トーラス結び目

同義語:トーラスノットtorus knot

概要

トーラス結び目(torus knot)とは、$S^3$ の標準的なトーラスに巻きつけた閉曲線 $\theta\mapsto(e^{ip\theta},e^{iq\theta})/\sqrt2$($p,q$ は互いに素な正の整数)を立体射影で $\mathbb{R}^3$ に写した結び目であり、$(2,3)$ 型は三葉結び目である。結び目群は Van Kampen の定理により $\langle a,b\mid a^p=b^q\rangle$ と計算される。$p,q\ge2$ のとき、この群の中心は $a^p$ が生成する無限巡回群で、中心による商は自由積 $\mathbb{Z}/p\ast\mathbb{Z}/q$ であり、その可換化の位数と有限位数の元の位数の最大値から組 $\{p,q\}$ が決まる。とくに組の異なるトーラス結び目($p,q\ge2$)は同値でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 結び目, 基本群, Van Kampenの定理, 自由積, 群の中心

トーラス結び目は、トーラスの表面に巻きつけた閉曲線として得られる結び目で、トーラスの一方の方向に $p$ 回、もう一方の方向に $q$ 回まわる。三葉結び目は $(2,3)$ 型のトーラス結び目である。トーラス結び目は、補空間の基本群(結び目 の定義「結び目群」)を具体的に計算でき、しかもその群から結び目の型を読み取れる、最も基本的な結び目の族である。
$p,q$ が互いに素な正の整数のとき、$(p,q)$ 型のトーラス結び目の結び目群は $\langle a,b\mid a^p=b^q\rangle$ である。$p,q\ge2$ ならこの群の中心は $a^p$ で生成される無限巡回群で、中心で割ると自由積 $\mathbb{Z}/p\ast\mathbb{Z}/q$ になる。この自由積の可換化の位数 $pq$ と、有限位数の元の位数の最大値 $\max\{p,q\}$ から、組 $\{p,q\}$ が群だけで決まる。したがって、$p,q,p',q'\ge2$ で組 $\{p,q\}$ と $\{p',q'\}$ が異なれば、2 つのトーラス結び目は同値でない。
この記事では、トーラス結び目を定義し、結び目群の表示(thm-tk-group)を Van Kampen の定理で導く。次に自由積の中心と有限位数の元についての 2 つの補題を示し、結び目群の中心(thm-tk-center)と、群から組 $\{p,q\}$ が決まること(thm-tk-classification)を証明する。

定義

$S^3:=\{(z,w)\in\mathbb{C}^2\mid|z|^2+|w|^2=1\}$ とし、点 $N:=(0,i)$ からの立体射影 $\sigma\colon S^3\setminus\{N\}\to\mathbb{R}^3$ により $S^3=\mathbb{R}^3\cup\{\infty\}$ と同一視する(結び目 の節「$\mathbb{R}^3$ から $S^3$ へ」と同じ規約)。$S^3$ の 2 つの大円
$$ C_1:=\{(z,0)\mid|z|=1\},\qquad C_2:=\{(0,w)\mid|w|=1\} $$
を 芯 とよび、トーラス
$$ T:=\{(z,w)\in S^3\mid|z|^2=|w|^2=\tfrac12\} $$
を $(\alpha,\beta)\mapsto\frac1{\sqrt2}(e^{i\alpha},e^{i\beta})$ により $\mathbb{R}^2/(2\pi\mathbb{Z})^2$ と同一視する。$T$ は $S^3$ を $\{|z|^2\le\frac12\}$ と $\{|z|^2\ge\frac12\}$ の 2 つのソリッドトーラスに分け、$C_2$ と $C_1$ はそれぞれの中心の円周である。

トーラス結び目

$p,q$ を互いに素な正の整数とする。
$$ k_{p,q}\colon\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z}\to T,\qquad k_{p,q}(\theta):=\tfrac1{\sqrt2}\bigl(e^{ip\theta},\,e^{iq\theta}\bigr) $$
の像を $K_{p,q}\subset S^3$ とし、$T_{p,q}:=\sigma(K_{p,q})\subset\mathbb{R}^3$ を $(p,q)$ 型のトーラス結び目(torus knot)という。$T_{2,3}$ を 三葉結び目(trefoil)という。

