特異積分作用素

同義語:singular integral operatorCalderón–Zygmund作用素Calderón–Zygmund operator

概要

特異積分作用素(singular integral operator)とは、$L^2(\mathbb{R}^n)$ 上の有界線形作用素で、台がコンパクトな関数には台の外で、大きさの条件 $|K(x)|\le A|x|^{-n}$ と Hörmander の条件を満たす核 $K$ による積分 $\int K(x-y)f(y)\,dy$ で表されるものである。核は原点の近くで積分可能とは限らないが、Calderón–Zygmund 分解により、この作用素は弱 $(1,1)$ 型であり、$1<p<\infty$ で $L^p$ 有界になる。例は Hilbert 変換で、核を $\varepsilon<|x|<R$ に切り落とした作用素は $\varepsilon,R$ によらない定数で $L^p$ 有界になるが、$p=1,\infty$ ではそうならない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Lp空間, Hardy–Littlewoodの極大関数, Marcinkiewiczの補間定理, Plancherelの定理

特異積分作用素(singular integral operator)は、関数 $f$ に $\int K(x-y)f(y)\,dy$ の形の積分を施す作用素のうち、核 $K$ が原点で $|x|^{-n}$ 程度の特異性をもちうるために、積分が絶対収束するとは限らないものである。代表例は $\mathbb{R}$ の Hilbert 変換 $Hf(x)=\frac1\pi\,\mathrm{p.v.}\!\int\frac{f(y)}{x-y}\,dy$ で、コンパクトな台をもつ $C^1$ 級の $f$ では、$f$ と $Hf$ の上半平面への調和な拡張が互いに共役な調和関数になる(Bass24 Proposition 24.11、p. 359)。核は積分可能とは限らないので、$L^1$ の関数との畳み込みのような単純な評価は使えない。それでも、$L^2$ で有界であることと、核の滑らかさに関する Hörmander の条件の二つから、弱 $(1,1)$ 型評価と $1< p<\infty$ での $L^p$ 有界性が従う。これが Calderón–Zygmund の理論の中心の定理である。証明の鍵は、関数を「有界な部分」と「平均が $0$ の小さな塊の和」に分ける Calderón–Zygmund 分解 である。
以下、$\mathbb{R}^n$ の Lebesgue 測度を $|E|$、$L^p(\mathbb{R}^n)$ のノルムを $\|\cdot\|_p$ と書く。$L^2$ 上の有界作用素 $T$ の作用素ノルムを $\|T\|$ と書き、$\langle f,g\rangle:=\int f\overline g\,dx$ とする。可測関数 $f$ が コンパクトな台をもつ とは、あるコンパクト集合 $S$ の外でほとんど至るところ $f=0$ であることをいう。

定義

Calderón–Zygmund 核

可測関数 $K\colon\mathbb{R}^n\setminus\{0\}\to\mathbb{C}$ と定数 $A>0$ が次を満たすとき、$K$ を定数 $A$ の Calderón–Zygmund 核 という。

  1. (大きさの条件)すべての $x\ne0$ について $|K(x)|\le A|x|^{-n}$。
  2. (Hörmander の条件)すべての $y\ne0$ について $\displaystyle\int_{|x|\ge2|y|}|K(x-y)-K(x)|\,dx\le A$。
特異積分作用素

$T\colon L^2(\mathbb{R}^n)\to L^2(\mathbb{R}^n)$ を有界線形作用素、$K$ を Calderón–Zygmund 核とする。コンパクト集合 $S$ の外で $0$ となるすべての $f\in L^2$ について
$$ Tf(x)=\int_{\mathbb{R}^n}K(x-y)f(y)\,dy\qquad(\text{ほとんどすべての }x\notin S) $$
が成り立つとき、$T$ を核 $K$ の 特異積分作用素(Calderón–Zygmund 作用素)という。

