Schauderの定理(コンパクト作用素)(Schauder's theorem on compact operators)とは、Banach 空間の間の有界線形作用素 $T$ がコンパクトであることと、その双対作用素 $T^*\psi=\psi\circ T$ がコンパクトであることが同値だという定理である。前向きは Arzelà–Ascoli の定理から、逆向きは二重双対と標準埋め込みから従う。コンパクトな $T$ の双対作用素は弱スター収束する列をノルム収束する列へ写し、Hilbert 空間では $T$、その随伴、$T^\dagger T$ のコンパクト性が同値になる。双対作用素の方程式への Riesz–Schauder の理論の適用や、$c_0$ から反射的な空間への有界作用素がすべてコンパクトであることの証明に使われる。
前提知識: コンパクト作用素, 連続双対空間, Arzelà–Ascoliの定理, Hahn–Banachの定理
行列 $A$ が小さな成分しかもたないことと、その転置 ${}^tA$ が小さな成分しかもたないことは同じである。無限次元の Banach空間 では、行列の転置にあたるのは双対作用素 $T^*\colon F^*\to E^*$、$T^*\psi=\psi\circ T$ であり、「小さい」にあたるのはコンパクト性である。Schauder の定理は、
有界線形作用素 $T$ がコンパクトであることと、双対作用素 $T^*$ がコンパクトであることは同値である
と述べる。$T$ は $E$ の点を動かし、$T^*$ は $F$ 上の汎関数を動かすので、両者は別の空間の上の作用素である。それでも一方のコンパクト性が他方へ移る。この定理によって、コンパクト作用素 の Riesz–Schauder の理論を双対作用素の方程式にもそのまま使え、また $T$ を直接調べにくいときに $T^*$ の側からコンパクト性を示せる。
Schauder の名をもつ定理はほかにもある。凸集合の連続写像の不動点についての Schauderの不動点定理、開写像定理(Banach–Schauder の定理とも呼ばれる)とは別の定理である。
この記事では、Arzelà–Ascoli の定理による Schauder の定理の証明、弱スター収束との関係、Hilbert 空間での形、双対作用素の方程式への応用、$c_0$ から反射的な空間への作用素がすべてコンパクトであることを証明する。
以下 $\mathbb K=\mathbb R$ または $\mathbb C$ とし、$E,F,G$ は $\mathbb K$ 上の Banach 空間とする。記号は コンパクト作用素 の記事にそろえる。$L(E,F)$ は有界線形作用素の全体に作用素ノルムを入れた空間、$K(E,F)$ はコンパクト作用素の全体、$E^*$ は連続な線形汎関数の全体(連続双対空間)、$B_E$ は閉単位球である。コンパクト性は点列で判定する:$T\in L(E,F)$ がコンパクトであることは、$E$ の任意の有界列 $(x_n)$ について $(Tx_n)$ が収束する部分列をもつことと同値である(コンパクト作用素 の記事の定義の直後の注意)。
$T\in L(E,F)$ の双対作用素 $T^*\colon F^*\to E^*$ を
$$
T^*\psi:=\psi\circ T\qquad(\psi\in F^*)
$$
で定める。転置作用素とも呼ぶ。
$T^*$ は線形で、$|(T^*\psi)(x)|\le\|\psi\|\,\|T\|\,\|x\|$ から $\|T^*\|\le\|T\|$ である。逆に $x\in E$ について、Hahn–Banachの定理 の記事の系「ノルムを保つ延長」により $\|\psi\|=1$、$\psi(Tx)=\|Tx\|$ となる $\psi$ をとると $\|Tx\|=(T^*\psi)(x)\le\|T^*\|\,\|x\|$ なので、$\|T^*\|=\|T\|$ である。$S\in L(F,G)$ について $(ST)^*=T^*S^*$、恒等作用素について $I_E^{\,*}=I_{E^*}$ である。
$J_E\colon E\to E^{**}$ を $(J_Ex)(\varphi):=\varphi(x)$ で定まる標準の等長埋め込みとすると、
$$
T^{**}J_E=J_FT
$$
が成り立つ。実際 $\psi\in F^*$ に施すと、両辺とも $\psi(Tx)$ である。
