結び目(knot)とは、3 次元空間 $\mathbb{R}^3$ または $S^3$ に滑らかに埋め込まれた円周であり、周りの空間ごと連続的に動かして移り合うものを同値とみなす。写像のホモトピーではどの結び目も移り合うので、補空間の基本群である結び目群が基本的な不変量になる。$S^3$ を 2 つのソリッドトーラスに分けて Van Kampen の定理を使うと、自明な結び目の群は $\mathbb{Z}$、互いに素な $p,q$ のトーラス結び目の群は $\langle a,b\mid a^p=b^q\rangle$ と計算でき、三葉結び目が自明でないことが従う。
前提知識: 位相的埋め込み, 基本群, Van Kampenの定理
結び目(knot)とは、3 次元空間 $\mathbb{R}^3$(または 3 次元球面 $S^3$)の中に埋め込まれた円周のことである。ひもを結んで両端をつないだ形を数学的に表したものと考えてよい。
結び目の理論で問題にするのは、2 つの結び目が「空間ごと連続的に動かして移り合うか」である。円周から $\mathbb{R}^3$ への写像としてのホモトピーでは、どの 2 つの結び目も移り合ってしまうので、この問いには役に立たない。そこで結び目の補空間 $\mathbb{R}^3\setminus K$ に目を向ける。空間ごと動かす変形は補空間を補空間に同相に写すので、補空間の基本群(結び目群)は結び目の不変量になる。
この記事では、結び目と同値の定義を述べ、結び目群が不変量であることを示したあと、$S^3$ を 2 つのソリッドトーラスに分ける見方を使って、自明な結び目の群が $\mathbb{Z}$ であること、互いに素な $p,q$ に対するトーラス結び目の群が $\langle a,b\mid a^p=b^q\rangle$ であることを Van Kampenの定理 で証明する。その帰結として、三葉結び目は自明な結び目と同値でない。
$\mathbb{R}^3$ の部分集合 $K$ が 結び目 であるとは、滑らかな写像 $f\colon S^1\to\mathbb{R}^3$ で、微分が至るところ $0$ でなく(はめ込み)、位相的埋め込み でもあるものの像 $K=f(S^1)$ になっていることをいう。言い換えると、$K$ は $S^1$ と微分同相なコンパクトで連結な 1 次元の部分多様体である。$K$ に向きを指定したものを 向き付けられた結び目 という。互いに交わらない有限個の結び目の和集合を 絡み目(link)という。$\mathbb{R}^3$ を $S^3$ に替えても同様に定める。
$S^1$ はコンパクトで $\mathbb{R}^3$ は Hausdorff なので、連続な単射 $S^1\to\mathbb{R}^3$ は自動的に位相的埋め込みである(位相的埋め込み の例「埋め込みの例」の 4)。したがって上の定義は「単射な滑らかなはめ込みの像」と言っても同じである。この定義は 絡み数 の記事の結び目の定義(向きを指定したもの)と同じである。
この記事では滑らかな結び目だけを扱う。折れ線(区分的線形な閉曲線)で結び目を定める流儀もある(Hat02 p. 49 は滑らかな結び目と区分的線形な結び目を並べて扱っている)。
$\mathbb{R}^3$ の 2 つの結び目 $K,K'$ が 同値(イソトピック)であるとは、連続写像 $H\colon\mathbb{R}^3\times[0,1]\to\mathbb{R}^3$ で、各 $u$ について $H_u:=H(\cdot,u)$ が同相写像であり、$H_0=\operatorname{id}$、$H_1(K)=K'$ となるもの(全空間イソトピー、ambient isotopy)が存在することをいう。$xy$ 平面の単位円
$$
K_0:=\{(x_1,x_2,0)\mid x_1^2+x_2^2=1\}
$$
と同値な結び目を 自明な結び目(unknot)という。
同値な結び目 $K,K'$ に対しては、$h:=H_1$ は $\mathbb{R}^3$ の同相写像で $h(K)=K'$ をみたす。以下の不変量はこの性質だけを使うので、「$h(K)=K'$ となる $\mathbb{R}^3$ の同相写像 $h$ が存在する」という(向きの条件を付けない)より弱い関係についても不変である。
$f,g\colon S^1\to\mathbb{R}^3$ を任意の連続写像とする。$F(x,u):=(1-u)f(x)+ug(x)$ は $f$ から $g$ へのホモトピーである。とくに、どの 2 つの結び目のパラメータ表示も、写像としてホモトピックである。
$F$ は連続で、$F(\cdot,0)=f$、$F(\cdot,1)=g$ である。$\square$