$x\notin S$ なら $\delta:=\operatorname{dist}(x,S)>0$ で、$y\in S$ について $|K(x-y)|\le A\delta^{-n}$ である。$S$ は有界なので $f\in L^2$ は $S$ の上で可積分であり(Hölderの不等式)、右辺の積分は絶対収束する。一方 $x\in S$ では、$|K(z)|\sim|z|^{-n}$ が原点の近くで積分可能でないため、右辺は一般に意味をもたない。そこで $T$ は $L^2$ の作用素として与え、核は台の外での値だけを決めるものとする。とくに核は $T$ を決めない($T$ と $T+c\,\mathrm{Id}$ は同じ核をもつ)。

Hilbert 変換の切り落とし

$\mathbb{R}$ の上で $0<\varepsilon< R$ とし、$K_{\varepsilon,R}(x):=\dfrac{1_{\{\varepsilon<|x|< R\}}(x)}{\pi x}$、$H_{\varepsilon,R}f:=K_{\varepsilon,R}*f$($(K*f)(x)=\int K(x-y)f(y)\,dy$)とおく。$K_{\varepsilon,R}\in L^1$ なので、$H_{\varepsilon,R}$ は $L^2$ 上の有界作用素で(畳み込み の命題「$L^p$関数と$L^1$関数の畳み込み」)、定義の式は台の外に限らずすべての $x$ で成り立つ。問題は、$\varepsilon\to0$、$R\to\infty$ で評価の定数が保たれるかどうかである。

切り落とした核の Hörmander の条件

$k\colon\mathbb{R}\setminus\{0\}\to\mathbb{C}$ と $B>0$ が、$|k(x)|\le B/|x|$ と、$|x|\ge2|y|>0$ での $|k(x-y)-k(x)|\le B|y|/x^2$ を満たすとする。$0<\varepsilon< R$ について $k_{\varepsilon,R}:=k\cdot1_{\{\varepsilon<|x|< R\}}$ は定数 $5B$ の Calderón–Zygmund 核である。

証明を開く

大きさの条件は明らかである。$\chi:=1_{\{\varepsilon<|x|< R\}}$ とすると $k_{\varepsilon,R}(x-y)-k_{\varepsilon,R}(x)=\chi(x-y)\bigl(k(x-y)-k(x)\bigr)+\bigl(\chi(x-y)-\chi(x)\bigr)k(x)$ である。第 1 項の $|x|\ge2|y|$ での積分は $\int_{|x|\ge2|y|}B|y|x^{-2}\,dx=B$ 以下である。第 2 項が $0$ でないのは $|x|$ と $|x-y|$ の一方だけが $(\varepsilon,R)$ に入るときで、$\bigl||x|-|x-y|\bigr|\le|y|$ なので、そのとき $\bigl||x|-\varepsilon\bigr|\le|y|$ または $\bigl||x|-R\bigr|\le|y|$ である。それぞれの $x$ の集合の測度は $4|y|$ 以下で、そこでは $|k(x)|\le B/|x|$ である。$\varepsilon$ の側では、$\varepsilon\le3|y|$ なら $|x|\ge2|y|$ から $B/|x|\le B/(2|y|)$、$\varepsilon>3|y|$ なら $|x|\ge\varepsilon-|y|>2\varepsilon/3$ と $4|y|<4\varepsilon/3$ から、積分はどちらも $2B$ 以下である。$R$ の側も $R$ を $\varepsilon$ の代わりにして同じく $2B$ 以下である。合わせて $B+2B+2B=5B$ である。$\square$

切り落とした Hilbert 変換

$0<\varepsilon< R$ について、$H_{\varepsilon,R}$ は定数 $10/\pi$ の Calderón–Zygmund 核 $K_{\varepsilon,R}$ の特異積分作用素であり、$\|H_{\varepsilon,R}\|\le6/\pi$ である。どちらの定数も $\varepsilon,R$ によらない。

