Kähler微分の基本完全列

同義語:fundamental exact sequences of Kähler differentials微分加群の基本完全列

概要

Kähler微分の基本完全列(fundamental exact sequences of Kähler differentials)とは、環準同型 $A\to B\to C$ に対する右完全列 $\Omega_{B/A}\otimes_BC\to\Omega_{C/A}\to\Omega_{C/B}\to0$(第1基本完全列)と、イデアル $J\subset B$ による商 $C=B/J$ に対する右完全列 $J/J^2\to\Omega_{B/A}\otimes_BC\to\Omega_{C/A}\to0$(第2基本完全列、余法完全列)である。多項式環の商の微分加群が Jacobi 行列の余核になることや、有理点での余接空間と微分加群の一致がここから従う。左端の写像は一般に単射でないが、$C$ が $B$ 上(第2列では $A$ 上)形式的に滑らかなら左端まで完全で分裂する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Kähler微分, 導分, 完全列, テンソル積, 形式的滑らかさ

Kähler微分の基本完全列(fundamental exact sequences of Kähler differentials)とは、環準同型を 2 つつないだとき、また環をイデアルで割ったときに、Kähler微分の加群のあいだに自然に生じる 2 つの右完全列のことである。環準同型 $A\to B\to C$ に対しては
$$\Omega_{B/A}\otimes_BC\to\Omega_{C/A}\to\Omega_{C/B}\to0$$
が完全であり(第 1 基本完全列)、イデアル $J\subset B$ と $C=B/J$ に対しては
$$J/J^2\to\Omega_{B/A}\otimes_BC\to\Omega_{C/A}\to0$$
が完全である(第 2 基本完全列、余法完全列)。微分加群を「すでに分かっている環の微分加群に何を足し、何で割るか」で計算する道具であり、多項式環の商の微分加群が Jacobi 行列の余核になることは第 2 基本完全列から直ちに従う。
どちらの列も、左端の写像は一般には単射でない。左端まで完全になり、しかも分裂するための十分条件が形式的滑らかさである。逆に、左端の単射性が破れることは、非分離性や特異点の現れとして読める。この記事では 2 つの列の完全性と、形式的に滑らかな場合の分裂を証明し、余接空間との比較などの使い方を述べる。

記号と 2 つの道具

環は単位元をもつ可換環、環準同型は単位元を保つとする。環準同型 $A\to B$ に対し、$\Omega_{B/A}$ を $B$ の $A$ 上の Kähler 微分の加群、$d=d_{B/A}\colon B\to\Omega_{B/A}$ を普遍導分とし、$B$ 加群 $M$ への $A$ 導分の全体を $\operatorname{Der}_A(B,M)$ と書く。普遍性
$$\operatorname{Hom}_B(\Omega_{B/A},M)\xrightarrow{\ \sim\ }\operatorname{Der}_A(B,M),\qquad\varphi\longmapsto\varphi\circ d$$
は $M$ について自然な同型である(Kähler微分 の定義「Kähler微分の加群」)。$C$ が $B$ 代数で $N$ が $C$ 加群なら、$N$ は $B$ 加群でもあり、係数拡大と制限の随伴により
$$\operatorname{Hom}_C(\Omega_{B/A}\otimes_BC,N)=\operatorname{Hom}_B(\Omega_{B/A},N)=\operatorname{Der}_A(B,N)$$
と同一視できる。以下の証明はすべて、列に $\operatorname{Hom}(-,N)$ を施して導分の言葉に直すという同じ手順で進む。そのための判定法を先に示す。

