$ で、$x\in V(0;\varphi_1,\dots,\varphi_n;\delta)$ なら $\|Tx\|<1$ となるものがある。$N:=\bigcap_j\ker\varphi_j$ とおく。$x\in N$ なら、すべての $t\in\mathbb K$ について $tx\in V(0;\varphi_1,\dots,\varphi_n;\delta)$ なので $|t|\,\|Tx\|<1$ であり、$t\to\infty$ として $Tx=0$ となる。よって $N\subset\ker T$ である。線形写像 $x\mapsto(\varphi_1(x),\dots,\varphi_n(x))\in\mathbb K^n$ の核が $N$ なので $\dim E/N\le n$ であり、$T$ は全射 $E/N\to R(T)$ を引き起こすから $\operatorname{rank}T\le n$ である。$\square$

コンパクト作用素は、弱収束する点列をノルム収束する点列へ写す(コンパクト作用素 の記事の命題「弱収束する列をノルム収束する列へ写す」)。ex-fr-diagonal の作用素はコンパクトなのでこの点列の性質をもつが、有限階でないので、thm-fr-weak により弱位相からノルム位相へは連続でない。無限次元では弱位相は距離づけられないので、点列での連続性と位相での連続性が分かれる。

閉じた像をもつコンパクト作用素

閉じた像をもつコンパクト作用素は有限階

$T\in K(E,F)$ の像 $R(T)$ が $F$ で閉じているなら、$T$ は有限階である。

$R(T)$ は Banach 空間 $F$ の閉部分空間なので Banach 空間であり、$T\colon E\to R(T)$ は有界な全射である。開写像定理 の記事の定理「開写像定理」により、$E$ の開単位球の像は $R(T)$ の開集合で $0$ を含むから、ある $\delta>0$ について $R(T)$ の開球 $\{y\in R(T):\|y\|<2\delta\}$ を含み、
$$ \{y\in R(T):\|y\|\le\delta\}\subset T(B_E)\subset\overline{T(B_E)} $$
となる。右辺はコンパクトで、左辺は閉集合なので、左辺はコンパクトである。$\delta^{-1}$ 倍して $R(T)$ の閉単位球がコンパクトとなり、Fredholm作用素 の記事の補題「Rieszの補題」の 2 により $R(T)$ は有限次元である。$\square$

$\ker T$ も有限次元なら、$E/\ker T\cong R(T)$ から $E$ 自身が有限次元になる。したがって無限次元の $E$ では、コンパクト作用素が閉じた像をもつ単射になることはない。Riesz–Schauder理論 で $\lambda I-T$($\lambda\ne0$)の像が閉じることと対照的である。

最小のイデアル

$L(E)$ の線形部分空間 $J$ が両側イデアルであるとは、$A\in J$、$B\in L(E)$ なら $AB\in J$ かつ $BA\in J$ となることをいう。prop-fr-ideal により $\mathcal F(E)$ は両側イデアルであり、コンパクト作用素 の記事の定理「コンパクト作用素の全体は閉じたイデアル」により $K(E)$ は閉じた両側イデアルである。

有限階作用素は最小のイデアル

$E\ne\{0\}$ とし、$J\ne\{0\}$ を $L(E)$ の両側イデアルとする。このとき $\mathcal F(E)\subset J$ である。

$0\ne A\in J$ をとり、$y_0:=Ax_0\ne0$ となる $x_0$ を選ぶ。Hahn–Banachの定理 の記事の系「ノルムを保つ延長」により、$\psi(y_0)=1$ となる $\psi\in E^*$ がある。任意の $\varphi\in E^*$、$y\in E$ について、$x\in E$ に施すと
$$ (\psi\otimes y)\,A\,(\varphi\otimes x_0)\,x=(\psi\otimes y)\bigl(\varphi(x)\,y_0\bigr)=\varphi(x)\,\psi(y_0)\,y=(\varphi\otimes y)(x) $$
なので、$\varphi\otimes y=(\psi\otimes y)A(\varphi\otimes x_0)\in J$ である。prop-fr-normal-form により有限階作用素はこの形の作用素の有限和なので、$J$ に属する。$\square$

