位相空間の埋め込み定理(embedding theorem for topological spaces)とは、抽象的な位相空間を単位区間の直積の部分空間として実現する古典的な定理の総称である。Tychonoff の埋め込み定理によれば、開基の濃度が無限基数 $\kappa$ 以下の Tychonoff 空間は Tychonoff 立方体 $[0,1]^\kappa$ に埋め込め、Urysohn の埋め込み定理によれば、第 2 可算な正則 $T_1$ 空間は Hilbert 立方体 $[0,1]^{\mathbb{N}}$ に埋め込める。どちらも、点と閉集合を分ける連続関数の族を座標に並べると埋め込みが得られるという埋め込み補題から従う。帰結として、可分距離化可能空間は Hilbert 立方体の部分空間、コンパクト距離化可能空間はその閉集合にほかならない。
前提知識: 直積位相, Tychonoff空間, 第2可算公理, 正則空間, 同相写像
抽象的に定義された位相空間を、よく知っている「座標のある空間」の部分集合として実現できるか。位相空間の埋め込み定理はこの問いへの古典的な答えで、次の 2 つからなる。
単射連続な $e$ が埋め込みであることは、$X$ の各開集合 $U$ について $e(U)$ が $e(X)$ の開集合であること、すなわち $e(U)=W\cap e(X)$ となる $Y$ の開集合 $W$ があることと同値である。
集合 $S$ について、単位区間 $[0,1]$ の $S$ 個の直積 $[0,1]^S$ に直積位相を入れたものを Tychonoff 立方体(Tychonoff cube)という。濃度 $\kappa$ の集合 $S$ についての $[0,1]^S$ を $[0,1]^\kappa$ とも書く。可算無限個の直積 $Q:=[0,1]^{\mathbb{N}}$ を Hilbert 立方体(Hilbert cube)という。
Urysohn と Tychonoff は Hilbert 立方体を、Hilbert 空間 $\ell^2$ の部分集合 $\{x\mid0\le x_n\le1/n\}$(基本直方体)として扱った。$(t_n)\mapsto(t_n/n)$ はこれと $[0,1]^{\mathbb{N}}$ の同相写像である(Tyc30 pp. 546–547)。この記事では直積の形で扱う。
$X$ から位相空間 $Y_s$ への連続写像の族 $\{f_s\colon X\to Y_s\}_{s\in S}$ について、
$X$ の一点集合が閉集合なら、2 は 1 を含む。$x\ne y$ について閉集合 $F=\{y\}$ に 2 を使うと $f_s(x)\notin\overline{\{f_s(y)\}}$ となり、とくに $f_s(x)\ne f_s(y)$ だからである。
族 $\{f_s\}$ から、直積への写像
$$
e\colon X\to\prod_{s\in S}Y_s,\qquad e(x):=(f_s(x))_{s\in S}
$$
を作る。射影を $\pi_s$ とすると、次の図式が可換になる。
$$
\xymatrix{
X \ar[r]^-{e} \ar[dr]_{f_s} & \prod_{t\in S}Y_t \ar[d]^{\pi_s} \\
& Y_s
}
$$
すなわち、すべての $s\in S$ について $\pi_s\circ e=f_s$ である。
連続写像の族 $\{f_s\colon X\to Y_s\}_{s\in S}$ が点を分け、点と閉集合を分けるならば、$e\colon X\to\prod_sY_s$ は埋め込みである。
連続性. 直積位相の性質により、各成分 $\pi_s\circ e=f_s$ が連続なので $e$ は連続である。
単射性. 族が点を分けるので、$x\ne y$ なら $f_s(x)\ne f_s(y)$ となる $s$ があり、$e(x)\ne e(y)$。
像への開写像. $U$ を $X$ の開集合、$x\in U$ とする。$F:=X\setminus U$ は閉集合で $x\notin F$ なので、$f_s(x)\notin\overline{f_s(F)}$ となる $s$ がある。
$$
W:=\pi_s^{-1}\bigl(Y_s\setminus\overline{f_s(F)}\bigr)
$$
は直積の開集合で $e(x)\in W$ である。$y\in X$ で $e(y)\in W$ なら $f_s(y)\notin\overline{f_s(F)}$ なので $y\notin F$、すなわち $y\in U$ である。よって $W\cap e(X)\subset e(U)$ である。$x\in U$ は任意なので、$e(U)$ は $e(X)$ の開集合の和であり、$e(X)$ の開集合である。$\square$
仮定の「点と閉集合を分ける」は外せない。点を分けるだけでは、$e$ は単射連続にはなっても埋め込みとは限らない(下の ex-emb-circle)。
