アーベル化

同義語:abelianization

概要

アーベル化(abelianization)とは、群 $G$ をその交換子部分群 $[G,G]$ で割った剰余群 $G^{\mathrm{ab}}=G/[G,G]$ のことである。$G^{\mathrm{ab}}$ はアーベル群であり、$G$ からアーベル群への準同型はすべて標準射影 $G\to G^{\mathrm{ab}}$ をただ一通りに経由するので、$G$ の最大のアーベル群の剰余群である。準同型は $G^{\mathrm{ab}}$ の間の準同型を誘導し、全射は保たれるが単射は保たれない。有限個の直積のアーベル化は各成分のアーベル化の直積であり、生成元と関係式で与えられた群のアーベル化は関係子の指数の総和から計算できる。$2$ 次以上の対称群のアーベル化は位数 $2$、自由群のアーベル化は自由アーベル群である。弧状連結な空間の基本群のアーベル化は 1 次ホモロジー群と同型になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群, 交換子部分群, 正規部分群, 剰余群, 群準同型, アーベル群

定義

群 $G$ の単位元を $e$ と書く。$x,y\in G$ の交換子を $[x,y]:=xyx^{-1}y^{-1}$ とし、交換子全体が生成する部分群を $G$ の交換子部分群 $[G,G]$ と書く(交換子部分群 の記事と同じ記法)。$[G,G]$ は $G$ の正規部分群である(同記事の系「自己準同型による不変性」)。

アーベル化

群 $G$ の交換子部分群による剰余群
$$ G^{\mathrm{ab}}:=G/[G,G] $$
を $G$ の アーベル化(abelianization)という。$G_{\mathrm{ab}}$ とも書く。標準射影
$$ \pi_G\colon G\to G^{\mathrm{ab}},\qquad x\mapsto x[G,G] $$
をアーベル化の射という。

$G^{\mathrm{ab}}$ はアーベル群であり、アーベル群について考えるときは $G^{\mathrm{ab}}$ の演算を和で書くこともある。$\pi_G$ は全射な群準同型で、その核は $[G,G]$ である(剰余群 の記事の命題「剰余群の構成」の 3)。

アーベル化の基本性質

$G$ を群とする。

  1. $G^{\mathrm{ab}}$ はアーベル群である。
  2. $N$ を $G$ の正規部分群とすると、$G/N$ がアーベル群であることと $[G,G]\subset N$ であることは同値である。
  3. (普遍性)アーベル群 $A$ への任意の群準同型 $f\colon G\to A$ に対し、$\bar f\circ\pi_G=f$ を満たす群準同型 $\bar f\colon G^{\mathrm{ab}}\to A$ がただ一つ存在する。
  4. 群 $Q$ と群準同型 $q\colon G\to Q$ が 3 と同じ性質をもち($Q$ はアーベル群で、アーベル群 $A$ への任意の群準同型 $f$ が $q$ を経由してただ一通りに分解する)ならば、$\varphi\circ\pi_G=q$ を満たす群の同型 $\varphi\colon G^{\mathrm{ab}}\to Q$ がただ一つ存在する。
基本性質の証明の所在

1・2 は 交換子部分群 の記事の命題「アーベル商と交換子部分群」の 2・1、3 は同記事の命題「アーベル化の普遍性」で証明されている(剰余群 の記事の命題「アーベル群への準同型とアーベル化」にも同じ証明がある)。3 の要点は、$A$ が可換なので $f([x,y])=[f(x),f(y)]$ が単位元になり、$[G,G]\subset\ker f$ となることである。4 は、剰余群 の記事の命題「普遍性による剰余群の一意性」と同じ議論で、3 の一意性を $f=\pi_G$ と $f=q$ に当てはめれば得られる。$G^{\mathrm{ab}}$ の元の具体的な形(剰余類)によらず、アーベル化は 3 の性質で同型を除いて決まる。

2 により、$[G,G]$ は割るとアーベル群になる正規部分群のうち最小のものであり、$G$ の剰余群でアーベル群になるものは、すべて $G^{\mathrm{ab}}$ の剰余群である。この意味で $G^{\mathrm{ab}}$ は $G$ の最大のアーベル群の剰余群である。