閉じたイデアルとコンパクト作用素

$J\ne\{0\}$ が $L(E)$ の閉じた両側イデアルなら、$J$ は $\mathcal F(E)$ の閉包を含む。特に $E=H$ が Hilbert 空間なら $K(H)\subset J$ であり、$K(H)$ は $0$ でない閉じた両側イデアルのうち最小のものである。

前半は thm-fr-minimal-ideal の両辺の閉包をとればよい。Hilbert 空間では $\mathcal F(H)$ の閉包が $K(H)$ に一致する(コンパクト作用素 の記事の命題「Hilbert空間への作用素の有限階近似」)ので後半が従う。$\square$

跡

$T\in\mathcal F(E)$ なら $T(R(T))\subset R(T)$ なので、$T$ は有限次元の空間 $R(T)$ の線形変換 $T|_{R(T)}$ を与える。そこで
$$ \operatorname{tr}T:=\operatorname{tr}\bigl(T|_{R(T)}\bigr) $$
と定め、$T$ の跡という(右辺は有限次元の線形変換の 跡)。

有限階作用素の跡

$T\in\mathcal F(E)$ とする。

  1. $M$ が $R(T)\subset M$ を満たす有限次元部分空間なら、$T(M)\subset M$ であり、$\operatorname{tr}T=\operatorname{tr}(T|_M)$ である。
  2. $T=\sum_{i=1}^m\varphi_i\otimes y_i$($\varphi_i\in E^*$、$y_i\in E$)と書けるなら、表し方によらず $\operatorname{tr}T=\sum_{i=1}^m\varphi_i(y_i)$ である。
  3. $\operatorname{tr}\colon\mathcal F(E)\to\mathbb K$ は線形である。
  4. $S\in L(E)$ について $\operatorname{tr}(ST)=\operatorname{tr}(TS)$ である。

1:$T(M)\subset R(T)\subset M$ である。$W:=R(T)$ は $T|_M$ の不変部分空間で、$M/W$ に引き起こされる写像は $T(M)\subset W$ により $0$ である。跡 の記事の定理「跡の加法性」により $\operatorname{tr}(T|_M)=\operatorname{tr}(T|_W)+0=\operatorname{tr}T$ である。
2:$M:=R(T)+\operatorname{span}\{y_1,\dots,y_m\}$ は有限次元で $R(T)$ を含む。$M$ 上では $T|_M=\sum_i(\varphi_i|_M)\otimes y_i$ なので、跡 の記事の定理「階数 1 の写像の跡」の 1 と跡の線形性から $\operatorname{tr}(T|_M)=\sum_i\varphi_i(y_i)$ であり、1 により左辺は $\operatorname{tr}T$ である。
3:$T=\sum_i\varphi_i\otimes y_i$、$T'=\sum_k\varphi'_k\otimes y'_k$ なら、二つの表し方を並べたものは $T+T'$ の表し方であり、$cT=\sum_i(c\varphi_i)\otimes y_i$ である。2 から従う。
4:$T=\sum_i\varphi_i\otimes y_i$ と書くと、
$$ ST=\sum_i\varphi_i\otimes Sy_i,\qquad TS=\sum_i(\varphi_i\circ S)\otimes y_i $$
である($x$ に施して確かめられる)。2 により、どちらの跡も $\sum_i\varphi_i(Sy_i)$ に等しい。$\square$

$P\in\mathcal F(E)$ が $P^2=P$ を満たすなら、$P|_{R(P)}$ は恒等写像なので $\operatorname{tr}P=\operatorname{rank}P$ である。

