Goursatの定理

同義語:グルサの定理Goursat's theorem

概要

Goursatの定理(Goursat's theorem)とは、開集合 $U\subset\mathbb{C}$ 上の正則関数 $f$ と、内部も含めて $U$ に含まれる三角形 $\Delta$ について、周に沿う積分 $\oint_{\partial\Delta}f(z)\,dz$ が $0$ になるという定理である。導関数 $f'$ の連続性は仮定せず、証明では三角形を 4 つに分ける操作を繰り返して 1 点での複素微分可能性だけを使う。長方形や凸多角形でも同じことが成り立ち、1 点 $p$ で $(z-p)f(z)\to0$ となるだけなら $p$ を例外点として許せる。逆向きの Morera の定理と合わせると、連続関数が正則であることは三角形の周の積分で判定でき、Cauchy の積分公式と正則関数の無限回微分可能性はこの定理から導かれる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正則関数, Cauchyの積分定理, 線積分, コンパクト空間

Goursat の定理(Goursat's theorem)は、開集合 $U\subset\mathbb{C}$ の上の正則関数 $f$ と、内部も含めて $U$ に入る三角形 $\Delta$ について
$$ \oint_{\partial\Delta}f(z)\,dz=0 $$
が成り立つことを述べる定理である。正則とは各点で複素微分可能であることだけを意味し、導関数 $f'$ の連続性は仮定しない。
Cauchy の積分定理は、$f'$ が連続なら Greenの定理 と Cauchy–Riemannの方程式 からすぐに出る。Goursat の定理はこの連続性の仮定を取り除く。証明は三角形を 4 つに分けることを繰り返し、ある 1 点での複素微分可能性だけから積分が $0$ であることを引き出す。この定理から、円板上の原始関数の存在、Cauchyの積分公式、正則関数が何回でも微分できることが順に導かれる。したがって「各点で 1 回複素微分できる」という弱い条件が、複素解析の強い結論をすべて支えることになる。この記事では定理の証明、長方形と凸多角形への言い換え、例外点を許す形、正則性の特徴づけを述べ、仮定を外した反例を確かめる。

名前の似た結果

群論で直積 $G\times H$ の部分群を記述する Goursat の補題は、この記事の定理とは別の結果である。また、閉曲線一般に対する Cauchyの積分定理 を Cauchy–Goursat の定理と呼ぶこともある。

記号と準備

$a,b,c\in\mathbb{C}$ について、$a,b,c$ の凸包(内部と周を含む閉集合)を三角形 $\Delta=[a,b,c]$ と書く。$\partial\Delta$ は $a\to b\to c\to a$ と線分をたどる閉曲線を表す。$a,b,c$ が一直線上にあるときは $\Delta$ は線分に退化しており、周の積分は往復で打ち消して $0$ になる。$L(\gamma)$ は曲線の長さ、$\operatorname{diam}\Delta$ は $\Delta$ の 2 点の距離の最大値である。
次の 2 つの事実を断らずに使う(Cauchyの積分定理 の記事の命題「複素線積分の基本性質」)。

  • 曲線 $\gamma$ の上で $|g|\le M$ なら $\bigl|\int_\gamma g\,dz\bigr|\le ML(\gamma)$ である。
  • $g$ が $\gamma$ を含む開集合の上で原始関数をもてば、閉曲線 $\gamma$ に沿う積分は $0$ である。とくに 1 次式 $\alpha+\beta z$ は原始関数 $\alpha z+\beta z^2/2$ をもつので、どの三角形の周に沿う積分も $0$ である。
    三角形 $\Delta=[a,b,c]$ の辺の中点を $a'=\frac{b+c}2$、$b'=\frac{c+a}2$、$c'=\frac{a+b}2$ とし、
    $$ \Delta^{(1)}=[a,c',b'],\quad\Delta^{(2)}=[c',b,a'],\quad\Delta^{(3)}=[b',a',c],\quad\Delta^{(4)}=[a',b',c'] $$
    とおく。これを $\Delta$ の 4 分割という。各 $\Delta^{(k)}$ は $\Delta$ を $\frac12$ 倍に縮めた相似な三角形なので、直径と周の長さは $\Delta$ の半分である。内側の 3 辺 $[c',b']$、$[a',c']$、$[b',a']$ は、それぞれ 2 つの小三角形の周で逆向きに 1 回ずつたどられ、外側の辺の半分はちょうど 1 回ずつ $\Delta$ と同じ向きにたどられる。したがって、周の上で連続な $g$ について
    $$ \oint_{\partial\Delta}g\,dz=\sum_{k=1}^4\oint_{\partial\Delta^{(k)}}g\,dz $$
    が成り立つ。この等式を (1) と呼ぶ。