Fourier 変換で $L^2$ ノルムを測る

$k(x)=1/(\pi x)$ は $|k(x)|=1/(\pi|x|)$ を満たし、$|x|\ge2|y|$ なら $|x-y|\ge|x|/2$ なので $|k(x-y)-k(x)|=\frac{|y|}{\pi|x||x-y|}\le\frac{2|y|}{\pi x^2}$ である。lem-sio-truncation を $B=2/\pi$ で使うと $K_{\varepsilon,R}$ は定数 $10/\pi$ の Calderón–Zygmund 核である。
$L^2$ ノルムを評価する。$x$ と $-x$ の寄与をまとめ、$u=2\pi|\xi|x$ と置換すると、$\xi\ne0$ で
$$ \widehat{K_{\varepsilon,R}}(\xi)=\int_{\varepsilon<|x|< R}\frac{e^{-2\pi ix\xi}}{\pi x}\,dx=-\frac{2i}\pi\int_\varepsilon^R\frac{\sin2\pi x\xi}x\,dx=-\frac{2i}\pi\operatorname{sgn}(\xi)\int_{2\pi|\xi|\varepsilon}^{2\pi|\xi|R}\frac{\sin u}u\,du $$
であり、$\widehat{K_{\varepsilon,R}}(0)=0$ である。$0< a< b$ について $\bigl|\int_a^b\frac{\sin u}u\,du\bigr|\le3$ である。実際、$b\le1$ なら被積分関数は $1$ 以下なので $1$ 以下、$a\ge1$ なら部分積分 $\int_a^b\frac{\sin u}u\,du=\bigl[-\frac{\cos u}u\bigr]_a^b-\int_a^b\frac{\cos u}{u^2}\,du$ から $\frac1a+\frac1b+\bigl(\frac1a-\frac1b\bigr)\le2$ 以下、$a<1< b$ なら $[a,1]$ と $[1,b]$ に分けて $3$ 以下である。よって $|\widehat{K_{\varepsilon,R}}|\le6/\pi$ である。$f\in L^1\cap L^2$ なら $K_{\varepsilon,R}*f\in L^1\cap L^2$ で、Fubiniの定理 により $\widehat{K_{\varepsilon,R}*f}=\widehat{K_{\varepsilon,R}}\,\widehat f$ なので、Plancherelの定理 の定理「Plancherelの定理($\mathbb{R}^n$)」の 1 から
$$ \|H_{\varepsilon,R}f\|_2=\|\widehat{K_{\varepsilon,R}}\,\widehat f\|_2\le\frac6\pi\|\widehat f\|_2=\frac6\pi\|f\|_2 $$
である。$L^1\cap L^2$ は $L^2$ で稠密で $H_{\varepsilon,R}$ は $L^2$ 上連続なので、すべての $f\in L^2$ で同じ評価が成り立つ。$\square$

Cauchyの主値 の系「Dirichlet の正弦積分」により、$\varepsilon\to0$、$R\to\infty$ で $\widehat{K_{\varepsilon,R}}(\xi)\to-i\operatorname{sgn}(\xi)$ である。極限としての Hilbert 変換が、Fourier 変換の側で符号関数の定数倍を掛ける作用素になることは Bass24 Proposition 24.10(p. 358。Fourier 変換の正規化 $\int e^{iux}f(x)\,dx$ が異なるので、掛ける関数は $i\operatorname{sgn}(u)$ と書かれている)にあり、この記事では証明しない。