$K_{p,q}$ は $|z|^2=\frac12$ の上にあるので $N$ を通らない。トーラスの座標 $(\alpha,\beta)$ で見ると、$K_{p,q}$ は方向 $(p,q)$ の直線 $\{\theta(p,q)\mid\theta\in\mathbb{R}\}$ の像である。
$k_{p,q}$ は単射である。実際 $k_{p,q}(\theta)=k_{p,q}(\theta')$ なら $p(\theta-\theta')$ と $q(\theta-\theta')$ はともに $2\pi$ の整数倍であり、$ps-qr=1$ となる整数 $r,s$ をとると $\theta-\theta'=s\cdot p(\theta-\theta')-r\cdot q(\theta-\theta')\in2\pi\mathbb{Z}$ となる。微分は $0$ にならないので、$T_{p,q}$ は 結び目 の定義「結び目と絡み目」の意味の結び目である(結び目 の補題「トーラス結び目は結び目」)。
$p,q$ が互いに素でなければ、$d:=\gcd(p,q)$ について $k_{p,q}(\theta)=k_{p/d,q/d}(d\theta)$ なので、$k_{p,q}$ は $K_{p/d,q/d}$ を $d$ 回なぞる $d$ 対 $1$ の写像になり、新しい結び目は得られない(Hat02 Example 1.24, p. 47)。同書は、$p$ や $q$ に負の値を許しても鏡像の結び目が得られるだけであると述べている。この記事では正の値だけを扱う。
座標を入れ替える写像 $\tau(z,w):=(w,z)$ は $S^3$ の等長写像で、$T$ を $T$ に写し、$\tau(K_{p,q})=K_{q,p}$ をみたす。したがって補空間 $S^3\setminus K_{p,q}$ と $S^3\setminus K_{q,p}$ は同相である。

結び目群

結び目群の表示

$p,q$ を互いに素な正の整数とする。
$$ \pi_1(\mathbb{R}^3\setminus T_{p,q})\cong\pi_1(S^3\setminus K_{p,q})\cong G_{p,q}:=\langle a,b\mid a^p=b^q\rangle $$
である。ここで $a$ は芯 $C_1$ に沿って $1$ 周する道の類、$b$ は芯 $C_2$ に沿って $1$ 周する道の類に対応する。