定理と証明

Goursat の定理

$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{C}$ を正則関数とする。三角形 $\Delta$ が $U$ に含まれるなら
$$ \oint_{\partial\Delta}f(z)\,dz=0 $$
である。

要点:積分が $0$ でないとすると、4 分割を繰り返して積分の大きさが $4^{-n}$ 倍より遅く減る三角形の列がとれる。その列が縮む点 $z_0$ で $f$ を 1 次式で近似すると、1 次式の積分は $0$ で、誤差の積分は $4^{-n}$ より速く減る。
$I(T):=\oint_{\partial T}f\,dz$ とおき、$d:=\operatorname{diam}\Delta$、$L:=L(\partial\Delta)$ とする。$\Delta_0:=\Delta$ とおく。(1) から $|I(\Delta_0)|\le\sum_k|I(\Delta_0^{(k)})|$ なので、ある $k$ で $|I(\Delta_0^{(k)})|\ge\frac14|I(\Delta_0)|$ である。そのような $k$ のうち最小のものをとって $\Delta_1:=\Delta_0^{(k)}$ とする。これを繰り返すと、三角形の列 $\Delta_0\supset\Delta_1\supset\Delta_2\supset\cdots$ で
$$|I(\Delta_n)|\ge4^{-n}|I(\Delta)|,\qquad\operatorname{diam}\Delta_n=2^{-n}d,\qquad L(\partial\Delta_n)=2^{-n}L$$
を満たすものが得られる。
各 $\Delta_n$ は空でないコンパクト集合で減少するので、共通部分は空でない。直径が $0$ に近づくので、共通部分はただ 1 点 $z_0$ からなり、$z_0\in\Delta\subset U$ である。$f$ は $z_0$ で複素微分可能だから、$\varepsilon>0$ に対して $\delta>0$ があって、$|z-z_0|<\delta$ なら $z\in U$ かつ
$$|f(z)-f(z_0)-f'(z_0)(z-z_0)|\le\varepsilon|z-z_0|$$
である。$n$ を $2^{-n}d<\delta$ となるようにとると、$z_0\in\Delta_n$ なので $\Delta_n$ の点 $z$ は $|z-z_0|\le2^{-n}d<\delta$ を満たす。1 次式 $f(z_0)+f'(z_0)(z-z_0)$ の周の積分は $0$ だから
$$|I(\Delta_n)|=\Bigl|\oint_{\partial\Delta_n}\bigl(f(z)-f(z_0)-f'(z_0)(z-z_0)\bigr)dz\Bigr|\le\varepsilon\cdot2^{-n}d\cdot2^{-n}L=\varepsilon4^{-n}dL$$
である。最初の評価と合わせて $|I(\Delta)|\le4^n|I(\Delta_n)|\le\varepsilon dL$ となり、$\varepsilon$ は任意なので $I(\Delta)=0$ である。$\square$