直感

アーベル化は、群の積から「順序の違い」だけを忘れる操作である。$G^{\mathrm{ab}}$ では $xy$ と $yx$ が同じ元になり、$xy=[x,y]\,yx$ の食い違いを表す交換子がすべて単位元になる。忘れるのは可換性からのずれだけで、それ以外の情報、すなわち $G$ からアーベル群への準同型で見える情報はすべて残る(thm-abelianization-basic の 3)。
アーベル群は整数を係数とする線形代数で扱えるので、アーベル化は非可換な群を調べるための最初の「線形化」になる。群が生成元と関係式で与えられていれば、アーベル化は関係式の文字の指数を数えるだけで計算できる(prop-abelianization-presentation)。位相幾何では、弧状連結な空間の基本群のアーベル化が 1 次の特異ホモロジー群になり(thm-abelianization-homology)、閉曲線が「何回巻きついたか」という可換な情報だけを取り出したものとして現れる。反対に、完全群のようにアーベル化が自明群になる群では、この操作で何も見えなくなる。

例と反例

置換の積 $\sigma\tau$ は「$\tau$ を先に、$\sigma$ を後に」施す合成とする。

アーベル群のアーベル化

$G$ がアーベル群なら、すべての交換子は $e$ なので $[G,G]=\{e\}$ であり、$\pi_G\colon G\to G^{\mathrm{ab}}$ は同型である。たとえば整数の加法群について $\mathbb{Z}^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}$、$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ である。逆に $\pi_G$ が単射なら $[G,G]=\ker\pi_G=\{e\}$ となり、$G$ はアーベル群である。

対称群と交代群

$n\ge2$ なら、対称群 $S_n$ の交換子部分群は交代群 $A_n$ であり(交換子部分群 の記事の命題「対称群の交換子部分群」)、置換の符号 $\operatorname{sgn}\colon S_n\to\{\pm1\}$ は全射で核が $A_n$ なので、
$$ S_n^{\mathrm{ab}}=S_n/A_n\cong\{\pm1\} $$
である。$S_n$ からアーベル群への準同型は、すべて符号を経由する。
交代群については、同記事の命題「交代群の交換子部分群」により次のようになる。$A_3$ は位数(群の位数)$3$ の巡回群なので $A_3^{\mathrm{ab}}=A_3$ である。$[A_4,A_4]$ は位数 $4$ の部分群 $V=\{e,(1\,2)(3\,4),(1\,3)(2\,4),(1\,4)(2\,3)\}$ なので、$A_4^{\mathrm{ab}}=A_4/V$ は位数 $12/4=3$ の群、すなわち位数 $3$ の巡回群である。$n\ge5$ なら $[A_n,A_n]=A_n$ なので $A_n^{\mathrm{ab}}$ は自明群である。

二面体群と四元数群

位数 $2n$ の二面体群 $\operatorname{Dih}_n=\langle r,s\mid r^n=s^2=e,\ srs=r^{-1}\rangle$($n\ge1$)では $[\operatorname{Dih}_n,\operatorname{Dih}_n]=\langle r^2\rangle$ である(交換子部分群 の記事の例「正多角形の対称性」)。$\langle r^2\rangle$ の位数は $n$ が奇数なら $n$、偶数なら $n/2$ なので、$\operatorname{Dih}_n^{\mathrm{ab}}$ の位数は $n$ が奇数なら $2$、偶数なら $4$ である。偶数の場合、$\operatorname{Dih}_n^{\mathrm{ab}}$ は $r,s$ の像で生成され、どちらの像も $2$ 乗が単位元なので、$\operatorname{Dih}_n^{\mathrm{ab}}$ は $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ と同型である。
四元数群 $Q_8$ では $[Q_8,Q_8]=\{1,-1\}$ であり、$Q_8^{\mathrm{ab}}=Q_8/\{1,-1\}$ はKleinの四元群と同型である(四元数群 の記事の命題「中心・交換子部分群・剰余群」)。$\operatorname{Dih}_4$ と $Q_8$ は同型でない位数 $8$ の群であるが(四元数群 の記事の命題「二面体群との非同型」)、アーベル化はどちらも Klein の四元群である。これらは ex-abelianization-presentation で表示からも計算し直す。

