コヒーレントトポス(coherent topos)とは、有限極限をもつ圏に、被覆がすべて有限個の射からなる位相を入れた景の層のトポスと同値な Grothendieck トポスである。対象のコンパクト性(エピ的な族が有限の部分族を含む)と安定性(コンパクトな対象のファイバー積がコンパクト)を合わせたコヒーレント性で特徴づけられ、スペクトル空間や可換環のスペクトルの層のトポスが代表例である。Deligne の完全性定理により、コヒーレントトポスは十分多くの点をもち、層の射の同型は点での茎で判定できる。分配束のイデアルのなすコヒーレントなロケールでは、この定理は素フィルター定理から従い、ロケールは空間的でその点の空間はスペクトル空間になる。実数直線の層のトポスや整数の作用する集合のトポスはコヒーレントでないが点は十分にある。
前提知識: Grothendieckトポス, ロケール, Boole素イデアル定理, スペクトル空間
コヒーレントトポス(coherent topos)は、有限極限をもつ圏の上に「被覆はすべて有限個の射からなる」位相を入れた景から得られる Grothendieckトポスである。スキームの言葉でいえば、準コンパクトで準分離なスキームの Zariski トポスやエタールトポスがその典型で、「有限性の条件をもつ空間」のトポス版にあたる。Grothendieck は SGA 4 でこの概念を「topos cohérent」の名で導入した。日本語では連接トポスとも訳される。
コヒーレントトポスの最も重要な性質は、Deligne の完全性定理である。コヒーレントトポスは十分多くの点をもち、層の射が同型かどうかは点での茎で判定できる(SGA4 VI Proposition 9.0)。点をもたないトポスもあるので、これは有限性の条件から出てくる性質である。証明の考え方は一階論理の Gödelの完全性定理 のモデルの構成と同じで、「有限個ずつなら矛盾なく選べる」ことを積み重ねて点を作る。
この記事では、コンパクトな対象とコヒーレントな対象を定義し、スペクトル空間の層のトポスがコヒーレントであること、実数直線の層のトポスや整数の作用する集合のトポスがコヒーレントでないことを証明する。主定理として、分配束のイデアルのなすロケール(コヒーレントなロケール)が空間的であること、すなわち Deligne の定理のロケール版を、分配束の素フィルター定理から証明する。一般の場合の Deligne の定理は所在付きで述べる。
トポス $\mathcal E$ の射の族 $\{f_i\colon X_i\to X\}_{i\in I}$ がエピ的であるとは、2 つの射 $g,h\colon X\to Y$ がすべての $i$ について $gf_i=hf_i$ を満たすなら $g=h$ となることをいう。
$\mathcal E$ をトポス、$X$ をその対象とする。
これは J77 Definition 7.31(pp. 232–233)の定義で、SGA4 VI では準コンパクト(quasi-compact)、準分離(quasi-séparé)、cohérent と呼ぶ。スキームの準コンパクト・準分離の類似であることが名前の由来である。
Grothendieck トポス $\mathcal E$ がコヒーレントであるとは、景 $(\mathcal C,J)$ で次を満たすものがあって、$\mathcal E\simeq\operatorname{Sh}(\mathcal C,J)$ となることをいう:$\mathcal C$ は有限極限をもち、$J$ は、被覆の族がすべて有限個の射からなる前位相から生成される。
これは J77 Theorem 7.35(pp. 234–235)の中で与えられた定義である。同じ定理により、このような景の対象 $U$ の表す層 $\ell(U)$ はコヒーレントな対象である。$\mathcal C$ は終対象 $1$ をもつので、コヒーレントトポスの終対象 $\ell(1)$ はコヒーレントである。SGA4 VI Définition 2.3 は、準コンパクトな対象からなりファイバー積で閉じた生成的な充満部分圏をもつトポス(同 Proposition 2.1 の条件)を局所コヒーレント(localement cohérent)と呼ぶ。そのうえで、同 2.2 の条件(さらに、そのような生成部分圏の対象の積が準分離であることなど)を満たすトポスで終対象がコヒーレントなものをコヒーレント(cohérent)と定め、これが「有限極限で閉じた、準コンパクトな対象からなる生成的な充満部分圏をもつ」ことと同値であることを示している(同 VI 2.4.5)。