Calderón–Zygmund 分解

$k\in\mathbb{Z}$ について、$2^{-k}\bigl([0,1)^n+m\bigr)$($m\in\mathbb{Z}^n$)の形の立方体を $k$ 次の二進立方体 といい、その全体を $\mathcal{D}_k$、$\mathcal{D}:=\bigcup_k\mathcal{D}_k$ とする。$\mathcal{D}$ は可算である。各座標で $[m2^{-j},(m+1)2^{-j})$ が長さ $2^{-k}$ の $2^{k-j}$ 個の区間に分かれることから、$j\le k$ なら $\mathcal{D}_j$ の各立方体は $\mathcal{D}_k$ の立方体の交わらない和である。したがって、(a) 各 $\mathcal{D}_k$ は $\mathbb{R}^n$ の分割であり、(b) 二つの二進立方体は交わらないか一方が他方を含み、(c) $Q\in\mathcal{D}_k$ を含む $\mathcal{D}_{k-1}$ の立方体(親)$\widehat Q$ がただ一つあって $|\widehat Q|=2^n|Q|$ である。

Calderón–Zygmund 分解

$f\in L^1(\mathbb{R}^n)$、$\lambda>0$ とする。互いに交わらない二進立方体の高々可算な族 $\{Q_j\}$ で、$\Omega:=\bigcup_jQ_j$ とおくとき次を満たすものがある。

  1. 各 $j$ で $\lambda<\dfrac1{|Q_j|}\displaystyle\int_{Q_j}|f|\,dx\le2^n\lambda$。
  2. ほとんどすべての $x\notin\Omega$ で $|f(x)|\le\lambda$。
  3. $|\Omega|\le\|f\|_1/\lambda$。
平均が $\lambda$ を超える極大な二進立方体

$|f|$ の $Q$ の上の平均を $a_Q$ と書き、$\mathcal{Q}:=\{Q\in\mathcal{D}\mid a_Q>\lambda\}$ とする。$Q\in\mathcal{Q}$ なら $|Q|<\|f\|_1/\lambda$ である。$Q$ を含む二進立方体は $Q$ から親をたどった列 $Q\subset\widehat Q\subset\cdots$ で、体積は $2^n$ 倍ずつ増えるので、そのうち $\mathcal{Q}$ に属するものは有限個である。その最大のものは、$\mathcal{Q}$ の中でそれより真に大きい元に含まれない(極大な)元である。極大な元の全体を $\{Q_j\}$ とすると、$\mathcal{D}$ は可算なのでこれは高々可算であり、(b) により二つの極大な元は交わらないか一致する。
1:$Q_j$ の親 $\widehat Q_j$ は $\mathcal{Q}$ に属さない(属すれば $Q_j$ は極大でない)ので、$\int_{Q_j}|f|\le\int_{\widehat Q_j}|f|\le\lambda|\widehat Q_j|=2^n\lambda|Q_j|$ である。3:$|\Omega|=\sum_j|Q_j|\le\sum_j\frac1\lambda\int_{Q_j}|f|\le\|f\|_1/\lambda$ である。
2:$x\notin\Omega$ なら、$x$ を含む二進立方体はどれも $\mathcal{Q}$ に属さない(属すれば、それを含む極大な元が $x$ を含む)。$x$ を含む $\mathcal{D}_k$ の立方体を $Q^{(k)}$ とすると、$Q^{(k)}\subset B:=B(x,\sqrt n\,2^{-k})$ で $|B|=v_nn^{n/2}|Q^{(k)}|$($v_n$ は単位球の体積)なので
$$ \bigl|a_{Q^{(k)}}-|f(x)|\bigr|\le\frac1{|Q^{(k)}|}\int_{Q^{(k)}}|f-f(x)|\le\frac{v_nn^{n/2}}{|B|}\int_B|f-f(x)| $$
である。倍加測度 の定理「Lebesgue の微分定理」(Lebesgue 測度は倍加測度である)により、ほとんどすべての $x$ で右辺は $k\to\infty$ で $0$ に近づく。そのような $x\notin\Omega$ では $|f(x)|=\lim_ka_{Q^{(k)}}\le\lambda$ である。$\square$