一般線形群のアーベル化

$k$ を体、$n\ge1$ とし、$(n,k)\neq(2,\mathbb{F}_2)$ とする。このとき一般線形群の交換子部分群は特殊線形群である:$[\mathrm{GL}_n(k),\mathrm{GL}_n(k)]=\mathrm{SL}_n(k)$(交換子部分群 の記事の例「行列式が 1 の行列」。同記事は $n\ge3$ などの場合を文献の言明の引用で済ませている)。行列式 $\det\colon\mathrm{GL}_n(k)\to k^\times$ は全射($\det\operatorname{diag}(a,1,\dots,1)=a$)で核が $\mathrm{SL}_n(k)$ なので、群準同型 の記事の定理「群の第1同型定理」により
$$ \mathrm{GL}_n(k)^{\mathrm{ab}}\cong k^\times $$
であり、同型は行列式が誘導する。除いた場合 $\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)$ は $S_3$ と同型なので、アーベル化は位数 $2$ であって、$\mathbb{F}_2^\times=\{1\}$ とは一致しない。

自由群とHeisenberg群

集合 $X$ 上の自由群 $F(X)$ のアーベル化は、$X$ で添字づけられた $\mathbb{Z}$ の直和 $\mathbb{Z}^{(X)}$(自由アーベル群)と同型であり、生成元 $x$ の像は $x$ 成分だけが $1$ の元 $e_x$ に対応する(自由群 の記事の定理「自由群のアーベル化」)。とくに階数 $m$ の自由群 $F_m$ について $F_m^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}^m$ である。
$\mathbb{Z}^3$ に積 $(a,b,c)(a',b',c'):=(a+a',\,b+b',\,c+c'+ab')$ を入れた Heisenberg群 $H$ では、交換子部分群は $\{(0,0,c)\mid c\in\mathbb{Z}\}$ であり、$H^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}^2$ である(交換子部分群 の記事の例「Heisenberg群」)。同型は $(a,b,c)\mapsto(a,b)$ が誘導する。

反例:アーベル化は群を決めない

$S_3^{\mathrm{ab}}\cong\{\pm1\}$(ex-abelianization-symmetric)と $(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^{\mathrm{ab}}=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ は同型であるが、$S_3$ は位数 $6$、$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ は位数 $2$ で、同型でない。同じく $A_5$ と自明群はどちらもアーベル化が自明群である。これらは「$G^{\mathrm{ab}}\cong H^{\mathrm{ab}}$」を満たすが「$G\cong H$」を満たさず、含意「アーベル化が同型なら群も同型」を破る。アーベル化が失うのは交換子部分群 $[G,G]$ の部分の情報であり、$[G,G]=G$ となる完全群では $G$ についての情報がすべて失われる。

反例:部分群の包含はアーベル化で単射にならない

$A_5$ の部分群 $C:=\langle(1\,2\,3\,4\,5)\rangle$ は位数 $5$ の巡回群なので $C^{\mathrm{ab}}=C$ は位数 $5$ であるが、$A_5^{\mathrm{ab}}$ は自明群である(ex-abelianization-symmetric)。したがって包含 $\iota\colon C\to A_5$ が誘導する準同型 $\iota^{\mathrm{ab}}\colon C^{\mathrm{ab}}\to A_5^{\mathrm{ab}}$(prop-abelianization-functor)は単射でなく、$C^{\mathrm{ab}}$ は $A_5^{\mathrm{ab}}$ のどの部分群とも同型でない。同じ現象は $A_3\subset S_3$ でも起こる:$A_3=[S_3,S_3]$ なので $\pi_{S_3}(A_3)$ は単位元だけであり、$\iota^{\mathrm{ab}}\colon A_3^{\mathrm{ab}}\to S_3^{\mathrm{ab}}$ は位数 $3$ の群から位数 $2$ の群への自明な準同型である。これらは「$\iota$ は単射」を満たすが「$\iota^{\mathrm{ab}}$ は単射」を満たさず、含意「単射準同型のアーベル化は単射」を破る。全射については逆に、アーベル化も全射になる(prop-abelianization-functor の 3)。

