写像度(degree of a map)とは、球面の間の連続写像 $f\colon S^n\to S^n$ が $n$ 次の被約ホモロジー群 $\tilde H_n(S^n)\cong\mathbb{Z}$ に誘導する準同型を $\alpha\mapsto d\alpha$ と書いたときの整数 $d=\deg f$ のことである。写像度はホモトピーで変わらず、合成について $\deg(g\circ f)=\deg g\cdot\deg f$ を満たし、鏡映では $-1$、対蹠写像では $(-1)^{n+1}$、円周の写像 $z\mapsto z^k$ では $k$ になる。これを使うと、偶数次元の球面上の連続な接ベクトル場がどこかで消えること(毛玉の定理)や、不動点の存在が整数の計算に帰着して証明できる。
前提知識: 特異ホモロジー, 球面, ホモトピー, 特異ホモロジーのホモトピー不変性, Mayer–Vietoris完全列
球面から自分自身への連続写像 $f\colon S^n\to S^n$ は、ホモロジー群 $H_n(S^n)\cong\mathbb{Z}$ の上で整数倍 $\alpha\mapsto d\alpha$ として働く。この整数 $d$ が $f$ の写像度(degree)である。円周の写像 $z\mapsto z^k$ の写像度は $k$ であり、写像度は「$f$ が球面を何回巻きつけるか」を向きを込めて数える。写像度はホモトピーで変わらず、合成で掛け算になるので、「この 2 つの写像はホモトピックでない」「この写像は不動点をもつ」「偶数次元の球面の上の連続な接ベクトル場はどこかで消える(毛玉の定理)」といった主張を、整数の計算に帰着して証明できる。
この記事では、写像度を定義して基本性質を示し、鏡映の写像度が $-1$、対蹠写像の写像度が $(-1)^{n+1}$ であることを証明し、応用として不動点の定理・毛玉の定理・偶数次元球面に自由に作用する群を扱う。
以下 $S^n:=\{x\in\mathbb{R}^{n+1}\mid\| x\|=1\}$($n\ge0$)とする。$S^n$ の被約ホモロジーは
$$
\tilde H_k(S^n)\cong\begin{cases}\mathbb{Z}&(k=n)\\0&(k\ne n)\end{cases}
$$
である(Mayer–Vietoris完全列 の記事の命題(球面のホモロジー)、Hat02 Corollary 2.14、p. 114)。$n\ge1$ では $\tilde H_n(S^n)=H_n(S^n)$ である。
$n\ge0$ とし、$f\colon S^n\to S^n$ を連続写像とする。$f$ が誘導する準同型 $f_*\colon\tilde H_n(S^n)\to\tilde H_n(S^n)$ は無限巡回群の自己準同型なので、ある整数 $d$ によって
$$
f_*(\alpha)=d\,\alpha\qquad(\alpha\in\tilde H_n(S^n))
$$
と書ける。$d$ を $f$ の写像度(degree)といい、$\deg f$ と書く。
生成元 $\alpha$ を 1 つ選べば $f_*(\alpha)=d\alpha$ から $d$ が決まり、自己準同型は生成元の行き先で決まるので、すべての元について $f_*(\beta)=d\beta$ となる。生成元をもう一方の $-\alpha$ に取り替えても $f_*(-\alpha)=d(-\alpha)$ なので、$d$ は生成元の選び方によらない。$n\ge1$ では $H_n(S^n)$ で定義しても同じである。$n=0$ の場合は後の証明の帰納法の出発点として使う。
$S^0=\{1,-1\}\subset\mathbb{R}$ は 2 点の離散空間であり、$\tilde H_0(S^0)$ は $[1]-[-1]$(点の類の差)で生成される無限巡回群である。恒等写像の写像度は $1$、2 点を入れ替える写像 $x\mapsto-x$ は $[1]-[-1]$ を $[-1]-[1]$ へ送るので写像度 $-1$、定値写像は $[c]-[c]=0$ へ送るので写像度 $0$ である。$S^0$ から自分自身への写像はこの 4 つ(定値写像が 2 つ)しかない。
(i) $\mathrm{id}_*=\mathrm{id}$ による。(ii) 被約ホモロジーのホモトピー不変性(特異ホモロジーのホモトピー不変性 の記事の定理(特異ホモロジーのホモトピー不変性))により $f_*=g_*$ である。(iii) $(g\circ f)_*(\alpha)=g_*(f_*\alpha)=\deg g\cdot\deg f\cdot\alpha$ による。(iv) ホモトピー逆写像 $h$ をとると (i)〜(iii) により $\deg h\cdot\deg f=\deg(h\circ f)=\deg\mathrm{id}=1$ であり、整数の積が $1$ なので $\deg f=\pm1$ である。(v) $f$ が全射でなければ $f$ は定値写像とホモトピックである(ホモトピー の記事の例(全射でない球面への写像))。定値写像は一点 $\mathrm{pt}$ を経由し、$\tilde H_n(\mathrm{pt})=0$ なので写像度は $0$ である。(ii) により $\deg f=0$ である。
