Lp空間の反射性(reflexivity of Lp spaces)とは、σ-有限な測度空間上の実数値の $L^p$ 空間が反射的 Banach 空間になるかどうかについての結果で、$1<p<\infty$ なら $L^p$ はつねに反射的である。これは Clarkson の不等式による一様凸性と Milman–Pettis の定理から従う。$p=1$ と $p=\infty$ では、$L^p$ が反射的であることは、測度空間が有限個の原子で覆われること、また $L^p$ が有限次元であることと同値である。そうでない場合は互いに交わらない測度正で有限の集合の列から $\ell^1$・$\ell^\infty$ の写しが作れるので、$L^1(0,1)$ や $\ell^1$ は反射的でない。
前提知識: Lp空間, 反射的Banach空間, 一様凸Banach空間
Banach 空間 $E$ が反射的であるとは、評価写像 $J\colon E\to E^{**}$ が全射であることをいう(反射的Banach空間 の記事の定義「反射的Banach空間」)。反射的な空間では有界列から弱収束する部分列がとれ、閉凸集合への最近点が存在する。変分問題で最小値の存在を示すときに、この性質が使われる。
$L^p$ 空間の反射性は、指数 $p$ によってはっきり分かれる。
以下、$(X,\mathcal F,\mu)$ を σ-有限な測度空間とし、関数はすべて実数値とする。σ-有限とは、測度有限な可測集合の列 $\Omega_1\subset\Omega_2\subset\cdots$ で $X=\bigcup_n\Omega_n$ となるものがあることである。$L^p=L^p(\mu)$ は Lp空間 の記事の定義「$L^p$ 空間」のとおりで、$1\le p\le\infty$ で Banach 空間である。
可測集合 $A$ が $\mu$ の原子(atom)であるとは、$\mu(A)>0$ であり、$A$ に含まれる任意の可測集合 $B$ について $\mu(B)=0$ または $\mu(A\setminus B)=0$ が成り立つことをいう。$X$ が有限個の原子で覆われるとは、有限個($0$ 個も許す)の原子 $A_1,\dots,A_m$ があって $\mu\bigl(X\setminus\bigcup_{i=1}^mA_i\bigr)=0$ となることをいう。可測集合 $C$ についても、$\mu$ を $C$ に制限して同じ言い方をする。
$m=0$ は $\mu(X)=0$ の場合である。有限集合上の数え上げ測度では各 1 点集合が原子で、全体は有限個の原子で覆われる。$\mathbb N$ 上の数え上げ測度では各 1 点集合が原子だが、有限個では覆えない。Lebesgue 測度には原子がない(ex-lpr-lebesgue)。
$A$ を原子とする。
1:$A=\bigcup_n(A\cap\Omega_n)$ なので、ある $n$ で $\mu(A\cap\Omega_n)>0$ である(そうでなければ $\mu(A)=0$)。原子の定義から $\mu(A\setminus\Omega_n)=0$ であり、$\mu(A)=\mu(A\cap\Omega_n)\le\mu(\Omega_n)<\infty$ となる。
2:$A$ に含まれる可測集合 $B$ の測度は、原子の定義と 1 から $0$ か $\mu(A)$ のどちらかである。有理数 $q$ のうち $\mu(A\cap\{f< q\})=\mu(A)$ となるもの全体を $D$ とする。$A\cap\{f< n\}$ は $n\to\infty$ で $A$ に増加するので、測度の連続性からある $n$ で測度が正、したがって $\mu(A)$ になり、$D$ は空でない。$A\cap\{f<-n\}$ は空集合に減少し、測度は有限なので $0$ に近づくから、ある $n$ で $0$ になる。$q\le-n$ なら $q\notin D$ なので、$D$ は下に有界である。$c=\inf D\in\mathbb R$ とおく。
$q< c$ の有理数 $q$ は $D$ に入らないので $\mu(A\cap\{f< q\})=0$ であり、$\{f< c\}$ はそれらの $\{f< q\}$ の可算個の和だから $\mu(A\cap\{f< c\})=0$ である。$q> c$ の有理数 $q$ には $q_0\in D$、$q_0< q$ があるので $\mu(A\cap\{f< q\})=\mu(A)$、すなわち $\mu(A\cap\{f\ge q\})=0$ であり、$\{f> c\}$ はそれらの $\{f\ge q\}$ の可算個の和だから $\mu(A\cap\{f> c\})=0$ である。よって $A$ の上でほとんどいたるところ $f=c$ である。$\square$
$1< p<\infty$ なら、$L^p$ は反射的である。