$T\in L(E,F)$ について、$T\in K(E,F)$ であることと $T^*\in K(F^*,E^*)$ であることは同値である。
$T$ がコンパクトなら $T^*$ もコンパクト.$C:=\overline{T(B_E)}$ は $F$ のコンパクト集合で、距離空間である。$B_{F^*}$ の列 $(\psi_n)$ をとり、$g_n:=\psi_n|_C$ を $C$ 上の連続関数とみる(複素数値なら $\mathbb C=\mathbb R^2$ とみる)。$y,y'\in C$ について
$$
|g_n(y)|\le\|y\|\le\|T\|,\qquad|g_n(y)-g_n(y')|\le\|y-y'\|
$$
なので、$(g_n)$ は各点有界かつ同程度連続である。Arzelà–Ascoliの定理 の記事の定理「Arzelà–Ascoliの定理」により、$C$ 上で一様収束する部分列 $(g_{n_k})$ がある。$x\in B_E$ なら $Tx\in C$ なので
$$
\|T^*\psi_{n_k}-T^*\psi_{n_l}\|=\sup_{x\in B_E}\bigl|g_{n_k}(Tx)-g_{n_l}(Tx)\bigr|\le\sup_{y\in C}|g_{n_k}(y)-g_{n_l}(y)|\xrightarrow[k,l\to\infty]{}0
$$
であり、$(T^*\psi_{n_k})$ は $E^*$ の Cauchy 列である。$E^*$ は完備なので収束する。有界列は定数倍で $B_{F^*}$ に入るので、$T^*$ はコンパクトである。
$T^*$ がコンパクトなら $T$ もコンパクト.前半を $T^*$ に当てると $T^{**}\colon E^{**}\to F^{**}$ はコンパクトである。$E$ の有界列 $(x_n)$ について $(J_Ex_n)$ は $E^{**}$ の有界列なので、部分列をとって $T^{**}J_Ex_{n_k}=J_FTx_{n_k}$ が $F^{**}$ で収束するようにできる。$J_F$ は等長なので $(Tx_{n_k})$ は $F$ の Cauchy 列であり、$F$ は完備なので収束する。よって $T$ はコンパクトである。$\square$
コンパクト作用素 の記事の定理「Schauderの定理」には、像の $\varepsilon$-網から $T^*(B_{F^*})$ の網を作る別証明がある。ここでの証明は、$F^*$ の元を $C$ 上の関数として眺め、その族のコンパクト性を Arzelà–Ascoli の定理から取り出す。後半では $J_F(F)$ が $F^{**}$ の中で閉じていること、すなわち $F$ の完備性が効いている。
$F^*$ の列 $(\psi_n)$ が $\psi$ に弱スター収束するとは、すべての $y\in F$ について $\psi_n(y)\to\psi(y)$ となることをいう(弱スター位相)。コンパクト作用素は弱収束する列をノルム収束する列へ写す(コンパクト作用素 の記事の命題「弱収束する列をノルム収束する列へ写す」)。双対作用素については、弱スター収束で同じことが成り立つ。
1:$\chi_n:=\psi_n-\psi$ は各 $y\in F$ で $\chi_n(y)\to0$ なので $\sup_n|\chi_n(y)|<\infty$ であり、$F$ は Banach 空間だから Banach空間 の記事の定理「一様有界性原理」により $M:=\sup_n\|\chi_n\|<\infty$ である。$C:=\overline{T(B_E)}$ はコンパクトなので、$\varepsilon>0$ について有限個の $z_1,\dots,z_r\in C$ で、どの $y\in C$ にも $\|y-z_i\|<\varepsilon$ となる $i$ があるものがとれる。$N$ を、$n\ge N$ なら $\max_i|\chi_n(z_i)|<\varepsilon$ となるようにとる。$n\ge N$、$y\in C$ について
$$
|\chi_n(y)|\le|\chi_n(y-z_i)|+|\chi_n(z_i)|< M\varepsilon+\varepsilon
$$
である。よって
$$
\|T^*\psi_n-T^*\psi\|=\sup_{x\in B_E}|\chi_n(Tx)|\le\sup_{y\in C}|\chi_n(y)|\le(M+1)\varepsilon\qquad(n\ge N)
$$
となり、$T^*\psi_n\to T^*\psi$ である。