証明が $f$ について使ったのは、周の上での連続性(積分が定義されるため)と、1 点 $z_0$ での複素微分可能性だけである。$z_0$ は $f$ によって決まり、前もって指定できないので、結局すべての点での複素微分可能性を仮定することになる。この定理と証明は SS03 Theorem 1.1(pp. 34–36)にあり、Ahl66 は長方形の形(第 4 章 Theorem 2、pp. 109–111)で同じ方法を述べ、導関数の連続性の仮定が不要であることを見いだしたのは Goursat であると述べている。
なぜこの議論で $4^{-n}$ が勝つかは、次の ex-goursat-conjugate と比べると分かる。複素微分できない $\bar z$ では、小三角形の積分がちょうど $4^{-n}$ 倍にしか減らない。

長方形と凸多角形

三角形に分けることで、同じ結論が長方形やより一般の凸多角形に広がる。

凸多角形の周

$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f$ を $U$ 上の正則関数とする。頂点 $v_0,v_1,\dots,v_m$ を順にたどる凸多角形 $K$(内部と周を含む)が $U$ に含まれるなら、周 $\partial K$($v_0\to v_1\to\cdots\to v_m\to v_0$)に沿う積分は $0$ である。とくに $U$ に含まれる閉長方形の周に沿う積分は $0$ である。

$K$ は凸なので、三角形 $\Delta_j:=[v_0,v_j,v_{j+1}]$($1\le j\le m-1$)はどれも $K\subset U$ に含まれる。各 $\Delta_j$ の周の積分の和をとると、線分 $[v_0,v_j]$($2\le j\le m-1$)は $\Delta_{j-1}$ と $\Delta_j$ の周で逆向きに 1 回ずつ現れて打ち消し、残るのは $[v_0,v_1]$、$[v_j,v_{j+1}]$、$[v_m,v_0]$、すなわち $\partial K$ である。thm-goursat-main から各項は $0$ である。$\square$

長方形の場合は SS03 Corollary 1.2(p. 36)、Ahl66 第 4 章 Theorem 2(pp. 109–111)にある。Ahl66 は長方形の周の積分が $0$ であることから、円板上で縦と横の折れ線に沿って積分して原始関数を作っている(同章 Theorem 4、p. 113)。三角形を使う場合の原始関数の構成は Cauchyの積分定理 の記事の補題「三角形条件からの原始関数」にある。

例外点を許す形

1 点で正則性が分からない関数でも、その点の近くで $|f|$ の増え方が $1/|z-p|$ より遅ければ、同じ結論が成り立つ。

例外点を 1 つ許す Goursat の定理

$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$p\in U$ とし、$f$ は $U\setminus\{p\}$ の上で正則で
$$ \lim_{z\to p}(z-p)f(z)=0 $$
を満たすとする。三角形 $\Delta$ が $U$ に含まれ、$p$ が周 $\partial\Delta$ の上にないなら、$\oint_{\partial\Delta}f(z)\,dz=0$ である。とくに、$f$ が $U$ 上で連続で $U\setminus\{p\}$ 上で正則なら、この結論が成り立ち、このときは $p$ が周 $\partial\Delta$ の上にあってもよい。

要点:$p$ が $\Delta$ の内部にある場合、$\Delta$ を $p$ に向かって $\varepsilon$ 倍に縮めた三角形 $\Delta_\varepsilon$ をとると、$\Delta$ と $\Delta_\varepsilon$ の間は $p$ を含まない 3 つの台形に分かれ、$\partial\Delta$ の積分は $\partial\Delta_\varepsilon$ の積分に等しい。後者は $\varepsilon\to0$ で $0$ に近づく。

詳しい証明を開く

$p\notin\Delta$ なら $\Delta\subset U\setminus\{p\}$ なので thm-goursat-main による。$p\in\Delta$ で $p\notin\partial\Delta$ とすると、$\Delta$ は退化しておらず $p$ はその内部にある。$\Delta=[a,b,c]$ と書き、$0<\varepsilon<1$ について $\phi_\varepsilon(z):=p+\varepsilon(z-p)$、$\Delta_\varepsilon:=\phi_\varepsilon(\Delta)=[\phi_\varepsilon(a),\phi_\varepsilon(b),\phi_\varepsilon(c)]$ とおく。