Clarksonの不等式 の記事の系「$L^p$ の一様凸性」により、$L^p$ は一様凸 Banach 空間である($p\ge2$ では第一不等式、$1< p\le2$ では第二不等式による)。一様凸Banach空間 の記事の定理「Milman–Pettisの定理」により、一様凸 Banach 空間は反射的である。$\square$
この証明は $L^p$ の双対空間を具体的に知る必要がない。反射的Banach空間 の記事の例「$1< p<\infty$ の $L^p$ 空間」は、逆に双対空間の記述 $(L^p)^*\cong L^{p'}$ から反射性を導いている。Lp空間の双対 はこの記事の定理を使って双対空間の記述を導くので、そちらと組み合わせるときは、ここでの一様凸性による証明をとる。
$1< p<2$ の場合には、第二不等式を使わずに第一不等式だけで済ませる方法もある。
$p\ge2$ では第一不等式で一様凸性が分かり、$L^p$ は反射的である。$1< p<2$ とすると $p'>2$ なので $L^{p'}$ は反射的であり、その双対 $(L^{p'})^*$ も反射的である(反射的Banach空間 の記事の定理「双対空間の反射性」)。$u\in L^p$ に汎関数 $f\mapsto\int uf\,d\mu$($f\in L^{p'}$)を対応させる写像 $T\colon L^p\to(L^{p'})^*$ は線形な等長写像である(Lp空間の双対 の命題「積分による等長埋め込み」)。$L^p$ は完備なので像 $T(L^p)$ は閉部分空間であり、反射的な空間の閉部分空間として反射的である(反射的Banach空間 の記事の定理「閉部分空間の反射性」)。$T\colon L^p\to T(L^p)$ は全射な線形等長写像なので、その逆写像に同記事の命題「等長同型による不変性」を使えば $L^p$ も反射的である。
$X$ が $m$ 個の原子で覆われるなら、$1\le p\le\infty$ について $L^p$ の次元は $m$ 以下である。とくに $L^p$ は反射的である。
$\mu(X\setminus\bigcup_iA_i)=0$ となる原子 $A_1,\dots,A_m$ をとり、$B_1=A_1$、$B_i=A_i\setminus(A_1\cup\dots\cup A_{i-1})$ とおく。$B_i$ は互いに交わらず、$\mu(B_i)=0$ でなければ原子である($B_i$ の可測部分集合 $C$ について、$A_i$ が原子なので $\mu(C)=0$ または $\mu(A_i\setminus C)=0$ であり、後者なら $\mu(B_i\setminus C)=0$)。$f\in L^p$ をとると、lem-lpr-atom により、測度正の各 $B_i$ の上で $f$ はほとんどいたるところある定数 $c_i$ に等しい。したがって $L^p$ の元として $f=\sum_ic_i1_{B_i}$(和は測度正の $B_i$ にわたる)であり、$L^p$ は高々 $m$ 個の元 $1_{B_i}$ で張られる。有限次元のノルム空間は反射的である(反射的Banach空間 の記事の例「有限次元のノルム空間」)。$\square$
$\mu(X)=0$($m=0$)なら $L^p=\{0\}$ であり、これも反射的である。
原子で覆えないときは、互いに交わらない「大きさのある」集合が無限個とれる。
$X$ が有限個の原子で覆われないなら、互いに交わらない可測集合の列 $E_1,E_2,\dots$ で $0<\mu(E_n)<\infty$ を満たすものがある。
$D_1=\Omega_1$、$D_n=\Omega_n\setminus\Omega_{n-1}$ とおくと、$D_n$ は互いに交わらず測度有限で、和は $X$ である。測度正の $D_n$ が無限個あれば、それらを $E_n$ とすればよい。
測度正の $D_n$ が有限個なら、それらの和 $C_1$ は測度有限で $\mu(X\setminus C_1)=0$ である。$X$ が有限個の原子で覆われないので、$C_1$ も覆われない。一般に、測度有限な $C$ が有限個の原子で覆われないとき、$C$ は零集合でも原子でもない(どちらも $0$ 個または $1$ 個の原子で覆われる)。よって $B\subset C$ で $\mu(B)>0$、$\mu(C\setminus B)>0$ となるものがある。$B$ と $C\setminus B$ がともに有限個の原子で覆われるなら $C$ も覆われるので、少なくとも一方は覆われない。
これを繰り返す。$C_k$ が測度有限で有限個の原子で覆われないとき、上のように $C_k$ を 2 つに分け、覆われない方を $C_{k+1}$、他方を $E_k$ とする。$0<\mu(E_k)<\infty$ であり、$E_k\subset C_k\setminus C_{k+1}$、$C_{k+1}\subset C_k$ なので、$j< k$ なら $E_k\subset C_k\subset C_{j+1}$ は $E_j$ と交わらない。$\square$