途中の写像 $F(\cdot,u)$ は単射とは限らず、ひもが自分自身を通り抜ける変形を許している。ホモトピー の記事が注意するとおり、各時刻の写像が埋め込みであることまで要求した変形がイソトピーであり、結び目の分類はそれを使う。この記事の定義はさらに、結び目だけでなく周りの空間全体を同相写像で動かすことを求めている。
$K\subset\mathbb{R}^3$ を結び目とすると、補空間 $\mathbb{R}^3\setminus K$ は弧状連結である。
要点:点 $x$ から $K$ を見込む錐は 2 次元の多様体 $K\times(0,\infty)$ の滑らかな像なので測度 $0$ である。$x$ と $y$ の錐のどちらにも入らない点 $z$ をとれば、折れ線 $x\to z\to y$ は $K$ と交わらない。
$x\in\mathbb{R}^3\setminus K$ について、$K\times(0,\infty)$ から $\mathbb{R}^3$ への滑らかな写像 $\Gamma_x(k,\lambda):=x+\lambda(k-x)$ の像を $\mathcal{C}_x$ とする($x$ を頂点として $K$ を見込む錐)。$K\times(0,\infty)$ は 2 次元の多様体なので、次元の低い多様体からの滑らかな写像の像として $\mathcal{C}_x$ は $\mathbb{R}^3$ の測度 $0$ の集合である(Sardの定理、Lee13 Corollary 6.11、p. 131)。$K=\Gamma_x(K\times\{1\})\subset\mathcal{C}_x$ である。
$x,y\in\mathbb{R}^3\setminus K$ を任意にとる。$\mathcal{C}_x\cup\mathcal{C}_y$ は測度 $0$ なので、それに含まれない点 $z$ がある。線分 $[x,z]$ が $K$ の点 $k$ を含むとすると、$k=x+s(z-x)$($0< s\le1$。$x\notin K$ なので $s\ne0$)と書け、$z=x+s^{-1}(k-x)=\Gamma_x(k,s^{-1})\in\mathcal{C}_x$ となって矛盾する。同様に線分 $[z,y]$ も $K$ と交わらない。よって折れ線 $x\to z\to y$ は $\mathbb{R}^3\setminus K$ の中の道である。$\square$
この補題により、補空間の基本群の同型類は基点によらない(基本群 の命題「基点の取り替え」)。
結び目 $K\subset\mathbb{R}^3$ の補空間の基本群 $\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus K,x_0)$ を $K$ の 結び目群(knot group)という。基点を省いて $\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus K)$ と書く。
$h\colon\mathbb{R}^3\to\mathbb{R}^3$ が同相写像で $h(K)=K'$ ならば、$\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus K)\cong\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus K')$ である。とくに、同値な結び目の結び目群は同型である。
$h$ は全単射なので $h(\mathbb{R}^3\setminus K)=\mathbb{R}^3\setminus K'$ であり、$h$ の制限は補空間どうしの同相写像である。同相写像は基本群の同型を誘導する(基本群 の命題「誘導準同型の関手性」を $h$ と $h^{-1}$ に当てる)。後半は def-knot-equivalence の後の注意による。$\square$
結び目群は「結び目のまわりを回る道」の情報を記録する。この命題が述べるのは「同値ならば群が同型」という向きだけであり、群が同型であることから結び目が同値であることは、この命題からは出てこない。不変量として使うときは対偶の形で、群が同型でない 2 つの結び目は同値でない、と結論する。
計算は $\mathbb{R}^3$ に無限遠点を 1 つ加えた $S^3$ で行うほうが見通しがよい。$S^3$ を $\mathbb{C}^2=\mathbb{R}^4$ の単位球面
$$
S^3=\{(z,w)\in\mathbb{C}^2\mid|z|^2+|w|^2=1\},\qquad z=x_1+ix_2,\ w=x_3+ix_4
$$
とし、点 $N:=(0,i)$($x_4=1$)からの立体射影
$$
\sigma\colon S^3\setminus\{N\}\to\mathbb{R}^3,\qquad\sigma(x)=\frac{(x_1,x_2,x_3)}{1-x_4}