辺 $[a,b]$ について、4 点 $a,b,\phi_\varepsilon(b),\phi_\varepsilon(a)$ を順に結んだ四角形 $Q_{ab}$ は集合 $\{p+s(w-p)\mid w\in[a,b],\ \varepsilon\le s\le1\}$ であり、凸で $\Delta$ に含まれ、$s\ge\varepsilon>0$ だから $p$ を含まない。辺 $[b,c]$、$[c,a]$ についても同様に $Q_{bc}$、$Q_{ca}$ をとる。$U\setminus\{p\}$ は開集合で $f$ はその上で正則なので、cor-goursat-polygon から 3 つの四角形の周の積分はどれも $0$ である。3 つの周の和では、線分 $[b,\phi_\varepsilon(b)]$ などは隣り合う 2 つの四角形で逆向きに現れて打ち消し、内側の辺 $[\phi_\varepsilon(b),\phi_\varepsilon(a)]$ などは $\partial\Delta_\varepsilon$ を逆向きにたどる。したがって $$0=\oint_{\partial\Delta}f\,dz-\oint_{\partial\Delta_\varepsilon}f\,dz$$ である。

$g(z):=(z-p)f(z)$ とおき、$\eta(\varepsilon):=\sup_{z\in\partial\Delta_\varepsilon}|g(z)|$ とする。$\partial\Delta_\varepsilon$ の点と $p$ の距離は $\varepsilon\operatorname{diam}\Delta$ 以下なので、仮定から $\eta(\varepsilon)\to0$($\varepsilon\to0$)である。$z=\phi_\varepsilon(w)$ と置換すると $dz=\varepsilon\,dw$、$z-p=\varepsilon(w-p)$ だから $$\Bigl|\oint_{\partial\Delta_\varepsilon}f\,dz\Bigr|=\Bigl|\oint_{\partial\Delta}\frac{g(\phi_\varepsilon(w))}{w-p}\,dw\Bigr|\le\eta(\varepsilon)\,\frac{L(\partial\Delta)}{\operatorname{dist}(p,\partial\Delta)}$$ である。右辺は $\varepsilon\to0$ で $0$ に近づくので、$\oint_{\partial\Delta}f\,dz=0$ である。最後の主張のうち $p\notin\partial\Delta$ の場合は、$f$ が $p$ で連続なら $(z-p)f(z)\to0\cdot f(p)=0$ であることによる。$p\in\partial\Delta$ の場合、$\Delta$ が退化していれば積分は $0$ である。そうでなければ、$p$ が頂点でないときは $p$ と向かいの頂点を結ぶ線分で $\Delta$ を $p$ を頂点にもつ 2 つの三角形に分け(2 つの周の和は $\partial\Delta$ である)、$p$ が頂点ならそのままにする。$p$ を頂点にもつ三角形 $[p,b,c]$ について、$0<\varepsilon<1$ で $b_\varepsilon:=p+\varepsilon(b-p)$、$c_\varepsilon:=p+\varepsilon(c-p)$ とおくと、$[p,b,c]$ は $[p,b_\varepsilon,c_\varepsilon]$ と $p$ を含まない凸四角形 $b_\varepsilon\to b\to c\to c_\varepsilon$ に分かれ、後者の周の積分は cor-goursat-polygon により $0$ である。$f$ は $\Delta$ 上で連続なので $|f|\le M$ となる $M$ があり、$\bigl|\oint_{\partial[p,b,c]}f\,dz\bigr|=\bigl|\oint_{\partial[p,b_\varepsilon,c_\varepsilon]}f\,dz\bigr|\le M\varepsilon L(\partial[p,b,c])\to0$ である。$\square$

