弱微分による解析の見取り図(roadmap to analysis via weak derivatives)とは、超関数、Fourier変換、Sobolev空間を、微分を弱い意味で定義し正則性を測る一つの学習経路として結ぶ案内である。各概念の定義と定理は個別記事が所有する。
前提知識: Lebesgue積分, 偏微分, 関数空間
弱微分による解析の見取り図(roadmap to analysis via weak derivatives)とは、超関数、Fourier変換、Sobolev空間を、微分を弱い意味で定義し正則性を測る一つの学習経路として結ぶ案内である。
古典微分を持たない局所可積分関数も、超関数としてなら任意の階数だけ微分できる。Euclid空間全体ではFourier変換が微分を周波数変数の掛け算へ移し、その重み付き可積分性がSobolev正則性を測る。各理論の完全な定義と主要定理は個別記事に譲り、本記事は三者の接続と、どの順序で学ぶかを扱う。
開集合上の局所可積分関数を超関数へ埋め込み、超関数として弱微分を取る。Euclid空間全体ではSchwartz関数と緩増加超関数にFourier変換を定義し、微分を多項式の掛け算へ移す。弱微分が所定の $L^p$ 空間に属するという条件でSobolev空間を定める。この三段階の組合せを、本記事では超関数・Fourier変換・Sobolev空間の連鎖と呼ぶ。
局所可積分関数 $f$ は、テスト関数 $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ に
$$
\varphi\longmapsto\int_\Omega f(x)\varphi(x)\,dx
$$
を対応させることで超関数を定める。古典微分が存在する場合の部分積分を手掛かりに、超関数 $T$ の $j$ 番目の微分を
$$
\langle\partial_jT,\varphi\rangle=-\langle T,\partial_j\varphi\rangle
$$
と定義する。この定義では微分を $T$ から滑らかなテスト関数へ移しているため、$T$ 自身の点ごとの正則性を要求しない。
任意の超関数 $T$ と $j,k\in\{1,\ldots,n\}$ に対して
$$
\partial_j\partial_kT=\partial_k\partial_jT
$$
が成り立つ。
任意のテスト関数 $\varphi$ に対して
$$
\langle\partial_j\partial_kT,\varphi\rangle
=\langle T,\partial_k\partial_j\varphi\rangle,
\qquad
\langle\partial_k\partial_jT,\varphi\rangle
=\langle T,\partial_j\partial_k\varphi\rangle
$$
である。$\varphi$ は滑らかなので古典的な混合偏微分が可換し、右辺は等しい。すべての $\varphi$ に対する作用が一致するため二つの超関数は等しい。$\square$
本記事では 緩増加超関数とFourier変換 と同じく、Fourier変換を
$$
\widehat f(\xi)=\frac{1}{(2\pi)^{n/2}}\int_{\mathbb R^n}f(x)e^{-ix\cdot\xi}\,dx
$$
と規格化する。Fourier変換は空間変数の微分を周波数変数の多項式倍へ変える。従って定係数微分作用素
$$
P(D)=\sum_{|\alpha|\le m}c_\alpha\partial^\alpha
$$
はFourier側で記号 $P(i\xi)$ の掛け算になる。微分方程式 $P(D)u=f$ は、形式的には
$$
P(i\xi)\widehat u(\xi)=\widehat f(\xi)
$$
へ移る。記号が零になる点、逆数の増大、境界条件は別途扱う必要があるため、この式だけで解の存在を結論してはいけない。
$H(x)=0$ $(x<0)$、$H(x)=1$ $(x>0)$ とすると、$H$ は $0$ で古典的に微分できない。しかし任意の $\varphi\in C_c^\infty(\mathbb R)$ に対して
$$
\langle H',\varphi\rangle
=-\int_0^\infty\varphi'(x)\,dx
=\varphi(0)
=\langle\delta_0,\varphi\rangle
$$
なので、超関数として $H'=\delta_0$ である。
Gauss関数はFourier変換してもGauss型の関数になる。正確な定数は規約に依存するが、空間での局在と周波数での局在を同時に観察できる基本例であり、熱方程式の基本解にも現れる。
$u(x)=|x|$ は $0$ で古典的に微分できないが、有界区間 $I$ 上では弱微分
$$
u'(x)=\begin{cases}-1&x<0,\\1&x>0\end{cases}