この分解は Bass24 Theorem 24.7(p. 354)にある($f\ge0$ として述べ、開立方体を使う)。

主定理:弱 $(1,1)$ 型評価と $L^p$ 有界性

$p>2$ の場合は、随伴作用素に $1< p<2$ の場合を当てはめて示す。そのために、随伴作用素も特異積分作用素であることを確かめておく。

随伴作用素も特異積分作用素

$T$ を定数 $A$ の Calderón–Zygmund 核 $K$ の特異積分作用素とする。$L^2$ での随伴作用素 $T^*$ は、核 $\widetilde K(x):=\overline{K(-x)}$(定数は同じ $A$)の特異積分作用素で、$\|T^*\|=\|T\|$ である。

証明を開く

$\widetilde K$ が定数 $A$ の Calderón–Zygmund 核であることは、$x\mapsto-x$、$y\mapsto-y$ と置換すればわかる。$\|T^*\|=\|T\|$ は随伴作用素の一般論による。$g\in L^2$ がコンパクト集合 $S$ の外で $0$ とし、$E$ を $S$ と交わらないコンパクト集合、$\delta:=\operatorname{dist}(E,S)>0$ とする。$E$ の外で $0$ となる $f\in L^2$ について、ほとんどすべての $x\in S$ で $Tf(x)=\int_EK(x-y)f(y)\,dy$ であり、$S\times E$ の上で $|K(x-y)|\le A\delta^{-n}$、$f,g$ は可積分なので、Fubiniの定理 により

$$\langle f,T^*g\rangle=\langle Tf,g\rangle=\int_S\overline{g(x)}\int_EK(x-y)f(y)\,dy\,dx=\int_Ef(y)\,\overline{\int_S\widetilde K(y-x)g(x)\,dx}\,dy$$

である。右辺の内側の積分を $Ug(y)$ とおくと、$Ug$ は $E$ の上で絶対値が $A\delta^{-n}\|g\|_1$ 以下であり、上の等式は $\int_Ef\,\overline{(T^*g-Ug)}=0$ を意味する。$f:=(T^*g-Ug)1_E\in L^2$ とおけば $\int_E|T^*g-Ug|^2=0$ である。$\mathbb{R}^n\setminus S$ は $E_m:=\{x\mid|x|\le m,\ \operatorname{dist}(x,S)\ge1/m\}$ の可算個の和なので、$S$ の外のほとんどすべての $y$ で $T^*g(y)=Ug(y)$ である。$\square$

特異積分作用素の有界性(Calderón–Zygmund)

$T$ を定数 $A$ の Calderón–Zygmund 核の特異積分作用素とする。

  1. (弱 $(1,1)$ 型)$f\in L^1\cap L^2$、$\lambda>0$ について、$C_1:=2^{n+2}\|T\|^2+(2\sqrt n)^n+4A$ とおくと
    $$ |\{x\mid|Tf(x)|>\lambda\}|\le\frac{C_1}\lambda\|f\|_1. $$
  2. ($L^p$ 有界性)$1< p<\infty$ について、$n,p,A,\|T\|$ だけで決まる定数 $C_p$ があり、すべての $f\in L^p\cap L^2$ で $\|Tf\|_p\le C_p\|f\|_p$ である。したがって $T$ は $L^p$ 上の有界作用素にただ一通りに延びる。
Calderón–Zygmund 分解と Hörmander の条件