同じ条件のもとで、長方形の周の積分が $0$ になることは Ahl66 第 4 章 Theorem 3(pp. 111–112)にある(そこでは $p$ のまわりの小さな正方形を残して長方形を 9 つに分けている)。Cauchyの積分定理 の記事の定理「Goursat の定理」は、$f$ が $p$ で連続な場合を、$p$ を頂点とする三角形に分けて示している。
実は、この条件のもとで $p$ は $f$ の除去可能特異点である。すなわち $f$ は $U$ 上の正則関数に延びる(Riemannの拡張定理 の命題「除去可能性の特徴づけ」。$f$ が $p$ の近くで有界な場合は SS03 Theorem 3.1、p. 84)。この事実を認めれば、有限個の例外点 $p_1,\dots,p_m$ のそれぞれで $(z-p_j)f(z)\to0$ となる場合も、周が例外点を通らない三角形について積分が $0$ になる。

正則性の特徴づけ

Goursat の定理の逆は Cauchyの積分公式 の定理「Morera の定理」である。2 つを合わせると、連続関数が正則であることは三角形の周の積分だけで判定できる。

三角形の積分による正則性の判定

$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{C}$ を連続関数とする。次は同値である。

  1. $f$ は $U$ 上で正則である。
  2. $U$ に含まれるすべての三角形 $\Delta$ について $\oint_{\partial\Delta}f\,dz=0$ である。
  3. $U$ の各点は、$f$ が原始関数をもつような開円板の近傍をもつ。

1 ⇒ 2 は thm-goursat-main である。2 ⇒ 3:$z\in U$ について開円板 $B\ni z$ を $B\subset U$ ととる。$B$ は凸なので中心 $a$ に関して星型であり、$a$ を頂点とし $B$ に含まれる三角形について 2 が使えるから、Cauchyの積分定理 の記事の補題「三角形条件からの原始関数」により $F(w):=\int_{[a,w]}f\,d\zeta$ は $B$ 上の正則関数で $F'=f$ である。3 ⇒ 1:$B$ 上で $F'=f$ となる正則関数 $F$ があれば、Cauchyの積分公式 の定理「導関数の積分表示」により正則関数の導関数は正則なので、$f=F'$ は $B$ 上で正則である。正則性は各点の近くで決まるので $f$ は $U$ 上で正則である。$\square$

この命題の 1 ⇒ 3 ⇒(Cauchy の積分公式)という道筋で、各点で 1 回複素微分できるだけの関数が何回でも複素微分でき、とくに $f'$ が連続になることが分かる。導関数の連続性を仮定する定義と仮定しない定義は、結果として同じ関数の族を定めるが、そのことは Goursat の定理を経てはじめて分かる。Morera の定理は SS03 Theorem 5.1(p. 53)にある。
2 の条件は一様収束で保たれる。$U$ の各コンパクト集合の上で正則関数の列 $f_n$ が $f$ に一様収束すれば、三角形の周の上で積分と極限が交換できるので $f$ も 2 を満たし、$f$ は正則である(Cauchyの積分公式 の系「Weierstrass の定理」、SS03 Theorem 5.2、p. 53)。実軸の外で正則な連続関数が実軸をまたいでも正則であること(Schwarzの鏡像原理 の補題「実軸の外で正則な連続関数」)も、2 の条件を確かめることで示される。

導関数の連続性を仮定する証明との比較

$f=u+iv$ が $\Delta$ を含む開集合の上で $C^1$ 級なら、$dz=dx+i\,dy$ と Greenの定理 から
$$\oint_{\partial\Delta}f\,dz=\oint_{\partial\Delta}(u\,dx-v\,dy)+i\oint_{\partial\Delta}(v\,dx+u\,dy)=\iint_\Delta(-v_x-u_y)\,dx\,dy+i\iint_\Delta(u_x-v_y)\,dx\,dy$$
であり、Cauchy–Riemannの方程式 $u_x=v_y$、$u_y=-v_x$ から両方の被積分関数が $0$ になる。この証明は Green の定理を使うために偏導関数の連続性を必要とする。Goursat の証明はこれを使わず、積分の評価と 1 点での 1 次近似だけで済ませている。