コヒーレントな対象の全体 $\mathcal E_{\mathrm{coh}}$ は、有限極限と、交わらず引き戻しで安定な有限余積をもち、同値関係がすべて有効でその余等化子が引き戻しで安定であり、エピ射がすべて余等化子であるような圏(前トポス、pretopos)になり、$\mathcal E$ は $\mathcal E_{\mathrm{coh}}$ に有限なエピ的族を被覆とする位相を入れた景の層のトポスと同値である(J77 Proposition 7.37(p. 236)、Definition 7.38(p. 238)、Theorem 7.40(p. 239))。この記事では証明しない。コヒーレントトポスは前トポスと同じ情報をもつ。
位相空間の層のトポス $\operatorname{Sh}(X)$ では、開集合 $U$ は終対象の部分対象($V\mapsto\{*\}$($V\subset U$ のとき)、$\emptyset$(それ以外))とみなせる。
$X$ を位相空間とする。$\operatorname{Sh}(X)$ の中で、開集合の族 $\{U_i\to X\}_{i\in I}$ が終対象へのエピ的な族であることは、$\bigcup_iU_i=X$ と同値である。とくに、開集合 $U$ が $\operatorname{Sh}(X)$ のコンパクトな対象なら、$U$ は位相空間としてコンパクトである。
要点:覆っていなければ、部分対象分類子への 2 つの射で区別できる。
$\bigcup_iU_i=X$ とし、層の射 $g,h\colon X\to Y$($X$ は終対象の層)が各 $U_i$ への制限で一致するとする。$g,h$ は大域切断 $g_X,h_X\in Y(X)$ と同じもので、制限 $g_X|_{U_i}=h_X|_{U_i}$ がすべての $i$ で成り立つので、層の条件から $g_X=h_X$ である。
逆に $W:=\bigcup_iU_i\neq X$ とする。部分対象分類子 $\Omega$($\Omega(V)$ は $V$ の開部分集合全体。Grothendieckトポスの命題「位相空間の層のトポスの部分対象分類子」)の大域切断 $W$ と $X$ は異なる。$U_i$ へ制限すると $W\cap U_i=U_i=X\cap U_i$ となって一致するので、族はエピ的でない。
後半:$U$ の開被覆 $\{V_k\}$ は、$U$ へのエピ的な族である(前半の議論を $\operatorname{Sh}(U)\simeq\operatorname{Sh}(X)/U$ で行えばよい)。$U$ がコンパクトな対象なら、有限個の $V_{k_1},\dots,V_{k_n}$ がエピ的で、前半により $U=V_{k_1}\cup\dots\cup V_{k_n}$ である。$\square$
$X$ をスペクトル空間とする。すなわち、$X$ は準コンパクトな $T_0$ 空間で、準コンパクトな開集合の全体 $K(X)$ が開基をなして有限個の共通部分で閉じ、既約閉集合がただ 1 つの生成点をもつ。このとき $\operatorname{Sh}(X)$ はコヒーレントトポスである。とくに、可換環 $A$ のスペクトル $\operatorname{Spec}A$ の上の層のトポスはコヒーレントである。
要点:準コンパクトな開集合だけを対象とし、有限被覆を被覆とする景は、比較補題により同じトポスを与える。
$K(X)$ を包含で順序を入れた半順序集合(圏)とみる。$X$ 自身が準コンパクトなので $X\in K(X)$ であり、これは終対象である。$U,V\in K(X)$ のファイバー積は $U\cap V\in K(X)$ である。よって $K(X)$ は有限極限をもつ。
開集合全体の景 $\operatorname{Op}(X)$ への包含 $K(X)\to\operatorname{Op}(X)$ は充満忠実で、$K(X)$ は開基なので、どの開集合も $K(X)$ の元で覆われる。Grothendieckトポスの定理「比較補題」により、$\operatorname{Sh}(X)$ は $K(X)$ に誘導位相を入れた景の層のトポスと同値である。誘導位相で $U\in K(X)$ の篩が被覆であることは、篩に属する開集合の和が $U$ であることである。$U$ は準コンパクトなので、そのような篩は有限個の元で $U$ を覆う部分族を含み、誘導位相は「$U_1\cup\dots\cup U_n=U$ となる有限族」を被覆とする前位相から生成される。これはコヒーレントトポスの定義の条件である。
$\operatorname{Spec}A$ がスペクトル空間であることは スペクトル空間の命題「可換環のスペクトルは spectral」による。$\square$