$n\ge1$ とし、$S^n$ の点を $x=(x',x_{n+1})$($x'\in\mathbb{R}^n$)と書く。$S^{n-1}$ を赤道 $\{x_{n+1}=0\}$ と同一視する。
連続写像 $f\colon S^{n-1}\to S^{n-1}$ に対し、$\Sigma f\colon S^n\to S^n$ を
$$
\Sigma f(x',x_{n+1}):=\begin{cases}\bigl(\| x'\|\,f(x'/\| x'\|),\ x_{n+1}\bigr)&(x'\ne0)\\ (0,x_{n+1})&(x'=0)\end{cases}
$$
と定め、$f$ の懸垂という。$\|\Sigma f(x)\|^2=\| x'\|^2+x_{n+1}^2=1$ なので値は $S^n$ に入る。$x'\ne0$ では連続であり、極 $(0,\pm1)$ の近くでは第 1 成分の大きさが $\| x'\|\to0$ なので極でも連続である。
$\Sigma f$ は各緯線 $\{x_{n+1}=c\}$ の上で $f$ を拡大・縮小して働かせ、極を止める写像である。
$n\ge1$ と連続写像 $f\colon S^{n-1}\to S^{n-1}$ に対し $\deg\Sigma f=\deg f$ である。
北極 $N=(0,1)$、南極 $S=(0,-1)$ を除いた開集合 $U:=S^n\setminus\{N\}$、$V:=S^n\setminus\{S\}$ をとる。$U$ と $V$ は立体射影で $\mathbb{R}^n$ と同相なので可縮であり(球面 の記事の命題(Euclid 空間の一点コンパクト化))、被約ホモロジーはすべて $0$ である。$U\cap V=\{x'\ne0\}$ は空でなく、
$$
H(x,t):=\frac{(x',(1-t)x_{n+1})}{\|(x',(1-t)x_{n+1})\|}
$$
により赤道 $S^{n-1}$ へ強変位レトラクトする($x'\ne0$ なので分母は $0$ でなく、値は $U\cap V$ に入り、赤道の点は動かない)。よって包含 $i\colon S^{n-1}\to U\cap V$、$y\mapsto(y,0)$ は $\tilde H_{n-1}$ に同型 $i_*$ を誘導する。被約版の Mayer–Vietoris 完全列(Mayer–Vietoris完全列 の記事の命題(被約ホモロジーの Mayer–Vietoris 完全列))の部分
$$
0=\tilde H_n(U)\oplus\tilde H_n(V)\to\tilde H_n(S^n)\xrightarrow{\ \partial\ }\tilde H_{n-1}(U\cap V)\to\tilde H_{n-1}(U)\oplus\tilde H_{n-1}(V)=0
$$
により $\partial$ は同型なので、$\theta:=i_*^{-1}\circ\partial\colon\tilde H_n(S^n)\to\tilde H_{n-1}(S^{n-1})$ は同型である。
$\Sigma f$ は $N$、$S$ を止め、$x'\ne0$ の点を $x'\ne0$ の点へ送るので、$\Sigma f(U)\subset U$、$\Sigma f(V)\subset V$ である。また $\| y\|=1$ なので $\Sigma f\circ i=i\circ f$ である。Mayer–Vietoris 完全列の接続準同型は、$z=x+y$($x$ は $U$ の鎖、$y$ は $V$ の鎖)に対し $\partial[z]=[\partial x]$ で与えられる(同記事の定理(Mayer–Vietoris 完全列))。$(\Sigma f)_\sharp z=(\Sigma f)_\sharp x+(\Sigma f)_\sharp y$ はふたたびこの形なので
$$
\partial\,(\Sigma f)_*[z]=[\partial(\Sigma f)_\sharp x]=(\Sigma f|_{U\cap V})_*\,\partial[z]
$$
である(同記事の「自然性」の節)。したがって
$$