Homによる完全性の判定

$R$ を環、$M'\xrightarrow{u}M\xrightarrow{v}M''\to0$ を $R$ 加群の列とする。

  1. この列が完全であることと、任意の $R$ 加群 $N$ について
    $$0\to\operatorname{Hom}_R(M'',N)\xrightarrow{v^*}\operatorname{Hom}_R(M,N)\xrightarrow{u^*}\operatorname{Hom}_R(M',N)$$
    が完全であることは同値である。ここで $v^*(\psi)=\psi\circ v$、$u^*(\varphi)=\varphi\circ u$ である。
  2. $u$ が分裂単射である($r\circ u=\mathrm{id}_{M'}$ となる $R$ 線形写像 $r\colon M\to M'$ がある)ことと、任意の $R$ 加群 $N$ について $u^*$ が全射であることは同値である。

要点:1 の「$\Leftarrow$」は $N$ として $\operatorname{coker}v$、$M''$、$M/\operatorname{im}u$ を順にとればよく、2 の「$\Leftarrow$」は $N=M'$ として恒等写像の逆像をとればよい。

証明の詳細

1 の「$\Rightarrow$」:$v$ が全射なので $v^*$ は単射であり、$u^*v^*=(v\circ u)^*=0$ である。$\varphi\circ u=0$ なら $\varphi$ は $M/\operatorname{im}u$ を経由し、完全性から $v$ は同型 $M/\operatorname{im}u\cong M''$ を誘導するので、$\varphi=\psi\circ v$ となる $\psi$ がある。

1 の「$\Leftarrow$」:$N=\operatorname{coker}v$ と射影 $q\colon M''\to N$ をとると $v^*(q)=0$ なので $q=0$、すなわち $v$ は全射である。$N=M''$ として $u^*v^*(\mathrm{id})=v\circ u=0$ を得る。$N=M/\operatorname{im}u$ と射影 $p$ をとると $u^*(p)=0$ なので $p=\psi\circ v$ となる $\psi$ があり、$\ker v\subset\ker p=\operatorname{im}u$ である。

2:$r\circ u=\mathrm{id}$ なら、$\psi\in\operatorname{Hom}_R(M',N)$ に対し $\psi\circ r$ が $u^*$ による逆像である。逆に $u^*$ が全射なら、$N=M'$ として $u^*(r)=\mathrm{id}_{M'}$ となる $r$ がある。$\square$

もう 1 つの道具は、導分を環準同型として扱う方法である。$B$ 加群 $M$ に対し、$B\oplus M$ に積 $(b,m)(b',m')=(bb',\,bm'+b'm)$ を入れた環を $B\ltimes M$ と書く($M$ による自明な平方零拡大)。$M=0\oplus M$ は平方零イデアルで、$(B\ltimes M)/M=B$ である。$B$ が $A$ 代数なら $B\ltimes M$ は $a\mapsto(a\cdot1,0)$ で $A$ 代数になる。

自明な平方零拡大と導分

$A$ 代数の準同型 $g\colon B'\to B$ と $B$ 加群 $M$ をとり、$M$ を $g$ を通じて $B'$ 加群とみる。写像 $D\colon B'\to M$ について、$h(b')=(g(b'),D(b'))$ で定まる $h\colon B'\to B\ltimes M$ が $A$ 代数の準同型であることと、$D\in\operatorname{Der}_A(B',M)$ であることは同値である。

$h$ の加法性は $D$ の加法性と同じである。$h(b_1)h(b_2)=(g(b_1b_2),\,g(b_1)D(b_2)+g(b_2)D(b_1))$ なので、$h$ が乗法的であることは Leibniz 則 $D(b_1b_2)=b_1D(b_2)+b_2D(b_1)$ と同じである。$h$ が $A$ の元 $a$ の像を $(a\cdot1,0)$ に送ることは $D(a\cdot1)=0$ と同じであり、加法的で Leibniz 則を満たす写像にとってこれは $A$ 線形性と同値である($D(ab')=D(a\cdot1)b'+a\,D(b')$)。$\square$