例

複素共役の積分

$\Delta=[a,b,c]$ の符号つき面積を $S:=\frac12\operatorname{Im}\bigl(\overline{(b-a)}(c-a)\bigr)$ とする($a\to b\to c$ が反時計回りなら $S>0$ で、$|S|$ は面積である)。このとき
$$\oint_{\partial\Delta}\bar z\,dz=2iS$$
である。たとえば $\Delta=[0,1,i]$ なら $S=\frac12$ で、3 辺の積分は $\frac12$、$i$、$-\frac12$ となり、和は $i$ である。

計算を開く

$\bar z$ は 1 次関数なので、$\int_{[u,w]}\bar z\,dz=\int_0^1\overline{u+t(w-u)}\,(w-u)\,dt=(w-u)\frac{\bar u+\bar w}2$ である。3 辺について足すと、$(w-u)(\bar u+\bar w)=w\bar u-u\bar w+|w|^2-|u|^2$ の $|w|^2-|u|^2$ の部分は打ち消し、$w\bar u-u\bar w=2i\operatorname{Im}(\bar uw)$ だから $$\oint_{\partial\Delta}\bar z\,dz=i\bigl(\operatorname{Im}(\bar ab)+\operatorname{Im}(\bar bc)+\operatorname{Im}(\bar ca)\bigr)$$ である。括弧の中は $\operatorname{Im}\bigl(\overline{(b-a)}(c-a)\bigr)=\operatorname{Im}(\bar bc)-\operatorname{Im}(\bar ba)-\operatorname{Im}(\bar ac)$($\operatorname{Im}(\bar aa)=0$)に等しく、$\operatorname{Im}(\bar ba)=-\operatorname{Im}(\bar ab)$、$\operatorname{Im}(\bar ac)=-\operatorname{Im}(\bar ca)$ なので $2S$ である。


4 分割の小三角形は向きが同じで面積が $\frac14$ なので、$\bar z$ ではどの小三角形でも積分がちょうど $\frac14$ 倍になる。prf-goursat-main の列は $|I(\Delta_n)|=4^{-n}|I(\Delta)|$ を満たし、矛盾は起きない。$\bar z$ はどの点でも複素微分できない。実際、$|\bar z-\bar z_0-\beta(z-z_0)|\le\varepsilon|z-z_0|$ を $z_0$ の近くのすべての $z$ について満たす $\beta$ は、$\varepsilon<1$ ではとれない($h=z-z_0$ の向きを $\bar h/h=-\beta/|\beta|$($\beta=0$ なら任意)となるようにとると $|\bar h-\beta h|=(1+|\beta|)|h|$ である)。したがって証明の 1 次近似の段が使えない。

例外点の条件が満たされる例と満たされない例
  1. $f(z)=(e^z-1)/z$ は $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ で正則で、$zf(z)=e^z-1\to0$ である。thm-goursat-exceptional により、周が $0$ を通らないすべての三角形について積分は $0$ である。$f(z)\to1$ なので、$f(0)=1$ と定めると整関数になる。
  2. $f(z)=1/z^2$ では $zf(z)=1/z$ が $0$ に近づかず、thm-goursat-exceptional の条件は満たされない。それでも $f$ は $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ で原始関数 $-1/z$ をもつので、周が $0$ を通らない三角形について積分は $0$ である。条件は十分条件であって必要条件ではない。
  3. $f(z)=1/z$ でも $zf(z)=1$ で条件は満たされず、$0$ を内部に含み頂点を反時計回りにとった三角形について積分は $2\pi i$ になる(ex-goursat-counterexamples の 2 行目)。