2:$F$ が可分なら、$F^*$ の有界列は弱スター収束する部分列をもつ(弱スター位相 の記事の命題「可分な空間の双対閉球」)。仮定によりその像はノルム収束するので、$T^*$ はコンパクトである。thm-sch-main により $T$ もコンパクトである。$\square$
1 の証明は、「同程度連続な関数の列がコンパクト集合の各点で収束すれば一様収束する」という Arzelà–Ascoli の定理の一部を、関数 $\chi_n|_C$ に当てたものである。2 で $T^*$ のコンパクト性を経由して $T$ に戻るところで、thm-sch-main の逆向きを使っている。
$H_1,H_2$ を Hilbert 空間とする。$T\in L(H_1,H_2)$ の Hilbert 空間の意味の随伴を、双対作用素 $T^*$ と区別して $T^\dagger\colon H_2\to H_1$ と書く。$\langle Tx,y\rangle=\langle x,T^\dagger y\rangle$ で定まる作用素で、随伴作用素 の記事で $T^*$ と書かれているものである。Riesz の表現定理による $H_i$ と $H_i^*$ の同一視のもとで $T^\dagger$ と $T^*$ は対応する(複素の場合は 随伴作用素 の記事の命題「Hilbert 随伴と双対作用素の対応」。実の場合は同一視が線形になるだけで、同じ計算で成り立つ)ので、thm-sch-main から $T$ と $T^\dagger$ のコンパクト性は同値になる。Hilbert 空間では、内積を使ってこれを直接示せ、さらに次が成り立つ。
$T\in L(H_1,H_2)$ について、次は同値である。
1⇒3.コンパクト作用素 の記事の定理「コンパクト作用素の全体は閉じたイデアル」の 3 による。
3⇒1.$\|x_n\|\le1$ とし、部分列をとって $(T^\dagger Tx_n)$ が収束するとする。$x_n-x_m$ について
$$
\|T(x_n-x_m)\|^2=\langle T^\dagger T(x_n-x_m),x_n-x_m\rangle\le2\,\|T^\dagger Tx_n-T^\dagger Tx_m\|
$$
なので、$(Tx_n)$ は Cauchy 列であり収束する。
1⇒2.$T$ がコンパクトなら、同じ定理の 3 により $TT^\dagger$ もコンパクトである。$T^\dagger$ の随伴は $T$ なので(随伴作用素 の記事の命題「ノルムと二重随伴」)、$TT^\dagger=(T^\dagger)^\dagger T^\dagger$ であり、3⇒1 を $T^\dagger$ に当てれば $T^\dagger$ はコンパクトである。
2⇒1.1⇒2 を $T^\dagger$ に当てると $(T^\dagger)^\dagger=T$ がコンパクトである。$\square$
1⇒2 は Fredholm作用素 の記事の補題「Hilbert 空間の随伴とコンパクト性」でも示されている。3 により、$T$ のコンパクト性は自己共役な作用素 $T^\dagger T$ のコンパクト性に帰着し、$T^\dagger T$ には コンパクト作用素 の記事の定理「自己共役コンパクト作用素のスペクトル分解」が使える。
$T\in K(E)$、$\lambda\in\mathbb K\setminus\{0\}$ とする。
$(\lambda I_E-T)^*=\lambda I_{E^*}-T^*$ であり、thm-sch-main により $T^*\in K(E^*)$ である。$E^*$ は Banach 空間なので、コンパクト作用素 の記事の定理「Riesz–Schauderの理論」を $E^*$ 上の $T^*$ に当てればよい。$\square$
$\ker(\lambda I-T)$ と $\ker(\lambda I-T^*)$ の次元が等しいこと、したがって $T$ と $T^*$ の $0$ でないスペクトルが一致することは、Riesz–Schauder理論 で証明する。
$c_0$ は $0$ に収束する数列の空間に上限ノルムを入れた Banach 空間である。
$G$ を反射的な Banach 空間(反射的Banach空間)とする。すべての $T\in L(c_0,G)$ はコンパクトである。