第1基本完全列

第1基本完全列

環準同型 $A\to B\xrightarrow{g}C$ に対し、$C$ 加群の列
$$\Omega_{B/A}\otimes_BC\xrightarrow{\ \alpha\ }\Omega_{C/A}\xrightarrow{\ \beta\ }\Omega_{C/B}\to0$$
は完全である。ここで $\alpha(db\otimes c)=c\,d_{C/A}(g(b))$、$\beta(d_{C/A}c)=d_{C/B}c$ である。さらに次の 2 条件は同値である。

  1. $\alpha$ は分裂単射である。したがって $0\to\Omega_{B/A}\otimes_BC\to\Omega_{C/A}\to\Omega_{C/B}\to0$ は分裂する短完全列である。
  2. 任意の $C$ 加群 $N$ と任意の $D\in\operatorname{Der}_A(B,N)$ について、$D=D'\circ g$ となる $D'\in\operatorname{Der}_A(C,N)$ がある。

$b\mapsto d_{C/A}(g(b))$ は $B$ から $B$ 加群 $\Omega_{C/A}$ への $A$ 導分なので、普遍性により $B$ 線形写像 $\Omega_{B/A}\to\Omega_{C/A}$ を定め、係数拡大で $C$ 線形写像 $\alpha$ になる。$d_{C/B}$ は $B$ の像の上で $0$ だから $A$ の像の上でも $0$ であり、$C$ の $A$ 導分である。よって $\beta$ も定まる。
$C$ 加群 $N$ をとり $\operatorname{Hom}_C(-,N)$ を施す。冒頭の同一視により、得られる列は
$$0\to\operatorname{Der}_B(C,N)\xrightarrow{\ \iota\ }\operatorname{Der}_A(C,N)\xrightarrow{\ \rho\ }\operatorname{Der}_A(B,N)$$
となる。実際、$\varphi\in\operatorname{Hom}_C(\Omega_{C/B},N)$ に対応する導分は $\varphi\circ d_{C/B}=(\varphi\circ\beta)\circ d_{C/A}$ なので $\beta^*$ は包含 $\iota$ に、$\psi\in\operatorname{Hom}_C(\Omega_{C/A},N)$ について $\psi\circ\alpha$ に対応する導分は $b\mapsto\psi(d_{C/A}g(b))$ なので $\alpha^*$ は制限 $\rho(D)=D\circ g$ に対応する。$\iota$ は単射で、$\rho\circ\iota=0$ である($B$ 導分は $g(B)$ の上で $0$)。$D\in\operatorname{Der}_A(C,N)$ が $\rho(D)=0$ を満たせば、$D(g(b)c)=g(b)D(c)+c\,D(g(b))=g(b)D(c)$ なので $D$ は $B$ 線形、すなわち $D\in\operatorname{Der}_B(C,N)$ である。よって上の列は完全であり、lem-kfs-hom-test の 1 により主張の列は完全である。
同値性:lem-kfs-hom-test の 2 により、$\alpha$ が分裂単射であることは、すべての $N$ について $\alpha^*$、すなわち $\rho$ が全射であることと同値であり、これは条件 2 そのものである。$\square$

条件 2 は「$B$ 上の導分が $C$ へ延びる」という性質である。延びるための十分条件が形式的滑らかさである。

形式的に滑らかな拡大での分裂

環準同型 $A\to B\xrightarrow{g}C$ について、$g$ が形式的に滑らか(形式的滑らかさ の定義「形式的滑らか・形式的不分岐・形式的エタールな環準同型」)なら、
$$0\to\Omega_{B/A}\otimes_BC\xrightarrow{\ \alpha\ }\Omega_{C/A}\xrightarrow{\ \beta\ }\Omega_{C/B}\to0$$
は分裂する短完全列である。