$$
を使う。$\sigma(N):=\infty$ と拡張した写像は $S^3$ から $\mathbb{R}^3$ の一点コンパクト化 $\mathbb{R}^3\cup\{\infty\}$ への同相写像である(n次元球面 の命題「Euclid 空間の一点コンパクト化」)。以下この同相写像で $S^3=\mathbb{R}^3\cup\{\infty\}$ と同一視する。$|x|^2=1$ から
$$
|\sigma(x)|^2=\frac{1-x_4^2}{(1-x_4)^2}=\frac{1+x_4}{1-x_4}
$$
であり、これは $x_4$ について単調増加である。
$K\subset\mathbb{R}^3$ を結び目とする。包含 $\mathbb{R}^3\setminus K\hookrightarrow S^3\setminus K$ は基本群の同型を誘導する。
要点:$K$ を含む球の外側に無限遠点を加えた集合 $V$ は $S^3$ の開いた極冠と同相で単連結であり、$\mathbb{R}^3\setminus K$ との共通部分は $S^2\times(R,\infty)$ と同相で単連結である。Van Kampen の定理で、融合積が $\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus K)$ そのものになる。
$K$ はコンパクトなので、$K\subset\{|x|< R\}$ となる $R>1$ がある。$U:=\mathbb{R}^3\setminus K$、$V:=\{x\in\mathbb{R}^3\mid|x|>R\}\cup\{\infty\}$ とおくと、どちらも $S^3\setminus K$ の開集合で、$U\cup V=S^3\setminus K$、$U\cap V=\{|x|>R\}$ である。
$V$ は、上の式により $S^3$ の開いた極冠 $\{x\in S^3\mid x_4>c\}$($c=(R^2-1)/(R^2+1)$)と同相である。この極冠は $(x_1,x_2,x_3)$ への射影により $\mathbb{R}^3$ の開球と同相なので、$V$ は可縮であり単連結である。$U\cap V$ は $(y,\lambda)\mapsto\lambda y$ により $S^2\times(R,\infty)$ と同相で、$S^2$ は単連結(n次元球面 の定理「基本群の値」)、$(R,\infty)$ は可縮なので、基本群 の命題「直積の基本群」により単連結である。$U$ は lem-knot-complement-connected により弧状連結であり、$V$、$U\cap V$ も弧状連結である。
Van Kampenの定理 により、$x_0\in U\cap V$ について $\pi_1(S^3\setminus K,x_0)\cong\pi_1(U,x_0)\ast_{\pi_1(U\cap V,x_0)}\pi_1(V,x_0)=\pi_1(U,x_0)\ast_{1}1\cong\pi_1(U,x_0)$ であり、この同型は包含 $U\hookrightarrow S^3\setminus K$ が誘導する準同型である。$\square$
$S^3$ の中の 2 つの大円
$$
C_1:=\{(z,0)\mid|z|=1\},\qquad C_2:=\{(0,w)\mid|w|=1\}
$$
を考える。$C_1$ は $N$ を通らず、$\sigma(C_1)=\{(x_1,x_2,0)\mid x_1^2+x_2^2=1\}=K_0$ は $xy$ 平面の単位円である。$C_2$ は $N$ を通り、$\sigma(C_2\setminus\{N\})$ は $x_3$ 軸である($\sigma(0,0,\cos\theta,\sin\theta)=(0,0,\cos\theta/(1-\sin\theta))$)。
$S^3$ の点で $|w|\ne0$ のもの、すなわち $|z|< 1$ のものに対し、$0\le v\le1$ について
$$
F_v(z,w):=\Bigl(\sqrt{1-v}\,z,\ \mu_v\,w\Bigr),\qquad \mu_v:=\sqrt{\frac{1-(1-v)|z|^2}{1-|z|^2}}
$$
とおく。$|\sqrt{1-v}\,z|^2+|\mu_vw|^2=(1-v)|z|^2+1-(1-v)|z|^2=1$ なので $F_v$ は $S^3$ に値をとり、$(z,w,v)$ について連続である。$F_0=\operatorname{id}$、$F_1(z,w)=(0,w/|w|)\in C_2$ であり、$z=0$ の点は動かない。さらに $F_v$ は $w$ の偏角 $w/|w|$ を変えず、$|z|^2$ を $(1-v)$ 倍に縮める。