最初の同型は 結び目 の補題「無限遠点を加えても基本群は変わらない」である。以下 $K:=K_{p,q}$、$X:=S^3\setminus K$ とおき、$T$ に沿って $X$ を 2 つに分けて Van Kampenの定理 を当てる。
段 1(トーラスから結び目を除いた部分). $ps-qr=1$ となる整数 $r,s$ をとる。行列 $P:=\begin{pmatrix}p&r\\ q&s\end{pmatrix}$ は行列式 $1$ の整数行列なので $P\mathbb{Z}^2=\mathbb{Z}^2$ であり、$(\theta,u)\mapsto P(\theta,u)^{\top}$ は $\mathbb{R}^2/(2\pi\mathbb{Z})^2$ の同相写像を誘導する。これは円周 $\{u\equiv0\}$ を $K$ に写すので、$T\setminus K$ は $(\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z})\times(0,2\pi)$、すなわち開いた円環と同相である。とくに $T\setminus K$ は弧状連結で、その基本群は $u=\pi$ の円周
$$ \gamma(\theta):=\tfrac1{\sqrt2}\bigl(e^{i(p\theta+\pi r)},\ e^{i(q\theta+\pi s)}\bigr)\qquad(0\le\theta\le2\pi) $$
の類 $c$ で生成される無限巡回群である。$\gamma$ の $z$ 成分は原点のまわりを $p$ 回、$w$ 成分は $q$ 回まわる。
段 2(開被覆). $\rho(z,w):=|z|^2$ とおき、$0<\rho<1$ の点に対して $T$ への射影 $\pi_T(z,w):=\frac1{\sqrt2}\bigl(z/|z|,\,w/|w|\bigr)$ を考える。$0<\varepsilon<\frac12$ を固定して
$$ U:=\{\rho<\tfrac12\}\cup\{0<\rho<\tfrac12+\varepsilon,\ \pi_T\notin K\},\qquad V:=\{\rho>\tfrac12\}\cup\{\tfrac12-\varepsilon<\rho<1,\ \pi_T\notin K\} $$
とおく。$\pi_T$ は連続で $T\setminus K$ は $T$ の開集合なので、$U,V$ は $S^3$ の開集合である。$K$ の点 $x$ は $\rho(x)=\frac12$、$\pi_T(x)=x$ をみたすので $U,V\subset X$ である。$X$ の点は、$\rho<\frac12$ なら $U$ に、$\rho>\frac12$ なら $V$ に入り、$\rho=\frac12$ なら $\pi_T(x)=x\notin K$ なので両方に入る。よって $X=U\cup V$ であり、
$$ W:=U\cap V=\{\tfrac12-\varepsilon<\rho<\tfrac12+\varepsilon,\ \pi_T\notin K\} $$
である。$x\mapsto(\pi_T(x),\rho(x))$ は $W$ から $(T\setminus K)\times(\frac12-\varepsilon,\frac12+\varepsilon)$ への同相写像である(逆写像は $((y_1,y_2),t)\mapsto(\sqrt{2t}\,y_1,\sqrt{2(1-t)}\,y_2)$)。よって $W$ は弧状連結で、$\pi_1(W)$ は $c$ で生成される無限巡回群である(基本群 の命題「直積の基本群」)。
段 3(芯への変形). $w\ne0$ をみたす $S^3$ の点と $0\le t\le1$ に対し
$$ H_t(z,w):=\Bigl(\sqrt{1-t}\,z,\ \sqrt{\tfrac{1-(1-t)|z|^2}{1-|z|^2}}\;w\Bigr) $$
とおく。$|\sqrt{1-t}\,z|^2+\bigl(1-(1-t)|z|^2\bigr)=1$ なので $H_t$ は $S^3\cap\{w\ne0\}$ の中の連続な変形であり、$H_0=\mathrm{id}$、$H_1(z,w)=(0,w/|w|)\in C_2$、$C_2$ の点は動かない。$t<1$ では $H_t$ は $\pi_T$ を変えず、$\rho$ を $(1-t)$ 倍にする。$x\in U$ とする。$\rho(H_t(x))\ge\frac12$ なら $\rho(x)\ge\frac12$ なので $x$ は $U$ の第 2 の集合に属し、$\pi_T(H_t(x))=\pi_T(x)\notin K$、$0<\rho(H_t(x))\le\rho(x)<\frac12+\varepsilon$ であるから $H_t(x)\in U$ である。$\rho(H_t(x))<\frac12$ なら $H_t(x)\in U$ は明らかである。よって $C_2$ は $U$ の強変位レトラクトであり、$(z,w)\mapsto w/|w|$ は同型 $\pi_1(U)\cong\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ を誘導する(変位レトラクト の命題「変位レトラクトはホモトピー同値」、基本群 の定理「円周の基本群」)。$z$ と $w$ の役割を入れ替えると、$C_1$ は $V$ の強変位レトラクトであり、$(z,w)\mapsto z/|z|$ が同型 $\pi_1(V)\cong\mathbb{Z}$ を誘導する。
段 4(Van Kampen の定理). 基点を $x_0:=\gamma(0)\in W$ とし、$\pi_1(V,x_0)$ の生成元で $z/|z|$ が正の向きに $1$ 回まわるものを $a$、$\pi_1(U,x_0)$ の生成元で $w/|w|$ が正の向きに $1$ 回まわるものを $b$ とする。段 1 により、包含が誘導する準同型は $c\mapsto a^p\in\pi_1(V,x_0)$、$c\mapsto b^q\in\pi_1(U,x_0)$ である。$U,V,W$ は弧状連結なので、Van Kampenの定理 の系「群の表示による記述」により $\pi_1(X,x_0)\cong\langle a,b\mid a^p=b^q\rangle$ である。$\square$

Hat02 Example 1.24(pp. 47–48)は、補空間を 2 つの写像柱の和である 2 次元複体に変形レトラクトしてから同じ計算をしている。上の証明は、その代わりにトーラスの近くの開集合 $W$ を直接使った。
$\tau$ による同相 $S^3\setminus K_{p,q}\cong S^3\setminus K_{q,p}$ は、群の上では $a$ と $b$ の入れ替え $G_{p,q}\cong G_{q,p}$ に当たる。