性質

準同型が誘導する準同型

アーベル化の関手性

$f\colon G\to H$ を群準同型とする。

  1. $f^{\mathrm{ab}}\circ\pi_G=\pi_H\circ f$ を満たす群準同型 $f^{\mathrm{ab}}\colon G^{\mathrm{ab}}\to H^{\mathrm{ab}}$ がただ一つ存在し、$f^{\mathrm{ab}}(x[G,G])=f(x)[H,H]$ で与えられる。
  2. $(\mathrm{id}_G)^{\mathrm{ab}}=\mathrm{id}_{G^{\mathrm{ab}}}$ であり、群準同型 $g\colon H\to K$ について $(g\circ f)^{\mathrm{ab}}=g^{\mathrm{ab}}\circ f^{\mathrm{ab}}$ である。とくに $G\cong H$ なら $G^{\mathrm{ab}}\cong H^{\mathrm{ab}}$ である。
  3. $f$ が全射なら、$f^{\mathrm{ab}}$ は全射であり、$\ker f^{\mathrm{ab}}=\pi_G(\ker f)$ である。したがって $H^{\mathrm{ab}}\cong G^{\mathrm{ab}}/\pi_G(\ker f)$ である。

1:$\pi_H\circ f\colon G\to H^{\mathrm{ab}}$ はアーベル群への群準同型なので、thm-abelianization-basic の 3 により $f^{\mathrm{ab}}\circ\pi_G=\pi_H\circ f$ を満たす $f^{\mathrm{ab}}$ がただ一つ存在する。この等式を $x\in G$ で評価すれば値の式が得られる。
2:$\mathrm{id}_{G^{\mathrm{ab}}}$ は $\mathrm{id}_{G^{\mathrm{ab}}}\circ\pi_G=\pi_G\circ\mathrm{id}_G$ を満たすので、1 の一意性により $(\mathrm{id}_G)^{\mathrm{ab}}$ に等しい。また
$$ g^{\mathrm{ab}}\circ f^{\mathrm{ab}}\circ\pi_G=g^{\mathrm{ab}}\circ\pi_H\circ f=\pi_K\circ g\circ f $$
なので、1 の一意性($g\circ f$ に対するもの)により $g^{\mathrm{ab}}\circ f^{\mathrm{ab}}=(g\circ f)^{\mathrm{ab}}$ である。$f$ が同型で逆写像 $f^{-1}$ をもてば、$(f^{-1})^{\mathrm{ab}}$ が $f^{\mathrm{ab}}$ の逆写像になる。
3:$N:=\ker f$ とおく。$\pi_H\circ f$ は全射の合成なので全射であり、$f^{\mathrm{ab}}\circ\pi_G=\pi_H\circ f$ から $f^{\mathrm{ab}}$ も全射である。$n\in N$ なら $f^{\mathrm{ab}}(\pi_G(n))=\pi_H(f(n))=\pi_H(e)$ なので $\pi_G(N)\subset\ker f^{\mathrm{ab}}$ である。逆に $x[G,G]\in\ker f^{\mathrm{ab}}$、すなわち $f(x)\in[H,H]$ とする。$f$ は全射なので $f([G,G])=[H,H]$ であり(交換子部分群 の記事の命題「準同型による像」の 2)、$f(x)=f(c)$ となる $c\in[G,G]$ がある。$n:=c^{-1}x$ とおくと $f(n)=e$ なので $n\in N$ であり、$x=cn$ である。$[G,G]$ は正規部分群なので $x[G,G]=cn[G,G]=n\,(n^{-1}cn)[G,G]=n[G,G]=\pi_G(n)$ となり、$x[G,G]\in\pi_G(N)$ である。よって $\ker f^{\mathrm{ab}}=\pi_G(N)$ であり、最後の同型は 群準同型 の記事の定理「群の第1同型定理」を全射 $f^{\mathrm{ab}}$ に適用したものである。$\square$