同じ議論で、準コンパクトで準分離なスキームの Zariski トポスはコヒーレントである。エタールトポスについては Grothendieckトポスの定理「点の十分性」の 2 を参照。
$G$ を有限群とし、$G$ の作用する集合と同変写像の圏 $\mathbf{Set}^G$ を考える。これは 1 対象の圏の前層のトポスである。有限な $G$ 集合のなす充満部分圏 $\mathcal C$ は有限極限をもち、全射な有限族を被覆とすると、$\mathbf{Set}^G\simeq\operatorname{Sh}(\mathcal C,J)$ である(どの $G$ 集合も有限な軌道の和で、軌道 $G/H$ は $\mathcal C$ に属する)。よって $\mathbf{Set}^G$ はコヒーレントである。$G$ 集合がコンパクトな対象であることは、軌道の個数が有限であることと同値である(J77 Examples 7.32 (ii)、p. 233)。
有限性の条件は、群が無限だと崩れる。
要点:コヒーレントトポスの終対象はコヒーレントである。1 では終対象がコンパクトでなく、2 では終対象が安定でない。
1:開区間 $(-n,n)$($n\ge1$)は $\mathbb R$ を覆うので、prop-ct-open-compact により終対象へのエピ的な族である。有限個の和は有界区間で $\mathbb R$ を覆わないので、有限個のエピ的な部分族はない。よって終対象はコンパクトでなく、def-ct-coherent-topos の直後に述べたことから $\operatorname{Sh}(\mathbb R)$ はコヒーレントでない。
2:$\mathbf{Set}^{\mathbb Z}$ では、射の族がエピ的であることは像の和が全体であることと同値である(像が全体でなければ、$\{0,1\}$ に自明な作用を入れた集合への、像の上で $0$、残りで $1$ の値をとる写像と定値写像 $0$ とで区別できる)。左からの作用による $\mathbb Z$ 自身はコンパクトである:エピ的な族の像は $0$ を含み、$0$ を像に含む 1 つの射の像は $\mathbb Z\cdot0=\mathbb Z$ 全体だからである。ところが終対象 $1$ の上のファイバー積 $\mathbb Z\times_1\mathbb Z=\mathbb Z\times\mathbb Z$ は、軌道 $\{(m,m+d)\mid m\in\mathbb Z\}$($d\in\mathbb Z$)の無限個の和であり、軌道の包含の族はエピ的だが、有限個の軌道では全体を覆わない。よって $\mathbb Z\times\mathbb Z$ はコンパクトでなく、終対象は安定でない。
点について:$\operatorname{Sh}(\mathbb R)$ では層の射の同型は各点の茎で判定できる。$\mathbf{Set}^{\mathbb Z}$ では、作用を忘れて集合をとる関手が点を与え、同変写像が同型であることは写像として全単射であることと同値である。$\square$
この命題は、コヒーレント性が「十分多くの点をもつ」ための十分条件にすぎないことを示している。逆に、点をまったくもたないトポスもある(Grothendieckトポスの注意「点の十分性の出典と点のないトポス」)。
ロケール(ロケール、フレーム(順序論))の上の層のトポスがコヒーレントになる場合を調べる。以下、$L$ を $0$ と $1$ をもつ分配束とする。$L$ のイデアルとは、$0$ を含み、下に閉じ($a\in I$、$b\le a$ なら $b\in I$)、有限の結び $\vee$ で閉じた部分集合をいう。フィルターはその順序を逆にしたもので、$1$ を含み、上に閉じ、有限の交わり $\wedge$ で閉じた部分集合をいう。フィルター $F$ が素であるとは、$0\notin F$ で、$a\vee b\in F$ なら $a\in F$ または $b\in F$ となることをいう。
$L$ のイデアルの全体 $\operatorname{Idl}(L)$ は包含について完備束であり、交わりは共通部分、結び $\bigvee_kI_k$ は $\bigcup_kI_k$ の元の有限個の結びの下にある元の全体である。$\operatorname{Idl}(L)$ はフレームであり、$a\mapsto{\downarrow}a:=\{b\mid b\le a\}$ は $L$ から $\operatorname{Idl}(L)$ への束の埋め込みである(Joh83 §3、p. 46)。