Tychonoff 空間が $[0,1]^I$($I=C(X,[0,1])$ は連続写像全体)に埋め込めること、および Tychonoff 空間とは Tychonoff 立方体の部分空間と同相な空間にほかならないことは、Tychonoff空間 の記事の定理「立方体への埋め込み」が証明している。そこでは $X$ から $[0,1]$ へのすべての連続写像を座標に使うので、立方体の次元 $\lvert I\rvert$ は大きくなりうる。ここでは、使う座標の個数を開基の濃度まで減らせることを示す。
空間の重さ(weight)$w(X)$ を、開基の濃度の最小値と $\aleph_0$ の大きい方とする(基数関数 の記事の定義「weight」)。$w(X)=\aleph_0$ は $X$ が第 2 可算であることと同じである。
$\kappa$ を無限基数とし、$X$ を $w(X)\le\kappa$ となる Tychonoff 空間とする。このとき $X$ は $[0,1]^\kappa$ に埋め込める。逆に $[0,1]^\kappa$ の部分空間は、重さが $\kappa$ 以下の Tychonoff 空間である。
埋め込めること. 濃度 $\kappa$ 以下の開基 $\mathcal{B}$ をとる。組 $(U,V)\in\mathcal{B}\times\mathcal{B}$ のうち、連続写像 $f\colon X\to[0,1]$ で $U$ 上で $0$、$X\setminus V$ 上で $1$ となるものが存在する組の全体を $S$ とし、各 $(U,V)\in S$ についてそのような $f_{U,V}$ を 1 つ選ぶ(選択公理)。$\kappa$ は無限なので $\lvert S\rvert\le\lvert\mathcal{B}\times\mathcal{B}\rvert\le\kappa$ である。
族 $\{f_{U,V}\}_{(U,V)\in S}$ が点と閉集合を分けることを示す。$F$ を閉集合、$x\notin F$ とする。$\mathcal{B}$ は開基なので $x\in V\subset X\setminus F$ となる $V\in\mathcal{B}$ がある。完全正則性により、連続写像 $g\colon X\to[0,1]$ で $g(x)=0$、$X\setminus V$ 上で $g=1$ となるものがある。$x\in U\subset\{g<\frac12\}$ となる $U\in\mathcal{B}$ をとり、
$$
h(y):=\max\{0,\ 2g(y)-1\}
$$
とおくと、$h$ は連続で、$U$ 上で $h=0$、$X\setminus V$ 上で $h=1$ である。よって $(U,V)\in S$ であり、選んだ $f_{U,V}$ は $f_{U,V}(x)=0$、$F\subset X\setminus V$ 上で $1$ なので、$\overline{f_{U,V}(F)}\subset\{1\}$ は $0$ を含まない。
Tychonoff 空間の一点集合は閉なので、族は点も分ける。thm-emb-lemma により $X$ は $[0,1]^S$ に埋め込める。単射 $\iota\colon S\to\kappa$ を 1 つとり、$[0,1]^S$ の点 $(t_s)$ を、$\iota(s)$ 座標が $t_s$ で残りの座標が $0$ の点に送ると、$[0,1]^S$ は $[0,1]^\kappa$ に埋め込める(各座標が連続で、像への逆写像は座標の選び出しで連続)。合成により $X$ は $[0,1]^\kappa$ に埋め込める。
逆. $[0,1]$ は距離空間なので Tychonoff 空間で、その直積と部分空間も Tychonoff 空間である(Tychonoff空間 の記事の命題「任意個の積での保存」「部分空間での保存」)。$[0,1]^\kappa$ は、有限個の座標 $s_1,\dots,s_m$ を有理数の端点をもつ開区間に制限した集合の全体を開基にもち、その濃度は $\kappa$ 以下である(有限部分集合と有理数の組の全体。$\kappa$ は無限)。開基を部分空間に制限したものは部分空間の開基なので、部分空間の重さも $\kappa$ 以下である。$\square$
Tychonoff は、濃度 $\tau$ の開基をもつ正規空間が $\tau$ だけで決まるコンパクト空間 $R_\tau$(単位区間の $\tau$ 個の積)に埋め込めること(Satz I)と、コンパクト空間の部分空間と同相な空間は完全正則な空間にほかならないこと(Satz II)を示した(Tyc30 pp. 544–545、証明は §3、pp. 550–553)。Satz II は「完全正則(vollständig regulär)」という条件を立てて述べられている(Tyc30 p. 545。脚注 5 は、この定義が Urysohn に由来すると述べている)。
$[0,1]^\kappa$ は Tychonoffの定理 によりコンパクト Hausdorff なので、Tychonoff 空間はコンパクト Hausdorff 空間の部分空間であり、その閉包をとればコンパクト化が得られる(Tychonoff空間 の記事の命題「Hausdorff コンパクト化による特徴づけ」)。