2 は、$G\mapsto G^{\mathrm{ab}}$、$f\mapsto f^{\mathrm{ab}}$ が群の圏からアーベル群の圏への関手であることを述べている。thm-abelianization-basic の 3 は、群 $G$ とアーベル群 $A$ について、対応 $f\mapsto\bar f$ が群準同型 $G\to A$ の全体からアーベル群の準同型 $G^{\mathrm{ab}}\to A$ の全体への全単射であることを意味し、この全単射は 1 の等式により $G$ と $A$ について自然である。すなわちアーベル化は、アーベル群を群とみなす包含関手の左随伴関手である。3 は、アーベル化が全射を保ち、剰余群 $G/N$ のアーベル化を $G^{\mathrm{ab}}$ から計算できることを述べている。単射は保たれない(ex-abelianization-subgroup)。

直積のアーベル化

直積のアーベル化

$G_1,\dots,G_n$($n\ge1$)を群とする。直積について
$$ (G_1\times\cdots\times G_n)^{\mathrm{ab}}\cong G_1^{\mathrm{ab}}\times\cdots\times G_n^{\mathrm{ab}} $$
が成り立ち、同型は $(x_1,\dots,x_n)[G,G]\mapsto(\pi_{G_1}(x_1),\dots,\pi_{G_n}(x_n))$($G:=G_1\times\cdots\times G_n$)で与えられる。

$G_1\times\cdots\times G_n=(G_1\times\cdots\times G_{n-1})\times G_n$ と見て $n$ についての帰納法を使えば、$n=2$ の場合を示せばよい。群 $G,H$ について
$$ \varphi\colon G\times H\to G^{\mathrm{ab}}\times H^{\mathrm{ab}},\qquad(x,y)\mapsto(\pi_G(x),\pi_H(y)) $$
は全射な群準同型であり、$\ker\varphi=[G,G]\times[H,H]$ である。$\varphi$ の値域はアーベル群なので、交換子の像 $\varphi([u,v])=[\varphi(u),\varphi(v)]$ は単位元であり、$\ker\varphi$ は部分群なので $[G\times H,G\times H]\subset\ker\varphi$ である。
逆の包含を示す。$x\mapsto(x,e)$ は群準同型 $G\to G\times H$ なので、交換子部分群 の記事の命題「準同型による像」の 1 により $[G,G]\times\{e\}\subset[G\times H,G\times H]$ であり、同様に $\{e\}\times[H,H]\subset[G\times H,G\times H]$ である。$(a,b)=(a,e)(e,b)$ なので $[G,G]\times[H,H]\subset[G\times H,G\times H]$ である。
よって $[G\times H,G\times H]=\ker\varphi$ であり、群の第1同型定理により $(G\times H)^{\mathrm{ab}}=(G\times H)/\ker\varphi\cong G^{\mathrm{ab}}\times H^{\mathrm{ab}}$ が $\varphi$ から誘導される。$\square$

証明は各成分を別々に交換子の積に書いてから並べるので、有限個の直積についての議論である。たとえば $(S_3\times\mathbb{Z})^{\mathrm{ab}}\cong\{\pm1\}\times\mathbb{Z}$、$(A_5\times Q_8)^{\mathrm{ab}}\cong Q_8^{\mathrm{ab}}$ である。

表示からの計算

集合 $X$ に対し、$\mathbb{Z}^{(X)}$ を $X$ で添字づけられた $\mathbb{Z}$ の直和とし、$e_x$ を $x$ 成分だけが $1$ の元とする。自由群の普遍性により、$x\mapsto e_x$ を延長する群準同型 $\rho_X\colon F(X)\to\mathbb{Z}^{(X)}$ がただ一つある。語 $w$ について $\rho_X(w)$ の $x$ 成分は、$w$ に現れる $x$ の指数の総和($x$ の個数から $x^{-1}$ の個数を引いたもの)である。ex-abelianization-free の同型は、$\rho_X$ が誘導する同型 $F(X)^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}^{(X)}$ にほかならない(どちらも生成元の像を $e_x$ に送る準同型であり、そのような準同型は 1 つしかない)。したがって $\rho_X$ は全射で、$\ker\rho_X=[F(X),F(X)]$ である。
$R\subset F(X)$ に対し、$R$ を含む最小の正規部分群($R$ の正規閉包)を $N(R)$ と書き、群の表示 $\langle X\mid R\rangle:=F(X)/N(R)$ を考える(群の表示 の記事と同じ記法)。