\theta\circ(\Sigma f)_*=i_*^{-1}(\Sigma f|_{U\cap V})_*\,\partial=i_*^{-1}(\Sigma f|_{U\cap V})_*\,i_*\,\theta=i_*^{-1}i_*f_*\,\theta=f_*\circ\theta
$$
となる。生成元 $\alpha\in\tilde H_n(S^n)$ に対し $\theta\alpha$ は $\tilde H_{n-1}(S^{n-1})$ の生成元で、$\deg\Sigma f\cdot\theta\alpha=\theta((\Sigma f)_*\alpha)=f_*(\theta\alpha)=\deg f\cdot\theta\alpha$ だから、$\deg\Sigma f=\deg f$ である。
証明の中心の等式 $\theta\circ(\Sigma f)_*=f_*\circ\theta$ は、次の図式が可換であることを表す。
$$
\xymatrix{
\tilde H_n(S^n) \ar[r]^-{\theta} \ar[d]_{(\Sigma f)_*} & \tilde H_{n-1}(S^{n-1}) \ar[d]^{f_*}\\
\tilde H_n(S^n) \ar[r]^-{\theta} & \tilde H_{n-1}(S^{n-1})
}
$$
$n\ge0$ とし、$\rho\colon S^n\to S^n$ を 1 つの座標の符号を変える写像 $\rho(x_1,x_2,\dots,x_{n+1}):=(-x_1,x_2,\dots,x_{n+1})$ とする。$\deg\rho=-1$ である。より一般に、原点を通る超平面に関する鏡映 $\rho_u(x):=x-2\langle x,u\rangle u$($u\in S^n$)の写像度は $-1$ である。
$n$ に関する帰納法で $\deg\rho=-1$ を示す。$n=0$ では $\rho$ は $S^0$ の 2 点の入れ替えなので ex-mapdeg-s0 による。$n\ge1$ では、$S^{n-1}$ の同じ形の写像 $\rho'(x_1,\dots,x_n):=(-x_1,x_2,\dots,x_n)$ の懸垂が $\rho$ である。実際 $\rho'$ は線型なので、$x'\ne0$ で $\| x'\|\rho'(x'/\| x'\|)=\rho'(x')$ となり、$\Sigma\rho'(x',x_{n+1})=(\rho'(x'),x_{n+1})=\rho(x)$ である(極でも一致する)。lem-mapdeg-suspension と帰納法の仮定により $\deg\rho=\deg\rho'=-1$ である。
一般の $u\in S^n$ については、$u$ を第 1 列にもつ直交行列 $Q$($u$ を正規直交基底に延長して並べる)をとると、$Qe_1=u$ で $\rho_u=Q\circ\rho\circ Q^{-1}$ である($Q$ は内積を保つので $Q\rho Q^{-1}(x)=x-2\langle Q^{-1}x,e_1\rangle Qe_1=x-2\langle x,u\rangle u$)。$Q$ は $S^n$ の同相写像を与え、prop-mapdeg-basic (iii) により $\deg\rho_u=\deg Q\cdot\deg\rho\cdot\deg Q^{-1}=\deg\rho\cdot\deg(Q\circ Q^{-1})=-1$ である(整数の積は順序によらない)。
$A$ を $n+1$ 次の直交行列とし、$x\mapsto Ax$ を $S^n$ の写像とみなす。$\deg A=\det A$ である。とくに対蹠写像 $x\mapsto-x$ の写像度は $(-1)^{n+1}$ である。
直交行列 $A$ は有限個の鏡映 $\rho_u$ の積である(下の「詳細」)。鏡映の写像度は $-1$(thm-mapdeg-reflection)、行列式も $-1$ なので、$A$ が $k$ 個の鏡映の積なら prop-mapdeg-basic (iii) により $\deg A=(-1)^k=\det A$ である。対蹠写像は $A=-I_{n+1}$ の場合で、$\det(-I_{n+1})=(-1)^{n+1}$ である。