1。 lem-sio-cz-decomposition を $f,\lambda$ に使い、$Q_j$、$\Omega$ をとる。$Q_j$ の中心を $c_j$、辺の長さを $\ell_j$、$f$ の $Q_j$ の上の平均を $m_j$ とし、
$$ g:=f1_{\mathbb{R}^n\setminus\Omega}+\sum_jm_j1_{Q_j},\qquad b_j:=(f-m_j)1_{Q_j},\qquad b:=f-g=\sum_jb_j $$
とおく。分解の 1・2 から $|g|\le2^n\lambda$(ほとんど至るところ)、$\int_{Q_j}|m_j|\le\int_{Q_j}|f|$ から $\|g\|_1\le\|f\|_1$ なので、$\|g\|_2^2\le2^n\lambda\|f\|_1$ である。$b_j$ は $Q_j$ の外で $0$、$\int b_j=0$、$\|b_j\|_1\le2\int_{Q_j}|f|$ を満たす。$f,g\in L^2$ なので $b\in L^2$ で、$b_j$ の台は互いに交わらないから、部分和 $\sum_{j\le N}b_j$ は優収束定理により $L^2$ で $b$ に近づく。$T$ は $L^2$ で連続なので $\sum_{j\le N}Tb_j\to Tb$($L^2$)であり、Lp空間 の系「各点収束する部分列」により、ほとんど至るところ $|Tb|\le\sum_j|Tb_j|$ である。
$Q_j^*:=\{x\mid\max_i|x_i-c_{j,i}|\le\sqrt n\,\ell_j\}$ とし、$\Omega^*:=\bigcup_jQ_j^*$ とおく。$|Q_j^*|=(2\sqrt n)^n|Q_j|$ なので、分解の 3 から $|\Omega^*|\le(2\sqrt n)^n\|f\|_1/\lambda$ である。$x\notin Q_j^*$、$y\in\overline{Q_j}$ なら $|x-c_j|>\sqrt n\,\ell_j\ge2|y-c_j|$ である。$b_j\in L^2$ はコンパクト集合 $\overline{Q_j}$ の外で $0$ なので、特異積分作用素の定義と $\int b_j=0$ から、ほとんどすべての $x\notin Q_j^*$ で
$$ Tb_j(x)=\int_{Q_j}K(x-y)b_j(y)\,dy=\int_{Q_j}\bigl(K(x-y)-K(x-c_j)\bigr)b_j(y)\,dy $$
である。Tonelliの定理 と、$x-c_j$、$y-c_j$ に関する Hörmander の条件から
$$ \int_{\mathbb{R}^n\setminus Q_j^*}|Tb_j|\,dx\le\int_{Q_j}|b_j(y)|\int_{|x-c_j|\ge2|y-c_j|}|K(x-y)-K(x-c_j)|\,dx\,dy\le A\|b_j\|_1\le2A\int_{Q_j}|f| $$
である($y=c_j$ の 1 点は測度 $0$)。$j$ について足すと $\int_{\mathbb{R}^n\setminus\Omega^*}|Tb|\le2A\|f\|_1$ である。
$Tf=Tg+Tb$ なので $\{|Tf|>\lambda\}\subset\{|Tg|>\lambda/2\}\cup\Omega^*\cup\{x\notin\Omega^*\mid|Tb(x)|>\lambda/2\}$ である。Chebyshevの不等式 により、第 1 の集合の測度は $\frac4{\lambda^2}\|Tg\|_2^2\le\frac4{\lambda^2}\|T\|^22^n\lambda\|f\|_1$ 以下、第 3 の集合の測度は $\frac2\lambda\cdot2A\|f\|_1$ 以下である。合わせて 1 を得る。
2。 $p=2$ は仮定である。$1< p<2$ とし、$f\in L^p\cap L^2$、$\lambda>0$ について $u:=f1_{\{|f|>\lambda\}}$、$v:=f1_{\{|f|\le\lambda\}}$ とおく。$|u|\le|f|^p\lambda^{1-p}$ と $|u|\le|f|$ から $u\in L^1\cap L^2$、また $v\in L^2$ である。1 と Chebyshev の不等式から
$$ |\{|Tf|>2\lambda\}|\le|\{|Tu|>\lambda\}|+|\{|Tv|>\lambda\}|\le\frac{C_1}\lambda\int_{\{|f|>\lambda\}}|f|\,dx+\frac{\|T\|^2}{\lambda^2}\int_{\{|f|\le\lambda\}}|f|^2\,dx $$
である。Marcinkiewiczの補間定理 の補題「分布関数によるLpノルム」と Tonelli の定理により
$$ \|Tf\|_p^p=2^pp\int_0^\infty\lambda^{p-1}|\{|Tf|>2\lambda\}|\,d\lambda\le2^pp\int|f|\Bigl(C_1\int_0^{|f|}\lambda^{p-2}\,d\lambda\Bigr)dx+2^pp\int|f|^2\Bigl(\|T\|^2\int_{|f|}^\infty\lambda^{p-3}\,d\lambda\Bigr)dx $$
であり、内側の積分を計算して $\|Tf\|_p\le2\Bigl(p\Bigl(\frac{C_1}{p-1}+\frac{\|T\|^2}{2-p}\Bigr)\Bigr)^{1/p}\|f\|_p$ を得る。
$2< p<\infty$ とし、$q:=p/(p-1)\in(1,2)$ とする。lem-sio-adjoint により $T^*$ は同じ $A$、同じノルムの特異積分作用素なので、上の結果から $g\in L^q\cap L^2$ で $\|T^*g\|_q\le C_q\|g\|_q$ である。$f\in L^p\cap L^2$ と $\|g\|_q\le1$ の $g\in L^q\cap L^2$ について、Hölderの不等式 から $\bigl|\int Tf\,\overline g\bigr|=|\langle f,T^*g\rangle|\le\|f\|_pC_q$ である。$h\in L^2$ について $\|h\|_p=\sup\bigl\{\bigl|\int h\overline g\bigr|\bigm|g\in L^q\cap L^2,\ \|g\|_q\le1\bigr\}$ が成り立つので(下の折りたたみ)、$\|Tf\|_p\le C_q\|f\|_p$ である。