thm-sch-main により $T^*\colon G^*\to c_0^{\,*}$ がコンパクトであることを示せばよい。$(\psi_n)$ を $G^*$ の有界列とする。$G^*$ は反射的なので(反射的Banach空間 の記事の定理「双対空間の反射性」)、部分列 $(\psi_{n_k})$ は $G^*$ のある元 $\psi$ に弱収束する(同記事の定理「有界列の弱収束部分列」)。$\Lambda\in(c_0^{\,*})^*$ なら $\Lambda\circ T^*\in(G^*)^*$ なので、$T^*\psi_{n_k}$ は $T^*\psi$ に弱収束する。
ℓp空間 の記事の定理「$\ell^p$ と $c_0$ の双対」の 2 により、$c_0^{\,*}$ は $\ell^1$ と線形等長に同型で、同型は弱収束を弱収束へ、ノルム収束をノルム収束へ移す。ℓp空間 の記事の定理「Schurの定理」により、$\ell^1$ で弱収束する点列はノルム収束する。よって $T^*\psi_{n_k}\to T^*\psi$(ノルム収束)であり、$T^*$ はコンパクトである。$\square$
$T$ を直接調べようとしても、$c_0$ は反射的でない(ℓp空間 の記事の系「反射性」)ので、有界列から弱収束する部分列を取り出す議論は $c_0$ の側では使えない。双対へ移ると、$\ell^1$ の Schur の性質と $G^*$ の反射性が使えるようになる。これが thm-sch-main の逆向きの典型的な使い方である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $T$ のコンパクト性(prop-sch-weakstar の 1) | $\ell^2$ の恒等作用素と、$\psi_n(x):=x_n$ | $\psi_n$ は $0$ に弱スター収束するが、$\|T^*\psi_n\|=1$ |
| 3 の $T^\dagger T$(prop-sch-hilbert)を $T^2$ に替える | $H=\ell^2\oplus\ell^2$ 上の $T(x,y):=(0,x)$ | $T^2=0$ はコンパクトだが、$T$ はコンパクトでない |
| $\lambda\ne0$(cor-sch-dual-equation の 2) | $\ell^2$ 上の $Tx:=(x_n/n)_n$、$\lambda=0$ | $-T^*$ は単射だが全射でない |
| $G$ の反射性(thm-sch-c0) | $G=c_0$、$T$ は恒等作用素 | 有界だがコンパクトでない |
1 行目:$\psi_n(x)=x_n\to0$($x\in\ell^2$)なので弱スター収束する。$T^*\psi_n=\psi_n$ で、$\psi_n(e_n)=1$($e_n$ は標準基底)から $\|\psi_n\|=1$ である。
2 行目:$T^2(x,y)=T(0,x)=(0,0)$ である。$T(e_n,0)=(0,e_n)$ で、$n\ne m$ なら $\|(0,e_n)-(0,e_m)\|=\sqrt2$ なので、有界列 $(e_n,0)$ の像は収束する部分列をもたない。
3 行目:ℓp空間 の記事の定理「$\ell^p$ と $c_0$ の双対」で $(\ell^2)^*$ を $\ell^2$ と同一視すると、ex-sch-examples の 2 により $T^*$ は $u\mapsto(u_n/n)_n$ である。$T^*u=0$ なら $u=0$ なので単射である。$(1/n)_n\in\ell^2$ の原像は $(1,1,\dots)\notin\ell^2$ なので全射でない。
4 行目:$c_0$ の標準基底 $e_n$ は $\|e_n-e_m\|=1$($n\ne m$)を満たすので、恒等作用素はコンパクトでない。
thm-sch-main とその Arzelà–Ascoli の定理による証明は Bre11 §6.1 の Theorem 6.4(p. 159)にある。弱収束する列をノルム収束する列へ写す性質は同 Remark 2(p. 159)、thm-sch-c0 は同 Exercise 6.7 の 6(p. 172)として問題の形で挙げられている。prop-sch-weakstar と prop-sch-hilbert の証明は、この記事で直接与えたものである。複素 Banach 空間でも第 6 章の 6.1 節と 6.2 節がそのまま成り立つことは同 §11.4(p. 366)にある。
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