$m$ 次の直交行列 $A$ が鏡映の積($0$ 個の積は単位行列)であることを $m$ に関する帰納法で示す。$Ae_1=e_1$ なら、$A$ は $e_1$ の直交補空間 $W\cong\mathbb{R}^{m-1}$ を保ち、$A|_W$ は $W$ の直交変換なので帰納法の仮定により $W$ の鏡映 $\rho_u$($u\in W$)の積である。$u\in W$ の鏡映は $e_1$ を止めるので、そのまま $\mathbb{R}^m$ の鏡映の積として $A$ に一致する。$Ae_1\ne e_1$ なら $a:=Ae_1$、$u:=(a-e_1)/\| a-e_1\|$ とおく。$\| a\|=1$ から $\| a-e_1\|^2=2\langle a,a-e_1\rangle$ なので $\rho_u(a)=a-(a-e_1)=e_1$ である。$\rho_uA$ は $e_1$ を止める直交行列なので鏡映の積であり、$A=\rho_u(\rho_uA)$ も鏡映の積である($\rho_u^2=I$)。$m=1$ のときは $A=\pm1$ で、$-1=\rho_{e_1}$ である。
$n\ge1$ とし、$f\colon S^n\to S^n$ を連続写像とする。
(i) $f$ が不動点をもたない(すべての $x$ で $f(x)\ne x$)ならば $\deg f=(-1)^{n+1}$ である。
(ii) すべての $x$ で $f(x)\ne-x$ ならば $\deg f=1$ である。
とくに $n$ が偶数なら、任意の連続写像 $f\colon S^n\to S^n$ は不動点をもつか、ある $x$ で $f(x)=-x$ となる。
(i) $H(x,t):=\dfrac{(1-t)f(x)-tx}{\|(1-t)f(x)-tx\|}$ とおく。分母が $0$ なら $(1-t)f(x)=tx$ であり、両辺のノルムをとって $1-t=t$、すなわち $t=1/2$ となり $f(x)=x$ が従うので、仮定のもとで分母は $0$ にならない。$H$ は $f$ から対蹠写像 $-\mathrm{id}$ へのホモトピーであり、prop-mapdeg-basic (ii) と prop-mapdeg-orthogonal により $\deg f=(-1)^{n+1}$ である。
(ii) 同様に $H(x,t):=\dfrac{(1-t)f(x)+tx}{\|(1-t)f(x)+tx\|}$ の分母が $0$ になるのは $t=1/2$ かつ $f(x)=-x$ のときだけなので、$H$ は $f$ から $\mathrm{id}$ へのホモトピーであり、$\deg f=1$ である。
$n$ が偶数なら $(-1)^{n+1}=-1\ne1$ なので、(i) と (ii) の仮定が同時に成り立つことはない。
$n\ge1$ とする。$S^n$ 上の連続な接ベクトル場 $v\colon S^n\to\mathbb{R}^{n+1}$(連続で、すべての $x$ で $\langle v(x),x\rangle=0$ を満たすもの)で、どこでも $0$ にならないものが存在するための必要十分条件は、$n$ が奇数であることである。とくに $S^2$ 上の連続な接ベクトル場は、どこかで $0$ になる。
どこでも $0$ でない接ベクトル場 $v$ があるとする。$v(x)$ を $v(x)/\| v(x)\|$ に取り替えて $\| v(x)\|=1$ としてよい。$x$ と $v(x)$ は直交する単位ベクトルなので、
$$
H(x,t):=\cos(\pi t)\,x+\sin(\pi t)\,v(x)
$$
はつねに単位ベクトルであり、$H$ は $\mathrm{id}$ から $-\mathrm{id}$ への $S^n$ のホモトピーである。prop-mapdeg-basic と prop-mapdeg-orthogonal により $1=\deg\mathrm{id}=\deg(-\mathrm{id})=(-1)^{n+1}$ なので、$n$ は奇数である。
逆に $n=2k-1$ なら、$v(x_1,x_2,\dots,x_{2k-1},x_{2k}):=(-x_2,x_1,\dots,-x_{2k},x_{2k-1})$ とおくと、$\langle v(x),x\rangle=\sum_{j=1}^k(-x_{2j}x_{2j-1}+x_{2j-1}x_{2j})=0$、$\| v(x)\|=\| x\|=1$ なので、$v$ はどこでも $0$ でない連続な接ベクトル場である。
$n=2$ の場合、球面に生えた毛をどう連続にとかしても、どこかに「つむじ」ができる、というのが名前の由来である。ベクトル場 の記事の注意(反例:球面上の至る所非零なベクトル場)は同じ主張を連続なベクトル場について述べ、証明を写像度などに委ねている。上の定理はその証明である。
$n$ を正の偶数とする。群 $G$ が $S^n$ に同相写像で作用し(群作用、群準同型 $G\to\mathrm{Homeo}(S^n)$)、その作用が自由(単位元以外の元が不動点をもたない)ならば、$G$ は自明群か位数 $2$ の群である。