thm-kfs-first の条件 2 を確かめる。$C$ 加群 $N$ と $D\in\operatorname{Der}_A(B,N)$ をとる。$C'=C\ltimes N$ とおき、lem-kfs-trivial-extension により $A$ 代数の準同型 $\phi\colon B\to C'$、$\phi(b)=(g(b),D(b))$ を考える。$\phi$ によって $C'$ を $B$ 代数とみると、平方零イデアル $N$ による商 $C'/N=C$ の $B$ 代数の構造は $g$ であり、恒等写像 $C\to C'/N$ は $B$ 代数の準同型である。$g$ は形式的に滑らかなので、$B$ 代数の準同型 $h\colon C\to C'$ で、射影 $C'\to C$ との合成が恒等写像になるものがある。$h(c)=(c,D'(c))$ と書ける。
$h$ は $B$ 代数の準同型なので $A$ 代数の準同型でもあり、lem-kfs-trivial-extension($g$ を $\mathrm{id}_C$ として)により $D'\in\operatorname{Der}_A(C,N)$ である。$h\circ g=\phi$ の第 2 成分を比べると $D'(g(b))=D(b)$ である。よって条件 2 が成り立ち、thm-kfs-first から主張が従う。$\square$

逆は成り立たない。$A=B=k$(体)、$C=k[x]/(x^2)$ では $\Omega_{B/A}=0$ なので $\alpha$ は自明に分裂単射だが、$C$ は $k$ 上形式的に滑らかでない(形式的滑らかさ の例「反例:二重数環」)。分裂は導分の延長だけを見ており、高次の無限小の持上げは見ていない。

第2基本完全列

第2基本完全列

環準同型 $A\to B$、イデアル $J\subset B$、$C=B/J$ に対し、$C$ 加群の列
$$J/J^2\xrightarrow{\ \delta\ }\Omega_{B/A}\otimes_BC\xrightarrow{\ \alpha\ }\Omega_{C/A}\to0$$
は完全である。ここで $\delta(j\bmod J^2)=dj\otimes1$ であり、$\alpha$ は thm-kfs-first の写像($\alpha(db\otimes c)=c\,d(b\bmod J)$)である。とくに $\Omega_{C/A}$ は、$\Omega_{B/A}\otimes_BC$ を $\{dj\otimes1\mid j\in J\}$ の生成する部分加群で割ったものである。この列を余法完全列(conormal sequence)ともいう。

$\delta$ が定まること:$j\mapsto dj\otimes1$ は加法的で、$b\in B$ について $d(bj)\otimes1=b\,dj\otimes1+j\,db\otimes1=b\,dj\otimes1$ である($j$ は $C$ の上で $0$ として働く)。同じ計算で $d(jj')\otimes1=0$($j,j'\in J$)なので、$J^2$ を $0$ に送り、$C$ 線形写像 $J/J^2\to\Omega_{B/A}\otimes_BC$ を誘導する。
$C$ 加群 $N$ をとり $\operatorname{Hom}_C(-,N)$ を施すと、冒頭の同一視により列は
$$0\to\operatorname{Der}_A(C,N)\xrightarrow{\ \pi^*\ }\operatorname{Der}_A(B,N)\xrightarrow{\ \sigma\ }\operatorname{Hom}_C(J/J^2,N)$$
となる。$\pi^*$ は射影 $\pi\colon B\to C$ との合成、$\sigma(D)$ は $D$ の $J$ への制限が誘導する写像である($D(bj)=b\,D(j)+j\,D(b)=b\,D(j)$ かつ $D(J^2)=0$ なので、$D|_J$ は $C$ 線形写像 $J/J^2\to N$ を与える)。$\pi$ は全射なので $\pi^*$ は単射で、$\sigma\circ\pi^*=0$ である。$\sigma(D)=0$、すなわち $D(J)=0$ なら、$D$ は $C=B/J$ を経由し、経由した写像は $A$ 導分である。よって列は完全であり、lem-kfs-hom-test の 1 から主張が従う。$\square$