上限の式の証明を開く

Hölder の不等式から右辺は $\|h\|_p$ 以下である。$E_N:=\{x\mid|x|\le N,\ 0<|h(x)|\le N\}$ とし、$h1_{E_N}\ne0$ となる $N$ について $g_N:=h|h|^{p-2}1_{E_N}/\|h1_{E_N}\|_p^{p-1}$ とおく。$g_N$ は有界で台が有界なので $L^q\cap L^2$ に属し、$(p-1)q=p$ から $\|g_N\|_q=1$、$\int h\overline{g_N}=\|h1_{E_N}\|_p$ である。単調収束定理により $N\to\infty$ でこれは $\|h\|_p$ に近づく(すべての $N$ で $h1_{E_N}=0$ なら $h=0$ で明らか)。


最後に、Lp空間 の命題「単関数の稠密性」により $L^p\cap L^2$ は $L^p$ で稠密なので、$T$ は $L^p$ 上の有界作用素にただ一通りに延びる。$\square$

Bass24 Theorem 24.12(pp. 360–365)は $n=1$ の Hilbert 変換について同じ筋の証明を与えている。上の証明が核について使ったのは Hörmander の条件($\Omega^*$ の外での $Tb$ の評価)だけで、大きさの条件は定義の積分が絶対収束することと随伴作用素の核の確認に使った。

切り落とした Hilbert 変換の一様な $L^p$ 評価

$1< p<\infty$ について、$\varepsilon,R$ によらない定数 $C_p$ があり、すべての $0<\varepsilon< R$ と $f\in L^p(\mathbb{R})\cap L^2(\mathbb{R})$ で $\|H_{\varepsilon,R}f\|_p\le C_p\|f\|_p$ である。

prop-sio-hilbert により $A=10/\pi$、$\|H_{\varepsilon,R}\|\le6/\pi$ で thm-sio-main の 2 が使え、その定数は $n,p,A,\|T\|$ の上界だけで決まる(証明の $C_1$、$C_p$ の式は $\|T\|$ について増加である)。$\square$