$g\in G$ の作用する同相写像を $\varphi_g$ とし、$d(g):=\deg\varphi_g$ とおく。prop-mapdeg-basic (iii)(iv) により $d\colon G\to\{\pm1\}$ は群準同型である。単位元でない $g$ について $\varphi_g$ は不動点をもたないので、thm-mapdeg-fixed-point (i) により $d(g)=(-1)^{n+1}=-1$ である。よって $d$ の核は単位元だけで、$d$ は単射であり、$G$ は $\{\pm1\}$ の部分群と同型である。
対蹠写像 $x\mapsto-x$ は位数 $2$ の群の自由な作用を与えるので、この結論はこれ以上改善できない。奇数次元の $S^{2k-1}\subset\mathbb{C}^k$ では、$1$ の原始 $m$ 乗根 $\zeta$ によるスカラー倍 $x\mapsto\zeta x$ が位数 $m$ の巡回群の自由な作用を与える($\zeta^jx=x$、$\zeta^j\ne1$ なら $x=0$ となり $S^{2k-1}$ の点でない)ので、偶数の仮定は外せない。
$n\ge1$ のとき、閉円板 $D^n$ の境界 $S^{n-1}$ は $D^n$ のレトラクトでない。
レトラクション $r\colon D^n\to S^{n-1}$ があったとし、包含を $i\colon S^{n-1}\to D^n$ とする。$D^n$ は凸なので $i$ は直線ホモトピーで定値写像 $c$ とホモトピックであり、$\mathrm{id}_{S^{n-1}}=r\circ i\simeq r\circ c$ は定値写像である。prop-mapdeg-basic により $1=\deg\mathrm{id}=0$ となり矛盾する($n=1$ でも $S^0$ の写像度で同じ議論が通る)。
レトラクト の記事の命題(Brouwerの不動点定理との同値性)により、これから Brouwerの不動点定理 が全次元で従う。同記事の命題(球面は円板のレトラクトでない)は $n=1$ では連結性、$n\ge2$ ではホモトピー群を使って同じ結論を示しており、ここではホモロジーの写像度で示した。
$S^1\subset\mathbb{C}$ とみなし、整数 $k$ に対し $p_k(z):=z^k$ とおく。$\deg p_k=k$ である。
$\Delta^1$ の点 $(1-t,t)$ を $t\in[0,1]$ と同一視し、道 $\gamma\colon[0,1]\to X$ を特異 $1$ 単体とみなす。$0\le a< b\le1$ に対し $\gamma_{[a,b]}(t):=\gamma(a+(b-a)t)$ とおく。
段 1(道の分割).$0< s<1$ に対し $\tau(t_0,t_1,t_2):=\gamma(st_1+t_2)$ は特異 $2$ 単体であり、面は $\tau\circ d_0=\gamma_{[s,1]}$、$\tau\circ d_1=\gamma$、$\tau\circ d_2=\gamma_{[0,s]}$ である(例えば $\tau(0,1-t,t)=\gamma(s(1-t)+t)=\gamma_{[s,1]}(t)$)。よって $\partial\tau=\gamma_{[s,1]}-\gamma+\gamma_{[0,s]}$ であり、$\gamma$ と $\gamma_{[0,s]}+\gamma_{[s,1]}$ は境界の差しかない。これを繰り返すと、$\gamma$ と $\sum_{j=0}^{k-1}\gamma_{[j/k,(j+1)/k]}$ も境界の差しかない。
段 2(生成元).$\omega(t):=e^{2\pi it}$ は $\omega(0)=\omega(1)$ なので $\partial\omega=0$ の輪体である。$U:=S^1\setminus\{i\}$、$V:=S^1\setminus\{-i\}$ に Mayer–Vietoris 完全列を使う。段 1 により $[\omega]=[x+y]$、$x:=\omega_{[1/2,1]}$($-i$ を通る下半円で $U$ の鎖)、$y:=\omega_{[0,1/2]}$($V$ の鎖)である。接続準同型は $\partial[\omega]=[\partial x]=[1]-[-1]\in\tilde H_0(U\cap V)$ である。$U\cap V$ は $1$ を含む弧と $-1$ を含む弧の 2 つの弧状連結成分からなり、$H_0(U\cap V)$ は各成分の点の類を基底とする自由アーベル群なので(Hat02 Proposition 2.6・2.7、p. 109。この記事では証明しない)、$[1]-[-1]$ は $\tilde H_0(U\cap V)\cong\mathbb{Z}$ の生成元である。$U,V$ は可縮なので lem-mapdeg-suspension の証明と同じく $\partial$ は同型であり、$[\omega]$ は $H_1(S^1)$ の生成元である。