フレームが、ある分配束 $L$ のイデアルのフレーム $\operatorname{Idl}(L)$ と同型であるとき、そのロケールをコヒーレントであるという。
これは Joh83 §3(p. 46)の定義である。フレームの元 $u$ がコンパクトであるとは、$u\le\bigvee_kv_k$ ならつねに有限個の $k_1,\dots,k_n$ で $u\le v_{k_1}\vee\dots\vee v_{k_n}$ となることをいう。
$\operatorname{Idl}(L)$ のコンパクトな元は、主イデアル ${\downarrow}a$($a\in L$)にちょうど一致する。とくに、コンパクトな元は有限の交わりと結びで閉じ(${\downarrow}a\cap{\downarrow}b={\downarrow}(a\wedge b)$、${\downarrow}a\vee{\downarrow}b={\downarrow}(a\vee b)$)、どの元もコンパクトな元の結びである。
要点:イデアルは自分の元の主イデアルの結びであり、結びの元は有限個の結びの下にある。
${\downarrow}a\le\bigvee_kI_k$ なら、$a$ は $\bigcup_kI_k$ の有限個の元 $a_1,\dots,a_n$($a_j\in I_{k_j}$)の結びの下にあるので、$a\in I_{k_1}\vee\dots\vee I_{k_n}$ であり、${\downarrow}a$ はコンパクトである。逆に $I$ をコンパクトなイデアルとする。$I=\bigvee_{a\in I}{\downarrow}a$ なので、有限個の $a_1,\dots,a_n\in I$ で $I\le{\downarrow}a_1\vee\dots\vee{\downarrow}a_n={\downarrow}(a_1\vee\dots\vee a_n)$ となり、$a_1\vee\dots\vee a_n\in I$ だから $I={\downarrow}(a_1\vee\dots\vee a_n)$ である。等式 ${\downarrow}a\cap{\downarrow}b={\downarrow}(a\wedge b)$ と ${\downarrow}a\vee{\downarrow}b={\downarrow}(a\vee b)$ は定義から直ちに従う。$\square$
ロケール $\operatorname{Idl}(L)$ の上の層は、フレームの元を開集合とみなして位相空間の場合と同じく定義される。コンパクトな元 ${\downarrow}a$ だけを対象とし、「$a=a_1\vee\dots\vee a_n$ となる有限族 $\{a_j\le a\}$」を被覆とする景は、prf-ct-spectral と同じ比較補題の議論により、同じ層のトポスを与える。$L$ は有限極限(交わりと $1$)をもつので、コヒーレントなロケールの層のトポスはコヒーレントトポスである。prop-ct-spectral は、$L=K(X)$ の場合にあたる。
コヒーレントなロケールの点は、$L$ の素フィルターと同じものである。ロケールの命題「点と完全素フィルター」により、点は $\operatorname{Idl}(L)$ の完全素フィルターと同じもので、素フィルター $G\subset L$ には $\{I\mid I\cap G\neq\emptyset\}$ が対応する(次の定理の証明で確かめる)。
局所コヒーレントなトポス(終対象を覆う対象の族 $(X_i)$ で、各スライス $\mathcal E/X_i$ がコヒーレントトポスになるものをもつトポス。SGA4 VI 2.4.2)は十分多くの点をもつ。すなわち、層の射 $\varphi$ が同型であることは、すべての点 $x$ で $x^*\varphi$ が全単射であることと同値である。とくに、コヒーレントトポスは十分多くの点をもつ。
これは SGA4 VI Proposition 9.0(P. Deligne による付録「点の存在の判定法」)であり、コヒーレントトポスの場合は J77 Theorem 7.44(p. 242)である。この記事では一般の場合を証明しない。証明は、有限極限をもち被覆が有限な景 $(\mathcal C,J)$ の上で、$\mathcal C$ の対象の有向な逆系(擬点)$P=(U_i)_{i\in I}$ を考え、層 $X$ に余極限 $P(X):=\varinjlim_iX(U_i)$ を対応させる。異なる 2 つの切断 $x\neq y$ を区別したまま、有限被覆 $\{V_j\to V\}$ と $P(V)$ の元ごとに「どれかの $V_j$ を通る」ように逆系を細分していく。これを超限帰納法(被覆の整列)と長さ $\omega$ の帰納法で繰り返すと、すべての被覆を全射に写す擬点、すなわち点が得られ、そこで $x$ と $y$ は区別されたままである(J77 Lemma 7.41・7.42・7.43、pp. 241–242、SGA4 VI Lemme 9.1–9.4)。被覆が有限であることは、有向な余極限が有限積と単射を保つことを使うところで効く。