$E_1,E_2,\dots$ を互いに交わらない可測集合で $0<\mu(E_n)<\infty$ とする。
$E_n$ は互いに交わらないので、各点で和の $0$ でない項は高々 1 つであり、和は部分和の各点の極限として可測関数を定める。線形性は明らかである。
1:$|\Phi_p(c)|^p=\sum_n|c_n|^p\mu(E_n)^{-1}1_{E_n}$ であり、単調収束定理(Lebesgue積分 の記事の定理「単調収束定理」)から $\int|\Phi_p(c)|^p\,d\mu=\sum_n|c_n|^p\mu(E_n)^{-1}\mu(E_n)=\|c\|_p^p$ である。
2:各点で $|\Phi_\infty(c)|\le\sup_n|c_n|$ なので $\|\Phi_\infty(c)\|_\infty\le\|c\|_\infty$ である。一方、各 $n$ について $E_n$ の上で $|\Phi_\infty(c)|=|c_n|$ で $\mu(E_n)>0$ だから、$\|\Phi_\infty(c)\|_\infty\ge|c_n|$ である。よって $\|\Phi_\infty(c)\|_\infty=\|c\|_\infty$ である。
完備な空間 $\ell^p$ の等長像は完備なので、閉じている。$\square$
$p=1$ または $p=\infty$ とする。次の 3 条件は同値である。
3 ⇒ 2 は prop-lpr-finite-atoms であり、2 ⇒ 1 は有限次元のノルム空間が反射的であることによる(反射的Banach空間 の記事の例「有限次元のノルム空間」)。
1 ⇒ 3 を対偶で示す。$X$ が有限個の原子で覆われないとすると、lem-lpr-disjoint の $E_n$ と lem-lpr-sequence-copy により、$L^p$ は $\ell^p$ と等長同型な閉部分空間 $\Phi_p(\ell^p)$ を含む。$L^p$ が反射的なら、閉部分空間 $\Phi_p(\ell^p)$ も反射的であり(反射的Banach空間 の記事の定理「閉部分空間の反射性」)、全射な線形等長写像 $\Phi_p^{-1}\colon\Phi_p(\ell^p)\to\ell^p$ により $\ell^p$ も反射的になる(同記事の命題「等長同型による不変性」)。ところが $\ell^1$ と $\ell^\infty$ は反射的でない(ℓp空間 の記事の系「反射性」)。これは矛盾である。$\square$
証明の途中で、$X$ が有限個の原子で覆われないなら、どの $1\le p\le\infty$ でも $L^p$ は無限次元の $\ell^p$ を含むことも分かった。したがって、$L^p$ が有限次元であるかどうかは $p$ によらず、$X$ が有限個の原子で覆われるかどうかだけで決まる。
まとめると、σ-有限な測度空間上の $L^p$($1\le p\le\infty$)が反射的であるための必要十分条件は、「$1< p<\infty$」または「$X$ が有限個の原子で覆われる」ことである。
$\Omega\subset\mathbb R^N$ を Lebesgue 可測集合で、Lebesgue 測度 $\lambda(\Omega)>0$ とする。このとき $L^1(\Omega)$ と $L^\infty(\Omega)$ は反射的でない。
実際、$Q_n=[-n,n]^N$ とすると $\lambda(\Omega\cap Q_n)$ は $\lambda(\Omega)>0$ に増加するので、ある $n$ で $M=\lambda(\Omega\cap Q_n)$ は正で有限である。$H(t)=\lambda\bigl(\Omega\cap Q_n\cap\{x_1< t\}\bigr)$ とおくと、$s< t$ について $0\le H(t)-H(s)\le\lambda\bigl(Q_n\cap\{s\le x_1< t\}\bigr)\le(2n)^{N-1}(t-s)$ なので $H$ は連続で単調非減少であり、$H(-n)=0$、$H(n+1)=M$ である。中間値の定理により $H(t_k)=M(1-2^{-k})$ となる $t_k$($k\ge1$)がとれ、$t_0=-n$ とおくと $t_0< t_1< t_2<\cdots$ である。$E_k=\Omega\cap Q_n\cap\{t_{k-1}\le x_1< t_k\}$ は互いに交わらず、$\lambda(E_k)=H(t_k)-H(t_{k-1})=M2^{-k}>0$ である。lem-lpr-sequence-copy と thm-lpr-endpoint の証明の後半により、$L^1(\Omega)$ と $L^\infty(\Omega)$ は反射的でない。$\lambda(\Omega)=0$ なら $L^p(\Omega)=\{0\}$ で、これは反射的である。