仮定を外した反例

次の表の各行は、左の列の仮定だけを満たさない関数と三角形で、周の積分が $0$ にならない。

外す仮定関数と三角形周の積分
各点での複素微分可能性$f(z)=\bar z$、$\Delta=[0,1,i]$$i$
例外点での $(z-p)f(z)\to0$$f(z)=1/z$、$p=0$ を内部に含む三角形(頂点を反時計回りにとる)$2\pi i$
例外集合が 1 点であること$\lvert z\rvert\le1$ で $\bar z$、$\lvert z\rvert\ge1$ で $1/z$(連続)、頂点 $3,3\omega,3\omega^2$$2\pi i$
例外集合の上での連続性上半平面で $1$、$\operatorname{Im}z\le0$ で $0$、頂点 $-1-i,1-i,i$$-1$
三角形の内部が $U$ に含まれること$U=\mathbb{C}\setminus\{0\}$、$f(z)=1/z$、$0$ を内部に含む三角形(頂点を反時計回りにとる)$2\pi i$

ここで $\omega=e^{2\pi i/3}$ である。3 行目の関数は閉単位円板の外で正則で、例外集合が面積をもつ集合のときは結論が成り立たないことがあると分かる。4 行目の関数は実軸の外で正則であり、例外集合が直線でも、そこで連続でなければ結論が成り立たないことがあると分かる。連続なら成り立つことは Schwarzの鏡像原理 の補題「実軸の外で正則な連続関数」による。

反例:表の各行の確かめ

1 行目は ex-goursat-conjugate である。2 行目と 5 行目は $0$ を内部に含む三角形 $[a,b,c]$(反時計回り)について $\oint dz/z=2\pi i$ となることによる。3 行目では、頂点 $3,3\omega,3\omega^2$ の正三角形の周と中心の距離は $\frac32>1$ なので周の上で $f(z)=1/z$ であり、2 行目と同じ値になる。$\lvert z\rvert=1$ では $\bar z=1/z$ なので $f$ は連続である。4 行目では、辺 $[1-i,i]$ は点 $\frac12$ で、辺 $[i,-1-i]$ は点 $-\frac12$ で実軸と交わり、$f=1$ となるのは $\frac12$ から $i$ を経て $-\frac12$ に至る部分だけなので、積分は $\bigl(i-\frac12\bigr)+\bigl(-\frac12-i\bigr)=-1$ である。

$2\pi i$ の計算を開く

$0$ を通らない線分 $[u,w]$ は、$0$ を通るある直線で分けた開半平面 $H$ に含まれる($0$ とコンパクト凸集合 $[u,w]$ を分ける直線を $0$ を通るように平行移動すればよい)。$H$ の上には $1/z$ の原始関数である対数の分枝 $\log$ がとれる(Cauchyの積分定理 の記事の系「単連結領域上の原始関数と対数の分枝」)。したがって $$\int_{[u,w]}\frac{dz}z=\log w-\log u=\ln\frac{|w|}{|u|}+i\theta(u,w)$$ であり、$\theta(u,w)\in(-\pi,\pi)$ は $u$ から $w$ へ反時計回りに測った角である。$0$ が $[a,b,c]$ の内部にあり $a\to b\to c$ が反時計回りなら、3 つの三角形 $[0,a,b]$、$[0,b,c]$、$[0,c,a]$ も反時計回りで、角 $\theta(a,b),\theta(b,c),\theta(c,a)$ は正で和は $2\pi$ である。実部の和は $\ln\frac{|b|}{|a|}+\ln\frac{|c|}{|b|}+\ln\frac{|a|}{|c|}=0$ なので、積分は $2\pi i$ である。

関連項目

参考文献

[1]
Elias M. Stein, Rami Shakarchi, Complex Analysis, Princeton Lectures in Analysis II, Princeton University Press, 2003, Chapter 2:Theorem 1.1(pp. 34–36、Goursat の定理)、Corollary 1.2(p. 36、長方形)、Theorem 5.1(p. 53、Morera の定理)、Theorem 5.2(p. 53、一様極限)。Chapter 3:Theorem 3.1(p. 84、除去可能特異点)
[2]
Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 2nd ed., McGraw-Hill, 1966, Chapter 4 §1.4–1.5:Theorem 2(pp. 109–111、長方形に対する Cauchy の定理と Goursat の方法)、Theorem 3(pp. 111–112、例外点を許す形)、Theorem 4(p. 113、円板上の原始関数)

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