自由積の 2 つの補題

群 $G_{p,q}$ の構造は、自由積 $\mathbb{Z}/p\ast\mathbb{Z}/q$ を通して調べる。自由積 $A\ast B$ の元は簡約語 $(g_1,\dots,g_n)$、すなわち各 $g_i$ が $A$ または $B$ の単位元でない元で、隣り合う $g_i,g_{i+1}$ が異なる因子に属する列として、ただ 1 通りに表される(自由積 の定義「自由積」と定理「簡約語の集合は群をなす」)。$n$ を元の 長さ という。長さ $n$ の元 $x=(g_1,\dots,g_n)$ と、$g_1$ と異なる因子の単位元でない元 $g$ について、$gx=(g,g_1,\dots,g_n)$ は長さ $n+1$ の簡約語である。

自由積の中心

$A,B$ を自明でない群とすると、自由積 $A\ast B$ の中心は自明である。

$x=(g_1,\dots,g_n)$ を単位元でない元($n\ge1$)とし、$g_1\in A$ の場合を考える($g_1\in B$ なら $A$ と $B$ を入れ替える)。$B$ の単位元でない元 $b$ をとる。$bx=(b,g_1,\dots,g_n)$ は長さ $n+1$ で、先頭の文字は $B$ に属する。一方 $xb$ は、$g_n\in A$ なら $(g_1,\dots,g_n,b)$ で先頭の文字は $A$ に属し、$g_n\in B$ なら $g_nb$ が単位元かどうかに応じて長さ $n-1$ または $n$ である。いずれの場合も簡約語として $bx\ne xb$ なので、$x$ は中心に属さない。$\square$

自由積の有限位数の元

$A,B$ を群とする。$A\ast B$ の有限位数の元は、$A$ または $B$ の元と共役である。とくに、その位数は $A$ または $B$ の有限位数の元の位数のどれかに等しい。

有限位数の元 $x=(g_1,\dots,g_n)$ について、長さ $n$ についての帰納法で示す。$n\le1$ なら $x$ は $A$ か $B$ の元である。$n\ge2$ とする。
$g_1$ と $g_n$ が異なる因子に属するとき、$k\ge1$ について $x^k$ は $x$ の文字列を $k$ 回並べた語であり、つなぎ目で隣り合う $g_n,g_1$ は異なる因子に属するので、これは長さ $kn$ の簡約語である。よって $x^k\ne1$ となり、$x$ が有限位数であることに反する。
したがって $g_1$ と $g_n$ は同じ因子に属し、$g_1,g_2$ が異なる因子に属することから $n\ge3$ である。$y:=g_1^{-1}xg_1$ を計算すると、$g_1^{-1}x=(g_2,\dots,g_n)$ であり、右から $g_1$ を掛けると末尾の $g_n$ と $g_1$ が合わさって、$g_ng_1\ne1$ なら $y=(g_2,\dots,g_{n-1},g_ng_1)$(長さ $n-1$)、$g_ng_1=1$ なら $y=(g_2,\dots,g_{n-1})$(長さ $n-2$)となる。$y$ は $x$ と共役で位数が等しく、長さが $n$ より短いので、帰納法の仮定により $A$ か $B$ の元と共役である。よって $x$ もそうである。共役な元の位数は等しいので、後半も従う。$\square$

結び目群の中心

中心と中心による商

$p,q\ge2$ を整数とし、$G_{p,q}=\langle a,b\mid a^p=b^q\rangle$、$h:=a^p=b^q$ とおく。

  1. $h$ は $G_{p,q}$ の中心に属し、無限位数である。
  2. $a\mapsto\bar a$、$b\mapsto\bar b$ は同型 $G_{p,q}/\langle h\rangle\cong\mathbb{Z}/p\ast\mathbb{Z}/q$ を誘導する。ここで $\bar a,\bar b$ はそれぞれ $\mathbb{Z}/p$、$\mathbb{Z}/q$ の生成元である。
  3. $G_{p,q}$ の中心は $h$ で生成される無限巡回群 $\langle h\rangle$ である。

