Bowman–Bradley型定理(Bowman–Bradley type theorem)とは、$\{1,3\}$ の隙間へ指定個数の $2$ を分配したBBBL型インデックスに関する多重ゼータ値の評価、およびその有限・対称類似の総称である。通常版では和が円周率の冪の有理数倍となり、有限版と対称版では奇数 $a,b$ と偶数 $c$ から作る対応する通常値・スター値の和が各値域で消滅する。
前提知識: 多重ゼータ値, 多重ゼータスター値, 有限多重ゼータ値, 対称多重ゼータ値
Bowman–Bradleyの定理は、$1,3,1,3,\ldots,1,3$ という列の隙間へ指定個数の $2$ を分配し、得られる多重ゼータ値をすべて足すと、円周率の冪の有理数倍になるという定理である。有限多重ゼータ値と対称多重ゼータ値では、$1,3,2$ をより一般の奇数・奇数・偶数へ置き換えた同型の和が $0$ になる。
「Bowman–Bradley型定理」は単一の定理の正式名称ではなく、この形のインデックスに対する評価・消滅定理の総称として用いられる。本記事では共通するインデックスの形と、通常版・有限版・対称版の主張の違いを整理する。多重ゼータ値の一般理論、正規化、有限・対称値を収容する環の構成は各専門記事に譲る。
空列を $\emptyset$ と書き、正整数 $c$ を $m$ 回並べた列を $\{c\}^m$ と書く。特に $\{c\}^0=\emptyset$ とする。
非負整数 $r$ と $n_0,\ldots,n_{2r}$ に対し
$$
(\{2\}^{n_0},1,\{2\}^{n_1},3,
\ldots,
\{2\}^{n_{2r-2}},1,\{2\}^{n_{2r-1}},3,
\{2\}^{n_{2r}})
$$
という形のインデックスをBBBL型インデックスという。$r=0$ のときは $\{2\}^{n_0}$ と読む。名称はBorwein、Bradley、Broadhurst、Lisoněkの頭文字に由来する。
$n_0+\cdots+n_{2r}=s$ とする。対応するBBBL型インデックスは、$(r,s)\neq(0,0)$ なら重さ $4r+2s$、深さ $2r+s$ の許容インデックスである。
$1,3$ の組が $r$ 個あるので、その重さへの寄与は $4r$、深さへの寄与は $2r$ である。挿入した $2$ は合計 $s$ 個なので、重さへ $2s$、深さへ $s$ を加える。
$r>0$ なら、末尾は $3$ または挿入された $2$ である。$r=0$ なら $(r,s)\neq(0,0)$ より $s>0$ であり、インデックスは $\{2\}^s$ である。いずれも最後の成分は $2$ 以上だから、本サイトの $0< m_1<\cdots< m_d$ という流儀では許容インデックスである。
$r,s$ を非負整数とする。$n_0+\cdots+n_{2r}=s$ を満たす非負整数列の個数は
$$
{2r+s\choose s}={2r+s\choose2r}
$$
である。
$s$ 個の同じ玉を一列に置き、$2r$ 本の棒を挿入して $2r+1$ 個の区画に分ける。第 $j$ 区画の玉の個数を $n_j$ とすれば、非負整数解 $(n_0,\ldots,n_{2r})$ がただ一つ得られる。逆に各解から玉と棒の列が復元される。全 $2r+s$ 箇所のうち棒の位置を選ぶ方法は ${2r+s\choose2r}$ 通りである。
同時には $0$ でない非負整数 $r,s$ に対し
$$
\begin{aligned}
&\sum_{\substack{n_0,\ldots,n_{2r}\geq0\\
n_0+\cdots+n_{2r}=s}}
\zeta(\{2\}^{n_0},1,\{2\}^{n_1},3,\ldots,
\{2\}^{n_{2r-2}},1,\{2\}^{n_{2r-1}},3,
\{2\}^{n_{2r}})\\
&\qquad={2r+s\choose s}
\frac{\pi^{4r+2s}}
{(2r+1)(4r+2s+1)!}.