跡は作用素ノルムについて連続でない

$\ell^2$ で最初の $n$ 成分を残す直交射影を $P_n$ とし、$T_n:=\tfrac1nP_n$ とおく。$\|T_n\|=\tfrac1n\to0$ だが $\operatorname{tr}T_n=\tfrac1n\operatorname{rank}P_n=1$ である。したがって跡は $\mathcal F(\ell^2)$ の閉包 $K(\ell^2)$ へ作用素ノルムについて連続には延長できず、コンパクト作用素の跡を考えるには、作用素ノルムより強いノルムで近似を測る必要がある。Hilbert–Schmidt作用素 の記事のノルムでもまだ足りず、$T_n$ のそのノルムは $\sqrt n/n\to0$ である。

仮定を外すと成り立たなくなること

外す条件反例成り立たなくなること
作用素の有界性(def-fr-main)無限次元の実 Banach 空間 $E$ 上の連続でない線形汎関数 $f$ と $0\ne y\in E$ による $x\mapsto f(x)y$像は 1 次元だが、コンパクトでなく、prop-fr-normal-form の連続な係数でも書けない
$T$ のコンパクト性(thm-fr-closed-range)無限次元の $E$ の恒等作用素像 $E$ は閉じているが有限階でない
像が閉じていること(同)ex-fr-diagonal の作用素コンパクトだが有限階でない
イデアルが両側であること(thm-fr-minimal-ideal)$\dim E\ge2$、$x_0\ne0$ について $J:=\{A\in L(E):Ax_0=0\}$$J\ne\{0\}$ は左からの積で閉じているが、$\varphi(x_0)\ne0$ となる $\varphi\otimes y$($y\ne0$)を含まない
反例の確かめ
確かめを開く

1 行目:連続でない線形汎関数の存在は Hamel基底 の記事の定理「不連続な線形汎関数の存在」による。$A:=f\otimes y$ と書くと、$\|x_n\|\le1$、$|f(x_n)|\ge n$ となる $x_n$ があり、$\|Ax_n\|\ge n\|y\|$ なので $A(B_E)$ は有界でなく、全有界でもない。また $A=\sum_i\varphi_i\otimes y_i$($\varphi_i\in E^*$)と書けたとすると $A$ は有界になってしまう。

3 行目:ex-fr-diagonal の $T$ の像は、有限個を除いて $0$ の数列をすべて含むので $\ell^2$ で稠密である。一方 $(1/n)_n\in\ell^2$ の原像は $(1,1,\dots)\notin\ell^2$ なので $R(T)\ne\ell^2$ である。よって $R(T)$ は閉じていない。

4 行目:$B\in L(E)$、$A\in J$ なら $BAx_0=0$ なので $BA\in J$ である。$x_0$ と一次独立な $x_1$ をとり、$\operatorname{span}\{x_0,x_1\}$ 上で $x_0\mapsto0$、$x_1\mapsto1$ となる汎関数を Hahn–Banachの定理 で延長した $\varphi_1$ を使うと、$\varphi_1\otimes y\in J$ は $0$ でない。他方 $\varphi(x_0)\ne0$ なら $(\varphi\otimes y)x_0=\varphi(x_0)y\ne0$ なので $\varphi\otimes y\notin J$ である。$J$ は右からの積では閉じていない。

文献

文献

有限階作用素の定義、有限階作用素がコンパクトであること、そのノルム極限がコンパクトであることは Bre11 §6.1(Definition と Corollary 6.2、p. 157)にある。Hilbert 空間への作用素の有限階近似と近似問題については同 Remark 1(pp. 157–158)を参照。thm-fr-weak は同 Exercise 6.7 の 1(pp. 171–172)、thm-fr-closed-range は同 Exercise 6.8 の 1(p. 172)として問題の形で挙げられている。この記事の証明は、標準形と Hahn–Banach の定理、開写像定理によって直接与えたものである。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Springer, 2011, Chapter 6:§6.1 Definition(有限階作用素)と Corollary 6.2(p. 157)、Remark 1(pp. 157–158)、Exercise 6.7 の 1(pp. 171–172)、Exercise 6.8 の 1(p. 172)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する