$B$ が $A$ 上の多項式環なら $\Omega_{B/A}$ は自由加群なので、第 2 基本完全列は $\Omega_{C/A}$ の表示を与える。

形式的に滑らかな商での分裂

上の状況で、$C=B/J$ が $A$ 上形式的に滑らかなら、
$$0\to J/J^2\xrightarrow{\ \delta\ }\Omega_{B/A}\otimes_BC\xrightarrow{\ \alpha\ }\Omega_{C/A}\to0$$
は分裂する短完全列である。

$J/J^2$ は $B/J^2$ の平方零イデアルで、$(B/J^2)/(J/J^2)=C$ である。$C$ は $A$ 上形式的に滑らかなので、恒等写像 $C\to C$ は $A$ 代数の準同型 $s\colon C\to B/J^2$ に持ち上がる。$b\in B$ の $B/J^2$ での類を $\bar b$、$C$ での類を $b_C$ と書き、
$$D(b):=\bar b-s(b_C)$$
とおく。$\bar b$ と $s(b_C)$ はどちらも $C$ で $b_C$ に写るので $D(b)\in J/J^2$ である。$J/J^2$ の元に $B/J^2$ の元を掛けた結果は $C$ への像だけで決まり、$s(b'_C)$ の $C$ への像は $b'_C$ だから、
$$D(bb')=\bar b\,(\bar b'-s(b'_C))+(\bar b-s(b_C))\,s(b'_C)=b_C\,D(b')+b'_C\,D(b)$$
となる。$D$ は加法的で、$A$ の元では $\bar a=s(a_C)$ なので $0$ である。よって $D\in\operatorname{Der}_A(B,J/J^2)$ であり、普遍性から $C$ 線形写像 $r\colon\Omega_{B/A}\otimes_BC\to J/J^2$、$r(db\otimes1)=D(b)$ が得られる。$j\in J$ なら $j_C=0$ なので $r(\delta(\bar j))=D(j)=\bar j$、すなわち $r\circ\delta=\mathrm{id}$ である。$\delta$ は分裂単射であり、thm-kfs-second とあわせて主張が従う。$\square$

2 つの基本完全列と、形式的に滑らかな場合の分裂は Mat89 定理 25.1・25.2(pp. 193–195)にある。$B$ が $A$ 上の多項式環 $A[t_1,\dots,t_n]$ で $C$ が有限表示なら逆も成り立ち、列が分裂する短完全列であることは $C$ が $A$ 上形式的に滑らかであることと同値になる(形式的滑らかさ の定理「有限表示の場合の形式的滑らかさ」の 2)。スキームの埋め込み $Z\hookrightarrow X$ で $Z$ が滑らかな場合の幾何的な形は 余法層 の定理「滑らかな部分スキームの余法完全列」にある。

使い方

微分加群の計算

多項式環の商の微分加群

$C=A[t_1,\dots,t_n]/J$、$J=(f_1,\dots,f_r)$ とする。このとき
$$\Omega_{C/A}\cong\Bigl(\bigoplus_{i=1}^nC\,dt_i\Bigr)\Big/\Bigl(\sum_{j=1}^rC\,df_j\Bigr),\qquad df_j=\sum_{i=1}^n\frac{\partial f_j}{\partial t_i}\,dt_i$$
であり、$\Omega_{C/A}$ は Jacobi行列 $\bigl(\partial f_j/\partial t_i\bigr)$ の転置を表現行列とする写像 $C^r\to C^n$ の余核である。

$B=A[t_1,\dots,t_n]$ とすると $\Omega_{B/A}$ は $dt_1,\dots,dt_n$ を基底とする自由加群で $df=\sum_i(\partial f/\partial t_i)\,dt_i$ である(Kähler微分 の命題「多項式環の微分加群」)。$J/J^2$ は $f_1,\dots,f_r$ の類で生成されるので、thm-kfs-second により $\Omega_{C/A}$ は $\bigoplus_iC\,dt_i$ を $df_1\otimes1,\dots,df_r\otimes1$ の生成する部分加群で割ったものである。$\square$