Makkai–Reyes は、コヒーレントトポスが有限的な幾何的理論の分類トポスとして現れることを使い、この定理を一階論理の完全性定理(整合的な理論はモデルをもつ)と結びつけた(J77 p. 243 の説明)。Deligne の定理が「完全性定理」と呼ばれるのはこのためである。
ロケールの場合には、証明は分配束の素フィルター定理に帰着する。
$L$ のフィルター $F$ とイデアル $I$ が交わらないなら、$F$ を含み $I$ と交わらない素フィルター $G$ がある。
要点:Zorn の補題で $I$ と交わらない極大なフィルターをとると、分配律によりそれは素である。
$F$ を含み $I$ と交わらないフィルターの全体を包含で順序づける。空でない鎖の和はフィルターで、$I$ と交わらないので、Zornの補題により極大元 $G$ がある。$0\in I$ なので $0\notin G$ である。$a\vee b\in G$ で $a,b\notin G$ と仮定する。$G\cup\{a\}$ の生成するフィルター $\{x\mid x\ge g\wedge a,\ g\in G\}$ は $G$ より真に大きいので、極大性により $I$ と交わる。よってある $g_1\in G$ について $g_1\wedge a\in I$ である($I$ は下に閉じている)。同様に $g_2\wedge b\in I$ となる $g_2\in G$ がある。$g:=g_1\wedge g_2\in G$ とおくと、分配律により $g\wedge(a\vee b)=(g\wedge a)\vee(g\wedge b)$ であり、$g\wedge a\le g_1\wedge a$、$g\wedge b\le g_2\wedge b$ なので、右辺は $I$ に属する。一方、$g$ と $a\vee b$ はともに $G$ に属するので、左辺は $G$ に属する。これは $G\cap I=\emptyset$ に反する。よって $G$ は素フィルターである。$\square$
この補題は Stone双対性の節「分配束への拡張」で引いた定理と同じもので、証明には選択公理(Zorn の補題)を使った。
$L$ を分配束とする。
1:$p_G$ が有限の交わりを保つことを示す。$\operatorname{Idl}(L)$ の最大元 $L$ は $1\in G$ を含むので $p_G(L)=1$ である。$I\cap J$ が $G$ と交われば $I$ と $J$ も交わる。逆に $a\in I\cap G$、$b\in J\cap G$ なら、$a\wedge b$ は $I\cap J$ に属し(イデアルは下に閉じている)、$G$ にも属する(フィルターは交わりで閉じている)。よって $p_G(I\cap J)=p_G(I)\,p_G(J)$ である。
任意の結びを保つことを示す。最小元 $\{0\}$ は、$0\notin G$ なので $p_G(\{0\})=0$ である。$\bigvee_kI_k$ が $G$ と交わるなら、その元 $x\in G$ は、ある $a_j\in I_{k_j}$($j=1,\dots,n$)について $x\le a_1\vee\dots\vee a_n$ を満たす。$G$ は上に閉じているので $a_1\vee\dots\vee a_n\in G$ であり、$G$ は素なので、ある $a_j$ が $G$ に属する。よって $I_{k_j}$ が $G$ と交わる。逆向きは $I_k\subset\bigvee_kI_k$ から明らかである。以上で $p_G$ はフレーム準同型である。
2:$a\in I\setminus J$ をとる。主フィルター ${\uparrow}a:=\{x\mid x\ge a\}$ は $J$ と交わらない($x\ge a$ で $x\in J$ なら、$J$ は下に閉じているので $a\in J$ となる)。lem-ct-prime-filter により、${\uparrow}a$ を含み $J$ と交わらない素フィルター $G$ がある。$a\in I\cap G$ なので $p_G(I)=1$、$J\cap G=\emptyset$ なので $p_G(J)=0$ である。