段 3(計算).$k\ge1$ とする。$(p_k)_\sharp\omega=p_k\circ\omega$ は $t\mapsto e^{2\pi ikt}$ であり、その $[j/k,(j+1)/k]$ への制限は $t\mapsto e^{2\pi i(j+t)}=\omega(t)$ である。段 1 により $(p_k)_*[\omega]=\sum_{j=0}^{k-1}[\omega]=k[\omega]$ なので $\deg p_k=k$ である。$k=0$ では $p_0$ は定値写像で写像度 $0$ である。$k<0$ では、$\lvert z\rvert=1$ で $z^k=\bar z^{\lvert k\rvert}$ なので $p_k=p_{\lvert k\rvert}\circ c$($c(z)=\bar z$ は鏡映)であり、thm-mapdeg-reflection により $\deg p_k=\lvert k\rvert\cdot(-1)=k$ である。
$n\ge1$ と任意の整数 $k$ に対し、$p_k$ を $n-1$ 回懸垂した写像 $\Sigma^{n-1}p_k\colon S^n\to S^n$ は、lem-mapdeg-suspension と prop-mapdeg-power により写像度 $k$ をもつ。したがって $n\ge1$ では写像度はすべての整数の値をとる。$n=0$ では写像度は $0,\pm1$ だけである(ex-mapdeg-s0)。
$S^1$ の対蹠写像は角 $\pi$ の回転で、恒等写像とホモトピックである(ホモトピー の記事の例(円周の回転))。これは $\deg(-\mathrm{id})=(-1)^{2}=1$ と合っている。$S^2$ の対蹠写像の写像度は $(-1)^3=-1$ なので、恒等写像とホモトピックでない。一般に、$S^n$ の対蹠写像が恒等写像とホモトピックであるのは $n$ が奇数のときに限る($n$ が奇数なら thm-mapdeg-hairy-ball の証明のホモトピー $H$ が恒等写像と対蹠写像を結ぶ)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $n$ が偶数(毛玉の定理) | $S^1$ 上の $v(x_1,x_2)=(-x_2,x_1)$ | 消えない接ベクトル場は存在しない |
| 写像度が $(-1)^{n+1}$ でない(thm-mapdeg-fixed-point (i) の対偶) | 対蹠写像 | 不動点をもつ |
| 写像度が $0$ でない(prop-mapdeg-basic (v) の逆) | 円周を折り返す全射 | 全射なら写像度は $0$ でない |
| 写像度が $1$(同相写像なら $1$?) | 鏡映 $\rho$ | 同相写像の写像度は $1$ |
$\varphi(t):=1-\lvert1-2t\rvert$($\varphi(0)=\varphi(1)=0$、$\varphi(1/2)=1$)とし、$f(e^{2\pi it}):=e^{2\pi i\varphi(t)}$ とおく。$\varphi(0)=\varphi(1)$ なので $f\colon S^1\to S^1$ は矛盾なく定まる連続写像で、$\varphi$ が $[0,1]$ 全体を動くので全射である。一方 $f$ は $\Phi(e^{2\pi it}):=\varphi(t)$ で定まる連続写像 $\Phi\colon S^1\to[0,1]$ と $E(s):=e^{2\pi is}$ の合成 $f=E\circ\Phi$ であり、$H_1([0,1])=0$ なので $f_*=E_*\Phi_*=0$、すなわち $\deg f=0$ である。$f$ は円周を半周ずつ行って戻る写像で、「正の向きに 1 回」と「負の向きに 1 回」が打ち消し合っている。満たす性質は全射であること、満たさない性質は写像度が $0$ でないことで、prop-mapdeg-basic (v) の逆「全射なら $\deg f\ne0$」を破る。
1 行目と 2 行目は、thm-mapdeg-hairy-ball の証明の後半と prop-mapdeg-orthogonal(対蹠写像は不動点をもたず写像度 $(-1)^{n+1}$)で確かめた。4 行目の鏡映は同相写像だが写像度は $-1$ であり(thm-mapdeg-reflection)、同相写像について言えるのは $\deg=\pm1$(prop-mapdeg-basic (iv))までである。写像度 $1$ の同相写像を向きを保つ、$-1$ のものを向きを逆にするという。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する