1:$h=a^p$ は $a$ と可換であり、$h=b^q$ は $b$ と可換である。$G_{p,q}$ は $a,b$ で生成されるので、$h$ は中心に属する。$a\mapsto q$、$b\mapsto p$ は関係式 $a^p=b^q$ を保つ(両辺とも $pq$ に写る)ので、準同型 $\varepsilon\colon G_{p,q}\to\mathbb{Z}$ を定める(群の表示 の命題「表示からの準同型」)。$\varepsilon(h^k)=kpq\ne0$($k\ne0$)なので $h$ は無限位数である。
2:$h$ は中心に属するので $\langle h\rangle$ は正規部分群であり、$h$ を含む最小の正規部分群に等しい。よって $G_{p,q}/\langle h\rangle$ は、表示に関係子 $a^p$ を加えた $\langle a,b\mid a^pb^{-q},\ a^p\rangle$ で表される(群の表示 の命題「関係子を加える操作」)。関係子の集合 $\{a^pb^{-q},a^p\}$ と $\{a^p,b^q\}$ は互いに相手の積で書けるので同じ正規部分群を生成し、この群は $\langle a,b\mid a^p,\ b^q\rangle\cong\mathbb{Z}/p\ast\mathbb{Z}/q$ である(自由積 の系「群の表示による自由積の記述」)。
3:$\pi\colon G_{p,q}\to\mathbb{Z}/p\ast\mathbb{Z}/q$ を 2 の全射とする。全射準同型は中心を中心の中へ写す(群の中心 の命題「部分群・全射準同型と中心」)ので、$\pi(Z(G_{p,q}))$ は $\mathbb{Z}/p\ast\mathbb{Z}/q$ の中心に含まれ、lem-tk-free-center によりそれは自明である。よって $Z(G_{p,q})\subset\ker\pi=\langle h\rangle$ であり、1 と合わせて $Z(G_{p,q})=\langle h\rangle$ である。1 により $\langle h\rangle\cong\mathbb{Z}$ である。$\square$

この定理は $p,q$ が互いに素であることを使っていない。互いに素であることは、群 $G_{p,q}$ を結び目に結びつける thm-tk-group で使われる。

自明でないこと

$p,q\ge2$ なら $G_{p,q}$ は可換でない。したがって $T_{p,q}$ は自明な結び目と同値でない。

$\mathbb{Z}/p\ast\mathbb{Z}/q$ は自明でない群の自由積なので単位元以外の元があり、thm-tk-center の 2 により $G_{p,q}\ne\langle h\rangle$ である。3 により中心は $G_{p,q}$ 全体でないので、$G_{p,q}$ は可換でない(群の中心 の命題「アーベル群の特徴づけ」)。自明な結び目の結び目群は可換群 $\mathbb{Z}$ である(結び目 の定理「自明な結び目の結び目群」)ので、thm-tk-group と 結び目 の命題「結び目群は不変量」により、$T_{p,q}$ は自明な結び目と同値でない。$\square$

群から組 $\{p,q\}$ が決まること

群から組 $\{p,q\}$ が決まる

$p,q,p',q'\ge2$ を整数とする。$G_{p,q}\cong G_{p',q'}$ ならば $\{p,q\}=\{p',q'\}$ である。とくに、互いに素な組 $(p,q)$、$(p',q')$($p,q,p',q'\ge2$)について、$\phi(T_{p,q})=T_{p',q'}$ となる $\mathbb{R}^3$ の同相写像 $\phi$ が存在すれば $\{p,q\}=\{p',q'\}$ である。同値なトーラス結び目はこの条件をみたす。

群の同型は中心を中心に写すので、$G_{p,q}\cong G_{p',q'}$ は中心による商の同型を誘導し、thm-tk-center の 2・3 により $Q:=\mathbb{Z}/p\ast\mathbb{Z}/q\cong Q':=\mathbb{Z}/p'\ast\mathbb{Z}/q'$ である。
可換化を比べる。自由積 の命題「自由積のアーベル化」により $Q$ の可換化は $\mathbb{Z}/p\oplus\mathbb{Z}/q$ で、位数は $pq$ である。よって $pq=p'q'$ である。
有限位数の元の位数の最大値を比べる。lem-tk-free-torsion により、$Q$ の有限位数の元の位数は $\mathbb{Z}/p$ か $\mathbb{Z}/q$ の元の位数で、$p$ か $q$ の約数である。生成元 $\bar a$、$\bar b$ の位数は $p$、$q$ なので、最大値は $\max\{p,q\}$ である。よって $\max\{p,q\}=\max\{p',q'\}$ であり、積も等しいので $\min\{p,q\}=\min\{p',q'\}$ である。
後半は、thm-tk-group と 結び目 の命題「結び目群は不変量」により $G_{p,q}\cong G_{p',q'}$ となることから従う。$\square$

逆向きについて、$G_{p,q}\cong G_{q,p}$ であり、$S^3$ の中では $\tau$ が $K_{p,q}$ を $K_{q,p}$ に写す。結び目群が決めるのは順序のない組 $\{p,q\}$ までである。