$S^3\setminus C_1$ は $C_2$ を強変位レトラクトにもつ。したがって
$$
\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus K_0)\cong\pi_1(S^3\setminus C_1)\cong\mathbb{Z}
$$
であり、同型は $(z,w)\mapsto w/|w|\in S^1$ の回転数で与えられる。自明な結び目の結び目群は無限巡回群である。
$S^3\setminus C_1=\{(z,w)\in S^3\mid w\ne0\}$ であり、上の $F_v$ はこの集合の中で動き($\mu_vw\ne0$)、$C_2$ を止めたまま恒等写像から $F_1$ へ変形する。よって $C_2$ は $S^3\setminus C_1$ の強変位レトラクトであり(変位レトラクト)、包含 $C_2\hookrightarrow S^3\setminus C_1$ はホモトピー同値で、$F_1$ がそのホモトピー逆写像である(変位レトラクト の命題「変位レトラクトはホモトピー同値」)。$C_2\cong S^1$ を $(0,w)\mapsto w$ で同一視すると $F_1$ は $(z,w)\mapsto w/|w|$ であり、基本群 の命題「ホモトピー不変性」の 2 と同記事の定理「円周の基本群」により、$\pi_1(S^3\setminus C_1)\cong\mathbb{Z}$ で、同型は $w/|w|$ の回転数である。
同一視 $S^3=\mathbb{R}^3\cup\{\infty\}$ のもとで $S^3\setminus C_1=S^3\setminus K_0$ なので、lem-knot-r3-s3 により $\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus K_0)\cong\mathbb{Z}$ である。自明な結び目は $K_0$ と同値なので、prop-knot-group-invariant により結び目群は $\mathbb{Z}$ と同型である。$\square$
同じ計算で、$S^3\setminus C_2$ は $C_1$ を強変位レトラクトにもつ($z$ と $w$ の役割を入れ替える)。$S^3$ は $\{|z|^2\le\frac12\}$ と $\{|z|^2\ge\frac12\}$ の 2 つのソリッドトーラス(円板と円周の直積 $D^2\times S^1$ と同相な空間)の和であり、$C_2$ と $C_1$ はそれぞれの芯である。2 つの共通部分はトーラス
$$
T:=\{(z,w)\in S^3\mid |z|^2=|w|^2=\tfrac12\}
$$
で、$(\alpha,\beta)\mapsto(e^{i\alpha},e^{i\beta})/\sqrt2$ により $\mathbb{R}^2/(2\pi\mathbb{Z})^2$ と同相である。この分解は レンズ空間 の注意「Heegaard 分解と Dehn 手術」に現れる分解と同じものである。
$p,q$ を互いに素な正の整数とする。
$$
k_{p,q}\colon\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z}\to T\subset S^3,\qquad k_{p,q}(\theta):=\tfrac1{\sqrt2}\bigl(e^{ip\theta},\ e^{iq\theta}\bigr)
$$
の像を $K_{p,q}\subset S^3$ とし、$T_{p,q}:=\sigma(K_{p,q})\subset\mathbb{R}^3$ を $(p,q)$ 型のトーラス結び目 という($K_{p,q}$ は $|z|^2=\frac12$ の上にあるので $N$ を通らない)。$T_{2,3}$ を 三葉結び目(trefoil)という。
$k_{p,q}$ は滑らかな埋め込みであり、$T_{p,q}$ は def-knot の意味の結び目である。トーラスの座標 $(\alpha,\beta)$ で見ると、$K_{p,q}$ は傾き $(p,q)$ の直線 $\{\theta(p,q)\}$ の像である。
要点:$pb-qa=1$ となる整数 $a,b$ を使うと、$p(\theta-\theta')$ と $q(\theta-\theta')$ がともに $2\pi$ の整数倍なら $\theta-\theta'$ も $2\pi$ の整数倍になる。