$$
をもち、$u\in W^{1,p}(I)$ $(1\le p\le\infty)$ である。Sobolev空間は古典的に各点で微分可能な関数だけを集めた空間ではない。
Heaviside関数を $0$ を内点にもつ有界開区間 $I$ に制限すると $L^p(I)$ には属するが、$I$ 上の弱微分は $\delta_0$ であり $L^p(I)$ 関数ではない。したがって $1\le p\le\infty$ に対して $H|_I\notin W^{1,p}(I)$ である。$L^p$ に属することだけでは弱微分の可積分性は保証されない。なお $0$ を含まない区間では $H$ は定数なので、この反例には $0\in I$ が必要である。
$f\in\mathcal S(\mathbb R^n)$ と $j\in\{1,\ldots,n\}$ に対して
$$
\widehat{\partial_j f}(\xi)=i\xi_j\widehat f(\xi)
$$
が成り立つ。
$f$ とそのすべての導関数は任意次数の多項式より速く減少する。したがって、$x_j$ 以外の変数を固定して部分積分したときの境界項は0である。ゆえに
$$
\begin{aligned}
\widehat{\partial_j f}(\xi)
&=\frac{1}{(2\pi)^{n/2}}\int_{\mathbb R^n}e^{-ix\cdot\xi}\partial_jf(x)\,dx\\
&=-\frac{1}{(2\pi)^{n/2}}\int_{\mathbb R^n}\partial_j(e^{-ix\cdot\xi})f(x)\,dx\\
&=\frac{i\xi_j}{(2\pi)^{n/2}}\int_{\mathbb R^n}e^{-ix\cdot\xi}f(x)\,dx\\
&=i\xi_j\widehat f(\xi).
\end{aligned}
$$
すべての積分はSchwartz関数の急減少性により絶対収束する。
$f\in\mathcal S(\mathbb R^n)$ と多重指数 $\alpha$ に対して
$$
\widehat{\partial^\alpha f}(\xi)=(i\xi)^\alpha\widehat f(\xi)
$$
が成り立つ。
$|\alpha|$ に関する帰納法を用いる。$|\alpha|=0$ では明らかである。$\alpha=\beta+e_j$ と書けるとき、直前の命題と帰納法の仮定から
$$
\widehat{\partial^\alpha f}
=\widehat{\partial_j(\partial^\beta f)}
=i\xi_j\widehat{\partial^\beta f}
=i\xi_j(i\xi)^\beta\widehat f
=(i\xi)^\alpha\widehat f
$$
を得る。$\square$
超関数として存在するだけの微分に、さらに $L^p$ 可積分性を要求したものがSobolev空間である。整数 $m\ge0$ に対し、概略的には
$$
W^{m,p}(\Omega)=\{u\in L^p(\Omega)\mid \partial^\alpha u\in L^p(\Omega),\ |\alpha|\le m\}
$$
である。ここで微分はすべて弱微分である。$p=2$ の場合は $H^m(\Omega)=W^{m,2}(\Omega)$ とも書き、内積を持つHilbert空間になる。
$\Omega=\mathbb R^n$ かつ $p=2$ では、Plancherelの定理と高階微分のFourier表示により、整数階のSobolevノルムは
$$
\sum_{|\alpha|\le m}\|\partial^\alpha u\|_{L^2}^2
$$
と、周波数側の重み付きノルム
$$
\int_{\mathbb R^n}(1+|\xi|^2)^m|\widehat u(\xi)|^2\,d\xi
$$
と同値になる。この等価性が、弱微分による定義とFourier解析による定義を結ぶ。正確な規格化、非整数階、領域上の定義は Sobolev空間 が扱う。
弱解の方法では、方程式を点ごとに満たすことを要求する代わりに、テスト関数との積分恒等式を要求する。たとえばPoisson方程式 $-\Delta u=f$ のDirichlet問題では、形式的な部分積分から
$$
\int_\Omega\nabla u\cdot\nabla\varphi\,dx
=\int_\Omega f\varphi\,dx
$$
を得る。この式は $u$ が二階古典微分を持たなくても、一階弱微分が $L^2$ に属すれば意味を持つ。ここからSobolev空間上の連続な双線形形式、Poincaré型不等式、Lax--Milgramの定理へ進むのが標準的な道筋である。
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