有理点での余接空間

余接空間 $\mathfrak m/\mathfrak m^2$ は環の内在的な量だが、剰余体が基礎体に一致する点では微分加群のファイバーと一致する。

有理点での余接空間と微分加群

$k$ を体、$(B,\mathfrak m)$ を局所的な $k$ 代数とし、合成 $k\to B\to B/\mathfrak m$ が同型であるとする。このとき第 2 基本完全列の写像
$$\delta\colon\mathfrak m/\mathfrak m^2\xrightarrow{\ \sim\ }\Omega_{B/k}\otimes_Bk,\qquad x\bmod\mathfrak m^2\longmapsto dx\otimes1$$
は $k$ ベクトル空間の同型である。

$C=B/\mathfrak m=k$ とする。$C$ は $k$ 上形式的に滑らかである。実際、$k$ 代数 $C'$ とイデアル $N$ について、$k$ 代数の準同型 $k\to C'/N$ は構造射しかなく、それは構造射 $k\to C'$ の合成である。また $\Omega_{k/k}=0$ である。thm-kfs-second-smooth を $J=\mathfrak m$ に適用すると、$0\to\mathfrak m/\mathfrak m^2\to\Omega_{B/k}\otimes_Bk\to0\to0$ が完全になる。$\square$

たとえば $B$ が $k[t_1,\dots,t_n]/(f_1,\dots,f_r)$ の $k$ 有理点 $P$ での局所環なら、cor-kfs-presentation と、微分加群が局所化と可換であること(Kähler微分 の命題「局所化との交換」)により $\Omega_{B/k}\otimes_Bk$ は Jacobi 行列の $P$ での値 $\bigl(\partial f_j/\partial t_i(P)\bigr)$ の転置の余核なので、$\dim_k\mathfrak m/\mathfrak m^2=n-\operatorname{rank}\bigl(\partial f_j/\partial t_i(P)\bigr)$ である。これが有理点での Jacobi 判定の代数的な中身である(正則局所環、Jacobi判定法)。剰余体が $k$ と異なる点では、この同型は成り立たない(下の反例の表の 3 行目)。

左端の単射性が破れる例

超曲面の余法完全列

$k$ を体、$P=k[t_1,\dots,t_n]$、$f\in P$ を定数でない多項式、$C=P/(f)$ とする。$P$ は整域なので、$gf\in f^2P$ と $g\in fP$ は同値であり、$\bar g\mapsto gf\bmod f^2$ は同型 $C\cong J/J^2$($J=(f)$)を与える。この同一視の下で $\delta(1)=\sum_i(\partial f/\partial t_i)\,dt_i$ である。したがって、$\delta$ が単射であることは、すべての $i$ について $c\,\partial f/\partial t_i=0$ となる $C$ の元 $c$ が $0$ だけであることと同値である。

  1. $n=2$、$P=k[x,y]$、$f=y^2-x^3$(尖点をもつ 3 次曲線):$x\mapsto u^2$、$y\mapsto u^3$ により $C\cong k[u^2,u^3]\subset k[u]$ は整域である。標数が $2$ でなければ $\partial f/\partial y=2y\ne0$、標数 $2$ なら $\partial f/\partial x=-3x^2=x^2\ne0$ である。整域では $0$ でない元を掛けて $0$ になる元は $0$ だけなので、$\delta$ は単射である。$C$ は原点で滑らかでないので、左端の単射性は滑らかさより弱い条件である。
  2. $n=1$、$f=t^2$:$\partial f/\partial t=2t$ で、$c=\bar t\ne0$ について $c\cdot2t=2t^2=0$ である。$\delta$ は単射でない。
  3. $k=\mathbb F_p(s)$、$n=1$、$f=t^p-s$:$\partial f/\partial t=pt^{p-1}=0$ なので $\delta=0$ だが、$J/J^2\cong C\ne0$ である。$C=k(s^{1/p})$ は体であり、$\Omega_{C/k}=C\,dt\ne0$ である(cor-kfs-presentation)。