微分 $k_{p,q}'(\theta)=\frac{i}{\sqrt2}(pe^{ip\theta},qe^{iq\theta})$ は $0$ でない。$k_{p,q}(\theta)=k_{p,q}(\theta')$ とすると $p(\theta-\theta')$ と $q(\theta-\theta')$ はともに $2\pi$ の整数倍である。$p,q$ は互いに素なので $pb-qa=1$ となる整数 $a,b$ があり、$\theta-\theta'=b\cdot p(\theta-\theta')-a\cdot q(\theta-\theta')\in2\pi\mathbb{Z}$ である。よって $k_{p,q}$ は $\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z}$ の上で単射であり、コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な単射として位相的埋め込みである。$\sigma$ は $S^3\setminus\{N\}$ から $\mathbb{R}^3$ への微分同相写像なので、$\sigma\circ k_{p,q}$ も単射なはめ込みである。$\square$
$p,q$ を互いに素な正の整数とすると
$$
\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus T_{p,q})\cong\pi_1(S^3\setminus K_{p,q})\cong\langle a,b\mid a^p=b^q\rangle
$$
である。ここで $a$ は芯 $C_1$ を、$b$ は芯 $C_2$ を一周する道の類に対応する。
$K:=K_{p,q}$、$X:=S^3\setminus K$、$r(z,w):=|z|^2$ とおく。$0< r< 1$ の点に対し、トーラス $T$ への「動径方向の射影」
$$
\pi_T(z,w):=\tfrac1{\sqrt2}\Bigl(\frac{z}{|z|},\ \frac{w}{|w|}\Bigr)\in T
$$
は連続である。$0<\varepsilon<\frac12$ を固定する。
手順 1(トーラスから結び目を除いた部分):$pb-qa=1$ となる整数 $a,b$ をとる。行列 $A=\begin{pmatrix}p&a\\ q&b\end{pmatrix}$ は $\det A=1$ で $A\mathbb{Z}^2=\mathbb{Z}^2$ なので、$(s,u)\mapsto A(s,u)^{\top}$ は $\mathbb{R}^2/(2\pi\mathbb{Z})^2$ の同相写像を誘導し、$\{u\equiv0\}$ を $K$ の座標表示 $\{\theta(p,q)\}$ に写す。よって $T\setminus K$ は $(\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z})\times(0,2\pi)$、すなわち開いた円環と同相であり、弧状連結で、その基本群は無限巡回群で、ループ
$$
\gamma(\theta):=\tfrac1{\sqrt2}\bigl(e^{i(p\theta+\pi a)},\ e^{i(q\theta+\pi b)}\bigr)\qquad(0\le\theta\le2\pi)
$$
($u=\pi$ の円周)の類が生成元である。$\gamma$ の $z$ 成分の偏角は $p$ 回、$w$ 成分の偏角は $q$ 回まわる。
手順 2(開被覆):
$$
O_U:=\{x\in S^3\mid 0< r(x)<\tfrac12+\varepsilon,\ \pi_T(x)\notin K\},\qquad O_V:=\{x\in S^3\mid \tfrac12-\varepsilon< r(x)< 1,\ \pi_T(x)\notin K\}
$$
は、開集合の上の連続写像による開集合 $T\setminus K$ の逆像なので開集合である。$U:=\{r<\frac12\}\cup O_U$、$V:=\{r>\frac12\}\cup O_V$ とおくと、$U,V$ は $S^3$ の開集合で、$K$ の点は $r=\frac12$、$\pi_T=\mathrm{id}$ をみたすので $U,V\subset X$ である。$X$ の点 $x$ は、$r(x)<\frac12$ なら $U$ に、$r(x)>\frac12$ なら $V$ に入り、$r(x)=\frac12$ なら $\pi_T(x)=x\notin K$ なので両方に入る。よって $X=U\cup V$ である。共通部分を計算すると
$$
W:=U\cap V=\{x\mid \tfrac12-\varepsilon< r(x)<\tfrac12+\varepsilon,\ \pi_T(x)\notin K\}
$$