同じ議論で、測度正の可測集合はどれも原子でない(測度が真に間の値をとる部分集合 $E_1$ がとれる)ので、Lebesgue 測度には原子がない。
$\mathbb N$ 上の数え上げ測度では $L^p=\ell^p$ であり、各 1 点集合 $\{n\}$ は測度 $1$ の原子である。原子が無限個あり、有限個では覆えない。thm-lpr-main により $1< p<\infty$ の $\ell^p$ は反射的であり、$\ell^1$ と $\ell^\infty$ は反射的でない(ℓp空間 の記事の系「反射性」。thm-lpr-endpoint の証明はこの事実を使っている)。$\{1,\dots,m\}$ 上の数え上げ測度では、すべての $1\le p\le\infty$ で $L^p=\mathbb R^m$ であり反射的である。
反射的な Banach 空間では、有界列は弱収束する部分列をもつ(反射的Banach空間 の記事の定理「有界列の弱収束部分列」)。thm-lpr-main と合わせると、$1< p<\infty$ の $L^p$ の有界列は弱収束する部分列をもつ。$L^1$ ではこれが成り立たないことを、具体的な列で確かめられる。
$u_n=n\,1_{(0,1/n)}$ は $L^1(0,1)$ で $\|u_n\|_1=1$ を満たすが、弱収束する部分列をもたない。
部分列 $u_{n_k}$ がある $u\in L^1(0,1)$ に弱収束したとする。$g\in L^\infty(0,1)$ について $f\mapsto\int_0^1fg$ は $L^1(0,1)$ 上の連続線形汎関数なので(Lp空間 の記事の定理「Hölderの不等式」)、$\int_0^1u_{n_k}g\to\int_0^1ug$ である。$0< a<1$ とし、$g=\operatorname{sign}(u)\,1_{(a,1)}$($\operatorname{sign}0=0$)をとる。$n_k>1/a$ なら $u_{n_k}g=0$ なので、極限で $\int_a^1|u|=\int_0^1ug=0$ である。$a\downarrow0$ として単調収束定理を使うと $\int_0^1|u|=0$、すなわち $u=0$(ほとんどいたるところ)である。一方 $g=1$ をとると $\int_0^1u_{n_k}=1$ なので $\int_0^1u=1$ となり、矛盾する。
列 $u_n$ は質量 $1$ を $0$ の近くに集中させていく。$L^p$($1< p<\infty$)では、ノルムが有界なまま質量を 1 点に集めることはできず($\|u_n\|_p^p=n^{p-1}\to\infty$)、反射性がこの集中を防いでいる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $1< p$($p=1$ にする) | $L^1(0,1)$ | 反射性(thm-lpr-main) |
| $p<\infty$($p=\infty$ にする) | $L^\infty(0,1)$ | 反射性(thm-lpr-main) |
| 有限個の原子で覆われること($p=1$) | $\mathbb N$ 上の数え上げ測度の $\ell^1$ | 反射性(prop-lpr-finite-atoms) |
| $1< p$($p=1$ にする) | $L^1(0,1)$ の $u_n=n\,1_{(0,1/n)}$ | 有界列の弱収束部分列 |
1・2 行目は ex-lpr-lebesgue、3 行目は ex-lpr-counting、4 行目は ex-lpr-concentration で確かめた。3 行目の測度空間は無限個の原子をもつ。原子の個数を有限にすると反射性が戻る(prop-lpr-finite-atoms)。
$1< p<\infty$ での反射性は Bre11 Theorem 4.10(pp. 95–97)にある。そこでは $p\ge2$ を第一不等式による一様凸性で示し、$1< p<2$ を rem-lpr-first-only と同じ双対の議論で示している。第二不等式による $1< p\le2$ の一様凸性は同書 Remark 3(p. 97)にある。$L^1$ が有限個の原子からなる場合を除いて反射的でないことは同書 Remark 6(p. 101)に、$L^\infty$ について同じことは p. 102 にある。Remark 6 の証明は、測度の小さい集合の減少列による議論と、純粋に原子的な場合を $\ell^1$ に帰着する議論とに場合を分けている。この記事では、どちらの場合も lem-lpr-disjoint でとった互いに交わらない集合の列から $\ell^1$・$\ell^\infty$ の写しを作る形にまとめた。
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