3:$I\neq J$ なら $I\not\subset J$ か $J\not\subset I$ なので、2 により $I$ と $J$ を区別する点がある。よって $\operatorname{Idl}(L)$ はロケールの定義「空間的ロケール」の意味で空間的であり、同じ記事の命題「空間的ロケールの点による復元」により、$I\mapsto U_I:=\{p\mid p(I)=1\}$ は点の空間の開集合のフレームへの同型である。点の全体は、1 の $G\mapsto p_G$ により素フィルターの全体と一対一に対応する。実際、点 $p$ に対して $G:=\{a\mid p({\downarrow}a)=1\}$ は素フィルターで($p$ が ${\downarrow}(a\wedge b)={\downarrow}a\cap{\downarrow}b$、${\downarrow}(a\vee b)={\downarrow}a\vee{\downarrow}b$ を保つことによる)、どのイデアルも主イデアルの結びなので $p=p_G$ である。この対応で $U_{{\downarrow}a}=\widehat a$ であり、主イデアルはフレームを結びで生成するので、$\widehat a$ は点の空間の位相の開基である。$\square$
3 の点の空間は、分配束の Stone 表現に現れるスペクトル空間であり(Stone双対性の節「分配束への拡張」、Sto38 Theorem 15、p. 14)、コヒーレントなロケールとスペクトル空間は同じものの 2 つの見方である(Joh83 §3、p. 46)。定理から、Deligne の定理のロケール版が従う。
コヒーレントなロケール $\operatorname{Idl}(L)$ の層のトポスは十分多くの点をもつ。すなわち、その上の層の射が同型であることは、素フィルターに対応するすべての点での茎が全単射であることと同値である。
thm-ct-coherent-locale-spatial の 3 により、$\operatorname{Idl}(L)$ は素フィルターの空間 $X$ の開集合のフレームと同型なので、層のトポスは $\operatorname{Sh}(X)$ と同値である。位相空間の上の層の射が同型であることは、各点の茎が全単射であることと同値である(茎の命題「茎による射の判定」)。$X$ の点は素フィルターである。$\square$
証明が使った選択原理は lem-ct-prime-filter だけである。「すべてのコヒーレントなロケールが空間的である」ことは、分配束の素イデアル定理と $\mathsf{ZF}$ の上で同値である(Joh83 §3、p. 46)。したがって、選択原理を仮定しない枠組みでは、Deligne の定理はロケール版でさえ成り立つとは限らない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 終対象がコンパクトであること | $\operatorname{Sh}(\mathbb R)$(prop-ct-counterexamples の 1) | コヒーレントであること。ただし点は十分ある |
| 終対象が安定であること | $\mathbf{Set}^{\mathbb Z}$(prop-ct-counterexamples の 2) | コヒーレントであること。ただし点は十分ある |
| 被覆が有限個で済むこと(ロケールの場合) | 原子をもたない完備 Boole 代数のロケール | 点が存在すること(点が 1 つもない) |
| 素イデアル定理(選択原理) | $\mathsf{ZF}$ だけ | コヒーレントなロケールが空間的であることが証明できない |
1・2 行目は、コヒーレント性が点の十分性の必要条件でないことを示す。3 行目:完備 Boole 代数の点は原子に対応する(sober空間の命題「完備 Boole 代数の点と原子」)ので、原子のない完備 Boole 代数(実数直線の正則開集合の代数など。sober空間の例「実数直線の正則開集合の代数」)のロケールには点がない。その層のトポスは、$0\neq1$ のフレームから作ったので終対象と始対象が同型でない(退化していない)。点をもたない退化していないトポスは十分多くの点をもたないので、コヒーレントでない(thm-ct-deligne)。4 行目は Joh83 §3(p. 46)の同値による。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する