であり、$x\mapsto(\pi_T(x),r(x))$ は $W$ から $(T\setminus K)\times(\frac12-\varepsilon,\frac12+\varepsilon)$ への同相写像である(逆写像は $((y_1,y_2),\rho)\mapsto(\sqrt{2\rho}\,y_1,\sqrt{2(1-\rho)}\,y_2)$)。したがって $W$ は弧状連結で、$\pi_1(W)$ は $\gamma$ の類 $c$ で生成される無限巡回群である。
手順 3($U$ と $V$ を芯に縮める):$U\subset\{r<1\}$ なので、$S^3\setminus C_1$ の上で定めた $F_v$ を $U$ に制限できる。$F_v$ は $\pi_T$ を変えずに $r$ を $(1-v)$ 倍にする。$x\in U$ で $F_v(x)$ の $r$ が $\frac12$ 以上なら、もとの $x$ も $r(x)\ge\frac12$ で $x\in O_U$、したがって $\pi_T(F_v(x))=\pi_T(x)\notin K$ であり、$F_v(x)\in O_U$ である。$r$ が $\frac12$ 未満なら $F_v(x)\in U$ は明らかである。よって $F_v$ は $U$ の中で動き、$C_2\subset U$ は $U$ の強変位レトラクトである。thm-knot-unknot-group の証明と同様に、$\rho_U(z,w):=w/|w|$ は同型 $\pi_1(U)\to\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ を誘導する。$z$ と $w$ の役割を入れ替えると、$C_1$ は $V$ の強変位レトラクトで、$\rho_V(z,w):=z/|z|$ は同型 $\pi_1(V)\to\mathbb{Z}$ を誘導する。とくに $U,V$ は弧状連結である。
手順 4(Van Kampen の定理):基点を $x_0:=\gamma(0)\in W$ とし、$\pi_1(U,x_0)$ の生成元で $\rho_U$ の回転数が $1$ のものを $b$、$\pi_1(V,x_0)$ の生成元で $\rho_V$ の回転数が $1$ のものを $a$ とする。手順 1 により $\rho_U\circ\gamma$ の回転数は $q$、$\rho_V\circ\gamma$ の回転数は $p$ なので、包含が誘導する準同型は $c\mapsto b^q\in\pi_1(U)$、$c\mapsto a^p\in\pi_1(V)$ である。Van Kampenの定理 の系「群の表示による記述」により
$$
\pi_1(X,x_0)\cong\langle a,b\mid a^p=b^q\rangle
$$
である。最後に、同一視 $S^3=\mathbb{R}^3\cup\{\infty\}$ のもとで $X=S^3\setminus T_{p,q}$ なので、lem-knot-r3-s3 により $\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus T_{p,q})\cong\pi_1(X)$ である。$\square$
同じ群の計算は Hat02 Example 1.24(pp. 47–49)にある。そこでは補空間を 2 つの写像柱の和である 2 次元複体に変形してから Van Kampen の定理を当てている。
三葉結び目 $T_{2,3}$ は自明な結び目と同値でない。より一般に、$p,q\ge2$ ならば $T_{p,q}$ は自明な結び目と同値でない。
$G:=\langle a,b\mid a^2=b^3\rangle$ とする。対称群 $S_3$ の互換 $\alpha=(1\,2)$ と巡回置換 $\beta=(1\,2\,3)$ は $\alpha^2=1=\beta^3$ をみたすので、$a\mapsto\alpha$、$b\mapsto\beta$ は準同型 $\phi\colon G\to S_3$ を定める(群の表示 の命題「表示からの準同型」)。$\phi$ の像は位数 $2$ の元と位数 $3$ の元を含むので、その位数は $6$ の倍数であり、$\phi$ は全射である。$S_3$ は可換でないので($\alpha\beta\ne\beta\alpha$)、$G$ も可換でない。thm-knot-torus-group により $T_{2,3}$ の結び目群は $G$ と同型であり、thm-knot-unknot-group により自明な結び目の結び目群は可換群 $\mathbb{Z}$ と同型である。prop-knot-group-invariant により、2 つは同値でない。