表示からのアーベル化の計算

$G=\langle X\mid R\rangle$ とし、$L\subset\mathbb{Z}^{(X)}$ を $\{\rho_X(r)\mid r\in R\}$ が生成する部分群とする。このとき
$$ G^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}^{(X)}/L $$
であり、同型は各生成元 $x$ の像を $e_x+L$ に送る。

$p\colon F(X)\to G$ を標準射影とすると、$p$ は全射で $\ker p=N(R)$ である。prop-abelianization-functor の 3 により $G^{\mathrm{ab}}\cong F(X)^{\mathrm{ab}}/\pi_{F(X)}(N(R))$ であり、これを同型 $F(X)^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}^{(X)}$ で移すと $G^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}^{(X)}/\rho_X(N(R))$ を得る。$\rho_X(N(R))=L$ を示せばよい。
まず、$N(R)$ は $grg^{-1}$($g\in F(X)$、$r\in R$)の全体が生成する部分群 $K$ に等しい。実際、$N(R)$ は $R$ を含む正規部分群なので $K\subset N(R)$ である。逆に、$K$ の元は $gr^{\pm1}g^{-1}$ の形の元の有限個の積であり、$h\in F(X)$ による共役はそれを $(hg)r^{\pm1}(hg)^{-1}$ の形の元の積に送るので、$K$ は正規部分群である。$K$ は $R$ を含む($g=e$)ので、$N(R)$ の最小性から $N(R)\subset K$ である。
$\mathbb{Z}^{(X)}$ は可換なので $\rho_X(grg^{-1})=\rho_X(g)+\rho_X(r)-\rho_X(g)=\rho_X(r)$ である。群準同型は生成系を像の生成系に送るので、$\rho_X(N(R))=\rho_X(K)$ は $\{\rho_X(r)\mid r\in R\}$ が生成する部分群 $L$ に等しい。同型が $x$ の像を $e_x+L$ に送ることは、構成に使った写像がすべて生成元の像を対応する生成元の像に送ることからわかる。$\square$

$X$ も $R$ も有限なら、$L$ は各関係子の指数の総和を並べた整数行列の行が生成する部分群であり、$\mathbb{Z}^{(X)}/L$ はこの行列の基本変形によって $\mathbb{Z}^{r}\oplus\bigoplus_i\mathbb{Z}/d_i\mathbb{Z}$ の形に直せる(有限生成アーベル群の基本定理)。

表示によるアーベル化の計算

以下、生成元の集合 $X$ を明示せず $\rho_X$ を $\rho$ と書く。

  1. 二面体群 $\operatorname{Dih}_n=\langle r,s\mid r^n,\ s^2,\ srsr\rangle$($srs=r^{-1}$ を関係子 $srsr$ で表した)。$\rho(r^n)=ne_r$、$\rho(s^2)=2e_s$、$\rho(srsr)=2e_r+2e_s$ なので、$L$ は $ne_r$、$2e_r$、$2e_s$ で生成され、$L=\gcd(n,2)\mathbb{Z}\,e_r\oplus2\mathbb{Z}\,e_s$ である。よって $\operatorname{Dih}_n^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}/\gcd(n,2)\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ であり、ex-abelianization-dihedral と一致する。
  2. 四元数群 $Q_8\cong\langle a,b\mid a^4=1,\ a^2=b^2,\ bab^{-1}=a^{-1}\rangle$(四元数群 の記事の命題「生成元と関係式による表示」)。関係子 $a^4$、$a^2b^{-2}$、$bab^{-1}a$ の像は $4e_a$、$2e_a-2e_b$、$2e_a$ なので $L=2\mathbb{Z}\,e_a\oplus2\mathbb{Z}\,e_b$ であり、$Q_8^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である。
  3. $m,n\ge1$ について $\langle a,b\mid a^m,\ b^n\rangle$ のアーベル化は $\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ である。$m,n\ge2$ ならこの群は可換でない。実際、素数 $p\mid m$、$q\mid n$ をとり、$\sigma:=(1\,2\,\cdots\,p)$、$\tau:=(p\;p{+}1\;\cdots\;p{+}q{-}1)$ とおくと、$\sigma^m=\tau^n=e$ なので $a\mapsto\sigma$、$b\mapsto\tau$ となる準同型が $S_{p+q-1}$ への準同型として定まり(群の表示 の記事の命題「表示からの準同型」)、$\sigma\tau(p)=\sigma(p+1)=p+1$、$\tau\sigma(p)=\tau(1)=1$ なので $\sigma\tau\neq\tau\sigma$ である。アーベル化で交換子部分群の分の情報が失われている。
閉曲面の基本群