$Q=[0,1]^{\mathbb{N}}$($\mathbb{N}=\{0,1,2,\dots\}$)の点 $x=(x_n)$、$y=(y_n)$ について
$$
d(x,y):=\sum_{n=0}^\infty2^{-n}\lvert x_n-y_n\rvert
$$
とおくと、$d$ は $Q$ の直積位相を与える距離である。$Q$ はコンパクトな距離化可能空間で、第 2 可算である。
各項が $2^{-n}$ 以下なので級数は $2$ 以下に収束し、$d$ は距離の公理を満たす($d(x,y)=0$ ならすべての $n$ で $x_n=y_n$)。
直積位相の開集合は $d$ の開集合. 直積位相の基本開集合 $G$ と $x\in G$ をとる。$G$ は有限個の座標 $n\le N$ だけを制限するので、$\varepsilon>0$ があって $\{y\mid\lvert y_n-x_n\rvert<\varepsilon\ (n\le N)\}\subset G$ となる。$d(x,y)<2^{-N}\varepsilon$ なら、$n\le N$ で $2^{-n}\lvert x_n-y_n\rvert\le d(x,y)<2^{-N}\varepsilon$ より $\lvert x_n-y_n\rvert<\varepsilon$ なので、$d$ の球 $B_d(x,2^{-N}\varepsilon)$ は $G$ に含まれる。
$d$ の開集合は直積位相の開集合. $d$ の球 $B_d(x,\varepsilon)$ と $y\in B_d(x,\varepsilon)$ をとり、$\delta:=\varepsilon-d(x,y)>0$ とする。$\sum_{n>N}2^{-n}<\delta/2$ となる $N$ をとり、直積位相の開集合 $H:=\{z\mid\lvert z_n-y_n\rvert<\delta/4\ (n\le N)\}$ を考える。$z\in H$ なら
$$
d(y,z)<\frac\delta4\sum_{n\le N}2^{-n}+\sum_{n>N}2^{-n}<\frac\delta2+\frac\delta2=\delta
$$
なので $d(x,z)<\varepsilon$ であり、$y\in H\subset B_d(x,\varepsilon)$ である。
よって 2 つの位相は一致する。コンパクト性は Tychonoffの定理 による。有限個の座標を有理数の端点の開区間に制限した集合は可算個で開基をなすので、$Q$ は第 2 可算である。$\square$
第 2 可算な正則空間 $X$ で、一点集合が閉であるもの(第 2 可算な $T_3$ 空間)は、Hilbert 立方体 $Q$ に埋め込める。
第 2 可算な正則空間は正規である(第2可算公理 の記事の補題「閉集合を開集合で分離する」)。一点集合が閉なので $X$ は正規空間であり、Urysohn の補題(Urysohnの補題、第2可算公理 の記事の補題「閉集合を関数で分離する」)により、閉集合 $F$ と $x\notin F$ に対し、$x$ で $0$、$F$ 上で $1$ となる連続写像 $X\to[0,1]$ がある。一点集合は閉なので異なる 2 点は開集合で分けられ、$X$ は Hausdorff である。よって $X$ は Tychonoff 空間で、$w(X)=\aleph_0$ である。thm-emb-tychonoff を $\kappa=\aleph_0$ で使えば、$X$ は $[0,1]^{\aleph_0}=Q$ に埋め込める。$\square$
Urysohn の 1925 年の論文(没後に Alexandroff が整えたもの)は、第 2 可算な正規空間が距離化可能であることを、Urysohn の補題で作った関数の列 $f_n$ から距離
$$
\rho(x,y)=\sum_{n\ge1}2^{-n}\lvert f_n(x)-f_n(y)\rvert
$$
を定めて示した(Ury25 p. 310 の Hauptsatz、p. 312 の式 (3))。この $\rho$ は、写像 $x\mapsto(f_{n+1}(x))_{n\in\mathbb{N}}$ で prop-emb-hilbert-metric の距離を引き戻したものの $\frac12$ 倍であり、証明の中身は Hilbert 立方体への埋め込みである。
距離空間では、Urysohn の補題を使わずに座標を直接書ける。これは Urysohn の 1924 年の論文の構成である(Ury24 pp. 302–304。そこでは $\ell^2$ の基本直方体に埋め込んでいる)。
$(X,d)$ を空でない可分距離空間、$(a_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を稠密な点列(有限個の点の繰り返しでもよい)とし、$d'(x,y):=\min\{d(x,y),1\}$ とおく。このとき
$$
e\colon X\to Q,\qquad e(x):=\bigl(d'(x,a_n)\bigr)_{n\in\mathbb{N}}