コンパクトな台をもつ $C^1$ 級の $f$ では各点で $Hf(x):=\lim_{\varepsilon\to0,R\to\infty}H_{\varepsilon,R}f(x)$ が存在し(Bass24 Proposition 24.8、p. 357)、Fatouの補題 によりこの $Hf$ も $\|Hf\|_p\le C_p\|f\|_p$ を満たす。これが Hilbert 変換の $L^p$ 有界性($1< p<\infty$)である。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
cor-sio-hilbert の $p>1$$p=1$、$f=1_{[0,1]}$$\|H_{\varepsilon,R}f\|_1\le C\|f\|_1$($\varepsilon,R$ によらない $C$)
cor-sio-hilbert の $p<\infty$$p=\infty$、$f=1_{[0,1]}$$\|H_{\varepsilon,R}f\|_\infty\le C\|f\|_\infty$($\varepsilon,R$ によらない $C$)
cor-sio-hilbert で使った $L^2$ ノルムの一様な上界($\Vert H_{\varepsilon,R}\Vert\le6/\pi$ にあたるもの)$T_\varepsilon f:=k_\varepsilon*f$、$k_\varepsilon(x):=1_{\{\varepsilon<\lvert x\rvert<1\}}/\lvert x\rvert$($0<\varepsilon<1/4$)$\varepsilon$ によらない $L^p$ 評価(核の定数は $10$ で一様)
lem-sio-cz-decomposition の $f\in L^1$$n=1$、$f(x)=\lvert x\rvert$、$\lambda=1$1 と 2 を満たす二進区間の族の存在
反例の確かめ
  1. $0<\varepsilon<1$、$x\in[2,R)$ なら、$y\in[0,1]$ で $\varepsilon< x-y< R$ なので $H_{\varepsilon,R}f(x)=\frac1\pi\log\frac x{x-1}\ge\frac1{\pi x}$ である。よって $\|H_{\varepsilon,R}f\|_1\ge\frac1\pi\log\frac R2\to\infty$($R\to\infty$)だが、$\|f\|_1=1$ である。
  2. $0<\varepsilon<1<2< R$、$x\in(1+\varepsilon,2)$ なら $y\in[0,1]$ で $\varepsilon< x-y< R$ なので $H_{\varepsilon,R}f(x)=\frac1\pi\log\frac x{x-1}$ で、$x\downarrow1+\varepsilon$ でこれは $\frac1\pi\log\bigl(1+\frac1\varepsilon\bigr)$ に近づく。$\|f\|_\infty=1$ である。
  3. $k(x)=1/|x|$ は $|k(x)|\le2/|x|$、$|x|\ge2|y|$ で $|k(x-y)-k(x)|=\frac{||x|-|x-y||}{|x||x-y|}\le\frac{2|y|}{x^2}$ を満たすので、lem-sio-truncation($B=2$、$R=1$)により $k_\varepsilon$ は定数 $10$ の Calderón–Zygmund 核で、$k_\varepsilon\in L^1$ なので $T_\varepsilon$ は $L^2$ 有界な特異積分作用素である。$f=1_{[0,1]}$、$x\in[\frac14,\frac34]$ では $|t|<\frac14$ のとき $x-t\in[0,1]$ なので $T_\varepsilon f(x)\ge\int_{\varepsilon<|t|<1/4}\frac{dt}{|t|}=2\log\frac1{4\varepsilon}$ である。よって $\|T_\varepsilon f\|_p\ge2^{1-1/p}\log\frac1{4\varepsilon}\to\infty$($\varepsilon\to0$)で、$\|T_\varepsilon\|\to\infty$ でもある。
  4. 族があるとする。2 によりほとんどすべての $x>4$ は $\Omega$ に属する。$x>4$ を含む二進区間 $[a,a+s)$ は $a\ge0$ を満たし($a<0$ の二進区間は $a+s\le0$)、$|f|$ の平均は $a+\frac s2\ge\frac{a+s}2>\frac x2>2=2\lambda$ なので 1 を満たさない。$f\in L^1_{\mathrm{loc}}$ だが $f\notin L^1$ である。

関連項目

参考文献

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