$g\ge1$ とし、$M_g$ を種数 $g$ の向き付け可能な閉曲面とする。$M_g$ の基本群は
$$ \pi_1(M_g)\cong\langle a_1,b_1,\dots,a_g,b_g\mid[a_1,b_1][a_2,b_2]\cdots[a_g,b_g]\rangle $$
という表示をもつ(Hat02 §1.2。ここでは言明だけを引く)。関係子の各文字の指数の総和は $0$ なので $L=0$ であり、prop-abelianization-presentation により $\pi_1(M_g)^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}^{2g}$ である。$g=1$ はトーラスで、$\pi_1(M_1)\cong\mathbb{Z}^2$ である(基本群 の記事の例「トーラスの基本群」)。$\mathbb{Z}^m/2\mathbb{Z}^m$ は $2^m$ 個の元をもつので $\mathbb{Z}^m\cong\mathbb{Z}^{m'}$ なら $m=m'$ であり、prop-abelianization-functor の 2 と合わせると、$g\neq g'$ なら $\pi_1(M_g)\not\cong\pi_1(M_{g'})$ である。$g\ge2$ では基本群は可換でない($a_i$ を $g$ 個の自由生成元に、$b_i$ を単位元に送ると関係子は単位元に送られるので、階数 $g$ の自由群への全射準同型があり、$F_g$ は可換でない)が、それらを区別するのにアーベル化で足りる。

ホモロジーとの関係

1次ホモロジーとアーベル化
  1. $X$ を弧状連結な位相空間、$x_0\in X$ とする。基点 $x_0$ のループの類をその特異 1 輪体の類に送る Hurewicz 準同型 $h\colon\pi_1(X,x_0)\to H_1(X;\mathbb{Z})$ は全射で、その核は $[\pi_1(X,x_0),\pi_1(X,x_0)]$ である。したがって $\pi_1(X,x_0)^{\mathrm{ab}}\cong H_1(X;\mathbb{Z})$ である。
  2. 任意の群 $G$ について、$G$ の整数係数の 1 次群のホモロジー $H_1(G;\mathbb{Z})$ は $G^{\mathrm{ab}}$ と同型である。
1次ホモロジーとアーベル化の出典

1 は Hat02 §2.A(Theorem 2A.1)、2 は Bro82 Chapter II にあり、本記事では証明しない。1 により、ex-abelianization-surface の計算は $H_1(M_g;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}^{2g}$ を与え、円周 $2$ つのウェッジ和では基本群 $F_2$ のアーベル化として $H_1\cong\mathbb{Z}^2$ を得る(基本群 の記事の例「円周のウェッジ和」)。基本群の計算は一般に難しいが、そのアーベル化は特異ホモロジーの完全列を使って計算できることが多く、1 は基本群についての情報を得る手段にもなる。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, 1st edition, Cambridge University Press, 2002, §1.2(閉曲面の基本群の表示)、§2.A Theorem 2A.1(基本群のアーベル化と 1 次ホモロジー)
[2]
Kenneth S. Brown, Cohomology of Groups, Graduate Texts in Mathematics 87, Springer, 1982, Chapter II(群の 1 次ホモロジーとアーベル化)

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