\end{aligned}
$$
この定理の正本と出典は 多重ゼータ値 に置く。BB02 Corollary 5.1。
本記事では通常版の完全証明を重複掲載しない。証明には反復積分のシャッフル代数と生成関数が必要であり、上の閉じた式は単なる対称性や項数の計算だけからは従わない。ここでは有限・対称版と比較するために正確な主張を再掲した。
正整数 $s$ と $r$ に対し、それぞれ
$$
\zeta(\{2\}^{s})=\frac{\pi^{2s}}{(2s+1)!},
\qquad
\zeta(\{1,3\}^{r})
=\frac{\pi^{4r}}{(2r+1)(4r+1)!}
$$
が成り立つ。
Bowman–Bradleyの定理で $r=0$ とすると、和の条件は $n_0=s$ だけであり、二項係数は $1$ になる。これが第1式である。$s=0$ とすると、すべての $n_j$ が $0$ でなければならず、和は $\zeta(\{1,3\}^r)$ の一項だけになる。これが第2式である。
$a,b$ を正の奇数、$c$ を正の偶数とする。$1,3,2$ を $a,b,c$ に置き換えた和を
$$
\begin{aligned}
B^{\bullet}_{r,s}(a,b;c)
:={}&\sum_{\substack{n_0,\ldots,n_{2r}\geq0\\
n_0+\cdots+n_{2r}=s}}
\zeta^{\bullet}(\{c\}^{n_0},a,\{c\}^{n_1},b,\ldots,\\
&\hspace{42mm}
\{c\}^{n_{2r-2}},a,\{c\}^{n_{2r-1}},b,
\{c\}^{n_{2r}})
\end{aligned}
$$
と書く。ここで $\bullet=\mathcal A,\mathcal A\star,\mathcal S,\mathcal S\star$ は、それぞれ有限多重ゼータ値、有限多重ゼータスター値、対称多重ゼータ値、対称多重ゼータスター値を表す。$r=0$ のときは $\zeta^{\bullet}(\{c\}^s)$ と読む。
$r,s$ を同時には $0$ でない非負整数とする。このとき
$$
B^{\mathcal A}_{r,s}(a,b;c)=0,
\qquad
B^{\mathcal A\star}_{r,s}(a,b;c)=0
$$
が有限多重ゼータ値の環 $\mathcal A$ で成り立つ。SW16 Theorem 1.4。より強い対称和の主定理は同論文のTheorem 1.6である。
奇偶条件は「$a,b$ が正の奇数、$c$ が正の偶数」である。$a=1$、$b=3$、$c=2$ だけに限る定理ではない。また $r=0$ または $s=0$ は許されるが、空インデックスだけになる $(r,s)=(0,0)$ は除く。通常版と異なり、結論は円周率の冪の表示ではなく $\mathcal A$ における消滅である。
$r,s$ を同時には $0$ でない非負整数とする。このとき
$$
B^{\mathcal S}_{r,s}(a,b;c)=0,
\qquad
B^{\mathcal S\star}_{r,s}(a,b;c)=0
$$
が対称多重ゼータ値の値域 $\mathcal Z/\zeta(2)\mathcal Z$ で成り立つ。SS2018「対称多重ゼータ値の関係式」に関する解説。
対称多重ゼータ値は実数として一意に定まる値ではなく、正規化多重ゼータ値から作られる類である。「$0$」は商 $\mathcal Z/\zeta(2)\mathcal Z$ の零元を意味する。代表元を選んだ実数が文字どおり $0$ である、という主張へ強めてはいけない。
有限版の原論文は、奇数成分を独立に置換した列を成分単位でシャッフルした対称和 $I_{\boldsymbol a}$ を導入し、次の三段階で証明する。
$a,b$ を正の奇数、$c$ を正の偶数とする。$B^{\bullet}_{r,s}(a,b;c)$ に現れるすべてのインデックスは重さ
$$
r(a+b)+sc
$$
と深さ $2r+s$ をもつ。
$a,b$ の組が $r$ 個あるため、その重さは $r(a+b)$、深さは $2r$ である。$c$ は各区画に分かれているが総数は $n_0+\cdots+n_{2r}=s$ なので、重さへの寄与は $sc$、深さへの寄与は $s$ である。分配の仕方に依存しない。
$(r,s)=(1,1)$ の通常版は
$$
\zeta(2,1,3)+\zeta(1,2,3)+\zeta(1,3,2)
=\frac{\pi^6}{7!}
$$
である。実際、三つの区画のどこへ一つの $2$ を置くかを足し、定理の右辺では
$$
{3\choose1}\frac{\pi^6}{3\cdot7!}=\frac{\pi^6}{7!}
$$
となる。有限版と対称版では、$2,1,3$ を一般の $c,a,b$ に置き換えた同じ三項和と、そのスター版がそれぞれの値域で $0$ になる。
有限・対称版の消滅定理は、$a,b$ が奇数で $c$ が偶数という仮定のもとで一般の深さを扱う。ただし、この条件が個々の退化した場合にも必要だという意味ではない。実際、$r=0,s=1$ の深さ1では有限値・対称値はいずれも任意の正整数 $c$ について消える。従って深さ1を奇偶条件の必要性の反例として使ってはならず、条件外の高深さの和はこの定理の射程外として別に判定する必要がある。
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