第 1 基本完全列の左端も、非分離性で単射でなくなる。$L=\mathbb F_p(t)$ の部分体 $K=\mathbb F_p(w)$、$w=t^p$ を考える。$\Omega_{K/\mathbb F_p}$ は $dw$ を基底とする $1$ 次元の $K$ ベクトル空間だが($K$ は多項式環 $\mathbb F_p[w]$ の局所化で、微分加群は局所化と可換である)、$L$ の中では $dw=d(t^p)=pt^{p-1}dt=0$ である。よって $\alpha\colon\Omega_{K/\mathbb F_p}\otimes_KL\to\Omega_{L/\mathbb F_p}$ は $0$ 写像で、単射でない。thm-kfs-first-smooth の対偶により、$L$ は $K$ 上形式的に滑らかでない。体の拡大について、この単射性がちょうど分離性を測ることは 分離生成拡大 の命題「微分による分離性の判定」にあり、形式的滑らかさとの関係は 体の拡大の形式的滑らかさ で扱う。

反例の表

主定理の仮定を 1 つずつ外すと、次のようになる。

外す条件反例成り立たなくなること
$C$ が $B$ 上形式的に滑らか(thm-kfs-first-smooth)$\mathbb F_p\to\mathbb F_p(t^p)\to\mathbb F_p(t)$第 1 基本完全列の左端 $\alpha$ の単射性
$C$ が $A$ 上形式的に滑らか(thm-kfs-second-smooth)$A=k$、$B=k[t]$、$J=(t^2)$(ex-kfs-hypersurface の 2)第 2 基本完全列の左端 $\delta$ の単射性
剰余体が $k$ に一致すること(cor-kfs-cotangent)$k=\mathbb F_p(s)$、$B=k(s^{1/p})$(体なので $\mathfrak m=0$)$\mathfrak m/\mathfrak m^2=0$ だが $\Omega_{B/k}\otimes_BB/\mathfrak m=B\,d(s^{1/p})\ne0$

1 行目では $A\to B$、$B\to C$ はいずれも体の拡大で、$C$ は $B$ 上有限次だが分離的でない。2 行目では $B$ は $A$ 上形式的に滑らかな多項式環で、外したのは $C$ の滑らかさだけである。3 行目の $B$ は局所的な $k$ 代数で、剰余体 $B$ 自身が $k$ と異なる($k$ 上の純非分離拡大)。

スキームでの形

2 つの列は相対微分形式の層についてもそのまま成り立つ。スキームの射 $X\xrightarrow{f}Y\to S$ に対し $f^*\Omega^1_{Y/S}\to\Omega^1_{X/S}\to\Omega^1_{X/Y}\to0$ が、閉部分スキーム $Z\subset X$(イデアル層 $\mathcal I$)に対し $\mathcal I/\mathcal I^2\to\Omega^1_{X/S}\otimes_{\mathcal O_X}\mathcal O_Z\to\Omega^1_{Z/S}\to0$ が完全である(Har77 II.8.11・II.8.12、p. 176)。相対微分形式の層はアフィン開集合の上で微分加群に付随する層なので(Kähler微分 の命題「局所的な記述」)、完全性はアフィン開集合の上で thm-kfs-first と thm-kfs-second に帰着する。

関連項目

参考文献

[1]
Hideyuki Matsumura (translated by Miles Reid), Commutative Ring Theory, Cambridge University Press, 1989, §25:定理 25.1(第1基本完全列と、0 平滑な場合の分裂、pp. 193–194)、定理 25.2(第2基本完全列と分裂、pp. 194–195)、その直後の例(多項式環の商、p. 195)
[2]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, II §8:命題 8.3A・8.4A(p. 173)、命題 8.7(有理点での余接空間、p. 174)、命題 8.11・8.12(層の基本完全列、p. 176)

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