$$
は埋め込みである。
$f_n:=d'(\,\cdot\,,a_n)\colon X\to[0,1]$ は連続である($\lvert d'(x,a)-d'(y,a)\rvert\le d(x,y)$)。thm-emb-lemma を使うため、族 $\{f_n\}$ が点と閉集合を分けることを示す(一点集合は閉なので、点も分ける)。
閉集合 $F$ と $x\notin F$ をとり、$r:=\min\{1,\inf_{y\in F}d(x,y)\}$ とおく($F=\emptyset$ なら $r=1$)。$F$ は閉なので $r>0$ である。稠密性により $d(x,a_n)< r/3$ となる $n$ がある。このとき $f_n(x)< r/3$ である。一方 $y\in F$ なら $d(y,a_n)\ge d(y,x)-d(x,a_n)>r-r/3=2r/3$ であり、$2r/3<1$ なので $f_n(y)\ge2r/3$ である。よって $\overline{f_n(F)}\subset[2r/3,1]$ は $f_n(x)$ を含まない。$\square$
位相空間 $X$ について、次は同値である。
1 から 3 は thm-emb-urysohn である。3 から 2:$Q$ は prop-emb-hilbert-metric により距離化可能で第 2 可算であり、その部分空間も距離化可能で(距離を制限する)第 2 可算である(開基を制限する)。第 2 可算なら可分である(第2可算公理 の記事の命題「三つの帰結」)。2 から 1:距離空間は正則で一点集合は閉であり(正則空間 の記事の命題「距離空間は正則」)、可分な距離空間は第 2 可算である(第2可算公理 の記事の定理「距離空間における同値性」)。$\square$
1 から 2 は Urysohn の距離化定理(Urysohnの距離化定理)であり、上の証明はその 1 つの証明になっている。
位相空間 $X$ がコンパクトで距離化可能であることと、$X$ が Hilbert 立方体 $Q$ のある閉集合と同相であることは同値である。
$X$ がコンパクト距離空間なら、各 $m\ge1$ について半径 $1/m$ の開球の有限個で $X$ が覆えるので、それらの中心の全体は可算な稠密集合であり、$X$ は可分である。prop-emb-separable-metric の埋め込み $e$ の像 $e(X)$ はコンパクトで、Hausdorff 空間 $Q$ の中で閉集合である。逆に $Q$ の閉集合はコンパクト空間の閉集合としてコンパクトで、prop-emb-hilbert-metric の距離の制限で距離化可能である。$\square$
可分距離化可能空間 $X$ は、距離化可能なコンパクト空間 $K$ の稠密な部分空間と同相である。
埋め込み $e\colon X\to Q$ をとり、$K:=\overline{e(X)}$ とすればよい。$K$ は cor-emb-compact-metrizable によりコンパクト距離化可能で、$e(X)$ は $K$ で稠密である。$\square$
$X=[0,1)$、$f\colon X\to\mathbb{R}^2$、$f(t):=(\cos2\pi t,\sin2\pi t)$ とする。$f$ は単射連続なので、1 個の写像からなる族 $\{f\}$ は点を分ける。しかし点と閉集合は分けない:$F:=[\frac12,1)$ は $X$ の閉集合で $0\notin F$ だが、$t\to1$ で $f(t)\to(1,0)=f(0)$ なので $f(0)\in\overline{f(F)}$ である。実際 $f$ は埋め込みでない:像は円周 $S^1$ 全体でコンパクトだが、$[0,1)$ はコンパクトでない。$f$ は $X$ の開集合 $[0,\frac12)$ を、$S^1$ の開集合でない弧に写す(点 $(1,0)$ のどの近傍も、$t$ が $1$ に近い点の像を含む)。
埋め込み定理の条件を外したときの反例を表にする。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 埋め込み補題の「点と閉集合を分ける」 | $[0,1)\to\mathbb{R}^2$、$t\mapsto(\cos2\pi t,\sin2\pi t)$ | $e$ は埋め込み |
| Tychonoff の埋め込み定理の「完全正則」を「正則」にする | Mysior の構成による、完全正則でない $T_3$ 空間 | 立方体に埋め込める |
| Urysohn の埋め込み定理の「正則」を「Hausdorff」にする | $\mathbb{R}_K$(開区間と、開区間から $K=\{1/n\}$ を除いた集合を開基とする位相) | Hilbert 立方体に埋め込める |
| Urysohn の埋め込み定理の「第 2 可算」を「可分かつ第 1 可算」にする | Sorgenfrey 直線 | Hilbert 立方体に埋め込める |
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