例

三葉結び目とモジュラー群

三葉結び目 $T_{2,3}$ の結び目群は $G_{2,3}=\langle a,b\mid a^2=b^3\rangle$ で、中心は $a^2$ で生成され、中心による商は $\mathbb{Z}/2\ast\mathbb{Z}/3$ である。この自由積はモジュラー群 $\mathrm{PSL}(2,\mathbb{Z})$ と同型である(自由積 の例「位数2と位数3の群の自由積とモジュラー群」)。商の可換化は $\mathbb{Z}/2\oplus\mathbb{Z}/3\cong\mathbb{Z}/6$ である。

積が等しい組

$(2,15)$、$(3,10)$、$(5,6)$ はどれも互いに素で積が $30$ なので、中心による商の可換化はどれも位数 $30$ の群 $\mathbb{Z}/30$ である。しかし有限位数の元の位数の最大値はそれぞれ $15,10,6$ と異なるので、thm-tk-classification により 3 つの結び目 $T_{2,15}$、$T_{3,10}$、$T_{5,6}$ は互いに同値でない。可換化の情報だけでは区別できず、有限位数の元の情報が要る例である。

一方が 1 の場合

$q=1$ のとき $G_{p,1}=\langle a,b\mid a^p=b\rangle$ は、$b=a^p$ を代入して $b$ を消去すると $\langle a\mid\ \rangle\cong\mathbb{Z}$ になる(群の表示 の定理「Tietzeの定理」の操作)。結び目群は自明な結び目のものと同型で、群からは $p$ が読み取れない。$p=1$ のときも同じである。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$p,q$ が互いに素(def-tk-main)$(p,q)=(2,2)$$k_{p,q}$ が単射であること
$p,q\ge2$(thm-tk-center)$(p,q)=(2,1)$中心が $\langle a^p\rangle$ であること
両方の因子が自明でない(lem-tk-free-center)$\mathbb{Z}/2\ast\{1\}$自由積の中心が自明であること
有限位数の元の位数を使う(可換化だけにする。thm-tk-classification)$(2,15)$ と $(3,10)$組 $\{p,q\}$ が決まること
各行の確かめ

1 行目:$k_{2,2}(\theta+\pi)=k_{2,2}(\theta)$ なので $k_{2,2}$ は $2$ 対 $1$ であり、像は $K_{1,1}$ である。

2 行目:ex-tk-one により $G_{2,1}\cong\mathbb{Z}$ は可換なので中心は全体である。この同型で $a$ は生成元に写り、$a^2$ はその $2$ 倍に写るので、$\langle a^2\rangle$ は中心全体ではない。

3 行目:$\mathbb{Z}/2\ast\{1\}\cong\mathbb{Z}/2$ は可換で、中心は全体である。

4 行目:ex-tk-same-product のとおり、中心による商の可換化はどちらも位数 $30$ の巡回群($\mathbb{Z}/2\oplus\mathbb{Z}/15\cong\mathbb{Z}/3\oplus\mathbb{Z}/10\cong\mathbb{Z}/30$)だが、組は異なる。

補足

  • 2 次元複体への変形:Hat02 Example 1.24(pp. 47–49)は、補空間 $S^3\setminus K_{p,q}$ が、円周から円周への写像 $z\mapsto z^p$ と $z\mapsto z^q$ の 2 つの写像柱を定義域の端で貼り合わせた 2 次元複体に変形レトラクトすることを使って群を計算し、中心と自由積を使って組 $\{p,q\}$ を回復している。中心と有限位数の元についての 2 つの補題は同書 §1.2 Exercise 1(p. 52)である。この記事では補題を証明し、補空間の分解を開集合で行った。
  • 結び目の区別の一般論:一般の結び目について、補空間の基本群の表示は Wirtinger 表示で計算できる(Van Kampenの定理 の注意「Wirtinger表示への応用」)が、2 つの表示の群が同型かどうかを判定するのは、トーラス結び目の場合よりはるかに難しい(Hat02 p. 49)。結び目群から計算しやすい量を取り出す方法として Alexander多項式 がある。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, 1st edition, Cambridge University Press, 2002, Example 1.24(pp. 47–49、トーラス結び目の補空間の基本群・中心・組の回復)、§1.2 Exercise 1(p. 52、自由積の中心と有限位数の元)

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