一般の $p,q\ge2$ では、$a\mapsto\bar a$、$b\mapsto\bar b$ が $\langle a,b\mid a^p=b^q\rangle$ から自由積 $\mathbb{Z}/p\ast\mathbb{Z}/q$($\bar a,\bar b$ はそれぞれの生成元)への全射準同型を定める($\bar a^p=1=\bar b^q$)。自明でない群の自由積は可換でないので(自由積 の命題「非自明な群の自由積は無限非可換群」)、結び目群は可換でなく、同じ議論で $T_{p,q}$ は自明な結び目と同値でない。$\square$
逆に $q=1$ なら $\langle a,b\mid a^p=b\rangle$ は $b$ を消去して $\langle a\mid\ \rangle\cong\mathbb{Z}$ となり、結び目群は自明な結び目のものと区別がつかない。さらに、$p,q\ge2$ のとき群 $\langle a,b\mid a^p=b^q\rangle$ から組 $\{p,q\}$ が決まる(この記事では証明しない。Hat02 Example 1.24、p. 48 は、中心が $a^p$ で生成されることから中心で割った群 $\mathbb{Z}/p\ast\mathbb{Z}/q$ を取り出し、その可換化の位数 $pq$ と、ねじれ元の位数の最大値 $\max\{p,q\}$ を使う。自由積の中心が自明であることと、ねじれ元が因子の有限位数の元の共役に限ることは同書 §1.2 Exercise 1、p. 52 である)。したがって $\{p,q\}\ne\{p',q'\}$($p,q,p',q'\ge2$)なら $T_{p,q}$ と $T_{p',q'}$ は同値でない。
結び目を平面に射影し、交差点で上下の情報を書き込んだ図を 結び目の図式 という。図式の各弧(下をくぐるたびに切れる線の断片)に生成元を 1 つ、各交差に関係式を 1 つ対応させると、結び目群の表示が得られる。これを Wirtinger 表示 という(Van Kampenの定理 の注意「Wirtinger表示への応用」、Hat02 §1.2 Exercise 22、p. 55)。Hat02 の同演習は、机の上にほぼ平らに置いた結び目の補空間が 2 次元複体に変形レトラクトすることを認めたうえで、その複体の胞体の貼り合わせから同じ形の表示(図式を下から見たときの弧に生成元を対応させたもの)を導く。
結び目群はそれ自体を比べるのが難しいので、そこから計算しやすい量を取り出して使う。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 周りの空間ごと同相写像で動かすこと(写像のホモトピーに弱める) | 三葉結び目と自明な結び目(prop-knot-homotopy によりホモトピック) | 移り合う 2 つの結び目の結び目群が同型であること |
| $p,q$ が互いに素であること | $(p,q)=(2,2)$ の $k_{2,2}$ | $k_{p,q}$ が単射であること($k_{2,2}(\theta+\pi)=k_{2,2}(\theta)$ で、2 対 1 の写像になる) |
| $p,q\ge2$ であること | $T_{p,1}$ | 結び目群が可換でないこと($\langle a,b\mid a^p=b\rangle\cong\mathbb{Z}$) |
| 結び目群そのものを使うこと(可換化に替える) | 三葉結び目と自明な結び目 | 2 つを区別できること(可換化はどちらも $\mathbb{Z}$) |
1 行目:prop-knot-homotopy により、2 つの結び目のパラメータ表示は写像としてホモトピックである。一方、cor-knot-trefoil により結び目群は同型でない。prop-knot-group-invariant が使うのは、周りの空間の同相写像が補空間を補空間に写すことであり、写像のホモトピーではこれが成り立たない(途中で結び目が自分自身と交わってよいので、補空間は保たれない)。
2 行目:$k_{2,2}(\theta)=\frac1{\sqrt2}(e^{2i\theta},e^{2i\theta})$ なので $k_{2,2}(\theta+\pi)=k_{2,2}(\theta)$ である。像は $k_{1,1}$ の像と一致する。lem-torus-knot-embedding の証明で互いに素を使ったのは、$pb-qa=1$ となる整数をとる箇所である。
3 行目:$b=a^p$ を代入して $b$ を消去すると、生成元 $a$ だけで関係式のない群、すなわち $\mathbb{Z}$ になる(群の表示 の定理「Tietzeの定理」の操作)。
4 行目:可換化については上の「可換化は役に立たない」の項を参照。三葉結び目の結び目群は可換でないが、その可換化は自明な結び目の群 $\mathbb{Z}$ と同型である。
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